語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】外交官の論理力、安倍政権と共産党、研究不正が起きるシステム

2016年06月11日 | ●佐藤優
   
 ①薮中三十二『世界に負けない日本国家と日本人が今なすべきこと』(PHP新書 780円)
 ②産経新聞政治部『日本共産党研究 絶対に誤りを認めない政党』(産経新聞出版 1,300円)
 ③黒木登志夫『研究不正』(中公新書 880円)

 (1)①は、元外務事務次官による優れた指南書だ。
 <ロジックというのは、世界共通語のようなものである。異なる文化、異なる社会の人々が話し合う時、共通の理解に達するためには世界共通語が必要であり、ここでいうロジックは、ものの考え方としての共通語である。「自分が、なぜ、このことを主張するかといえば、それは、かくかくしかじかの理由があるからだ」ということを説明しなくてはいけない>
 外交官のロジックの力を鍛えることが、日本の外交力強化に直結する。

 (2)②を読めば、安倍政権が共産党を警戒する理由がよく分かる。
 <公安当局は共産党の主張が気に入らないから監視しているのでえはない。破防法の調査対象団体という明確な法的根拠が存在するからだ。政府は、めったにこの事実を公表してこなかったが、安倍内閣は2016年3月22日、共産党について「現在においても破壊発動防止法に基づく調査対象団体である」とする閣議決定を行った。
 1952年の破防法施行以来、共産党は一貫して対象だったとはいえ、閣議決定で明示するのは、政府関係者が「聞いたことがない」というほど異例の対応だった。
 無所属の衆院議員、鈴木貴子の質問主意書に答えた形の答弁書では、共産党について《警察庁としては、「いわゆる敵の出方論」に立った「暴力革命の方針」に変更はないものと認識している》と明記したのだ。「敵の出方論」とは、共産党が唱えている「権力側の出方によっては非平和的手段に訴える」との理念を指す>
 公安調査庁や警察庁の主張は、史実に照らして説得力がある。

 (3)③は、研究不正の事例研究と構造分析について踏み込んだ優れた作品だ。
 <不正の定義に「悪意」「意図的」などの概念を加えると、法的に争うのが困難になる。説明責任は訴える方にあるため、「悪意」を証明できないと、裁判で負けてしまうことになる。理研がSTAP細胞事件の解明に及び腰だった理由の一つは、法律的に「悪意」を証明することの難しさがあったのではなかろうか。(中略)ねつ造、改ざん、盗用のような重大な研究不正は、無条件に研究不正として取り扱うことが基本である>
 と著者は記すが、その通りだ。
 大学や研究機関の事なかれ主義により、悪質な研究不正を行ったものに対して相応のペナルティーが加えられないような状態が続けば、今後も研究不正が起きる。
 研究不正が起きるシステムを脱構築するために、研究者、政府関係者、科学記者たちの職業的良心に従った行動が要請される。

□佐藤優「研究不正が起きるシステム ~知を磨く読書 第152回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年6月11日号)
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