語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会】個人番号報道に見るメディアの「国家観」 ~マイナンバー~

2013年05月31日 | 社会
 (1)個人番号(マイナンバー)法成立。2016年1月施行。
 共通番号制1970年代初め、旧・行政管理庁が旗振役となって、行政機関での利用を目的とする「事務処理用統一個人コード」を打ち出したことに始まる。「少額貯蓄等利用者カード(グリーンカード)」制度の導入が決まったが、実施前に廃止に追い込まれた。
 1990年代末、住民基本台帳法が改正され、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の住民票コード導入が決まった。個人確認情報(住民票コード・氏名・住所・生年月日・性別)は、年金支給や資格取得などの行政事務に本人確認のため使用されていいる。
 共通番号の導入は、第一次安部政権(2006~07年)で「消えた年金問題」と絡めて浮上した社会保障番号制度を含め、これまで目的や名称を変えつつ構想されてきた。そして、その都度国民からの強い批判にさらされ、官民をまたいだ汎用的番号としては使われてこなかった。
 今回の個人番号は、社会保障、税、災害の3分野でまず導入が始まり、将来的な利用範囲と、管理される個人情報の多様さという点で「総背番号」となるのは間違いない。スタートする2016年に番号を取り扱う団体数は、官民併せて150万を超える。40年をかけた政府の集大成だ。

 (2)マイナンバー法すなわち「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」では、個人番号は米国の社会保障番号(SSN)と異なり、申請に基づいて取得するものではなく、住民票に強制的に付番される。
 中長期滞在の外国人を含めて、「通知カード」と運転免許証などで本人確認を行う制度となる。
 住民側のメリット・・・・<例>給付申請等を行う際に求められてきた住民票や所得証明の添付が不要になる。
 行政側のメリット・・・・<例>社会保障・税分野を通じて、現在より正確な所得把握が可能となる。
 では、どれほどの効率化が見込まれているかというと、具体的な試算は行っていないのだ。
 システムの初期投資に2千~3千億円、運営費に年数百億円が見込まれる。これとは別に2百億円の住基ネットの運営費がかかる。投資に見合うシステムなのか【注】。

 (3)米国で1936年に導入されたSSNは、納税番号としてだけでなく、民間も含めた社会の幅広い分野で利用されてきた。ところが、インターネット時代を迎え、不正な還付金請求など本人になりすます犯罪が多発。2006~08年まで、千万人以上がなりすまし犯罪に遭い、損害額は年500億ドルを超える。2011年に入り、内国歳入庁や国防総省などは独自番号導入に転換し始めた。
 韓国でも、番号を利用した年金や失業保険の不正受給など犯罪が多発している。
 こうした状況の中で、日本はあえてマイナンバーに踏み入ることになるわけだ。

 (4)新聞の社説の見出しを並べる限りでは、各紙の論調は、全国紙はほぼ賛成派、ブロック・地方紙は反対もしくは慎重派と分類できる。ただし、社説と異なる記事は、社説上の賛成派の全国紙にも、社説上の反対派のブロック・地方紙にも見られる。
 4月21日朝刊の毎日は、個人番号法を根拠に、個人番号の取り扱いが適正かどうかを監督する「特定個人情報保護委員会」が取材活動に介入する余地があることを指摘した。個人情報保護法(2003年成立)では、報道機関への情報提供に対しては主務大臣の権限が講師制限される規定があるが、個人番号法案にはそれがない、というわけだ。
 個人情報保護法が全面施行された2005年4月に入り、政治家や官僚による個人情報保護を理由にした不祥事隠しが相次いだ。同法には除外規定があるにも拘わらず、報道機関への情報提供をためらう「過剰反応」「萎縮効果」が社会問題化したのだ。日本新聞協会は、根本的な見直しを求め、当面の手当としては報道機関への情報提供を規制の対象外とするよう求める意見を発表している。
 マイナンバー法案が抱える、表現の自由に与える悪影響の問題をしっかり指摘していくべきだ。

 (5)ドイツでは、1984年に、行政分野を横断する形で個人識別番号を持つことについて、違憲の判断をした。
 英国では、2010年に誕生した保守・自由民主党政権が、「国家は必要以上に国民の個人情報を収集してはならない」「国民の人権を踏みにじる制度」などとして、労働党政権が決めた「国民IDカード制」を廃止する法案を成立させた。
 漏洩した個人情報の回収は不可能だ。
 マスメディアは、国家観も問われている。

 【注】「【官僚】マイナンバーで焼け太る官僚とITゼネコン

□神保太郎「メディア批評第回」(「世界」2013年月6号)の「(2)個人番号報道に見るメディアの「国家観」」
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【原発】電力、経産省、メディア・・・・の嘘、今も

2013年05月30日 | 震災・原発事故
 (1)5月22日付け日経新聞1面トップは、「中部電、東電と発電所建設」という記事。
 設備投資に回す資金調達に困った東京電力は、中部電力と共同で(出資比率:東電1割、中電9割)石炭火力発電所を建設し、発電した電力の3割を中電が引き取る。中電は、引き取った電力を、自社管内だけでなく、一部を東電管内でも販売する。
 華々しい扱いだが、こうしたことがニュースになること自体がおかしい。

 (2)日本の電力市場は、2000年から段階的に自由化された。いま、50kW以上の工場やオフィスには、大手電力会社がその担当する地域を越えて供給するのは自由だ。
 中電が東電管内の工場に電気を売っても、一向にさしつかえない。
 今回のニュースも、本来なら、ちっともビックリするような内容ではない。

 (3)だが、実際には越境供給が実現しているのは1件だけだ。中国電力管内にある広島のスーパー「イオン」に九州電力が供給しているのみ。
 越境して競争することはタブーになっている。
 日経紙さえ、この事実を指して、「『暗黙の了解』があるとされ」と書いた。暗黙であろうが、なかろうが、かかる合意が本当に存在すれば、「地域分割カルテル」だ。独禁法違反だ。

 (4)50kW以上の大口向けが市場の6割を占めている。これをもって経産省は、「日本の電力市場の6割は自由化されている」とうそぶいた。
 が、それは建前にすぎなかった。何故か。
 経産省が、天下りを通じて電力会社などと完全に癒着し、決して競争を促すような政策を採らなかったからだ。

 (5)電力会社の大本営発表を真に受けた新聞は、ご丁寧にも、「地域独占に風穴」という小見出しをつけた。恥の上塗りだ。
 このたびの記事は、実のところ、今もなお「越境競争自粛」という暗黙の秩序がしぶとく生き残っている事実を示す。そして、それを経産省が引き続き容認する立場を堅持している事実を示す。

 (6)東電は、カネがなくて困っている。そこで、中電が9割の資金を出した。しかし、中電が引き取る電力は何故かわずか3割で、しかもその一部しか東電管内で販売しない。7割は東電が引き取り、他の電力と混ぜ合わせて高い料金で売る・・・・。
 ヘンではないか?
 東電は、被災者のための損害賠償、汚染水処理があり、カネがない。それならわざわざ1割出資するより、中電に10割やらせたほうがよい。中電が10割の電力を買い、その大半を東電管内で直売すると、電力料金は東電よりかなり安くなるはずだ。
 どうして、そうしないのか? ヘンではないか?
 理由は簡単だ。そうすると、東電が困る。
 それだけではない。これを認めると、他の電力会社も東電管内になだれ込み、競争が始まる。それが他の電力会社管内にも及び、これまでの「暗黙の了解」が壊れて、9電力会社間の本格的競争が始まるから、困るのだ。
 そこで、他社管内で直売する時は、その地域を担当している電力会社が出資するなどして関与し、外部からの販売は一定の量にとどめ、決して価格競争が起こらないようにするという措置がとられたのだ。そう見れば、今回のプロジェクトの複雑な構造が明快にわかる。

 (7)本来なら、東電の出資を許さず、「もっと競争せよ」と経産省が言えばよい。支配株主である経産省は、それくらいのことはすぐできる。
 経産省はしかし、「もっと競争せよ」とは絶対に言わない。
 電力会社の「暗黙の了解」に加担する経産省。
 電力事業の規制権限を、一日も早く経産省から切り離さなければならない。

□古賀茂明「電力、経産省、メディアの嘘 ~官々愕々第65回~」(「週刊現代」2013年6月8日号)
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【社会】教育委員会は壊すより立て直す方が賢明

2013年05月29日 | ●片山善博
 (1)安部内閣は、教育改革を最重要課題の一つとして掲げる。
 政府の教育再生実行会議が、過日、教育委員会制度の抜本改革に関する提言を阿部総理に提出した。
 現行制度上、自治体の教育行政は教育委員会が所管する。教育委員会は、首長が議会の同意を得て任命する5ないし6人の教育委員によって構成される合議制官庁だ。
 提言では、(a)地方教育行政の責任を教育委員会ではなく、首長が任命する教育長に持たせることとした。また、(b)教育委員会は教育長の単なる諮問機関に格下げすることとしている。
 ちなみに、現行制度上は、教育委員会は地方教育行政の責任者として位置づけられている。また、教育長は教育委員の一人ではあるが、教育委員会の代表者ではない。代表は教育委員長であり、教育長は教育委員兼教育委員会事務局長的立場だ。

 (2)この改革プランが実現しても、さしたる変化は見られないだろう。改革プランは、地方教育行政の現状をほとんど追認したものでしかないからだ。
  (a)提言は、教育委員会を諮問機関に格下げしているが、現行制度でも事実上、教育委員会は諮問機関の役割しか果たしていない。月に1日か2日会議を開き、事務局の報告を聞き、事務局から上がってきた議案をそのまま承認しているだけだ。いじめ問題に端を発し、その非力な実態が明らかになった大津市教育委員会はその典型だ。
  (b)提言は、教育長を教育行政のトップに位置づけ、これを首長が直接任命する、としている。現行制度では、教育長は教育委員たちの互選によって任命される。したがって、首長は教育委員の選任には与れるものの、意中の人を教育長に任命することはできない・・・・という建前だが、実際は教育委員を任命する際に、既に教育長候補は決まっている。そのことを他の教育委員にも因果を含めているので、互選を通じて首長の意中の人以外の人が教育長に選ばれることは、まず無い。今でも事実上、教育長は首長が直接任命している。くだんの大津市の当時の教育長も、こうしたプロセスを経て市長主導で任命されていたはずだ。

 (3)提言では何も変わらない・・・・かというと、必ずしもそうではない。今までより教育に対する首長の発言権が強まる。
 それをどう評価するか。首長しだいで良くもなるし悪くもなる。より悪くなる可能性が危惧される。
 首長が、これまで以上にリーダーシップを発揮できるようになる。やりたい改革がスピード・アップされる。
 しかし、迅速に改革を進められる仕組みの下では、改悪も迅速に進めることができる。教育を軽んじる首長が登場した場合、それまでのせっかくの手厚い教育環境がたちどころに剥がされてしまう事態も想定される。
 また、教育行政の性格からして、たとえ良い改革でも急激な変化は避けるべきだ。子どもたちと向き合う教師一人一人がその改革をポジティブに捉え、それを主体的に実践するためのモチヴェーションを持つに至るには、それなりの時間と手順を必要とするからだ。それらを欠いた改革は、教師たちとの間でいたずらに摩擦と軋轢を生む。摩擦と軋轢に改革者が強権をもって臨めば、学校現場は一層混乱する。子どもたちにとって迷惑至極だ。
 激変緩和の緩衝材としての機能が教育委員会に期待されている。良い改革も少し時間をかけながら現場に浸透させていく。逆に、悪い改革には防波堤の役割を果たす。

 (4)教育委員会が現状のままではいけないのは確かだ。ほとんどの自治体の教育委員会は、ちゃんと機能していないからだ。
 ただし、これは制度の問題ではなく、むしろ運用のまずさに起因している。教育委員の「品質管理」がいい加減なのだ。
 首長が教育委員候補を選定する際の手抜き。
 その候補を吟味し、「品質管理」の責任を負うのが選任につき拒否権を持つ議会だが、実際にはほとんどの議会は適切にその役割を果たしていない。教育委員候補の「品定め」をすべきだが、一向にやっていない。ほとんどの自治体では、議会の最終日の、しかも閉会の直前に、教育委員などの選任議案が首長から提出される。それを受けた議会は、通常の議案なら所管の常任委員会に付託すべきところを省略し、直ちに採決に入る。本人の聴聞はおろか、提出した首長にも一切質問することはない。
 かくして、教育行政の責任を担う自覚や見識があるのか、教育行政に割く時間的余裕があるのか、など大事なことは何も確認されないまま委員たちは任命される。「品質管理」は、ちっとも無い。
 地方議会は、国主導の的はずれな改革を待つのではなく、自らの責任で教育委員会の再生のためにぜひ奮起してほしい。

 (5)教育を本当に首長に委ねてよいか。
 懸念される<例>・・・・最近の教員の非正規化の進行だ。沖縄県、兵庫県、大阪府、埼玉県などでは、児童数などを基準にして決められた公立小中学校教員定数の1割を超えて正規教員から非正規教員に代替されている。
 正規教員を基準どおり配置するのに必要な財源は、国が毎年度これら府県にも措置している。ところが、府県の判断で、正規教員を非正規教員に置き換えると、一人当たり400万円近くの財源を浮かせることができる。教育財源のネコババだ。これを主導しているのは、財政権を持つ首長だ。
 かかる事実を踏まえると、首長の権能をこれ以上強化するのではなく、むしろ教育委員会の機能を強化するほうがよほど大切だ。
 首長は民意によって選ばれ、その民意は教育に重きを置いているから、首長は教育を蔑ろにするはずはない・・・・とは、理屈の上では正しいのだが、財政難の現実の中では必ずしも妥当しない。
 教育委員の選任を首長自身もいい加減に処理していた事実も重ね合わせると、教育を首長に委ねれば万事うまくいく、というのは幻想だ。

□片山善博(慶大教授)「教育委員会は壊すより立て直す方が賢明 ~日本を診る 44~」(「世界」2013年6月号)
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【大岡昇平】と中国

2013年05月28日 | ●大岡昇平
 (1)『漢詩鑑賞辞典』
  (a)漢の高祖から魯迅まで、中国2,000年間余の代表的な作品を納め、読み下しと訳文、語釈、鑑賞、補説を添える。詩人の評伝も併せ録する。なお、『詩経』、『文選』、『楽府詩集』については別途、選を編む。

  (b)付録
    ①漢詩入門・・・・中国詩史、形式、押韻。
    ②日本の漢詩・・・・歴史、代表的作品(大津皇子から永井荷風まで)。
    ③詩書解題・・・・『詩経』から(民国)王国維『人間詞話』まで。
    ④中国文学史年表・・・・日本ほかの文学史も併記。
    ⑤漢詩鑑賞地図・・・・洛陽、長安、唐代の歴史地図。中国文学史跡地図も併載。

  (c)索引
    ①作品索引
    ②詩形別索引
    ③人物索引
    ④主要成句索引

 (2)大岡昇平
 大岡はインタビューで、漢文はさほど読んでない、と述べている。が、持ち前の韜晦癖の匂いがする。
 『武蔵野夫人』第14章、瀬死の道子の声は当初「鬼啾」と形容されていたが、後に「鬼哭」に換えられた。この措辞、杜甫の古詩「兵車行」が出典か。「鬼啾」「鬼哭」は、最後の2行を参照。

   車燐燐 馬蕭蕭     車燐燐 馬蕭蕭
   行人弓箭各在腰     行人の弓箭各(おのおの)腰に在り
   耶娘妻子走相送     耶娘の妻子走りて相送る
   塵埃不見咸陽橋     塵埃にて見えず咸陽橋
   牽衣頓足遮道哭     衣を牽き足を頓して道を遮りて哭す
   哭聲直上干云霄     哭声直ちに上りて云霄を干(おか)す
   道旁過者問行人     道傍を過る者行人に問う
   行人但云點行頻     行人但だ云う点行頻りなりと
   或從十五北防河     或は十五より北 河を防ぎ
   便至四十西營田     便ち四十に至って西 田を営む
   去時里正与裹頭     去る時里正与(ため)に頭を裹(つつ)み
   歸來頭白還戍邊     帰り来って頭(こうべ)白きに還た辺を
   邊廷流血成海水     辺廷の流血海水と成るも
   武皇開邊意未已     武皇辺を開くの意未だ已まず
   君不聞漢家山東二百州  君聞かずや漢家山東の二百州
   千村万落生荊杞     千村万落荊杞を生ずるを
   縱有健婦把鋤犁     縱(たと)い健婦の鋤犁を把る有るも
   禾生隴畝無東西     禾(か)は隴畝に生じて東西無し
   況復秦兵耐苦戰     況んや復た秦兵苦戦に耐うるをや
   被驅不異犬与鶏     駆らるること犬と鶏とに異ならず
   長者雖有問       長者問う有りと雖も
   役夫敢伸恨       役夫敢へて恨を伸べんや
   且如今年冬       且つ今年の冬の如きは
   未休關西卒       未だ関西の卒を休めざるに
   縣官急索租       県官急に租を索むるも
   租税從何出       租税何(いづく)より出でん
   信知生男惡       信(まこと)に知る男を生むは悪しく
   反是生女好       反って是れ女を生むは好(よ)きを
   生女猶得嫁比鄰     女を生まば猶ほ比隣に嫁するを
   生男埋沒隨百草     男を生まば埋沒して百草に隨う
   君不見青海頭      君見ずや青海の頭(ほとり)
   古來白骨無人收     古来白骨人の收むる無きを
   新鬼煩冤舊鬼哭     新鬼は煩冤して旧鬼は哭す
   天陰雨濕聲啾啾     天陰(くも)り雨濕(けぶ)とき声啾啾

 著名な中国文学者を父に持ち、自らも『新唐詩選』の共著者である桑原武夫から、大岡は、生涯私淑することになるスタンダールを紹介された。後に膨大詳細な杜甫注釈をあらわす吉川幸次郎も大岡と同学の京都大学の俊秀だった。こうした事情がなくても、当時の知識人として、大岡は『武蔵野夫人』を書く前に「兵車行」を知っていた、と思う。中年になって応召した自分を「便至四十西營田(便ち四十に至って西 田を営む)」に重ねてみたかもしれない。
 なお、『花影』((1961年毎日出版文化賞、新潮社文学賞)のタイトルは、王安石の絶句「夜直」の結部から採る。

   金爐香尽漏声残  金炉香尽きて漏声残す
   翦翦軽風陣陣寒  翦翦の軽風陣陣の寒さ
   春色悩人眠不得  春色人を悩まして眠り得ず
   月移花影上欄干  月は花影を移して欄干に上らしむ

□石川忠久・編『漢詩鑑賞辞典』(講談社学術文庫、2009)
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【旅】濱田珠凰「指画の世界」展

2013年05月27日 | □旅
 (1)十年前かもう少し前、「とっとり花回廊」【注1】の一角で作品展を開いていた濱田珠凰【注2】さんと出会った。ちょっと話を交わし、名刺を渡したら、その後きちょうめんに毎年賀状をくださる。

 (2)珠凰さんは、米子市在住の「指画」家。中国で指画を修め、米子市を拠点に創作を続けている。
 彼女の個展が米子天満屋で開催中だ(本日27日まで)。地元での個展は7年ぶり。今展では、4枚屏風の龍の図をはじめ、花鳥風月を題材とする70点を出品する。観音菩薩を描いた早乙女太一の舞台衣装も特別出展されている。
 実演も3日、計6回あり、写真はそのスナップ。

 (3)石川光男・国際基督教大学名誉教授によれば【注】・・・・
 珠凰さんの筆を使わずに指と爪で描く画法は、国際的に評価が高い。
 眼光鋭い鷹や龍の強烈な迫力、牡丹や葡萄のみずみずしい生気は、絵に対する情熱と逆境の中での精進、天賦の才能によることは言うまでもないが、その奥深さの鍵は珠凰さんの次の述懐に秘められている。
 珠凰さんいわく、「絵は私一人の力で描いているのではない。自分の力だけに頼ったときに絵の質が低下する」。
 これは、日本の先達が到達した無我の境地だ。濱田さんは絵を描いているのではなく、描かされている。
 西洋では、自我を重視する。これに対して東洋、特に日本では無我を重視する。無我無心とは、主体性を失った状態ではなく、心身が自由闊達となり、他との一体感が生まれる。日本の武道や禅では、この境地を求めて多くの先達が精進を重ねた。この境地で対象に思いを込めるとき、主体の「気」が対象に浸透する。
 濱田さんの絵が気を発するのは、彼女に絵を描かせている何ものかの気が絵に乗り移っているからだ。珠凰さんに乗り移った龍の気迫。葡萄のみずみずしさは、この画家の心が感じた葡萄の生気にほかならない。
 気は理性や科学で理解するものではなく、直感で感ずべき世界だ。
 珠凰さんの絵がブータンをはじめとする各国各地の寺社に奉納されるのは、このような物心一如の世界への共感が背景になっている。

 【注1】「鳥取県立フラワーパーク
 【注2】「濱田珠凰オフィシャルブログ
 【注3】石川光男「気を発す無我の境地 ~濱田珠凰「指画の世界」展~」(2013年5月23日付け日本海新聞)。同氏には、「無我の境地が生む技の奥義」の評もある。
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 【参考】
【旅】ゴッホ展/空白のパリを追う ~学際的アプローチ~
【旅】ジュディ・オングの版画 ~日本家屋または京都の再発見~
【旅】美の響演 関西コレクションズ
【旅】松江 ~須田国太郎を追って~
【旅】エル・グレコから宮永愛子まで
【旅】復興を絵画で表現できるか ~平町公の試み~
【旅】彫刻の街 ~鑑賞者の存在意義・考~
【旅】島根県立美術館 ~震災復興支援特別企画 ふらんす物語~
【言葉】手のなかの空/奈良原一高 1954-2004
【旅】オーストリア ~グラーツ~
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書評:『お茶屋遊びを知っといやすか』

2013年05月26日 | ノンフィクション
 『お茶屋遊びを知っといやすか』の著者は山本雅子となっているが、制作プロデューサーの風間純子による聞き書きである。
 風間は、茶屋「山本」の女将に「本物の京都」を見つけ、「一芸に秀でたお姉さんたちの本当の美しさ」に鼓舞され、癒され、自分を取り戻すことができたらしい。
 この体験を同性に分かちたい、という意図をあとがきに記している。
 要するに、本書は女性の女性による女性のための祇園物語だ。

 とはいえ、男性にとっても十分におもしろい。
 祇園甲部に82軒ある茶屋の経営の極意を垣間見ることができる。
 接客術さえ学ぶことができる。
 話題豊富、非常に穏やか、客を絶対に怒らせない、というのが祇園の芸妓なのだ。そしてユーモアにウィット。
 古都の四季の移ろいに祭りや行事、季節ごとの味覚となれば、男女の差はない。

 惜しまれるのは文体である。
 私たちは聞き書きの傑作、竹中労『鞍馬天狗のおじさんは-聞書アラカン一代-』を持っている。あるいは佳作、宇佐美辰一・述、三好広一郎/三好つや子・聞き書き『きつねうどん口伝』をもつ。
 いずれも語り口の妙が地の文にも生かされ、言葉の節々に語り手の人となりが滲みでている。
 この点、本書はいささか整理されすぎていて、「山本のおかあさん」の地声が聞こえてこない。京都弁を、わずかに挿入される会話の場面に限定して使ったせいで、どこかしらよそよそしい。舞台が京都、しかも祗園、という気がしない。
 地の文にも京都弁を適宜取りいれるべきであった。さすれば、祇園がかもしだす「はんなり」の魅力が、もっとしっとりと伝わってきたはずだ。

□山本雅子『お茶屋遊びを知っといやすか』(広済堂出版、2000)
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【TPP】数百万人の命を左右するEU・インドのFTA ~対岸の火事?~

2013年05月25日 | 社会
 (1)2007年から交渉が続いているEU・インド間のFTAについて、EUの経済界から協定調印への圧力が高まっている。
 交渉の間、世界各国の医療従事者やNGO、国連関係機関などは、FTAのある条項について強い懸念を表明してきた。
 それは「投資」に係る条項で、リーク文書が明らかにした。

 (2)ジェネリック薬品の生産大国=インドが、途上国の感染症患者数百万人に安価な医薬品を提供する一方、それに抗議する製薬会社との軋轢は年々拡大し続けている。
 今回、国境なき医師団などの圧力を受けて、「薬の特許保護期間延長」は交渉内容から外された。しかし、問題は、投資家の利益を保護するための「投資有害条項」内にある取締条項だ。
 <例>製薬会社から特許権や商標権侵害が指摘された場合、ジェネリック薬品を輸出するインド政府のみならず、医師ら薬品を提供する人々も訴訟の対象となる可能性がある。裁判は、インドの裁判所ではなく、世界銀行傘下の国際投資紛争解決センターで行われ、上訴はできない。

 (3)企業が知的財産権保護を掲げて相手国の政府を訴えるケースは、年々増えるばかりだ。
 <例>2011年には、スイスと2国間投資協定を結ぶウルグアイ政府が、「公衆衛生政策は企業利益を侵害する」として、フィリップモリス社に損害賠償と政策禁止を申し立てられた。
 医薬品は、治療や延命に使用される。車や奇怪などの工業製品と同等に扱われるのは問題がある。我々あh、国家間の貿易における利益追求が、公衆衛生を阻害することのないよう、適切な政策線引きを求める。【取締条項の除外を求めるドストブラジ・国連途上国医薬品支援計画(UNITAID)事務局長】

 (4)医学品以外の分野でも、反対の声が上がっている。
 EU酪農製品のインド参入について。すでに十分な自給率をもつインドの酪農市場に安価な乳製品が関税抜きに入ってくれば、低所得者層の女性を中心とする9,000万人の生活を支える国内産業が打撃を受ける。

 (5)FTAは、国内産業をつぶし、一握りの外国企業だけを利する不平等条約だ。政府はこのFTAによってインドは大きく経済成長し、恩恵がもたらされると言うが、どうしてもメリットが見当たらない。経済成長の恩恵を受けるのは、どこの誰か?【ヤドビル・シン・バーラティ農民組合員】
 仏カルフェール社は、小売業の分野では世界第2位の巨大スーパーマーケットチェーンだ。同社をはじめとする大手の参入によって、寡占化が進み、小規模生産者が廃業に追い込まれる可能性が危惧されている。EU側の要請に含まれる土地、水資源、金融や保険部門の市場開放も、インド国内の反対派にとっては国の主権に関わる不安材料だ。

 (6)インド政府は、国内の反対勢力に対し、わが安倍晋三・首相のセリフのように「酪農や小売りなどは聖域として絶対に守る」と約束している。しかし、多くの国民は不信感を持っている。インド政府は近年、規制緩和と民営化に舵を切っている。今回のFTAにも、国内市場を開放し、外国企業の投資を取り込みたい政府の思惑が見え隠れする。【コリン・トッドハンター・ニューデリー在住ジャーナリスト】 
 人口10億人の大国インドの未来に加え、途上国の患者数百万人の生死を左右するFTA。その行方を世界が注視している。
 日本ではほとんど報道されないこの条約。はたして、日本には無縁か?

□堤未果「対岸の火事ではない!」 数百万人の命を左右するEU・インドのFTA ~ジャーナリストの目 第160回~」(「週刊現代」2013年5月25日号)
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 【参考】
「「【食】モンサントの不自然な食べもの」」
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~
【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~
【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~
【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知
【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~
【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
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【中国】政経一体システム ~今後どうビジネスを展開するか~

2013年05月24日 | 社会
 (1)2000年代にめざましい経済発展をとげた中国は、2010年にGDP世界第2位に躍り出た。10年以内に米国を抜いて世界1位となると予測されるが、はたして経済発展を続けることができるか。
 懸念される最大の理由は、中国経済が共産党の強大な統制下にある政治体制(「政経一体システム」)への不信だ。多くの資本主義国家が「国家の役割は最小限」という考え方を採用する中、中国は独特の経済システムを採用している。
 政経一体システムの究極の目的は、経済発展よりも共産党体制を安定させることだ。その経済運営を信頼できないのは当然だ。
 経済政策の意思決定は、ごく少数の党幹部によって行われる。透明性が非常に低い。日本をはじめ欧米諸国が不信感を抱く。

 (2)政経一体システムの特徴の一つは、国営企業の存在だ。党や政府と同様、賄賂や汚職が蔓延している。そうした国営企業ばかり成長させ、民間企業を育てようとしない(「国進民退」)。
 500位までの世界企業ランキング(2012年)に69社の中国企業が入った。その数は日本を上回り、米国に次ぐ。しかし、69社中、非国有企業は5社しかない。
 国有企業中心の非効率な産業構造からの脱却は、今後の経済発展に必要だが、遅々として進まない。政経一体システムの中で、規制や既得権の壁に阻まれ、民間企業が自由に活躍し、成長する環境が整備されていない。
 国有企業がさらにグローバル化し、外国人が主要株主になる状況になれば、株主の意向と共産党の方針が衝突する事態が、確実や発生する。
 経済市場の整備、特に対外開放はあまりにも不十分で、こうしたハードルを越えられないかぎり、中国が真の一流経済大国になることはない。

 (3)政経一体システムの下では、経済構造の破綻は、共産党体制の崩壊と同じ意味をもつ。
 今でも不満を持った地方の農民、出稼ぎ労働者、定職のない若者らによる小爆発は数多く発生している。
 ただ、中国の経済発展の恩恵にあずかっているのは、一部既得権益層だけでなく、低所得者層の生活レベルも着実に上がっている。この5年間、最低賃金はほぼ2倍に上がった。個別問題で暴動が起きても、共産党体制を転覆させるような運動に発展することは考えにくい。

 (4)政経一体システムの最大の利点は、スピードと実行力だ。リーマンショック(2008年)後、中国は4兆元の内需拡大策をはじめ、大規模な政策を次々と実施した。1年後には経済成長率を10%近くまで回復させるなど、短期間でV字回復を実現させた。
 2000年代の経済成長は、大都市に加え、地方の発展に支えられてきた。中央政府が大方針を示し、人事権を含む圧力の下で、地方政府の間で熾烈な成長率競争が生まれ、中国全体も潤った。
 中国式中央集権と地方間競争の両立は、政経一体システムの下でしか生まれなかった。

 (5)投資の主な担い手は地方政府だ。借金(「地方債務」)を元に大規模な投資を行っている。一昨年で10.7兆元の地方債務があった。中央政府も早い段階から大きなリスクとして問題視している。
 中国では、重要なインフラの整備は進み、労働コストや人民元レートの急速な上昇などにより、輸出の価格競争でも優位に立てなくなってきた。ために、数年前から、投資・輸出依存の成長から、内需・消費重視へと経済成長の「質」を転換させようとしている。ただ、中国のGDPにおける消費のシェアは47%で(2010年)、先進国の80%に比べると非常に低い。思うように伸びていない。
 消費伸張のためには所得再分配を含む格差問題の是正が急務だが、社会保障を実現させるには莫大な財源が必要だ。税制改革しようにも、既得権層の反発があって、非常に難しい。
 「量」重視から「質」の向上を実現できるか。これが中国経済の課題だ。

 (6)中国経済は多くの弊害を抱えているが、習近平体制が続く今後10年は、高い経済成長を維持し続けるだろう。
 その最大の理由は、いまだ「発展途上国」の側面が色濃く残っているからだ。GDPは世界第2位となったが、一人当たりGDPは5,400ドルで、181ヵ国中91位だ。日本の一人当たりGDPの12%にすぎない額だ。基礎的ニーズもまだ満たされていない。まだ成長する余地がある。
 まだ必要な公共投資の対象は充分に残っている。北京や上海など大都市でも、生活インフラの整備は全く不十分だ。近年の経済成長を支えているのは、発展が遅れていた中西部や東北部で、こうした地域は今でも2桁の成長率を維持している。

 (7)今後、経済成長を遂げている中国経済を過小評価するべきではない。日本と中国は、経済面では切っても切れない関係にある。貿易額をみても、日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国にとっても日本は最大の輸入相手国だ。
 中国の輸出利益の6割は加工型の貿易によるものだ。日本から基幹部品を輸入し、中国で組み立てて輸出している。日本企業抜きでは輸出できないサプライチェーン構造はなお強固だ。
 実際、東日本大震災の影響で日本からの輸入がストップしたため、自動車など多くの産業が大打撃を受けた。
 
 (8)外交上の対立には、過剰に反応せず、冷静に対応すること。
 この10年間、日本は輸出拠点の「工場」として中国経済を位置づけてきた。賃金や人民元レートが上昇している現状からすると、もはや純粋に工場としての役割を求める時代は終わった。今は、中国の「巨大市場」をどう攻略するか、真剣に考えるべきだ。
 今後、中国人消費者の嗜好に合った製品を提供する必要がある。
 中国側から期待が高い省エネ・環境技術などの分野はもちろん、医療介護サービスや安全安心な食品など、豊かになった中国人の需要を取り込めるビジネスは数限りなくある。

□語り手:柴田聡(財務省調査室長)/聞き手:江上剛「経済 政経一体システムへの懸念 ~中国 知られざる異形の帝国~」(「文藝春秋」、013年6月号)

 【参考】
【中国】政府から独立している軍隊 ~尖閣をめぐる軍事的問題~
【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~
【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~
【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~
【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~
【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド
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【食】【TPP】多くの食品衛生法違反 ~交渉参加国からの輸入品~

2013年05月23日 | 社会
 (1)米国などから、日本の食品に対する安全基準が、非関税障壁だとして大幅に緩めることを強制される。その結果として、危険な食品が大量に入ってくる恐れが十分にある。【鈴木宣弘・東京大学教授/元農林水産官僚】

 (2)TPPに参加すると、食糧自給率(供給熱量ベース)は現在の約40%から約27%にまで下がる(農水省の試算)。この下がった分だけ輸入が増えるわけだ。
 だが、TPP交渉参加国からの輸入品には、多くの食品衛生法違反事例がある。
 米国の輸入届出件数は全体の11%を占める(2011年度)。そのせいか、米国の違反事例は多く、ここ1年分だけでも、220件の違反事例があった。うち、米国の主力輸出食品である小麦で12件(異臭・腐敗・カビの発生)もある。最多はトウモロコシ117件で、アフラトキシン(付着してはならない発癌性を有するカビ毒の一種)が検出された。
 今年3月に交渉が始まった日中韓FTAの当該国、中国は米国より多い241件。うち、ピーナッツ12件はアフラトキシンを検出。ウーロン茶6件はフィプロニル(殺虫剤)が基準超。
 韓国は43件。うち、マグロ3件は大腸菌を検出。ビスケット類2件はジクロルボス(殺虫剤)が基準超。
 その他、ベトナム109件。うち、エビ20件はエトキシキン(抗酸化剤)が基準超。シーフードミックス5件はクロラムフェニコール(日本で使用禁止の抗生物質)などを検出。
 オーストラリア12件。うち、オレンジ2件はイマザリル(防カビ剤)が基準超。
 マレーシア2件。うち、エビ1件はエトキシキンが基準超。
 ニュージーランド3件。うち、ジャガイモ1件は大腸菌を検出。
 カナダ30件。うち、小麦6件は異臭・腐敗・カビの発生。
 メキシコ12件。うち、スターフルーツ4件はフルジオキソニル(殺虫剤)が基準超。
 ペルー4件。うち、チョコレート2件はt-ブチルヒドロキノン(日本で使用不可の酸化防止剤)などを検出。
 チリ6件。うち1件は大腸菌を検出。
 違反事例のなかったのは、シンガポールとブルネイだけだ。

 (3)こうした状況では、TPPへの参加で食の安全が脅かされると思うのは当然だ。食品の安全基準をタテに輸入を規制すると、「非関税障壁」とされ、より低い国際基準へと日本の基準を下げられる可能性があるからだ。
 貿易上の取り決めであるSPS協定と、安全基準であるADI(一日摂取許容量)があり、「日米合意」でもSPS協定に基づいて交渉を行うと再確認されているが、その有効性に対する疑念は強い。

 (4)現在でも輸入食品を水際で検査する検疫所の食品衛生監視員は全国でわずか399人。現場は疲弊している。【小倉正行・『放射能汚染からTPPまで -食の安全はこう守る』の著者】
 2011年度の輸入食品の検査率は11.1%【厚労省】。
 輸入量が増えても検査員数を増やさないから、現在の検査水準を維持するのは難しい。【小倉正行】

□岩田智博(編集部)「TPPと「食の安全」」(「AERA」2013年5月27日号)に拠る。

 【参考】
【食】モンサントの不自然な食べもの
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
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【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
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【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
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【中国】政府から独立している軍隊 ~尖閣をめぐる軍事的問題~

2013年05月22日 | 社会
 (1)人民解放軍(総兵力230万人)の最大の特徴は、国家の軍隊ではなく党の軍隊であることだ。共産党軍事部門が、中華人民共和国の国防を担当している。
 よって、解放軍の「第一の役割は、共産党の執政党としての地位を強固にするための力の保証を提供することだ」(胡錦濤の演説、2004年)。
 天安門事件(1989年)で、解放軍は自国民を武力弾圧した。独裁が揺らぎそうになった共産党の命令による。この事件は、解放軍にとってトラウマとなった。

 (2)解放軍の頂点には、党中央軍事委員会、国会中央軍事委員会が君臨する。いずれも習近平が主席を務める。ただし、実権を握っているのは党中央軍事委員会だ。習近平以外のメンバーは、上将クラスの軍人で、ナンバー2の李克強・国務院総理も入っていない。総理は、大規模災害などの例外を除き、軍隊に対する命令権は有しない。
 トップセブン(党中央政治局常務委員)に、劉華清・海軍上将の退任(1997年)以降、軍人は入っていない。一段下の政治局委員25名中、軍出身者は2名。しかし、その下の中央委員会委員205名中2割が軍出身者だ。中央委員会はトップセブンを選出する。隠然たる影響力は無視できない。
 中国の指導者は、中央へ上がる前に地方の省のトップを務める。地方のリーダーをやりながら、軍隊との付き合い方を学ぶ。各省軍区委員会第一書記は省党委員会書記が兼務する。軍からすれば良好な関係の人間を支援したい意識があってもおかしくはない。政治に対する解放軍の影響力は、見えない部分において間違いなくある。

 (3)解放軍の国軍化、軍の政治的「中立化」を党と軍指導部は恐れている。天安門事件においてすら、命令を拒否した指揮官が存在した。中国が生きるか死ぬかの事態になったら、軍は国民の軍隊たることを選ぶかもしれない。

 (4)近年、特に2000年以降、国防や安全保障の概念が拡大してきた。その一部として、海洋権益の擁護が含まれるようになった。
 かつて解放軍の活動領域は、基本的に中国本土だけに限られていた。海軍の活動も中国近海のみだった。ところが、近年、新型の艦船や補給艦を持ち、西太平洋で積極的に訓練している。これを何回も行う能力がある。日米としては注目せざるを得ない。
 今年1月、東シナ海で中国のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に射撃用レーダーを照射する事件があった。党中央の「海洋権益を断固として守る姿勢を日本に示せ」のごときい一般的な命令を現場が解釈した結果だ。2010年に中国海軍の船が沖縄を通って西太平洋に出たとき、監視していた海上自衛隊の護衛艦に中国のヘリが異常接近した事案が2回あった。これらの行為が危ない、という国際的感覚を、中国海軍の現場はまだ持ち合わせていない。
 中国政府は、結局、軍の行動を追認した。ただし、その後、同様のケースは一度も起こっていない。
 解放軍は、政府の命令系統に入っていないので、党中央が政府と中央軍事委員会に同じ方針を打ち出しても、末端組織に行くと政府とは別の行動に出る可能性がある。これは危ない。突発的に起こる衝突事案では、危機管理をミスすると、エスカレートする可能性がある。

 (5)フィリピンは、中国海軍に南沙諸島を奪われた。
 尖閣諸島の接続水域に、解放軍の艦船が入ったことは一度もない。しばしば領海に侵入するのは、政府に属する国家海洋局などの船だ。ところが、中国国内の報道では、昨年2回も西太平洋で演習を終えた解放軍の艦船が尖閣諸島を通って帰ってきた、と宣伝している。これは国民向けだ。実際には尖閣諸島の接続水域に近づかない。日本の防衛力による抑止が効いているからだ。

 (6)解放軍の能力は、近年どんどん高まっている。特に海軍、空軍、戦略ミサイル部隊の能力は、この10年格段に向上した。F-15やF-2に匹敵する第4世代戦闘機、近代的な水上艦艇や潜水艦など、自国で生産できるようになった。
 特にAWACSに当たるKJ-2000(早期警戒管制機)を中国が整備し始めたのは、日本にとって脅威だ。今後中国がKJ-2000などを自主開発できるようになれば、日本の優位性はどんどん薄れていく。

 (7)尖閣諸島に日本が先に海上自衛隊を出すのはとても危険だ。出せば、中国はすかさず海軍を出す。そして、「先に絵を出したのは日本だ」と国際世論にアピールする。たちまち、尖閣は紛争地帯となる。中国の思うツボだ。いま実効支配しているのは日本だ。これまでどおり、海上保安庁が粛々と法執行すればよい。
 今後、日本が単独で中国と向き合うのはますます難しくなっていく。日米同盟を基軸として、韓国、東南アジア諸国、オーストラリア、印度などとの関係を強化し、有利な国際環境を作りながら、中国との対話、交渉に臨む必要がある。

□語り手:杉浦康之(防衛省防衛研究所教官)/聞き手:江上剛「軍事 人民解放軍が叛乱を起こす日 ~中国 知られざる異形の帝国~」(「文藝春秋」、013年6月号)

 【参考】
【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~
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【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~
【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?
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【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後
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【社会】猪瀬直樹東京都知事の「イスラム侮辱」問題 ~国益と国民益を毀損~

2013年05月21日 | ●佐藤優
 (1)2020年夏季五輪招致に係る猪瀬直樹・東京都知事は、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「イスラム諸国は互いに喧嘩ばかりしている」と口走った。イスタンブールを意識した発言で、4月27日付け同紙が伝えた。
 さらに、「イスラム諸国が共有しているのはアラーだけで、互いに喧嘩ばかりしている。そして階級がある」とも語った【注1】。
 当初、猪瀬は「私の真意が正しく伝わっていない」と開き直っていたが、ニューヨーク・タイムズ側から「記事の取材に絶対の自信を持っている。録音もある」と反論され、謝罪に追い込まれた。

 (2)トルコを公式訪問した安倍晋三・首相が、5月3日、得る土案・トルコ首相と会談した際、侘びを入れざるを得なくなった【注2】。 
 東京都知事の不祥事に、日本国内閣総理大臣が対応したのだ。前代未聞の事態だ。

 (3)トルコとの関係がとりあえず政治的にはこれで処理されたとしても、まだ深刻な問題が残っている。
 猪瀬は「イスラム諸国が共有しているのはアラーだけで、互いに喧嘩ばかりしている」と、中東、中央アジア、インドネシアなどを含むイスラーム世界全体を侮辱した。猪瀬発言は尾を引く。

 (4)5月2日の定例記者会見で、猪瀬知事は「誤解されるところがあったとすればお詫びする。イスラム圏の方々とも近々話をしていく」と述べた。会見は1時間に及び、「あんまり終わった話に触れても仕方がない」と発言する場面もあった。一方では、謝罪後にツイッターで「誰が味方か敵か、よくわかったのは収穫でした」と記したことについて、「一生懸命励ましてくれる人とそうでない人がいるんだなと、それだけのこと」と釈明した【注3】。
 猪瀬は、事態の深刻さをまったく理解していない。猪瀬は、政治家(東京都知事)であるのみならず、大御所作家(大宅壮一ノンフィクション賞選考委員)だ。国際基準では、知識人と見なされる。
 政治家の失言は、無知による場合と、偏見による場合に分かれるが、知識人である猪瀬の発言は、イスラームに対する偏見に基づくものだ。
 ツイッターの力を熟知する猪瀬は、自らの発言がイスラーム過激派に与える影響について、どう考えているのか?

 (5)猪瀬発言によって、日本でテロが起きる可能性が排除されなくなった。
 猪瀬は、日本国家の国益を毀損し、日本国民の安全に不安を与える存在となった。
 日本国家益と国民益のため、世界の平和と安定のため、猪瀬は一刻も早く公職から去るべきだ。

 【注1】記事「都知事「首相、猪瀬氏発言を陳謝 五輪招致めぐり、トルコ首相に」(2031年4月29日付け朝日デジタル)
 【注2】記事「「首相、猪瀬氏発言を陳謝 五輪招致めぐり、トルコ首相に」(2031年5月3日付け朝日デジタル)
 【注3】記事「猪瀬都知事「これからの教訓に」 五輪招致、失言改めて謝罪」(2031年5月3日付け朝日デジタル)

□佐藤優「「イスラム侮辱」問題は、まだ終わっていない ~佐藤優の人間観察 第22回~」(「週刊現代」2013年5月25日号)

 【参考】
【社会】チェチェン人兄弟はなぜアメリカでテロを起こしたのか ~民族問題~
【読書余滴】佐藤優&鈴木琢磨の、朝鮮人やイスラム教徒の時間軸と日本人の時間軸との違い
【読書余滴】佐藤優&宮崎正弘の、言語・民族・国家 ~グルジアと中国~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(3) ~トルキスタン~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(2) ~ソ連解体の始まり、ナゴルノ・カラバフ紛争~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(1) ~アゼルバイジャン~
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【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~

2013年05月20日 | 社会
 (1)国際的に大きな問題は、外事小組、あるいは党中央の採鉱期間である政治局の常務委員(「トップセブン」)が決定する。
 外交部は、国務院の1組織で、政策執行機関にすぎず、独自に判断できるのは毎年の恒例の行事など、日常的な外交案件だけだ。外交部の会見は、中国語で行われ、国内向けの意味合いが含まれる。

 (2)トップセブンは、党の論理のみならず、国益を判断し、国内世論の動向を見ながら決める傾向がある。
 国内世論は、(a)「経済重視派」と(b)「保守派」に大別される。
 (a)は経済発展のために周辺諸国と協調外交を展開すべきだ、とし、(b)は経済発展より富を分配して国内の弱者を救うべきだ、としてナショナリズムに基づく強硬路線を主張する傾向がある。
 この20年間、日中外交は(a)と(b)との間を行ったり来たりした。
 1990年代から2000年代初頭までは周辺諸国に対して一貫して(a)を維持してきた。
 しかし、経済発展が続き、(b)の声が強くなってきた。温家宝・首相(2003年3月~2013年3月)は(a)だった。
 胡錦濤・総書記(2002年11月~2012年11月)の頃から(b)の発言力が(a)より強くなった。この時期から中国は経済を外交の武器として使うようになった。<例>昨年のフィリピンからのバナナ輸入禁止措置。
 こうした周辺諸国との軋轢を生み続けた結果、米国が東アジア安定のため「アジア回帰」を唱えて米軍の配置を移し始めた。中国としては、非常に厄介な事態になった、と感じているはずだ。

 (3)今後、中国外交はどのように変わっていくか。
 米国が介入し始めたからといって、一気に協調外交に転じるのは難しい。国内では格差問題が広がる一方だから。保守派の意見がまだ強い。
 それに、習近平・総書記(2012年11月~)には保守派の意見を無視できない事情がある。保守派の支持を得て国家主席に就任した(2013年3月)からだ。
 2010年10月、中央軍事委員会副主席に就いて胡錦濤の後継者となってから今年3月に国家主席に就くまで、習近平は一貫して対日カードを使ってきた。共産党人事(昨年11月)には反日デモ、政府人事(今年3月)には中国船の領海侵犯をぶつけることで、保守派からの批判をかわしてきた。今になって対話路線に転じる可能性はない。

 (4)格差が広がった中国には、さらなる経済発展を求める人が大勢いる。外交によって経済発展が阻害されたままであは、国内問題を解決できない。格差、高齢化、環境汚染・・・・これらの問題を解決するには社会保障制度を整備しなければならず、そのためには6~7%の経済成長を維持しなくてはならない。この観点からすれば、日本との経済協力が不可欠だ。
 ただ、現体制のトップセブンは習近平より先輩が多い。保守派に配慮しながらの外交になるだろう。習近平が独自色を出していくのは2期目からだ。2014年後半ないし2015年頃、習近平がどのような外交を志向するかが明らかにあるだろう。 
 格差や高齢化などの国内問題を温家宝や胡錦濤は解決できなかった。高まる政治への批判を抑えつつ経済発展を続けるという綱渡りを習近平は強いられている。かかる状況下で日本に対する外交は敏感にならざるを得ないし、一歩間違えば世論の反発をくらう。
 経済分野については、中国は少しずつ歩み寄りを見せている。<例>金融部門の外資参入規制緩和の表明(昨年末)、日中韓FTA交渉の継続の姿勢。
 友好関係を念頭においたシグナルだが、これが続くか否かは日本の反応次第だ。安部首相靖国神社参拝など、中国国内の反発が高まれば、また強硬姿勢に転じる。融和と強硬路線のジグザグがしばらく続くだろう。

 (5)2008年から2009年にかけて、日中外交が転換した。
 2008年、中国に対するODAが終了した。ODAがが対中外交に果たした役割は大きかった。野中広務を始め、旧橋本派の中国との太いパイプ、曾慶紅・政治局常務委員と親密な関係を築いた背景にはODAがあった。1980年代、歴史認識の問題が起きても、円借款の数字を上げることで中国は沈黙した。2008年以降、日本は外交上の武器を失った。
 さらに、2009年、中国共産党とパイプのない民主党政権が誕生した。日本は丸腰になった。加えて、2008年頃から中国では保守化が進んでいた。
 そんな状況下、尖閣諸島沖で漁船衝突事件が起きた。日中関係はかつてないほど悪化した。民主党政権が中国とのパイプが切れたことに対して、もう少し慎重に対処していれば、違った展開があったかもしれない。
 日台漁業協定締結(4月10日)は、非常に効果的な外交だった。「このまま関係悪化が続くと日台が親密になるかもしれない」と中国を焦らせた。各地の日本大使館や領事館が台湾の代表をパーティに招いている。日本の外交当局は、巧みに中国を揺さぶっている。
 民間レベルでは、グローバル展開する製品の製造拠点を東南アジアへ移す傾向がある。中国国内には中国市場向け製品に特化する日本企業が増えている。こうした財界の動きも、中国の経済重視派を刺激し、日中友好への呼び水になっている。

 (6)今後、不必要な刺激を中国に与えないこと。
 もう一つ、正式のルートと平行して、多元的に対中外交を展開すること。鉄道・石炭など巨大な利益集団とのパイプを財界が築くこと。民間にも有力企業が増えているのだから。
 そして、共産党の一党独裁の終焉(可能性)も踏まえて、民主化運動家やネットで影響力のある研究者、経済界など多様なパイプを築いたり、支援すること。

□語り手:川島真(東京大学准教授)/聞き手:江上剛「外交 ポスト共産党政権に“保険”をかけろ ~中国 知られざる異形の帝国~」(「文藝春秋」、2013年6月号)

 【参考】
【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~
【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~
【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~
【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド
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【社会】敬遠される「経済通」の上司・先輩 ~4つの類型~

2013年05月19日 | 社会
(1)権威追従型
 ブランド力に弱く、日経や経済誌を妄信してやまない。
「日経を読まないヤツは仕事ができない」
「投資しないヤツはバカだ」
などと決めつける。
 多角的にモノを考えられない度量の狭さが痛い。
「楽天の三木谷社長と会った」
などと自慢するが、会ったといってもパーティで見かけただけだと部下・後輩から見抜かれている。

(2)陰謀偏愛型
 世の中には陰謀が満ちている、としか考えられない人。
 大きなニュースがあると、
「本当は裏でこんなことが・・・・」
とトンデモな噂話を滔々と語り出す。しかし、情報入手先は「2ちゃんねる」だったりする。その「情弱」ぶりを部下・後輩から見抜かれ、辟易される。
 雑誌などで商品や会社を褒める記事を見ると、
「この記事はどうせ広告だから騙されるな!」
とニヤニヤしたりする。俺だけが真実を知っている、という態度が部下・後輩から面倒がられる。

(3)流行迎合型
 事情通であるがゆえに情報に踊らされてしまう。周囲から影響を受けやすく、新しい情報に感化されるたびに仕事の方針を変えるので、現場はいつもアタフタする。
 流行りものに敏く、口癖がコロコロ変わる。
「いつやるの? 今でしょ」
を連発し、こうしたセリフを言える機会を虎視眈々とねらいすぎて、部下・後輩にとってはかなりウザい。

(4)欧米至上型
 欧米流への強烈な憧れに取り憑かれている。
 何かにつけ
「・・・・するのが最近のアメリカのスタンダード」
と語り出す。中身は全部経済誌の受け売り。
 外国の話をしていると、割り込んできて、延々と観光地からその国の歴史まで語る。
 誰もお前に解説は頼んでない、と部下・後輩から冷たい目で見られる。

□記事「[経済誌オヤジ]の痛い言動」(「週刊ダイヤモンド」2013年5月25日号)
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【本】文は人なり ~シンプルな文章~

2013年05月18日 | 小説・戯曲
 (1)アール・スタンリー・ガードナーは、1889年生、1970年没。
 44歳のとき長編作家としてデビューし、80歳で亡くなるまでの37年間に長編140冊を著した。うち、ペリー・メイスン・シリーズ80冊、A・A・フェア名義のクール&ラム・シリーズ29冊、ダグラス・セルビー・シリーズ9冊、その他のミステリー8冊、ノンフィクション14冊。平均年間創作量は3.8冊だ。このほかに短編450編以上。驚異と言わねばならぬ。テープに口述し、それを秘書がタイプして作品に仕上げていった、というヘンリー・フォード的大量生産術があったにしても。

 (2)E・S・ガードナーの修業時代は1923年(34歳)から『ビロードの爪』を発表した1933年(44歳)まで続く。当時、カルフォニア州の法律事務所に勤めるかたわら、あちこちのパルプ・マガジンに大量の作品を書き送っていた。夜中の23時半に帰宅し、明け方の3時までタイプライターを叩いた。1日のノルマは4,000語。1年に100万語を叩き出した。
 スピーディな謎の運び、複雑なトリック、意外性、正義感、理想主義、庶民性などは、パルプ・マガジン時代に土壌が耕された。
 ガードナーは、生前1冊も自分では短編集を編んでいない。ガードナーは、長編によって自分のスタイルを確立した人だ。
 ガードナーのミステリーは、本格派と行動派との中間にあるが、本格推理の要素も、フェアな論理性より意外性に重きを置いている。意外なトリックは、一匹狼の悪知恵だ。庶民の、パルプ・マガジン的英雄だ。

 (3)ガードナー作品には、人物や内面の直接的な描写はほとんどない。描かれるのは行動だ。行動を通じて人物像が描かれ、内面が(推定しようと思えば)推定できる。そして、行動は社会的機能から導き出される。ペリー・メイスン・シリーズの弁護士、クール&ラム・シリーズの私立探偵、ダグラス・セルビー・シリーズの検事のように。
 言葉が喚起するイメージが明確な行動、行動によるスピーディなテンポ・・・・といった文体、発端の謎が意外な事件に展開し、歯切れよい解決に至る展開といったパターンは、出世作『ビロードの爪』で確立していた。

 (4)ペリー・メイスン・シリーズは、パターン化は題名、登場人物、ストーリー展開において徹底し、1冊ごとに完結する。各作品相互に関連はなく、蓄積もない。
 他方、クール&ラム・シリーズは、人間関係の蓄積があって、第1作『屠所の羊』では食い詰めたドナルド・ラムがバーサ・クールにお情けに近い雇用の仕方をされるのだが、『倍額保険』ではパートナーに出世する。もっとも、人間が描かれているのはよいのだが、バーサの、一時は275ポンドもあった体重が165ポンドに減って、その後165~170ポンドを上下したり、バーサや秘書エルシー・ブランドの年齢が初期の作品より若くなったりするのは、作者が登場人物に愛着が増したためか。

 (5)文体は、長編作家としてスタートした段階で確立していたが、作家として年季を積むにつれ、磨きがかかった。レイモンド・チャンドラーは、ガードナーあての書簡(1945年11月9日付け)で次のように記す。
 <年がたつとともに、読みやすく、たくみになっているのも興味あることでした>

 (6)『倍額保険』を訳した田中小実昌は、巻末の、訳者あとがきと解説を兼ねた「和んだ気持ちで」において、ちょっとした文章論を展開している【注】。いわく・・・・
 ペリー・メイスン・シリーズにはこ難しい法律用語が出てくるのはやむをえない。他方、A・A・フェア・シリーズの文章はすっきりシンプルだ。
 そもそもミステリーとか推理小説には「装飾のおおい、つまりはおどかす文章」「飾りたてた文章」がよく売れているが、A・A・フェアは歳をとり、おじいさんになるにつれて、ますます、文章がすっきり、シンプルに、しかも、明るくなった。滅多にないことだ。
 考えが深くなると、じつは考えがすっきり、明るくなるのだ。
 『倍額保険』に登場する年配の医者など、A・A・フェアの文章によって、ほんとうに明るく、浮かびあがってくる。明るく、しかも深い洞察をもち、また医者であるからには、ふつうの人にはないシニカルさもありながら、まことに軽やかな日々のようだ。
 シニカルさのない者に、軽やかさがあるものか。
 そして、この年配の医者は自分でかってに死のうが、ひとに殺されようが、(病気のため)確実に死に向かっている。
 シニカルさのない軽さ、明るさなどインチキのように、死に向かってこそ、自分が確実に死に向かっていることを知って、そのような毎日をおくっているからこそ、この明るさ、軽さが出てくるのかもしれない。
 この年配の医者など、まことにみごとな小説のなかの人物であり、A・A・フェアは人物を描くというより、ミステリーのなかに、ぽっかり、この人物がでてきている。この自然さは、この年配の医者がA・A・フェア自身だからだろう。
 日常的、身体的にはちがっていても、まさしくA・A・フェア自身なのだろう。
 A・A・フェア・シリーズを楽しんで読むとは、A・A・フェアというおじいさんといっしょにいることを楽しみ、和んだ気持ちでいるのだろう。

 【注】A・A・フェア(田中小実昌・訳)『倍額保険』(ハヤカワ・ミステリー文庫、1978)
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【食】モンサントの不自然な食べもの

2013年05月17日 | 社会
 (1)東京・渋谷にアップリンクという小さな映画館がある。
 ここで、ドキュメンタリー映画「モンサントの不自然な食べもの」(仏、2008年)が上映された。
 多国籍企業モンサント社の恐るべき実態が暴かれている。
 モンサント社製品としてよく知られているのは、「枯葉剤」だ。ベトナム戦争で散布された。被害者はベトナム人だ。しかし、米兵にも未だに大きな被害を与えている。
 すでに日本にもモンサントの遺伝子組み換え食品が大量に輸入されているが、世界の農産物はモンサント社の遺伝子組み換え種子によって大量生産されている。その種子は世界中にバラ蒔かれ、その弊害は拡大しつつある。

 (2)安部政権が進めているTPPによって、農業が自由化された場合、日本はモンサント漬けにされる。
 悪い種子がどんどん侵蝕し、完全に自然を破壊する。もう二度と純度の高い農作物は甦ることはない。
 むざむざモンサントに支配されるのを指をくわえて見ているだけだ。

 (3)6月8日、アップリンクで、第二弾「世界が食べられなくなる日」(仏、2012年)が公開される。
 原発と、遺伝子組み換えというテクノロジーは、同一のものだ。その恐怖も。

□矢崎泰久「発言2013」(「週刊金曜日」2013年5月10日号)

 【参考】
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~
【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~
【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~
【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知
【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~
【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
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