語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【野口悠紀雄】マイナス成長から抜け出す手段 ~実質消費増大の方法~

2015年05月05日 | ●野口悠紀雄
 (1)このところ、さまざまな経済指標が悪化している。
 まず、輸出が落ち込んだ。
 最大の問題は、個人消費が減少し続けていることだ。
 1~3月の実質GDPは、対前期比でマイナスになる可能性がある。これは次の二つのことを意味する。
  (a)2014年度の実質経済成長率は、当初1.4%とされた(その後7月に1.2%に修正し、2015年1月にはマイナス0.5%程度に修正された)。
 それに対して野口悠起雄は「週刊ダイヤモンド」2014年2月1日号で2014年度の実質経済成長率はマイナスになる可能性が高いと述べた。そこで述べた次のような予想が現実になる可能性が高い。
    ①2013年度における経済成長率は公共事業の増加や住宅投資の駆け込み需要によるものだったが、2014年度にはこれらがなくなるので成長率が下がる。
    ②円安が物価高をもたらし、実質消費の伸びを抑制する。したがって、消費増税がなくても、実質消費は減少する。

  (b)より重要な点は、中期的にマイナス成長が続くことだ。日本のGDP(実質季節調整系列)は、2014年1~3月期に駆け込み需要で急増したことを除くと、2013年7~9月期にリーマンショック後のピークを記録したが、その後、2014年7~9月期まで減少を続けてきた。
 10~12月期に若干増加したのだが、2015年1~3月期で再び減少すると、異次元緩和前の状態に戻ってしまうことになる。つまり、中期的なマイナス成長過程から抜け出せないわけだ。これはあまり注目されないが、重要な点だ。

 (2)重要なのは、4月1日に公表された日本銀行の「全国企業短期経済観測調査(短観)」の将来の見通しが、現在よりも悪化することだ。すなわち全規模/全産業では、6月時点の指数は5と予測されており、3月調査の実績値7に比べて2ポイントの減少となっている。大企業にについても中小企業についても、また、製造業、非製造業についても、6月は3月より悪化すると予想されている。

 (3)異次元緩和措置は、資産価格に関する人々の期待を変え、その結果、円安と株高が実現した。
 しかし、これらは資産価格である。資産価格は期待によって大きく変動するため、実体経済から乖離した動きが生じるのだ。
 その半面で、異次元緩和措置は、実体経済に関する人々の期待を変えることができなかった。それは、設備投資が増えないことに端的に表れている。
 設備投資は将来に対する企業の期待を最も顕著に反映するものだ。それがこのような状態にあることは、実体経済に関する企業の期待がまったく改善されておらず、むしろ全体的に見れば悪化していることを示している。
 株価が上昇しているので、現実の経済状態が見えにくくなっている。しかし、実際には、このように、かなり危機的な状況になっているのだ。現在の日本経済の問題は、資産価格だけが実体経済と遊離して上昇しつつあることだ。

 (4)(3)のような状況において唯一のプラス要因は、原油価格の下落だ。それが勤労者世帯の実質所得を増加させ、実質消費を増加させることが期待される。これが唯一救いの神だ。
 これが実際にどの程度消費を喚起できるかは、今後の為替レートの推移に懸かる。仮に円安が進展すれば、原油価格下落の効果は打ち消されてしまう。インフレ目標達成にこだわって追加緩和が行われると、それが現実化してしまう。
 だから、いま必要なのは、物価を上げることではない。
 逆だ。物価を下げることによって実質消費の増大を期待することだ。
 日本銀行は、インフレ目標に係る基本的な考えを変更する必要がある。

□野口悠紀雄「マイナス成長傾向から抜け出せない日本経済 ~「超」整理日記No.755~」(「週刊ダイヤモンド」2015年4月25日号)
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