語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~

2015年11月17日 | ●佐藤優
 ①阿部謹也『「教養」とは何か』(講談社現代新書、1997)【斎藤美奈子から】
 ②石川千秋『「こころ」で読みなおす漱石文学 大人になれなかった先生』(朝日文庫、2013)【米光一成から】
 ③イヴ・K. セジウィック(上原早苗/亀沢美由紀・訳)『男同士の絆 --イギリス文学とホモソーシャルな欲望』(名古屋大学出版会、2001)【斎藤美奈子から】
   

 (1)教養とは何か。
 ヨーロッパ中世史の阿部謹也の①によれば、世の中に入って行くときに「そこで自分はどうやって生き抜くかを考えるのが教養である」。
 知識を増やすことではなく、世の中での自分の位置を考えていくのが教養だと。

 (2)今の学生に皮肉が通じるか?
 うーん、難しい。
 官僚にも皮肉が通じない(笑)。それは直接的な人間関係が欠けているからだ。LINEやメールと同じように、文字面だけで判断しているから、目の前にいる相手の非言語的な意味を読むのが苦手なのだ。
 読書も同じで、単なる知識の伝達だと思うとつまらない。読むことの先にはふくらみのある喜びが存在する。それに気づくと、世の中には面白いものがいっぱいあると実感できる。こうした見方は、いま必要な教養と結びつく。
 『こころ』を初めて読んだとき、わからなかった。なぜ語り手は先生に一目惚れするのか、etc.。ところが、②を読むと、疑問だった部分を次々に解釈してくれる。「青年が先生に一目惚れするのも、当時の大学のあり方が今とは違っているからだ」とか、謎解き編のようになっている。この本を読むと、漱石をはじめとする明治時代の小説の読み方がわかる。小説を読んでいると出てくるほころびを、著者・石川千秋は「実は解釈の重要な手がかりになるかもしれない」、つまらないと捨ててしまうのは違うんだ、と。

 (3)③は、いわゆる男社会のしくみについて解明した本。ホモセクシャルならぬホモソーシャルという概念を発明したのが、この本の手柄だ。セクハラヤジ問題に典型的にあらわれているが、男社会には独特の連帯感がある。会社もそう、議会もそう、男子校もそう、ヨーロッパベースの本なので日本社会とは実感のずれがあるが、ホモソーシャルという概念は何でも切れる万能包丁だ。使い勝手がよい。

 (4)「新しい教養」とは何か。
 疑いを持って、簡単に納得したり、だまされたりしないための体力ではないか。
 さまざまな世界や他者と共振するために本を読んだり舞台を見たりしていると、強くてわかりやすい単純なひとつの何かに、からめとられなくて済む。
 リアル書店に行ったほうがいい。厚さとか重さとか、実際に店頭で手にとって、何冊も開いてみる。本そのものの存在感が教養の一部ってこともある。
 教養の目的は何か。それは寛容になることだ。寛容であれば世界が広がるし、人間関係も仕事もうまくいくし、結果として出世する(笑)。そのためには単純な主張をする本ではなく、複雑なメッセージを持ったものを読むべきだ。長く生き残っている本ならば、行間から「すべてを信じないほうがいい。この本でさえ」というメッセージが聴こえてくる。

□佐藤優『知の教室 ~教養は最強の武器である~』(文春文庫、2015)の「第4講座 知の幹を作る最低限の読書」の「ビジネスマンが読むべき30冊 時代を生き抜くための知の教科書」【斎藤美奈子×米光一成×佐藤優】)
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 【参考】
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次

  

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