(承前)
(5)見直すべき理由(1) ~免税業者制度~
(a)免税業者が最終段階にいる場合、消費税を納付していないにもかかわらず、販売価格を引き上げている可能性がある。この場合、益税が発生している。
他方、免税業者は仕入れ価格に含まれている前段階税を控除できないので、その分だけ価格を引き上げる必要がある。それができないと、税を負担せざるを得なくなる。
要するに、免税業者については、益税が発生したり事業者が税を負担することもある。税の負担が不確実になっている。
(b)免税業者が中間段階にいる場合、前段階税額控除をどのような方法で行っているかによる。
①インボイス式・・・・次段階の業者がインボイスを得られないために前段階の控除ができず、ために中間段階の免税業者は排除される。
②非インボイス式(日本)・・・・免税業者の分についても次段階で控除されることになり、過剰な税額控除になる。
(c)軽減税率が導入されると、免税業者はいかなる影響をこうむるか。
①最終段階の免税業者の相対的な優位が低下する。場合によっては、免税業者のほうが不利になる。したがって、零細業者の有利性を確保するという目的が達成できなくなる。ために、免税業者が自ら望んで課税業者に転換する場合が生じ得る。
②インボイスが用いられるようになると、中間段階の免税業者は排除される。ただし、今回の自公合意では、インボイスが導入された後でも6年間は免税業者からの仕入れに付き控除を認めることとされた。
(6)見直すべき理由(2) ~簡易課税制度~
(a)推定される前段階の税額と、実際の前段階の税額が食い違う可能性が高い。一般的にいえば、実際の前段階の税額よりも多い額を控除している可能性が高い(益税の問題)。
(b)軽減税率が導入されると、簡易課税制度はいかなる影響をこうむるか。
仕入れの額を推定するだけではなく、その中で軽減税率の仕入れがどの程度あるかを推定する必要がある。しかし、こえを売り上げの数字から推定するのは至難の業だ。税率の計算が複雑化するだけでなく、実際に支払った前段階の税額と、控除される額との差が拡大する可能性が高い(益税の可能性増大)。
このように、簡易課税制度がもともと持っている問題が、軽減税率導入によって拡大する。
(7)見直すべき理由(3) ~非課税制度~
(a)前段階の税額を控除できないという問題を抱えている。このため、事業者が負担するか、販売価格を引き上げざるを得ない。
(b)さらに、非課税業者が中間段階にいて、税が転嫁される場合には、税の累積という問題が発生する。この問題は、金融サービスの課税において特に問題となる。金利は非課税なので、金融業者のサービスの部分については、課税されない。しかし、金融サービス価格に含まれている前段階までの税額は、控除されることなく、金融サービスの利用者に転嫁されている可能性がある。これに対しては次段階以降でさらに課税される。つまり、税が累積される。付加価値税は、前段階からの累積を防止する点で優れた多段階間接税であると評価されるが、非課税業者が中間段階にいる場合には、そうならないのだ。
(c)軽減税率が導入されると、非課税制度はいかなる影響をこうむるか。
非課税制度の代わりに、ゼロ税率制度を導入すれば、税の累積問題を解決できる。ゼロ税率とは、軽減税率の対象とし、その税率をゼロとすることだ。そうすれば税の累積という問題は生じない。
ただし、必ず還付することになるので、前段階の税額の計算は正確に行う必要がある。このためには、前段階の控除をインボイスによって行う必要がある。
□野口悠紀雄「軽減税率が突き付ける現存特例措置の諸問題 ~「超」整理日記No.789~」(「週刊ダイヤモンド」2016年1月9日号)
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【参考】
「【経済】軽減税率が突きつける諸問題(1) ~現存特例措置~」
(5)見直すべき理由(1) ~免税業者制度~
(a)免税業者が最終段階にいる場合、消費税を納付していないにもかかわらず、販売価格を引き上げている可能性がある。この場合、益税が発生している。
他方、免税業者は仕入れ価格に含まれている前段階税を控除できないので、その分だけ価格を引き上げる必要がある。それができないと、税を負担せざるを得なくなる。
要するに、免税業者については、益税が発生したり事業者が税を負担することもある。税の負担が不確実になっている。
(b)免税業者が中間段階にいる場合、前段階税額控除をどのような方法で行っているかによる。
①インボイス式・・・・次段階の業者がインボイスを得られないために前段階の控除ができず、ために中間段階の免税業者は排除される。
②非インボイス式(日本)・・・・免税業者の分についても次段階で控除されることになり、過剰な税額控除になる。
(c)軽減税率が導入されると、免税業者はいかなる影響をこうむるか。
①最終段階の免税業者の相対的な優位が低下する。場合によっては、免税業者のほうが不利になる。したがって、零細業者の有利性を確保するという目的が達成できなくなる。ために、免税業者が自ら望んで課税業者に転換する場合が生じ得る。
②インボイスが用いられるようになると、中間段階の免税業者は排除される。ただし、今回の自公合意では、インボイスが導入された後でも6年間は免税業者からの仕入れに付き控除を認めることとされた。
(6)見直すべき理由(2) ~簡易課税制度~
(a)推定される前段階の税額と、実際の前段階の税額が食い違う可能性が高い。一般的にいえば、実際の前段階の税額よりも多い額を控除している可能性が高い(益税の問題)。
(b)軽減税率が導入されると、簡易課税制度はいかなる影響をこうむるか。
仕入れの額を推定するだけではなく、その中で軽減税率の仕入れがどの程度あるかを推定する必要がある。しかし、こえを売り上げの数字から推定するのは至難の業だ。税率の計算が複雑化するだけでなく、実際に支払った前段階の税額と、控除される額との差が拡大する可能性が高い(益税の可能性増大)。
このように、簡易課税制度がもともと持っている問題が、軽減税率導入によって拡大する。
(7)見直すべき理由(3) ~非課税制度~
(a)前段階の税額を控除できないという問題を抱えている。このため、事業者が負担するか、販売価格を引き上げざるを得ない。
(b)さらに、非課税業者が中間段階にいて、税が転嫁される場合には、税の累積という問題が発生する。この問題は、金融サービスの課税において特に問題となる。金利は非課税なので、金融業者のサービスの部分については、課税されない。しかし、金融サービス価格に含まれている前段階までの税額は、控除されることなく、金融サービスの利用者に転嫁されている可能性がある。これに対しては次段階以降でさらに課税される。つまり、税が累積される。付加価値税は、前段階からの累積を防止する点で優れた多段階間接税であると評価されるが、非課税業者が中間段階にいる場合には、そうならないのだ。
(c)軽減税率が導入されると、非課税制度はいかなる影響をこうむるか。
非課税制度の代わりに、ゼロ税率制度を導入すれば、税の累積問題を解決できる。ゼロ税率とは、軽減税率の対象とし、その税率をゼロとすることだ。そうすれば税の累積という問題は生じない。
ただし、必ず還付することになるので、前段階の税額の計算は正確に行う必要がある。このためには、前段階の控除をインボイスによって行う必要がある。
□野口悠紀雄「軽減税率が突き付ける現存特例措置の諸問題 ~「超」整理日記No.789~」(「週刊ダイヤモンド」2016年1月9日号)
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【参考】
「【経済】軽減税率が突きつける諸問題(1) ~現存特例措置~」