9月22日、米軍はシリア領内の「イスラム国」の拠点に対する空爆を開始した。
攻撃には、イスラム教国であるサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、ヨルダン、バーレーンが有志連合として加わった。宗教戦争、文明間戦争になることを避けるために。
今回の空爆は、厳密には国際法違反だ。国連安保理決議はないし、シリア政府の要請ないし同意もない。米国による一方的攻撃だからだ。
しかし、「イスラム国」の掃討には国連加盟国の圧倒的多数が賛成している。国連も国際社会も、米国の行動を追認している。
英国、仏国、オーストラリア、オランダ、デンマーク、ベルギーも空爆に参加し、トルコも有志連合に加わる意向を表明した。
米国も、「イスラム国」空爆に関して、シリアとイランに事前通報した。・・・・シリアは、米国による主権侵害に抗議していない。イランも米国を名指しで非難することを避けた。
米国は、地上戦には参加しない意向を表明している。
①イラクでは、正規軍を強化し、
②シリアでは、反政府武装勢力を支援することで、
「イスラム国」を掃討しようとしている。
しかし、この手法では効果は期待できない。
イラク軍のシーア派兵士は、宗派を同じくするイランに共感を持っている。イランも多数の軍事顧問をイラクに派遣している。
米国がイラク軍に本格的な梃子入れをするためには、イランとの関係改善が不可欠だ。
しかし、オバマ政権にそこまで踏み込む腹はない。なぜなら、イランが核開発を断念する可能性がないからだ。
シリアの反政府勢力は、軍規が乱れ、虐殺、暴行、略奪を繰り返す危険な集団だ。反政府勢力の主敵はアサド政権なので、米国が軍事的な梃子入れをすると、「イスラム国」よりもアサド政権との戦いに執心する可能性がある。
いまアサド政権が崩壊すると、シリアのみならずレバノンにも権力の空白が生じる。「イスラム国」が策動する余地が広がる。
米国は再び中東の泥沼に足を踏み入れつつある。
安倍政権は、7月1日の閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」で憲法解釈を変更し、集団的自衛権行使の限定的容認に踏み切った。
しかし、日本は「イスラム国」に対する米国の空爆を支持するが、協力は非軍事的分野に限定している。後方支援で自衛隊を派遣することも考えていない。派遣すると世論調査の支持率が低下することを恐れているので、非軍事分野での協力に限定しているのだろう。
中東の危機には極力関与したくない、という安倍政権の孤立主義的傾向が浮き彫りになった。
□佐藤優「国際情勢の変化に対応できない安倍政権 ~佐藤優の飛耳長目 第100回~」(「週金曜日」2014年10月10日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~」
「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
「【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~」
「【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~」
「【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~」
「【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~」
「【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~」
「【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~」
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」
攻撃には、イスラム教国であるサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、ヨルダン、バーレーンが有志連合として加わった。宗教戦争、文明間戦争になることを避けるために。
今回の空爆は、厳密には国際法違反だ。国連安保理決議はないし、シリア政府の要請ないし同意もない。米国による一方的攻撃だからだ。
しかし、「イスラム国」の掃討には国連加盟国の圧倒的多数が賛成している。国連も国際社会も、米国の行動を追認している。
英国、仏国、オーストラリア、オランダ、デンマーク、ベルギーも空爆に参加し、トルコも有志連合に加わる意向を表明した。
米国も、「イスラム国」空爆に関して、シリアとイランに事前通報した。・・・・シリアは、米国による主権侵害に抗議していない。イランも米国を名指しで非難することを避けた。
米国は、地上戦には参加しない意向を表明している。
①イラクでは、正規軍を強化し、
②シリアでは、反政府武装勢力を支援することで、
「イスラム国」を掃討しようとしている。
しかし、この手法では効果は期待できない。
イラク軍のシーア派兵士は、宗派を同じくするイランに共感を持っている。イランも多数の軍事顧問をイラクに派遣している。
米国がイラク軍に本格的な梃子入れをするためには、イランとの関係改善が不可欠だ。
しかし、オバマ政権にそこまで踏み込む腹はない。なぜなら、イランが核開発を断念する可能性がないからだ。
シリアの反政府勢力は、軍規が乱れ、虐殺、暴行、略奪を繰り返す危険な集団だ。反政府勢力の主敵はアサド政権なので、米国が軍事的な梃子入れをすると、「イスラム国」よりもアサド政権との戦いに執心する可能性がある。
いまアサド政権が崩壊すると、シリアのみならずレバノンにも権力の空白が生じる。「イスラム国」が策動する余地が広がる。
米国は再び中東の泥沼に足を踏み入れつつある。
安倍政権は、7月1日の閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」で憲法解釈を変更し、集団的自衛権行使の限定的容認に踏み切った。
しかし、日本は「イスラム国」に対する米国の空爆を支持するが、協力は非軍事的分野に限定している。後方支援で自衛隊を派遣することも考えていない。派遣すると世論調査の支持率が低下することを恐れているので、非軍事分野での協力に限定しているのだろう。
中東の危機には極力関与したくない、という安倍政権の孤立主義的傾向が浮き彫りになった。
□佐藤優「国際情勢の変化に対応できない安倍政権 ~佐藤優の飛耳長目 第100回~」(「週金曜日」2014年10月10日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~」
「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
「【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~」
「【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~」
「【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~」
「【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~」
「【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~」
「【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~」
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」