語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】日本でもテロが起きる可能性 ~日本でテロ(2)~

2015年12月07日 | ●佐藤優
  
 
 (1)<日本でもテロが起きる可能性があります>
 爆弾が仕掛けられるようなテロは、日本の警察は優秀だから防げる。
 <ところが、問題は「グローバル・ジハード」です。
 これに基づいて行動を起こすテロリストは、爆弾を作るような過激派とは異なる、どちらかというと「引きこもり」のような人です。そこで、どういうテロをやるかというと、ポリバケツに10リットルぐらいガソリンを入れて、銀行やどこかの店頭でまく。それで火をつける。これで10人や15人くらいは簡単に殺傷できます。もちろん本人も死にます。こういうタイプのテロを「イスラム国」は今後、あおってくると思います。
 こうしたやり方を防御するのは難しい>

 (2)2015年6月30日、神奈川県内を走行中の「のぞみ225号」で70代の男がガソリンをかぶって焼身自殺を図り、本人と、巻き添えになった50代の女性2人が死亡、26人が重軽傷を負った。
 もし犯人が1両目にガソリンをまいて、もう少し気化させる時間をおいたら、あるいはトンネルに入るころを狙って、1両目と2両目の間のところで火をつけたら爆発していた可能性もある。状況によっては脱輪も。対向車両がこなくても、トンネル内だと大変な犠牲者がでる。冷徹に計算した上でテロリストがこういう行動を起こしたら、それを阻止する術はない。
 <ということになると、2016年の伊勢志摩サミットや、2020年の東京オリンピックに備えて「イスラム国」側が指示を出した場合、何でもあり得るということを覚悟しておかないといけないんです>

 (3)なぜこんなことになったのか。
 「グローバル・ジハード論」がカギになる。
 アルカイダの組織の幹部は、テロリストとして米国に皆殺しにされた。すると、第二世代のアルカイダが出てきて、「グローバル・ジハード論」を唱える。これが日本と関係してくる。
 <アルカイダの考え方は、世界をたった一つのイスラム帝国にするという目標を追求しています>
 考え方に共鳴する人たちに対して、インターネットサイトなどを通じてテロを示唆する。「信頼する2、3人だけで事を起こせ」「横の連絡は電話やメールでするな」「米国やヨーロッパの特に象徴的な場所でテロせよ」「カフェに籠城して、無辜の人たちを殺せ」
 そこで要求することはただ一つ。「米国やヨーロッパはイスラムの地から手を引け」
 すると世論は「こんな面倒くさいことになるんだったら、中東に行くな、イスラムに触らないほうがいい」となってきて、そこから隙が出てくれば拠点国家を造ることができる。こういう考え方だ。これを「グローバル・ジハード論」という。
 西洋社会では思想信条の自由に踏み込むことはできないから、「過激思想を持って現行政権をテロによって打倒しよう」が思想にとどまっている段階、言論活動にとどまっている段階では取り締まりできない。その裏をかいている。
 米国ボストン・マラソン事件、オーストラリアはシドニーでの立てこもり事件の裏にはこういう背景がある。イデオロギー「グローバル・ジハード論」下でなされている。

 (4)日本でもそのイデオロギーを持っている人がいる。何人も。こういう人たちが、例えば秋葉原で、「おれの人生なんか、先はない。ここにいる人をみんな巻き添えにしてやる」という絶望を抱えた人に、「こういうことをすれば天国に行けるぞ。これによって今ある問題を一挙に解決できるぞ」とささやいたら、どうなるか。
 社会には潜在的にそういう人がいる。
 極端な思想をもって極端な行動をとる人は必ずいる。こういう回路が作られると社会が不安定化する。 

 (5)日本でも「グローバル・ジハード論」を支持している人がいる。
 <世の中には常にいろんな社会問題があって、それを一挙に解決しないといけないと思っている人たちがいる。そういう人たちに「理論」を与えて火をつけることは簡単にできるわけです。これはすごく怖い>
 マスコミの人たちが、テロリズムをあおる人を使ったり、鬱屈を抱えた人の、「世の中の問題を一挙に解決したいんだ」というような思いをイスラムに仮託するよう助長するのは、すごく危ない傾向だ。こうしたことに対してきちんとした批判をしなくてはならない。

 (6)ただし、「イスラム国」からみ見れば、日本で「イスラム国」を支持している人たちは中途半端な支持者だ。「イスラム国」は本気だ。戦争をしているのだから。テロを起こせないような中途半端な支持者はいらない、ということだ。
 <どこかのタイミングで「イスラム国」は「日本でもテロをやれ」という指示をインターネットを通じて出してくるでしょう>
 目立つ人は警察がマークしている。しかし、
 <誰もが気づいていないところで、自分の心の中に闇を抱えていて、「誰か人を殺したいと思った。『イスラム国』なら、仮に人を殺しても、“大義”のためにやるんだから天国に行ける」。そいういったことを信じて行うテロは、事実上、防ぎようがない。これは非常に深刻な事態なんです>

 (7)その辺りの全体の流れ、中東情勢に関して行うコメントで信用できるのは、次の人びと。ブレがなく、中東情勢と国際政治の両方の現実を知っているので注目してよい。
   池上彰・ジャーナリスト
   山内昌之・東大名誉教授/明治大学特任教授
   宮家邦彦・キャノングローバル戦略研究所研究主幹/元外交官

 (8)いつから現在のような不穏なことになったのか。
 2015年1月7日からだ。「シャルリー・エブド」紙が襲撃されたパリ連続テロ事件からだ。 
 <「イスラム国」が本格的に「世界イスラム革命」を始めたということなんです>
 襲撃は、ムハンマドをバカにするような漫画を載せたからではない。テロを行ったのは、「イスラム国」ないし「イエメンのアルカイダ」の指示に基づく。フランス軍が今イスラムないし「イスラム国」と戦っている場所から撤退すること、これがテロリストの要求だ。
 だから、国家を象徴的に代表する警官を殺す。
 また、マスメディアを攻撃する。
 マスコミを標的にするなら、フランスの代表的通信社であるAFP通信や「ル・モンド」紙を攻撃しても良かったが、警備が厳重なので、
 <比較的有名でインパクトがあり、なおかつ警備がゆるいところ、こういう合理的な計算に基づいて「シャルリー・エブド」紙を狙ったわけです>

 (9)テロリストは、殉教を望む。殉教すれば天国に必ず行ける、と教育される。
 イスラエルの「反テロセンター」は、「テロリスト養成プログラム」をよく調べている。自爆テロリストを作るには、本人を洗脳すると童子に、組織が家族に年金を出す。その結果、テロをやることに対してすごくメリットが出てくる仕組みになっている。
 しかし、パリ連続テロ事件は自爆テロではなかった。フランスの警察力からすれば、生け捕りは可能だった。にもかかわらず、生け捕りにしなかった。公判闘争を通じて宣伝の機会を与えないため、警察や軍が殺してしまった可能性がある。

□佐藤優『佐藤優の「地政学リスク講座2016」 日本でテロが起きる日』(時事通信出版局、2015)
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 【参考】
【佐藤優】『日本でテロが起きる日』まえがきと目次 ~日本でテロ(1)~


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