語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける77の極意 ~最強の読み方~

2017年12月31日 | ●佐藤優
 
 池上 彰×佐藤優『僕らが毎日やっている最強の読み方―新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける77の極意』 の目次

 はじめに(池上彰)

 序章 僕らが毎日やっている「読み方」を公開
【佐藤優】新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける77の極意 ~最強の読み方~

 第1章 僕らの新聞の読み方 ~どの新聞を、どう読むか。全国紙から地方紙まで
【佐藤優】新聞の読み方 ~最強の読み方(2)~

 第2章 僕らの雑誌の読み方 ~週刊誌、月刊誌からビジネス誌、専門誌まで
【佐藤優】雑誌の読み方、『失敗の本質』 ~最強の読み方(4)~」 

 第3章 僕らのネットの使い方 ~上級者のメディアをどう使いこなすか
【佐藤優】ネットの使い方、情報の新しさを判断する目安 ~最強の読み方(5)~
【佐藤優】ネット利用の3大原則 ~最強の読み方(6)~

 第4章 僕らの書籍の読み方 ~速読、多読から難解な本、入門書の読み方まで 

 第5章 僕らの教科書・学習参考書の使い方 ~基礎知識を一気に強化する 

 特別付録1 「人から情報を得る」7つの極意
【佐藤優】「人から情報を得る」7つの極意(1) ~最強の読み方(7)~
【佐藤優】「人から情報を得る」7つの極意(2) ~最強の読み方(8)~

 特別付録2 本書に登場する「新聞」「雑誌」「ネット」「書籍」「映画・ドラマ」リスト 

 特別付録3 池上×佐藤式70+7の極意を一挙公開! 

 おわりに(佐藤優)

□池上 彰×佐藤優『僕らが毎日やっている最強の読み方―新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける77の極意』(東洋経済新聞社、2016)
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【佐藤優】+【立花隆】キリスト教の神学と土俗

2017年12月31日 | ●佐藤優
 ①欧米理解にはキリスト教理解が欠かせない。
 ②キリスト教は土着の宗教と結びついて普及してきた。
 ③旧約聖書の天地創造神話には3種類のテキストがある。
 ④イスラム世界には、アラビア語の世界に加えてペルシア語の世界がある。
 ⑤キリスト教は中国では中国的に受容された。
 ⑥プロテスタント神学の構造。

①「【本】欧米理解に不可欠なこと ~『立花隆の書棚』~
②「【本】土着の宗教と結びついたキリスト教 ~『立花隆の書棚』(2)~
③「【本】旧約聖書には天地創造神話が2つある ~『立花隆の書棚』(3)~
④「【本】イスラム世界におけるペルシアの独特な立ち位置 ~『立花隆の書棚』(4)~
⑤「【本】中国で宗教が流行しているが ~『立花隆の書棚』(5)~
⑥「【佐藤優】4種類の神学 ~聖書・歴史・体系・実践~

□立花隆/写真:薈田 純一『立花隆の書棚』(中央公論新社、2013.3)の第2章、第7章
□佐藤優『神学部とは何か --非キリスト教徒にとっての神学入門』(新教出版社、2009)の「1 神学とは何か」
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【アラン】運命 Destin ~『定義集』~

2017年12月31日 | ●アランの言葉
 運命とはある存在(もの)がつくり出した虚構である。その存在には将来がわかり、それを告知できるという虚構--。それは言い換えるならば、われわれは将来を変えることができないということだ。この虚構は神学的なものであり、それは、神には何一つ知らないものはない、という神の完全性から出てきている。この虚構に対抗するには、ただ、信仰を自由の中に置くこと--実際、自由こそ信仰にほかならない--しかない。自分の運命を変えることはできないと信じている人のことを、彼は信仰を持っていない、と言う。したがって、神学者が神の意志に縛られるのは信仰を欠いているからだ、と言わざるをえない。

□アラン(神谷幹夫・訳)『定義集』(岩波文庫、2003)
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【本】1920年代の経済報道に学ぶ ~『経済失政はなぜ繰り返すのか メディアが伝えた昭和恐慌』~

2017年12月31日 | 批評・思想
★中村宗悦『経済失政はなぜ繰り返すのか メディアが伝えた昭和恐慌』(東洋経済新報社、2005)

 メディアは、時に世論をリード(ミスリード)し、時に世論に潜む欲求や希望の映し鏡となる。そして、実際の政策を決める政治・政治家の活動は世論と無縁ではいられない。経済政策の研究にとって、メディア分析はもっと重視されてもよい対象だ。本書は、1920年代の長期的な経済停滞期の報道を通じて当時の報道や論壇の通説と、それらが経済政策に及ぼした影響を紹介する。
 同時期を扱った小説では城山三郎氏の『男子の本懐』が有名だが、その虚構性を指摘しつつ、当時の主要論調「デフレ下での構造改革」が、経済にいかに大きなダメージを与え得るかを説き起こす。ポスト真実、フェイク・ニュースに注目が集まる今、歴史ファンならずとも読み返す価値のある作品だ。

□飯田泰之(明治大学政治経済学部准教授)「1920年代の経済報道に学ぶ ~名著未読・再読~」(「週刊ダイヤモンド」2017年12月30日/2018年1月6日号)
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 【参考】
【本】朝日新聞・書評委員が選ぶ「今年の3点」(抄)
【本】著者の知的誠実さに打たれる日韓問題を深く理解できる書 ~『「地政心理」で語る半島と列島』~
【本】人の判断はなぜ歪むのか/2人の研究者の友情物語 ~『かくて行動経済学は生まれり』~ 
【本】エネルギーの本質を学ぶ ~『エネルギーを選びなおす』~
【本】JR九州の勢いの秘密を凝縮 ~読んで元気が出る人間の物語~
【本】日本は英国の経験に学べ ~『イギリス近代史講義』~
【本】噴火の時待つ巨額損失のマグマ ~『異次元緩
【本】“立憲主義”の由来を知る ~『立憲非立憲』~
【本】日本語特殊論に与せず ~『英語にも主語はなかった』~
【本】小国の視点で歴史を学ぶ ~『石油に浮かぶ国/クウェートの歴史と現実』~
【本】日本における婚姻を考える ~『婚姻の話』~
【本】元財務官僚のエコノミストが日本経済復活の処方箋を説く ~『日本を救う最強の経済論』~
【本】歴史を知らずに大人になる不幸 ~『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』~
【本】私たちの食卓はどうなるのか ~工業化された食糧生産の脆さ~
【本】歪み増殖していく物語に迷う ~『森へ行きましょう』~
【本】加工食品はどこから来たのか ~軍隊と科学の密な関係~
【本】80年代中世ブームの傑作 ~『一揆』~
【本】万華鏡のように迫る名著 ~『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』~
『【本】『世界をまどわせた地図』
【本】率直過ぎる米情報将校の直言 ~『戦場 -元国家安全保障担当補佐官による告発』~
【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~」」
【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~
【本】【神戸】「自己満足」による過剰開発のツケ ~『神戸百年の大計と未来』~
【本】英国は“対岸の火事”にあらず ~新自由主義による悲惨な末路~
【本】人材開発でもPDCAを回す ~戦略的に人事を考える必読書~
【本】仮想通貨が通用する理屈 ~『経済ってそういうことだったのか会議』~
【本】進化認知学の世界への招待 ~『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』『動物になって生きてみた』~
【本】「戦争がつくっった現代の食卓」 ~ネイティック研究所~
【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~
【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~
【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~
【本】テイラー・J・マッツェオ『歴史の証人 ホテル・リッツ』
【本】中国から見た邪馬台国とは
【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~
【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』
【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』
【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~
【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~
【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』
【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~
【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~
【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~
【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~
【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~
【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~
【本】いつも同じ、ブレないのだ ~『ブラタモリ』(1~8)~
【本】分裂する米国を論じた労作 ~『階級 「断絶」社会 アメリカ』~
【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~
【本】読書の効用、ゆっくり丹念な ~より速く成果を出すメソッド~
【本】国谷裕子『キャスターという仕事』
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【本】弱者への攻撃 なぜ苛立つのか ~小熊英二(歴史社会学者)~

2017年12月31日 | 批評・思想
 〈1〉木村忠正「『ネット世論』で保守に叩かれる理由」(中央公論2018年1月号)
 〈2〉記事「旧東ドイツ出身の記者が、故郷の変貌を暴く取材旅行に出る!」(クーリエ・ジャポン〈ネット〉12月11日)
 〈3〉嶋田崇治「独で深刻化する富の偏在」(週刊エコノミスト12月5日号)
 〈4〉ジェームズ・パーマー「劉暁波の苦難は自業自得? 反体制派が冷笑を浴びる国」(ニューズウィーク日本版〈ネット〉7月16日)
 〈5〉空井護「民主体制であること、民主体制であり続けること」(世界2018年1月号)
 〈6〉尾木直樹・岩波明・石川結貴 座談会「子どもに『死にたい』と言われたら」(文芸春秋同年1月号)
 〈7〉内閣府「『人権擁護に関する世論調査』の概要」(ネット、12月)
 〈8〉記事「まとめサイトの差別認定 大阪地裁 運営者に賠償命令」(本紙11月17日付)

 *

 みんな、何に苛立っているのだろう。何をそんなに恐れているのだろう。
 木村忠正によると、在日コリアンなどを「ゴキブリ死ね」などと侮蔑するネット投稿の「主旋律」は、「弱者利権」批判だという〈1〉。ここでの「弱者」には、「生活保護」「沖縄」「LGBT」「障害者」「ベビーカー」なども含まれる。投稿者たちは、これらの人々が「立場の弱さを利用して権利を主張」しているとみなす。「在日特権」という言葉はそうした認識を象徴するものだ。
 また木村は、ネット上の韓国・中国への侮蔑も「弱者利権」批判の延長だという。木村によればネット上の中韓批判は「歴史修正主義やナショナリズムの問題というよりも、慰安婦問題、戦争責任、戦後補償、植民地支配について、韓中にいくら謝罪しても結局(第二次大戦時における弱者の立場を盾に取り賠償金をとろうとして)問題を蒸し返されるという意識が根底には強く横たわっている」。その延長で、「弱者」の擁護者とみなされた新聞も「マスゴミ」などと侮蔑される。つまり「嫌韓・嫌中」や「マスコミ批判」も、「弱者に対する強い苛立ち」から派生しているというのだ。
 なぜ彼らは苛立つのか。木村は投稿者たちを「『マジョリティ』として満たされていないと感じている人々」と形容する。「弱者」や「少数派」より、自分たちこそ優遇されるべきだ。彼らはそうした認識に立ち、「その人たちなりの公正さ」を主張しているのだという。

 *

 だがこうした「弱者」「少数派」への苛立ちは、日本だけの現象ではない。
 ドイツのザクセン州は、旧東独の炭鉱地帯だった。東西統合後は経済的に停滞し、移民排斥運動への支持が多い。この州の統合省長官は、排斥運動の参加者たちからこう言われたという〈2〉。
 「長官さんよ、いつも難民と一緒なんだろ。どうしてまず俺らを統合しようとしないんだ?」
 彼らは、最初は難民への怒りを語る。しかし「その後すぐに、自分の話を始める」。それは、体制の変動に翻弄(ほんろう)され、敗北感や疲労感に苛(さいな)まれてきた経験だ。自分たちこそ優遇されるべきなのに、少数派や「弱者」の方に目をむける新聞や政治家は許せない。そうした心理が、難民への憎悪となるのだ。
 嶋田崇治は、排斥運動の台頭とドイツの格差拡大との関係を指摘する〈3〉。だが嶋田も認めているように、ドイツでは資産格差が広がってはいるが、所得格差は相対的に小さい。木村を始めとした日本のネット研究者は、過激な投稿をする人に、所得や学歴で顕著な特徴は見いだせないという。彼らは、必ずしも経済的な「弱者」ではないのだ。
 中国では、豊かになったはずの中産層に、「少数派」への不寛容が、ドイツとは違う形で現れている。ジェームズ・パーマーは、ノーベル平和賞を受賞しながら獄中にあった劉暁波の死に対する中国での反応をこう記している〈4〉。
 「中国の中流階級は、比較的リベラルな人々さえ、反体制派を軽蔑している。最初の反応は、何かしら非難する理由を見つけることだ。悪いのは被害者であって、彼らを逮捕し、拷問し、牢屋に入れる人々は悪くない。……
 そんな考え方に最初は衝撃を受けたが、次第に分かってきた。これは生き延びるための自己防衛であり、独裁主義に順応する1つの方法なのだ」
 パーマーはいう。「不公正な世界を前にしたとき、人間は精神的な防衛機能として、世の中は公正だと思い込もうとする」。そして「他人の苦しみを正当化する理由を探し、自分は大丈夫だと根拠もなく安心したくなる」。つまり、現状を変えられない自分の無力を直視するよりも、今の秩序を公正なものとして受け入れ、秩序に抗議する側を非難するのだ。
 もちろん中国、ドイツ、日本はそれぞれ事情が違う。だが急激に変動する現状に苛立ちながら、それを制御できない無力感を抱く人に、不寛容が蔓延する状況は共通する。ここでの決定要因は政治的・経済的な無力感と疎外感の程度で、必ずしも所得の多寡ではないようだ。
 そして世界各地では、無力感の反映としての投票率低下、少数派への不寛容、新たな権威主義が広がる。空井護はこれを「民主体制の崩壊」と評した〈5〉。

 *

 どうしたらよいか。富の偏在を抑える経済政策も重要だが、それとは別種の工夫で改善できる部分もある。
 尾木直樹は、アメリカの14歳の女性が開発したシステムを例に挙げる〈6〉。SNSに人を傷つける言葉を投稿しようとすると、「本当に投稿しますか?」と表示されるというものだ。実験したところ、93%が投稿をやめたという。【引用者注】
 過激な少数者差別は目立ちはするが、実は極端な人々の所業である。木村などの研究では、ネットで過激な言辞をくりかえし発信している投稿者は約1%だ。内閣府の調査では、ヘイトスピーチには否定的な回答が大多数で、「ヘイトスピーチをされる側に問題がある」との回答は10・6%にすぎない〈7〉。訴訟などの法的対応を含め、拡大を止める余地はある。大阪地裁は11月に、ネット上の中傷に損害賠償を命じた〈8〉。
 無力感と苛立ちを他者にぶつけても何も生まれない。逆にそれを制御する力を自覚することは、誰にとっても生きやすい社会を築く第一歩となる。新年は、そうした努力の始まりにしていきたい。

 【引用者注】この実験はアイヒマン実験の対極に位置するように思われる。
【心理】組織の論理とアイヒマン実験 ~ブラック企業の心理学~

【読書余滴】リーダーの条件 ~ミルグラム実験と組織~
【読書余滴】世間は狭い、の心理学 ~ミルグラムの「スモールワールド法」~
【読書余滴】ミルグラムの単純かつ独創的な実験~都市心理学~
【読書余滴】組織人はどこまで人道を踏み外すか ~「アイヒマン実験」~
【読書余滴】組織の中で人はどう変わるか ~集団の心理学~

□「(論壇時評)弱者への攻撃 なぜ苛立つのか 歴史社会学者・小熊英二」(朝日新聞デジタル 2017年12月21日)を引用
(論壇時評)弱者への攻撃 なぜ苛立つのか 歴史社会学者・小熊英二
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【南雲つぐみ】豚まん ~肉まんとの違い~

2017年12月30日 | 医療・保健・福祉・介護
 大阪出張の帰り、新大阪駅で新幹線の構内に入り、少し時間の余裕がある時は、名物の豚まんを買おうといつも思う。諦めることが多いのは、店の前にはだいたい長い列ができているからだ。
 筆者の住む地方にはこの豚まんの店舗はなく、時折デパートなどで催事がある以外は購入できない。その限定された感覚も、人気の理由の一つなのだろう。
 なぜ、「肉まん」ではなく「豚まん」なのかというと、大阪では「肉」というと「牛肉」を指すためだからだという。
 最近、東京で人気の「豚まん」に遭遇した。都心の劇場のロビーにある店舗で販売されているもので一つ310円。ずっしりと大きくて食べがいがある。東京・上野にも同店があるという。こちらは一つ250円だそうなので、同じものではないのかもしれない。
 ところで、豚まんにはからしが付いてくるが、私は付けずに食べていた。九州の福岡・北九州市周辺では、コンビニの肉まんにも酢じょうゆのタレがついてくるそうだ。

□南雲つぐみ(医学ライター)「豚まん ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年12月17日)を引用
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【佐藤優】2000年の時を経て今なお変わらないインテリジェンスの「真髄」 ~孫子~

2017年12月30日 | ●佐藤優
★(金谷治・訳)『新訂 孫子』(岩波文庫、2000)

 (1)紀元前500年頃に活動した孫武が作者と伝えられる『孫子』(全13編)は、今日でも軍事理論の古典として読み継がれている。
 それだけでなく、企業マネジメントの参考書として経営者の間で評判がいい。確かに、本書は企業や役所の仕事に役立つ内容が多く含まれている。
 孫子が優れているのは、戦闘の技法に通暁しているのみならず、戦争と経済との関係をよく理解しているところにある。
 <孫子はいう。およそ戦争の原則としては、戦車千台、輜重車千台、武具をつけた兵士十万で、千里の外に食糧を運搬するという場合には、内外の経費、外交上の費用、〈にかわ〉や〈うるし〉などの[武具の]材料、戦車や甲冑の供給などで、一日に千金をも費やしてはじめて十万の軍隊を動かせるものである。[従って、]そうした戦いをして長びくということでは、軍を疲弊させて鋭気をくじくことにもなる。[それで]敵の城に攻めかけることになれば戦力も尽きて無くなり、[だからといって]長いあいだ軍隊を露営させておけば国家の経済が窮乏する>【注:〈〉内は原文では傍点。】
 孫子は、ここでロジスティクス(輜重)の重要性を説いている。
 これに対して、旧大日本帝国陸軍は、ロジスティクスを軽視していた。占領地まで食料を運搬することを考えずに、軍票(軍隊が発行する札)によって物資を強制的に買い付けた。占領地の住民からすれば、略奪とほぼ同じ行為だ。ロジスティクスを軽視したが故に、旧陸軍は占領地の反感を過剰に買うことになってしまった。

 (2)孫子は、インテリジェンス(諜報)を重視する。特にヒュミント(人間を通じて入手する情報)について詳細な説明を加えている。
 <孫子はいう。およそ十万の軍隊を起こして千里の外に出征することになれば、民衆の経費や公家(おかみ)の出費も一日に千金をも費やすことになり、国の内外ともに大騒ぎで農事にもはげめないものが七十万家もできることになる。そして数年間も対峙したうえで一日の決戦を争うのである。[戦争とはこのように重大なことである。]それにもかかわらず、爵位や俸禄や百金を与えることを惜しんで、敵情を知ろうとしないのは、不仁(ふじん)--民衆を愛しあわれまないこと--の実に甚だしいものである。[それでは]人民を率いる将軍といえず、君主の補佐ともいえず、勝利の主ともいえない。
 だから、聡明な君主やすぐれた将軍が行動を起こして敵に勝ち、人なみはずれた成功を収めることができるのは、あらかじめ敵情を知ることによってである。あらかじめ知ることは、鬼神のおかげで--祈ったり
占ったりする神秘的な方法で--できるのではなく、過去のでき事によって類推できるのでもなく、自然界の規律によってためしはかれるものでもない。必ず人--特別な間諜--に頼ってこそ敵の情況が知れるのである>

 (3)実際に戦闘を行うよりも、インテリジェンス活動によって、敵国の弱点をつかみ、戦わずして勝つことが上策だ。戦闘になっても正確な情報を持っているか否かが勝敗に影響する場合が多い。あるいは戦力としては、当方が敵国を圧倒し、勝利が確実な場合でも、インテリジェンス活動を十分に行っていれば、味方の犠牲を最小にすることができる。今日でも、米国のように軍事力が圧倒的に強い国がインテリジェンス活動を重視するのも、自国の被害を極小にするためだ。
 孫子は、スパイ(間諜)の種類を五つに分ける。
 <間諜を働かせるのには五とおりがある。①郷間(きょうかん)--村里の間諜--があり、②内間--敵方からの内通の間諜--があり、③反間--こちらのために働く敵の間諜があり、④死間--死ぬ間諜--があり、⑤生間--生きて帰る間諜--がある。この五とおりの間諜がともに活動していてその働きぶりが人に知られないというのが、神紀(しんき)すなわちすぐれた用い方といわれることで、人君の珍重すべきことである。
 ①郷間というのは敵の村里の人びとを利用して働かせるのである。②内間というのは敵の役人を利用して働かせるのである。③反間というのは敵の間諜を利用して働かせるのである。④死間というのは偽り事をそとにあらわして身方の間諜にそれを知らせ[て本当と思いこませ、]敵方に告げさせるのである。⑤生間というのは[そのつど]帰って来て報告するのである>【注:①~⑤は引用者が挿入した。】
 ①郷間を獲得することは、敵国が圧政を行っている場合には比較的容易だ。政権に対する恨みを動機とした敵国に協力する者が出てくるからだ。
 ②内間というのは、現代でいうポジティブインテリジェンス(積極諜報)に従事するスパイのことだ。敵国が隠している情報を、敵国に知られないようにして入手するポジティブ・インテリジェンスは諜報の王道だ。敵国政府内の不満分子を見つけることが内間を成功させるコツだ。
 ④死間とは、露見したら殺されることを覚悟して行うディスインフォーメーション(情報操作)工作だ。「イスラム国」(IS)やアルカイダのような国際テロ組織が頻繁に用いる技法だ。
 ⑤生間とは、敵国の内部に入り込んで、その貞応を当方に伝えるスパイだ。現在では、暗号をかけた報告書をインターネットや無線などの通信手段で報告すうrことが大部分を占めるが、通信傍受を警戒して、機微に触れる情報については、スパイが口頭で伝達することもある。

 (4)『孫子』は、2,500年前の書物であるにもかかわらず、そこに書かれているインテリジェンスの技法は、現在でも有効である。

□佐藤優「2000年の時を経て今なお変わらないインテリジェンスの「真髄」/『孫子』 ~名著、再び ビジネスパーソンの教養講座 第40回~」(「週刊現代」2017年6月17日号)
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 【参考】
【佐藤優】財政から読みとく日本社会、ラジオの魅力、高校レベルの基礎の大切さ
【佐藤優】嫌韓本と一線を画す韓国ルポ、セカンドパートナーの実態、日本人の死生観
【佐藤優】人間にとって「影」とは何か ~シャミッソー『影をなくした男』~
【佐藤優】文部省の歴史と現状、経済実務家のロシア情勢分析、中国の対日観
【佐藤優】学習効果が上がる「入門書」、応用地政学で見る日本、権力による輿論のコントロールを脱構築
【佐藤優】大川周明『復興亜細亜の諸問題』 ~イスラーム世界のルール~
【佐藤優】女性と話すのが怖くなる本、ネット情報から真実をつかみ取る技法、ソ連とロシアに共通する民族問題
【佐藤優】ヨーロッパ宗教改革の本質、相手にわかるように説明するトレーニング、ロシア・エリートの欧米観
【佐藤優】なぜ神父は独身で牧師は結婚できるのか? 500周年の「革命」を知る ~マルティン・ルター『キリスト者の自由』~
【佐藤優】政界汚職を描いた古典 ~石川達三『金環蝕』~
【佐藤優】生きた経済の教科書、バチカンというインテリジェンス機関、正しかった「型」の教育
【佐藤優】誰かを袋だたきにしたい欲望、正統派の書評家・武田鉄矢、追い込まれつつある正社員
【佐藤優】発達障害とどう向き合うか、アドルノ哲学の知的刺激、インターネットと「情報犯罪」
【佐藤優】後醍醐天皇の力の源 「異形の輩」とは--日本の暗部を突く思考
【佐藤優】実用的な会話術、ユーラシア地域の通史、宇宙ロケットを生んだ珍妙な思想
【佐藤優】キブ・アンド・テイクが成功の秘訣、キリスト教文化圏の悪と悪魔、理系・文系の区別を捨てよ
【佐藤優】企業インテリジェンス小説 ~梶山季之『黒の試走車』~
【佐藤優】中東複合危機、金正恩の行動を読み解く鍵、「型破り」は「型」を踏まえて
【佐藤優】後世に名を残す村上春樹新作、気象災害対策の基本書、神学の処世術的応用
【佐藤優】地学の魅力、自分の頭で徹底的に考える、高等教育と短期の利潤追求
【佐藤優】日本人の特徴的な行動 ~日本礼賛ではない『ジャパン・アズ・ナンバーワン』~
【佐藤優】知を扱う基本的技法、ソ連人はあまり読まなかった『資本論』、自由に耐えるたくましさ
【佐藤優】後知恵上手が出世する? ~ビジネスに役立つ「哲学の巨人」読解法~
【佐藤優】トランプ政権の安保政策、「生きた言葉」という虚妄、キリスト教の開祖パウロ
【佐藤優】「暴君」のような上司のホンネとは? ~メロスのビジネス心理学~
【佐藤優】物まね芸人とスパイの共通点、新版太平記の完成、対戦型AIの原理
【佐藤優】トランプ側近が考える「恐怖のシナリオ」 ~日本も敵になる?~
【佐藤優】弱まる日本社会の知力、実践的ディベート術、受けるより与えるほうが幸い
【佐藤優】トランプの「会話力」を知る ~ワシントンポスト取材班『トランプ』~
【佐藤優】「不可能の可能性」に挑む、言語の果たす役割の大きさ、NYタイムズ紙コラムニストの人生論
【佐藤優】人生は実家の収入ですべて決まる? ~「下流」を脱する方法~
【佐藤優】ソ連崩壊後の労働者福祉軽視、現代も強い力を持つ観念論、孤独死予備軍と宗教
【佐藤優】米国のキリスト教的価値観、サイバー戦争論、日本会議
【佐藤優】『失敗の本質』/日本型組織の長所と短所
【佐藤優】世界を知る「最重要書物」 ~クラウゼヴィッツ『戦争論』~
【佐藤優】現代ロシアに関する教科書、ネコ問題はヒト問題、トランプ氏の顧問が見る中国
【佐藤優】日本には「物語の復権」が必要である ~反知性主義批判~
【佐藤優】サイコパス、新訳で甦る千年前の魂、長寿化に伴うライフスタイルの変化
【佐藤優】イラクの地政学、誠実なヒューマニスト、全ての人が受益者となる社会の構築
【佐藤優】外交に決定的に重要なタイミング、他人の気持ちになって考える力、科学と職人芸が融合した食品
【佐藤優】『ゼロからわかるキリスト教』の著者インタビュー ~「神」を論じる不可能に挑む~
【佐藤優】組織の非情さが骨身に沁みる ~新田次郎『八甲田山死の彷徨』~
【佐藤優】プーチン政権の本質、2017年の論点、ロシアと欧州
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【佐藤優】ロシアでも愛された知識人の必読書 ~安部公房『砂の女』~
【佐藤優】トランプ当選予言の根拠、猫の絵本の哲学、人間関係で認知症を予防
【佐藤優】モンロー主義とトランプ次期大統領、官僚は二流の社会学者、プロのスパイの手口
【佐藤優】トランプを包括的に扱う好著、現代日本外交史、独自の民間外交
【佐藤優】デモや抗議活動のサブカルチャー化、グローバル化に対する反発を日露が共有、グローバル化に対する反発が国家機能を強化
【佐藤優】国際社会で日本が生き抜く条件、ルネサンスを準備したもの、理系情報の伝え方
【佐藤優】人生を豊かにする本、猫も人もカロリー過剰、度外れなロシア的天性
【佐藤優】テロリズム思想の変遷を学ぶ ~沢木耕太郎『テロルの決算』~
【佐藤優】住所格差と人生格差、人材育成で企業復活、教科書レベルの知識が必要
【佐藤優】数学嫌いのための数学入門、西欧的思考にわかりやすい浄土思想解釈、非共産主義的なロシア帝国
【佐藤優】ウラジオストク日本人居留民、辺野古移設反対を掲げる公明党沖縄県本部、偶然歴史に登場した労働力の商品化
【佐藤優】「21世紀の優生学」の危険、闇金ウシジマくんvs.ホリエモン、仔猫の救い方
【佐藤優】大学にも外務省にもいる「サンカク人間」 ~『文学部唯野教授』~
【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次
【佐藤優】「イスラム国」をつくった米大統領、強制収容所文学、「空気」による支配を脱構築
【佐藤優】トランプの対外観、米国のインターネット戦略、中国流の華夷秩序
【佐藤優】元モサド長官回想録、舌禍の原因、灘高生との対話
【佐藤優】孤立主義の米国外交、少子化対策における産まない自由、健康食品のウソ・ホント
【佐藤優】アフリカを収奪する中国、二種類の組織者、日本的ナルシシズムの成熟
【佐藤優】キリスト教徒として読む資本論 ~宇野弘蔵『経済原論』~
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【佐藤優】+宮家邦彦 世界史の大転換/常識が通じない時代の読み方
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【佐藤優】日本人の思考の鋳型、死刑問題、キリスト教と政治
【佐藤優】中国株式市場の怪しさ、イノベーションの障害、ホラー映画の心理学
【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!
【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~
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【佐藤優】資本主義の根底にある「勤勉さ」という美徳の淵源 ~『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』~

2017年12月30日 | ●佐藤優
★マックス・ヴェーバー(大塚久雄・訳)『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫、1989)

 (1)1517年、ドイツのヴィッテンベルクで、マルティン・ルターがカトリック教会による免罪符(讀宥状/しょくゆうじょう)を批判する文書を発表した。これがきっかけとなって宗教改革が始まった。
 2017年は宗教改革500年の記念の年なので、ドイツ、スイス、オランダなどプロテスタンティズムが強い地域では、盛大な記念行事が行われている。

 (2)プロテスタンティズムは、「イエス・キリストの原点に還れ」と主張する復古運動だった。これが近代的な資本主義を発展させる原理に転化した理由を追及したのが、ドイツのマックス・ヴェーバー(経済学者・社会学者)だ。
 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』は有名だが、実際に読み通した人はあまりいない。
 キリスト教神学の知識がない人がこの本を理解するのは至難の業だ。

 (3)ヴェーバーは、資本主義への転換を成し遂げた人々が、金儲けを嫌うプロテスタント教徒であったことを強調し、こう述べている。
 <経済生活における新しい精神の貫徹という、外観上は目立たないが、しかしこうした決定的な転換を生み出したのは、通常、経済史上どの時代にも見られる命知らずの厚顔な投機屋や冒険者たち、あるいは端的に「大富豪」などではなくて、むしろ厳格な生活のしつけのもとで成長し、厳密に市民的な物の見方と「原則」を身につけて熟慮と断行を兼ねそなえ、とりわけ<醒めた目>でまた<たゆみなく>綿密に、また徹底的に物事に打ちこんでいくような人々だった>【引用者注:<>内は原文では傍点。以下同じ】
 ここで必要な補助線が、宗教改革のカルバンが唱えた二重予定説だ。神は、人間について一部の人々は選ばれ救済され、残りの人々は選ばれずに滅びることを、人間が生まれるよりもずっと前に定めた、という考え方だ。そうなると人間の努力は無意味だ、と考えて、怠惰な人間が生まれるように見えるが、そうではない。「努力しなくても構わない」と思うことは、その人が選ばれておらず、滅びに定められていることの証左なのだ。選ばれている人は、自己の能力を最大限に開花させ、それを自分のためでなく、神の栄光のために捧げるのだ。神は、キリスト教徒が隣人を愛することを望んでいるので、神によって選ばれている人は他人のために働くことが求められる。このような道徳観が資本主義の根底にある。

 (4)ヴェーバーの表現だと、こうなる。
 <このような<個人の>道徳的資質は、倫理上の原理とか宗教思想などとなんら関係のあるものではなくて、そうした方向づけに対しては本質上むしろネガティブなもの、すなわち、旧来の伝統から<離脱させ>る能力、したがって何よりも自由主義的な「啓蒙思想」こそが、そうしたビジネスライクな生活態度にとって適合的な基礎となる、と人々は考えるかもしれない。実際<今日では>一般にまったくそのとおりなので、生活態度は通常宗教上の出発点をもっていないばかりでなく、両者の間に関係のある場合でも、少なくともドイツでは、それはネガティブなものであるのがつねだ。<現在では>、通常「資本主義精神」に充たされた人々は、教会に反対ではなくても、無関心な態度をとっている。天国における無為な生活の思想は、信仰深くても、活動的な彼らの性格には魅力がない。彼らの目には宗教は地上の労働から人々を離れさせる手段と映じるのだ。休みなく奔走することの「意味」を彼らに問いかけて、そうした奔走のために片時も自分の財産を享楽しようとしない態度は、純粋に現世的な生活目標から見ればまったくの無意味でないかと問うとき、彼らは、もし答えうるとすれば、「子どもや孫への配慮」だと言うこともあるだろう>

 (5)プロテスタント的な市民が子や孫のために働くという動因があるとしても、それはこの人々に限られたことではない。真の動因は別のところに見いだされるべきである、とヴェーバーは考える。
 <しかし、<より>多くは--「子や孫への配慮」という動機は、明らかに彼らだけのものではなく、「伝統主義的」な人々にも同様あるのだから--<より>正確に、自分にとっては不断の労働を伴う事業が「生活に不可欠なもの」となってしまっているからなのだ、と端的に答えるだろう。これこそ彼らの動機を説明する唯一の的確な解答であるとともに、事業のために人間が存在し、その逆ではない、というその生活態度が、個人の幸福の立場からみるとまったく<非合理的>だということを明白に物語っている>
 
 (6)プロテスタンティズムを信仰する資本家が、一生懸命に働くのは、自分のためではない。事業を一生懸命に行い、拡大することが神に奉仕することにつながるからだ。この人たちは、ビジネスという形で宗教行為を行っているのである。
 啓蒙主義が発達する過程で、キリスト教が説く神は時代遅れと見なされるようになった。しかし、世俗化されたプロテスタンティズムは、資本主義の精神として社会を支配するようになった。そして、誰もが取り憑かれたように働くのが当たり前になった。ヴェーバーは、次のように指摘する。
 <労働はそれ以上のものだ。いや端的に、何にもまして、神の定めたまうた生活の<自己>目的なのだ。「働こうとしないものは食べることもしてはならない」というパウロの命題は無条件に、また、誰にでもあてはまる。労働意欲がないことは恩恵の地位を喪失した徴候なのだ>

□佐藤優「資本主義の根底にある「勤勉さ」という美徳の淵源を探る ~名著、再び ビジネスパーソンの教養講座 第46回~」(「週刊現代」2017年8月5日号)
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【佐藤優】資本主義の先にある社会の展望とその可能性 ~労働時間の短縮と人間関係の強化~

2017年12月30日 | ●佐藤優
 (1)佐藤優がソ連に赴任したのは、1987年8月末だった。
 <ソ連社会は、言論・表現の自由が制限され、秘密警察による監視が厳しかったことは事実であるが、その中で民衆はたくましく生きていた。ソ連で社会主義の理想が一つだけ実現していた。それは労働時間の短縮だ。工場や事務所が9時に始業し、5時に終業するとする。管理職を除く事務職員と労働者は、9時に家を出る。10時頃職場について、コーヒーや紅茶を飲んで、昨日見たテレビの話をする。11時から仕事を始めるが、12時に昼休みになる。昼休みは1時間だが、その後、買い物に出かけ、職場には2時すぎに戻る。その後、仕事をするが、ソ連的基準で5時に終業ということは、5時には警備員以外、誰も職場にいないという意味だ。1日の平均的な労働時間は、3~4時間だった。土日は休日で、2ヵ月の夏季休暇を取る。それでもソ連経済が成り立っていたのは、ソ連が資源大国で、主に石油と天然ガスを西側諸国に販売することで外貨を獲得し、多額の補助金を企業と国民に供与していたからだ。>

 (2)民衆のたくましさは、人間関係を強化する。
 <ソ連人は、政府も国家も基本的に信用していなかった。家族や友人の協力で、食料品や生活必需品を確保していた。ソ連時代、5月1日のメーデー、11月7~8日の革命記念日の前後に、普段、手に入らない人気商品が販売された。特に人気があったのがバナナだ。バナナが八百屋や露店で販売されているという情報が入ると、人々は職場を放棄して。販売制限限度(通常は5キログラム)いっぱいのバナナを買う。そして、近所や友人に配る。バナナをもらった人は、しばらく経って、鶏卵やバター、かにの缶詰やキャビアの瓶詰、サラミソーセージなどを国営商店で入手することが難しい食料品をお返しする。人脈を駆使して、ちょっとした賄賂を渡して、このような物を手に入れるのだ。物と物のやりとりを通じて、人間関係も強化された。>

 (3)ソ連において『資本論』はどう扱われたか。
 <ソ連で、マルクス『資本論』は、人文・社会科学を専攻する大学生の必読文献だった。しかし、『資本論』全3巻を読む学生は、経済学部資本主義経済学科(資本主義経済の構造と、その必然的崩壊を研究する学科。これに対して社会主義経済学科では、5ヵ年計画に役立てるため近代経済学の新古典派総合を学んでいた)か哲学部科学的共産主義学科(政治学はブルジョア学問であるというレッテルを貼られていた。哲学部の科学的共産主義学科が政治に関する研究をしていた)だけで、その他の学生は第1巻しか読んでなかった。
 ソ連では『資本論』は歴史書として読まれ、史的唯物論(唯物史観)によって資本主義の崩壊と社会主義革命の必然性を論じる書として読まれた。マルクスが最も強調していた労働力商品化について、ソ連人は関心を示さなかった。ある意味、ソ連では労働力商品化が克服されていた。その代わり、国家の暴力を背景に強制労働が社会全体で行われていたのである。>

 (4)ソ連崩壊後のロシア人はどうか。
 <このような社会主義から資本主義への革命で社会が激変したにもかかわらず、普通のロシア人が生活できたのは、社会主義革命の結果定着した、労働時間の短縮、国家を信用せず、家族や友人など顔が見える範囲での人間関係をたいせつにするという習慣があったからだ。この習慣は当面崩れない。>

 (5)『資本論』第1巻公刊150年にあたって。
 <われわれは『資本論』から学ぶのは、人間を疎外する労働力商品化なしに資本主義が存立しないという事実だ。状況によっては資本の利益のために人間を殺し、戦争を起こす。こういうシステムを全面的に転換することが革命ならば、確かに革命は必要だ。ただし現時点で、「これがいい」というような革命像が私には見えない。
 むしろロシア革命の遺産から学ぶべきことがある。国家を信用せず、労働時間の短縮と具体的人間関係の強化を通じて社会を強化することだ。そうするうちに神の力によって革命が起きる。それまでは「急ぎつつ待つ」という姿勢を私はとるつもりだ。>

□佐藤優「労働時間の短縮と人間関係の強化を通じて社会を強化する 資本主義の先にある社会の展望とその可能性 ~マルクス『資本論』第1巻発刊150年~」(「週刊金曜日」 2017年9月29日号)
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 【参考】
【佐藤優】米ロ首脳会談でみえたトランプ氏の外交手腕
【佐藤優】【加計学園疑惑】官邸最高レベル指示を「闇文書」にした理由
【佐藤優】「入口論」から完全に訣別した首相と外務省 ~北方領土~
【佐藤優】「イスラム国」の延命 ~米軍のシリア攻撃が可能にした~
【佐藤優】又吉進外務省参与は沖縄史の汚点になる
【佐藤優】トランプ大統領とロシアなら取引は可能だ ~ロシア~
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【佐藤優】国後島で日本人通訳拘束/首脳会談への影響は ~実践ニュース塾~
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【佐藤優】総合的思考と英国経験論哲学(2) ~川喜田二郎『発想法』~

2017年12月30日 | ●佐藤優
★川喜田二郎『発想法 創造性開発のために』(中公新書、1967/改版、2017)
 (承前)

 (5)本書が刊行された1967年時点では、フィールド・ワークという言葉は一般的でなかった。だから、川喜田はフィールドワークの意味について丁寧に説明する。
 <「フィールド」は、おもしろいことに、物理学における電場とか磁場とかいう言葉における「場」にもあたる。つまり野外科学はある意味では「場の科学」なのである。あるいは「現場の科学」だといってもよい。ひとしく経験を基礎にして現実界を研究の対象にするといっても、研究態度によって実験室的科学と現場の科学の双方が成り立つことを、これで理解していただけただろう。>
 フィールドで得た情報から内在的論理をつかむための内部探検が重要であると川喜田は指摘する。
 <もし問題が個人的な門出会いだとすると、それをはっきり提起するためには、自分の頭の中を探検しなければならない。それゆえ、この手続きを、かりに「内部探検」と呼んでおこう。
 問題提起のために内部探検をすることは、はなはだ重要であるにもかかわらず、これを忘れたり軽視したりする人びとがじつに多い。ということはおそらく、特に技術らしい技術もいらないようにみえ、自分の頭の中で多少努力すればそれくらいのことはいわれなくてもわかると、たかをくくっているからであろう。しかしながら、この「内部探検」をごまかしなくやっておくと、おおいに利益をうることがある。最大の功徳は、内部探検によって、その後の努力目標がはっきりし、問題解決に向かって注意力が集中することである。
 じっさいに内部探検をやってみると、極端な場合はこういうことすらある。すなわち、はじめは漠然と、問題がただ一つだと思っていたところが、内部探検の結果、じつはぜんぜんちがう問題が二つ重なっていたことがわかることさえある。われわれは自分の問題だから、自分にはよくわかっているように思いこんでいるのだが、じつは上記のように一度外部に表現し、それをフィードバックしないと信用できないのである。>

 (6)もっとも川喜田は、どのように内部探検を行い、どうやって内在的論理をとらえるかについて具体的なことを述べていない。
 このような「秘儀」に依存する部分がKJ法には多い。職人的技法は経験によって伝授されるしかない、と川喜田が考えているからだろう。また、カードには鍵になる言葉を1行だけで表現しなくてはならないが、ここでは文学的な才能も求められる。KJ法を習得するためには、努力だけでなく、才能が必要とされる。このような川喜田の発想は、英国経験論と親和的だ。このことを川喜田も隠さない。
 <英国人は、足もとの経験を重視する点で、どうも西欧の大陸に住むフランス人の理性万能主義プラス・インスピレーション依存型とは、ある意味で対照的である。しかし日本人の「実感信仰」とちがうのは、彼らはこの経験から出発して、それを理論にまで練りあげていく、何重もの複雑な統合化にたいへんな自信を持っていることである。(中略)アダム・スミスの『国富論』における均衡理論や、マルサスの『人口論』における「人口は幾何級数的に、食糧は算術級数的にしかふえない」との理論は、たしかにともに普遍的理論の主張である。そして、すべての理論は、たしかに常に普遍的理論の主張である。また、すべての理論は、例外を認めたがらない傾向がある。
 ところが『国富論』も『人口論』も、注意ぶかく読めば、理論に対する例外があるかもしれないことを、経験上暗に許容しているのである。こういうところは、スッキリ好みのフランス人やドイツ人の理論家が耐ええないところであろう。このような「経験から理論まで」の蒸溜能力に、無類の自信をもっているのが、アングロサクソン、ことに英国人だと思われる。つまり、「こういう高等な大脳のシワの深さを持っているのはおれたちだけだろう。くやしければやってみろ」というわけだ。>

 (7)「くやしければ、やってみろ」というのは、KJ法を科学ではないと批判する人たちに向けた川喜田の思いでもある。そして、KJ法は英国経験論哲学を実技に移したものであると川喜田は宣言する。
 <この見地からいうと、KJ法的な発想法は、まさに英国人のこの経験論哲学を実技に移したもののようである。実技に移すことによって、英国人だけの独占的能力と思われたものを、各国民に解放してしまう手法である。またそれによって、貴族と庶民の垣根をとりはずすにいたるところのなにものかである。逆にいえば、精神においてKJ法とおなじでありながら、それを名人芸として「いうにいわれぬ」伝統に頼って実行していたにすぎない英国人は、KJ法によってもっともショックをうけるだろう。>
 KJ法は英国経験論哲学が考えるところの現実をできるだけ素直に受け止めるという方法を日本に土着化させる試みであった。

□佐藤優「総合的思考と英国経験論哲学/川喜多二郎『発想法 創造性開発のために』 ~ベストセラーで読む日本の近現代史 第47回~」(「文藝春秋」2017年8月号)
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 【参考】
【佐藤優】総合的思考と英国経験論哲学 ~川喜田二郎『発想法』~

  
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【佐藤優】総合的思考と英国経験論哲学 ~川喜田二郎『発想法』~

2017年12月30日 | ●佐藤優
★川喜田二郎『発想法 創造性開発のために』(中公新書、1967/改版、2017)
  
 (1)川喜田二郎(1920~2009年)は、東京工業大学、筑波大学教授などを歴任した。彼は自分のイニシャルを付したKJ法という独自の発想法を提唱し、社会に大きな影響を与えた。黒鉛筆またはペン、赤・青などの色鉛筆、クリップ、輪ゴム、名刺大の紙片などを用いてデータを整理し、カードを一面に広げ、着想を得るというローテクの技法は、パソコンが普及している現代では時代遅れだ。しかし、川喜田の発想自体は、現代でも十分に通用する。なぜなら、彼の方法論が優れているからだ。

 (2)川喜田は総合的思考の重要性を説く。
 <この発想法は、分析の方法に特色があるのではなく、総合の方法である。はなればなれのものを結合して、新しい意味を創りだしてゆく方法論である。分析的な方法だけではわれわれの世界は不十分である。その意味で、国際的にも国内的にも、人間が、あるいは民族や国民が、はなればなれになってゆくような状況に対して、逆にそれを結合してゆく方法としてとりあげることができるのである。>
 「黒犬は黒い」というのは分析的判断だ。なぜなら「黒犬」という主語に黒いという意味が含まれているからだ。これに対して「黒犬は利口だ」というと総合的判断になる。「黒犬」という主語に利口であるという意味は含まれていないからだ。
 総合的判断を行うためには、外部から情報を得なくてはならない。外部からどのようにして真実に近づくための情報を得るかという試みが、KJ法なのだ。

 (3)川喜田はさらに、繰り返し実験が可能な法則定立を目的とする科学と、実験が不可能なので頭の中の抽象を通じて個性記述を目的とする科学を区別する、新カント派の伝統に立っている。
 <実験室のなかで研究対象になる自然は、なんども繰り返して再現することができる。反復が可能である。すくなくとも研究目的に対しては、反復が可能として扱ってよい。それに対して野外的自然は一回性を帯びている。これは歴史的に二度と同じ状況が繰り返されないことを意味する。またそれと同じ現象がおこることは、他の地域ではありえない。場所的一回性がある。つまり歴史的、地理的一回性を帯びている。これは別の言葉でいうなら、個性的な自然ということもできる。
 たとえばフランス革命は歴史上、一度しかおこらなかった。おなじようなことはそれ以前にもけっしてなかったし、これから先にも二度とはおこらないだろう。また北海道は地球上どこにもない地域で、北海道だけにしかない、一回性的、個性的なものである。また、ある会社や職場で、ある特定の意地の悪い部課長がいるという現場の状況は、ここのほかに世界中のどこにもない。それがありのままの自然、あるいは野外的自然というものなのである。
 このような野外的自然を研究の対象にしなければならない必要性がある。学問でいっても、たとえば歴史学でフランス革命を研究する。それは一回性的、個性的なもので、もう一度それが起こるという可能性はないが、しかもそれを対象に研究しなければならない。あるいはまた、経営学のコンサルタントがある企業、職場を研究する。その職場は、そこだけにしかない野外的自然であり個性的な世界である。しかもひじょうに複雑な世界である。これを研究するのが、野外科学と呼ぶにふさわしい分野であり、またそれにふさわしい研究方法が求められなければならない。>

 (4)KJ法は個性記述的な科学の方法論なのだ。大正教養主義で新カント派は日本のアカデミズムに強い影響を与えた。1980年代にポストモダニズムの思想的嵐がアカデミズムを襲うまでは、日本の大学は新カント派的思考の上に成り立っていた。ポストモダニズムの結果生じた過剰な相対主義とシニシズムにより沙漠のようになってしまった大学を活性化させるためには、もう一度、新カント派の伝統に立ち返る必要がある。その意味で『発想法』を大学で取り扱う意味がある。

 (続く)

□佐藤優「総合的思考と英国経験論哲学/川喜多二郎『発想法 創造性開発のために』 ~ベストセラーで読む日本の近現代史 第47回~」(「文藝春秋」2017年8月号)
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【佐藤優】原油暴落の謎解き、沖縄を代表する詩人、安倍晋三のリアリズム
【佐藤優】18歳からの格差論、大川周明の洞察、米国の影響力低下
【佐藤優】天皇制を作った後醍醐、天皇制と無縁な沖縄 ~網野善彦『異形の王権』~
【佐藤優】新しい帝国主義時代、地図の「四色問題」、ベストセラー候補の研究書
【佐藤優】ねこはすごい、アゼルバイジャン、クンデラの官僚を描く小説
【佐藤優】外交官の論理力、安倍政権と共産党、研究不正が起きるシステム
【佐藤優】遅読家のための読書術、電気の構造、本屋大賞
【佐藤優】外山滋比古/思考の整理学
【佐藤優】何が個性で、何が障害か
【佐藤優】大宅壮一ノンフィクション賞選評 ~『原爆供養塔』ほか~
【佐藤優】英才教育という神話
【佐藤優】資本主義の内在的論理
【佐藤優】米国の戦略策定、『資本論』をめぐる知的格闘、格差・貧困問題の起源
【佐藤優】偉くない「私」が一番自由、備中高梁の新島襄、コーヒーの科学
【佐藤優】フードバンク活動、内外情勢分析、正真正銘の「地方創生」
佐藤優】日本の政治エリートと「天佑」、宇宙の生命体、10代が読むべき本
【佐藤優】組織成功の鍵となる人事、ユダヤ人の歴史、リーダーシップ論
【佐藤優】第三次世界大戦の可能性、現代東欧文学、世界連鎖暴落
【佐藤優】司馬遼太郎の語られざる本音、深層対話、米政府による暗殺
【佐藤優】著名神学者のもう一つの顔 ~パウル・ティリヒ~
【佐藤優】総理が靖国参拝する理由、NPO活動の哲学やノウハウ、テロ対策の必読書
【佐藤優】今後、起こりうる財政破綻 ~対応策を学ぶ~
【佐藤優】社会の価値観、退行する社会
【佐藤優】夫婦の微妙な関係、安倍政権の内在的論理、警察捜査の正体
【佐藤優】情緒ではなく合理と実証で ~社会の再構築~
【佐藤優】中曽根康弘、21世紀の資本主義分析、北樺太の石油開発
【佐藤優】日本人の思考の鋳型、死刑問題、キリスト教と政治
【佐藤優】中国株式市場の怪しさ、イノベーションの障害、ホラー映画の心理学
【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!
【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~
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【南雲つぐみ】年末の掃除 ~冷蔵庫~

2017年12月30日 | 医療・保健・福祉・介護
 年末の掃除といっても、わが家のようなマンション住まいでは、昔のように畳を上げて天日干しをしたり、障子を張り替えたりはしない。日々の掃除を少していねいに行うだけだが、それでも気分は変わる。
 正月、冷蔵庫には刺し身などの生ものや、おせち料理など保存食がいっぱいに詰め込まれるはずだ。そこで、一度は空にして、内部の仕切り板やポケットについた小さな汚れや細菌を落としておきたい。また、賞味期限の切れた調味料なども思い切って整理してしまうと良い。
 最初に水で濡らした布巾で庫内の目に見える汚れを拭き取って、アルコールを含んだ冷蔵庫専用のクリーナーや薄めた除菌液や漂白液を使う。
 換気扇の汚れ落としは日頃なかなか行わない。換気扇専用の強力な洗剤を使うときには、マスクやゴム手袋などで体に触れないように気を付けよう。
 窓ガラスの掃除は雨の日や湿気の多い曇り日に行うと汚れが落ちやすい。ぬらした新聞紙を丸めて全体の汚れをとり、乾いた新聞紙で拭き取ると汚れの跡が残らない。

□南雲つぐみ(医学ライター)「年末の掃除 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年12月29日)を引用
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【佐藤優】新必修科目「歴史総合」のために ~『大日本史』まえがき~

2017年12月29日 | ●佐藤優
 <この『大日本史』は、日本史を軸に世界史を考え、日本史との関連で世界史を理解する人びとの参考になることを願っている書物である。具体的には2022年度から実施される高校の学習指導要領に入る新必修科目「歴史総合」の発展に貢献したかったのである。>

 <2016(平成28)年6月に公になった「歴史総合」の骨子は二つから成っている。
 第一は、世界とその中の日本を「広く相互的な視野」からとらえ、「現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史」を考える。
 第二は、歴史の大きな転換に着目し、本質的に大きな問いを投げかけながら、比較と因果関係を重視して社会的事象の歴史的な見方と考え方を修めた歴史を学ぶ。
 まことに重要な視点であり、こうした試みが万遍なく全国の生徒、未来の日本を担う社会人に浸透することが期待される。>  

 <さて、歴史が必要なのは、将来、企業と官公庁のいずれを志向するにせよ、経営力や企画力の基盤と根拠を豊かにする上で大事なことであり、歴史を学ぶことで人間に深みと教養を与えるからだ。「歴史総合」という新科目は、まさに新しい世界史と新しい日本史の試みともいえるだろう。日本人として世界史の知識と教養を豊かにするのは、グローバル人材として不可欠であるが、それは日本史を外国語で説明できる能力と不可分なのである。>

 <日本の近未来予測で確実に頼りになるのは歴史の教訓である。>

 <実際に佐藤氏は、外交官として歴史にどう接したのか、交渉家として歴史の根拠をいかに使ったのか、などカリエールが指摘する内容を自己の体験と史実に即して語ってくれた箇所も多い。新たに導入される新科目「歴史総合」の理念を受けとめながら、その内容につながる議論をする上で佐藤優氏は最適のパートナーであった。次の機会には、新指導要領で具体的な道筋が示される「歴史総合」において、私たちなりの教科書風叙述ができるように心がけたいものだ。本書は、ありうべき「歴史総合」の叙述の一端を、ひとまず自由な対話を通した史論として示したかったのである。>

□山内昌之×佐藤優『大日本史』(文春新書、2017)の「まえがき--新必修科目「歴史総合」のために」
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 【参考】
【佐藤優】西郷と大久保はなぜ決裂したのか ~征韓論争~
【佐藤優】開発独裁とは違う明治維新 ~目的は複数、リーダーも複数~
【佐藤優】岩倉使節団が使った費用、100億円 ~明治初期~
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【南雲つぐみ】正月飾り ~28日ごろまでに整えたほうがよい理由~

2017年12月28日 | 医療・保健・福祉・介護
 正月飾りには鏡餅、しめ縄、門松の三つが一般的だ。新しい年神様をお招きするためのおもてなしで、28日ごろまでに整えておくのが良いとされている。
 29日では「二重苦」「苦立て」、「苦松(=苦が待つ)」に通じるとされているし、31日はもう大みそかで、葬儀と同じ「一夜飾り」になってしまう。それでは、正月の年神様をお迎えするのに心が込められていないというのだ。
 年神様とは、特定の宗教の神ではなく先祖の霊を指している。森羅万象に神が宿ると考える日本の伝統的な宗教観や自然観が由来だ。この考え方が田の神や山の神になり、正月には年神となって家族の健康や五穀豊穣を願いにやって来ると考えられた。
 ある地方では、年神様は31日の朝に来られると考えられているそうだ。一方、今年一年間いた年神様は、正月の朝にお帰りになるという。そこで大みそかには今年の神様と来年の神様がいて、家のことについて引継ぎをしているという。

□南雲つぐみ(医学ライター)「正月飾り ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年12月28日)を引用
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【佐藤優】西郷と大久保はなぜ決裂したのか ~征韓論争~

2017年12月28日 | ●佐藤優
 (1)さて、西郷・大久保の征韓論争。明治初期の政治は、一人が突出することなく、対立が生じた際には、他を味方につけ、多数派が主張を通すという構図だった。ところが征韓論だけが大きな例外となってしまった。もともと朝鮮の李王朝が明治政府との国交を認めず、排日の気運を高めていったのに対し、居留民保護のために派兵を主張したのは板垣退助だった。それに対し、西郷は自ら朝鮮に渡って交渉すると唱え、留守政府がこれを承認したところに、岩倉使節団が帰国。大久保、岩倉がこれに反対したのだ。【山内】
 西郷・板垣の外征論と大久保・岩倉の時期尚早論とが2対2でぶつかり、身動きがとれなくなったと。【佐藤】
 西郷と大久保は鹿児島の加治屋町で幼少時代から兄弟のように育った朋友で、ともに革命を成し遂げた最も信頼しあう同志だった。では、なぜここまで対立が深まったのか。それは
   ①「富国」
   ②「強兵」
の対立だった。岩倉使節団に参加して、イギリスのリバプールやシェフィールド、マンチェスターといった産業革命の地を見学した大久保は、富国強兵、殖産興業をその政治目標として掲げ、その感激を西郷に書き送っている。大久保もまた日本の軍事力を強める②に異存はなく、朝鮮外交に対しても、最初は武力派遣を支持していた。この時点では、西郷と大久保は問題意識を共有していたはずだ。【山内】
 問題は両者のバランスだ。国が富み、工業生産力を高めなければ軍隊の強化などできない。①が②に優先する。これが大久保の立場だ。【佐藤】
 新政府ができ、海外列強と対峙するという重要な節目にもかかわらず、それを支える財力がない。税制度も確立されていないので、税収も乏しい。憲法、議会、そして官僚制度の整備、どれをとっても膨大な予算が必要だ。とても外に攻めていける状況ではない、と大久保は判断した。それに対し、西郷は①と②は同時にできるし、また、しなくてはならないという考え。その背景となったのは、廃藩置県で職を失った大量の武士の失業と雇用の問題だ。さらには、不満を募らせた武装集団が暴動を起こしたら、どうやって収めるのか。実際に、西郷下野後、大きな士族の反乱があいついだ。西郷の答えは、その力を「外」に向けるしかない、という外征論だった。朝鮮半島や東アジアで、武士集団を使うことで、彼らの不満も抑え外交を補うことができる。理屈として双方に言い分があるのだが、結局は西郷が敗れ、下野を余儀なくされる。その理由は簡単で、やっぱり外征するだけの原資がなかったのだ。つまり、政府予算の取り合いのなかで、多大な費用を必要とする外征派に反対して、富国派に憲法派、議会派も賛同すると1対3の流れができていったのだ。【山内】
 この時期の日本経済を考えるときに、もうひとつ念頭におくべきは、当時の農業の生産性の低さだ。20世紀を迎える前後に化学肥料が実用化されるのだが、これによって農業の生産性は飛躍的に向上する。まだ明治初期は安定的かつ大量に農作物を供給できる態勢ではなかった。土地の私有化でさえ、地租改正によってようやく実現したばかりで、土地全般に関しての近代的な制度もできていなかった。【佐藤】
 それは社会経済史的に重要な論点だ。この時期、新政府が最も恐れたのは百姓一揆だった。江戸時代の米を納める物納制から、全国統一の金納制に切り替えたために、農家は米価の変動リスクをも背負わされた。そこで地租を低く設定したために、地主は富んだが、小作農の収入は低レベルに固定され、税収もまた乏しくなるという苦しい状況にあった。【山内】
 静観論争は経済的にみると、いわば外征によるケインズ主義(失業対策)と財政重視論・重商主義の対立でもあったわけだ。 【佐藤】

 (2)大久保と対立した西郷は鹿児島に帰るが、失業した士族に担がれ、西南戦争への道を進んでいく。その様子をうかがえる貴重な資料を残したのが、やがてイギリス公使になる若き日のアーネスト・サトウだ。このサトウは文久2(1862)年に通訳生として日本にやってきて20年あまりを過ごした後、明治28(1895)年に公使として再来日し、英国外交史で最大の日本通になる。【山内】
 非常に優れた観察眼をもった外交官だ。【佐藤】
 サトウは本当に西郷が好きだったようで、幕末から明治維新にかけてしばしば訪ねてはいろいろな議論を交わす仲だった。それがまさに挙兵し、出陣する直前の西郷に会うために、鹿児島まで行く。ところが、そこでの西郷は、幕末に自由闊達に政治外交を論じた人物ではなかった。西郷がサトウの滞在先を訪ねてくると、取り巻きが5、6人ついてきて、離れようとしない。西郷と一緒にサトウの部屋に入ろうとするので、西郷が叱責しても玄関や階段の踊り場、甚だしきは部屋のすぐ近くに残って聞き耳をたてようとする。【山内】
 むろん西郷を警護しているのでしょうが、蜂起を決意した部下たちが西郷を自分のコントロール下に置こうとしていたのだ。【佐藤】
 そこまでして直に話してみると、西郷は別に大した話をするわけでもない。それでサトウは失望して、内乱が起こり帰京すると勝海舟を訪ねた。すると勝は、「大久保と黒田(清隆)を辞職させたら内乱は終わる」と答える。そして、今の政府は長州人と長州出身者の助けを借りている薩摩人から成っており、それが薩摩士族と戦っているのだ、と分析する。【山内】
 その遺産が靖国神社だ。靖国神社は幕末の志士たちに始まり、明治政府に貢献した死者を祀る、いわば長州がつくった神社だ。だから、西南戦争で賊軍となった西郷は、靖国には祀られていない。【佐藤】
 興味深いのは、西南戦争の翌年、大久保が紀尾井坂で暗殺されたとき、サトウが日記に「大久保は外国人の助言を求めたり、友情を深めたりするつもりはなかった」と淡々と記していることだ。これは、西郷との対比だろう。西郷とは友情を深めたが、大久保はそうではなかった、と暗に語っている。【山内】
 また西南戦争の翌々年に『薩摩反乱記』を出したオーガスタス・マウンジーというイギリス公使館の書記官も、新政府は西南戦争や神風連の乱などで士族階級を抹殺しようとしている、その一方で、彼らから家禄を奪った新政府の官僚は高給をむさぼり贅沢三昧をしていると指摘している。マウンジーのように外国人にも、西郷の主張に共鳴する人がいたのだ。【山内】
 革命政府と腐敗の問題では、ソ連崩壊時、そのシナリオを書いたブルブリス国務長官から、「佐藤、いま世の中には三種類のエリートがいる」と言われたことがある。
   ①ソ連全体主義体制の古いエリート
   ②混乱期だから偶然出てきたエリート
   ③いまはまだ成熟していない未来のエリート
だと。①と②は狼で、③が羊。あまり狼がお腹をすかせると羊を食ってしまう。だから、羊が育つまで狼を腹いっぱいにしておかないといけない。古いエリートと混乱期のエリートをおとなしくさせておくために、一定の利権や腐敗も許し、コントロールするのが我々偶然のエリートの仕事だ、なぜならわれわれには未来をつくる能力がないのだから、と言うのだ。明治初期における高級取りの役人たちは、まさにこの偶然のエリートだったわけだ。【佐藤】
 「努力して達する」というのがフランス語のパルヴェニュ(成り上がり者)の語源なのだが、明治新政府の高官になった者には、先輩の引きや死によって苦労せずにパルヴェニュになった者も多い。【山内】

 (3)もうひとつ、サトウが証言している西郷の変質を理解する上で重要なのは病気の問題だ。当時、西郷はリンパ系フィラリア(寄生虫の一種)で下半身が異常に腫れあがっていたという。耐えがたい痛みを抱えている人間は、どうしても判断が鈍ってくる。と同時に、行き場のない怒りに襲われる。だから過激な結論に飛びつきやすくなる。【佐藤】
 権力者の健康というのは、歴史と個人の関係を考える上で非常に重要なテーマだ。世界史で有名なのは、痛風と痔に苦しんでいた「太陽王」ルイ14世。彼の痔瘻の進行にしたがって、いったん広がった領土がどんどん小さくなってしまうという歴史家のジュール・ミシュレの分析があるほどだ。西郷の場合、幕末からしばしば体調不良に悩まされたが、征韓論争当時は一日に数十回もトイレに通わなければならないほど深刻な下痢に見舞われていた。そのために重要な会談を欠席せざるを得ないほどだった。体調不良の原因はいろいろ推測されているが、その根本は尋常ならざるストレスだろう。慢性的な下痢といえば、大久保、木戸孝允もそうだった。要するに、明治初期のリーダーはみんななにがしか病気に罹っていたわけだ。【山内】
 ストレスと免疫力とは相関関係がある。強いストレスに晒され続けると、ふだん感染しない感染症に罹ったり、発症しないものが発症したりする。【佐藤】
 しかも歴史の皮肉というべきは、西郷が薩摩藩のリーダーとして浮上していくきっかけにも病気の問題が絡んでいる。というのは、薩摩の藩論を本当にリードしていたのは、家老の小松帯刀だった。彼は、藩主茂久の実父・島津久光をリーダーとして戴きながら、藩政改革、倒幕運動、さらには武器商人グラバーや英国公使ハリー・パークスとも交流するなど、八面六臂の活躍を見せるのだが、彼は長年「足痛」を患っていた。現在の痛風ではないかと推定されるが、ついに痛みで動けなくなる。慶応3(1868)年12月、京都で開かれた小御所会議に行かれなくなった。このとき小松の代理となったのが大久保利通だ。これが西郷や小松に伍して大久保が台頭する大きな契機となった。【山内】
 この小御所会議で、王政復古の大号令が発せられ、倒幕路線が確立する。【佐藤】
 実はこのとき、島津久光もリウマチか痛風によって身動きがとれず、小御所会議には出ていない。小松も久光も倒幕穏健派だったので、もし彼らが前に出ていたら武力倒幕でない形で進んだ可能性も否定できない。久光の不在により、倒幕急進派の西郷が前面に出るわけだ。その意味では、病気は、この維新の激変期に非常に大きな役割を果たしたといえる。【山内】
 さらにいうと、小松は明治3年、34歳という若さで早世してしまう。彼は旧幕藩体制でも家老というスーパーエリートでありながら、同時に革命家へと自己変革を遂げて、国と時代を変えた逸材だ。政治的リアリズムと革命的ロマン主義を兼備した事例は、世界史的にもあまり例がない。だから、旧体制との間の調整・交渉が可能な希有な人材でもあった。【山内】
 熟練した国対委員長であり、幹事長でもあったというわけだ。【佐藤】
 さらには、実質上、維新政府の最初の外務大臣の役割も果たしていた。堺事件や神戸事件、パークス襲撃事件といった最も難しい案件は、みな小松が処理しているから。ここから歴史のイフになるが、もし彼が維新後も健在だったら、政治力学は相当に変わっていただろう。維新後、西郷・大久保を大いに悩ませたのは、実はかつての主君、島津久光との関係だ。ことに廃藩置県を断行したことで、久光は二人に強い怒りを抱いていた。もし小松が生きていたら、絶好の緩衝材になった可能性は高い。さらにいえば、西郷と大久保の関係が、西南戦争という最悪の形で決裂することもなかったはずだ。【山内】
 歴史を見るには、マクロな鳥の目とミクロなアリの目が必要だとしばしば言われる。今日は、征韓論争という近代日本の分かれ目を、一方は新政府の経済というマクロ、他方は個人の病気という超ミクロな視点から論じたことになる。【山内】

□山内昌之×佐藤優『大日本史』(文春新書、2017)
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【佐藤優】開発独裁とは違う明治維新 ~目的は複数、リーダーも複数~
【佐藤優】岩倉使節団が使った費用、100億円 ~明治初期~
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