語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

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【佐藤優】正しいのはオバマか、ネタニヤフか ~イランの核問題~

2015年07月31日 | ●佐藤優
 (1)ウィーンで開催されていたイランと6ヶ国(米英仏独中露)の外相会合で、7月14日、イランの核開発問題をめぐる最終合意が得られた。
 <オバマ米大統領は15日、ホワイトハウスで記者会見し、イラン核協議の最終合意は「米国の強力な指導力と外交を象徴するものだ」と指摘した。大統領は、「合意がなければ中東を戦争と、他国による核開発計画の追求、核兵器開発競争の危険にさらした」と述べ、改めて合意の意義を強調した。>【注1】

 (2)(1)のようなオバマ大統領の評価に対し、イスラエル(米国の同盟国)が激しく反発している。
 <イランの核開発を安全保障上最大の脅威と位置づけるイスラエルのネタニヤフ首相は、14日、エルサレムで開かれた記者会見で、「イランは核兵器を獲得するための確実な道を手に入れることになる。合意によってイランはこの地域、そして世界を侵略し、テロを引き起すための資金を得るこいとができるようになる」と述べて、強く批判しました>【注2】

 (3)今回の合意について、オバマ大統領とネタニヤフ首相の評価が正反対で、立している。どちらが正しいのか。
 ネタニヤフ首相のほうが正しい。
 現在、イランはウラン濃縮のための19,000基の遠心分離機を所有する。今回の合意で、それが全廃されはしない。10年後もイランには6,104基の遠心分離器が残る。また、地下にある核開発工場も研究機関として存続することになった。
 偵察衛星では、地下研究所で密かに核開発が行われていても、その事実を見つけることができない。
 イランは、核開発に向けた強い国家意思を持っている。今回の合意で、イランは、1年で同国が核兵器を保有することができるという枠組みを主要国に認めさせることに成功した。客観的に見て、これはイラン外交の勝利だ。

 (4)にもかかわらず、イランの最高権力者(ハメネイ師)に直属のイスラム革命防衛隊は、次のように主張する。
 <イランの核開発を巡る国連安全保障理事会の決議について、米欧との融和を嫌う強硬派の軍事組織・革命防衛隊のジャファリ司令官は20日、「とうてい承服できない」と批判した。イランのタスニム通信が伝えた。
 革命防衛隊はイランの最高指導者ハメネイ師に近く、政治経済に強い影響力を持つ。反発を強めれば、イランに求められた核開発の縮小が決議通りに進まなくなる可能性がある。
 ジャファリ氏は採択の直前、「特にイランの軍事的能力に関して、決議の一部は明らかに譲れない一線を越えている」と述べたという。武器禁輸が5年、弾道ミサイルの開発制限が8年継続することへの反発とみられる。>【注3】

 (5)イスラム革命防衛隊は、核開発の意志を隠そうとしていない。
 イランは、中東では珍しく民主的選挙の行われている国だ。この国では、軍部や保守派だけでなく、リベラル派、人権派も「イランは核保有国になるべきだ」と考えている。面倒だ。

 【注1】記事「米国の強力な指導力の象徴」 オバマ米大統領が会見」(産経ニュース 2015.7.16)
 【注2】NHK「NEWSWEB 2015年7月17日」」
 【注3】記事「イラン制裁解除、各国が歓迎 米は不信表明も 安保理決議」(朝日新聞デジタル 2015年7月21日)

□佐藤優「イランの核問題 正しいのはオバマか、彼か ~佐藤優の人間観察 第121回~」(「週刊現代」2015年8月8日号)
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 【参考】
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~
【佐藤優】ある外務官僚の「嘘」 ~藤崎一郎・元駐米大使~
【佐藤優】自民党の沖縄差別 ~安倍政権の言論弾圧~
【書評】佐藤優『超したたか勉強術』
【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~
【佐藤優】恐ろしい本 ~元少年Aの手記『絶歌』~
【佐藤優】集団的自衛権にオーストラリアが出てくる理由 ~日本経済の軍事化~
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【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】外相の認識を問う ~プーチンからの「シグナル」~
【佐藤優】ヒラリーとオバマの「大きな違い」
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【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
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【佐藤優】明らかになったロシアの新たな「核戦略」 ~ミハイル・ワニン~
【佐藤優】北方領土返還の布石となるか ~鳩山元首相のクリミア訪問~
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【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
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【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
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【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
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【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 



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【詩歌】中原中也「一つのメルヘン」

2015年07月31日 | 詩歌
 秋の夜は、はるかの彼方(かなた)に、
 小石ばかりの、河原があつて、
 それに陽は、さらさらと
 さらさらと射してゐるのでありました。

 陽といつても、まるで硅石(けいせき)か何かのやうで、
 非常な個体の粉末のやうで、
 さればこそ、さらさらと
 かすかな音を立ててもゐるのでした。

 さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
 淡い、それでゐてくつきりとした
 影を落としてゐるのでした。

 やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
 今迄流れてもゐなかつた川床に、水は
 さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました・・・・

□中原中也「一つのメルヘン」(『在りし日の歌』(創元社、1938)所収)
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 【参考】
【詩歌】中原中也「湖上」
【詩歌】中原中也「汚れつちまつた悲しみに・・・・」
【詩歌】中原中也「サーカス」
【詩歌】丸ビル風景 ~正午~

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【NHK】よ、またか! ~「不都合な真実」は伝えない公共放送~

2015年07月30日 | 批評・思想
 (1)7月15日、衆院特別委員会で自民・公明両党が強行採決した。
   新聞・テレビの世論調査で、安倍内閣への不支持率が支持率を上回り、
   安保関連法案を今国会で成立させるべきではない、十分に議論されていない、
との声が強い中での強権発動だった。
   ほぼ全ての憲法学者が「違憲」と判断し、
   「集団的自衛権の行使」の条件設定も明確でない「戦争法案」。
 各種世論調査、国会周辺でのデモ、国内各地での反対運動の盛り上がりを見て、安倍政権は、
   「60日条項」の適用
を念頭に、この時期、無謀な強行採決に踏み切った。

 (2)ネガティブイメージ(強行採決)をなるべく払拭したいのが与党だ。
 そのお先棒をかついでくれるのが公共放送(NHK)だ。
 NHKは、特定秘密保護法について、国会の強行採決まで、その内容や問題点をほとんど報じなかった。
 今回の安保法制については、秘密保護法に比べればまだ伝えたが、法案の違憲性、問題点の解説より、いつ可決するかという政局扱いが目立った。
 結果として強行採決は昼のニュースの中で放送されたが、国民の関心が高い特別委員会の最終審議を公共放送が中継しない理由は何か。
 混乱する強行採決の場面がテレビ画面で報じられれば、政権のダメージとなる。そのため、放送しないことが最も政権への忠誠心を表明することになる。
 そうとしか考えられない出来事だ。
 いまだNHKから明確な説明が行われていないことが、それを裏書きする。

 (3)今年の定期異動で反籾井派が一掃された【NHK内部の人】。
 就任以来1年半にわたり、その資質が問われている籾井会長。前代未聞の会長だが、生殺与奪の権限(人事権)を持っている困り者。人事異動のたびに籾井会長にすり寄る人が増える(悲しい話)。

 (4)安倍政権発足以来、新聞が二分された、とよく言われる。
   親・安倍・・・・「読売新聞」「産経新聞」
   反・安倍・・・・「朝日新聞」「毎日新聞」「東京新聞」
   親・安倍に近いが真ん中・・・・「日本経済新聞」
 これに、新聞・テレビのグループ化のシステムがのる。新聞・テレビのグループ化は世界でも日本だけのことで、その意味でもガラパゴス化したシステムだ。
   親・安倍・・・・日本テレビ、フジテレビ
   反・安倍・・・・テレビ朝日、TBS
   政権に不都合なことは報じない公共放送・・・・NHK

 (5)戦前のメディアは不都合な真実に目をつぶり、そのうち戦意高揚に奔走した。
 大本営発表を引くまでもなく、メディアが政権にとっての不都合な真実を報じなければ、国民は判断能力を失う。
 NHKの職員数は1万人超。上の顔色ばかり忖度するヒラメ職員ばかりではあるまい。安保法制の矛盾、危険性を鋭く衝く番組こそ、公共放送の使命だ。

□砂川浩慶「NHKよ、またか! 「不都合な真実」は伝えない公共放送」(「週刊金曜日」2015年7月24日号)
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 【参考】
【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(4) ~読売・NHKは?~
【NHK】「反対」議会隠し ~安保法案に反対の地方議会が7割強~
【NHK】をまたもや呼びつけた自民党 ~メディア規制~
【NHK】の再生はどうすれば可能か(2) ~ガバナンス体制~
【NHK】の再生はどうすれば可能か ~会長の暴走~
【NHK】受信料私物化でついに更迭か ~籾井会長~
【NHK】が危ない! ~組織に漂う負の雰囲気~
【NHK】受信料をしゃぶり尽くす「電波貴族」の優雅な生活
【NHK】の偏向、政権べったりの報道 ~特定秘密保護法~
【NHK】波乱の「籾井新体制」スタート ~「世界」のメディア批評~
【NHK】誤報の隠蔽 ~タガのはずれた安部政権~
NHK】呆れた新会長会見、幼稚で傲慢な偏向報道
【NHK】籾井会長の就任会見発言 ~どこが「間違いだらけ」か~
【NHK】支配計画 ~安倍晋三政権の計算がずれはじめた~
【NHK】権力と癒着し続けた歴史 ~NHK会長~

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【詩歌】中原中也「湖上」

2015年07月30日 | 詩歌
 ポッカリ月が出ましたら、
 舟を浮べて出掛けませう。
 波はヒタヒタ打つでせう、
 風も少しはあるでせう。

 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂(かい)から滴垂(したた)る水の音は
 昵懇(ちか)しいものに聞こえませう、
 --あなたの言葉の杜切(とぎ)れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇(くちづけ)する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言(すねごと)や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 --けれど漕ぐ手はやめないで。

 ポッカリ月が出ましたら、
 舟を浮べて出掛けませう、
 波はヒタヒタ打つでせう、
 風も少しはあるでせう。

□中原中也「湖上」(『在りし日の歌』(創元社、1938)所収)
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 【参考】
【詩歌】中原中也「汚れつちまつた悲しみに・・・・」
【詩歌】中原中也「サーカス」
【詩歌】丸ビル風景 ~正午~

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【古賀茂明】東芝の粉飾問題 ~「報道の粉飾」~

2015年07月29日 | 社会
 (1)東芝の「粉飾」決算問題に係るマスコミの報道は甘い。
 まず、各新聞やテレビ局のニュースの見出し・・・・マスコミは当初から、会社側の言うとおりに「不適切会計」という言葉を使った。不適切会計の中には、
  (a)故意である「不正」
  (b)過失による「誤謬」
があるが、第三者委員会の報告書は、東芝に気を遣って、(a)だけでなく(b)もあったとして、「不適切」という言葉を使った。
 しかし、「不適切」というと、「不正」とは違うように見える。ましてや、「粉飾」ではないというニュアンスになる。

 (2)事実は、こうだ。
   歴代3人の社長が事実上不正会計を部下に要求し、1,500億円もの利益を水増しし、
   それがバレて株価が下がり、株主に大損害を与え、
   日本株式市場への世界の信頼を大きく傷つけた。
 にもかかわらず、マスコミ各社は、第三者委員会委員長が会見で事実上の「不正」を認めるまで、「不正」という言葉を使わなかった。
 読売、日経などは、7月21日の会見後でも記事の見出しに、「不適切」会計という言葉を使った。「粉飾」という見出し
は、むろん、どこも使わなかった。

 (3)歴代社長は、事業部に対して、「こんな数字恥ずかしくて公表できない」「ありとあらゆる手段を使って黒字化を」「現法の連中を全員解雇して全面撤退する」などと脅迫まがいの発言で利益水増しを要求した。
 それなのに、「(不正会計を)要求した認識はない」などと歴代社長はおっしゃる。
 その歴代社長の言葉を、マスコミ各社は鵜呑みにしている。「甘い」にもほどがある。
 第三者委員会の報告書によれば、佐々木則夫・元社長と田中久雄・前社長は水増しを黙認したことが明らかだ。

 (4)マスコミの甘さは外にも見られる。
 当初、問題が報じられてからこれまで、東芝経営陣は誰も責任をとらなかった。そしてマスコミは、経営責任を強く追及してこなかった。
 さらに、歴代経営陣の刑事責任についても、元検察官の弁護士のコメントなどを使って、今回の事件では「責任を追及するのが難しい」という相場観作りまでしている。
 誰のために仕事をしているのか。

 (5)マスコミの甘さには理由がある。
  (a)マスコミの大スポンサー「東芝さま」への気遣いだ。テレビ局では、経済部や営業から泣きが入り、厳しい批判は封印された。
  (b)東芝の歴代社長経験者は、自民党政府の重要ポストに就いている。彼らへの批判は自民党にも打撃になる。安倍自民に支配されたマスコミは、ここにも遠慮してしまった。

 (6)実は、この期に及んでもまだ大手紙などで詳報されていない爆弾が2つある。
  (a)米原発大手ウェスチングハウス(東芝が2006年に買収)ののれん代(ブランド価値など)の償却問題・・・・原発の事業環境悪化による事業価値減少で、のれん代(買収金額6,000億円のうち3,000億円弱ともいわれる)が特別損失になる可能性がある。
  (b)経営状況悪化により、巨額の繰延税金資産が否定される可能性がある。そうなれば、東芝の財務は危機的状態に陥る。

 (7)大手メディアは(6)を伝えない。
 「東芝、倒産の危機か?」という記事を書けるような自立したマスコミになるのは、何時か?

□古賀茂明「東芝の粉飾問題「報道の粉飾」 ~官々愕々第164回~」(「週刊現代」2015年8月8日号)
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 【参考】
【古賀茂明】「反安倍」の起爆剤 ~若者たちの「反安倍」運動~
【古賀茂明】維新の党の深謀遠慮 ~風が吹けば橋下市長が儲かる~
【古賀茂明】腐った農政 ~画餅に帰しつつある「日本再興」~
【古賀茂明】読売新聞の大チョンボ ~違法訪問勧誘~
【古賀茂明】「信念」を問われる政治家 ~違憲な安保法制~
【古賀茂明】機能不全の3点セット ~戦争法案を止めるには~
【古賀茂明】維新が復活する日
【古賀茂明】戦争法案審議の傲慢と欺瞞 ~官僚のレトリック~
【古賀茂明】「再エネ」産業が終わる日 ~電源構成の政府案~
【古賀茂明】「増税先送り」「賃金増」のまやかし ~報道をどうチェックするか~
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【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~
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【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
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【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~



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【詩歌】中原中也「汚れつちまつた悲しみに・・・・」

2015年07月29日 | 詩歌
 汚れつちまつた悲しみに
 今日も小雪の降りかかる
 汚れつちまつた悲しみに
 今日も風さへ吹きすぎる

 汚れつちまつた悲しみは
 たとへば狐の革裘(かはごろも)
 汚れつちまつた悲しみは
 小雪のかかつてちぢこまる

 汚れつちまつた悲しみは
 なにのぞむなくねがふなく
 汚れつちまつた悲しみは
 倦怠(けだい)のうちに死を夢む

 汚れつちまつた悲しみに
 いたいたしくも怖気(おぢけ)づき
 汚れつちまつた悲しみに
 なすところもなく日は暮れる・・・・

□中原中也「汚れつちまつた悲しみに・・・・」(『山羊の歌』(文圃堂、1934)所収)
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 【参考】
【詩歌】中原中也「サーカス」
【詩歌】丸ビル風景 ~正午~
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【詩歌】中原中也「サーカス」

2015年07月28日 | 詩歌
 幾時代かがありまして
   茶色い戦争ありました

 幾時代かがありまして
   冬は疾風吹きました

 幾時代かがありまして
   今夜此処での一(ひ)と殷盛(さか)り
     今夜此処での一と殷盛り

 サーカス小屋は高い梁(はり)
   そこに一つのブランコだ
 見えるともないブランコだ

 頭倒(さか)さに手を垂れて
   汚れ木綿の屋蓋(やね)のもと
 ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

 それの近くの白い灯が
   安値(やす)いリボンと息を吐き

 観客様はみな鰯
   咽喉(のんど)が鳴ります牡蠣殻(かきがら)と
 ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

      屋外(やぐわい)は真ッ闇(くら) 闇(くら)の闇(くら)
      夜は劫々(こふこふ)と更けまする
      落下傘奴(らくかがさめ)のノスタルヂアと
      ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

□中原中也「サーカス」(『山羊の歌』(文圃堂、1934)所収)
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 【参考】
【詩歌】丸ビル風景 ~正午~

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【詩歌】岩田宏「海底の騎士」

2015年07月27日 | 詩歌
 髪は伸びて
 目と頬を覆い
 肩から臍に達する
 右手には緑青の剣
 左手には紋章の楯
 巨大な鼻と兜で
 水底の騎士は魚を脅す
 細長い海溝を跨ぎ
 海底山脈を越え
 貴殿はどこへ行くのか
 もはや水圧を感じず
 もはや孤独を感じず
 プランクトンをかきわけ
 きわめてゆるやかに
 貴殿はどこへ?

□岩田宏「海底の騎士」(『最前線』(青土社、1972)所収)
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 【参考】
【詩歌】岩田宏「動物の受難」
【詩歌】岩田宏「むすめに」
【詩歌】岩田宏「感情的な唄」
【詩歌】岩田宏「頭脳の戦争」 ~頭のなかの甲乙丙~
【詩歌】岩田宏「部屋」 ~おふくろ~
【詩歌】岩田宏「ささやかな訪問」
【読書余滴】すべてをルフランに変える青春の無知

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【詩歌】岩田宏「動物の受難」

2015年07月26日 | 詩歌
 あおぞらのふかいところに
 きらきらひかるヒコーキ一機
 するとサイレンがウウウウウウ
 人はあわててけものをころす
 けものにころされないうちに
 なさけぶかく用心ぶかく

 ちょうど十八年前のはなし

 熊がおやつをたべて死ぬ
 おやつのなかには硝酸ストリキニーネ
 満腹して死ぬ

  さよなら よごれた水と藁束
  たべて 甘えて とじこめられて
  それがわたしのくらしだった

 ライオンが朝ごはんで死ぬ
 朝ごはんには硝酸ストリキニーネ
 満腹して死ぬ

  さよなら よごれた水と藁束
  たべて 甘えて とじこめられて
  それがわたしのくらしだった

 象はなんにもたべなかった
 三十日 四十日
 はらぺこで死ぬ

  さよなら よごれた水と藁束・・・・

 虎は晩めしをたべて死ぬ
 晩めしにも硝酸ストリキニーネ
 満腹して死ぬ

  さよなら よごれた水と・・・・

 ニシキヘビはお夜食で死ぬ
 お夜食には硝酸ストリキニーネ
 まんぷくして死ぬ

  さよなら よごれた・・・・

 ちょうど十八年前のはなし

 なさけぶかく用心ぶかく
 けものにころされないうちに
 人はあわててけものをころす
 するとサイレンがウウウウウウ
 きらきらひかるヒコーキ一機
 あおぞらのふかいところに。

□岩田宏「動物の受難」(『頭脳の戦争』(思潮社、1962)所収)
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 【参考】
【詩歌】岩田宏「むすめに」
【詩歌】岩田宏「感情的な唄」
【詩歌】岩田宏「頭脳の戦争」 ~頭のなかの甲乙丙~
【詩歌】岩田宏「部屋」 ~おふくろ~
【詩歌】岩田宏「ささやかな訪問」
【読書余滴】すべてをルフランに変える青春の無知



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【鶴見俊輔】を悼む

2015年07月25日 | 批評・思想
 1922(大正11)年6月25日生、2015(平成27)年7月20日没。93歳。
 初めてその顔を拝見したのは、ウィルフレッド・バーチェット【注1】が京都で講演したときのことだ。鶴見俊輔が通訳し、松田道雄が解説した。
 ベ平連が元気なころだった。私は参加していないが、大学のサークル仲間にベ平連の活動に熱心な男がいた。闘士というより、心やさしく、他人の痛みがわかる男だった。
 上野千鶴子は、24日付け朝日紙に寄せた追悼文「どこにも拠らず考えぬいた」で、<鶴見さんは、このひとが同時代に生きていてくれてよかった、と心から思えるひとのひとりだった>【注2】と書いている。まったく同感である。

《鶴見俊輔語録》 
 「憲法改正に関する国民投票を恐れてはいけない。その機会が訪れたら進んでとらえるのがいいんじゃないかな」「護憲派が六対四で負けるかもしれない。(中略)負けても四あることは力になる。そんなに簡単に踏みつぶせませんよ」(97年、憲法施行50年の朝日新聞インタビューで)

 「団結には恐ろしさがあるんです。『正義になる団結はいいじゃないか』というけど、そうじゃない。正義の団結がまた恐ろしいんです。正義の団結が十字軍もつくった、大東亜戦争までいくんですからね」(04年、「歴史の話」)

 「いい人ほど友達として頼りにならない。いい人は世の中と一緒にぐらぐらと動いていく。でも、悪党は頼りになる、敵としても味方としてもね」(11年、「日本人は何を捨ててきたのか」) 

 【注1】オーストラリア生まれのジャーナリスト。中野好夫訳『十七度線の北―ヴェトナムの戦争と平和』上・下巻(岩波新書、1957年)ほか。
 【注2】上野千鶴子「リベラル、鶴見俊輔氏のための言葉 上野千鶴子氏追悼文」(朝日デジタル 2015年7月24日)


□記事「戦争体験、反戦の力に 多才な行動派 鶴見俊輔さん死去」(朝日デジタル 2015年7月24日)
□天声人語「鶴見俊輔さん逝く」(朝日デジタル 2015年7月25日)
□社説「鶴見さん逝く 個々の行動に宿る理念」(朝日デジタル 2015年7月25日)

 *

《いい人》
 そう、いい人がいけない。悪人性がないでしょう。だから、真面目な人、いい人は困るなぁ。「正義の人ははた迷惑だ」。
 いい人ほど友達として頼りにならない。いい人は世の中と一緒にぐらぐらと動いていく。でも、悪党は頼りになる、敵としても味方としてもね。悪党はある種の法則性を持っているんだ。これこれのことをやれば、これこれのことが出てくるというね。
 ですから、なるべく、わたしは何か事を起こすときに、悪人性が少しある人を仲間にしたい。完全な善人は困るよ。
 (「日本人は何を捨ててきたのか」2011年) 

□『鶴見俊輔語録(1) 定義集-警句・箴言・定義-』(皓星社、2011)
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 【参考】
【読書余滴】鶴見俊輔の書評術

    
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【鶴見俊輔】を悼む

2015年07月25日 | 批評・思想
二重投稿につき、こちらに統一。


【鶴見俊輔】を悼む

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【詩歌】岩田宏「むすめに」

2015年07月25日 | 詩歌
 ことばは手に変れ
 とても男らしい手に
 すこし汗ばみ すこし荒れた
 実用的な手に なぜなら
 ぼくはことばを
 突き出さなければならない
 自殺を決心したむすめ
 あなたに なぜなら
 それがぼくの権利
 あなたの義務は
 思いつめ 思いつめること
 まるで追いつ追われつ
 走るように なぜなら
 夜は戦争よりも長いんだ
 政府もあなたも徹底的に一人で
 朝ほど痛い時間はほかに絶対ないんだ
 そのことを百回あるいは
 千回思って絶望しなさい
 あなたは睡眠薬を二百錠飲むつもりだが
 薬より口あたりのわるいことばを
 あなたの穴という穴に詰めこむのが
 ぼくのほんとうの望みなんだ
 サディストどもが
 拍手している ぼくは
 あなたにあげる

□岩田宏「むすめに」(『いやな唄』(ユリイカ、1959)所収)
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 【参考】
【詩歌】岩田宏「感情的な唄」
【詩歌】岩田宏「頭脳の戦争」 ~頭のなかの甲乙丙~
【詩歌】岩田宏「部屋」 ~おふくろ~
【詩歌】岩田宏「ささやかな訪問」
【読書余滴】すべてをルフランに変える青春の無知

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【詩歌】岩田宏「感情的な唄」

2015年07月24日 | 詩歌
 学生がきらいだ
 糊やポリエチレンや酒やバックル
 かれらの為替や現金封筒がきらいだ
 備えつけのペンや
 大理石に埋まったインクは好きだ
 ポスターが好きだ好きだ
 鳩
 極端な曲線
 三輪車にまたがった頬の赤い子供はきらいだ
 痔の特効薬が
 こたつやぐらが
 井戸が旗が会議がきらいだ
 邦文タイプとワニスと鉄棒
 ホチキスとホステスとホ-ルダー
 楷書と会社と掃除と草書みんなきらいだ
 脱糞と脱税と駝鳥と駄菓子と打楽器
 背の低い煙草屋の主人とその妻みんな好きだ
 バス停留所が好きだ好きだ好きだ
 元特高の
 古本屋が好きだ着流しの批評家はきらいだ
 かれらの鼻
 あるいはホクロ
 あるいは赤い花あるいは白い瘤
 または絆創膏や人面疽がきらいだ
 今にも泣き出しそうな教授先生が好きだ
 今にも笑い出しそうな将軍閣下がきらいだ
 適当な鼓笛隊
 正真正銘の提灯行列がきらいだきらいだ
 午前十一時にぼくの詩集をぱらぱらめくり
 買わずに本屋を出て
 与太を書きとばす新聞社の主筆がきらいだ
 やきめしは好きだ泣き虫も好きだ建増しはきらいだ
 猿や豚は好きだ
 指も。 

□岩田宏「感情的な唄」(『頭脳の戦争』(思潮社、1962)所収)
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 【参考】
【詩歌】岩田宏「頭脳の戦争」 ~頭のなかの甲乙丙~
【詩歌】岩田宏「部屋」 ~おふくろ~
【詩歌】岩田宏「ささやかな訪問」
【読書余滴】すべてをルフランに変える青春の無知
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【詩歌】岩田宏「頭脳の戦争」 ~頭のなかの甲乙丙~

2015年07月23日 | 詩歌
 「まあなんとかなるだろう」と言う人を
 甲とし
 「もうどうにもならんよ」と言う人を
 乙とする
 甲と乙は戦闘行為に入るものとする
 ちいさな大脳の表面で
 白色のはららごに似た大脳の表面で
 その顕微鏡的な山や谷や泉を舞台に
 甲乙双方は戦闘の終結まで戦うものとする
 甲が勝った場合
 乙は現状のままの地球を甲に譲渡すること
 乙が勝った場合
 甲は任意の核兵器のボタンに即時指を触れること

 立会人は甲乙双方の本質的同一性を証明せよ

 甲または乙のいずれかが
 この戦争の意義について疑念を抱いた際には
 甲乙合議の上戦闘を停止することができる
 その場合
 「甲も乙もトボけないでくれよ」と言う人を
 丙とし
 丙は大脳表面の戦争において
 何らの予告も憐憫もなく
 甲乙双方を虐殺し
 すべての兵器を没収するものとする
 但し対未来防御兵器「無関心」及び「恐怖」は
 未来の有無に拘わらず絶対に保管せざること
 一切の処理を完了した丙は
 甲乙の死体をはあとの内部に埋葬するため
 成る可く速やかに大脳のぬかるみから立ち去ること

 立会人は丙の決断とやさしさを賛美せよ!

□岩田宏「頭脳の戦争」(『頭脳の戦争』(思潮社、1962)所収)
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 【参考】
【詩歌】岩田宏「部屋」 ~おふくろ~
【詩歌】岩田宏「ささやかな訪問」
【読書余滴】すべてをルフランに変える青春の無知

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【ピケティ】は経済政策のラディカルな転換に有効だ

2015年07月22日 | 社会
 (1)今年の米国経済学会の大会でもピケティの理論が大きく取り上げられた。
 リベラル派の多くはブームを歓迎したものの、大方の主流派経済学者のみならず左派からも手厳しいピケティ評が聞かれた。

 (2)議論の第一の焦点は、経済格差自体の評価について。
  (a)グレゴリー・マンキュー・ハーバード大学経済学部教授(主流派の代表)は、一昨年すでにセンセーショナルな「1%を擁護する」というタイトルの論文で、ピケティらの主張に反論。経済格差は能力主義の結果であり、「すでに高額所得者は多額の税金を支払い、政府は大規模な再分配政策を行っているではないか」と主張した。さらに彼は、「身長が高い人は低い人に比べて所得が高い。だからといって身長に税金を課すことは妥当か?」と述べ、リベラル派の富裕者増税論をかわそうとした(ちなみに、マンキキューは背が高い)。

  (b)(a)を批判したのが斯界の重鎮、ロバート・ソロー。いわく、「1%の富裕層の大半は金融分野だ。それらは規制を利用したレント・シーキング【注1】にすぎない」とマンキューの議論を一蹴。大手金融機関の高額の重役報酬は、その重役の能力や成果とは無縁だ、と断じたのだ。さらにソローは、「不平等は権力の集中を生むことによって政治的影響力の格差と政治的腐敗を招く」と、経済格差の多面的な問題を鋭く衝いた。

 【注1】レント・シーキング・・・・規制の網を利用して儲ける手法のこと。 

  (c)今日の最上位集中型の経済格差は能力主義の結果だけでは説明しきれない(ピケティが縷々と説明済み)。そのことをマンキューは理解しようとしない。

  (d)マンキューはソローの警告にひるまず、今年の米国経済学会にさらに挑発的なタイトル「r>g【注2】だけど、だから何だ(Yes, r>g. So What?)」という論文を提出した。いわく、「ピケティは不平等が悪だと決めつけているが、不平等でも民主的価値が損なわれることはない。平等な経済の方がむしろ繁栄の度合いが小さい」と述べ、さらに些か的はずれの議論を展開した(「ジョージ・ワシントンら建国の父たちは大金持ちだったが、その彼らが米国の民主主義をつくった」)。概して、主流派経済学には格差や貧困という経済問題を把握する認識装置が欠如していて、それらに向き合う心の準備ができていない人が多い。マンキューの2論文はその典型だ。

 【注2】r>g・・・・資本収益率 r が経済成長率 g を上回る・・・・というピケティが重視する経済構造の特徴。

 (3)議論の第二の焦点は、ピケティの「r>g」の見通しについて。
  (a)マサチューセッツ工科大学のアセモグル&ロビンソンは、同じ大会のセッションで、「ピケティは賃金と経済成長率を引き上げる技術と制度の内生的進化の可能性を否定している」と批判。rが4~5%、gが1%程度にとどまるというピケティの今後の見通しには議論が集中していて、別の見方もあり得る。少なくともピケティは一つの仮説を提示し、そうした議論お出発点を築いた、といえる。

  (b)しかし、yとgのギャップが現在以上に大きくなると、経済格差が激化し、資本主義経済の先行きが暗くなるのは確かだ。

  (c)だが、マンキューは(2)の論文で極端な楽観論を開陳した。「r>gは経済にとって正常な状態にすぎない。分割相続による資産の縮小、相続税、資本所得税などを合わせると、実際のギャップはごく僅かだ。r>7%にならないとピケティのいう問題は起こらない」

  (d)(c)に対してピケティは反論した。「r>gは確かに労働所得には強い影響を及ぼさないかもしれないが、資産格差には大きな影響を与えることができる。「逆パレート係数」を用いた推計によると、「最上位1%の保有資産はrとgとの差が2%→3%に上昇しただけで、20~30%から50~60%に跳ね上がる」
    rが4%というのは、あくまで現在の平均。大規模な資産はそれを大きく上回る。「パレート分布」の研究に、ピケティは『21世紀の資本』を書いた後に取り組んだ。最上位層の資産状況の実証的な推計に基づいたマンキューへの反論はその成果だ。

 (3)左派、マルクス主義陣営からのピケティ批判は主流派経済学以上に厳しい。
 デビッド・ハーヴェイ(英)やヤニス・ヴァルファキス(ギリシャの左翼政権の財務大臣)らマルクス主義者を自認する人びとは、こぞって批判を浴びせかけている。いわく、
 「ピケティの資本概念はマルクスと異なる」
 「階級的、権力的関係を無視している」
 「rとgとのメカニズムの説明がない」

 (4)いま、欧米、日本を問わず、経済政策の二層化(大企業や富裕層には超緩和政策、庶民には緊縮政策)がますます強まっている。この編成を覆すことなくして、経済をまともな軌道に乗せることはできない。この主張は、左派にも異論はあるまい。
 ピケティの理論は、所得資産分配と税制の面から挑もうとする試みだ。まず、その点を評価すべきだ。
 リベラル派や左派は、自らやマルクスとの距離で他者を推し量り、紋切り型の理屈で切り捨てるのではなく、政策転換に資する有益な物を汲み取り、その上で独自の優位性を示すべきだ。

 (5)今年1月に来日した際、ピケティは日本経済やアベノミクスについても発言した。
 消費税は逆進的であり、かつ、経済成長を妨げる、というのがピケティの持論だ。「消費税は相続した富と自ら築き上げた富とを区別せず課税する。また、高額所得者は政治的影響力や威信を買うために支出するが、消費税ではそうした消費に課税できない」という捉え方もピケティならっではの消費税論だ。
 景気対策として、むしろ賃上げの必要性をピケティは説いた。

 (6)ピケティは、日本での対談で、「民主主義が再び資本主義をコントロールするため」の地域的な国家間連合と、それによるグローバルな資産課税の必要性について語った。
 残念ながら、日本の対談者の側から、そうした大きな問題についてピケティのアイデアと戦わせるだけの主張が示されることはなかったようだ。
 しかし、日本こそ最大の公的債務を抱え、タックス・ヘブン(租税回避地)対策など国境を越えた対策が急務な国だ。経済規制のヴィジョンが必要なはずだ。
 表に現れた議論より、この欠落した部分にこそ、日本の知的貧弱さが現れている。

□本田浩邦(獨協大学経済学部教授)「経済政策のラディカルな転換にピケティは有効だ」(「週刊金曜日」2015年7月3日号)
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 【参考】
【ピケティ】現象を生んだ思想の空白 ~「格差」と経済学のゆくえ~
【ピケティ】の格差理論は日本でも当てはまるか(2) ~法人企業統計~
【ピケティ】の格差理論は日本でも当てはまるか ~GDP統計~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本には手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【ピケティ】なぜ米国で大きな反響を呼んだか ~世襲財産制批判~
【ピケティ】富裕層の地位は揺らぐことがない
【ピケティ】理論の本ではなく、歴史的事実の本
【ピケティ】の“capital”は「資本」ではなく「資産」 ~誤読の危険性~
【ピケティ】討論会「格差・税制・経済成長 『21世紀の資本』の射程を問う」
【ピケティ】をめぐる経済学論争 ~米英で沸騰中~
【ピケティ】格差を決める持ち家、社会は6対4で分断 ~日本~
【ピケティ】池上彰の3ポイントで解説 ~ そうだったのか!『21世紀の資本』~
【ピケティ】アベノミクス批判 ~金融緩和・消費税~
【ピケティ】シンプルで明快な主張 ~『21世紀の資本』~
【ピケティ】格差は止めなければ止まらない ~政治的無為への警告~
【ピケティ】総特集号(「現代思想」2015年1月増刊号)の目次
【ピケティ】『21世紀の資本』詳細目次
【ピケティ】に対するインタビュー ~失われた平等を求めて~
【ピケティ】勲章拒否の警告 ~再構築される「世襲的資本主義」~
【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~
【ピケティ】『21世紀の資本』に係る書評の幾つか
【ピケティ】は21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~
【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~
【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~
【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~

     トマ・ピケティ『トマ・ピケティの新・資本論』
   
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