(1)2月12日、ミンスク(ベラルーシの首都)で、ロシア、ウクライナ、欧州安保協力機構(OSCE)、親露派(ウクライナ東部を実効支配)代表が停戦合意に署名した。
この合意は、プーチン・ロシア大統領、ポロシェンコ・ウクライナ大統領、メルケル・ドイツ首相、オランド・フランス大統領による16時間にも及ぶ長時間交渉の結果まとまった。
<「主要な事柄について合意することができた。すなわち、2月15日0時からの停戦に合意した」とウラジーミル・プーチンは、ミンスクにおける交渉の結果に関する記者たちのためのコメントの冒頭で述べた。
「第2の点は、これを私は非常に重要と考えるが、ウクライナ軍が接触する本日現在の前線から重火器を引き揚げることで、ドンパスの義勇軍が去年9月19日のミンスク合意で明示されたラインから引き揚げることである」とロシア大統領は付言した。
さらに紛争の双方の側に対して、ロシア大統領は、「できるだけ早く合意の遵守に着手し」、憲法改正と国境問題を含むドンパスの状況の長期的正常化の過程に移行するようにと呼びかけた。
政治的正常化において、いくつかの条件といくつかの立場がある。第一に、これは、ドンパスに住んでいる人々の法的権利を考慮した憲法的改革でなければならない。さらにこれらの領域、すなわちドネツクとルガンスクの特別の地位に関して以前に採択された法律を実現する人道的問題であり、最終的に、経済的、人道的な性格を帯びた諸問題のすべてを統合することであるとプーチンは指摘した。>【「イズベスチヤ」電子版 2015年2月12日】
(2)プーチン大統領の説明((1)の「 」内)からすると、停戦合意は親露派にとって有利な内容になっている。去年9月19日のミンスク合意(ウクライナ政府と親露派代表者との停戦合意署名)後、双方とも合意を遵守せず、戦闘を続けた。 その結果、前線は9月19日よりも西に移動した。つまり、親露派が優勢で、ウクライナが劣勢な状況になった。ウクライナ側は、劣勢になったこのラインから重火器を引き揚げなくてはならない。要するに、親露派の攻勢を事実上承認する、という意味だ。
さらにプーチン大統領が以前から主張していたウクライナの連邦化も、事実上承認することになる。
(3)2月12日のミンスク合意に、ウクライナの民族主義者が激しく反発している。
<「親ロシアのテロリストとの合意は憲法に反し、法的効力を持たない。ロシアに占領された土地を完全に解放するまで戦闘を続ける」。ウクライナの極右連合「右派セクター」代表で、昨年10月の選挙で最高会議(国会)議員となったヤロシ氏は13日、フェイスブックにこう書き込んだ。ヤロシ氏は、ウクライナ政府軍から停戦や重火器撤去の命令が来ても応じない考えを示している。
右派セクターは昨年2月にヤヌコビッチ前大統領を追放した政変で重要な役割を果たし、親露派と対峙する東部に現在も戦闘員を多数派遣している。>【注】
(4)停戦合意後も、ウクライナ東部の交通の要衝デバリツェボなどで激戦が続いている。
この責任は、親露派武装勢力だけでなく、ウクライナ側にもある。
【注】記事「ウクライナ:新停戦合意、国内で批判 親露派に譲歩しすぎ」(毎日新聞電子版 2015年02月14日)
□佐藤優「ウクライナ 守られなかった「停戦合意」」 ~佐藤優の人間観察 第102回~」(「週刊現代」2015年3月7日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点」
「【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~」
「【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~」
「【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~」
「【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~」
「【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~」
「【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した」
「【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~」
「【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~」
「【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~」
「【佐藤優】米国とイランの接近 ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~」
「【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~」
「【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~」
「【佐藤優】の実践ゼミ(抄)」
「【佐藤優】の略歴」
「【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~」
「【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由」
「【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~」
「【佐藤優】戦争の時代としての21世紀」
「【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~」
「【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~」
「【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~」
「【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ」
「【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~」
「【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~」
「【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~」
「【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~」
「【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~」
「【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~」
「【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~」
「【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~」
「【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~」
「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
この合意は、プーチン・ロシア大統領、ポロシェンコ・ウクライナ大統領、メルケル・ドイツ首相、オランド・フランス大統領による16時間にも及ぶ長時間交渉の結果まとまった。
<「主要な事柄について合意することができた。すなわち、2月15日0時からの停戦に合意した」とウラジーミル・プーチンは、ミンスクにおける交渉の結果に関する記者たちのためのコメントの冒頭で述べた。
「第2の点は、これを私は非常に重要と考えるが、ウクライナ軍が接触する本日現在の前線から重火器を引き揚げることで、ドンパスの義勇軍が去年9月19日のミンスク合意で明示されたラインから引き揚げることである」とロシア大統領は付言した。
さらに紛争の双方の側に対して、ロシア大統領は、「できるだけ早く合意の遵守に着手し」、憲法改正と国境問題を含むドンパスの状況の長期的正常化の過程に移行するようにと呼びかけた。
政治的正常化において、いくつかの条件といくつかの立場がある。第一に、これは、ドンパスに住んでいる人々の法的権利を考慮した憲法的改革でなければならない。さらにこれらの領域、すなわちドネツクとルガンスクの特別の地位に関して以前に採択された法律を実現する人道的問題であり、最終的に、経済的、人道的な性格を帯びた諸問題のすべてを統合することであるとプーチンは指摘した。>【「イズベスチヤ」電子版 2015年2月12日】
(2)プーチン大統領の説明((1)の「 」内)からすると、停戦合意は親露派にとって有利な内容になっている。去年9月19日のミンスク合意(ウクライナ政府と親露派代表者との停戦合意署名)後、双方とも合意を遵守せず、戦闘を続けた。 その結果、前線は9月19日よりも西に移動した。つまり、親露派が優勢で、ウクライナが劣勢な状況になった。ウクライナ側は、劣勢になったこのラインから重火器を引き揚げなくてはならない。要するに、親露派の攻勢を事実上承認する、という意味だ。
さらにプーチン大統領が以前から主張していたウクライナの連邦化も、事実上承認することになる。
(3)2月12日のミンスク合意に、ウクライナの民族主義者が激しく反発している。
<「親ロシアのテロリストとの合意は憲法に反し、法的効力を持たない。ロシアに占領された土地を完全に解放するまで戦闘を続ける」。ウクライナの極右連合「右派セクター」代表で、昨年10月の選挙で最高会議(国会)議員となったヤロシ氏は13日、フェイスブックにこう書き込んだ。ヤロシ氏は、ウクライナ政府軍から停戦や重火器撤去の命令が来ても応じない考えを示している。
右派セクターは昨年2月にヤヌコビッチ前大統領を追放した政変で重要な役割を果たし、親露派と対峙する東部に現在も戦闘員を多数派遣している。>【注】
(4)停戦合意後も、ウクライナ東部の交通の要衝デバリツェボなどで激戦が続いている。
この責任は、親露派武装勢力だけでなく、ウクライナ側にもある。
【注】記事「ウクライナ:新停戦合意、国内で批判 親露派に譲歩しすぎ」(毎日新聞電子版 2015年02月14日)
□佐藤優「ウクライナ 守られなかった「停戦合意」」 ~佐藤優の人間観察 第102回~」(「週刊現代」2015年3月7日号)
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【参考】
「【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点」
「【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~」
「【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~」
「【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~」
「【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~」
「【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~」
「【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した」
「【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~」
「【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~」
「【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~」
「【佐藤優】米国とイランの接近 ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~」
「【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~」
「【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~」
「【佐藤優】の実践ゼミ(抄)」
「【佐藤優】の略歴」
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「【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由」
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「【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~」
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「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
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「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」