(1)参院選では、「安倍1強」がなお強化された。しかし、数字上の優位は必ずしも政治的な基盤強化に直結しないのが政治だ。大きな議席を得ることで逆に内部からのほころび、揺らぎが生じる。
その象徴が東京都知事選に真っ先に手をあげた小池百合子・元防衛相の動きだ。6月29日、小池は記者会見を開いた。
このタイミングが絶妙だった。2代続けて知名度を優先させた都知事が途中降板した反省から、ポスト舛添の候補者像を都連幹部は「国会議員ではなく実務型の人」としていた。しかし、意中の櫻井俊・前総務事務次官は固持を貫く。そこで自民党連が櫻井に代わる候補者の選考に入ろうとした矢先に小池が手を挙げた。次の候補者が出てからでは反党行為と認定される。候補者ゼロの状況では小池が出馬表明したからといって誰も文句は言えない。
萩生田光一・官房副長官(東京選出)は不快感を表明した。ところが、翌日になって萩生田は軌道修正した。「(小池は)有力な候補の一人として対応を考えていくことになるのではないか」
強引な“小池外し”が有権者の反発を招き、結果として参院選にも影響を与えかねないという判断が働いたものとみられている。このため、小池はその後も都連に対して推薦を直接要請するなど着々布石を打った。これに対し、都連は増田寛也・前岩手県知事の擁立に向けた環境整備に入った。
(2)石原伸晃・経済再生担当相/都連会長が7月5日夜小池と会談したが、訳者は小池の方が一枚上だった。小池があらためて推薦を要請したのに対し、石原は参院選最優先を理由に結論を参院選投票日に持ち越すことを伝えた。
たまたまこの日にあった記者会見で、二人の元首相(細川護煕・小泉純一郎)が小池にエールを送った。小泉が「(小池は)度胸がある」といえば、細川も「良い政治的な勘をしている」と応じた。
そして小池は石原の申し出を無視するかのように、6日午後に記者会見を開いた。
「パラシュートなしで覚悟を持って、しがらみのない都民の目線で戦う」
その上で、都知事になった場合に手を付けることとして3点を指摘した。
①都議会の冒頭解散
②利権追求チームの設置
③舛添問題の第三者委員会の設置
言うまでもなく、小池が「抵抗勢力」と決めつけたのが自民党都連だ。この手法は、小泉が主導した郵政選挙とそっくりだ。身内同士の争いほど有権者の耳目を集めるものはない。女が孤軍奮闘する姿は有権者の共感を呼ぶ。そんな計算が働いているように見える。
(3)ただし、安倍に近い議員は小池の動きに「政局的なにおいを感じ」ている。都知事選を通じて政権への揺さぶりをかけたというわけだ。
小池は、2012年9月の自民党総裁選で、安倍のライバルだった石破茂・地方創生担当相を支援した。石破は決選投票で逆転負けした。以来、小池は不遇をかこつ。小池は、石破が結成した「水月会」(石破派)に参加してない。今回の小池出馬でも石破は沈黙を守る。ただ言えるのは、小池に限らず「安倍1強」に対する不満が党内に存在することだ。
安倍は、過去に手痛い打撃を受けた参院選という高いハードルを越えた。これで安倍は政権復帰を果たした2012年の衆院総選挙以来、国政選挙4連勝となる。しかも、今度の参院選を経て宿願ともいえる憲法改正に“王手”をかけることまで駒を進めた。
その一方、安倍の自民党総裁としての任期(2018年9月)が迫る。そこから先の任期延長を望むなら、もう一度衆院解散総選挙を勝ち抜くことが必須条件。そのためにはいつ解散権を行使するのか。任期切れが迫れば、小池のような動きが活発化するのは避けられない。
参院選が終わった今、党内の反対勢力との神経戦が待っている。
□後藤謙次「参院選を上回る注目の都知事選 出馬表明した小池百合子の野心 ~永田町ライブ!No.299」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月16日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【後藤謙次】日本が直面する「ABCリスク」 ~英EU離脱で顕在化~」
「【後藤謙次】甘利大臣辞任をめぐる二つのなぜ ~後任人事と直後のマイナス金利~」
「【政治】不可解な時期に石破派が発足 ~その行方は内閣改造で~」
「【政治】震災後2度目の統一地方選 ~異例なほど注力する自民党本部~」
「【政治】安倍が描いた解散戦略の全内幕 ~周到な準備~」
「【政治】安部政権の危機管理能力の低さ ~土砂災害・火山噴火~」
「【政治】「地方創生」が実現する条件 ~石破-河村ラインの役割分担~」
「【政治】露骨な安倍政権へのすり寄り ~経団連が献金再開~」
「【政治】石原発言から透ける政権の慢心 ~制止役不在の危うさ~」
「【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~」
「【政治】「新党」結成目前の小沢一郎の前にたちはだかる難問」
「【政治】小沢一郎、妻からの「離縁状」の波紋 ~古い自民党の復活~」
「【政治】国会議員はヤジの質も落ちた」
その象徴が東京都知事選に真っ先に手をあげた小池百合子・元防衛相の動きだ。6月29日、小池は記者会見を開いた。
このタイミングが絶妙だった。2代続けて知名度を優先させた都知事が途中降板した反省から、ポスト舛添の候補者像を都連幹部は「国会議員ではなく実務型の人」としていた。しかし、意中の櫻井俊・前総務事務次官は固持を貫く。そこで自民党連が櫻井に代わる候補者の選考に入ろうとした矢先に小池が手を挙げた。次の候補者が出てからでは反党行為と認定される。候補者ゼロの状況では小池が出馬表明したからといって誰も文句は言えない。
萩生田光一・官房副長官(東京選出)は不快感を表明した。ところが、翌日になって萩生田は軌道修正した。「(小池は)有力な候補の一人として対応を考えていくことになるのではないか」
強引な“小池外し”が有権者の反発を招き、結果として参院選にも影響を与えかねないという判断が働いたものとみられている。このため、小池はその後も都連に対して推薦を直接要請するなど着々布石を打った。これに対し、都連は増田寛也・前岩手県知事の擁立に向けた環境整備に入った。
(2)石原伸晃・経済再生担当相/都連会長が7月5日夜小池と会談したが、訳者は小池の方が一枚上だった。小池があらためて推薦を要請したのに対し、石原は参院選最優先を理由に結論を参院選投票日に持ち越すことを伝えた。
たまたまこの日にあった記者会見で、二人の元首相(細川護煕・小泉純一郎)が小池にエールを送った。小泉が「(小池は)度胸がある」といえば、細川も「良い政治的な勘をしている」と応じた。
そして小池は石原の申し出を無視するかのように、6日午後に記者会見を開いた。
「パラシュートなしで覚悟を持って、しがらみのない都民の目線で戦う」
その上で、都知事になった場合に手を付けることとして3点を指摘した。
①都議会の冒頭解散
②利権追求チームの設置
③舛添問題の第三者委員会の設置
言うまでもなく、小池が「抵抗勢力」と決めつけたのが自民党都連だ。この手法は、小泉が主導した郵政選挙とそっくりだ。身内同士の争いほど有権者の耳目を集めるものはない。女が孤軍奮闘する姿は有権者の共感を呼ぶ。そんな計算が働いているように見える。
(3)ただし、安倍に近い議員は小池の動きに「政局的なにおいを感じ」ている。都知事選を通じて政権への揺さぶりをかけたというわけだ。
小池は、2012年9月の自民党総裁選で、安倍のライバルだった石破茂・地方創生担当相を支援した。石破は決選投票で逆転負けした。以来、小池は不遇をかこつ。小池は、石破が結成した「水月会」(石破派)に参加してない。今回の小池出馬でも石破は沈黙を守る。ただ言えるのは、小池に限らず「安倍1強」に対する不満が党内に存在することだ。
安倍は、過去に手痛い打撃を受けた参院選という高いハードルを越えた。これで安倍は政権復帰を果たした2012年の衆院総選挙以来、国政選挙4連勝となる。しかも、今度の参院選を経て宿願ともいえる憲法改正に“王手”をかけることまで駒を進めた。
その一方、安倍の自民党総裁としての任期(2018年9月)が迫る。そこから先の任期延長を望むなら、もう一度衆院解散総選挙を勝ち抜くことが必須条件。そのためにはいつ解散権を行使するのか。任期切れが迫れば、小池のような動きが活発化するのは避けられない。
参院選が終わった今、党内の反対勢力との神経戦が待っている。
□後藤謙次「参院選を上回る注目の都知事選 出馬表明した小池百合子の野心 ~永田町ライブ!No.299」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月16日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【後藤謙次】日本が直面する「ABCリスク」 ~英EU離脱で顕在化~」
「【後藤謙次】甘利大臣辞任をめぐる二つのなぜ ~後任人事と直後のマイナス金利~」
「【政治】不可解な時期に石破派が発足 ~その行方は内閣改造で~」
「【政治】震災後2度目の統一地方選 ~異例なほど注力する自民党本部~」
「【政治】安倍が描いた解散戦略の全内幕 ~周到な準備~」
「【政治】安部政権の危機管理能力の低さ ~土砂災害・火山噴火~」
「【政治】「地方創生」が実現する条件 ~石破-河村ラインの役割分担~」
「【政治】露骨な安倍政権へのすり寄り ~経団連が献金再開~」
「【政治】石原発言から透ける政権の慢心 ~制止役不在の危うさ~」
「【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~」
「【政治】「新党」結成目前の小沢一郎の前にたちはだかる難問」
「【政治】小沢一郎、妻からの「離縁状」の波紋 ~古い自民党の復活~」
「【政治】国会議員はヤジの質も落ちた」