語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】琉球独立宣言、よみがえる民族主義に備えよ、ウクライナ日記

2015年10月11日 | ●佐藤優
 ①松島泰勝『実現可能な五つの方法 琉球独立宣言』(講談社文庫 690円)
 ②宮家邦彦『日本の敵 よみがえる民族主義に備えよ』(文春新書 780円)
 ③アンドレイ・クルコフ(吉岡ゆき・訳)『ウクライナ日記』(集英社 2,400円)
   

 (1)米海兵隊普天間飛行場の移設問題に伴う辺野古新基地建設をめぐって、中央政府と沖縄の緊張が高まっている。
 松島泰勝・龍谷大学教授による①は、沖縄人のアイデンティティの変化を分かりやすく記し、次の点を強調する。
 <琉球人がみずからを独自な歴史的主体として自覚する手段が、琉球人アイデンティティです。「復帰」後の歴史のなかで、2014年の沖縄県知事選挙ほど「アイデンティティ」が強調されたことはありません。これは琉球の長い差別と支配の歴史を踏まえて、琉球の現在と将来を考える琉球人が集団として台頭してきていることを意味します。
 これまで日本人としてみずからを考えていた琉球人が、自分とは何者なのか、日本人なのか、琉球人なのかを真剣に問うようになりました。学校やマスコミを通じて琉球人は日本人であると教えられ、「復帰」運動でも、日本が琉球の母国と信じてきました。しかし同胞であるはずの日本人が、琉球人の集団としての苦しみを自分の問題として考えていないことを、もはや否定できなくなったのです>
 沖縄(琉球)独立論とは一線を画する多くの沖縄人も、ここで松島教授が述べた認識を共有し、「沖縄の自己決定権」を主張している。
 翁長雄志・沖縄県知事の発言や行動を理解する鍵が沖縄人のアイデンティティにある。

 (2)宮家邦彦・元外交官の国際情勢分析は、深い洞察と健全なバランス感覚に裏付けられている。②で著者は、国際環境の変化に対応せず、普遍的な価値観を受け入れないのは、<日本自身のガラパゴス型「保守主義」なのかもしれない>と指摘する。さらに、次のように指摘する。
 <中国のアキレス腱は、なにも台湾や朝鮮半島だけではない。今後の中央アジア情勢次第では、新疆ウイグル自治区も中国の安全保障にとって不可欠になる。中国政府指導部がイスラムをより正しく理解し、真の共存の道を見出さない限り、ウイグルは中国のアキレス腱であり続けることは間違いないだろう>

□佐藤優「沖縄人のアイデンティティ ~知を磨く読書 第119回~」(「週刊ダイヤモンド」2015年10月10日号)

 *

 (3)③は、アンドレイ・クルコフ(ウクライナの著名な作家)の日記(2013年11月から)の抜粋。
 優れた小説家であっても、自民族中心主義から抜け出せないことが如実に示されている。読んでいて憂鬱になる。もっとも、そんなクルコフでさえ、次のように記す。
 <昨日、右派セクターの兵士の一人が、国民自衛団の戦士と喧嘩した挙句、なんと独立広場で、酔ったあげくカラシニコフ銃連続発射をやってのけた。自動小銃の連続発射音を聞いた街は凍りついた。キエフの臨時副市長を含む三名が負傷した>【2014年4月1日の日記】
 右派セクターはウクライナの現政権の中核となる勢力だ。本書からもウクライナがまともな法治国家ではないことが伝わってくる。日本政府はウクライナ現政権に対する政治的、経済的な支援をやめ、ロシアとウクライナの対立について厳正中立の立場で臨むべきと思う。
 
□佐藤優「ウクライナ現政権への立場 ~知を磨く読書 第117回~」(「週刊ダイヤモンド」2015年9月26日号)
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