語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>除染後も続く汚染

2011年12月31日 | 震災・原発事故
 福島県内で超危険な汚染地帯2,000平方kmのうち、森林面積が6~7割を占める。
 森林の放射能除染は、絶対にできない。
 森林では、秋から、落ち葉のセシウム汚染が深刻になり始めている。これが、今後ますます深刻な問題となる。雪解けが始まる来春、さらに新たな水質汚染となって再発する。
 福島第一原発ぁら放出され、内陸に流れた放射性物質の多くは、風に乗って山にぶつかり、太平洋側に落下した。そこが分水嶺だ。
 山岳地帯に始まる水源地の水が汚染されれば、河川によって上流から下流にセシウムが流れるので救いようがない。
 人体のほとんどは、水でできている。上水道の汚染が決定的な意味をもってくる。
 カウンターを使って土壌から出る放射線の空間線量を測るだけで、生活できるかどうかの可否を判断することは危険だ。除染しても、すぐに汚染が再発する。

 福島県内の都市部の場合、住宅地の除染は、屋根、壁、雨樋から庭まで、細部まで放射性物質を剥ぎ取らなければならない。しかし、コンクリート面にはセシウムが強くこびりついているので、困難をきわめる。
 現在も福島第一原発の事故現場から大量の放射性物質が大気中に放出されている。東北地方特有の風は、太平洋側から吹くヤマセだ。これが吹き出すと、内陸に向かってさらに広大な範囲に汚染が広がる可能性がある。
 除染しても除染しても、山からも海側からも、また放射性物質が襲ってくる。果てしない戦いだ。
 問題は、そのあいだ住民がずっと被曝し続けることだ。

 こうして、除染不可能な広大な面積の土地、除染不可能な森林と住宅地、表土栄養分の除去による耕作地の死、背後から迫る水質汚染の深刻さ・・・・さらにそこから発生する膨大な量の汚染物の処理場がないことを知れば、除染はまさしく幻想そのものだ。

 日本全土に降り積もった放射性物質の汚泥・汚染土壌・汚染瓦礫・焼却灰は、さらにまた広大な範囲に深刻な問題を広げている。
 汚染物の拡大は、太平洋側だけの問題ではなくなった。
 山形市では、6月下旬、ついに汚泥から高い数値の放射性物質が検出され、処理不能に追い込まれた。
 放射性物質が山を越えたのか、分水嶺を抜けて河川から汚染が広がったのか。
 多くの福島県民が避難し、比較的安全と思われた日本海側にも汚染が広がっているのだ。

 以上、広瀬隆「除染後も続く汚染 今からでも避難を ~原発破局を阻止せよ39~」(「週刊朝日」2011年12月30日号)に拠る。

 【参考】「【震災】原発>セシウムが覆う日本の山河
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【震災】原発>牛乳汚染スパイラル

2011年12月30日 | 震災・原発事故
 12月7日、宮城県内3カ所の原乳が、2カ所で20Bq/kg、21Bq/kgと、前週の2倍を超えた。
 仙台市の小学校の学校給食の牛乳から、放射能が検出された。その後も同じブランドXの1リットル入り牛乳3本から17~23Bq/kgが検出された。測定したのは、NPO法人「TEAM二本松」(福島県二本松市)だ。
 「TEAM二本松」は、これを含めて22日までに複数メーカーの37本を測定し、11本からセシウムを検出した。いずれも暫定基準値の200Bq/kgを下回り、来年度から実施予定の50Bq/kgよりも低かった。国が「飲んでも安全」とするレベルだ。
 しかし、学校給食は半ば強制的に子どもたちの口に入る。
 給食に出す牛乳の放射能はゼロにしてほしい。たとえ他県から持ってきてでも。 【佐々木道範・「TEAM二本松」理事長】
 栄養バランスに優れた牛乳は給食のメニューから外しにくい。当面の対策として、放射能を理由にして飲まない子が代金を払わなくてすむ措置ができるかどうか検討している。【佐藤順・仙台市教育委員会健康教育課長】
 上記ブランドXのメーカーは、関東・東北各県の原乳を6月から週1回、放射能検査をしてきた。検出の下限である10Bq/kgを超える放射能が検知されることもある。
 メーカーに原乳を供給するのは販売農協だ。メーカーは、二本松の検査結果も含め、販売農協に伝えて改善を求た。
 生産者団体の宮城県酪農農協組合は、11月半ばから動き始めている。所属の酪農農家全180戸を回り、餌の放射能を測定中。放射能ゼロを目指している。

 以上、松浦新「学校で毎日飲むもの ~〈プロメテウスの罠〉■学長の逮捕:20~」(2011年12月29日付け朝日新聞) 

    *

 福島県二本松市の市民団体「TEAM二本松」は、食品大手「明治」の乳児用粉ミルクの放射線汚染を同社に通報、対象製品36万缶を無償交換に至らせた。
 実は、粉ミルクだけではない。牛乳の汚染が見過ごされている。
 メーカーは、自主検査の数値を公表していない。なぜか。
 行政が生産段階で検査しているから、規制値を超える原乳がメーカーに来るはずはない。自社検査は、あくまで自主的な確認レベルなので、公表する必要はない。【雪印メグミルク、明治、森永乳業】
 実はしかし、10月以降、汚染が検出されている。育ち盛りの子どもは1日に1リットルを飲む。毎日40Bq近くを摂取し続ける勘定になる。

●「TEAM二本松」の検査
  ・「明治・おいしい牛乳」・・・・26Bq/kg
  ・「メグミルク牛乳」(宮城県大崎市で製造)・・・・39Bq/kg
  ・「森永牛乳」(仙台市で製造)・・・・18Bq/kg
  ・「まきばの空」(仙台市で製造)・・・・15Bq/kg
  ・「毎日の食卓3・6牛乳」・・・・38Bq/kg

●福島県のスーパーの独自検査(11月11日)
  ・「明治・おいしい牛乳」・・・・18Bq/kg。

●新潟県による県内流通品の「抜き打ち検査」
  ・3点の牛乳(商品名非公表、製造所:宮城・福島)・・・・12.3~22.3Bq/kg

●自治体独自の検査
  ・「メグミルク」(宮城県で製造)・・・・18.9~25Bq/kg 【宮城県大崎市】
  ・「明治」(神奈川県で製造)・・・・9.4Bq/kg 【東京都世田谷区】
  ・「明治・おいしい牛乳」(宮城県県で製造)・・・・17.9Bq/kg 【東京都千代田区】
  ・「**」(群馬県で製造)・・・・7Bq/kg  【東京都武蔵野市】

 以上、藤後野里子/大場弘行(本紙)「牛乳汚染スパイラルから子どもを守れ」(「サンデー毎日」2011年1月1・8日号)に拠る。
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【震災】原発>餅、おせち料理は大丈夫か?

2011年12月29日 | 震災・原発事故
●餅
 市販の切り餅などは産地が「国産」としか表示されない。よって、汚染もち米が紛れ込む可能性がある。【河岸宏和・品質管理アドバイザー】

 自治体によるコメの検査では、千葉県白井市と栃木県日光市のもち米から50Bq/kg前後が検出された。
 2011年11月に暫定規制値を超える汚染米が出た福島県伊達市の農家も、もち米を作っていた。
 福島県産もち米は、コメ全体の2%。30kgの米袋換算で20万袋に上る。

 代表的な餅メーカー(a)「佐藤食品工業」(通称サトウ食品)、(b)「越後製菓」、(c)「きむら食品」の産地は次のとおり。なお、各社とも自主検査を実施している。
 (a)新潟を中心に、北海道、岩手、宮城、秋田、山形、佐賀、滋賀など。福島県の新米(23年度米)は現段階では使用していない。
 (b)新潟、北海道、佐賀が主体。福島県産は数年来使用していない。
 (c)新潟、岩手、山形、秋田、北海道、千葉、富山、長野、岐阜、九州など。福島の新米の購入・使用予定はない。

●おせち料理
 数の子、海老、栗など具材の大半は輸入品。気になるのは卵焼き、最近定番のローストビーフ(牛肉)だろう。 鶏の餌は輸入配合飼料が多いと言われるが、水、空気、飼育環境を通じた汚染の可能性は残る。しかも、鶏肉の産地表示は、もち、牛肉と同様に「国産」にとどまる。消費者は県名をチェックし、記載がなければ店に問い合わせて買うか否かを決めるしかない。【河岸アドバイザー】

 ちなみに、自治体による検査結果(11月30日まで)は次のとおり。 
 (a)牛・・・・検査数37,674点。うち規制値超えは152点。ただし、100Bq超えが848点あった。
 (b)鶏・・・・卵:検査数205点。うちセシウムの検出例は0点。/鶏肉:検査数102点。うち7月に茨城県大子町から5Bqが検出されて以降、不検出が続く。

 以上、藤後野里子/大場弘行(本誌)「おせち料理、モチはどこまで大丈夫か?」(「サンデー毎日」2011年1月1・8日号)に拠る。

    *

 鍋野菜の主役、白菜の主な産地は、茨城と長野だ。両県で日本の全生産量の45%を占める。しかし、長野は夏採りで、関東に関していえば、秋から冬にかけて販売される白菜の8割が茨城産だ。【内田裕雄・流通ジャーナリスト】
 鍋需要で売上げを伸ばそうとしている矢先に白菜が茨城県産だけになってしまった。その影響からか、他の鍋種も出足が鈍い。【中堅スーパー担当者】

 通販大手の「カタログハウス」(東京都渋谷区)は、JR新橋駅前の直売店では、コメ、野菜、果物を扱っている。8月から、福島産の食品を独自に検査し、放射能の値を明示して販売している。同社は、厚生労働省の暫定基準よりはるかに厳しい40Bq/kg(野菜)というウクライナ保健省の基準を採用し、収穫直後の集荷場と販売前の店内と、計2回検査している。
 ウクライナ基準以下なら、標準的な量の食品を摂取しても放射能の合計は年間1mSvを超えない。12月半ばから福島県産の新米の販売も開始した。玄米で3Bq/kg、精米すると1Bq/kg以下になった。精密に検査したため、例年より発売が2ヵ月以上遅れたが、売上げは好調だ。【斎藤憶良・社長】

 独自に検査し、結果を公表するという流れは、流通大手にも波及している。
 イオン(千葉市)は、11月から自主検査の結果を店頭やホームページで公表し始めた。
 公表に踏み切って以来、「この産地のものは買わない」という客の声は聞かない。【広報担当者】

 茨城県つくば市周辺の生産者が運営する直売書「みずほの村市場」は、3月下旬から、農作物や牛乳の放射線量の測定を独自に行ってきた。
 最初、「何で測るんだ。ますます風評被害がひどくなるじゃないか」と反対する生産者もいた。でも、すべての作物を測って、本当に安全だということを確かめなければ商品として責任を持てない。きちっとした検査と数値の公表をしない限り、消費者の信頼は取り戻せない。【長谷川久夫・代表取締役】
 この取り組みがテレビや新聞で報じられると、8月には売上げが前年の8割程度まで回復。9月には前年を超えるまでに至った。

 事故直後には、福島など被災地の野菜を積極的に買う「応援買い」が起きた。
 だが、いま必要なのは「応援」ではない。正確な事実を広く知らしめることだ。公開された情報をもとに、消費者が自主的に選択することだ。安全でおいしい、と判断できるからこそ買う、という「ふつうの消費活動」だ。

 以上、大貫聡子(本誌)「正月の食卓を直撃する放射能不安」(「週刊朝日」2011年12月30日号)に拠る。
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【震災】原発>破綻した核燃サイクル ~防災範囲はたった5kmの六ヶ所村~

2011年12月28日 | 震災・原発事故
●事業開始から20年以上
 六ヶ所再処理工場の建設費は、1989年の事業申請時は7,600億円、1996年の経費見直しで2倍以上の1兆8,800億円、1999年には当初の3倍以上の2兆1,400億円(現在2兆1,930億円)に膨張した。
 その間、操業延期を18回繰り返し、現在はガラス固体化製造設備のトラブルで2012年10月の運転開始も危うい。

●バックエンド対策のスケジュール
 六ヶ所再処理工場は、100年の事業だ。建設に既に20年、運転に40年、施設の解体に35年。
 工場が順調に稼働しても、使用済み燃料を32,000トンしか処理できず、発生する過半数の43,000トンは中間貯蔵にまわす計画となっている。「全量処理」は最初から絵に描いた餅だった。
 再処理計画は、これだけで終わらない。放射性廃棄物のための処理・埋設移設、使用済み燃料の中間貯蔵施設とその輸送、高レベル放射性廃棄物の最終処分場などが必要だ。これら廃棄物のための施設がすべて順調に建設・解体されるのに100年かかるのだ(予定)。高レベル放射性廃棄物は、処分後300年間管理される(予定)。
 電気事業連合会が計画した2004年現在、これらバックエンド対策施設全体で総額11兆円が見積もられ、うち六ヶ所工場は全体の7割(11兆円)を占めた。
 実際には、再処理工場さえこの計画どおりに稼働していない。高レベル放射性廃棄物の最終処分場の候補地もない。しかも、この計算には、事故やトラブルは一切想定されていない。
 再処理と最終処分場のコストは、すでに2005年から電気料金に上乗せされ、国民が100年間にわたって(何世代も)負担する仕組みが整えられている。東京電力の場合、30~40銭/kW。核廃棄物対策とは、全てを先送りする「対策」のことだ。

●溜まりゆくプルトニウム
 六ヶ所工場と各電力会社との再処理契約量32,000トンのうち4割が東京電力、2割が関西電力、1割が九州電力で、他の電力会社はそれぞれ数%にすぎない。
 事実上、東電のための再処理工場なのだが、その東電は福島県から県内全10基の原発の廃炉を要求されている。また、柏崎刈羽原発では、刈羽村民からプルサーマルを拒否されている。東電は「脱プルトニウム」せざるを得ないのが実情だ。
 英仏の再処理工場に貯蔵されている35トンのプルトニウムの消費計画(プルサーマル)も、地元説明会における「やらせ」問題などがあって、計画どおりには進まないだろう。「もんじゅ」も含めてプルトニウム利用計画はことごとく頓挫し、再処理工場の稼働を合理化できる理由は何一つない。ちなみに、日本のプルトニウム所有量は45トンだ(10年末現在)。
 
●防災範囲はたった5km
 六ヶ所工場のプールには、収容能力ぎりぎりの3,000トン(原発30基分)の使用済み燃料が貯蔵され、さらに試験運転によって発生した高レベル放射性原液もある。
 ところが、六ヶ所工場では、現在、防災範囲は5kmしか想定されていない。
 福島第一原発事故によって、防災計画の対象が30km程度まで拡大されることは必至だ。すると、北方26kmにある東通原発の防災範囲に六ヶ所村工場がすっぽり入ってしまうのだ。
 この恐るべき現実は、六ヶ所工場の被曝評価を原発より低く見積もった安全審査がもたらしたものだ。
 放出放射能総量が年間22μSvという住民の被曝量、敷地地盤の脆弱性・・・・どれをとっても六ヶ所村再処理工場の危険性は過小評価ばかりだ。
 しかし、苛酷事故(長時間の電源喪失、高レベル放射能廃液タンク・燃料プールの冷却不能、タンクの沸騰、使用済み燃料の溶融など)のシナリオが検討されたことはない。

●最大の問題
 地元の自治体との関係だ。
 青森県は、独自に「核燃税」を六ヶ所村の核燃料サイクル4施設に課している。この税収は、県税収入の10%以上を占める。「六ヶ所再処理工場計画」の中止は、青森県の事実上の「倒産」を意味する。
 六ヶ所、大間、東通、むつの各市町村も電源三法交付金なしでは自治体経営が成り立たない。
 青森県と六ヶ所村は、再処理工場が稼働しない場合、使用済み燃料は県外に搬出する、という「覚書」と各電力会社と取り交わしている。これが地元の「六ヶ所計画」推進派の大きな武器となっている。事実上、どこの電力会社も使用済み燃料を自社サイトに持ち帰ることはできないからだ。

 以上、澤井正子「破綻した核燃サイクル 時間もカネも「想定外」の超過」(「週刊金曜日」2011年12月16日号)に拠る。
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【震災】原発震災の共犯者 ~原発中毒の社会学~

2011年12月27日 | 震災・原発事故
 開沼博『「フクシマ」論』(青土社、2011)は、原発立地地域の歴史を戦後史に位置づけ、「原発中毒」と分析した。ヤク中やアル中と同じように、「もっと原発を」という逃れられないサイクルに陥った、と。問題は、そのサイクルに自らはまっていったのか、それとも強制されたか、だ。【上野千鶴子】
 現実は、おそらく「喜びながら」原発を受容した側面があった。【開沼博】  
 環境社会学の概念で言えば、(a)利益を得る「受益圏」=原発の電力供給を受けている大都市圏の私たち。(b)苦しみを味わう「受苦圏」=迷惑施設を造られて困る地元の人たち、という構図だ。(a)と(b)が重ならないのが公害の本質だが、よく見ると、地元の人たちも利益を得る構造があったわけだ。【上野】
 外から見ると(b)だが、中に入ってみると苦しみだけではない。だからこそ、原発中毒の構図が固定化した。【開沼】
 未来を見出せずに都会に出ていく子どもや孫を、もしかしたら原発によって引き留めることができるかもしれない、という悲願があったのだろう。【上野】
 原発は1ヵ所で1万人規模の雇用を作り出す。【開沼】
 沖縄の米軍基地問題と構造的に似ている。基地誘致を自己決定したわけではないが、基地経済への依存がある。沖縄振興特別措置法があるから生活が成り立っている。基地がなくなれば食い詰めてしまう人たちがいる。【上野】
 原発のある地域と同じだ。【開沼】

 「原発を選んだのはリスクも込みだった」という自己責任・自己決定論をどう考えるか。【上野】
 「一億総懺悔」と同様の思考停止状態が生まれかねない。【開沼】
 それはまずい。天皇の戦争責任と庶民の戦争責任を一緒にできないのと同じだ。東電にしても、経営者、株主、社員、それぞれの立場に応じて責任の軽重は問うべきだ。【上野】
 彼らも、安全確保に努め、みんなが楽しく生活できるようにしよう、というある種の「善意」があるはずだ。だからといって全肯定できないが、推進側の「善意」にも留意する必要がある。【開沼】
 破局への道は善意で敷き詰められている、とも言う。反省するには、責任を明らかにすることが大事だ。原発事故に至る過程では、それぞれの場面で誰かが意思決定していた。その中には、決定権の大きい人も小さい人もいたはず。受益とともにリスクを引き受けた、とは言えまい。【上野】
 日本全体として「夢のエネルギー・原子力」を受け入れ、たまたま貧しかった福島にそれが実現した。40年たって自己責任論を持ち出すのは酷だ。【開沼】
 その点、『「フクシマ」論』でポストコロニアリズムを論じたのはすごく意味がある。経済力も構造的な暴力だ。選択肢のないコーナー際に追い詰められた地方の人たちが同意を強制されて、一体誰がノーと言えたか。【上野】
 一方に原子力行政・産業という中央の「原子力ムラ」、他方に原子力と手を携えることで戦後社会を生き延びてきた農漁村=地方の「原子力ムラ」がある。両者の内実を見ることで、多くの人が悪いイメージをもつ原発が40年間も維持されてきた謎が解ける。【開沼】

 どれだけ犠牲を出せば、原発はいらないと判断できるのか。今回の被曝は十二分な犠牲であり、高すぎた授業料だ。社会学者として分析してほしい。【上野】
 外の人は原発推進か反対か、と問うが、原発のある地域の人はそういう問いの立て方をしない。「それは地元にとっていいか、悪いか」が基準だ。地元のためになる、と原発を選んできた。【開沼】
 目前の短期利益が長期利益に反する、という結果が出たのが今回の原発事故だ。次世代までツケがまわる、という認識はなかったのか。【上野】
 科学的なリスクより生活上のリスクが優先課題だ。うちは年寄りを抱えている、とか、子どもの進学問題がある、とか。地元の人なりに長期利益を考えた結果が現在の状態だ。【開沼】

 社会科学は規範科学だから自分の価値観が入るのは当然。本当は、言いたいことがあるのでは?【上野】
 知識人や反対運動の側に、「なぜ40年前から反原発運動やその思想がある中で、原発を維持し、このような結果をもたらしたのか」という根本的な問いへの意味ある反省が出てこない。外に敵を作ることに熱心になっているが、これはあなた自身の問題だ、と言いたい。【開沼】
 原発反対派が「成功」できなかった責任も問われなければならない。ヨアヒム・ラートカウ(ドイツの環境歴史学者)はこう指摘する。「ドイツの反原発運動の成功は、市民の抗議やメディア、政治、行政、司法、そして学問の相互作用からも説明される。日本ではダイナミックな相互作用がほとんど展開されていない」・・・・こういう分析を聞くと辛い。【上野】
 野鳥保護団体は、風力発電のプロペラが希少猛禽類を真っ二つにして殺してしまう、と発表した。推進派学者は「そのリスクは0.00何%にすぎない」、行政官は「地域振興策として意味あるから、鳥のことは卑小な問題だ」、メーカーは「技術が進めば大丈夫」・・・・原子力ムラと何も変わらない。「脱原子力ムラ」に置き換わっただけだ。【開沼】

 3・11のショックは大きかった。これだけの犠牲を払っても日本を変えられないのなら、一体誰がどうやったら変えられるのか。若い人に問いかけたい。【上野】
 変わることへの期待感が持てない中、変える意欲がなくなり、「他人任せ」になっているのかも。しかし、「変わらない」と思わせた責任の一端は先行世代にもある。【開沼】
 ドイツでは学生運動を繰り広げた「68年世代」が緑の党をつくった。日本では全共闘を体験した私たち68年世代が政治権力の中枢に入れず、政治的影響力を持つことに失敗した。それがなぜなのかを考えなきゃいけないと、今つくづく思う。【上野】
 それぞれの世代、それぞれの立場で、「誰かが悪い」と言って切り捨てないで「自分のどこが悪かったのか」と考える余地はある。その中にこそ答があるように思う。【開沼】

 以上、対談:上野千鶴子/開沼博「わたしたちは「共犯者」なのか」(「サンデー毎日」2011年1月1・8日号)に拠る。
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【震災】天変地異のなかで俳句に何ができるか

2011年12月26日 | 詩歌

   陽炎より手が出て握り飯掴む  高野ムツオ

 3・11は、「俳句に何ができるか」という問いを突きつけた。時事を詠むのは俳句では難しい、とずっと否定的に思っていた。が、今回の震災は時事とはちょっと違うかな、という感じを強くもった。民族の記憶に刻まれるような体験だ。「俳句」2011年5月号の高野作品をみて、やはり俳句で震災に真っ正面から向き合えるのだ、と強く印象づけられた。掲句は、多分、避難所の情景を詠んだもの。握り飯に集まった人たちの思わぬところから手が出てくる。もしかすると生きていない人の手かもしれないという、恐ろしさと同時に人間の切なさが、ある種、ユーモアを交えて描かれているところに感激した。同じ「特別作品21句」の中の<瓦礫みな人間のもの犬ふぐり>もそういう印象を受けた。【小川軽舟】
 こういう時に俳句に何ができるか。やはり限られているところがある。詠みたいものにどういう形式がふさわしいかは、各人の選択の自由だ。長谷川櫂が4月に出した『震災歌集』は、長谷川のジャーナリストとしての正義感が騒いだんだ、と思う。「原子炉が火を噴き灰を散らすともいまだ現れず東電社長」・・・・こういう正義感の表明みたいなことは確かに俳句には向かないが、<高野さんの句を見ると逆に、俳句では何がやれるのかがくっきり見えたような気がしました。>【小川】

   夏萩やそこから先は潮浸し  友岡子郷
   海よ贖へと風鈴鳴りゐたり  子郷
   野蒜に花喪服のひとり佇ちつくす  子郷

 第一句、第二句、海に対して糾弾しているような強い調子だ。第三句、時間の経過が季題によって表されている。たった一人の「喪服」の人を詠んだことで、まだまだ心を痛めている人の存在が見えてくる。【西村和子】
 友岡は阪神淡路大震災を経験している。直下型で一気に都市が崩れ落ちた地震と、今回のみちのくのほとんどの海岸線が津波に侵され、国土そのものが失われたような地震とはずいぶん性格が違うところがある。【小川】
 しかも、東北であるということ。土地柄、土地の歴史みたいなものもあるし、いろいろな思いが複雑にある。【対馬康子】

   短夜の赤子よもつともつと泣け  宇多喜代子

 高野あるいは友岡のような作り方もあれば、地震に対する思いを地震という表面的なことではなくて自分の体の底まで沈めてから出してきたのが掲句だ。【小川】
 <新しい生命をけしかけているような。これは地震と全く関係なくても、すごくインパクトのある句です。>【西村】
 でもやはり、地震の年に詠まれた句ということとともに記憶したい句だ。【小川】

   瓦礫の石抛る瓦礫に当たるのみ  高柳克弘
   サンダルをさがすたましひ名取川  克弘
   瓦礫より春星よ湧け言葉出よ  克弘

 地震も津波も自然の一部だと言っても、あの瓦礫の山を見ると、俳人と自然との接点は季語で結ばれているとは思うが、季語って何なんだろう、ということを問われる感じはした。第一句、やはり有季では被災地に立った思いが詠みきれない、ということだ。第二句も。名取川は歌枕だ。【小川】
 感情が先に立って、季語を入れるとか季語を詠むというところまで意識がいかなくなるのかも。【対馬】
 地震や津波の被害という現実と、そこに残された人間そのものがあるだけで、それを包んでくれる自然がない、という感じだ。【小川】
 第三句、俳人としての祈りだ。【西村】 
 今回、地震直後の句でたくさん見たのが「春の地震」だ。それで季語が入っている、というのはどんなものか。【小川】
 俳句には季語があらねばならぬ、と思っていたが、目の前のものを俳句表現で詠みたい時、容易に「春の地震」などと言うのではなく、むしろ無季のほうが自分の作句衝動にふさわしいと思われる時があるのではないか。こういう時にこそ、私たちはもう一回考えなければならない。【西村】

   舟虫やはらわた抜けし家ばかり  小川軽舟
 
 復興計画の仕事があって、被災地にたびたび出かけた。掲句は石巻だ。【小川】
 やはり現地に立った時と東京に居る時では気持ちに差がある。俳句は単に情景を描写するだけのものではないから、どこに居ても心情が、自分の俳句のスタンスというのができるのは確かだ。でなきゃいけない。【対馬】
 加藤周一は、『日本文学史序説』でいう。日本人は精緻な哲学は書かなかったが、文学の中で充分に思想を表現した。不変の真実ではなく移ろうものを扱うなら文学の方が、なかんづく和歌や俳句などの短い詩が、ずっとふさわしい形式だろう。・・・・そのとおりだ。【西村】
 だからこそ、季語というものがある。移ろうもののことばとして、死生観に直結した詩の認識として季語があるのかもしれない。【対馬】
 俳句とか短歌は、その時のことしか言えない。でも、その時のことを言っておく、ということが大切だ。【西村】
 季語は、その人その人の記憶だ。だから、今回、季語を入れずに詠まざるをえない心境というのはすごい状況だ。【対馬】

 以上、西村和子/対馬康子/小川軽舟「合評鼎談 今年の秀句、そして諸問題」(「俳句年鑑2012」、角川書店、2011)に拠る。

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【震災】東日本大震災を俳人はどう詠んだか

2011年12月25日 | 詩歌
●高野ムツオ「無名の力」
   震災後また朝が来て囀れる  佐々木智子
   泣きはらす子らにひかりあれ卒業歌  上郡長彦
   避難所の毛布に眠る赤子かな  條川祐男
   泥の遺影泥の卒業証書かな  曽根新五郎
   春の海ただ一揺れで死者の海  泉天鼓
   草笛よ卒業式は海の中  高橋きよ子
   夏雲や生き残るとは生きること  佐々木達也
   さわ先生カニに変身あいに来た  せとひろし

●「古い人・新しい句 年代別2011年の収穫【80代以上】」
   花曇り津波のいろと重なりて  有馬ひろこ

●「画然たる句境 年代別2011年の収穫【70代男性】」
   梅雨茫々孤身の松のしかと立つ  友岡子郷
   活断層辿る実習花の雲  尾池和夫
   青梅や津波遡上の記録読む  和夫

●「惜しまぬ世代 年代別2011年の収穫【60代男性】」   
   車にも仰臥という死春の月  高野ムツオ
   瓦礫みな人間のもの犬ふぐり  ムツオ
   陽炎より手が出て握り飯掴む  ムツオ
   見覚えの雛がぽつんと瓦礫山  菊田一平
   水汲みに朝は始まり梅の花  一平

●「俳句会の復興を担う世代 年代別2011年の収穫【60代女性】」
   蝌蚪の数ふえてをりけり地震の後  小林篤子
   水の秋肺腑の写真きれいなり  篤子
   列島の灯を落としたる蝌蚪の紐  藤本美和子
   これからのことをぺんぺん草に問ふ  美和子

●「飛翔 年代別2011年の収穫【50代男性】」
   いぬふぐり揺らぐ大地に群れ咲ける  大家達治
   波の果て芽吹きを恃む秋津島  達治

●「群雄割拠の時代 年代別2011年の収穫【40代】」
   釜石はコルタカ 指より太き蝿  照井翠
   地球とは何 壊しては雪で埋め  翠
   何もかも流して澄める春の川  翠
   双子なら同じ死顔桃の花  翠
   みちのくや行方も知れぬ春の塵  五島高資
   かぎろいは見えず原子が燃えており  高資
   天使魚と目が合う夜の地震かな  高資
   下天へとパンドラの匣かげろえる  高資
   死者数もダウ平均も液晶画面  田中亜美
   夕ざくら湯気の立つもの食うて泣く  亜美

●「諸家自選5句」
   大津波おもふ静かな波のなか  安倍真理子
   地震津波傷まし花も間に合はず  秋山朔太郎
   激震の呼吸器に足す春の水  綾部仁喜
   ラジオつけっ放しで眠る春の夢魔  伊丹啓子
   卒業の真顔災禍の校庭に  池田啓三
   地震の中病院通ひ凍て戻る  石井保
   観世音菩薩妻逝くうすころも  保
   亀裂分断津波蝶々生まれけり  今瀬剛一
   陥没の底にも咲けりいぬふぐり  剛一
   芽吹く木に捉まりたへる震度七  剛一
   余震また畑の崩れに初の蝶  大坪景章
   地震あとあたたかき日に爪を切る  大家達治
   地獄絵の前にごろんと西瓜あり  岡崎桂子
   津波抜け松一本立つ薄暑光  加藤水万
   避難所に回る爪切夕雲雀  柏原眠雨
   津波のあとに老女生きてあり死なぬ  金子兜太
   竹の秋復興の首太き人ら  兜太
   震災をはるかに三味線草伸びる  北さとり
   地震春愁なみだにもろくなりにけり  日下部宵三
   おしなべて蕾は堅し昼の地震  桑原まさ子
   湧き上がる人獣冬の地平線  小出治重
   大地震と津波の中の日本人  治重
   天地の狂ひ果てたる春の底  治重
   大地震のあとのくらがり花菫  治重
   脱出の機会を逃す春の土  治重
   被災地の山から山へ鰯雲  駒走鷹志
   震災の御霊のわたる花の雲  阪田昭風
   かばかりの余震に目覚め明易し  昭風
   暮れ残る花菜に想ふ地震津波  澤井洋子
   つばくろや瓦礫に「無事」の文字大き  鈴木正治
   さくら前線被災地を追ひ越して行く  正治
   牛放ち村ごと避難柞咲く  正治
   余震また仔牛につきぬ夜鳴きぐせ  正治
   被災地の村が空つぽ田水湧く  正治
   膨れ這い捲れ攫えり大津波  高野ムツオ
   車にも仰臥という死春の月  ムツオ
   陽炎より手が出て握り飯掴む  ムツオ
   鬼哭とは人が泣くこと夜の梅  ムツオ
   瓦礫みな人間のもの犬ふぐり  ムツオ
   揺れやまぬ大地あふるる春の蝶  名取里美
   福島の参加一人ほととぎす  里美
   激震のあとの無韻の春の雪  布川武男
   大地震大停電昼夜ぞろぞろ歩くのみ  前田吐実男
   大地震依頼さては小綬鶏狂ったか  吐実男
   列島の細身の震え桜まだ  松田ひろむ
   桜散る行方不明者合わせては  ひろむ
   貞観の津波を掘れば栗の花  ひろむ
   TUNAMI後や一本松の松の芯  ひろむ
   蝉声の地に浸み海に死者の窟  宮坂静生
   地震列島龍太の春の月出でし  宮田正和
   地震のない国を探しに紋白蝶  森田智子
   沖空津波胸元津波うつつ春  諸角せつ子
   津波来て跡形もなし鮭孵化場  八牧美喜子
   白鳥守津波に呑まれ白鳥去る  美喜子
   露寒や忘れ得ざりし被災の日  安原葉
   壊滅と聞く悲しさに冴返る  葉
   激震に雛を納めし箱さわぐ  山口速

●「東日本大震災に思う」
   かぶとむし地球を損なわずに歩く  宇田喜代子
   春天のぐるぐる回る地震の底  森川光朗
   倒れたるゴム長襲ふ地震の群れ  光朗
   抱き付いて地震遣り過ごす名無しの木  光朗
   草原を薙ぐ春なゐの巨きな手  光朗
   地震ぐせのつきし五体を野に放つ  光朗
   ふきのたう地震の中に目をひらく  光朗
   津波に死せる縁者の名前冴返る  八牧美喜子
   大津波ありし春田に船据わる  美喜子
   津波に死せし記者の名刺の梅雨じめり  美喜子
   猫連れて避難も出来ず鰆焼く  美喜子
   逝きし子の花飾りある夏帽子  佐々木妙
   淡雪として消えゆけり余震また  蓬田紀枝子
   クロッカス開きたきときくる余震  紀枝子
   難民といふべし高架冴返る  藤木倶子
   胸打つや毛布一枚分け合うて  倶子
   心まで折れまじ春の星新た  倶子
   歓声や春夜を破る無事の声  若木ふじを
   復興を誓ふ式辞や入社式  戸井田昭
   たんぽぽや避難所の庭仮床屋  古川小枝子
   海底の御魂にとどけ虫の声  三田地節子
   鎮魂の海へ銀漢濃く太く  高橋秋郊
   一人づつ半旗見上げて入学児  榎本好宏
   飛び出して雪の大地にしがみつく  小柴六進子
   余震未だ位牌かたむきたる春夜  長谷川紫苑
   目に見えぬ怖さに脅え種浸す  三橋恭子
   トラックも津波の瓦礫涅槃西  柏原眠雨
   淡雪や瓦礫めくりて母探す  眠雨
   避難所に回る爪切夕雲雀  眠雨
   避難所の暮らし長びく蝿叩  眠雨
   町ひとつ津波に失せて白日傘  眠雨
   津波禍の漁船花野に横倒し  眠雨
   移り来し摺上川の夕河鹿  門馬富美子
   炎天に土台を曝す津波跡  四家たけし
   棗にがし瓦礫遠見の顔も昏  鈴木八洲彦
   瓦礫よりつきだす舳先春の空  河原地英武  
   根元より折れたる鳥居揚雲雀  英武
   彼岸墓参父を踏み母を踏み  英武
   瓦礫中より完璧な子猫なり  今瀬剛一
   山さ行け津なみが来るぞ冴返る  榊原康二
   リュックより取り出す位牌桜餅  駒井昌子
   鶯や写真を洗ふ昼下り  駒井勝子
   耳澄ます津波情報夜の梅  さいとう白紗
   地震翌朝も新聞届く梅真白  辻田慶子
   大勢のグスコーブドリ稲の花  太田土男
   幾万の救い求めし手か芒  佐藤レイ
   炎天下三陸復興応援団  松田正徳
   新涼や咀嚼して読む復興案  金沢道子
   満点の星凍りても生きており  森村誠一
   歳時記も辞書も流されみな朧  渡辺登美子
   進級の子ら抱き合ふ「生きていたね」  小林邦子
   梅雨明けや「生きる力」の遺稿文  芳賀翅子
   半島に凍りしままのわが言葉  菅原鬨也
   寝に戻る仮設住宅虫の声  岡本三男
   被災者も地酒に和み秋祭  田中絹子
   みなしごが蜻蛉追いつつ口ずさむ  三浦栄子
   帰らない笑顔の友や草の花  澤館こう子
   満月や瓦礫の山のうず高し  梅岡京子
   父母の生きし日思い秋果盛る  古館やす子
   ぶらんこを捜し歩きて秋になる  小笠原さくら
   被災地と老いを励ます吾亦紅  祝田シヅ子
   陸中の減らざる瓦礫秋の風  山口剛
   みちのくの春日の痩せて鹹(しおからき)  渡辺誠一郎
   死んでなお人に影ある薄暑なり  誠一郎
   見覚えの雛がぽつんと瓦礫山  菊田一平
   凍返る海が火を噴き火が奔り  一平
   水汲みに朝は始まり梅の花  一平
   いさかひの種や冷たきにぎりめし  一平
   掘り返す土葬の屍花は葉に  一平
   位牌抱き笑ふやうなる死顔よ  照井翠
   脈うたぬ乳房を赤子含みをり  翠
   双子なら同じ死顔桃の花  翠
   方舟の善民はみな呑まれけり  翠
   なぜ生きるこれだけ神に叱られて  翠
   人呑みし海に向かひて黙祷す  翠
   漂着の函を開ければ春の星  翠
   ありしことみな陽炎のうへのこと  翠
   しら梅の泥を破りて咲きにけり  翠
   牡丹の死の始まりの蕾かな  翠
   生きてをり青葉の雫頬に享け  翠
   泥をかぶるたびに角組み光る蘆  高野ムツオ
   呼吸器に春激震の一波動   綾部仁喜

 以上、「俳句年鑑2012」(角川書店、2011)に拠る。

 【参考】「【震災】原発事故を俳人はどう詠んだか
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【震災】原発事故を俳人はどう詠んだか

2011年12月24日 | 詩歌
●「群雄割拠の時代 年代別2011年の収穫【40代男性】」
   かぎろいは見えず原子が燃えており  五島高資
   下天へとパンドラの匣かげろえる  五島高資

●「若手台頭の年 年代別2011年の収穫【30・20・10代】」
   現代詩・紫雲英・眩暈・原子力  神野沙希

●「諸家自選5句」
   被曝せし川に魚飛ぶ養花天  荒井千佐子(「沖」・「空」)
   春はやて つむじに浴びる放射能  伊丹啓子(「青群」)
   花曇 ミリベクレルの野菜も喰い  啓子
   原発忌即地球忌や地震の闇  大井恒行(「豈」)
   被曝の人や牛や夏野をただ歩く  金子兜太(「海程」・「寒雷」)
   フクシマを思わぬ日なく八朔に  如月真菜(「童子」)
   福島第一原子力発電所二号棟おりけむり  桑原三郎(「犀」・「つばさ」)
   原爆忌原発始末どうなるの  斎藤一骨
   セシウムの梅雨の濁流無人村  深谷雄大(「雪華」)
   防護服猛暑の寝間に倒れ込む  雄大
   原子禍の国亡ぶかに下土の炎ゆ  雄大
   父祖の地の磐城岩代霧の中  雄大
   児の頬に遅春のなみだ放射能と  マブソン青眼(「海程」)
   三歳で「セシウム」覚え春しぐれ  青眼
   児に教えん原発のこと銀河のこと  青眼
   父子愛に半減期なし葡萄剥く  青眼
   フクシマの麦がわなわな震へだす  松浦敬親(「麻」)
   亀鳴くや原発圏の嘘まこと  諸角せつ子(「道標」)
   原発二十粁圏さくらほぐるるや  せつ子
   春田打ちある由もなし原発圏  せつ子
   原発二十粁圏春田とて海市  せつ子
   眼に見えぬ放射能ふり竹黄ばむ  八牧美喜子(「はららご」・「濱」)
   火を創るは神の領域萬愚節  美喜子
   春の地震などと気取るな原発忌  山崎十生(「紫」・「豈」)
   せっけんを洗うことから原発忌  十生
   フクシマの弔旗でありぬ黒牛は  渡辺誠一郎I(「小熊座」)
   盗汗かくメルトダウンの地続きに   誠一郎
   しずけさは死者のものなり稲の花  誠一郎  

●「今年の秀句 ベスト30」      
   原発密閉ぎつしりと蓮の花  佐怒賀正美 「俳句」7月号 【対馬康子・選】

●「東日本大震災に思う」
   汝知るや蟇のつぶやく半減期  小原啄葉(「樹氷」) 【自選】
   放射線害知らぬ小鳥の木の実食ふ  八牧美喜子(「はららご」・「濱」) 【自選】
   原発を逃れし人に春の雪  小林雪柳(會津) 【自選】
   人は皆避難して菜の花ばかりなり  無着成恭(「會津」) 【小林雪柳・選】
   放射能恐れず摘みぬふきのたう  米山雲雅(「會津」) 【小林雪柳・選】
   原発を津波砕きて蝌蚪生る  吉川伸生(「會津」) 【小林雪柳・選】
   降り切れし線量計や草の花  柏原眠雨(「きたごち」) 【自選】
   福島の桃頑張って上京す  稲村ツネ(「浜通り」) 【結城良一・選】
   水中花炉心の水の減ってゐる  太田土男(「草笛」・「百鳥」) 【自選】
   福島は福島であれ夏の海  赤間学(「滝」) 【菅原鬨也・選】
   セシウムの降りて盗汗が内臓に  渡辺誠一郎I(「小熊座」) 【自選】
   牛虻よ牛の泪を知つてゐるか  永瀬十悟(「桔槹」) 【佐藤成之・選】

●「今年の感銘句」      
   放射能に追われ流浪の母子に子猫  金子兜太 『非核の旗』 【寺井谷子・選】
   暁鴉・睡魔・マイクロシーベルト  神野紗子 「俳句」5月号  【対中いづみ・選】
   原子炉は遺跡とならむ桜咲く  渡辺重昭  「梟」5月号  【小澤實・選】

●第55回角川俳句賞
   県境にとどまる宅急便と春  永瀬十悟 「ふくしま」
   避難大事恋も大事やチューリップ  十悟
   避難所に春来るキャッチボールかな  十悟      

●「全国結社・俳誌・・・・一年の動向」
   草茂るフクシマを去る面構え  鴨下昭(「亜」)
   いはれなき放射能禍や四番茶  井坂景秋(「亜」)
   死の灰にまみれて藁もわらしこも  無着成恭(「會津」)
   原子炉が危機を孕みて梅雨曇る  花野里美(「蟻乃塔」)
   放射能まみれの海へ燕来る  相原左義長(「海程」)
   放射能など知らぬまま入学す  吉田透思朗(「海程」)
   原発の嵐の止まずに沖縄忌  下地慧(「ウェーブ」)
   フクシマは人体実験羽抜鶏  池田義弘(「瀚海」)
   原発の虚実さらして四月逝く  州浜ゆき(「曲水」)
   青蛇の放射線量計られず  西田野李男(「昴」)
   原発とはくちびる渇く言葉かな  長岡由(「浜通り」)

 以上、「俳句年鑑2012」、角川書店、2011)に拠る。

    *

   原発の方より来たり冬の犬  馬目空(いわき市)

 以上、2011年12月19日付け朝日新聞俳句欄/長谷川櫂・選第1席に拠る。

    *

   原子炉が火を噴き灰を散らすともいまだ現れず東電社長

 以上、長谷川櫂『震災歌集』(中央公論新社、2011)に拠る。
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【震災】原発>どこまで除染できるか ~南相馬市~

2011年12月23日 | 震災・原発事故
●児玉龍彦教授と桜井勝延市長は「年間被曝量1mSv以下」の基準をいち早く打ち出した。国も「11mSv」基準で年明けから本格除染に向けて動き出している。二人の除染の全体像は如何に。
 原発事故で飛散した放射性物質を墨に譬えれば、いまは空からパーッと広範囲に撒かれた状態だ。そこを除染し、白くきれいな「点」にするイメージだ。具体的には、南相馬の幼稚園や保育園で表土を除き、木を切り、屋根を洗い、遊具を取り換えている。【児玉】
 「百の議論より一つの成功例を」と児玉教授は言っている。被災地の現場感覚にぴったりだ。うちの教育委員会の職員は、児玉教授から線量計の使い方を教わり、すぐ現場に飛び出て動き出した。【桜井】
 厚生労働省が5~6月に東北、関東、四国で108人の母親の母乳を検査したところ、福島在住の7人の母親から母乳1.9~13.1Bq/kgのセシウムが検出された。その時点で基準論議をしている暇はない、白い点をたくさん作っていかねば、と南相馬に除染に入った。福島市には福島大・福島県立医大、いわき市には筑波大などが入っていたため、東大・新潟大は南相馬を中心に活動することになった。同時に、原発20km圏内や計画的避難区域の交戦両地域に通じる常磐自動車道、国道6号・114号・288号などの「線」の除染も進める。高線量地域へのアクセス確保に必要だからだ。さらに田畑・森林の「面」の除染へと展開しなければならない。【児玉】
 除染で出た放射性廃棄物の「仮置き場」が問題だ。林野庁は、汚染された土・稲わらなどを一時的に国有人の敷地内に無償で置くことを認めた。仮置き場に3年、その後中間貯蔵施設に移して30年以内に最終処分、と国・県はいう。が、地元は仮置き場が半永久化するのを恐れている。国有林は大切な水源地だ。そこに放射性廃棄物を置いていいのか、と。【桜井】
 合意形成は大変だ。学者は具体的なアイデアを提供して、被災地の合意づくりを支援するしかない。<例1>森林発電のプラン・・・・汚染された森の木を切って燃やして発電し、一方で植林して30年かけて森を再生する。汚染木材・汚泥についたセシウムが700度以上で帰化する性質を利用して、燃やすときにフィルターでセシウムを除去する。太平洋セメントにその技術がある。「東日本大震災復興支援財団」(孫正義・ソフトバンク社長)が興味を示している。<例2>島津製作所は、30kgの米袋を10秒で検査できるGBO検査器を急ピッチで開発中だ日本には自然エネルギーにも21世紀の産業革命にも通じる技術がある。【児玉】
 被災後、南相馬を脱原発の世界的ノウハウと情報の集積地として再生したい、とずっと述べてきた。自分たちなりの考えもある。南相馬は津波被害も甚大で、海岸線の復旧が急務だ。そこで、放射性物質がついた泥を密封して防潮堤の埋め立てに使おうと考えた。泥の上に土を被せて樹木を植え、防潮林にする。泥も有機物として生かせる。【桜井】
 泥を入れる容器・コンテナを工夫すれば十分に可能性はある。【児玉】

●除染から復興への道のりは海図のない航海のようだ。安全な航路が約束されているわけではない。莫大な費用もかかる。いっそ住めるところと住めないところをきっちり分けたほうが早いのではないか、という意見がある。
 除染には大切な家族・地域・文化・歴史を育んできた故郷を取りもどすのだ、という覚悟と決意が求められる。費用はかかる。二本松市で60坪の戸建て100軒くらいの除染費用をハウスメーカー・放射線業者に見積もってもらったら、1戸500万円くらい。セシウムが残った屋根を葺き替えるとなると、さらに500万円。だから、政府・国民の覚悟と決意が必要だ。【児玉】
 南相馬市は、震災前で住宅と事業所合わせて46,000軒。1軒500万円をかけたら2,300億円になる。自治体レベルでは財政的には絶対無理。現段階では、除染費用として市は補正予算10億円を組んで対応しているが、国は戸建ての除染にやっと70万円出す、と決めたところ。ケタが違う。日頃、原発担当相を始め政府には、除染費用を全部もってくれ、と言い続けている。そもそも加害者は誰か。東京電力と国ではないか。【桜井】
 除染に取りかかった当初、文部科学省の役人から「待った」がかかった。根拠になる法律がないから、大学のアイソトープセンターは原発事故に関わるな、と言われた。福島県の生活圏にはチェルノブイリ原発周辺で15年かけて増殖性膀胱炎を引き起こしたのと同等の汚染環境がある、と推定される。国民の命を守るのが医者の仕事。法律より現実への対処だ。【児玉】
 財源がない、法律がないからできないというのは無責任な言い訳だ。【桜井】
 危険・安全の二分法で地域を分断しては元も子もなくなる。線量の高い地域からの移転は必要だが、集団で疎開するなら新しい町が求められる。地域に根ざして生きてきた人も多い。除染して住み続けるのと避難とどちらがいいか。本気で覚悟を決めて考えねばならない。【児玉】

 以上、児玉龍彦(東京大学アイソトープ総合センター長兼東大先端関学技術研究センター教授)/桜井勝延(福島県南相馬市長)「苦しんでも光を探り出す」(「AERA」2011年12月26日号)に拠る。

 【参考】「【震災】原発>除染効果の有無(1) ~効果あり~
     「【震災】原発>測定と除染 ~妊婦と子どもを守るために~
     「【震災】原発>児玉龍彦教授、「除染法」第56条改正を要求 ~原子力安全委員会批判~
     「【震災】原発>低線量放射性物質の害 ~チェルノブイリ膀胱炎~
     「【震災】原発>広島原爆29.6個分の放射性物質 ~児玉演説~
     「【震災】原発>国の除染では効果がない ~効果的な除染法は~
     「【震災】原発>食品>農林水産省、その無能の証明~牛肉とコメ~
     「【震災】震災復興と原発事故賠償の費用 ~60兆円以上~
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【震災】原発>安愚楽牧場の被害者を増やした消費者庁の不作為

2011年12月22日 | 震災・原発事故
 X氏・元金融マン(60歳)は、2007年ごろ、雑誌広告を見て安愚楽牧場(本社・栃木県那須塩原)に関心をもっった。最初は、恐る恐る「30万円コース」で始め、次第にのめり込んでいった。
 信用調査機関は「優良企業」のレポートを出し、宮城県の自治体が第三セクターを組んでいた。配当はきちんと振り込まれた。
 口蹄疫の時には資金引き揚げを検討したが、「安愚楽牧場応援コース」の勧誘があり、さらに資金を投じた。退職金を元手にしたX氏の契約額は、4,550万円に膨らんだ。
 安愚楽牧場の経営破綻【注】が明らかになってから、X氏は費用を払ってまでして全国安愚楽牧場被害対策弁護団に入るメリットがあるかどうか、迷った。個人で牧場側に情報開示を求めたり、行政の瑕疵を調べた。他の被害者と歩調を合わせ、被害者対策弁護団に加わることにしたのは、安愚楽牧場の破産処理が決まった12月9日以降のことだ。
 破産処理となれば、財産処分をして、それで終わりだ。会社以外の第三者からの回収となれば、一人では限界があるのだ。
 X氏の、悠々自適のはずの老後の生活設計は吹っ飛んだ。今では時給900円のアルバイト生活だ。

 和牛オーナー制度をめぐる消費者被害は、15年くらい前にも社会問題になった。業者の摘発が相次いだ。安愚楽牧場は最後まで残った業者だった。
 ここまで被害を広げたのは、行政の手落ち、という見方も根強い。

 11月中旬、自民党本部で党消費者問題調査会が開催された。弁護団の紀藤正樹・弁護士は、同社の経営実態などについて述べた後、消費者庁の手落ちを指摘した。同社を規制、監視できる機会が再三あったにもかかわらず、手を拱いた、と。
 (a)2009年9月、消費者庁発足時、消費者の視線で見直しをしないで、漫然と同社を放置した。2009年の農水省の調査において、オーナー数48,000人、2,000億円だった負債は、破綻時には同73,000人、同4,300億円に拡大した。
 (b)2010年4月、口蹄疫発生時も調査すべきタイミングだった。宮崎県内の安愚楽牧場の牛15,000頭が殺処分され、財産状況に疑いが生じたにもかかわらず、立入検査などの調査を懈怠した。
 (c)2010年7月ごろ、農水省が以前に指示していた同社の定期報告に関し、消費者庁は「必要ない」として定期報告を受けなかった。

 (a)の農水省の調査で実態が明らかになっていれば、その後の被害のかなりが防止できた。
 X氏の場合、その検査で安心し、3,800万円を増資した。

 消費者庁によれば、繁殖雌牛の実数は4年以上前から契約頭数の55~69%にとどまり、一部では飼育実態がなかった。
 事実、X氏がオーナー牛の個体識別番号をもとに調査したところ、26頭中13頭がオスや出産できない年齢のメスだった。

 【注】「【震災】原発>安愚楽牧場の破綻 ~全国7万人の悲鳴~

 以上、藤生明「役立たず消費者庁の罪 安愚楽牧場・破綻処理開始」(「AERA」2011年12月26日号)に拠る。
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【震災】瓦礫とともに運ばれて全国に広がるアスベスト

2011年12月21日 | 震災・原発事故
(1)アスベスト
 アスベストは熱や摩擦に強いし、加工しやすい。だから断熱材やブレーキパッドなどに重宝されてきた。だが、細い繊維(頭髪の5,000分の1)を大量に吸い込むと、肺の奥に突き刺さって、平均30年以上をかけて肺癌や中皮腫を引き起こす。今も年間1,000人以上が中皮腫で亡くなっている。
 2006年、アスベスト製品の使用は原則として禁止された。
 だが、問題が起きるのはこれからだ。古い建物の解体のピークが2020年ごろから始まるからだ。 

(2)瓦礫
 今回の大震災では、岩手、宮城、福島の3県で2,500万トンの瓦礫が発生した。うち、600万トン強が宮城県石巻市内の23ヵ所に積まれている。市の廃棄物焼却能力は、年間6万トンしかない。
 保管は杜撰だ。現在も解体中の建物から発生する廃棄物はすべて、まず「一次仮置き場」へ向かう。仮置き場には警備員が配置されているが、瓦礫に覆いや柵はない。市街地であれば、脇を住民がマスクもせずに通行する。
 アスベストを使った建材をハサミで切断するだけで、100万本が飛散する。石巻市には、無数のアスベストが飛散し、瓦礫に混入している。解体作業も風邪マスク程度で行っている。何も対策がとられていない。
 大気汚染防止法や廃棄物処理法などでアスベストの分別が義務づけれられているが、現在、被災地で法令を遵守する解体業者は皆無に近い。 
 実施されている分別は可燃物・プラスチック・廃コンクリートなどで、これら廃棄物が年内には、「一次仮置き場」から県の管理下にある「二次仮置き場」へ移動し始める。

(3)アスベストが全国へ拡散
 4月に環境省は、全国の地方公共団体(自治体/一部事務組合)に瓦礫受け入れの可否を打診した。当初は572公共団体が可と回答したが、放射能汚染の実態が明らかになるにつれ翻意した。10月の再調査では54に激減した。背景に住民の反対運動がある。
 環境省は、瓦礫8,000Bq/kgなら埋めてもよい、と指針を出したが、これを鵜呑みにする住民はまずいない。
 東京都は、放射能汚染がないから瓦礫を受け入れた、と表明した。しかし、アスベストは福島第一原発事故とは無関係に、被災地の瓦礫を満遍なく汚染している。
 東京都の主管部局によれば、岩手県の場合、まず仮置き場で、県が業務委託した会社の社員8人が手作業でアスベスト建材を取り除く。さらに、瓦礫をコンテナに積む前に、都が業務委託した環境整備公社が目視でアスベスト建材の有無を確認し、都に搬入されて焼却や埋め立て処理をする前のストックヤードで、もう一度目視確認する。焼却施設には細かい粒子も補足するバグフィルター、電気集塵装置、湿式好くラバーなどを備えているので、焼却炉周辺にアスベストが飛散する恐れはない(はずだ)。
 大阪府の主管部局によれば、アスベストは現地で測定し、選別されて相応の施設に運ばれる(はずだ)。
 ・・・・だが、3月11日の時点で、目に見えないアスベスト繊維が無数に瓦礫に混入しているのだ。アスベスト建材は粉々に破砕されているので、充分な分別はできない。また、鉄骨へのアスベスト吹き付け材などは、津波で剥がされ、砂やヘドロに混じり込んでいるので、これまた分別できない。要するに、目視でアスベストの非存在を証明することはできない。
 したがって、アスベストがない、という前提で焼却した場合、焼却施設の処理能力次第で、周辺地域を汚染する。また、コンクリートなどは破砕してリサイクルされるが、人工砂利「再生砂利」が駐車場に使われると、車が通るたびに砕かれ、アスベストが飛散する。

(4)東京都に搬入される震災瓦礫
 東京都に搬入された震災瓦礫は、都環境整備公社と岩手県との協定締結によって実現した。同社が今後締結する宮城県のものと合わせると、都は今後3年間で50万トンの瓦礫を引き受けることになる。都民を侵すアスベストは飛躍的に増える。

 以上、樫田秀樹(ルポライター)「震災瓦礫に運ばれて全国に広がるアスベスト」(「週刊金曜日」2011年12月16日号)に拠る。

 【参考】「【震災】東北沿岸の化学汚染 ~カドミウム・ヒ素・シアン化合物・六値クロム・ダイオキシン~
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【経済】税制が作った“富裕老人”400万人

2011年12月20日 | 社会
 日本人の個人金融資産は、この20年間に急増した。1990年に1,017兆円、2006年に1,500兆円、わずか16年で5割増えた。リーマン・ショックで若干減ったが、それでも今1,400兆円だ。国民一人あたり1,000万円を超え、米国に次いで世界第2位だ。
 バブル崩壊以降「失われた20年」に陥った日本経済を尻目に、儲けている人は儲けているのだ。

 問題は、1,400兆円が一部の人に集中していることだ。
 個人金融資産の6割は、60歳以上の高齢者が所有している。60歳以上人口は、全人口の3割弱だ。この3割が840兆円を握っている。しかも、これは金融資産に限った話だ。不動産を含めれば、莫大な資産になる。日本の富の大半を高齢者が支配している、とさえ言ってよい。
 これが、日本の“金回りの悪さ”を引き起こしている。
 高齢者は、他の世代に比べてお金を使う機会が少ない。→ために、多額の金融資産がなかなか社会に出てこない(休眠状態)。→消費が増えない。→働き口が増えない。→若い世代になかなかお金が回らない。→ワーキングプア/ネットカフェ難民の発生。
 かくのごとく億万長者の過半数が高齢者であることが、貧富の格差とともに、日本経済の抱える厄介な問題なのだ。

 ここで留意しなければならないのは、貧富の格差は、あらゆる年代の中で、実は高齢者層において最も激しいことだ【注1】。
 個人金融資産の6割(840兆円)を握っているのは、高齢者のうち一部の“富裕老人”だ。高齢者のうち10.3%の世帯(人口にして400万人)が年収700万円以上なのだ【注2】が、これが“富裕老人”という特権階層だ。

 なぜ“富裕老人”が生まれたのか。
 その最大の要因は税金だ。
 20年前、高額所得者の所得税率は今より高かった【注3】。
 20年よりもっと前は、もっと高かった。
 所得1億円の所得税率の推移をみると、75%(1980年)→70%(1986年)→60%(1987年)→50%(1989年)・・・・と軽減されてきた。今40%だ。
 住民税率も、ピーク時には18%だったが、今は10%だ。
 かくて、所得1億円の場合、1980年には所得税と住民税とを合わせて88%だったが、今は50%に激減している【注4】。
 この結果、最高額26.7兆円もあった所得税は、2009年には12.6兆円に半減した。いや、半分よりもっと多く減った。
 この減税分は、大半が貯蓄に向かった、と推定される。金持ちは、元からいい生活をしているから、収入が増えても消費にはそれほど回さない。減税あれれば貯蓄に向かう。“富裕老人”という特権階層が生じた所以だ。

 税制によって作られた“富裕老人”の富は、社会に還元しなければならない。

 【注1】高齢者の多くは、他の世代より貧しい。高齢者世帯は、若年世帯より低収入で暮らしている。高齢者の生活保護受給世帯は57万世帯で、受給者全体の4割だ(2010年1月現在)。万引きで検挙された約102,500人のうち22%(20,000人以上)が65歳以上の高齢者だった(少年は28%)。この20年間に高齢者の万引きは3倍に激増した。高齢者の犯罪はこの20年間で5倍に激増し、その65%が万引きなどの窃盗だ(2008年『犯罪白書』)。それだけ生活に困っている高齢者が増えた、ということだ。
 【注2】総務省統計局2004年「全国消費実態調査」に拠る。
 【注3】「【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
 【注4】1980年:所得税75%+住民税13%=88%、2010年:所得税40%+住民税10%=50%。

 以上、武田知弘「税金で作られた〝富裕老人〟400万人 ~数字が見抜く理不尽ニッポン 第5回~」(「週刊金曜日」2011年12月16日号)に拠る。

 【参考】「【経済】消費税は失業者を増やす
     「【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
     「【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~
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【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~

2011年12月19日 | 社会
(1)サービス市場開放のネガティブリスト
 サービス市場を全面的に開放し、例外的に禁止する品目だけを明記する。
(2)ラチェット条項
 「逆進防止装置」。一度規制を緩和するとどんなことがあっても元に戻せない。
(3)未来最恵国待遇
 今後韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米国にも同じような条件を適用する。
(4)ISDS条項
 国家と投資家の間の紛争解決手続き条項は、韓国に投資した企業が、韓国の政策によって損害を被った場合、世界銀行傘下の国債投資紛争解決センターに提訴できる。韓国で裁判は行わない。

●韓国外交通商部の公式の反論 ~総論~
 <世間で広まっている毒素条項について、実際の発生可能性が極めて低い状況を仮定して、その危険性を「針小棒大」としている>。
 しかし、可能性が全くゼロでないのであれば、たとえ低いリスクであっても、当然ながら政府には国民に対する説明する責任がある。また、低い確率であろうと、それが国民生活の脅威として作用する可能性が少しでもあれば、情報を公開し、議論すべきだ。

●韓国政府の反論 ~各論~
 次のような様々な問題があるが、各々について政府は公式見解を示していない。また、協定文には書かれていないためにそれ自体は米韓FTAに帰属しないが、国内法の改正によって結果的に米国に有利な貿易環境を整備している様々な問題がある。

(1-2)サービス市場開放のネガティブリスト
 ネガティブリスト方式は、一般的には自由化の進展度合いを急速に早めてしまうリスクが高い、と指摘されている。EUとのFTAではポジティブリスト方式を採択しているにもかかわらず、米韓FTAがネガティブリスト方式であることについて、政府は<ネガティブリスト方式とポジティブリスト方式は大差ない>としているが、根拠を全く示さず、説明責任を果たしていない。

(2-2)ラチェット条項
 政府は、問題提起されている主要分野(教育・文化・公共部門など)が別途付属Ⅱの未来留保に該当するため、実質的には当てはまらない、と主張している。
 なお、最近になって国民から大きな反発が起きていることを意識してか、米国とBSE発生時の牛肉輸入の例を挙げながら、ラチェット条項はサービスと投資に係る条項であり、検疫問題と関係ない、としている。・・・・しかし、本当にそうか。
 (a)牛肉輸入そのものは、米韓FTAにおいて国債獣疫事務局勧告通りに運用するように盛り込まれているので、勧告より厳しい基準を設けている国(とくに日本)もあるにせよ、米国は自国の牛肉を他国より韓国に輸出しやすくしている。
 (b)食の安全性などの規制緩和は著しい。遺伝子組み換え作物(GMO)は、米韓FTAにおいて、WTOの「衛生と植物防疫のための措置」に準用されるよう定めている。韓国の「遺伝子組み換え生物法」(2008年施行)の趣旨とは齟齬するにもかかわらず、米国の安全検査の結果に基づいてGMOおよびこれとの交配種は韓国の安全検査から除外することとなっている。・・・・米国のGMOに関する事前検査は企業の書類審査のみで、米国食品医薬品局(FDA)の検査は行われていない。客観的な安全性は確保されない可能性が高い。ちなみに、輸入が承認されたGMOの場合、別途の承認および検査を必要としないことになっている。
 
(3-2)未来最恵国待遇 
 政府は、最恵国待遇は韓国にも権利がある、としている。
 したがって、実質的に日米FTAであるTPP交渉では、米韓FTAの交渉内容が下敷きになる、と予想される。

(4-2)ISDS条項
 韓国の与野党の間で一番の争点となった。この条項は、他のあらゆる条項とも深く関係しているからだ。今後投資をめぐる諸問題が発生するつど、国際機関である第三者の判断が必要になる。
 政府の公式見解によれば、<世界の2,500余の投資協定にISDS条項は入っており、すでに締結したFTAおよび81ヵ国との投資協定にも反映されている普遍的な制度である>。何よりも韓国の投資家の保護のための措置である、云々。
 キム・ジョンフン通商交渉本部長によれば、<公共部門に対する私たち(韓国)の政策裁量権は幅広く、また具体的に規定されており、一部で主張するようにISDSで私たちの公共政策が毀損されることはないだろう。私たちの政策を透明で被差別的に執行するならISDSを恐れる必要がない>。
 キム部長の発言は開き直り/言い逃れだ。ISDSは、ある一国が自国の公共性を確保するために制定した政策によって海外の投資家が不利益を被った場合には「国際投資紛争解決センター」に提訴できる制度だ。ある国の公共性とは、それぞれの国が自らの裁量で決めることであり、投資家が被害を受けるから訴訟ができるとされること自体に大きな問題がある。キム部長のいわゆる「透明で被差別的に執行する」のは、誰にとって透明で非差別的なのか。誰がその判断をするのか、それ自体あいまいだ。ちなみに、いつも透明で非差別的であるためには、米国との協議を前提とするしかない。
 (a)医療制度・・・・米韓FTAにおいて保健医療サービスを<今後開放を留保する>という未来留保として認めてはいる。しかし、経済自由区域特別法と済州特別自治道法による関連特例は例外にしている。要するに、米韓FTAでは交渉していないとしながら、特区において米国の進出を認めているのだ。特区で営利病院(投資開放型病院)が設立されれば、医療および薬剤(製薬)関連の米国企業は何の制約もなく有利な立場に立つことは明らかだ。これは国民皆保険を誇る日本にとっても他人事ではない。
 (b)医薬品分野においては他にも、米国に対して制約につき「特許と許可」を同時に認める、といった条項や、「独立した共同委員会で医薬品価格などについて話し合う」などの条項が入っている。韓国内の専門家も問題視しはじめた。

 以上、柳京煕「強行された涙の不平等条約 米韓FTAの実態」(「世界」2012年1月号)に拠る。

 【参考】「【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
     「【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
     「【経済】中野剛志『TPP亡国論』
     「【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
     「【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
     「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
     「【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
     「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
     「【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
     「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
     「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
     「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
     「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
     「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
     「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
     「【震災】復興利権を狙う米国
     「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題
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【社会保障】TPPで介護の現場も激変する

2011年12月18日 | 医療・保健・福祉・介護
 TPP交渉に参加すれば、労働者の受け入れも俎上に乗る。これまで以上に外国人労働者受け入れのハードルが低くなる可能性がある。そうなると、介護現場にも大きな影響を与えそうだ。

 TPPによって外国人の弾力的な労働移転が可能になれば、今よりも多くの外国人介護福祉士が増えるだろう。
 現在、EPAに基づく派遣制度によって、介護福祉士候補者がインドネシアから来日している。
 ただし、国家試験のハードルが高いので、受け入れ人数が減っている【注1】。国家試験が日本語で行われるため、それがハードルを高くしているのだ。国家試験は一定のスキルを担保する。生命に関わる仕事に関しては、容易にハードルを下げるべきではない。

 日本人は、介護福祉士の資格がなくても介護業務ができる(介護士)【注2】。だから外国人も同様に、とTPP協議で決着すると、現在のハードルはかなり低くなる。
 現在はあくまでも2ヵ国間のEPAに基づいているから、外国人介護士が働くためのハードルを高く設定できる(介護福祉士の資格を求めることができるのだ)。

 ある特別養護老人ホームで働くインドネシア人の介護士候補者は、来日してから2年を経て、日常会話は問題なくこなせるようになった。施設職員や利用者からも、大変気配りのある人材だ、と評価されている。そうした外国人介護士候補者は、ハードルの高い国家試験に合格すべく日々勉強を続けており、それなりに技術を身につけている。
 彼女らが働く施設長によれば、将来的には外国人介護士の協力を得なければならない時代が来るから「先行投資」的意味合いで受け入れを決めた。ただ、教育などにかなりの経済的・人員的負担を強いられている、という。

 TPPに参加し、「人の移動」が自由になれば、多くの外国人介護士が働くことになり、そのハードルも低くなるだろう。しかも、メイドや家政婦といった人材も流入してきて、在宅で高齢者をケアする住み込みスタイルで働く者が増えるだろう。
 かつてヨーロッパで視察した際、介護施設では3、4割が外国人労働者で、在宅では東南アジアからの出稼ぎの家政婦などがケアしていた。

 介護現場の人材不足は解消されていない。外国人労働者が流入してくれば、それなりの人材は確保されるかもしれない。しかし、ハードルが低くなる分、人材の質が問題になるだろう。
 加えて、介護現場で働く人の処遇の問題もある。以前よりも介護労働者の賃金体系は改善しているが、全産業に比べるとまだ低い。外国人労働者の流入によって介護労働者の処遇が今以上に向上することは、考えにくい。

 【注1】2008年度104人、2009年度189人、2010年度77人。
 【注2】介護福祉士は、国家資格の名称の一。介護士は、高齢者施設などで介護職員として働く人のことで、職名であり、資格名ではない。

 以上、結城康博「TPPで、介護の現場も激変する! ~医療・介護はカネ次第!NO.164~」「サンデー毎」2011年12月25日号)に拠る。

 【所見】
 介護職の質の低下、介護職の処遇低下によって直接・間接に被害をこうむうるのは、まずもって今の高齢者だ。
 しかし、若年層とて無関係ではない。老後受け取るはずの年金は制度にガタがきている上に、TPPによって身内を公的介護に安心して委ねるわけにはならない事態となるわけだから。
 よって個々に自衛策をとらねばならないのだが、これがなかなか容易ではないことは、容易にお分かりと思う。
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【震災】原発>福島産忌避は風評被害でなく消費者の知恵

2011年12月17日 | 震災・原発事故
 秋山豊寛・農民/元宇宙飛行士は、福島第一原発から32kmの阿武隈山系の中腹に農場を15年間経営していた。
 原発爆発後の3月12日14時半、秋山氏は逃げ出した。
 1930年代までは強いレントゲンを妊婦に照射していた。白血病や流産が多いので調べてみると、レントゲンが原因だった。学者の大好きな統計学有意差が出た。検査対象者の安全確保が第一ではない、という点で、山下教授らが全県民を対象に実施している健康調査も同じだ。人体実験だ。
 モルモットになるのは嫌だし、「直ちに健康に影響がない」と言われても、直ちに信じられないので逃げ出した。
 秋山氏は、原発事故をめぐる闘いの最前線はいくつかある、という。

(1)安全宣言に対する闘い
 「放射線量が低ければ大丈夫」という行政と原子力ムラを挙げての安全宣言に対する闘いだ。
 山下俊一・福島県立医科大学副学長/福島県放射線アドバイザーのように放射線学の主流だった人たちが中心になって安全を宣伝している。
 WHOが定めた水道水の安全基準は放射性ヨウ素10Bq/kgなのに、政府の暫定基準値は300Bq/kgというでたらめな数字だ。
 こうした基準をもとにコメが栽培・出荷されている。セシウムは暫定規制値以下だが、「非検出」ではない。良心的な人は売らない。特に有機農家は、作ったけれど売らない、という決定をせざるを得ない。秋山氏はシイタケ農家だったが、今年から営農を中断している。キノコ類はセシウムを吸収しやすいからだ。
 秋山氏の仲間が、今春、試しに栽培したところ、出荷できない数値が出た。
 農作物は作ってみて規制値以下なら出荷できるし、規制値を超えていれば補償される仕組みだ。
 暫定規制値以下でも福島県の農作物を買ってもらえないのは、風評被害ではなく、消費者の知恵だ。

(2)補償問題
 政府や行政の測定は後手後手にまわっている印象があるが、これはむしろ調べないようにしている、と見るべきだ。調べて数字が出たら補償の根拠になってしまうからだ。
 自分で測らないといけない時代だ。
 シイタケ農家は、ほんとうは今ごろ来年のホダ木を準備している時期だ。
 農政局は、とりあえず3本切っておがくずが全部基準以下だったら伐採を始めてよい、と指導している。そんなことをやっていたら、原木を切り出すころには雪が積もってしまう。
 そもそも原発にはまだ蓋がされていない。風向きによっては放射性物質が飛来する可能性がある。
 農業ができず、落ち込んでいるのではないか、と心配してくださる方がいる。
 「私は被災者ではありますが泣いて過ごしているわけではありません。怒りに燃え、血がたぎっているので大変元気です」

 以上、秋山豊寛(元宇宙飛行士)「福島産忌避は風評被害でなく消費者の知恵」(「サンデー毎日」2011年12月25日号)に拠る。
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