語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】いざという時ほど基礎的学習が役に立つ ~昭和史(3)~

2015年11月05日 | ●佐藤優
 (承前:昭和史を武器に変える10の思考術)

(3)いざという時ほど基礎的学習が役に立つ
 「想定外」の事態に対処する資質とは何か。
 特別なものは不要で、最も有効なのは基礎的な学習だ。
 福島第一原発事故で「想定外」という言葉が盛んに言われた。佐藤優は、早い時期から事態が危機的なものであることを知り、何度も指摘した。それを可能にしたのは、わずか二冊の本だ。
  (a)高校の教科書「物理Ⅱ」・・・・半分が原子物理学の話で、原発の仕組みが詳しく書いてある。
  (b)『改訂 原子力安全の論理』(日刊工業新聞社)・・・・書店員が「これが一番売れている」と推薦した。
 (b)の著者・佐藤一男は、1999年に東海村で臨界事故が起きたときの原子力安全委員会委員長だ。彼はそのときの自分の経験をベースとして1984年に刊行した本を、2006年に大改訂した。そこには、「安全とは主観的判断にすぎない」「絶対の安全は存在しない」と書いてある。事故の可能性を低くすることはできるが、確率論的にいえばゼロはない。想定外の事故は起きる。その起きるときの子細を想定して、どれとどれが結びつくかによってほぼ無限の可能性があるのだから、現実に起きる事態は全部想定外なのだ、と書いてある。
 これを読んだ時点で、「原発は絶対に安全だ」と連呼した専門家はウソを言っている、と見抜くことができる。
 さらに、正解はない中でいかに想定外の事態の処理をするか、シミュレーションしておかなければならない、と佐藤一男は説く。(b)の著者にとって、福島で起きたことは「想定内」なのであった。
 以上、要するに、(b)は事故に対する基本的な考え方を教えている。
   ①安全は確率論的にしか考えられない。「絶対」はない。
   ②危機の対応にあらかじめ用意された「正解」はないと知っている者だけが、「やるべきことをやる」ことができる。
 (a)と(b)を基にした佐藤優の判断は、その後も大筋を外れることはなかった。突発的な不測の事態で役に立つのは、最も基礎的な学習だ。

□佐藤優「昭和史を武器に変える10の思考術」(「文藝春秋SPECIAL」2015年秋号)
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 【参考】
【佐藤優】現場にツケを回す上司のキーワードは「工夫しろ」 ~昭和史(2)~
【佐藤優】実戦なき組織は官僚化する ~昭和史(1)~

  

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