語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【言葉】感情を殺した表情

2019年03月13日 | 心理
 私は、企業との交渉などで、つねに人々の怒りを鎮める効果があるように思える、完全に感情を殺した表情で彼を見ていた。

□ディック・フランシス(菊池光・訳)『骨折 BONECRACK』(ハヤカワ・ミステリ文庫、1978)から引用
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【言葉】年齢と時間意識

2019年03月13日 | 心理
 齢(とし)のせいか、ボヤっとしているうちに時が過ぎていく速度が早くなってきたような気がしてならない。

□宮脇俊三『旅は自由席』(新潮社、1991/のちに新潮文庫、1995)の「大前という終着駅」から引用
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【心理】職場のストレス対処法 ~ABC理論、ストレス日記、四つのR、GNN~

2018年04月22日 | 心理
(1)ABC理論
 金太郎(かねたろう) さあ、今日はいよいよ本題の「ストレス対処法」だね!
 得子(とくこ) では、まず質問。一言でストレスっていっても、とらえ方次第で変化するって、知ってた?
 金 いや、知らなかった。
 得 それじゃあ、ストレスとうまくつき合うための「ABC理論」から説明するわね。
 金 ABC?
 得 そう。Aは「Activating event(出来事)」。Bは「Belief(信念・価値観)」で、その人なりの物事のとらえ方のことを指すわ。難しい言葉で、「認知」というのよ。最後のCは「Consequence(結果)」。出来事の結果として表れる感情や体調の変化のことをいうの。
 金 ABCの意味はわかったけど、どう関係しているの?
 得 ストレスの原因となる出来事(A)を受けた結果として、今の心身の状態(C)が決まると思いがちだけど、違うの。AとCの間には、Bというフィルターがあるのよ。

(2)「ストレス日記」
 金 難しくなってきたな。
 得 簡単よ。例えば、「プレゼン資料の内容について、上司から厳しく叱責(しっせき)された」という出来事があった、と仮定しましょう。金ちゃんなら、どう感じる?
 金 そりゃ落ち込むに決まってるでしょ。
 得 でも、例えば「僕の将来のことを考えて叱ってくれた」「人前ではなく、個室に呼んで叱ってくれた」と考えてみたらどう?
 金 ちょっと気が楽になるかな。
 得 でしょ? これは「認知を変える」というのよ。精神療法の一種「認知療法」を応用した考え方よ。
 金 でも、今の上司のことを考えると、そう簡単に前向きにはなれないなあ。
 得 うん、わかるよ。そこで一つの方法として、日記をつけることをお勧めするわ。その日のストレスの元になった出来事を書き出すの。そのときの怒りや落ち込みなど、浮かんだ感情のキーワードを点数化してみて。何日か経って、少し客観的に日記を読み返すと、その点数が下がっていると思うわ。新しい点数は、赤字で「上書き」してね。
 金 日記をつけるコツはある?
 得 数日後に日記を読み返すとき、「こうあるべきだ、と決めつけていないか」「悪いことを、針小棒大にとらえていないか」「完璧主義に陥っていないか」などを意識するの。これを繰り返していくと、自分の「考え方の悪い癖」がわかって、少しずつ前向きな考え方ができるようになるはずよ。

(3)「四つのR」と「GNN」
 金 よし、やってみよう! あとは、どんな対処法があるの?
 得 「四つのR」と「GNN」ね。
 金 何かアルファベットの頭文字が多いなあ(笑)。
 得 覚えやすいからね。四つのRは、(1)Rest(休息)、(2)Recreation(遊び・気晴らし)、(3)Relaxation(神経を休める)、(4)Retreatment(転地療法)のことよ。(1)は睡眠やマッサージ、(2)はスポーツやカラオケとかね。(3)は、例えば呼吸法やアロマセラピー、(4)は旅行とか森林浴など、非日常の場に身を置いてリフレッシュすることね。
 金 GNNは?
 得 それゃ、決まってるじゃん。義理、人情、浪花節だよ、人生は! 成果主義の導入などで、今の日本の会社には、そういう人間的な温かさが減ったのよ。無駄話の多い職場はメンタルの健全度が高い、ともいわれてるわ。実は、GNNが職場のストレス改善に一番大事かもね。

 取材協力・渡部卓さん(帝京平成大学現代ライフ学部教授、ライフバランスマネジメント研究所代表)
 (構成・佐藤陽)=全4回

 【職場のストレス対処法は?】
●ABC理論→同じストレスの元になる出来事でも、物事のとらえ方次第で、不快な感情は減らせる
●物事のとらえ方をポジティブに変えるため、「ストレス日記」をつける。怒りや落ち込みを点数化し、数日後に見直すことを繰り返す
●休息(レスト)や気晴らし(レクリエーション)など「四つのR」も重要
●義理、人情、浪花節の「GNN」も大切に

□「(知っ得 なっ得)ストレスとつき合う:2 どう対処すればいい?」(朝日新聞デジタル 2018年4月14日)を引用、かつ、小見出し追記
(知っ得 なっ得)ストレスとつき合う:2 どう対処すればいい?
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【心理】差別の発生と解消 ~男女、人種、身体~

2018年02月03日 | 心理
 <「維摩(ゆいま)経」の中に、シャーリプトラが天女に向けて「あなたは神通力があるのに何故女身を転じて男の身にならないのか」と尋ねる箇所がある。天女は答える。幻には一定の特性はなく、一定の特性がない以上どうしてそれを別なものに転ずる必要がありましょうか。一切の女人は女身を現しているだけの幻にすぎないのです。そういって、問いかけたシャーリプトラを女に変えてしまい、逆に天女が男となって、どうしてあなたは女身を転じて男にならないのかと皮肉な反問をする。結論は、一切のものは、男に非ず女にも非ず、死ぬこともなく生まれることもなく、有ならず無ならず・・・・>【注】

  【注】高橋和巳「女と胡蝶」(『孤立無援の思想』、河出書房、1966)

 *

 (1)ジェーン・エリオットは、米国アリゾナ州ルイスビルの小学校教師である。
 1968年、キング牧師の暗殺を契機に、自分の学級で人種差別の問題をとりあげた。その実験授業は、こんなものだった。

 (2)初日、青い目の人は茶色い目の人より優秀だ、と切り出して、青い目の子ども達を特権的に扱う一方、茶色い目の子ども達には黒い襟をつけさせて差別的に扱った。
 その結果、青い目の子どもたちは茶色い目の子ども達を見下し、差別するようになった。
 他方、茶色い目の子ども達は一日中抑圧された気分に陥り、青い目の子ども達に攻撃をしかける子どもも出てきた。

 (3)二日目、エリオットは生徒達に、自分は間違っていた、実は茶色い目の人のほうが青い目の人より優秀なのだ、と述べて、初日とは逆に茶色い目の子ども達を特権的に扱い、青い目の子ども達を差別的に扱った。
 すると、前日元気のなかった茶色い目の子ども達は生き生きとなり、算数の問題を前日より早く解くことができた。
 他方、青い目の子ども達はうって変わって自信をなくし、同じ算数の問題を解くのにかかる時間が前日より長くなり、茶色い目の子ども達より遅くなってしまった。

 (4)三日目、エリオットは、目の色で人を区別することに意味があるか、と生徒に尋ねた。答えは全員、否定的だった。
 かくて、エリオットは、生徒達に、体の一部を理由に他の者を差別することの不当性を体験を通じて学習させることができたのである。

 (5)実験授業は録画され、全米各地で上映された。その上映会でエリオットは講演し、いろいろな企業で同様の実験を行ってみせた。
 エリオットいわく、「この授業はすべての教育者、そして行政当局に対して行われるべきだ」

□米谷淳、米澤好史編著『行動科学への招待 -現代心理学のアプローチ-』(福村出版、2001)
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【独学】を今こそ始めよう! ~東大教授が勉強のコツを伝授~ 

2017年10月05日 | 心理
Q1 独学のメリットは?
A 独学の良い所は、自分の空いている時間に、自分のペースで勉強できるということです。
 (中略)独学をしていてしばしば起きる間違いは、全部を均等なペースで勉強してしまうこと。分からなくて時間がかかる所はすっ飛ばし、すぐ理解できる所にも均等に時間をかけてしまうと、分からない所は分からないままになり、もっと速く進める所で時間を浪費することになる。
 それぞれの人に合ったペース、それぞれの科目に合ったペースで学ぶことがとても大事です。

Q2 自身の独学経験は?
A (中略)ブラジルでは、大検を目指して独学しました。教材として使ったのは、日本の参考書や問題集です。日本の参考書は解説がとても分かりやすく、よくできているので、一人でも勉強しやすかった。ただ、1冊だけでは理解できないこともあるので、日本からブラジルに行くときには、各科目について3冊くらい参考書を買い込んで船便で送りました。(中略)

Q3 意志が弱くてもできる?
A (中略)では、続けるにはどうすればいいか。
 僕の場合は、目標の3割ぐらい達成できたら上出来だと考えてやっていました。だったら目標を最初から下げればいいと思うかもしれませんが、僕の場合は、目標を3割に下げたら、今度は下げた目標の3割でよしとしてしまう(笑)。だから、目標は高めにしておくくらいでちょうどよかった。(中略)
 社会人が忙しい中、ちょっとずつ時間をつくって勉強するのですから、そんなにきちっとできるわけがない。できないときはできないでいいし、時間があってやる気になったときに進めればいい。

Q4 本はどう読めばいい?
A 本を読むことは、本の内容を覚えて、知識として頭の中に入れることだと考えがちです。しかし今必要とされているのは、単に書かれていることを覚えるのではなく、書かれていることを通して、自分がどう考えているかという自分の思考を深めていくことなんです。
 今の時代、知識やデータはタブレット端末1台で持ち運べてすぐに取り出せる。情報を頭の中に入れ、字面を暗記することには意味がありません。
 では、どうすれば読書によって思考を深めることができるのか。
 大事なのは、書いてあることをうのみにせず、疑ってかかることです。書いてあることを素直に受け取ってしまうと、それ以上思考が深まらない。あえて疑い、あえて反論してみる。自分で考えながら批判的に読むことが重要です。(中略)
 僕の場合、本を端から端まで全部読むことは少ないかもしれません。途中でやめることもありますし、必要な部分だけを読むこともある。本を読むのはあくまで自分の思考を深めるためで、全部読むことが目的ではないと割り切っているからです。極端なことを言えば、1ページだけでも自分にとって重要なことが得られれば、その本を読む価値はあったと考えればいいのです。

Q5 独学で大事なことは?
A 独学に欠かせないのは、学んだことをアウトプットすることです。
 勉強した内容を単にコピペしたり要約したりするのではなく、自分の言葉で書き出してみる。そうすると、あやふやな所や、分かったつもりで意外に分かっていない所がはっきりしてきます。
 また、人に説明するのも良い訓練になります。説明を聞いてもらうだけでいい。自分がよく理解していないと、相手に易しい言葉で説明することはできません。書き出してみるのと同じで、人に説明することで、どの辺りが分かっていないのか、どこを学び直せばいいのかが見えてきます。

Q6 独学を続けるコツは?
A 僕にとって有効な方法は、複数の学習を並行して走らせておくことです。
 一つのことだけに集中してしまうと、それがうまくいかなくなったとき、すごくストレスがたまって挫折感を味わうことになる。そこで心が折れてしまうことがあるんです。
 でも、三つ四つ学習テーマを持っていれば、一つが駄目でも別のテーマがうまくいってくれることもある。それで、気持ちのバランスが取れて落ち込まずに済みます。
 逆に、一つのことが気持ちよく勉強できると、うまくいっていなかった別のことが、すんなり理解できたりするんですよ。
 よく人から「独学で分からない所が出てきたらどうすればいいのですか」と聞かれます。答えはシンプルで、取りあえず飛ばせばいい。先に進んでから後で戻ると、意外と分かるようになることも多いんです。何でもいっぺんに理解しようとせず、焦らずに時間をかけることも必要です。(後略)

□柳川範之(東京大学大学院経済学研究科教授)「東大教授が勉強のコツを伝授/今こそ独学を始めよう! ~特集「独学力」~」(「週刊ダイヤモンド」2017年10月7日号)を一部引用
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 【参考】
【独学】力が今、なぜ必要とされているか? ~学習量の足りない日本のビジネスパーソン~



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【独学】力が今、なぜ必要とされているか? ~学習量の足りない日本のビジネスパーソン~

2017年10月05日 | 心理
 (1)日本のビジネスパーソンは、海外と比べて圧倒的に学習量が足りない。
 侍留啓介・『新・独学術』の著者は、海外でMBAを取得後、米マッキンゼー・アンド・カンパニーで経営コンサルタントとして働き、数多くの海外エリートたちに接してきた。その過程で痛感したのが、彼らと日本のビジネスパーソンとの学習量の違いだった。
 その背景は、日本と欧米の雇用環境の違いだ。
  (a)欧米・・・・仕事の内容に応じて給料を支払う「職務給」。だから能力が上がればより高い職務に就くことができ、その分給料も上がる。それ故、絶えず学び続ける。
  (b)日本・・・・個人の職務遂行能力で給料が決まる「職能給」。一般的に職務遂行能力は勤続年数で決まる。事実上、年功序列賃金だ。従って、勉強してキャリアアップしようというインセンティブが働きにくい。

 (2)だが、今や社会環境は激変している。
  (a)最も大きいのは技術革新による社会の変化だ。〈例〉フィンテック(ファイナンスとテクノロジーを掛け合わせた造語)という用語。IoT(モノのインターネット)という用語。
 ほんの数年前まで聞いたこともなかったが、今やさまざまな分野において欠かせない技術となっており、知らなかったでは済まされない。「昔取ったきねづか」にすがって生きていける時代はもう過ぎ去ってしまったのだ。好むと好まざるとにかかわらず、日本のビジネスパーソンも新しい知識・技術を身に付ける必要に迫られている。

  (b)長寿化と社会保障の先細り懸念から、高齢になっても働く人が増えているのも大きな変化の一つだ。60歳で定年となった後の「セカンドキャリア」について不安を持っている人は多い。天下りや子会社へ出向できる運のいい人はごくわずかで、ほとんどの人は新たに職探しをしなければならない。そのためには、新たな知識を身に付けたり、何らかの資格を取得したりするなど、前もってセカンドキャリアに向けた準備をしておく必要がある。

 (3)いまさら勉強といわれても、大学卒業以来、まともに勉強したことがないという人も多いだろう。そんな人におすすめなのが「独学」である。
 (1)の侍留氏は、自身の経験から「大学受験のやり直し学習が効率的で効果が高い」と語る。大学受験用の参考書や問題集は、①網羅的で分かりやすく、②値段も安い。ために、独学の教材として好適だ。

 (4)誰もが勉強しなければならない時代になったが、ポジティブな環境変化もある。ネット環境が充実し、オンラインで学習できる教材が多様化していることだ。
 ユーチューブには英語を勉強できるさまざまな素材がアップされているし、「いつでもどこでもスマホで学べる! 独学に最適のスタディサプリ」で紹介する「スタディサプリ」のように、スマートフォン上で人気講師の動画講義を受けられるものもある。
 独学の最大のメリットは、いつでも、どこでも、自分のペースで勉強できること。オンライン教材は、まさに独学にはうってつけだ。

 (5)社会環境の変化に加えて、健康面からも独学の重要性が高まりつつある。
 健康寿命(日常的・継続的な医療・介護に依存しないで自立した生活ができる生存期間)と平均寿命のギャップを見ると、介護なしに自立した生活を送れない期間を意味している。男性は約9年、女性は13年近く、何らかの介護を必要とする生活が続くということだ。
 「健康寿命を延ばすためには、脳が健康である必要がある」【瀧靖之・東北大学加齢医学研究所教授】
 認知症予防に役立つのが、勉強することなのだ。
 キャリアアップのためにも、健康のためにも、いま「独学力」が必要とされている。

□記事「なぜいま「独学力」なのか ~特集「独学力」~」(「週刊ダイヤモンド」2017年10月7日号)
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【心理】果たして人間の眼はそんなにたしかか?

2017年07月22日 | 心理
 例のエリザベス朝の冒険航海者、廷臣、タバコの将来者、そして伊達男としても豊富な逸話を残しているサ・ウォルター・ローリに、「世界史」の遺著があることは、承知の読者もあろう。ところが、この「世界史」、第一巻があって、あとがない。そのあとがないわけについて、有名な伝承がある。もともとこの著は、彼が断頭台に消える最後の獄、ロンドン塔の中で書かれたものだが、第二巻を執筆中のある日、彼はすぐ窓の下で取っ組み合いの大喧嘩が起こるのを見た。終始観察していて、記憶には自信があった。
 ところが、翌日、立ち会っていたばかりか、多少は関係者でもあったある男と話してみると、ことごとく事実が食いちがっているのである。目の前に観た事件さえこの始末では、とても遠い昔の真実などわかるはずがないと絶望して、一切原稿を火中にしてしまったというのだ。
 人間の眼のたしかさなど、当てになるものではないという根拠に、よく引かれる逸話だが、もっと近い話にこんな実験がある。かつてある国の心理学大会で、突然見知らぬ男が一人、血相かえて駆けこんできた。と、すぐそのあとからまた一人、これもピストルを手にして追って来たかと思うと、たちまち二人は大格闘になった。ピストルの乱射、組んずほぐれつの揚句、二人はまた会場の外に消えてしまった。この間20秒。
 もちろん会衆は呆気にとられて棒立ちだったが、なんとこれが主催者の企(たくら)んだ狂言だったのである。そこで、さっそく来会者一同に、いまの事件の観察記録が求められた。ところが、驚いたことに、解答者全部で40人、重要点についての誤り、20%以下ですんだのはわずかに1人、20-40%が14人、40-50%が12人、残り13人にいたっては、実にそれ以上だったという。もっとひどいことには、事実の捏造までやったのがあり、これまた1割以上の捏造が34人に達しており、1割以下はわずかに6人にすぎなかったとある。要するに、やっと信頼できるのはわずかに6人、つまり8分の7近くは、まったくの嘘か、半分近いデタラメだったということになる。【引用者注】

 【引用者注】この実験に関する出典は、Walter Lippmann:Public Opinion, (Harcourt, 1922)の挿話で、岩波のPR誌「図書」に本稿を掲載後、読者からの指摘で戦前に杉村楚人冠がその著「新聞の話」で紹介していることが分かった。「楚人冠全集」(日本評論社、1937)第8巻所収。【『読書こぼればなし』補注p.219】
 筆者の淮陰生は中野好夫であるという説が有力である。
 なお、“Public Opinion”の邦訳に、ウォルター・リップマン(掛川 トミ子・訳)『世論』(上下)(岩波文庫、1987)がある。

□淮陰生『読書こぼればなし 一月一話』(岩波書店、1978)の「果たして人間の眼はそんなにたしかか?」を一部引用
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【読書余滴】騒音のなかでも会話できる心理学的根拠

2017年05月14日 | 心理
 盛り上がったパーティや忘年会の会話を記録しておこうと、カセットテープをあちこちに据えつけておき、いざ再生する段になると環境音がうるさくて何を話しているかわからない。
 集音器で特定の人の声を拾うか、お喋りを録音したい人の胸元にマイクをつけるしかない。あるいは録音した音声データをコンピュータで解析するしかない。

 人は、こんな騒音のなかでも話を聞き取ることができる。
 人の情報処理系には、そのごく初期の段階に選択機構があって、ひとつの情報だけを通過させ、それ以外の情報の通過を妨げる濾過装置のような機能がある。パーティや忘年会のワイワイガヤガヤ場面では多くの情報が感覚器に入力されるが、聞きたい音声のみ注意をはらい、注意をはらったものだけをパターン認識することができる。その他の情報は、いわば音量を下げるようなかたちで感覚器を通過させるのだ。
 これを<選択的注意>という。ホンダのアシモくんにはまだ備わっていない能力だ。
 アラーが偉大であるかはどうか知らないが、人の心身のシステムが偉大であることはたしかだ。

 逆にいえば、<選択的注意>がうまく働かなくなったとき、心身のどこかが故障していることになる。

【参考】和気典二ほか『心理学アップデイト』(福村出版、1991)
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【心理】夜と霧 ~異常な状況下の心理~

2017年02月08日 | 心理
 

 加賀乙彦は、本書を一言で要約する。すなわち、異常な状況に対する正常な反応は、異常な行動をとることだ、と。
 心やさしい人は、本書を読むにあたって、最初は口絵の写真を見ないで、本文を一読してから見るとよいかもしれない。以下、1988年新装第8刷の裏表紙から。

 <この本は、人間の極限悪を強調し、怒りをたたきつけているが、強制収容所で教授が深い、清らかな心を持ち続けたことは、人間が信頼できるということを示してくれた。この恐ろしい書物にくらべては、ダンテの地獄さえ童話的だといえるほどである。しかし私の驚きは、ここに充たされているような極限の悪を人間が行ったことより、かかる悪のどん底に投げこまれても、人間がかくまで高貴に、自由に、麗しい心情をもって生き得たかを思うことの方に強くあった。その意味からフランクル教授の手記は現代のヨブ記とも称すべく、まことに詩以上の詩である。>【野上弥生子・評】

 <アウシュビッツその他ナチスの収容所を描いた『夜と霧』という本が、長期間にわたってよく売れているようです。・・・・この書物の著者フランクルの手記は独自の性格を持っています。この心理学者のの記録は、読むだけでも寒気のするような悲惨な事実をつづりながら、不思議な明るさを持ち、読後感はむしろさわやかなのです。>【中村光夫・評】

□ヴィクトル・E・フランクル(霜山徳爾・訳)『夜と霧 ~ドイツ強制収容所の体験記録~』(フランクル著作集1)(みすず書房、1961)
□ヴィクトル・E・フランクル(霜山徳爾・訳)『夜と霧 ~ドイツ強制収容所の体験記録~』(みすず書房、1961初版第1刷/1988新装第8刷)
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【心理】生きられる時間 ~宮脇俊三の場合~

2017年01月25日 | 心理
 
 <齢(とし)のせいか、ボヤッとしているうちに時が過ぎていく速度が早くなってきたような気がしてならない。>

 *

 『旅は自由席』は、本を片付けているうちに出てきた一冊。引用は「大前という終着駅」というタイトルのエッセイで、初出は「潮」1986年7月号。宮脇俊三は1926年12月9日生まれだから、当時60歳。中央公論社を1978年に退社し、作家業に専念していた頃だ。76まで生きたのだし、「齢のせい」などと言うには若すぎる気がするが、戦前生まれの者にはそういう感覚なのかもしれない。

□宮脇俊三『旅は自由席』(新潮社、1991/後に新潮文庫、1995)
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【保健】身近な食品で今日から健康に(5) ~イワシやサバ~

2017年01月07日 | 心理

 (1)認知症の予防食については、最近盛んに研究が進められている。なかでも有望なのは、野菜と魚。それからカレースパイスだ。

 (2)統計ではっきりわかっているのは、野菜摂取の習慣がある人にアルツハイマー病が少ないということだ。特に緑黄色野菜がよいと言われている。インドに認知症患者が少ないという発表もあり、カレーに使うターメリック(ウコン)に含まれるクルクミンでの動物実験で、アルツハイマー病の原因物質が減ったという結果が出ている。
 また、イワシやサバなどの青魚に多く含まれるDHAやEPAは、動脈硬化の予防効果もあり、認知症につながりやすい脳卒中を予防することができる。生活習慣病につながる食生活も、認知症予防に有利に働く。

 (3)注目すべきは、国立長寿医療センターなどが解明した「魚と大豆の双方を多く摂ると認知機能低下を防ぐ可能性がある」とする研究結果だ。
 愛知県に住む中高年約2,200人を対象にDHAと大豆イソフラボンの摂取量を調査したところ、「両方とも多く摂る」グループの学習能力が高いことがわかった。
 魚の油に含まれる脂肪酸のDHAは、もちろん脳の働きに重要な物質だ。しかし、問題点は酸化されやすいこと。亡くなったアルツハイマー病の患者の脳を調べると、DHAが酸化したものが見つかった。
 それならば、酸化を抑えるにはどうすればよいのか。
 愛知県で行った調査では、魚と大豆食品の両方を食べているグループで、認知機能が高いという有意差がきれいに出た。この結果から、大豆食品が持っている抗酸化性が、脳の中でDHAの酸化を防いでいるのではないかと推定される。まだ研究段階だが、確実に言えるのは、DHAは大事だが、酸化により逆の作用が出てくる。それを防ぐにはイソフラボンのような抗酸化成分が大事だということだ。
 魚と一緒に味噌汁や豆腐を食卓に並べるだけでよいのだ。

 (4)大豆、魚、野菜をまんべんなく摂れる和食の要素に加えて、九州大学の研究で新たにわかったのは乳製品を摂ることで、脳血管性認知症にもアルツハイマー型認知症にもなりにくいということ。
 和食の数少ない欠点は、食塩の摂りすぎとカルシウムの摂取不足に陥りやすいこと。食塩を摂りすぎると血圧が上がって、脳卒中のリスクを増やす。骨の栄養が悪いと骨粗鬆症から骨折し、脳卒中とともに寝たきりの二大原因になる。乳製品にはカルシウムなど骨の栄養と食塩の害を防ぐミネラルが多い。
 つまり減塩を意識した上での「和食+乳製品」が健康寿命を延ばすポイントだ。
 豊かな食生活は、脳への刺激にもなるはずだ。

□守屋浩司・編『人生を変える! 食の新常識/カラダにいい食事 決定版』(文春ムック、2016)の「身近な食品で今日から健康に!」(初出「週刊文春」2015年5月28日号)
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 【参考】
【保健】身近な食品で今日から健康に(4) ~ブロッコリ~
【保健】身近な食品で今日から健康に(3) ~アボカド~
【保健】身近な食品で今日から健康に(2) ~落花生~
【保健】身近な食品で今日から健康に(1) ~チョコレート~
【保健】意外や意外、卵で糖尿病は予防できる

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【心理】欲しいものは大きく、欲しくないものは小さく見える

2016年12月26日 | 心理
 多湖輝は、今年(2016年)3月6日に物故した心理学者。1966年に発表した思考パズル本『頭の体操』がベストセラーとなり、以来約40年間に合計23巻が刊行された。心理学に係る啓発書も多く、『多湖輝の心理学教科書 人間関係をラクにする100の心理法則』もその1冊。(1)「欲望・感情」、(2)「行動・動作」、(3)「知覚・認識」、(4)「学習・記憶」の4大テーマの下、100の「法則」をやさしく解説する。この解説の語り口が、「頭の体操」的楽しさに満ちているから読みやすい。応用例も2題付する。

 〈例〉(3)の法則53「欲しいものは大きく、欲しくないものは小さく見える」は・・・・
 <人間の目はカメラと違う。物理的・生理的に目のレンズや網膜が対象をとらえていたとしても、それが「見えた」「見た」という認識にいたるには、心理的条件がからんでくる。人間は結局、「体の目」ではなく「心の目」でものを見ているのだ。
 だから、同じ対象でも、その時々の欲求によって、見えたり見えなかったり色や形まで微妙に変化する。このような現象を心理学では「センソリー・アクセンチュエイション(感覚強調)」という。
 お腹が空いていれば、ラーメンの匂いに敏感になるし、またおいしくたべられることは、誰しも体験していることだろう。知覚はその時々の欲求の強さに従って、鋭敏化するのである。新聞などを自分と同じ名まえが目につきやすいのも、同じ理由からである。
 これに関して、アメリカでおもしろい実験がある。子どもたちに額の異なる貨幣を見せて、目に映る大きさと実際の大きさを比較したところ、額の大きな貨幣の大きさを、実際より大きく見たという。しかも、低所得層になればなるほど、その傾向が顕著だったそうだ。(中略)
 ある人など、お金が無くなったとたん。ふだんなにげなく眺めながら歩いていた通勤路に、こんなにたくさんのサラ金の看板があったのかと驚いたという。
 その意味では人間の目は正直だ。心では隠そうとしても、貨幣の実験同様、欲しいものが大きく見え、欲しくないものは小さくしか見えないのである。

 〈応用例1〉新聞に料理記事が覆いと思ったら、腹が減っているのに気づいた。
 〈応用例2〉失恋したら、電車の中がカップルばかりに見えた。>

□多湖輝(千葉大学名誉教授/東京未来大学名誉学長)『多湖輝の心理学教科書 人間関係をラクにする100の心理法則』(KKロングセラーズ、1999)
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【加賀野有理】地図を見る ~方向オンチを治す法~

2016年12月23日 | 心理
 年始年末は外出の機会が多い。私は道に迷うことが多く、しかもスマホのナビゲーションアプリに慣れないため、外出そのものがおっくうになってしまう。
 訓練することで道に迷わなくなるとの話を聞いた。
 頭頂付近には空間把握能力をつかさどる機能がある。この能力を鍛えることで方向感覚や距離感などの把握がしやすくなりそうだが、以前、このことについて書かれた「話を聞かない男、地図が読めない女」(主婦の友社)という本が話題になった。
 空間把握能力を高める方法はいくつかある。例えば初めての目的地を訪ねるとき、地図を読むのが苦手という人は「○○駅下車、二つ目の信号を左折」などと言葉で教えてもらうといいだろう。帰りは地図を見ないで、案内された言葉を思い出しながら駅まで戻る。その後、地図を広げて歩いた道のりを点検する。さらに、白い紙に鉛筆でその道順を描きながら、町並みなどを思い出していくと空間把握力がついて地図も読めるし、道順の記憶も定かになるそうだ。早速試してみようと思う。

□加賀野有理(サイエンスライター)「地図を見る ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2016年12月17日)
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 【参考】
【加賀野有理】アパートの屋上で暮らすファッションモデル ~ミニマリスト~
【加賀野有理】脳の栄養 ~EPAとDHA~
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【心理】きこえる音、きこえぬ音/きれいな音、いやな音/立体音(ステレオソニー) ~聴覚という知覚~

2016年12月16日 | 心理
●きこえる音、きこえぬ音
 <つぎに音の心理を述べよう。人間の耳にきこえるもっとも低い音は1秒12振動である。ふつうのピアノのキイで、一番左手にあるもの、すなわち一番ひくい音は27振動であるから、人間にきこえる音は、ピアノの一番ひくい音よりも、さらに1オクターブひくいということになる。
 ある映画館に大きなパイプ・オルガンをそなえつけたことがあった。パイプ・オルガンは空気の振動で音を出すのであるが、このパイプの中に、1秒2振動しかしない巨大なパイプがあった。つまり、人間の耳には絶対聞こえない「音」を出す楽器である。
 いったい低い音はこわい感じのするものである。ミッキー・マウスの映画などでは、こわい声はふとい、ひくい音として表現される。そこで、この映画館の主人は、あるスリラー映画の、ごくおそろしい瞬間に、この一番ふといパイプをならすことを思いついたのである。結果はどうであったか。おそろしいことがおこった。観衆たちはひじょうな恐怖にとらえられ、ある人たちは争って劇場の扉に殺到した、という。
 これによってみると、1秒2振動というような振動は、耳にはきこえないが、しかし人間の感覚には刺激をあたえるのであり、それは、きこえる音の最低のものよりももっとはげしい刺激、すなわち巨大な、おそろしい、という印象をあたえるものであることがわかるのである。
 このことは、耳の感覚的性質にたいして、われわれに一つの見とおしをあたえる。耳はわれわれに一つの刺激を「音」として感ぜしめる。しかし、耳が音として感ずる刺激には一定の制限がある。これは物の振動の中で、一つの特定の幅をもったものだけを、音としてキャッチするのである。
 たぶん耳は、昔は触覚と同じものだったのであろう。皮膚感覚だけを感ずる場所であったにちがいない。これが進化による分化の結果、ある種の刺激にたいして、とくに敏感な、耳、というオルガンに変形したのである。だから耳は今でも、もとの皮膚感覚の性質をのこしている。そののこされた皮膚感覚が、ひくい音に対して活動を開始して、おそろしい、という印象を生じたのである。
 だが、音のこういう性質--つまり音覚の皮膚感覚的性質をもっともよく教えるものは、高い音のばあいである。人間にきこえるもっとも高い音は、低い音のように一定ではない。すなわち人によって、聞きうる高い音にはちがいがあるのである。ある人は3万5千振動以上の音をきくことができる。しかし、人によっては2万振動くらいしかきこえない人もある。
 いっぱんに、人間は年をとるにしたがって、高い音にたいする感受性を失っていく。しかし、では、きこえない高い音というのは、どんな感じのものなのか。それを実験するには、ゴールトン笛をもちいる。これはパイプ・オルガンと同じ原理で、ただし、空気をごくこまかく振動させるように工夫されている笛である。1秒4万振動ぐらいまでの音を出すことができる。
 高い音はピイ、ピイいう。それは小さい、かわいらしい感じをともなう。なぜ高い音がかわいらしく感じられるかは、低い音はなぜ巨大な、そら恐ろしい感じを生み出すかとともに、よくわかっていない。
 ゴールトン笛をつかって、2万振動ぐらいから、だんだん高めていく。そうすると、耳にきこえる音が、高くなるが、同時に音が小さくなってくる、かすかにしかきこえなくなる。しまいには、もうほとんどきこえなくなる。ここに妙な現象がおこってくる。こういう音にたいし、めまいを報告している。とにかく、それはもはや、音としてでなく、奇妙な皮膚感覚として、コマクに感応するのである。
 しかし、これがさらにすすむと、もやは、そういう皮膚感覚させも感ぜられなくなる。 空気の振動は3万、5万と、さらに出つづけていうのだが、これは人体の感覚器官にはもはや刺激とならないのである。これは人間であるからのことであり、たとえば犬などにおいては8万振動ぐらいまできこえるらしい。

●きれいな音、いやな音
 音には騒音と楽音とが区別される。楽音は、規則正しい音波からなっている音であり、騒音は、不規則な音波を構成要素としている、と、ふつう言われるが、しかし、これは相対的なものであって、どんな楽音にも、騒音的要素がいくらかははいっているものである。純粋に規則正しい音ばかりでできている音は、かえって退屈で、単調で、つまらない感じがする。
 コップに水を入れてたたく、一つだけのコップだと、それは騒音とはいわなければならないが、コップを八つならべ、水の量を加減すれば、かんたんな歌を奏することができる。またシロホンのごときも、一つ一つの木の音は騒音なのである。
 人間の声も同様で、コトバは口腔や、舌や、喉を利用した騒音によらなければ成立しない。しかも、われわれはコトバのはいらない、ただの人声だけのメロディーでは退屈してしまう。
 不規則の音波は遠くへ達しない。このことをもっともよく示すのは、ヘンな音のチクオンキでも、遠くで聞くと、よくきこえることで、また遠くできく人の歌声は美しいものである。これは不規則な音が、途中で消えてしまって、規則的な音ばかりが伝わってくるからである。これを音の純粋性が高まるという。いやな、しゃがれ声の人の話も、遠くで聞けばそれほどでないのは、このためである。

●立体音(ステレオソニー)
 道をよこぎるとき、ゴー・ストップのないところでは、われわれは目と耳と、両方つかって車を避けなければならぬ。目は前方しかきかないので、いきおい、耳を十分にはたらかせることになる。
 耳によって、音の方向を知るには、次の三つの原理による。
 (1)左の耳に達する音と、右の耳に達する音との時間的ズレ。左手にある発音体では、音はまず左の耳に達し、つぎに右の耳に達するから、その間にかすかなズレができる。このかすかなズレが、発音体の方向を教える。
 (2)左の耳に達する音と、右の耳に達する音とで、強さが違う。左手にある発音体から発する音は左の耳に達し、ついで右の耳に達するが、そのわずかの間に、頭によって音エネルギー多少吸収され、よわまる。それが弁別のたすけになる。
 (3)音波は、空気のタテナミであるから、耳には気圧の変化として感ぜられるわけである。そこで、左右いずれかに片よった音源から出る音は、右の耳と左の耳とで、「同じ時間」には、気圧を異にしている。これが弁別の根拠になる。もし、われわれの耳を半メートルなり、1メートルひきはなして、このような微妙なズレ、または、ちがいを拡大することができれば、音源の位置の決定は、さらに正確さを加えることができるわけである。高射砲にそなえつけられた聴音機は、この原理にもとづいたものであった。

□波多野完治『心理学入門』(光文社、1958)pp.45-49を引用
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【心理】アニマル・セラピー ~セント・バーナード~

2016年10月10日 | 心理
 
 <ドンツォワ【注】の疲れた顔を見て、気を紛らわすつもりの話が役に立たなかったことをすでに悟った老医師は、このへんで話をやめようとしていた。そのとき、ベランダに通じるドアがあいて、入ってきたのは--犬なのだが、とても大きな、おとなしそうな、まるで人間が何かの理由から四つん這いになったような感じの犬である。ドンツォワは咬まれはしないかとこわくなったが、その悲しそうな人間的な目を見ると、恐怖はたちまち薄らいだ。
 自分が入って行ってだれかが驚くことなど考えられもしないというように、犬は穏やかに、物思わしげに入って来た。そして一度だけ、登場の挨拶のように、箒そっくりのみごとな白い尻尾を持ち上げ、それを空中で一振りしてから、だらりと下ろした。垂れ下がった耳が黒いほかは、全身、茶と白の二つの色が複雑な模様をなして入りまじっている。背は白い衣を着せられたようだが、脇腹は明るい茶色で、尻のあたりはオレンジ色に近い。初め、ドンツォワに近寄って、ちょっと膝のあたりの匂いをかいだが、さしてこだわるふうはなかった。犬らしく、そのオレンジ色の尻をテーブルのそばに下ろし、自分の頭よりもほんの少し高いテーブルの表面に並んでいる食べものに関心を示すということもない。四つ足で突っ立ったまま一切の欲望を超越したかのうように、潤いのある褐色の大きな丸い目でテーブルの上の空間を眺めているだけである。
 「これは何という種類の犬かしら」と、ドンツォワは呆れて尋ねた。その瞬間、女医は今夜初めて自分の病気のことを忘れていた。「セントバーナード」惚れ惚れとオレシチェンコフは犬を眺めていた。「ほかの所は申し分ないんだが、どうも耳が長すぎてね。マーニャが餌をやるとき怒るんだ。『紐ででも縛っておいたらどうなの。お椀の中に入るわよ!』ってね」
 ドンツォワは犬に魅惑された。こういう犬は街の雑踏の中には入れないし、どんな交通機関にも連れて乗ることは許されないだろう。雪男がヒマラヤにしか住めないように、こういう犬は庭のある平屋でしか生きられないのだ。
 オレシチェンコフは肉饅頭の一切れを犬に食べさせた。ただし投げ与えたのではない。人が憐れみから、あるいは面白半分に食べものを投げ与えると、たいていの犬は後足で立ち上がり、友情のしるしに前足を人間の肩にかけたりする。オレシチェンコフは、同等の人間に与えるときように、肉饅頭を差し出したのだ。その掌の皿から、犬も対等の存在として、おもむろに肉饅頭を銜(くわ)えて取った。大して腹は減っていないのだが、一応の礼儀として受け取るというように。>

 【注】ウズベク共和国の首都タシケント市の総合病院のガン病棟(共和国唯一のガン病棟)の責任者、女医。時期は、第一部では1955年2月初旬の1週間、第二部はそれから1か月後の3月初め。

□アレクサンドル・ソルジェニーツィン(小笠原豊樹・訳)『ガン病棟』(新潮社文庫、1971)の「30 老医師」から引用
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