語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

●若返りの医学的メカニズム ~オートファジー~

2024年02月08日 | 医療・保健・福祉・介護
●若返りの医学的メカニズム ~オートファジー~

■人間最大の寿命は「115歳」
■寿命の「絶対的な限界」
■人類の「生存戦略」を崩すリスク
■「テメロア」仮説の虚構
■「健康寿命」が延びた理由
■「老化細胞」が炎症を起こす
■老化細胞にもメリットはあった

■老化と死はプログラムされている
 〈私たちの身体には細胞をリフレッシュする「オートファジー」という機能がある。時間の経過とともにモノが劣化するのは、私たちの常識からすると普通だ。当然、人間も歳をとれば劣化するのが自然のように見える。だが、大阪大学大学院生命機能研究科の吉森保教授は、「細胞は非常に優れたメカニズムを備えているので、本来なら老化もしないし、死なないはずなんです」と指摘する。
 細胞には、つねに健康な状態を保つ仕組みがある。これを「恒常性」というが、「恒常性が破綻しない限り、老け込むことも死ぬこともない」と吉森教授は説明する。
 しかし、実際には人間は老化するし、死ぬ。
 「これは僕の個人的な意見ですが、老化と死は、ある程度遺伝的にプログラムされているのではないかと想います」
 ではなぜ老化と死があらかじめ私たちの身体にプログラムされているのか?--その謎を解くカギがオートファジーである。
 オートファジーはギリシア語で、「オート」が「自分」、「ファジー」が「食べる」を意味する。「自食作用」と訳され、細胞が自己を分解する機能を指す。東京工業大学教授の大隅良典博士がオートファジーのメカニズムに必要な遺伝子を発見したことで飛躍的に研究が進み、大隅博士は2016年にノーベル医学生理学賞を受賞した。
 そして吉森教授らの研究により、オートファジーは老化や免疫、寿命に大きく関係していることが明らかになった。なぜならオートファジーは、発がんや、アルツハイマー病などの神経変性疾患、2型糖尿病などの生活習慣病、さらには感染症などを抑止するからである。
 オートファジーによって、細胞の新陳代謝が行われる。細胞を構成するたんぱく質は絶えず合成と分解を繰り返しているが、分解を担当しているのがオートファジーだ。
 「実験でこの流れを止めると、健康な細胞もすぐ病気になってしまいます。私たちの細胞は、自身を少しずつ壊してそのぶん新しいもいのに入れ替えているのです。それは、伊勢神宮が式年遷宮で建て替えられるようなものです。外見は変わらないように見えても、中身が少しずつ入れ替わって若返っている。さらに、病原体やアルツハイマー病の原因になるたんぱく質の塊など、明らかに害になるものが現れると、狙い撃ちで選択的に排除してくれることも判明しました」〉

■「腹八分目」が長寿にも効く
■長生きのために繁殖を諦める?

□河合香織(ノンフィクション作家)「老化は治療できるのか 人は何才まで生きられるのか--最新研究の現在地 ~総力特集:不老長寿への挑戦~」(「文藝春秋」2023年3月号、pp.138-149)
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