語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で

2014年10月31日 | 社会
 再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)は、2012年に始まった。
 電力会社に最長20年間の買い取りを義務づけた。国が今年5月までに認定した設備容量は、何と7,000万kW(原発70基分分)になった。うち9割を占める太陽光発電は、天候に左右され、夜間は発電ゼロ、その割合が高まると電圧などを安定的に維持するのが困難になる。このため、九州電力など電力5社は、再生エネルギーの買い取り契約に係る事業者との交渉を10月以降止めてしまった。

 太陽光発電への参入がそこまで増えたのには意外な理由がある。
 (1)経産省と太陽光パネルメーカーとの癒着。
 日本の再生エネルギーは異常に高い。これが増えるとその分、電力料金に上乗せされる。現在の上乗せ額は、年間2,700円だ。再生エネルギー後進国の日本は、先進国ドイツの水準(日本の半分のコスト)を目指すべきだったが、それでは競争力のない日本のパネルが売れず、中国メーカーに席巻される。そこで経産省は、異常に高い価格を設定し、当時危機に瀬していた日本メーカーを守った。
 その結果、事業者に大きな利幅が保証され、太陽光発電だけが爆発的に伸びた。
 ドイツは自国メーカーを守らず、中国メーカーに買収されてしまったが、太陽光発電の単価は劇的に下がった。日本とは好対照だ。

 (2)再生エネルギーを強力に推進して反原発の世論を鎮めようという思惑。
 当時劣勢にあった原子力ムラが、原発か再生エネルギーか、ベストミックスは何か、という議論を何とか封印するために、再生エネルギー推進を免罪符にしようとしたのだ。その時点で議論すれば、結論が脱原発になってしまう怖れがあったからだ。
 制度開始から1年経ったころには、太陽光発電が増えすぎだ、という議論があった。しかし、欧州では太陽光発電や風力発電など不安定なエネルギーが2割から3割にもなる国がある。下手に議論して、沈静化しつつあった脱原発運動を再び勢いづかせないように、とここでも議論が封印された。

 (3)高コストの再生エネルギーが増えると電力料金が上がる・・・・ということを消費者に思い知らせようとする狙い。
 消費者筋から、再生エネルギーを止めて原発再稼働で電力料金を下げてほしい、という声が出ることを期待したのだ。
 つまり、すべては原発のためだ。

 原子力ムラの思惑どおり、エネルギー基本計画(2014年4月に閣議決定)で原発は、「重要なベースロード電源」としての地位を確保し、今や九電の川内原発再稼働も確実になった【注】。さらに、九電管内での太陽光発電の人展が夏のピーク電力需要を超える水準に達し、制度見直しに誰も反対できなくなった。
 そこで、経産省も電力会社も安心して、FIT見直し、再生エネルギー抑制の方針を打ち出したのだ。

 むろん事業者は、経産省の認定を受けたのにおかしい、と言うだろう。
 経産省はしかし、契約するかどうかは電力会社が決めることだ、と言って逃げる。
 電力会社は、安定供給に支障があるときは接続を拒否できると法律に書いてあるので合法だ、と言う。

 この先、他の原発も次々再稼働されて既成事実ができ、安全が喧伝される。
 北電の泊原発が動いて電力料金が大幅に下がる。
 二酸化炭素は増えない。
 「いいことずくめ」の原発だからと、助成策も次々に決まっていく。
 極めつけは、FITの対象に原発を入れることだ。原発新設も現実味を帯びてくる。

 原発推進への原子力ムラの着実な歩み。
 国民は、その粘り強さにただ脱帽するのみ・・・・なのか、それとも、それを上回る粘り腰で大逆転できるのか。
 国民一人一人の真価が問われている。

 【注】「【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器

□古賀茂明「再生エネ買い取り停止の裏で ~官々愕々第129回~」(「週刊現代」2014年11月8日号)
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 【参考】
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【食】消費者より業界に顔を向ける消費者庁 ~食品表示基準(2)~

2014年10月30日 | 医療・保健・福祉・介護
 (承前)

<例4>加工食品の製造所が意味不明の記号で表示
 昨年末、アクリフーズ(現マルハニチロ)群馬工場製の冷凍食品から超高濃度の農薬マラチオンが検出された。同工場製の冷凍食品は「食べずに返品するよう」呼びかけられた。
 だが、消費者は困った。
 保存していた冷凍食品の工場(製造所)を確認しようとしても、ラベルに製造所の記載がなくて、「J796」とか「SFA25」とかいった意味不明の記号が記されただけの食品があったからだ。
 食品衛生法は、製造所の名称を所在地を記すよう、定めている(表示義務基準)。しかし、「消費者庁長官に届け出た製造所固有記号」で代えることができることになっていて、多くの加工食品がこれを使っている。
 固有番号は業者が勝手につけることができる。同じアクリフーズ群馬工場でも異なる記号がつけられている。
 固有記号は全部で88万もあり、消費者庁でさえ全体を把握していない。事故が発生しても、官庁も正確な慈愛をすぐには掴めない。消費者が食べてしまう可能性があった。
 このため、森まさこ・消費者担当相が見直しを表明したが、とたんに業界が強く反発した。消費者庁は、来年以降も製造所が二つ以上ある場合は認める方針だ。
 業界が反発した理由・・・・固有記号があれば、有名ホテルのオリジナル食品が実は零細な工場で作られていることも隠蔽できるからだ(推測)。
 表示制度に係る日本の遅れは、同じように食品輸入大国である韓国と比べるとハッキリする。以下、韓国の状況。
 (1)原料の原産地表示・・・・258の農産物加工食品について、重さが多い順に二つの原料の原産地を表示することになっている。また、外食店では、牛肉・豚肉・鶏肉・コメ・白菜キムチなど重要16品目は原産地を店内に表示しなければならない。
 この規制は来年6月からさらに強化される。加工食品の原産地表示は上位3原料に拡大。外食店の義務づけも20品目に増える。
 (2)食品添加物の表示・・・・すべての添加物の名称と用途の表示が義務づけられている。日本では「一括名」や「簡略名」が認められているので、どんな物質を使っているか、わからないことが多い【補注】。
 (3)産地偽装の監視・取り締まり体制・・・・日本で昨年JAS法の品質表示基準違反として指導・公表されたのはたった14件だった。他方、韓国では昨年、2,701件もが原産地表示違反で摘発されている。
 韓国では国立農産物品品質管理院などがしっかり監視し、罰則も厳しい。そのうえ、消費者団体や生産者団体から推薦された「名誉(市民)監視員」が19,000人もいて効果を上げている。
 日本の農林水産省には、「食品表示Gメン(特別調査官)」が1,860人いるが、機能しているとは言いがたい。日本は不正のやり得状態なのだ。

 日本の食品表示の欠陥を糺し、遅れを取り戻す好機が3年前に訪れた。8つもの法律で定められていた表示制度を一元化し、食品表示法を制定する作業が2011年に始まったのだ。
 消費者庁はしかし、食品衛生法・JAS法・健康増進法の3法の表示部分の形式的な一元化を主な内容にし、懸案は先送りにしてしまった。不十分な内容の食品表示法は、2013年6月に成立している。
 これを受けて表示基準の策定作業が始められ、消費者庁の原案が7月に公表された。これが問題だらけなのだ。
 <例>「栄養成分表示の義務化」が導入されたが、対象はエネルギー・タンパク質・脂肪・炭水化物・ナトリウム(食塩相当量で表示)の5項目に限定され、しかも猶予期間が5年もある【注4】。トランス脂肪酸の表示は任意のままだし、分量の%表示は検討もされなかった。
 公募意見を踏まえた最終的な検討が食品表示部会で9月24日に始まったが、それに先立つ8月27日、消費者庁は、原案の一部を業界寄りに改めた修正案を自民党に示した【注5】。同庁は消費者の要望に耳を傾ける気はないらしい。
 消費者庁が2009年に創設されると、要職は農水省や厚労省からの出向者が占め、業界優先で縦割りという旧態依然の行政が行われた。その象徴が食品表示法だ。
 消費者庁の姿勢は、第二次安倍晋三内閣の発足(2012年末)後、より露骨になった。第三期食品表示部会(2013年11月~)では、それまで委員を務めていた山根香織・主婦連合会会長ら消費者団体関係の3人が外された。
 部会では、池原祐二・委員/食品産業センター企画調査部次長がただ一人、部会の下に設置された3つの調査会すべての委員になるなど、重きをなしている。食品産業センターは、全国の食料品・飲料メーカーとその業界団体による中核的・横断的組織だ。
 食品表示部会や調査会の審議では、トランス脂肪酸の表示問題などは議論そのものを封じ、消費者庁案を強引に通そうとする場面も見られた。
 「事業者庁」に改名すべし、という声が出ている。

 【補注】変な表示の例(「食品表示を考える市民ネットワーク」などが指摘)
(1)加工食品の原料原産地表示
 ①22食品群(モチ、コンニャクなど)と②4品目(農産物漬物、ウナギ蒲焼きなど)で、①では重さの割合が50%以上の原料にだけ表示義務がある。
 ・スーパーなどで売られているカット野菜は、複数野菜の詰め合わせになると加工品となり、<例>国産レタス40%、輸入キャベツ30%、輸入タマネギ30%だと原産地表示の義務がない。
 ・中国産煎りゴマとベトナム産チリメンジャコを日本で混合した食品は、国内で実質的な変更が行われたと見なされ、原産国は日本となって表示は不要。
 ・刺身は生鮮品なんどえ原産地表示が必要だが、刺身盛り合わせは対象外となり、表示義務がない。
 ・缶詰・瓶詰・レトルト食品は、原料の品質の差異の影響を受けないという理由で対象外。

(2)遺伝子組み換え(GM)食品の表示
 ①8つの農作物(大豆、トウモロコシ、ナタネ、ワタなど)と②それらを原料とする33食品群が表示の対象になっている。しかし、以下のような例外があるので、ほとんど表示されない。このため、消費者は知らぬうちに大量のGM食品を口に入れている。
 ・検査で検出できない食品(GMナタネなどを原料とする食用油、GM大豆が原料の醤油やコーンフレークなど)は対象外。対象になるのは、大豆なら豆腐・納豆・味噌など、トウモロコシならコーンスナック菓子程度。
 ・多種類の原料からなる加工食品では、重量で上位3つのGM品目だけが表示対象。5%までの混入は許容され、「遺伝子組み換えでない」と表示できる。
 ・牛・豚・鶏などの飼料はほとんどがGM作物(主にトウモロコシ)だが、飼料も表示の対象外。
 ・「不分別」という曖昧な表示も許容されている(たいていはGM作物を含む)。
 ・EUでは、Gm作物を使用したすべての食品は表示が義務づけられている。意図せざる混入も許されるのは0.9%まで。レストランなどでメニューに示されている。EUではGM食品はほとんど流通していない。

(3)食品添加物の表示
 「一括名」や「簡略名」が許されていて、すべての物質名が表示されることはほんとんどない。したがって、できるだけ食品添加物を避けたいと思っても、知らぬ間に食べてしまう可能性がある。
 ・同じ目的で同じ効果が認められる物質をいくつも使った場合は一括名でよい。一括名で表示できる添加物は、「調味料(アミノ酸等)」(62物質)、「pH調整剤」(34物質)など13種類。このような表示を許しているのは、主要国では日本だけだ。
 ・用途付きで物質名が表示されないため、「保存科不使用」といった詐欺的な表示が横行している。この表示の場合、ソルビン酸などの保存料を使わない代わり、保存効果のある添加物(グリシン、酢酸ナトリウムなど)を多量に使用していることが多い。

□岡田幹治「日本は食品表示の「劣等生」」(「週間金曜日」2014年10月17日号)
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 【参考】 
【食】日本は食品表示の劣等生 ~食品表示基準~
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【食】日本は食品表示の劣等生 ~食品表示基準~

2014年10月29日 | 医療・保健・福祉・介護

 昨年、新しい食品表示方が制定された。その施行に必要な食品表示基準の策定作業を、いま消費者庁は進めている。それはしかし、消費者が選択しやすく、健康維持に役立つものとはなりそうもない。

<例1>マックのチキンナゲットが中国産
 今年7月下旬、中国の食肉加工会社による期限切れ食肉の使用が発覚した。その会社から日本マクドナルドホールディングスが鶏肉を輸入していたことが明らかになった。
 この事実はほとんどの利用者にとって、寝耳に水だった。メニューなどにまったく記載されていなかったのだから(その後ウェブサイトに掲載)。
 食品の品質表示については、JAS法で詳しいルールが定められている。しかし、「外食」と「インストア加工(コンビニなどの店内で焼く焼き鳥など)」は例外になっている。だから、これらの店ではマイナスイメージを与える情報は開示しない。
 昨年10月以降、一流ホテルやデパートでメニューの虚偽表示が次々に明らかになったが、外食例外の規定は、こうした不正の温床にもなっている。
 外食店などにおける表示は、景品表示法で規制されているが、これは「著しく事実に相違した表示」を禁じているだけだ。ほとんど役立たない。

<例2>中国産でも「国産」と表示されるリンゴジュース
 表示制度の欠陥は、スーパーなど小売店でも見られる。
 <例1>リンゴジュース(果汁)・・・・国内消費の多くは輸入品で、約半分を中国産が占める。しかるに、ほとんどが「国産」と表示されている。
 現行制度では、生鮮食品には原産地表示が原則として義務づけられているが、加工食品はごく一部の食品に限って原料原産地の表示が義務づけられているにすぎない。
 リンゴなどの果汁の場合、外国で搾汁された後、濃縮・冷凍されて輸出され、それを国内で解凍、水分を加えて100%果汁にすると、その希釈が国内製造と見なされるのだ。
 <例2>焼き鳥・・・・容器で包装されず、ばらで販売される焼き鳥も同じ。
 外国で串刺しにまでされ、加工された半製品が冷凍で輸出され、国内のコンビなどが解凍、加熱して販売すれば原産国は日本となり、原料原産地の表示義務はない。
 かくのごとく多くの輸入加工食品が、あたかも国産であるかのようにして販売されている。これが輸入食品を増やし、食料自給率を引き下げる一因になっている。
 原料原産地表示の拡大を急げ。【立石幸一・食品表示部会(内閣府の消費者委員会の下部組織)委員】

<例3>国内外で表示が大きく異なる「コアラのマーチ」
 子どもらに人気のスナック菓子「コアラのマーチ(いちご)」(ロッテ)は、国産品とほぼ同じデザインで北米やアジアの国々で販売されている。ただし、表示方法は内外で大きく異なる【注】。
 <例>脂肪分
  ①日本・・・・1箱48g当たり「脂質14.1g」
  ②香港・・・・100g当たり「総脂肪21.7g。うち飽和脂肪11.9g、反式脂肪(トランス脂肪酸)4.8g」
と記されている(1箱41g当たりの含有量はこの4割程度)。
 トランス脂肪酸(マーガリンやビスケット類に使われる)は、心臓疾患などのリスクを高める性質がある。WHOは「1日の総摂取エネルギー量の1%未満」という勧告基準を定めている(日本人の場合、脂肪約2gになる)。
 香港を含めて多くの国では表示が義務づけられている。香港で買う「コアラのマーチ」は、1箱でWHO基準を上回る量を含んでいることが分かるが、日本で買うそれからは分からない。
 「コアラのマーチ」はごく一例にすぎない。食品表示については、日本は世界で最も遅れた国の一つだ。
 世界では、近年、二つの方向で加工食品の表示制度が改革されてきた。
 (1)「わかりやすい栄養成分表示」・・・・栄養成分表示の義務化はまず米国で1994年にはじまり、いまではきわめて多くの国に広がった。東アジアで義務化していないのは、日本・北朝鮮・ラオスなど、ごくわずかだ。
 内容も親切だ。<例>米国では約10項目の栄養素について、包装1個当たり何g含むかとともに、1日必要量の何%に当たるかも表示されている。
 (2)「水分を含めた主要原材料と特徴的な原材料の分量の%表示」・・・・EUが2000年にはじめ、すでに50か国程度に広がっている。主要原材料とは、製品の5%超の水・食肉・野菜・果物・乳製品などを意味する。
 日本では原材料の%表示は必要ないので「水増し」が横行する。<例>豚肉以外に水分や植物タンパクなどを多量に含んでいても「ロースハム」とされる(正しくは「ハム類似物」と呼ぶべきもの。

 【注】「【食】トランス脂肪酸たっぷりの「コアラのマーチ」 ~栄養表示の限界~

□岡田幹治「日本は食品表示の「劣等生」」(「週間金曜日」2014年10月17日号)
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【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~ヨーロッパ~

2014年10月28日 | ●佐藤優
(8)イギリス
 ※【注1】東から低賃金労働者や移民が入って来ることで、EU諸国はいま非常に社会が不安定になっている。だから、欧州議会の選挙でも、反移民、反EUを掲げる右派勢力が伸びたりしている。EUの中でもグローバル化の歪みがある。
 いま、ヨーロッパが次の火薬庫になっているのではないか(危惧)。
 紛争の背景に資源・経済と宗教の問題があるのだが、それにピッタリあてはまるのがスコットランド情勢だ。
 ※9月18日に、独立の可否を問う住民投票が行われる【注2】。スコットランドでは以前から独立運動があったが、ブレア首相のときに妥協して、スコットランドに議会設立を認めた。とりあえず自治を認めれば収まる、というものではなかった。スコットランドは独自の紙幣も発行している。スコットランド内部でしか使えないが。
 スコットランド独立が絵空事でないのは、北海油田のほとんどがスコットランド領にあることだ。スコットランド人口は英国人口の1割にすぎず、ちょうどクウェートのような産油国となり得る。むろん英国がそれを座視するはずはないので、相手の手法を使ってもスコットランドを繋ぎ止めるだろう。
 ※そこに出てきたのがポンドの使用をめぐる綱引きだ。スコットランドとしては独立してもポンドをそのまま使いたい。しかし、独立すると新しくEUに加盟申請しなくてはならない。新加盟国はユーロを使う、というルールになっている。だから、英国は独立するならユーロを使え、とプレッシャーをかけてきた。スコットランドでも独立派の支持率が下がっていった。
 この問題も根っこを辿ると宗教の問題に行き着く。
 英国国教会は聖公会という宗派なのに対して、スコットランド国教会は長老派(カルヴァン派)。かつて戦争していた者同士だ。
 そもそも英国はネーション・ストリート(国民国家)ではない。国名自体が「グレートブリテンおよび北アイルランド帝国」だ。どこにも民族の要素が入っていない。他民族による連合王国だったが故に帝国運営には成功してきた。が、今になって「民族自決」的ナショナリズムが噴き出している。
 ※欧州には、EUとして一つに結集しようというベクトルと、逆に、EUがあるのだから現在の国家から分離しても構わないというベクトルが共存する。<例>旧ユーゴスラビア諸国・・・・バラバラになった後、次々にEUに加盟している。
 イメージとしては、神聖ローマ帝国に重なるものがある。理念として、「ローマの継承」、実体は各地域の領主連合。ネーション・ステート的要素は希薄化している。

(9)ベルギー
 もう一つ危険なのがベルギー。南北の対立が激化して、北部(フランドル地方)に独立の動きがある。NATOもEUも本部はブリュッセルにある。その国が解体する・・・・とは、きわめて象徴的な意味を持つ。
 ※そもそもEUの本部がブリュッセルに置かれた所以は、ベルギー語がないからだ、と言われる。フラマン語(オランダ語の一種)、フランス語、ドイツ語のそれぞれが公用語だ。まさにEUの縮図のようだ。ということで、本部がブリュッセルになった。
 統一された言語がない・・・・ということが、ベルギーという国の人工性、もろさをあらわす。
 北部(フランドル地方)の住民は、もともとオランダにいた人だ。しかるに、オランダは非常に強いカルヴァニスムの国だから、カトリックの連中がどんどん南に集まって、独立したのがベルギーだ。
 カトリック教徒だが、勤勉。昼寝したり、食べ物に情熱を傾けたりしない。
 他方、ベルギー南部のワロン人はお祭りが大好きで、食べるのも大好き。人生は楽しむためにある、と思っている。
 ※典型的な南北問題。イタリアもミラノを中心とする北部が稼いで、南部は余り働かない。EUでも南の諸国は次次に財政危機に陥り、PIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)などと呼ばれてしまった。
 ワロン人の背後にはフランスがいるために、一種の大国意識がある。それに対してフランドル人のルーツであるオランダは、喧嘩別れしているから、なかが悪い。だからフランドル人のフラストレーションが溜まっている。
 ※2000年、ベルギーの国内放送が、ベルギーが分裂したら大変だ、ということを国民が議論しなければならないと、架空の番組を流したことがある。ベルギーが南北に分断され、空港から国王専用機が発つところを放映した。過去の映像だったが、本気にした人が「NATOはどうなるんだ」と大騒ぎし、かえって南北の対立が激しくなった。
 【興味深い】ベルギーでは二度の世界大戦で中立を宣言していたにも関わらず、二度もドイツに攻め込まれてしまったことだ。つまり、永世中立は安全保障に全く役立たないという典型的な例となった。だから、戦後は完全に西側の一員として、軍事同盟をがっちり組み込んで生き残ることにした。
 ※周りの国がまもってくれて、初めて永世中立が成り立つ。

(10)結論
 我々は今、戦争の概念や現代史の見方を考え直す必要があるのではないか。いま世界で起きているのは、すでに克服され、古いものになったはずの民族問題であり、宗教問題の再発だ。一方、国民国家を超えたはずのEU内部で、ナショナリズムが噴出している。
 ※奇しくも今年は第一次世界大戦開戦から百年目だ。
 第一次世界大戦と第二次世界大戦は連続していて、20世紀の「30年戦争」として捉えたほうがよい、という説がある。
 最近の世界を見ていると、それどころか、もしかしたら第一次世界大戦はまだ終わってないのではないか。これは現代の「百年戦争」で、我々は戦闘が小休止している期間に生きているだけに過ぎないのかもしれない。
 ※それだけに、目の前で起きている時々刻々のニュースを見ながら、それを歴史的な文脈に置いて考える作業が必要になる。

 【注1】文中「※」以下は、池上彰発言要旨。
 【注2】結果は、32あるカウンシルのうち最大都市グラスゴーを始めとする4つのカウンシルで賛成が反対を上回ったものの、それ以外のカウンシルでは反対が上回った。最終的に、スコットランド全体では反対が55%となり、独立は否決された。

□池上彰/佐藤優「特別対談 戦争を知らなければ世界は分からない」(「文藝春秋SPECIAL」2014年秋号)
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 【参考】
【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~ウクライナ~ 
【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~中東(2)~ 
【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~中東~

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【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~ウクライナ~ 

2014年10月27日 | ●佐藤優
(7)ウクライナ
 今後ウクライナ情勢がいかに推移するかは、イラクやシリアの動きともおおいに関わっている。
 7月17日、マレーシア航空機が墜落した。ドネツク州(ウクライナ東部)の上空で。さまざまな情報を総合すると、同地域を支配する親ロシア派武装集団が地対空ミサイルで撃墜したらしい。
 この親ロシア派武装集団に対して積極的な工作を行っているのはロシア軍参謀本部諜報総局(GRU)らしい。これを黙認してきたプーチン政権の責任は重い。
 同時に、対話ではなく、親ロシア派の支配地域に空爆を行うなど、内戦をエスカレートさせたウクライナ政府の責任も重い。今のウクライナ政府は、自国の領域を実効支配できていないし、首相の辞任すら収拾できないなど、破綻国家の要素が濃い。
 【重要】この事件によって、米国が対ロシア批判を強め、米露関係が決定的に悪化したことだ。ここにつけこんで、最大限に利用するのがISISだろう。米露がにらみ合い、中東で動きが撮れない中、支配領域の拡大を図るはずだ。
 ※中東とウクライナに共通しているのが、共にエネルギーが深く関わっていることだ。欧州にしてみれば、ロシアから天然ガスを輸入するパイプがウクライナを通るわけだ。これはエネルギーの危機管理上困る。何とかしなければならない。そこで、中東の天然ガスを欧州に持ってこようとしている。シェールガス革命で米国が中東からあまり天然ガスを買わなくなってしまったので、中東が欧州に安く売ろうとする動きがある。今、アゼルバイジャンからトルコを通る南側のルートを作っている。
 プーチンは、ウクライナ併合の考えはない。そもそもウクライナ経済はボロボロだし、ロシアは十分に広い。領土的な魅力は感じていない。
 ※ウクライナを抱え込んでしまったら、国境線で西側と直接接することになってしまう。緩衝地帯としてウクライナがあってくれたほうが都合がよい。
 ロシア人の感覚として、モスクワを中心として、西へ行けば行くほど貧しくなる。特に西ウクライナは山岳地帯で、中央ウクライナと比べて収入も6割くらいしかない。
 ※そもそも「ウクライナ」は、「田舎」「地方」の意だ。
 ウクライナは、ガリツィア(西ウクライナ地域)とそれ以外の地域とを分けて考えねばならない。ガリツィアは、1945年にソ連赤軍が入るまで一度もロシア領になったことがない。歴史的にはハプスブルグ帝国(オーストリア=ハンガリー)に属し、その後はポーランド領だった。この地域の人たちはウクライナ語を日常的に話し、宗教はカトリック、しかもユニア教会(東方帰一教会)だ。イコンを崇拝し、下級聖職者の妻帯を認めるなど、正教の習慣を大幅に取り入れている。しかし、ローマ教皇に従う特別なカトリック教会だ。
 ※ここでも宗教が重要なファクターになってくる。
 【問題】第二次世界大戦のとき、ウクライナはナチス・ドイツに占領され、30万人のウクライナ兵がナチス側で、ソ連軍と戦った。ソ連は、ナチスに協力した幹部連中を皆殺しにし、ユニア教会に入っている者は逮捕する政策をとった。ために、ユニア教会とナチスに協力した勢力が西ウクライナの山や森にこもり、1950年代半ばまで反ソ武装闘争を続けていた。
 それに対して、東部や南部のウクライナ人は、日常的にロシア語を喋ってロシア正教を信仰し、自分たちがウクライナ人なのかロシア人なのかをつき詰めて考えていない。もともとウクライナはこうした断絶を内部に抱えていた。
 ※西部の人からすると、自分たちは欧州の人間で、ソ連に力で併合された、という歴史を持っていた。一方、EU側は貧しいウクライナを引っ張り込もうとしていた。なぜか。冷戦後、東欧の社会主義国が崩壊してから、EUは東へ拡大し続けてきた。そこで魅力だったのは、チェコ、スロバキア、ポーランドの低賃金労働力だった。ところが、次第に旧東欧諸国の賃金も上がってきて、ついにウクライナに至った、ということだ。

 【注】文中「※」以下は、池上彰発言要旨。

□池上彰/佐藤優「特別対談 戦争を知らなければ世界は分からない」(「文藝春秋SPECIAL」2014年秋号)
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 【参考】
【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~中東(2)~ 
【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~中東~
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【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~中東(2)~ 

2014年10月26日 | ●佐藤優
(4)米国とイランの接近
 シリア問題、イラク問題が重要な理由は、中東全体の構図が大きく変わりつつある時期だからだ。米国とイランの接近だ。
 ※イランは、ハタミ大統領時代には、米国へ歩み寄ろうと努力していた。ところが、ブッシュ大統領が「悪の枢軸」としてイランを名指したために、反米強硬派のアフマディネジャドが大統領になってしまった。
 アフマディネジャド前大統領は、ハルマゲドンを本気で信じている人だった。米国やイスラエルが何故彼を警戒したかというと、イランの普通の指導者はエルサレム(※イスラム教の聖地でもある)に核ミサイルを撃ち込むなんてあり得ないのだが、アフマディネジャドはエルサレムのイスラム教徒だけは助かると確信していた。だから、みんな困っていた。
 ※ロウハニ・現大統領は、ハタミ政権時代、国際社会との交渉役を務めた。オバマとも電話会談したり、雪解けの流れを促進している。
 【興味深い】米国がペルシャ湾に空母と巡洋艦を派遣したと発表した6月14日、ロウハニ大統領が記者会見で、「対テロ対策だったら米国とも協力できる」と発言した。さらに7月7日、ラフサンジャニ元大統領が朝日新聞の単独インタビューで、イラク問題について、「必要であれば(米国と)協力する」と述べた。
 イラクのマリキ政権は、イランの国教と同じシーア派12イマーム派だ。と同時に米国の傀儡政権でもある。つまり、米国もイランも両方がサポートする、世界でも珍しい状態にある。
 ※イマームとは導師の意。アリー・第4代カリフをムハンマドの代理だとしてイマームと呼んだ。ところが12代目になって、ある日突然姿を消してしまった。残された信者たちは、これをどう解釈したらよいかと悩んだ末、「イマームはお隠れ(ガイバ)になった。やがてこの世が終わるときに再来して、私たちを救ってくれる」と考えた。では、それまでどうするか。それに答えを出したのが、かのホメイニ師だ。イマームが再来するまでは、最も優れたイスラム法学者(「アヤトラ」)が代わって政治をすればいいのだと唱えて、自らが最高指導者に就いた。今はハメネイ師が継いでいるが、あれはイマームがお戻りになるまでの間のつなぎだ。
 実際にイマームが戻ってきたら、イランの宗教指導者は困る。石油、絨毯、ピスタチオなどの利権を聖職者たちで分け持っているから。
 シーア派はイスラムの中で非主流派だ。だから、嘘をついてもいいことになっている。
 ※コーランの中にも、自分の身を守り、イスラムを守るためなら方便が許される、というニュアンスの文言が出てくる。
 嘘をついてもいい、というルールだと、外交も政治も、ものすごく複雑になる。だから、シーア派と付き合うのは大変だ。

(5)サウジアラビア
 米国とイランが接近すると、面白くないのはサウジアラビアだ。
 世界一の原油埋蔵量と豊富な資金を誇るサウジは、スンニー派のなかでも、原理主義的なハンバリー法学派を奉じ、そのなかでも急進的なワッハーブ派を国教としている。そこから生まれた最大の武装集団がアルカイダだ。
 問題は、今、世界的にハンバリー法学派が増える傾向にあることだ。
 モスクには神学校が付属して、スンニー派の4つの学派を全部教えている。だから、何かイスラム世界が動揺すると、すぐに原理主義的なハンバリー法学派の影響を受ける傾向がある。それだけサウジの影響力は強い。
 ※もう一つ強いのは、メディアによる発信力だ。衛星テレビ局アルジャジーラも、最近は露骨にカタール、あるいはスンニー派、サウジアラビアの意向に沿った報道が目立つ。アラブの春のときも、あれだけアラブの王政批判をしながら、サウジの王政にちてはまったく批判しなかった。
 アラブの春では、ツイッターや携帯端末にようr情報伝播が強い影響力を持ったという説があるが、怪しい。そういうものを使える人の層は限定的だからだ。影響力が大きかったのは、やはり衛星テレビだ。
 ※初めの情報発信者はツイッターやフェイスブックを使っていても、それだけでは大多数の人に広がらない。それをアルジャジーラが流すことで、読み書きができなくてもテレビを見ていれば意味がわかる。ニュースの最後に次の集会の期日と場所を報じることで多くの人が集まった。
 バーレーンのときには、アルジャジーラとアル・アラビーヤ(アラブ首長国連邦のテレビ局)が徹底して、「外国勢力の介入を警戒せよ」というキャンペーンを張った。この「外国勢力」とはイランのことだ。

(6)イスラエル
 米国とイランの接近にはイスラエルも怒っている・・・・かと思うと、さにあらず。
 今、不思議な現象が起きていて、イスラエルが全力を挙げて、4回も戦争をしたアサド政権を支持している。要するに、イスラエルにとってアサド政権は、旧知の予測可能な敵だと。それよりも、シリアが混乱したら何が起こるか予測不能になてしまう。そちらの方が恐ろしいのだ。
 ※もう一つ、今、イスラエルが最も恐れているのは、隣国のヨルダンの王政が崩壊することだ。イスラエルが国交を結んでいるのは、アラブではヨルダンとエジプトだけだ。
 ヨルダンは国王が倒れたら崩壊する。後継者が育っていないからだ。
 ※アブドゥラ・現国王の父、フセイン・前国王がしたたかで、イスラエルとの国交を樹立するなどの手腕を発揮し、ヨルダンという国を存続させてきた。現国王の子は、ハリー・ポッターを彷彿させる可愛い少年だが、まだ後継者としては力不足だ。
 イスラム世界に対峙するときに難しいのは、彼らが複合的なアイデンティティを持っていることだ。<例>スンニー派内で対立があるといっても、シーア派相手だと一緒になって闘う。もっと言えば、スンニー派とシーア派にしても、相手がユダヤ教徒やキリスト教徒ならば、手を握るケースはいくらでもある。
 実は、米国人はこういう構造をよく分かっていない。分かっているのは英国人とロシア人だ。イスラム教徒との付き合いが長いから。
 英国がイラクを委任統治していたときのことだ。<例>部族同士がお互い殺し合いをするとする。そのとき英国人は、事前に計画を提出せよ、そして結果を報告しろ、というだけで、けっして近代的な法律で捌こうなどとは考えない。事実を把握し、自分たちの統制に従う限りは何も言わない、というのが英国流だ。

 【注】文中「※」以下は、池上彰発言要旨。

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【佐藤優】戦争を知らなければ世界は分からない ~中東~

2014年10月25日 | ●佐藤優
(1)現代の戦争
 日本の新聞で中東の記事が一面を飾るようになったら、現地では相当大変なことになっていると判断したほうがいい。世界と日本の新聞の一番の違いは中東情勢の量と質だ。
 国際紛争をみていくには、歴史、民族、宗教、政治、情報、経済・・・・あらゆる要素に目配りしなくてはならない。逆に言えば、戦争から目をそらしていると、いまの世界の動きはつかめない。
 なぜなら、いま起きている戦争は、いくつかの点で過去の戦争概念では捉えきれなくなっているからだ。
 (a)紛争当事国の多くが破綻国家であること。さらにいえば、国家未満の武装勢力が戦争の主役を演じていること。※<例>イスラム国(IS)。ウクライナの親ロシア派。
 ちなみに、シリアやウクライナがまともな国家といえるか、これも怪しい。国際法上の国家の要件は二つ。①当該地域が実効支配できているか。②国際法を守る意思があるか。・・・・この点、シリアは明白な破綻国家だ。①’国全体を実効支配できてない。②’国際法を守る気がない(自国民に対して毒ガスをまいている)。
 ※リビアも。米国大使館が全員退避した。
 アラブの春がもっとも成功したとされるチュニジアも破綻国家の仲間入りしている。
 (b)少し前までは実際に戦争が起きると最後には核兵器の使用に至り人類が滅亡する、だからもう戦争は不可能なのだ、という議論があった。※だが、核戦争ではない通常戦争は行われつづけている。
 どうやら人類は、核を封印しながら戦争は続けるという文明を新たに生み出したらしい。

(2)シリア問題
 6月に入って急激に悪化したイラクの問題を語るには、まずシリア問題から入らねばならない。
 キーワードは「アラウィ派」だ。今のシリアのバッシャール・アル=アサド政権は、アラウィ派によって成り立っている。アラウィ派はシーア派とは違う。シリアの北西部に神殿があって、輪廻転生を認める特殊な宗教だ。
 ※ユダヤ教、キリスト教といった一神教に共通しているのは、必ず「この世の終わり」がやってきて、その時には死んだ人も甦り、神の審判を受ける。アラウィ派はシリアの土着宗教、ヒンドゥー教、仏教などの影響が濃い。スンニー派からすれば、アラウィ派はイスラム教ではない。
 そのアラウィ派がシーア派だということになったのは、シリアがレバノンに侵攻して、レバノンのシーア派指導者を脅したからだ。
 そもそもシリアでも国民の7割はスンニー派で、アラウィ派は1割ちょっとしかいない少数派だ。いまでも基本的に同族結婚しかしない。教義も特殊で閉鎖的、ずっとアラブ社会では差別されてきた。それが第一次世界大戦が終わった後、フランスがシリアの国際連盟委任統治を担当した際に、現地の行政、警察、秘密警察をアラウィ派にやらせた。多数派だとすぐ独立運動などを起こしかねない。少数派だからこそフランスへの依存を絶ち切れないと考えたからだ。
 ※イスラム教徒の85%はスンニー派(イスラム教の慣習=スンナを重視)、15%がシーア派(アリー・第4代カリフの血統を重視)。アラウィ派とは「アリーに従う者」の意。だから自分たちをシーア派として認めてほしい。
 こうした特殊事情を抱えるシリアに「アラブの春」が押し寄せたとき、どうなったか。「アラブの春」が起きたどの国でも、反体制勢力としてスンニー派の「ムスリム同胞団」が顔を出していた。ところがシリアにはムスリム同胞団がいなかった。現アサド大統領の父、ハーフィズ・アル=アサド・前大統領が皆殺しにしたからだ。
 英仏は、アサド体制に反対する勢力がないと不都合だというので、シリアで反体制派を作ろうと工作したが、なかなか適当なのがいない。
 ※アサド政権が民主化運動を弾圧するなかで、政府軍幹部の中にも自国民を殺すのに嫌気がさしたグループが離反して、「自由シリア軍」をつくった。政府軍と自由シリア軍がぶつかり合っているところに、レバノンからシーア派の過激派組織ヒズボラ(神の党)がアサド政権の支援に入って、一気に政府軍が盛り返した。
 すると、今度はシーア派に対抗するためにアルカイダ系の人々が入って大混乱になった。そこに、さらに便乗したのが「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」だ。
 ※ISISは、もともとイラクのスンニー派地域に「イラクのイスラム国」という名のごく少数の勢力として存在していた。ところが、隣国シリアで内戦が始まったので、しめたと「イラクとシャーム(シリア)のイスラム国」と名前を変えて入り込んでいった。彼らの戦略は乗っ取り。反政府勢力と自称しながら、アサド政権とは戦わずに、自由シリア軍を攻撃して、支配地域をどんどん取っていった。

(3)イラク問題
 ISISは何故イラクに戻ったか。
 シリアは6月3日に大統領選挙を実施した。【重要】破綻状態とはいえ、少なくともダマスカスから北西部に至る地域においては、人々がちゃんと投票に行った。アサド政権が実効支配していることがハッキリした。近い将来にはアサド政権が潰れることはない、という見通しが立った。そうなると、シリアで活動していたISISとしてはアサド政権の報復が怖い。そこで弱そうなイラクへ向かった。
 さらには、イラクの油田もある。ISISはオマル油田(シリア最大の油田)を押さえたが、日量7万バレル程度だ。イラクの油田とは桁が違う。いまクルド族が押さえているキルクーク油田だけでも日量数十万バレルだ。
 ISISが特異なのは、国家(<例>シリア)の支配を目標としていないことだ。世界イスラム革命を掲げ、世界をすべてイスラム化することを目標にしている。ロシア革命のボリシェビキのイメージだ。
 ※「過渡期国家論」だ。しかも、ISISの指導者は自らカリフ(イスラム教の預言者ムハンマドの後継者)宣言を行っている。
 来たるべき世界イスラム帝国を先取りしたということだ。

 【注】文中「※」以下は、池上彰発言要旨。

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【政治】パソナと安倍政権が目論む労働市場「改悪」

2014年10月24日 | 社会
 第二次安倍晋三改造内閣が9月にスタートした。
 今の臨時国会を安全運転で乗り切ろうとしているらしい。裏を返せば、野党から突っ込まれそうな危ない政策が目白押しだ、とも言える。
  集団的自衛権
  特定非陸奥保護法
  消費増税
  アベノミクスの失速
 ・・・・案外、綱渡りだ。

 今国会で避けて通れない法律審議の一つが、労働者派遣法の改正問題だ。
 <登録型派遣・製造業務派遣の在り方、いわゆる専門26業務に該当するかどうかによって派遣期間の取り扱いが大きく変わる現行制度の在り方等に関して有識者による検討を進め、本年8月末までを目処に取りまとめる。>【日本再興戦略(2013年6月14日閣議決定)】
 派遣法改正は、労働の自由化の一環だ。もともと先の通常国会で成立させる予定だったが、失態(法案の罰則規定を書き間違えた)をさらし、廃案になってしまった。
 今回、そこを修正し、改めて改正法を成立させようとしているわけだ。

 そうまでして推進する労働の自由化。
 そこにはパソナをはじめとする人材ビジネスとの因縁がある(パソナの迎賓館「仁風林」の接待)。

 本来、派遣法は労働者の権利擁護のために制定された。派遣労働者を雇う企業に対し、同一職場での派遣受け入れ期間を1年と定め、それ以上働かせるなら正社員雇用を申し出なければならなかった。
 その派遣期間が2004年3月に3年に延長され(小泉規制改革)、さらに今度の派遣法改正で、企業側は3年の派遣期間終了後も、同じ職場で別の派遣労働者を使うことが許される。つまり、永遠に低賃金の派遣社員を使い回しできるようになる。
 むろん、派遣会社にとっても、この上なくありがたい話だ。恩恵を享受する代表格がパソナ(人材派遣のパイオニア)だ。

 安倍政権下の労働政策において、政府の諮問機関である産業競争力会議の民間議員として、あの竹中平蔵が大活躍している。パソナの取締役会長でもある竹中には、我田引水批判が絶えない。

 安倍政権が取り組んでいる労働の自由化は、派遣法の改正だけではない。
 昨年閣議決定された日本再興戦略に基づく政策だ。ハローワークを民間開放し、働き先の紹介事業を委託するというものだ【注】。
 これまでの人材ビジネスは、労働行政にとって労働者の権利が守られているかどうかを監視する規制対象業種だった。だが、この閣議決定により明確にその位置づけが変わった。人材ビジネスを扇の要にし、職安(ハローワーク)や自治体とともに職業紹介の担い手と位置づけている。そのためのハローワークの民間開放、民間委託だ。【厚労省の中堅幹部】

 実際、その動きはすでに始まっている。
 厚労省のホームページには、提携する業者を掲載する。
 職安では、パソナを始めとする人材ビジネス会社のリーフレットを配布され、「どうぞ相談に」と宣伝される仕組みになっている。
 労働の規制緩和が着々と進む。これについて、安倍政権は、固定されていた労働環境を流動的にさせ、転職や雇用のあり方を自由にして正規雇用を増やすためだ、と謳う。
 だが、その実、ハローワークに職を求めるのは非正規の元派遣社員だらけだ。 
 だからといって、今国会で野党が労働の自由化や派遣法改正に待ったをかけることはできそうもない。
 そこが、また問題だ。

 【注】<ハローワークの情報等の民間開放を図りながら、学卒未就職者等の若者や復職を希望する女性等の幅広いニーズに迅速・効果的に応えられるよう、民間人材ビジネスを最大限に活用する。>【日本再興戦略にある三つのアクションプランのうちの一つ「雇用制度改革・人材力の強化」】

□森功「ハローワークを民間に!? パソナと安倍政権が目論む労働市場「改悪」 ~ジャーナリストの目 第225回~」(「週刊現代」2014年11月1日号)
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【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権

2014年10月23日 | 社会
 「女性活用」・・・・は安倍政権の目玉だ。
 その言葉の裏に、隠された二つの目的がある。
 (a)タカ派的政策(安倍政権の最大のテーマである集団的自衛権など)から国民の目をそらす。
 (b)女性の支持率(集団的自衛権に対して拒否反応を示し、7月の閣議決定後に大きく下がった)を回復する。

 とりあえず、6人の女性を登用した(5閣僚と1役員=自民党政調会長)ところまではうまくいった。支持率はかなり戻った。
 しかし、その先がうまくいかない。
 最大の問題は、家計の財布を預かる主婦たちの生活実感だ。
 現在の景気が「良い」と答えた人はわずか2%、「悪い」が49%。しかも、実に全体の92%が節約すると回答した。節約対象の上位三つは、「衣服」「外食」「ケーキなど菓子」。【日経新聞の既婚女性アンケート】
 安倍政権は、女性の楽しみを奪っている。

 女性の支持率上昇のためには、こうした「不幸な実感」を逆転させるほどの「幸福への期待」を提示しなくてはならない。
 女性は「女性活躍推進法案」に期待してよいか。この法案では、従業員301人以上の大企業に独自の女性登用の数値目標を公表するよう義務づけるのだ。
 しかし、中小企業には義務はない。大企業の目標も、数字さえ入っていれば何でもよい、とされている。
 結局、経団連に気を遣って、骨抜きの法律になるであろう。

 女性が活躍するためには、こんなお飾りの目標より、はるかに大事なことがある。
 男性の働き方を根本的に変えることだ【注】。
 日本の男性正社員は、会社に従属し、夜遅くまで働き、休みもろくに取れない。この非人間性は、先進国では類を見ない。男性同様に活躍したい女性は、競争上、男性と同じ働き方を強いられる。それでは子どもを産み、育てるのは難しい。優れた女性の才能を埋もれさせ、少子化も進み、日本経済にも大きな損失だ。

 政府もようやく重い腰を上げた。が、塩崎恭久・厚生労働大臣がやったことは、経済団体に「要望書」(「労働慣行を変え、定時退社や年次有給休暇の取得促進等の取り組みを臨む」)を渡しただけ。
 経団連に気を遣ったのだろう。
 「要望書」みたいなアリバイ作りの言葉だけでは何も変わらない。
 いま必要なのは、もっと実効性のある具体的な政策だ。

 (1)サービス残業を徹底的に取り締まる。・・・・いまは事実上野放し状態だが、違反者には本来あるべき厳罰(禁固刑)を科して厳しく取り締まるべきだ。
 (2)似非管理職や裁量労働制の濫用対策として、規制強化を行う。<例>これらを認める条件として、年収で1,000万円以上という規制をかける。
 (3)有給休暇の強制的取得、または、買い取りを義務づけたり、残業の割増し率を2倍程度高める。これらは雇用増加につながる。
 (4)残業実態や有給休暇取得実績の開示を義務づける。会社に入るまで実態がわからず、入ってビックリというのはおかしい。
 (5)本格的な同一労働同一賃金規制を導入する。
 (6)企業の年金や健康保険の対象になっていない一部の非正規雇用の労働者すべてに、原則としてこれらの権利を与える。

 むろん、経団連は抵抗するだろう。
 しかし、それと戦うのが本当に強い首相だ。いつも勇ましい発言ばかりしている安倍首相だが、腰抜けと言われたくないなら、一度くらい庶民のために戦ってみたらどうか。 

 【注】「【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと

□古賀茂明「女性活用に本気でない安部政権 ~官々愕々第128回~」(「週刊現代」2014年11月1日号)
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 【参考】
【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り
【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~
【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~
【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~
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【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~

2014年10月22日 | ●佐藤優
 産経新聞は、安倍首相官邸と自民党中枢に深く食い込んでいる。だから、他のマスメディアが得ることができない情報、機微に触れる情報を入手できる。
 最近のスクープは、福田康夫元首相が7月下旬に訪中した際の、中国側との秘密交渉の内容だ。

 <福田康夫元首相が7月下旬に訪中し、習近平国家主席ら中国要人と会談した際、中国側から日中首脳会談を開催するための2条件を提示されていたことが12日、分かった。
 (1)尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐる領有権問題の存在を認め合う(2)安倍晋三首相が任期中に靖国神社に参拝しないことを確約する-というもので、福田氏は自身の考えや見立てを文書にまとめて習氏との会談後に提出したというが、今後の火種になる可能性もある。日中関係筋が明らかにした。
 首相は11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での日中首脳会談の実現に意欲を示している。ただ、首相サイドは「どんな前提条件も受け入れられない」としており、さまざまな外交ルートを使って中国側に働き掛けているもようだ。>【注1】

 条件(1)「尖閣諸島をめぐる領有権問題の存在を認める」・・・・を呑めば、日本政府の立場「尖閣諸島は歴史的、法的に日本の領土である。この諸島をめぐる中国との領有権問題は存在しない」を変更することになる。安倍政権として、絶対に認めるわけにはいかない。
 条件(2)「安倍首相が任期中に靖国神社に参拝しない」・・・・は、現実には実現するかもしれない。しかし、中国政府の要請に応じて、安倍首相が参拝を断念するということは、日本が中国の内政干渉に膝を屈することを意味するので、これまた受け入れられない。
 そもそも、首脳会談に前提をつける、という中国外交の手法が、日本に対して非友好的だ。

 外交の世界には、積極的に話題にしたいことがある一方、できれば避けて通りたいテーマもある。
 しかし、相手国も日本と同じ立場を取っているとは限らない。意見の違いについては、首脳会談の席できちんと議論し、その上で、合意できることは合意し、合意できないことは決裂させるなり、先送りにすればいい。
 尖閣問題、靖国問題についても、首脳間で忌憚のない意見交換を行うことが何よりも重要だ。
 交渉もせずに自国に有利な条件を押しつける中国の外交手法は、最後通牒的だ。

 <福田氏は、中国が主催する「ボアオ(博鰲)アジアフォーラム」理事長として訪中。中国の楊潔チ(ようけつち)国務委員や王毅外相と会談し、対話に応じるよう呼びかける安倍首相のメッセージなどを伝達した。これに中国側は首相サイドが態度を軟化させていると感じ取り、習氏との極秘会談をセットしたとみられる。福田氏と習氏との会談には日本大使館の通訳が同席したとされ、木寺昌人駐中国大使も挨拶に訪れていたという。>【注2】

 福田元首相は、軽率にも、中国政府のつけた条件の外交的意味をよく吟味せずに、とんでもないメッセージ(日本の国益を毀損しかねない)の運び役になってしまった。

 【注1】記事「中国、首脳会談へ2条件 尖閣問題を認める/安倍首相は参拝せず」(産経新聞 2014年10月13日)
 【注2】前掲記事。

□佐藤優「中国政府が示した「条件」の外交的意味 ~佐藤優の人間観察 第86回~」(「週刊現代」2014年11月1日号)
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 【参考】
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~


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【食】トランス脂肪酸たっぷりの「コアラのマーチ」 ~栄養表示の限界~

2014年10月21日 | 医療・保健・福祉・介護
 全国農業協同組合連合会(JA全農)主催「食品表示に関する記者説明会」によれば、 
  (1)ロッテの「コアラのマーチ」・・・・香港で販売されているのには、トランス脂肪酸が1箱当たり2g入っている。
  (2)これが分かるのは、香港では加工食品の栄養成分表示が義務づけられているからだ。
  (3)トランス脂肪酸・・・・心疾患リスクが上がる。WHOは、1日の総エネルギー摂取量の1%以下にすることを推奨している。1日のエネルギー摂取量が1,800キロカロリーならば、18キロカロリーで、脂肪2g相当となる。

 日本では、栄養成分表示自体が義務づけられていない。消費者庁が基準を作りつつある段階だ。
 ただし、5年後に施行予定の栄養成分表示にはトランス脂肪酸は含まれていない。

 消費者が「コアラのマーチ」のトランス脂肪酸量をロッテに照会しても、回答は、
  「トランス脂肪酸の低減化には努めているが、具体的数値は出せない」
 ところが、「食の安全・監視市民委員会」が公開質問状でロッテに照会すると、回答はしぶしぶと、
  「1箱当たり0.1~0.2g」
 消費者からの質問には答えず、消費者団体からの質問には回答する・・・・という対応はまずいだろう。また、国内の商品の値が低いということは、その有害性を認識しているということだろう。だのに、なぜ海外に限って10~20倍も高い値で放置しているのか? ロッテの企業姿勢には疑問がある。

 同種のチョコレート菓子は、日本の他の大手菓子メーカーの商品にもある【注】。
 照会すると、個別含有量については、いずれの会社も回答を拒否している。その他の情報開示では、大きく分かれる。
 明治は「重量の0.2~0.3%未満」、江崎グリコは「商品の総カロリーの1%未満」という回答だった。どちらも海外生産品についても同等の低減化を達成済みだった。
 森永製菓は「削減努力をしている」というだけで具体的な数値の明言は避けた。ロッテも「コアラのマーチ」以外の「パイの実」「トッポ」などの含有量は回答拒否で、なぜ海外生産品だけトランス脂肪酸が高いままなのかについてもノーコメントだった。

 ロッテからの回答の中に、「トランス脂肪酸表示は、業界団体の取り決めに準じて対応する」という文言があった。これが、業界横並びの対応を意味するのであれば、それがため、低減を達成している明治や江崎グリコも表示できないのだろう。
 日本の栄養成分表示では、企業の取り組みの違いが見えてこない。

 【注】いずれも表示は行っていない。①削減目標と、②生産品の国内・海外での違いは、
  (a)明治「きのこの山」「たけのこの里」他・・・・①商品重量の0.2~0.3%未満、達成済み。②同程度。
  (b)江崎グリコ「ポッキー」他・・・・総カロリーの1%未満、達成済み。②海外生産品についても低減化済み。
  (c)森永製菓「小枝」他・・・・低トランス脂肪酸への切り替えを順次行っているが、削減目標などは回答拒否。②海外生産は無し。
  (d)ロッテ「コアラのマーチ」「パイの実」他・・・・「コアラのマーチ」は1箱当たり0.1~0.2g、他の商品については回答拒否。②海外生産品は100g当たり4.2gのものがある。

□植田武智「トランス脂肪酸だらけの香港の「コアラのマーチ」 日本の「コアラのマーチ」はどうよ?」(「週刊金曜日」2014年10月10日号)
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【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~

2014年10月20日 | ●佐藤優
 ギオルギ・マルグベラシビリ・グルジア大統領が10月末に訪日する。
 そのとき日本は、かねてからグルジアが要請していた国名表記変更を認めるらしい。
 <政府は、旧ソ連諸国の一つ「グルジア」の国名表記を、同国からの要請に応じて「ジョージア」に変更する方針を固めた。今月下旬で調整が進んでいるマルグベラシビリ大統領の来日の際、安倍首相に改めて変更の要請がある見通しで、日本政府はこれを受けて必要な法改正を検討する。
 グルジアの国名はグルジア語では「サカルトベロ」だが、関係者によると、国連加盟193か国のうち約170か国は、英語表記に基づく「ジョージア」の呼称を使っている。ロシア語の表記が起源の「グルジア」と呼んでいるのは、ロシアなど旧ソ連圏と中国、日本などだけだという。グルジア政府は、2008年にロシアと軍事衝突して国民の反露感情が高まったのを背景に、「ジョージア」と呼ぶよう各国に働きかけていた。>【2014年10月05日付け読売新聞】
 
 グルジアがジョージアに変更しても、日本政府の負担は、「在グルジア日本国大使館」(於トビリシ)の看板の日本語表記を変更する(「在ジョージア日本国大使館」)ことくらいなので、カネはほとんどかからない。
 それでグルジアが喜ぶなら、大いにやってやればいい。

 マルグベラシビリが大統領になって、グルジアはようやく普通の国家になろうとしている。
 サーカシビリ前大統領は、米国のネオコン・グループと手を握って、極端な反露政策をとった。もともとグルジアが要請して同国の南オセチア自治州に駐留していたロシア軍に対して、サーカシビリは攻撃をしかけた(2008年8月7日)。にもかかわらず、「ロシア軍によって攻撃された」と大嘘をついた。
 もっとも、同年11月28日、サーカシビリは、「実はグルジア軍がロシア軍に攻撃をしかけた」と認めざるを得なくなった。
 サーカシビリ政権下で日本がグルジアの国名変更を認めていたら、日露関係に悪影響を与えただろう。
 目下、ロシアはウクライナ問題で頭に血が上っているので、日本・グルジア関係をフォローする余裕はない。国名変更を認めるのは今がチャンスだ。

 この機会に、安倍政権の政治主導でバチカン(ローマ法王庁)の日本語名も変更すべきだ。
 <1981年2月のヨハネ・パウロ2世の来日を機会に、「ローマ教皇」に統一することにしました。「教える」という字のほうが、教皇の職務をよく表すからです。
 (中略)日本とバチカン(ローマ法王庁、つまりローマ教皇庁)が外交関係を樹立した当時の定訳は「法王」だったため、ローマ教皇庁がその名称で日本政府に申請。そのまま「法王庁大使館」になりました。日本政府に登録した国名は、実際に政変が起きて国名が変わるなどしない限り、変更できないのだそうです。
 (中略)
 皆様には、「教皇」を使っていただくよう、お願いする次第です。>【カトリック中央協議会ウェブサイト】

 ここでバチカンに恩を売っておけば、対中索制で日本・バチカン連携がやりやすくなる。 

□佐藤優「この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~佐藤優の人間観察 第85回~」(「週刊現代」2014年10月25日号)
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【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
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【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
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「森訪露」で浮かび上がった路線対立
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【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り

2014年10月19日 | 社会
 10月3日、安倍政権は、
  「日本環境安全事業株式会社法の一部を改正する法律案」
を国会に提出した。新聞記事よれば、この法律は、
  福島県内の汚染土壌を保管する中間貯蔵施設の関連法案で、
  使用開始後30年以内に県外での最終処分を完了させる、と書かれている。
 福島県民のみならず国民にとって意義深い法案である・・・・ように、一見、見える。

 法案の大問題。
 汚染土壌を「30年以内に福島県外」で最終処分する、と決めた。だが、どこで最終処分するか、何も書いてない。
 常識的に考えて、他県で最終処分場を作りたいと言っても、受け入れるところがあるとは考えられない。福島に作る以上に難しい。
 歴史は繰り返しつつある。

 (1)鳩山由紀夫・元首相の「最低でも県外」発言。
 鳩山は、2009年の政権交代時に、普天間吉の移転先について、何の当てもなく大見得を切った。今も、この問題は混乱状態のままだ。
 あの時は、嘘がばれるのが早かったが、今回は嘘と確定するには30年の時間がかかる。
 しかし、何の見通しもないのに約束してしまった点で、嘘の程度は鳩山発言と同じだ。

 (2)六ヶ所村の使用済み核燃料の再処理施設。
 原発で生じた使用済み核燃料を預かって、再処理してそれをまた原発に戻して再利用する・・・・という建て前(約束)になっている。
 しかし、仮に再処理を止めると言うと、それなら今六ヶ所村にある使用済み核燃料をすぐに全部引き取れ、ということになる。むろん、各原発の使用済み燃料プールは満杯に近く、それは不可能だ。だから、破綻しているとわかっているのに、核燃料サイクルのプロジェクトは止めることができない。
 これから、数十兆円をつぎこもう、というとんでもない話になって行く。

 今回の法律で、何の当てもなく「県外」最終処分を約束するのは、誠実でない。
 これまでの自民党の前科を考えれば、30年間はたちまち過ぎ去る。
 その後、毎年福島県に多額の資金を「迷惑料」として払い続ける。「嘘」をついたのだから、「慰謝料」込みとならざるを得ない。
 今の沖縄のような不幸な状態を生み出す可能性が高い。

 この法律の罪深さは、他にもある。
 「日本環境安全事業」という会社は、ポリ塩化ビフェニール(PCB:発癌性のある有害物質)廃棄物を全国で処理する事業を行う特殊会社だ。この事業が終われば、この会社は廃止できる。
 しかし、それだと困る人がいる。天下りしている環境省関係者ら3人のポストが一度になくなるのは、官僚にとってあってはならないことだ。
 もともと「日本環境安全事業」は、平成28年に終わることになっていた。それをどんどん遅らせて、今年6月には、平成34年以降にまで引き延ばされた。
 そこへ降って湧いた中間貯蔵問題。PCBとは何の関係もないが、この事業を行えば寿命は一気に30年後まで延びる。
 さらに、今回の法改正で、医術開発など、かなり広範囲に事業を拡大できる条文まで追加した。
 
 政治家たちは30年後のことなど、おかまいなし。
 官僚たちは30年後の自分たちの生活のことまで考える。
 結局、何があっても官僚だけはしっかり焼け太る。
 原発事故も、官僚にかかれば利権拡大の絶好の機会なのだ。

□古賀茂明「中間貯蔵施設で官僚焼け太り ~官々愕々第127回~」(「週刊現代」2014年10月25日号)
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 【参考】
【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~
【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~
【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
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【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
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【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
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【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
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【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
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【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
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【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
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【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
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【新聞】活字文化没落の序曲 ~朝日叩き~

2014年10月18日 | 批評・思想
 9月20日ごろ、東京駅で異様な光景が目撃された。
 『従軍慰安婦は朝日新聞の捏造』
 『読まない、買わない、読ませない』
という文字が書かれた蛍光色のTシャツの一群が、ゾロゾロと山手線の車輌を降りたのだ。
 「頑張れ日本! 全国行動委員会」が呼びかけた「朝日新聞解体、山手線一周マラソンラリー」であった。
 同委員会の幹事長は、水島総・「日本文化チャンネル櫻」社長が務めている。
 インターネット動画サイトの同社は、綱領に「地方から日本国全体を変革する『草莽の士』として、自らが出来る限りの力を尽くし、同志と共に政治活動を実行していく」と謳う。

 ネットも新聞も、ジャーナリズムの担い手だ。理念や考え方は違っても、言論という共通の土俵に立っている。規模や影響力は異にしても、考え方の違いは言論の場で戦わせるのが筋だ。
 ところが、水島総らは、考え方が違うメディアを、政治団体を作って「解体」しようと訴えている。錦の御旗は「頑張れ日本!」。国家と国民を卑しめる勢力は駆逐する。そんな風潮が芽生えている。

 「朝日関係殺虫駆除リスト」がネット上に公開された。朝日新聞記者や関係者の、100人超の実名が連なるリストだ。
 日本軍慰安婦問題では、記事を書いた記者が名指しで攻撃され、ネットには顔写真、住所、家族の写真まで晒されている。
 反撃できない相手をいたぶるような愚劣なエンターテインメント。
 そんな風潮を煽る週刊誌の記事広告が電車に宙吊りにされている。
 背後には、朝日の論議に批判的な勢力の狙い撃ちがある。
 戦争責任、靖国参拝、憲法改正、原発再稼働などでメディアは二分されている。
 リベラルの旗を掲げる朝日に対し、戦後レジームからの脱却を唱え、歴史認識の見直しを掲げる勢力は安倍首相の与党メディアになっている。

 朝日新聞は、8月5・6日の紙面で、これまでの慰安婦報道を検証し、「済州島で慰安婦狩りをした」などとする吉田清治の発言は虚偽と認定して16本の記事を取り消した。
 検証記事の中で、他のメディアが紹介した吉田証言に触れた。産経新聞などは、「論点のすり替えだ」と反発した。・・・・「よそも書いた」というのは、確かに言い訳にならない。しかし、朝日の責任を追及するなら、自分はどうだったか、読者に説明すべきだ。なぜ誤報したのか、なぜ裏を取らなかったのか。「朝日が先に書いていた」というのは、これまた言い訳でしかない。

 吉田清治が初めて朝日新聞の紙面に登場したのは、1983年だ。大阪で行った講演が記事になった。
 当時はさほど話題にならなかった。1990年代になって、日朝の国交正常化が外交課題になり、注目されるようになった。
 朝日だけでなく、多くのメディアが吉田証言に沿った報道を行っている。
 産経新聞は、1993年、大阪本社の夕刊において連載した「人権考」で、9月1日に吉田清治を「済州島で約千人以上の女性を従軍慰安婦に連行したことを明らかにした証言者」として大きくとりあげた。見出しは「加害 終わらぬ謝罪行脚」。慰安婦だった金学順に詫びている写真を併せて掲載。この連載は第1回坂田記念ジャーナリズム賞を受賞し、1994年に書籍化された。

 秦郁彦・現代史家が吉田証言を疑問視する記事を産経新聞に載せたのは1992年4月。それから1年以上も経った「人権考」の記事には、「信ぴょう性に疑問を唱える声があがり始めた」と書きつつも、被害証言がなくとも、それで強制連行がなかったとも言えない。吉田さんが、証言者として重要なかぎを握っているのはたしかだ」と書いている。 

 読売新聞は、1992年8月15日付け夕刊で吉田清治を紹介している。
 「病院の洗濯や炊事など雑役婦の仕事でいい給料になる、と言って、百人の朝鮮人女性を海南島に連行したことなどを話した」と集会の発言を紹介した。

 一番先に書いたのは朝日。
 たくさん取り上げたのも朝日。
 だから、皆そう信じた。国際社会にも影響を与えた。反日メディアだ。廃刊にしろ。
 ・・・・自分の不始末を棚に上げて、他者の誤りをここぞとばかり言い募る。思い切り叩き、晒し者にする。いつから、日本のメディアは節度を失ったのか。
 今、活字文化が文明史の十字路に立たされている。狂ったような朝日叩きは、何の始まりか。
 良質の手触り感のある情報を届けるはずの紙誌が狂奔する「お祭り」は、朝日のみならず活字メディア全体から読者が離れゆく序曲かもしれない。

□神保太郎「メディア批評第83回」(「世界」2014年11月号)の「(1)「叩く」ほど、信頼失う活字メディア」
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 【参考】
【新聞】再生の出発点は現場 ~経営判断を誤ったジャーナリズム~
【新聞】記者の質問能力の低下 ~朝日新聞社長の記者会見~

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【新聞】再生の出発点は現場 ~経営判断を誤ったジャーナリズム~

2014年10月17日 | 批評・思想
 朝日新聞は謝罪した。福島第一原発事故の混乱を物語る「吉田調書」をスクープした5月20日の記事まで、誤報とし、取り消した。
 この記事は、取り消すほどの誤報なのか。

 2011年3月15日は、損傷した原発が最悪の事態を招きかねない時だった。
 「第一原発付近の線量の低いところに待避せよ」
と吉田所長はテレビ会議で指示した。
 ところが、所員の9割が指示に反した。福島第二原発に退避し、戻ってくる間に大量の放射性物質が漏れた。
 ・・・・現場の混乱ぶり、指揮系統の乱れを強調した記事だ。
 記事の根拠は、
 「本当は私、2Fに行けと言ってないんですよ」
という吉田調書にある言葉だった。原発がきわめて危険だった状況下で、所長の指示に反した行動が一斉に起きてしまった。そのことを問題にした。

 「命令違反で撤退」の見出しが、「所長の命令に逆らって逃げた」という印象を与えかねないが、記事には「逃げた」とか「命令に逆らって」といった所員を「貶め」る表現はない。
 「命令違反という表現は、命令を受けていたにも関わらず、従わなかったことを指す。所長の指示が現場に伝わっていなかったことは取材できていなかった」ので誤報、と朝日は判断。現場で奮闘する東京電力の社員の名誉を傷つけた、と謝罪した。
 「命令違反」か、「結果的に命令に反した」のか。そのあたりは微妙だが、記事のどこかに明確な誤りがある、というのではなくて、「記事全体が誤った印象を与える」と言っているのだ。この記事が誤報なら、鬼の首を取ったように「スクープ」を書きまくる週刊誌の記事の多くが誤報の烙印を押される。

 電力会社や政府機関は、都合のいい記事を書いてくれる記者には協力を惜しまない。半面、批判的な取材にはガードが固い。
 原発取材班は、取材拒否や情報隠しなどの障害をかき分け、事実を拾い集める。メディアを使った攻撃や訴訟のリスクもある。誤報や不手際はあってはならない。
 それは、取材記者なら十分承知している。それでも、今回のようなことは起きる。朝日の記者は比較的真面目に仕事をしていると言われるが、大組織の風通しの悪さやセクショナリズムは、かねてから問題視されていた。

 会見場では、次のような質問も出た。
 「誤報」がなぜ生じたのかを、組織のガヴァナンスの問題にすり替えたり、検証を丸投げしたりしないで、現場の記者たちの内発的な議論に俟つべきではないか・・・・。
 紙面では「きれいごと」を並べる朝日も、社内は「きれいごと」では済まない。それは、他の会社と同じだ。
 木村社長は有識者による第三者委員会を設けて誤報の経緯を検証する、というが、上からの視線で現場を眺めている。そうした姿勢でよいのか。

 朝日の問題は、現場にはなく、経営者にある。その象徴が池上問題だ。
 現場は「掲載妥当」と判断したが、トップが没にした。ごうごうたる非難が社内から湧き起こり、慌てて掲載する醜態を演じたのは経営陣だ。
 感覚がズレているのは経営者だ。「強い現場と弱い経営」は、朝日とて例外ではない。

 明るい兆しもある。
 大勢の記者が毅然と経営者を批判した。社内ツイッターを通して、名前と顔写真付きで、経営判断に誤りがある、と主張したのだ。並行して記者会見で説明責任を果たせ、と経営者に迫る署名集めが開始していた。社内世論が経営者の背を押した。
 読売や産経でも、社員が公然と経営批判の声をあげることができるか。

 朝日新聞は窮地に立っている。経営者に任せておくと、吉田調書の幕引きのように、「危機管理と保身」に目配りした幕引きになりかねない。
 慰安婦報道の誤り。
 池上問題での不適切対応。
 それぞれ性格が違う問題だが、それらが混然一体となって、経営責任が問われた。販売店への嫌がらせ、購読離れ、広告の落ち込みなど逆風が強まっていた。ここは平謝りでかい潜る選択をしたのだろう。記者会見の口実を吉田調書問題になすりつけ、現場の記者を裏切る結末をもたらした。
 平身低頭の謝罪は、朝日を狙い撃ちにする勢力を元気づけた。そして、リベラル陣営を失望させた。

 ジャーナリズムの再生は、現場のイニシアティブで果たすしかない。
 取締役や第三者委員会に「ご指摘いただく」のではなく、一線の記者が自発的に組織の病理を点検し、時代にふさわしい改革に道筋をつけるしかない。
 中間管理職の決起なくして、朝日は変わるまい。

□神保太郎「メディア批評第83回」(「世界」2014年11月号)の「(1)「叩く」ほど、信頼失う活字メディア」
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 【参考】
【新聞】記者の質問能力の低下 ~朝日新聞社長の記者会見~
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