語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~

2011年11月30日 | 社会
●医療
 所得格差は、健康状態や寿命を左右する。【海原純子・白鴎大学教育学部教授/ハーバード大学客員研究員(心療内科医)】
 米国の調査では、所得格差が大きい州ほど、死亡率、心臓発作や癌の罹患率、殺人件数が高い(1996年、ハーバード大学)。所得格差が大きい州ほど、平均寿命が短い(1992年、ウィルキンソン博士)。単に所得が高ければ健康で長生きするわけではない。富裕者が少ない=所得格差が小さいコミュニティほど住民はストレスフリーで、幸福度が高く、健康だ【注】。【海原教授】
 2010年の日本人の平均寿命は、女性が86.39歳(26年連続世界一)、男性が79.64歳(世界4位)。
 世界に誇る国民皆保険制度の賜だ。これがTPPによって崩壊する可能性がある。【三橋貴明・経済評論家】
 TPP参加によって営利目的を優先する病院が参入し、健康保険外の自由診療をする病院が増える。その結果、公的保険の適用範囲が狭まる。医療の米国化が危惧される。国は、医療費高騰による財政赤字を改善したいから、自由診療の適用範囲を拡大し、保険診療を縮小する方向に動くだろう。富裕層だけが質の高い医療を受け、寿命を延ばすが、貧困層では寿命が縮まる可能性がある。【森田豊・医療ジャーナリスト】
 ちなみに、2009年の米国人の平均寿命は79歳(世界29位)で、先進国のなかでは低い。

 【注】「貧困は、皆でその苦を分かち合うとき、静かに耐えることができる」(スウェーデン国会におけるエルンスト・ヴィクフォーシュの演説、1928年)【J・ナセニウス/K・リッテル(高須裕三/エイコ・デューク・訳)『スウェーデンの社会政策 -分かち合う福祉-』(光生館、1979)のエピグラフ】

●食の安全
 TPP参加によって食文化の変質が起こり、寿命に影響する。日本人の平均寿命は、1961年の国民皆保険制度導入以前から延びていた。最大の原因は食だ。長寿を誇った沖縄男性の平均寿命が、1995年の4位から2000年には突如26位に転落したのは、ゴーヤや豆腐などの伝統食が、米国統治の間にステーキなどの欧米食にとって代わられた影響が出てきたことが一因とされる。【田辺功・医療ジャーナリスト】
 日本人は、食に高い安全性を求める。
 (a)農薬・・・・農作物のポストハーベスト(収穫後)農薬は、国民の健康や寿命を脅かしかねない。日本では、法律上、収穫後の農作物に対する農薬の使用を禁じている。しかし、米国は日本に輸出する農産物に対し、米国基準を認めるよう、要求している。収穫前後にかかわらず、最大残留農薬基準を設定するよう、迫っているのだ。【安田節子・埼玉大学非常勤講師/食政策センタービジョン21代表】
 <例1>サクランボに使用する殺菌剤キャプタン・・・・日本基準は5ppmだが、米国基準は100ppm。
 <例2>殺虫剤マラチオン・・・・日本基準は0.1ppmだが、米国基準は8ppm。
 <例3>小麦に使う殺菌剤イマザリル・・・・日本基準は0.01ppmだが、米国基準は0.5ppm。
 農薬の多量摂取が懸念される。日本では、3・11後、放射能汚染が心配される国産より外国産の農産物を選ぶ人がいるが、どちらが安全という問題ではない。農薬と放射能汚染の相乗効果で毒性が倍加する可能性がある。【安田講師】

 (b)遺伝子組み換え食品・・・・米国は、遺伝子組み換え食品表示の撤廃も求めている。表示がなくなれば、それだけ消費者の選択肢がなくなる。【安田講師】
 遺伝子組み換えのジャガイモを食べさせたラットは、臓器の重量が小さかったり、免疫が低下する。遺伝子組み換え大豆を食べさせたラットに流産や成長遅延が多いこともロシアでは報告されている。【安田講師】

 (c)衛生・・・・現在、米国産の輸入牛肉に課している「月齢0ヵ月以下」規制の撤廃も米国は求めている。肉牛生産量の多い米国では、トレーサビリティーが不可能なうえ、衛生管理が徹底していない。感染症のトップが牛肉由来のサルモネラ菌による。米国のみで認可されている人工ホルモン剤も使用されている。TPPによる輸入規制緩和で、安価でも質の悪い牛肉が食卓に上がる可能性がある。【安田講師】

 以上、菊池香「TPPが縮める寿命と家計」(「サンデー毎日」2011年12月4日号)に拠る。

 【参考】「【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
     「【経済】中野剛志『TPP亡国論』
     「【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
     「【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
     「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
     「【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
     「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
     「【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
     「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
     「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
     「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
     「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
     「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
     「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
     「【震災】復興利権を狙う米国
     「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題
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【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~

2011年11月29日 | 社会
 戦前の日本は、今以上に格差社会だった。富のほとんどが財閥に握られ、産業の収益の多くが財閥に集中された。財閥のトップは、国民の平均収入の1万倍を得ていた。しかも、当時の所得税は一律8%だったから、今より貧富の差が厳しかった。
 軍部が暴走したのは、そういう国民の不満を吸収したから、という一面があった。
 戦後、かかる格差を日本の欠陥と見たGHQは、貧富の解消に努めた。1949年、シャウプを団長とするが税制使節団が来日し、「負担の公平」をめざして直接税を中心とした税制を構築した。大企業と金持ちに高い税率を課す税制だ。1951年、日本政府は、シャウプ勧告に則る税制改革を行った。
 戦後日本社会は、シャウプの税制を守り続けてきた。しかし、1980年代に入って、シャウプの税制が崩れ始めた。戦後40年を経ると、日本は経済大国に成長し、国民は戦前の貧富の格差を忘れ始めていたのだ。大企業/金持ちが、永年念願としてきた税制変革を求めて、政治家に一気に圧力をかけてきた。
 かくて、1980年代後半から、怒濤の勢いで大企業/金持ちの税金が下げられた。

 減額された税額がどれほど巨額であったかは、1988年と2010年の国税収入を比較するとよくわかる。
 仮に、今の経済状態に1980年代の税制をあてはめるなら、税収は今の2倍くらい増えるのだ。消費税を増税しなくても、大震災の復興費など、簡単に賄える。

 1988年は、今より13兆円も税収が多かった(国税収入50.5兆円)。この年は、バブル崩壊の直前で、消費税導入の前年だ。つまり、消費税による収入はまだ無い年だ。
 いまは1988年よりGDPが25%増加している。だから、税収も25%増えているはずなのだが、実際には逆に25%以上も下がっている(2010年の国税収入37.4兆円)。
 なぜか。
 この20有余年間に、税制が大きく変ったからだ。主な変更点は4つ。
 (1)大企業の法人税率が大幅に下げられた(40.2%→30%)。
 (2)高額所得者の所得税率が大幅に下げられた(60%→40%)。
 (3)資産家の相続税率が大幅に下げられた(75%→55%)。
 (4)消費税が導入された(0%→5%)。
 要するに、大企業/金持ちの負担減、庶民の負担増だ。
 仮に、今の税制を1988年代の税制に戻せば、GDPが25%増加しているのだから、60兆円以上の税収が見込まれる。これに今の消費税による収入(9.6兆円)を加えれば、70兆円の税収となる。今の税収のほぼ2倍だ。

 日本政府は、大企業/金持ちを減税する一方で、近年、中間層以下には大増税を連発している。給料取りの大半が、最近手取りが少なくなった、と感じるのは、増税されているからだ。
 <例1>配偶者特別控除(現在の配偶者特別控除とは別)の廃止(2004年)。年収1,000万円以下の人で配偶者に収入がない場合に適用されていた。この制度が廃止されたため、4~5万円の増税となった。
 小さな子どもを抱える家庭に4~5万円も増税するとは、少子高齢化対策に逆行する。
 <例2>定率減税の廃止(2007年)。低所得者の負担を減らすための減税制度で、最高で所得税の2割が減税された。多い人では20万円以上にものぼった。この制度には、事実上の所得制限があったので、高額所得者にはあまり減税にならないものだった。ところが、これが廃止されたため、中間層以下の給与所得者は、おおむね4~5万円の負担増となった。 

 以上、武田知弘「あり余るカネ持つ大企業と金持ち! ~数字が見抜く理不尽ニッポン 第2回~」(「週刊金曜日」2011年11月25日号)に拠る。

 【参考】「【経済】「億万長者激増」の政治学 ~新自由主義~
     「【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~
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【震災】原発>国の除染では効果がない ~効果的な除染法は~

2011年11月28日 | 震災・原発事故
 放射性物質汚染対処特別措置法(略称)が、除染を進めるため、2012年1月から完全施行される。
 これに基づく政府の基本方針では、追加被曝線量が高い「除染特別地域」は国が除染し、一部地域を除いて2014年3月までに終える。除染特別地域には、現行の警戒区域、計画的避難区域も含まれる見とおしだ。これを除く地域の除染は、原則として市町村が担う。

 国などによる本格的除染に先立ち、今夏以降、福島市は渡利地区や大波地区など、地域限定で実験的な除染事業を実施している。
 だが、山内知也・神戸大学大学院教授は、今のやり方では除染はまったく無意味だ、と国、福島県および福島市を批判する【注】。福島県内の高線量地域に対して、とりあえず除染するのではなく、避難を呼びかけている。
 山内教授は、次のように語る。

 9月14日にも、住民の要請を受けて、6,700世帯が住まう渡利地区に行った。市立渡利小学校の通学路の側溝の上と住宅前の10ヵ所で計測すると、地上1cmで4ヵ所が22.6、11.0、10.0、5.5μSv/h、同じく50cmで5ヵ所が5.2、3.3、2.94、2.05、2.0μSv/hだった。
 福島県南相馬市の特定避難勧奨地点では、地上50cmで2.0μSv/h以上だったら子どもと妊婦に避難を促すことになっている。その水準をはるかに超える高線量の場所が、福島市では今も児童の通学路だ。
 山内らの放射線実験施設でも、内部の取り決めによいr、空間線量が1μSv/hを示したら人は退去し、立入りできない。
 それとも比べものにならないひどい放射能汚染の中に、子供たちは放置されている。
 同じ渡利地区の薬師町では、ある水路が普段は干上がっていて、この乾いた川底から1cm上で最高14.8、最低4.0、50cmで最高5.30、最低3.92、1mでも最高3.87、最低2.1μSv/hだった。そんな川底で、子どもたちが土埃にまみれて遊んでいる。
 同じ薬師町のある個人宅の庭の億は、地上1cmで20、50cmで4.8、1mで2.7μSv/hだった。この家には4歳の子どもがいる。相当の外部、内部被曝を受けているものと推定される。近在の個人住宅5軒の庭も、地上1mで最高11.1、指定1.2μSv/hという高さだ。
 福島市は、今夏、渡利地区の2小学校の通学路などを除染モデル事業の対象とした。しかし、家屋や道路などを高圧洗浄し、仮に除染できたとしても、それは水を通して放射性物質を別の場所に移しているだけのことだ。人間環境の線量を下げることにはならない。今の除染方法は、除染したその地区に絞っても効果は出ていない。前述の渡利小通学路の場合、除染前と除染後の線量を比較した福島市の報告をみても、各除染地点は平均で除染前の7割程度しか放射線量は下がっていない。地点によっては、除染前より逆にあがっていたり、ほとんど変わりなかったりもする。莫大な経費をかけても、現状の方法は予算の無駄遣いだ。
 効果が余り出ない大きな原因は、除染方法にある。
 側溝の汚泥を取り除いただけでは除染にならない。汚染のほとんどを占める放射性セシウムは、屋根の瓦、側溝のコンクリート、道のアスファルトの表面の数十μmの細かい穴の中にこびり付いて、高圧洗浄しても取れない。道路のアスファルトと側溝のコンクリートの隙間にも流れこんでいる。道路のアスファルト、側溝のコンクリートを剥がし、工事をやりなおさないといけない。塀がコンクリートなら、その上部も造り変える。庭の土なども3~5cmは削り取る。このやり方なら、放射性物質を他の場所に移し替えるだけのことにならずにすむ。
 しかし、こうした除染を地区全体で完遂しようとすれば、かなりの年数がかかる。
 その間、子どもたちは学校集団疎開させるなど、対策を打つべきだ。

 【注】「【震災】原発>除染効果の有無(2) ~効果なし~

 以上、岩田智博(編集部)「国の除染では効果がない ~山内知也・神戸大大学院教授の怒り~」(「AERA」2011年11月28日号)に拠る。
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【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~

2011年11月27日 | 社会
 1980年代以降、高度経済成長が終わり、もはや政府が経済を指導する時代ではない、という声が上がった(通産省不要論)。
 産業よりも金融を重視する金融資本主義的な動きが強まり、企業は短期的な利益を追い求め、技術開発や人材育成にお金を回さなくなった。グローバル化の結果、先進国では輸出が伸びても国内賃金が上がらず、輸出企業の利益と国民の利益が一致しなくなった。
 こういう時代には、産業を所管する経済官庁の役割はますます重要になっている。企業の利益と対立してでも経済を規制し、国民の長期的な利益につながる事業や地域共同体にお金が回る仕組みをつくる必要がある。
 だが、旧通産省/経産省は、まったく逆に、世論に押されて規制緩和と自由化を進めてしまった。致命的なミスだ。
 90年代から、新自由主義的な勢力や世論が力を持つようになった。経産省はその手先として働いた。経産省は政治力が弱い。予算が少なく、規制の権限も弱い。世論に迎合せざるをえない素地がもともとある。

 08年のリーマン・ショック以降、世界市場は縮小し、各国は限られたパイを求めて市場獲得競争を繰り広げている。
 TPPは、米国がそのために進めている構想だ。
 日本政府は、外国の攻勢から国内の市場を守り、内需を成長させるべきだ。しかるに経産省は、またしても逆に、TPPを推進して外需を取ろうとしている。
 TPP推進は、誤った新自由主義的な議論だ。被災地を見捨てる。TPPに加盟するのではないかとの不安があると、東北の農業の復興は難しくなる。

 この厳しい時代には、世論の不評を買ってもやらなくてはいけないことがある。政治家には選挙があるし、企業は利益を上げなくてはいけない。官僚だけが世論に抵抗できる。
 経産省はしかし、経産省不要論を恐れるあまり、ずっと世論に迎合してきた。

 今後経産省が果たすべき仕事は、(a)国内市場の防衛、(b)エネルギー安全保障や安全対策の強化、(c)お金を国民の長期的な利益になる方向に回すことだ。
 グローバル化を推進するのではなく、国民の利益を守る「経済安全保障省」であるべきだ。

 以上、語り手:中野剛志(京都大准教授)/聞き手:尾沢智史「〈耕論〉どうした経産省 経済安全保障省めざせ」(2011年11月22日付け朝日新聞)に拠る。
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【震災】原発>「穴」の多いコメ検査体制 ~基準越えセシウムが検出~

2011年11月26日 | 震災・原発事故
 11月16日、福島県は発表した。福島市大波地区で生産された玄米から630Bq/kgの放射性セシウムが検出された、と【注1】。食品衛生法の暫定規制値500Bq/kg超のコメは、今回が初めてだ。
 国の検査だけでは心配だ、と生産者が地元のJA新ふくしまで自発的に簡易検査した結果明らかになった。
 福島県産のコメに対する放射性セシウム検査は、10月12日にすべて終了し、翌13日に佐藤雄平・福島県知事が「安全宣言」を行ったばかりだった。
 国が定めた検査体制では「安全」、自発的な検査では「安全でない」・・・・国の検査体制の有効性が揺らぎかねない事態となった。

 政府は、コメについては「作付け制限」「予備調査」「本調査」と、他の農産物よりも厳格な三重の検査体制を敷いていた・・・・はずだった。
 (1)4月、田に水を入れる前に 土壌からセシウムが5000Bq/kg以上検出された地域でコメ作付の制限を行った。この結果、福島第一原発から半径30km圏内の約9000ha、農家戸数7000戸で今年はコメは作られていない。
 (2)9月から予備調査が行われた。土壌中のセシウム値か、空間放射線量が一定値以上となった自治体を対象に、収穫前の稲を抜き取りサンプル調査を行うものだ。
 (3)(2)で200Bq/kgを超えた自治体(「重点調査地域」)は、抽出数を増やし、収穫後に出荷を待つコメを対象に本調査を行う。ここで暫定規制値の500Bq/kgを超えたものが出ると、自治体単位で出荷停止となる。

 福島県でも、(2)予備調査が9月中に449地点で、(3)本調査が10月12日までに1,174地点で行われた。その結果、県内の48の市町村のうち、重点調査地域となったのは二本松市1市だけだった。二本松市でも、288地点で調査した結果、規制を超えるセシウムは検出されず、コメの出荷が開始された。

 だが、この検査体制には「穴」が多い、という指摘が当初から多かった【注2】。
 (a)具体的にどこを調査するかは、最終的には市町村や現地農協関係者が決めていた。より低い点での計測をしようとすれば、それができる体制だった。
 (b)調査ポイントが少ない。重点調査地域ですら、検査地点の数は15haに2地点だった。甲子園球場5個分に相当する広さの中から1点は、少なすぎるのではないか、という学識経験者の声は強かった。
 (c)厄介なことに、当初の想定以外の汚染経路の可能性がでてきた。これまで前提とされていたのは、原発事故直後に田に落ちた放射性物質による土壌からの汚染が主だった。
 今回、基準越えセシウムが検出された農家の畑は、山から水が流れ込む位置にある。山の木の葉に付着したセシウムが落葉とともに水田に流れ込んだ可能性が強いのではないか。【宮崎毅・東京大学教授】
 田には収穫前に水を抜かれるまで、水が張られている。山の湧き水や上流の用水路から水が流入するなど、ホットスポット)が発生する可能性は他の作物より高い。
 こうした可能性を考慮に入れ、専門家の知見を入れて検査地点の決定や、ホットスポット化する危険性のある箇所の重点調査などを行うべきだった。

 福島県は、大波地区の収穫米について全袋調査を行うほか、伊達市など4市12地区で一戸一袋を調べるなど追加調査を行うことを決めた。
 他方、鹿野道彦・農林水産大臣は、検査体制の見直しについて「厚生労働省や福島県と協議する」と表明するにとどめた。
 コメ検査体制への信頼が根本から崩れようとしている中、国として抜本的な体制の見直しは必要不可欠なのではないか。

 【注1】福島市大波地区の農家全154戸が生産した4,752袋の全袋検査を実施している福島県は、11月25日、34戸が生産した864袋を調べた結果、うち6戸の131袋が基準値を超えた、と発表した。最高で同1,270Bq/kgで、2戸の27袋が1,000Bq/kgを超えた。【記事「福島市大波地区のコメ、6戸で基準値超えセシウム」(2011年11月25日22時24分 asahi.com)】
 【注2】「【震災】原発>福島のコメが全国の消費者の胃袋に入るまで

 以上、鈴木洋子(「週刊ダイヤモンド」編集部)「福島県産米から基準越えセシウムが検出 コメ検査体制に突きつけられた疑問符」(2011年11月25日 DIAMOND online)に拠る。
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【経済】「億万長者激増」の政治学 ~新自由主義~

2011年11月25日 | 社会
 なぜ億万長者が激増【注】したか。

 戦後日本政治の基本構造は、米国・官僚・大資本利権複合体による支配だった。
 経済政策に「資本の論理」が突出して重用され始めたのは、小泉・竹中政治の時代だった。世界の大競争が激化するなかで、資本が求める最重要の方向=人件費コストの削減を小泉・竹中政治が後押しした。企業は歴率を回復させて浮上した。その裏側で、労働の側に重大な変化が生まれた。
 これらの構造変化がもたらされる背景に、世界経済の重要な変化があった。(a)冷戦の終焉と、(b)情報処理通信技術(IT)の飛躍的進歩だ。

 (a)によって、東側世界が新たに資本主義の大きな枠組みに組み込まれた。わけても中国の台頭は、世界経済の構造を根本から変化させる契機になった。中国が安い人件費コストを武器にして世界市場に殴り込みをかければ、先進国の当該産業が悲鳴をあげる。この図式が広がり、先進国経済は抜本的見直しを強いられた。
 時を同じくして、(b)が生じた。PCを核とする情報処理技術とインターネットを核とするITが融合され、企業の事務処理が飛躍的に効率化していった。

 (a)に伴う世界の競争激化のなかで、先進国企業は人件費コスト削減が至上課題になった。グローバルな競争市場において先進国企業が競争力を維持するには、生産に要する人件費コストを後発成長国並みに引き下げる必要がある。
 この人件費コスト削減を促進したのが、(b)だった。企業は、ビジネスモデルを全面的に変え、新技術の全面活用によって人件費コストを削減していった。ITを全面活用することで、多数の高賃金ホワイトカラー労働者を少数の非正規低賃金オペレーターに置き換えたのだ。この企業革新が、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)だ。
 BPRの嵐は、1990年代の米国で吹き荒れ、次いで2000年代の日本で広がった。この動きを加速させたのが小泉・竹中誠二の規制緩和政策だった。小泉・竹中政治は、派遣労働の範囲を製造業にまで広げた。セーフティネットを強化しないまま、企業の人件費削減を支援した。
 2008年末、サブプライム危機に伴う不況に見舞われた日本の製造業は、一斉に派遣雇用を削減した。セーフティネットに支えられない労働者は、日比谷公園の「年越し派遣村」で露命をつないだ。

 世界経済の環境変化と市場原理に軸足を置く経済政策、そのなかでの企業の人件費削減によって、日本社会には重大な構造変化が広がった。所得分配に劇的な変化が生じたのだ。きわめて厚い中間所得層が日本社会を特徴づけてきたのだが、これが消滅し、ごく少数の高所得者層と圧倒的多数の低所得者層への二極分化が急激に進行した。

 2009年8月の政権交代に求められたのは、日本社会の二極分化=市場原理主義の台頭=新自由主義経済政策に対する見直し、修正だったのは間違いない。
 民主党の内部には、①米・官・業利権複合体による日本政治支配を維持しようとする勢力と、②この基本構造を刷新して新たに国民主導の体制を構築しようとする勢力が同居している。政権交代が実現したとき、民主党を主導したのは②だった。
 政権交代当時の民主党は「国民生活が第一」のスローガンを前面に掲げ、弱肉強食社会ではなく共生社会を指向する方針を明確にしていた。日本の社会保障は高齢者や医療・保健分野への支出規模が北欧福祉国と比べて遜色がないのに対して、家族と失業に対する支出が著しく少ない。この意味では、新政権が子ども手当や高校授業料無償化などの政策を重視したことに正当な理由があった。
 ところが、こうした政策は「バラマキ」だ、との批判が強まった。2010年の菅政権発足後には主導権が①に移行し、民主党政権自身がこうした政策を自己否定する傾向を強めている。
 野田佳彦が政権を引き継いで以降、民主党政権の基本的性格はより明確に①の市場原理主義の方向に回帰し始めた。法人税減税、TPPへの積極姿勢、消費税大増税がその証左だ。

 【注】「【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~

 以上、植草一秀(経済評論家)「弱肉強食か共生か 政界再編が必要 米・官・大資本支配から脱却を」(「週刊金曜日」2011年11月18日号)に拠る。
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【震災】原発>賠償を拒否する東電側の理屈 ~裁判~

2011年11月24日 | 震災・原発事故
 東京電力福島第一原発から放出されたセシウムは、福島のゴルフ場も汚染した【注1】。
 例えば、同原発から西方45kmの「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部」を汚染した。二本松市は、3回にわたって同ゴルフ場の線量を測定。8月10日には、6番ホールのティーグラウンド地上10cmで2.91μSv/h。カート置き場の雨樋の排水口付近にいたっては51.1μSv/h、線量だけなら原発から2.4kmの大熊町夫沢とほぼ同じ高線量だった。
 「サンフィールド」は、3月12日から営業を休止した。

 8月上旬、「サンフィールド」は資産保有会社とともに、東電に原発事故による放射性物質の除染と損害賠償を求める仮処分を申し立てた。
 すると、東電は、まず測定値に難癖をつけた。<二本松市が測定に使った機材の能力や結果の記録の正確性に疑義がある。>・・・・①
 しかも、原発事故のことは何処吹く風で、<海外では、年間10mSvの自然放射線が観測される場所もある>。
 さらに、平然と責任転嫁した。<東京電力福島第一原発から飛散し、落下した放射性物質(セシウムなど)は東京電力ではなく、土地所有者のものである。【注2】>・・・・②
 この主張には驚く。放射性物質のような反価値物は所有者のものにはならないのは常識だ。【ゴルフ場側弁護団】

 10月31日、東京地裁は聞く人を唖然とさせる決定を下した。
 ①と②の2点は否定し、東電に対して除染を求める権利は認めた。ただし、実際の作業の効率などを考えると「除染は国や自治体」が行うべきもの、として、「除染」に係る東電への請求を退けた。
 しかも、休業中の維持管理費など8,700万円の損害賠償請求も、文部科学省が4月に出した学校の校庭使用基準3.8μSv/hを下回っているため「ゴルフ場の営業再開は可能」だ、と請求を却下した。

 営業再開は可能?
 キャディーなどパート15人は、震災翌日から来てもらっていない。従業員17人も、1人を除き、9月に自主退職を依頼した。【山根勉・代表取締役COO】
 7月上旬に予定されていた「福島オープンゴルフ」予選会は、県ゴルフ連盟から、高線量を理由にキャンセルされた。
 11月13日、検査機関が芝を検査したところ、235,00Bq/kgのセシウムが検出された。チェルノブイリにあてはめるなら、直ちに強制避難となる値だ。
 11月17日には、芝や土から、98Bq/kgの放射性ストロンチウムも検出された。

 除染に係る請求権まで認めていながら、除染の実行は「国や自治体」とする論理はまったく理解できない。これが判例となって、除染は東電ではなく自治体の責任となれば、地方財政を圧迫する。営業休止も、従業員や利用者の健康を考えたためだ。【ゴルフ場側弁護団】
 弁護団は、即時抗告した。

 【注1】「【震災】原発>福島のレジャー施設の損害 ~「ムシムシランド」とゴルフ場~
 【注2】<答弁書で東電は放射性物質を「もともと無主物であったと考えるのが実態に即している」としている。 /無主物とは、ただよう霧や、海で泳ぐ魚のように、だれのものでもない、という意味だ。つまり、東電としては、飛び散った放射性物質を所有しているとは考えていない。したがって検出された放射性物質は責任者がいない、と主張する。/さらに答弁書は続ける。/「所有権を観念し得るとしても、既にその放射性物質はゴルフ場の土地に附合(ふごう)しているはずである。つまり、債務者(東電)が放射性物質を所有しているわけではない」/飛び散ってしまった放射性物質は、もう他人の土地にくっついたのだから、自分たちのものではない。そんな主張だ。>【2011年11月24日付け朝日新聞「プロメテウスの罠」欄】

 以上、岩田智博(編集部)「セシウムは誰のものか ~東京地裁の決定でわかった東電のトンデモ主張~」(「AERA」2011年11月28日号)に拠る。
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【大岡昇平ノート】小林信彦と台湾沖航空戦 ~沢村栄治小伝補遺~

2011年11月23日 | ●大岡昇平
 往年の剛速球投手、沢村栄治の夭折の背景に台湾沖航空戦(1934年10月10~14日)がある【注】。
 この闘いで、日本軍は航空母艦を轟沈・撃沈11隻、撃破8隻、戦艦を轟沈・撃沈2隻、巡洋艦を轟沈・撃沈3隻、その他の戦果をあげた。
 この大戦果が、陸軍をしてレイテ決戦決断を後押しした。
 ところが、まったくの虚報だったのだ。

 大戦果を聞いて、国民はどう反応したか。
 佐々淳行『戦時少年』(文春文庫、2003)には何も書かれてない。佐々少年は、神風特攻隊の噂を聞いても、無敵連合艦隊(じつは既に壊滅していた)をまだ信じていた。
 集団疎開中の小林信彦は、もっと醒めていた。より正確にいえば、小林少年の集団疎開仲間、早坂少年は醒めていた。台湾沖とルソン島近くに米空母が19隻もいるはずがない・・・・。

 堀栄三・少佐/大本営陸軍情報部も、同じ疑問を抱いた。
 堀の専門は「米軍の戦術の研究」だった。彼は、台湾沖航空戦の直前、フィリピン行きを命じられ、そ途中、台湾沖航空戦と台風にあって、出発は延期された。
 10月14日昼、堀は古い偵察機で鹿児島県の鹿屋基地に飛び、「戦果判定」に立会することになった。彼は、まず報告されてくる戦果が、未帰還の搭乗員があげたものが多いのに気づいた。正確な数字はなく、「根拠のない歓喜」だけがある。
 堀は、新田原飛行場(宮崎県)に戻り、大本営あてに「直視した戦果」の緊急電を打った。海軍の戦果に疑いあり、という短い電文だ。夕暮れと夜間の戦闘が多く、未熟な搭乗員たちが戦果の判断を見誤ったが、「未帰還の搭乗員」への「思いやり」から上官たちはすべての報告を「戦果」にしていたのだ。

 海軍上層部は、大戦果が幻であることを10月16日午前に知った。
 ところが、同日昼前、昭和天皇は勅語を発表する考えを明らかにした(木戸幸一内大臣の日記)。
 海軍上層部は追いつめられた。海軍は、戦果が怪しいことを陸軍に知らせなかった。

 10月16日、フィリピンのクラーク飛行場に到着し、大きな衝撃を受けた。
 もう大丈夫だ、と一人の参謀は言った。
 「なんですか?」
 問いかける堀に、相手は、
 「知らんのか、昨日のラジオ放送を」
と怪しむような顔をした。台湾沖航空戦は大勝利で、敵空母を19隻撃沈撃破した、という。「朕深ク之ヲ嘉尚ス」

 こうして、堀の貴重な情報は葬られた。電文は、陸軍電報綴りの中に残っていない。
 この時、電報を「握り潰した」のは、瀬島龍三・中佐/大本営陸軍部作戦参謀だった。瀬島は堀に語った。「あの時、自分がきみの電文を握り潰した。戦後、ソ連から帰ったら、何よりも君に会いたいと思っていた」
 握り潰したことが、「こちらの作戦を根本的に誤らせた」とも瀬島は明言した。
 しかし、後に刊行された瀬島の回想録では、「台湾沖航空戦のころは自宅で静養していた」と書かれている。「握り潰し」は堀の思い違いではないか、と編集部は注している。
 陸軍部と海軍部は対立していた。陸軍部の中でも、情報部(堀が属する)と作戦部(瀬島が属する)は反目していた。作戦部は情報部の報告を軽視し、捨てる傾向があった。
 まして、勅語が出たのでは、堀の正論は通らない。
 この戦果発表の誤りは、陸軍出身の小磯首相さえ、すぐには知らなかったふしがある。
 他方、レイテ決戦に批判的な山下泰文・大将/第14方面軍司令官は、襲来する敵航空機が減らないことから、大戦果は誤報と察していた。しかも、堀が部下に配属された。
 しかし、寺内寿一・大将/南方軍総司令官はレイテ決戦の命令を撤回しなかった。
 その結果、制海権と制空権を喪失した日本軍は、レイテ島とその周辺海域で人員と物資をひたすら消耗していった。

 【注】「【大岡昇平ノート】沢村栄治の悲劇 ~原発・プロ野球創成期・レイテ戦記~

□小林信彦『東京少年』(新潮社、2005)
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【心理】沢村賞選考委員による、「マー君に“ガッツポーズ禁止令”」の時代錯誤

2011年11月22日 | 心理
 11月14日、野球で活躍した投手OB5人による沢村賞選考委員会によって、楽天・マー君の沢村賞が決定した【注】。
 メデタシ、メデタシなのだが、その後がいけない。

 <ただし、その後に付け足された注文には首をひねらざるを得ない。5人の選考委員全員が田中将のマウンドでの立ち居振る舞いを問題視し、「派手なガッツポーズや雄叫びを控えるように」との要望を出したのである。>
 <確かに田中将は感情が表に出るタイプの投手だ。しかし、それが大きな魅力でもある。試合の序盤で相手打線を抑えている時は、クールに淡々と投球する。だが、絶対に打たれてはいけない勝負どころになると表情が一変。目はつり上がり鬼の形相になる。横浜やMLBマリナーズのクローザーとして活躍した佐々木主浩氏はその活躍度や姿かたちから「大魔神」と呼ばれたが、勝負どころで見せる田中将の表情は大魔神以上の迫力がある。>
 <そしてその鬼の形相から、「打てるもんなら打ってみろ」とばかりに渾身の力でボールを投げ込み、打ち取るとガッツポーズをし雄叫びを上げる。テレビ中継でこの姿を見れば、楽天ファンでなくても、画面に引き込まれるはずだ。>
 <また、スタジアムで観戦しているファンにしてもガッツポーズを否定する人はほとんどいないだろう。ファンは勝敗や好プレーを観るだけでなく、選手と感情を共有することを望んでいる。今では殊勲打を打った選手の名前をコールし、選手がそれに応えるとファンが大歓声を上げるという“儀式”が慣例化しているが、これはファンが選手と気持ちを通じ合わせたいからだ。ガッツポーズもそれと同様で、ファンにとっては選手の気持ちをくみ取り、盛り上がるために欠かせないものとなっている。このどこがいけないのだろうか。>

 どこがいけないのだろうか?

 今の沢村賞選考委員は、土橋正幸委員長以下、堀内恒夫、平松政次、村田兆治、北別府学の4氏。
 彼らがガッツポーズを問題視するのは、野球に日本古来の武道に見られる精神性を求めているからではないか。剣道・柔道・合気道・空手道・相撲道など、「道」がつく競技は礼に始まり礼に終わる。相手に対する礼儀から、勝利の喜びを露わにしてはいけない、と指導される。
 だが、野球は武道とは性格の異なるスポーツだ。盗塁、かくし球などがあって、「道」に通じる精神性を求めるのはそもそも無理だ。
 何よりも、プロ野球は娯楽なのだ。娯楽である以上、観客に満足してもらわなければならない。ガッツポーズは選手本人の感情表現に止まらず、スタジアムを盛り上げるのには欠かせないパフォーマンスだ。

 選考委員の現役時代は、国民の多くがプロ野球に関心を持ち、選手がパフォーマンスをしなくても中継を見た。選手はプレーに集中していればよかった。また、5人が投げていた頃は、上下関係がうるさかった。スタンドプレーは先輩から剣突を食らったのかもしれない。
 そんな感覚が残っているから、ガッツポーズが気に入らないのだろう。
 時代の変化とともに選手のあり方やファンとの関係が変わってきていることを察知できていないらしい。

 このたび、田中は、満点の対応をした。受賞を喜びながらも、ガッツポーズ禁止令にはノーコメントを貫いた。
 来季も、田中は変わらずガッツポーズや雄叫びを見せてくれるはずだ。それでこそ現在の球界を代表する投手だ。

 【注】「【心理】楽天・マー君に凄みが出た秘訣 ~変わる人は変わる~
    「【心理】祝! 楽天・マー君の沢村賞初受賞

 以上、相沢光一 (スポーツライター)「沢村賞受賞のマー君に“ガッツポーズ禁止令” 球界OBは古い考え方を改め、プロ野球人気回復に貢献を」(DIAMOND online)に拠る。
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【震災】原発>事故が明らかにした権力構造 ~街頭の民主主義~

2011年11月22日 | 震災・原発事故
 福島第一原発事故が明らかにしたのは、日本政治における民主主義の欠乏だ。
 従来、自民党と官僚による長期支配の中で、政官財(業)の鉄の三角形が各領域の政策形成を壟断した、と言われてきた。<それでも、私のように日本政治に批判的な批評をしてきた者さえ、鉄の三角形がここまで犯罪的なことを国策の名のもとに行ってきたとは、原発事故までわからなかった。>

 この事態を民主主義の欠乏と呼ぶ理由は、次のとおり。
 リンカーンの定義によれば、民主主義とは「人民の(of)、人民による(by)、人民のための(for)政治」を意味する。
 ここで問題となるのは、バイとフォーの関係だ。戦後日本では、バイの契機は封じ込められ、もっぱら官僚がフォーの中身を定義してきた。原発推進がその典型例だ。
 フォーには○○のために、という意味と並んで、○○に代わって、という意味もある。
 官僚支配においては、国民のために、という看板の下に、官僚が国民に代わって政策を立案、実行してきたのだ。
 そこでは、異論は徹底的に無視、封殺された。学者、専門家、メディアも動員され、「国民のため」の政策宣伝に加担してきた。
 官僚や専門家は、福島第一原発のメルトダウンを「想定外」と言い訳したが、これはまったくの虚偽だ。
 良心的な専門家は地震や津波に対する不備があることを指摘してきた。官僚や専門家は、こうした警告を作為的に無視し、あえて想定しなかっただけだ。
 このような構図は、丸山真男がアジア太平洋戦争について指摘した「無責任の体系」から一歩も抜け出していない。
 
 政策立案の当事者は、それぞれ、これこそ国のためと信じて政策を立案した。その善意ゆえに、異論を邪論として退け、あらゆる異議に耳をふさいできた。あまつさえ、国民を洗脳し、国策を受容させてきた。
 政策が破綻すると、自分は一生懸命やったとか、その時はみんな同じ方向を向いて政策をつくる空気が支配していた、と言い訳する。満州事変以来80年、この国の政策決定は何も変わっていない。

 このような近代日本の宿業から抜け出すためにこそ、民主党は力を振り絞らなければならない。自民党政権ではできないであろう情報公開と責任追及こそ、民主党の使命だ。
 野田政権は、瓦解寸前の民主党が緊急避難として選んだ政権だ。この政権で税・社会保障改革やTPPについて大規模な政策を決定するのは無理だ。むしろ、3・11以降の眼前の問題について、徹底的に対症療法を重ねるべきだ。
 特に問題となるのは、脱原発の具体化だ。しがらみにからめとられて電力業界の既得権を守るようなら、民主党など解散した方がよい。

 最後に訴えたいのは、市民としての能動性だ。民主主義は、国会の中や選挙の時だけ存在するのではない。街頭にも民主主義はある。社会運動と政権与党の政策形成が連動してこそ、世の中を変える政策を実現できる。
 自然災害や人為的な政策の失敗は、この世につきものだ。大事なことは、そうした問題が生じた時に、被害を最小限に食い止めること、そしてなるべく早く方向転換することだ。民主主義とは、そのための仕組みだ。多様な議論、市民の自由な意思表示。そのような世の中こそ、自己修正能力、復元力をもつ民主政体だ。

 以上、山口二郎(北海道大学公共政策大学院法学研究科教授)「政治的意思のない民主党が抱いていた大きな錯覚とは」(「朝日ジャーナル」2011年10月25日発行 緊
急増刊号)に拠る。

 【参考】「【震災】原発事故にみる戦後デモクラシーの欠落 ~for the peopleの二重性~
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【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~

2011年11月21日 | 社会
 福島原発事故を起こした東京電力の社長の報酬は、なんと7,200万円だった。
 国に守られた事実上の官制企業だから、報酬は国家公務員並みに落とすべきだ【注】。

 じつは、日本社会全体が「東電化」している。年間報酬5,000万円以上受け取っている人(数年で億単位の資産を築ける「億万長者」)が、この10年間で急増した。
 給与所得者のうち年間報酬5,000万円以上の人は、1999年には8,000人強だったが、2008年にはその2.5倍の2万人弱に達した(国税庁・源泉徴収申告事績)。
 また、年収5,000万円以上の個人事業者は、1999年にはわずか574人しかいなかったが、2008年には7,589人に激増している(国営庁・確定申告データ)。
 個人投資家は申告の必要がないので国税庁には申告データがない。しかし、企業配当金の額はこの10年間で4倍になっている。その収入を受け取っているはずので個人投資家も相当収入が増えているはずだ。
 これらのデータから推計すれば、日本人全体のなかで億万長者は、10年間に、3倍以上は増えているはずだ。いま、最低5万人いる、と推定される。
 日本に1,400兆円の個人金融資産があるが、その多くを持っているのは、この億万長者たちだ。

 他方、日本の会社員の給料は、この10年間、下がり続けてきた。

 金持ちは、お金に余裕があるので、収入のごく一部しか消費にまわさず、残りは貯蓄(投資を含む)する。
 他方、庶民は、お金に余裕がないので、収入のほとんどを消費にまわす。
 したがって、庶民の収入が減り、金持ちの収入が増えれば、消費が減り、貯蓄が増える。
 つまり、金持ちが増え、格差が広がると、景気は悪化する。
 現に、高額所得者が激増したこの10数年間、日本の消費は減り、貯蓄ばかり増え続けた。その結果、景気は低迷し続けた。

 ちなみに、日本経済が一番強かった時代は、「一億総中流」と言われ、格差が非常に小さかった。
 この時代は、国民全体の収入が増えていたので、消費も伸びた。消費が伸びたので、好景気が続いた。

 日本がしなければならないことは、明らかだ。まずは、金持ちからもっと税金をとることだ。
 野田政権が画策しているように、金持ちにも庶民にも等しく負担させる消費税を増税することではない。

 【注】<枝野幸男経済産業相は26日、原子力損害賠償支援機構の開所式で、「現在の電力会社の構造であれば、公務員や、せめて独立行政法人と横ならびで役員の給料が決まって当たり前だ」と述べ、公益事業を担う電力会社が役員に高額の報酬を払っていることを強く批判した。/枝野経産相は「競争が全くなく、利益がほぼ確実に確保されるのに、役員報酬が民間企業に準じて決められているのは論理矛盾だ」と指摘。今後、東京電力に限らず、他の電力会社を含めた役員報酬制度の見直しにつなげる狙いがあるとみられる。>【記事「枝野氏、電力役員の高額報酬批判「公務員と横ならびに」」(2011年9月26日付け朝日新聞)】

 以上、武田知弘「今、億万長者が激増している! ~数字が見抜く理不尽ニッポン 第1回~」(「週刊金曜日」2011年11月18日号)に拠る。
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【経済】中野剛志『TPP亡国論』

2011年11月20日 | 社会
 15万部超も売れている本書の、760円+税の本代を惜しむ人は、中野剛志へのインタビュー「TPPはトロイの木馬──関税自主権を失った日本は内側から滅びる」を参照するとよい。
 本書の主な論点は、このインタビューに集約されている。
 TPPは米国の輸出倍増計画の一環として推進されている、とする著者の観点を共有できるならば、中野のTPP批判はすんなりと受け入れられるだろう。
 米国は、リーマンショック以降、消費・輸入で世界経済をひっぱることができなくなり、輸出拡大戦略に転じた。世界不況でEUもガタがきて、どの国も世界の需要をとりにいこうとしている。ことに先進国は世論の支持が必要なので、雇用を守るために必死になる。
 本当は、日本がデフレを脱却して経済を成長させれば、日本の関税は低いから輸入が増える。
 米国としては、それをしてほしかった。ガイトナー財務長官は2010年6月、日本に内需拡大してくれ、という書簡を送った。ところが、日本は財政危機が心配だ、と財政出動せず、内需を拡大せずに輸出を拡大しようとするので、米国は待ち切れずにTPPに戦略を変えたのだ。米国は、「とりあえずTPPを進めれば農業は儲かるからいいや」となった。
 ちなみに、日本から米国への輸出増は、米国の貿易赤字減らし政策からして、見込めない。そもそも、失業率が10%の米国で何を売るのか。

 しかし、当然ながら、本書は前掲インタビューよりさらに議論を展開させている。
 例えば、日本がめざす輸出主導の成長戦略は、破綻した。グローバル・インバランスの是正のため、世界経済再建のため、日本は輸入を拡大すべきだ。大規模な公共投資を行い、デフレを脱却して経済を成長させ、国民所得を向上させれば、これが可能になる。そのためにも、TPPに参加すべきでない。TPPに参加すれば、デフレが悪化するからだ、云々。

□中野剛志『TPP亡国論』(集英社新書、2011)

 【参考】「【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
     「【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
     「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
     「【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
     「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
     「【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
     「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
     「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
     「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
     「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
     「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
     「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
     「【震災】復興利権を狙う米国
     「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題
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【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ

2011年11月19日 | 震災・原発事故
 TPP参加を唱える「TPP亡者」たちが、大震災で危機的状況の日本をかき回し始めた。
 この悪ガキ連中は、流通・消費がまったくわかっていない。経済は、製造業や経済界が動かしているわけではない。消費者が動かしている。
 TPPによって輸出が増える、というのは経済産業省や経済界の妄想だ。だから大枠の数字だけで、どの国に何がどのくらい売れるか、具体的な数字が一切出てこない。妄想のために日本の食を犠牲にするのは、あまりにも無謀だ。

 TPPにかまけている暇はない。日本の第一次産業は、福島原発事故の放射能汚染で、国内でも信用をかなり落としている。汚染された日本の食品より輸入品のほうが安心、という消費者も増えた。国産品の信頼は地に墜ちた。国内で信用されていない農産物が、海外の人に信頼されるわけがない。
 
 横浜市でストロンチウムが検出され、千葉県柏市では57.5μSv/時という異常な高濃度のホットスポットが見つかった。われわれの想像以上に、はるかに広範囲に、高濃度に首都圏は汚染されているかもしれない。
 今、日本がしなければならないことは、「国民の命・健康・財産をいかに守るか」だ。そして、「どうやって安心・安全な食を作るのか」だ。それに尽きる。

 野田首相は、対外的にはドジョウのような笑顔をふりまき、米国産牛の規制緩和、仏産牛の輸入解禁など何でも簡単にOKしてしまう。他方、国内ではフグのような仏頂面になり、何も語らず、何もしない。
 一時でも国民の目を原発事故から逸らしたいのだ。露骨な放射能隠しだ。
 ドジョウ内閣は、まず土壌と水と空気ををきれいにすることだ。さもなくばドジョウは生きていけない。一匹のドジョウがどうなろうと構わないが、まわりの生きものがその犠牲になってはたまらない。
 TPPよりも、今は放射能対策だ。

 以上、垣田達哉(消費者問題研究所代表)「TPP亡者たちに告ぐ。今、日本に必要なのは放射能対策だ」(「週刊金曜日」2011年11月11日号)に拠る。

 【参考】「【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
     「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
     「【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
     「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
     「【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
     「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
     「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
     「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
     「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
     「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
     「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
     「【震災】復興利権を狙う米国
     「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題
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【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」

2011年11月18日 | 社会
 鈴木宣弘・東京大学教授(農業経済学・国際貿易論)によれば、TPPをめぐる構図は、「国益 対 農業保護」ではなく、「輸出産業(の経営陣) 対 広い分野」の損失だ。具体的な損失は、次のとおり。

 (1)製造業における雇用喪失
 (2)金融・保険・法律・医療・建築など、労働者(看護師・介護士・医師・弁護士等)の受け入れを含むサービス分野の喪失
 (3)繊維・皮革・履物・銅板・コメ・乳製品等の重要品目の損失
 (4)食糧生産崩壊による国家安全保障リスクの高まり
 (5)水田の洪水防止機能や生物多様性の喪失、国土・地域の荒廃等

<例1>製造業【注1】
 米国は、自動車の非関税障壁について、日本の自動車の低燃費やハイブリッドの技術を透明にせよ、と要求している。エコカーへの補助金も競争ルールに反する、とも言っている。日本の代表的な製造業である自動車にも悪影響を及ぼすおそれがある。

 【注1】「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~

<例2>医療【注2】
 混合診療などの医療保険が対象になることも、11月7日になって初めて民主党の経済連携PTが認めた。
 政府の隠蔽体質は許せない。菅政権時代にTPP参加による医療分野への懸念について質問したが、政府は「医療は交渉の参加の議題に上がっていない」と言い続けてきた。しかし、政府の資料には「医薬品」ということで話し合われていた。【川田龍平・参議院議員(みんなの党)】

 【注2】横田一(フリージャーナリスト)「壊滅するのは農業だけじゃない 党内対立激化で野田政権も崩壊か」(「AERA」2011年11月21日号)
 
<例3>食糧の安全保障
 日本の食糧自給率は、40%から50%に増やす計画だったが、TPP参加によって、逆に13%に激減する(農水省試算)。

 以上、横田一「『TPPは日本の食も農も社会全体も破壊する』」(「週刊金曜日」2011年11月4日号)に拠る。

   *

 TPPに参加して成長するアジア市場を取りこむ、アジアに輸出を増やせる、という意見はウソだ。肝心の中国、インド、韓国などが不参加だ。【金子勝・慶應義塾大学教授】
 TPPに参加すると、関税が撤廃されて日本に安い品物が入ってくれば、デフレが加速し、賃金が下がる。弱い立場の派遣労働者などが真っ先にあおりを受ける。国民を守らない政府に人々が不信感を募らせれば、政党政治が崩壊する。どの政権も無責任で情報隠しばかりやっているから、国民に選択肢がなくなる。【同】

 以上、直木詩帆/藤後野里子「TPPで製造業も壊滅、自殺行為」(「サンデー毎日」2011年11月27日号)に拠る。

 【参考】「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
     「【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
     「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
     「【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
     「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
     「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
     「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
     「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
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     「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
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     「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
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【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~

2011年11月17日 | 社会
●TPPやTFAは経済ブロック協定
 TPPは、貿易自由化ではない。貿易不自由化だ。
 経済ブロック協定=仲よしクラブの中心の米国は、対中国戦略=中国排除政策を考えている。米国は、日本は入れるが、中国は入れない。
 中国には、TPPに加入するメリットはない。TPPに中国が加入しようと加入しまいと、中国の輸出は伸びる。
 TPPにISD条項があることからしても、中国の参加はありえない。

●TPP=中国排除政策への中国の対抗策
 米国がTPPで日本と組めば、中国は別のところと組む。中国はすでにアジア諸国と組んでいるが、EUとFTAを結ぶ可能性がある。EUの関税は米国の倍ぐらいあるから、中国にとって輸出増となるメリットがある。EUにとっても、中国が関税を下げるメリットがある。EUといっても独国が中心だ。独国は歴史的に中国と深い関係がある。だから、中国版新幹線もシーメンスがとった。フォルクスワーゲンも中国で強い。そういうことが拡大されて、中国市場は独国に席巻される可能性がある。
 日本は、自動車生産のための部品や機械(中間財)を輸出している。日本の最大の輸出先は中国だ。
 中国とEUが結べば、日本車は排斥される。日本は輸出の生命線を失う。TPPによって、日本の製造業は壊滅する。

●経済効果のないTPP参加
 野口の試算によれば、TPP参加で増える輸出はわずか0.4%だ。10月25日に内閣府が出した試算でも、TPPの経済効果は年平均0.5%だ。
 要するに、TPP参加による経済効果はほとんどない。
 米国に対する自動車輸出は、もう望めない。経済危機前は、住宅ローンで車を買っていた。しかし、2007年にキャッシュアウト・リファイナンスのメカニズムは崩れた。だから、もはや関税の問題ではない。
 関税より為替変動効果のほうが大きい。

●国際経済の中で日本はどうすべきか 
 島国が生きる道は、英国のように、世界中と付き合うことだ。それこそ貿易自由化だ。
 第二次世界大戦の遠因となった世界経済のブロック化、戦後のEUやNAFTAには反対だ。

 以上、記事「野口悠紀雄がTPPに吠える TPPで崩壊するのは製造業だ」(「AERA」2011年11月21日号)に拠る。

   *

 TPPに参加すると、製造業が打撃を受ける。殊に、日本の製造業が打撃を受ける。何故か。

 APECで参加表明すると、TPP参加国の承認が必要になる。米国の場合、交渉参加の90日前までに議会に報告し、上下院の承認を得ることになる。しかも、議会承認の前に事前協議を行う必要がある。
 根回しのような事前協議では、例外が設定されることなく、あらゆるものが対象になる。日本の除外項目が認められる余地はない。日本が除外項目を要望できるのは、米議会で承認された後、交渉が始まってからだ。【外務相の担当者】
 事前協議(3ヵ月程度)を経て交渉に参加する2012年春から夏頃には、ルール作りはほぼ終了する。日本は関与できない。【政府の内部文書】
 ところが、これまで政府は、APECでTPP交渉への参加表明をすればルール作りには間に合う、と説明してきた。

 漆原良夫・公明党国対委員長は、11月6日、NHK公開討論番組で、ルール策定作業への日本の参加は実質的に困難になりつつある、と米側が指摘した政府内部文書について質問したが、平野博文・民主党国対委員長は、よく知らない、と答えるだけで、政府の情報隠蔽/改竄疑惑を認めなかった。

 ところで、事前協議で話し合われるのは、米国産牛肉の輸入規制のほか、保険、非関税障壁など。米国は、自動車の非関税障壁について、日本の自動車の低燃費やハイブリッドの技術を透明にせよ、と要求している。エコカーへの補助金も競争ルールに反する、とも言っている。【山田正彦・元農水相/「TPPを慎重に考える会」会長、於11月7日の集会】
 日本の代表的な製造業である自動車にも悪影響を及ぼすおそれがあることが、今頃わかった、というのだ。
 「農業だけが打撃を受ける」「農業対製造業」というTPP推進派の説明は、事実に反していた。

 以上、横田一(フリージャーナリスト)「壊滅するのは農業だけじゃない 党内対立激化で野田政権も崩壊か」(「AERA」2011年11月21日号)に拠る。

   *

 情報隠蔽どころか、ろくに調べていない。
 野田佳彦・首相は、11月11日の国会質疑で、ISD条項のことを「あまり詳しく知らなかった」と答弁した。

 以上、直木詩帆/藤後野里子「TPPで製造業も壊滅、自殺行為」(「サンデー毎日」2011年11月27日号)に拠る。

 【参考】「【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
     「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
     「【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
     「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
     「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
     「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
     「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
     「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
     「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
     「【震災】復興利権を狙う米国
     「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
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