語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【櫻井よしこ】米国でも絶賛の中国の要人が豹変 ~永遠なのは国益~

2016年07月19日 | 社会
 (1)戴秉国(たい・へいこく)は中国の要人。胡錦濤前政権の外交トップを務めた実力者。
 米国をはじめとする世界が戴をどれほど重視していたかはヒラリー・クリントンの回顧録“Hard choices(困難な選択)”、2014年刊からも見えてくる。
 同書に日本関連の記述は殆どない。勧告に関する記述の方が多い。他方、中国に関して2章に渡って詳細に記されている。
 2009年早春、クリントン国務大臣(当時)は初の外遊先に日本を選んだ。22時間滞在したが、日米対話は上滑りするだけで成果を残さなかった。ところが、日本の後に訪問した中国では丸4日を過ごした。そのとき出会ったのが戴秉国だ。
 戴氏はクリントン氏の気持ちを掴んだ。
 「会った瞬間から会話が弾んだ。われわれは(その後)何年もわたって会話を重ねた。彼は私に度々講義(lecture)をするのだった。いかに米国のアジア政策が間違っているか、彼は皮肉をちりばめながら、しかし、穏やかな笑顔を忘れずに語る」
 ある日の会話では、戴氏が胸から一葉の写真を取りだして見せた。小さな可愛い女の子、恐らく戴氏の孫の写真だ。戴氏は語った。
 「われわれの仕事は全てこの子たちのためですよ
 クリントン氏は、「彼の心情はそのまま私の心情でもあった」と述懐する。クリントン氏の未来世代にかける「情熱を共有」したことが、二人の関係が長く太く杖付いたことの基本だとクリントン氏は書いている。
 健康維持のための運動と長時間の散歩を戴氏に勧められてまんざらでもない彼女の姿勢は、彼に対する親近感の表れでもあろう。
 ヘンリー・キッシンジャー元国務長官も戴氏についてクリントン氏に申し送りしていた。「中国で会った人物の中で恐らく最も素晴らしく、かつ開明的人物」だと。そして、その識見の深さと、中国政界における戴氏の重要性を強調した。

 (2)米要人に絶賛された戴氏はしかし、豹変した。
 戴氏は、7月5日、米ワシントンで講演し、南シナ海領有権問題に関してオランダ・ハーグの常設仲介裁判所が7月12日に下す裁定は「ただの紙くずだ」と語った。
 中国外務省が公開した資料では、戴氏は次のようにも語っている。
「仲裁裁判所の決定は何も重大なことではない」
「いかなる国家も中国に対し、裁定に従うよう強制してはならない」
「フィリピンが挑発的な行動を取れば、中国は決して座視しない」
 激しい対米発言もしている。
「たとえ10隻の空母戦闘群全てを南シナ海に派遣しても、中国人を脅すことはできない」
 国家間の関係の前には、個人的友情や好意など、木っ端微塵に吹き飛ぶのだ。永遠なのは国益だけだ。

□櫻井よしこ「米でも絶賛の中国の要人が豹変 国家間で求められる国益の要点 ~オピニオン縦横無尽~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月16日号)
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 【参考】
【櫻井よしこ】西側は自国第一主義を深め、中国は民主主義の限界に自信を深める ~英国のEU離脱~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(2) ~商売上手な中国、政治主導の経済~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(1) ~踏んだり蹴ったり~



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