語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

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【本】今年のイチ押し ~娯楽小説3点~

2012年12月31日 | 小説・戯曲
(1)横山秀夫『64(ロクヨン)』(文藝春秋、2012.10.)
  ※刑事部から、嫌で嫌でたまらぬ警務部の広報室に異動になった警部/調査官級/警視承認含みが、刑事部と警務部との権謀術数に捲き込まれて右往左往するうちに、「広報」の本分に目覚め、小細工を排し、職務に忠実たらんとする。それが却って、関係者の本音と信頼を引き出す。併せて、14年前の未解決事件の解決にも資する。例によって例のごとき組織内のうっとうしい人間関係描写には些か鼻白むが、著者の従来の警察小説とはひと味違い、今野敏『隠蔽捜査』ふうの爽快さがみられる。

(2)『三匹のおっさん ふたたび』(文藝春秋、2012.3.)
  ※「【書評】『三匹のおっさん』『三匹のおっさん ふたたび』」参照。

(3)マイクル・クライトン&リチャード・プレストン(酒井昭伸・訳)『マイクロワールド(上下)』(早川書房、2012.4.)
  ※マイクル・クライトンの名を冠する新作を読むことができるのは、これで最後だ。ディック・フランシス逝き、A・J・クィネル逝き,、クライトン逝き、年々歳々愉しみが減っていく。
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【本】今年のイチ押し ~小説4点~

2012年12月31日 | 小説・戯曲
(1)水村美苗『母の遺産 ~新聞小説~』(中央公論新社、2012.3.)
  ※昨今の母親は、実の娘に自分が果たせなかった夢を押しつけ、過大な干渉を行うらしい。しかも、その身勝手は、娘それぞれの心に傷を残す。少女時代のみならず中年に至るまで。少なくとも、本書の主人公の母親はそうだ。そして、50代にして独り暮らしになると、娘たちをさんざん振りまわす。娘(たち)は、ケガした母に付き添い、毎日差し入れ、実家を売却して介護付き老人ホームに入所する資金を作り、さらにはホーム入所後のてんやわんやに付き添わねばならない。娘(たち)は閉口しながらも、突き放すことができない。本書は、自立(職業ないし結婚・離婚)から非自立(介護する立場・される立場)まで、現代の女の一生を描く。それと同時に、日本の小説史をなぞるがごとき仕掛けがあって、「新聞小説」と副題される所以だ。
  第39回大佛次郎賞受賞作品。

(2)池澤夏樹『氷山の南』(文芸春秋社、2012.3.)
  ※近未来小説。オーストラリアの逼迫する水不足を解消すべく、「シンディバード」号が南極から氷山を曳航することになった。本書は、この気宇壮大なプロジェクトを縦軸に、アイヌの血をひく日本人留学生ジンの活躍を横軸とする。密航を企てたジンが、パン焼きと船内新聞の発行という役割を与えられることで、自在な描写が可能になり、奇怪な登場人物たちが冒険小説の奥行きを増す。自然と文明に関する池澤的考察が、小説に厚みをもたらしている。

(3)加賀乙彦『雲の都 第四部 幸福の森』(新潮社、2012.7.)
(4)加賀乙彦『雲の都 第五部 鎮魂の森』(新潮社、2012.7.)
  ※(4)は、長編連作「雲の都」の最終巻であるとともに、長大な「永遠の都」シリーズの掉尾をなす。(3)は「永遠の都」および「雲の都」第三部までの内面を活写する文体を引き継ぐが、(4)は『高山右近』や『ザビエルとその弟子』のバロック的文体に倣う。
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【本】今年のイチ押し ~原発事故に関する9点~

2012年12月30日 | 震災・原発事故
(1)朝日新聞特別報道部『プロメテウスの罠 ~検証!福島原発事故の真実~』(学研パブリッシング、2012.3.)
(2)朝日新聞特別報道部『プロメテウスの罠2 ~検証!福島原発事故の真実~』(学研パブリッシング、2012.7.)
  ※朝日新聞連載記事をまとめたもの。最初の記事が2011年10月3日に掲載され、たちまち惹きつけられた。住民の避難に当たり、SPEEDIが活用されなかった具体的な過程を特報するなど、「徹底した現場主義と調査報道」で、2012年度新聞協会賞(編集部門)を授賞した。読みやすさ、次々に明らかにされる事実がもたらす衝撃という点で、群を抜く。

(3)NHK ETV特集取材班『ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図』(講談社、2012.3.)
  ※昨年5月、NHKは福島で進行する放射能汚染の現状を赤裸々に報道し、視聴者に衝撃を与えた。この番組はシリーズとなって、フクシマの現実を掘り下げていった。その番組制作者らによる手記が本書だ。
  TV番組は、文化庁芸術祭賞大賞(テレビ・ドキュメンタリー部門)、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、日本ジャーナリスト会議大賞、シカゴ国際映画祭ヒューゴ・テレビ賞「ドキュメンタリー部門」銀賞、ワールドフィルムフェスティバル・ドキュメンタリー部門銀賞などを受章している。
  しかし、NHK上層部は記者たちの活躍に応えていない。むしろ冷遇しているように見える【注1】。 

(4)吉岡斉『脱原子力国家への道』(岩波書店、2012.6.)
  ※本書は、地震多発国になぜ54基もの原発が設置されたのか、脱原発の概念と方向づけが分かりやすく綴られていて、勉強になった。勉強の過程は「語られる言葉の河へ」で何度かとりあげた【注2】。

(5)東京電力福島原子力発電所事故調査委員会『国会事故調 報告書』(徳間書店、2012.9.)
  ※今年、国会事故調(黒川清・委員長)が報告書をまとめる6月が近づいたころ、原子力ムラから見るとかなり厳しい内容になることが分かってきた。わけても、新らたに作られる原子力規制庁は真に独立した規制機関(完全に国際基準に合致)にすべきだと強く提案する見込みであることが伝わってきた。
   ・全職員の出身省庁への「完全ノーリターン」ルールの設定
   ・民間人職員も原子力ムラの企業への再就職禁止
   ・外国人を含めて真に能力があり独立して安全規制を実施できる職員のみ採用
などの抜本的改革を迫られる。そんなことになったら、当時審議していた規制庁案は全く不十分になるのは必至だ。真の安全規制が実施され、日本の原発は一つも動かせなくなる。
  そこで、報告書が出るまでに何としても法案を通してしまいたい、という原子力ムラの意向を受けて、民自の守旧派、さらに公明党まで入って修正が協議された。
  これを支えたのは、むろん経産官僚だ。彼らの狙いは、原子力安全・保安院の大半の職員を平行異動させた形だけの原子力規制庁を作ることだった。その後、短期間で「新たな」安全基準を作り、「新」規制機関による「新」基準に基づいた「完璧」な安全審査というお墨付きを与えて、原発全基再稼働に突き進もう、という企みだ。
  規制庁設置法案の国会通過から10日前後で出る報告書に何の意味があるか。国会議員自ら作った組織=国会事故調の存在意義を否定する国会は、自らの存在意義も否定している【注3】。

(6)伊藤守『ドキュメント テレビは原発事故をどう伝えたのか』(平凡社新書、2012.3.)
  ※「【原発】テレビは何をしなかったか ~原発事故報道~」など【注4】をご覧いただきたいが、3・11から1週間のテレビ原発報道を徹底的に検証し、マスメディアの問題を剔抉している。

(7)金子勝『原発は不良債権である』(岩波ブックレット、2012.5.)
  ※金子勝『「脱原発」成長論 ~新しい産業革命へ~』の議論をもっとやさしく、安価な本で啓蒙したのが本書だ【注5】。

(8)大鹿靖明『メルトダウン ~ドキュメント福島第一原発事故~』(講談社、2012.1.)
(9)東京新聞原発事故取材班『レベル7 ~福島原発事故、隠された真実~』(幻冬舎、2012.3.)
  ※今年、事故の経緯を追うドキュメントが次々に出版された。(8)は、①事故の1週間、②東電救済スキームの成立、③菅政権の崩壊を追う。(9)は、事故の1週間のドキュメントを出発点に、事故が起きた原因の追及、廃炉までの果てしない道程を示す。

 【注1】「【原発】蠢き始めたNHKの原発再稼働派

 【注2】
【原発】『脱原子力国家への道』
【原発】日本政府はなぜ脱原発に舵を切れないか ~日米原子力同盟~
【原発】福島原発事故による被害の概要
【原発】福島原発事故の教訓
【原発】エネルギー一家の家族会議 ~総合資源エネルギー調査会~
【原発】「国家安全保障のための原子力」という公理
【原発】脱原発が可能な理由 ~エネルギー需給の観点~
【原発】脱原発論者の多様性 ~福島原発事故以後~

 【注3】「【原発】原発官僚というレミングの群 ~再稼働の論理の破綻(4)~

 【注4】
【原発】社会的境界を横断するネット型の情報 ~3・11後の構造的変化~
【原発】「情報の価値」は「所有」か「共有」か
【原発】ネット上の課題 ~「集合知」が生成されるために~
【原発】テレビは何をしなかったか ~原発事故報道~
【原発】テレビは市民の生命・健康・財産を守ったか ~原発事故報道~

 【注5】「【原発】電力改革に必要な3つの条件 ~不良債権処理と国民負担~
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【本】ブラック企業の実態

2012年12月29日 | 社会
 (1)ブラック企業とは、「違法な労働条件で若者を働かせる企業」だ。若者労働問題を語るに当たり使用されてきた「フリーター」「ニート」と異なり、「ブラック企業」は明確に企業側の問題を表す。
 問題は、①個人的被害と、②社会問題の両面がある。

(2)ブラック企業前史
 2000年代後半、非正規雇用者が若者の未来を閉ざす事実が世間に知られるようになった。製造業派遣・「請負」労働者はフルタイムで働き、みな親世帯からの「自立」を志向しているのだが、工場の増産・原産に対応して全国各地に配置転換され、派遣・請負会社の寮を点々とする。次の仕事がなくなると寮から追い出され、あっというまにホームレスに転落する。2008年12月、「年越し派遣村」問題が惹起し、非正規雇用問題がクローズアップされるとともに、若者の雇用問題の認識が大きく変わった。
 「若年雇用者問題=非正規雇用の不安定」という構図の理解は、新しい問題を引き起こすことになった。若者を正社員をめざす苛烈な競争に駆りたてたのだ。

(3)ブラック企業
 ブラック企業は、若者雇用問題の流れの中にあって新しい問題を提起している。ブラック企業問題の被害の対象は常に正社員だからだ。
 今や、正社員となっても安泰ではない。
 リーマン・ショック(2008年9月)以降、2009年2月、3月頃から、明らかに若年正社員の扱いに変化が生じた。それは、「使い捨て」と呼ぶにふさわしい扱いを若年正社員は受けるようになった。すでに変化していた正社員雇用の性質が、それまでの好景気の中では見えず、リーマン・ショックを景気としてあらわになった。
 企業への異常なまでの従属、人格破壊・・・・これまでとは明らかに質が異なる問題だ。
  
(4)徹底的な従属とハラスメント ~Y社~
 社員1,000人弱、資本金1億円、売上げ90億円。都内一流のITコンサルティング会社で、成長企業として知られる。ただし、コンサルティング業務は事業全体の1割程度、顧客に従業員を派遣してIT関連の下請け業務を行う派遣業が事業の大部分を占める。
 Y社は、派遣先が見つからない状態を「アベイラブル(未稼働)」と呼び、「アベイラブル」状態の社員を「コスト(赤字)」と認識する。極端にネガティブな再解釈を行われた「アベイラブル」の社員に対して、徹底的な組織性と執拗さで、「教育」「カウンセリング」という名のハラスメントを行う。「人間として根本的におかしい」etc.。「自分が悪い」と思う状況を作り出すのだ。その結果が「自己都合退職」だ。
 「自分が悪い」と思うに至る別の重要な要因は、異常な職場統治だ。社内ではハラスメントや退職強要が横行していて、多くの社員は同僚が徹底的に追い詰められ、辞めていくさまを日常的に目撃している。次は自分かもしれない、という恐怖に支配されている。
 Y社がハラスメントするのは、派遣要員社員の「アベイラブル」だけではない。派遣のない社長アシスタントも、就業時間外でも呼ばれて社長や副社長の雑用(社長の出迎え、カバン持ち、ペットの散歩)をこなし、副社長の移動管理をこなし、残業時間1日平均5時間働いても、「仕事が遅い」「気がつかえない」「おもしろくない」と評価され、叱責され、なぜ「おもしろくない」のかと問い詰めて「自己都合退職」に追いやる。

 (続く、年末のスキマ時間に)

□今野晴貴『ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~』(文春新書、2012)の「はじめに」および第1章「ブラック企業の実態」
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【原発】推進派が牛耳る原子力規制庁 ~安井正也緊急事態対策監~

2012年12月29日 | 震災・原発事故
 (1)「原子力規制委員会」の売り物は、「推進勢力からの独立」だった。
 しかし、売り文句には発足当時から大きな疑問符がついていた。田中俊一・委員長を始め、5人のうち3人が「原子力ムラ」出身者であることが批判を浴びたのだ【注1】。

 (2)委員の出自とともに、いや、それ以上に大きな問題は、事務局組織「原子力規制庁」が原子力ムラの住民に牛耳られていることだ。これまでに強引に原子力推進行政を進めてきた経済産業省や文部科学省の役人がずらりと顔を揃えているのだ【注2】。
 その代表格が、事務方ナンバー3の安井正也・緊急事態対策監だ。
 安井は、京都大学工学部原子核工学科卒。経産省で原子力を推進した。2004年に発覚した原発の使用済み核燃料の直接処分に係る試算結果隠しに深く関わった。
 「再処理をせずに直接処分した時のコスト試算はないか」
という国会質問(福島みずほ・参議院議員/社民党代表)に対して、経産省資源エネルギー庁の幹部は試算の存在を否定する答弁を行った。しかし、その後、その存在が発覚した。虚偽答弁だ、と批判を浴びたが、試算の存在を知らないので虚偽答弁には当たらない(単に業務を管理する能力が無いだけ)、という不透明な決着をみた。
 この「虚偽答弁」の案を作成したのが、安井正也・原子力政策課長(当時)だ。安井は、この時、寺坂信昭・電力・ガス事業部長(当時。原発事故当時の原子力安全・保安院長でもある)とともに厳重注意の処分を受けている。
 実は、安井は「直接処分」コスト試算の隠蔽を主導していた。「世の中の目に触れさせないようにしろ」と部下に厳命したメモが存在し、関係者の証言と併せて、この事実が今年1月発覚した。【毎日新聞 2012年1月1日】【注3】
 全量再処理が国策だが、「直接処分」コスト試算が明らかになれば、直接処分が再処理より安価である(再処理19兆円の4分の1~3分の1以下ですむ)ことが判明し、政策変更を求める動きが加速したはずだった。再処理を巡り、2002年以降、東京電力と経産省の首脳らが再処理事業からの撤退を模索していた。安井は、「原子力ムラ」が撤退する動きを封じた形だ【注3】。
 「総合資源エネルギー調査会・電気事業分科会」では、2004年5月に複数の委員から、直接処分のコスト計算を求める意見が出た。原子力政策課は分科会の担当課だったが、委員らに試算の存在を伝えなかった。分科会は、同年6月、19兆円を産業用、家庭用の電気料金に上乗せする新制度の導入案をまとめた。この結果、「国内全量再処理」の国策が堅持された(現行の原子力政策大綱)【注3】。

 (3)規制委員会発足以来、頻繁に記者会見などが行われている。しかし、安井はほとんどマスコミの前に姿を見せない。質問に答えない。
 9月の規制委員会発足時にも、ウィーンに出張し、原子力推進の国債組織、国際原子力機関(IAEA)の総会決議に関する調整や、天野之弥・事務局長の再選に向けた根回しをしていた、とされる。

 (4)規制庁において、安井に次ぐ幹部は3人の審議官だ。
  (a)桜田道夫・・・・東京大学工学部原子力工学科卒。資源エネルギー庁が長いが、規制に熱心だったわけではなく、規制委員会発足に向けた国会議員や記者との応答では、たびたび言葉に詰まり、事務局員が代わりに説明する局面も多い。「その資質を疑問視せざるをえない」【与党議員】
  (b)名雪哲夫・・・・文部科学省出身。旧・科学技術庁原子力局などでの勤務経験があるムラの住民。
  (c)山本哲也・・・・原子力・安全保安院からの横滑り。

 (5)規制庁において、450人の一般職員も、大半が文科省や保安院などでこれまで原子力行政に関わってきた役人の横すべりだ【注2】。
 その中には、電力会社や原発メーカー、電力関連企業など推進企業から旧組織に出稿していた人物が、そのまま「異動」した例も少なくない。
 これが、国会事故調による厳しい指弾を恐れ、報告書が出る直前に急いで自公民が談合修正して作った規制庁の実態だ【注4】。

 【注1】
【原発】規制委員会委員長候補は「原子力ムラ」の中心人物
【原発】原子力規制委員会委員案の違法性 ~欠格人事~
【原発】委員の欠格 ~原子力規制委員会の記者会見~

 【注2】
【原発】秘かに進行する全原発再稼働計画
【原発】天下り容認の規制庁人事 ~民自公修正談合~

 【注3】
核燃サイクル:直接処分コスト隠蔽 エネ庁課長04年指示 (毎日新聞)

 【注4】
【原発】天下り容認の規制庁人事 ~民自公修正談合~

 以上、水木守(環境ジャーナリスト)「安井正也緊急事態対策監 推進派が牛耳る原子力規制庁」(「週刊金曜日」2012年12月7日号)に拠る。

 【参考】
【選挙】自民党の公約を整理すると浮き上がる矛盾
【選挙】安倍自民党総裁が財界に支持される理由 ~官僚的体質~
【選挙】安倍晋三の軽佻浮薄と無定見 ~経済政策~
【選挙】安部自民「タカ派路線」のジレンマ
【選挙】世界はネットで政治参加している ~米国と韓国~
【選挙】国家と資本への隷属からの脱却 ~自分の情動をとり戻す~
【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~
【選挙】【原発】安部自民と石原維新がもたらす経済損失 ~変化しつつある経済システム~
【選挙】【原発】3・11以降の実践に希望 ~民主主義を問い直す~
【選挙】【原発】維持にうごめく種岡成一・電力総連会長
【選挙】石原都政で何が失われたか ~福祉・医療・教育・新銀行破綻・汚染市場~
【選挙】右派勢力にとって千載一遇の好機 ~戦後民主主義のレジーム解体~
【選挙】「人々が生活できる社会」を考えない政治 ~最低賃金の廃止~
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【本】ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~

2012年12月28日 | 社会
 聞きしにまさる悪辣さだ。若者を収奪するシステムが、リーマン・ショック以降、日本でできあがっている。
 まだ全部読みとおしていないので、詳しくはそのうち。
 本書で紹介される若者、ブラック企業の犠牲者は、おおむね従順、ものわかりがよいが、我が子が過労死する羽目に陥った親の瞋恚のほむらは、一夕一朝では消えまい。
 読みながら、現代詩の最前線を突っ走る天沢退二郎の初期詩編「死刑執行官 ~布告及び執行前一時間のモノローグ~」前半部を思い出していた。

 旗にうごめく子どもたちを裏がえす者は死刑
 回転する銃身の希薄なソースを吐き戻す者は死刑
 海でめざめる者は死刑
 胃から下を失って黒い坂をすべるもの死刑
 いきなり鼻血出して突き刺さる者は死刑
 はじめに名乗るもの死刑
 夜を嚥下し唾で空をつくるもの死刑
 ひとりだけ逆立ちする者を死刑にする者死刑
 つばさがないので歩く鳥は死刑
 鳥の死をよろこばぬもの死刑
 めざめぬ者は死刑
 めざめても青いまぶたのへりを旅する者死刑
 死刑にならぬというものら
 死刑を行うものら
 死刑を知らぬものら
 を除くすべてのもの死刑

□今野晴貴『ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~』(文春新書、2012)
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【経済】黒字国フィンランド、ユーロ圏離脱か

2012年12月27日 | 社会
 (1)2013年の1年を通して欧州危機が世界を揺るがした。切り札はギリシャのユーロ離脱だと思っていたが、予想をはるかに超えるユーロ圏首脳の決断力不足から、いまだにどこまで救済するか最終金額さえ確定されていない。

 (2)2013年、ドイツで総選挙がある。ドイツ人の8割がギリシャ救済に反対している。

 (3)あまり報道されないが、フィンランドは既にこれ以上の救済を拒否している。彼らのほうがユーロ離脱を視野に入れ始めた。
 フィンランドは、急速に進む高齢化問題に直面している。あれだけの高福祉国なので、これ以上財源をギリシャのために塩漬けにしたくない。
 もともと北欧経済圏なので、ユーロ圏にいるメリットがあまりない、という地政学上の問題とあいまって、ユーロから離脱する可能性は高い。

 (4)ギリシャにこだわっているうちに、重要な黒字国gユーロ圏から出てしまうかもしれない。
 この代償は大きい。

 (5)日本では消費増税法が成立した。「税と社会保障の一体改革」というが、社会保障に必ず使う、とは、法案のどこにも書いてない。
 給料は上がらない。円安で物価が上がる。逆進性の強い消費税が増税となる。
 かかる弱者イジメの一方、富裕層はシンガポールや香港に移住するから、残された国民は「蜘蛛の糸」状態だ。

 以上、ぐっちーさん「この1年のテイタラク 残したツケは大きい ~ここだけの話 money~」(「AERA」2012年12月31日-2013年1月7日号)に拠る。
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【本】この1年に出会った本

2012年12月26日 | 批評・思想
 『東京プリズン』(赤坂真理、河出書房新社、1,890円)・・・・そのスケール、仕掛けにおいて大変読みごたえある小説だった。途中、天皇を女性として把握するところ、戦争責任のとらえ直しなどは今後おおいに議論されてよい。その意味でも“開かれた”作品だった。【いとうせいこう】

 『棺一基 大道寺将司全句集』(太田出版、2,100円)・・・・死刑囚の全句集。三菱重工爆破事件から38年、刑確定から四半世紀がたつ。俳句という表現に出会い、深化させてきたことに感慨を覚えた。「棺一基四顧茫々と霞みけり」。幽明定かならぬ地平から罪と世と己を見つめている。【後藤正治】
 
 『商店街はなぜ滅びるのか』(新雅史、光文社新書、777円)・・・・商店街の誕生から衰退までの歴史を追うことで、その機能と役割を再考する。ノスタルジーを越えた冷静な分析の中に商店街再生への強い思いが漲っている。【中島岳志】

 『文芸別冊{総特集}いしいひさいち 仁義なきお笑い』(河出書房新社、1,260円)・・・・自分を語らず、写真も拒否、どんな顔の漫画家か不明。本書で初めて素顔を見せた。いや本人による架空インタビューだが、本音を吐いていると思う。幻の作品も収録され、文芸別冊中、最高の企画。【出久根達郎】

 『成熟社会の経済学』(小野善康、岩波新書、798円)・・・・デフレ研究の第一人者がデフレの原因や処方箋を一般読者向けに、かみくだいて書いた本。学界でも未決着の論争だが、著者のお金フェチ説は説得力がある。最先端の学説のエッセンスがギュッと新書に凝縮され、お買い得。【原真人】

 『探究 エネルギーの世紀 上・下』(ダニエル・ヤーギン/伏見威蕃・訳、日本経済新聞出版社、各2,415円)・・・・著者は20年前に世界的ベストセラー「石油の世紀」を書いたエネルギー問題の大家。福島第一原発事故、「アラブの春」という歴史的な大事件を経て、改めてエネルギー事情を俯瞰し直した対策。エピソードも豊富で読みごたえあり。【原真人】

 『レッドアローとスターハウス』(原武史、新潮社、2,100円)・・・・親米反ソの資本家が敷設した西部鉄道とその沿線に出現した革新色の強い巨大団地に着目しながら、東京の西郊を思想空間として読み解いた出色の一冊。コミュニティ研究としても秀逸だ。【渡辺靖】

 以上、2012年12月23日付け朝日新聞「読書欄」の「この1年に出会った本 ~書評委員お薦め「今年の3点」~」から抄出。

 蛇足。
 『私の昭和史 完結編 上・下』(中村稔、青土社、各2,400円)・・・・弁護士にして詩人という不思議な二重性をもつ著者が回顧する昭和。一方に法による正義を信じるとともに社会の不合理を目の当たりにする市民のまなざしがあり、他方に脱日常を図る詩人の交遊録がある。社会史と個人史とを同時に辿る。【風紋】
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【経済】閉塞感は強まるが、ビジネスチャンスはいくらでも ~2013年~

2012年12月25日 | ●野口悠紀雄
 (1)地方都市の地元企業の人々と話す機会が多い。それらの企業は圧倒的に製造業が多く、何らかの形で大企業の系列と関連している。彼らの話から強く感じるのは二点。
  (a)これまでの事業を、これまでの形態で続けたい、と望んでいる。新しいビジネスを始めようとも思わないし、ビジネスモデルを変更しようとも考えていない。彼らのいう「成長戦略」とは、具体的には補助や保護がほしい、ということだ。
  (b)彼らの頭には、2004年~2007年ごろの円安期の記憶が残っている。「あのときには輸出が伸びて利益も増えた。その状況をもう一度再現してほしい」という幻想に取り憑かれている。 ①「デフレ脱却」とは、具体的には「超円安の再現」を意味している。このときの円安がバブルにすぎず、よって永続できるものではなかった、という認識はない。 ②現在の日本の電機産業(<例>シャープやパナソニック)の大赤字は、そのときの過大投資の後遺症であることも理解されていない。

 (2)2013年の日本で、製造業にとっての逆風は、これまでにも増して強いものになるだろう。<例>中国への輸出は簡単には増えない。電気料金が上がる。生産拠点の海外移転が続く。親会社の移転によって、系列部品メーカーの受注が減る。
 だから、(1)-(a)、(b)のような要求が強くなる。
 実際、市場は安倍晋三政権の金融緩和政策を先取りして、円安・株高の方向へ向かっている。円安幻想に応えるため、新政権は金融緩和策をさらに拡大するだろう。

 (3)しかし、金融緩和をしても、2004年~2007年と同じような円安を再現することはできない。なぜなら、先進諸国の金利がその当時に比べて低下してしまったため、円キャリー取引(円を売って高金利通貨を買う取引)が起こりにくいからだ。
 米国の景気が回復し、ユーロ危機が解決に向かえば、世界的な資金の流れが逆転し、日本からの資金流出が起これば、円安が進む。しかし、そうなると、こんどは金利が上昇し、国債を大量に保有する金融機関に損失が発生する。
 他方で、貿易赤字はさらに拡大し、財政赤字も拡大するだろう。
 よって、(1)-(a)、(b)のような要求の実現は極めて難しい。

 (4)笑わず、泣かず、憤らず見ること(スピノザ)。
  (a)これからの日本で、これまでと同じビジネスを同じように続けようとしてもできない。
  (b)金融緩和と円安政策で日本経済を活性化することはできない。

 (5)1990年代末の通貨危機で、韓国の人々の意識は大きく変わった。他力本願では活路は開けないことを知ったのだ。そのため、教育熱が高まり、若者がグローバルなチャンスを求めるようになった。
 日本では、そこまで危機が深刻化していないため、意識が変わらない。

 (6)2013年、日本経済の閉塞状況がますます強まるだろう。しかし、考え方、見方を変えればチャンスはいくらでもある。
  (a)サービス関連では強い規制が残っている分野が多い。<例>保険業、通信業、医療・介護。・・・・これらの分野で規制緩和を進めればビジネスチャンスは大きく拡大する。
  (b)情報関連では技術進歩によって、チャンスが広がっている。
    ①クラウドサービス・・・・強力な大型コンピュータのサービスをインターネット経由で低コストor無料で広範に利用できる。
    ②「プラットフォーム」・・・・<例>グーグルマップやグーグルカレンダー(無料)に何らかのサービスを付け加えて自分の事業とすることができる。
  (c)金融市場の外では、「明らかに利益を得られる機会」が残っている場合がある。今の日本社会ではとりわけそうだ。新しい可能性を試そうとする人が少ないことは、逆に見れば、非常に大きなビジネスチャンスが手付かずで放置されていることを意味する。ちなみに、金融市場では、「明らかに利益を得られる機会」があれば裁定(サヤ取り)取引によって即座につぶされてしまう。
  (d)30年前は資金の壁があったが、今では必要資金の障壁は著しく低下している。(b)-①のように。
  (e)20世紀の産業社会は、工場での大量生産を中心とするものだったから、大組織と大資本を必要とした。しかし、1990年代後半以降、この傾向に大きな変化が生じている。それは、新しい事業のチャンスを生む。そうしたチャンスが日本ほど手つかずで転がっている国はない。

 以上、野口悠紀雄「閉塞感は強まるが チャンスはいくらでも ~「超」整理日記No.641~」(「週刊ダイヤモンド」2012年29月日/2013年1月5日新年合併号)に拠る。
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【読書余滴】聖夜

2012年12月24日 | 詩歌
 クリスマス・イブには
 いつも セルマ・ラーゲルレーヴの薄い書物
 「キリスト伝説集」を読み返えす

 小学生の息子は毎晩三時間はテレビを離れない
 たしか おととしごろから
 サンタ・クラウスも信じなくなった

 私は四十才をすぎてもなお
 スエーデン人の語る聖なる幼な子を愛している
 しかし息子にセルマのような優しい祖母はいない

 神さまというかたがおいでだとすれば
 家族そろって食卓を囲んだときに
 かならず欠けている あの寂しい誰かのことだ

 クリスマスの夜も妻は寝しなに
 粉ぐすりの袋をかさかさ振る
 どんな病気だか生涯知らせることもできまい。

□安西均「聖夜」
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【読書余滴】未確認飛行物体

2012年12月23日 | 詩歌
 薬罐だつて、
 空を飛ばないとはかぎらない。

 水のいつぱい入つた薬罐が、
 夜ごと、こつそり台所をぬけ出し、
 町の上を、
 畑の上を、また、つぎの町の上を、
 心もち身をかしげて、
 一生けんめいに飛んで行く。

 天の河の下、渡りの雁の列の下、
 人工衛星の弧の下を、
 息せき切つて、飛んで、飛んで、
 (でももちろん、そんなに早かないんだ)
 そのあげく、
 砂漠のまん中に一輪咲いた淋しい花、
 大好きなその白い花に、
 水をみんなやつて戻つて来る。

□入澤康夫「未確認飛行物体」

 【参考】
【読書余滴】「わたしのいつた国」 ~擬物語詩の神秘~
【読書余滴】わが出雲・わが鎮魂
【読書余滴】現代詩における心中
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【読書余滴】すべてをルフランに変える青春の無知

2012年12月22日 | 詩歌

 あの廻っている人たち
 あの光っているネオン
 あの歌っている女
 「あなたに惚れた」
 「わたしも」
 あの廻っているたのしい人たち
 あの光っているつめたいネオン
 あの歌っている不幸な女
 「あなたに惚れた」
 「わたしも」
 あの廻っている喫茶店のたのしい人たち
 あの光っているビルのつめたいネオン
 あの歌っているレコードの不幸な女
 「あなたに惚れた」
 「わたしも」

□岩田宏「ルフラン ~すべてをルフランに変える青春の無知~」
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【旅】エル・グレコから宮永愛子まで

2012年12月21日 | □旅
(1)国立国際美術館
 大阪市北区中之島4-2-55

(2)展覧会
 (a)「エル・グレコ」展 ⇒ 作品リスト
 (b)宮永愛子「なかそら ~空中空~」展
 (c)国立国際美術館コレクション

(3)特別企画展の会期
 (a)2012年9月29日(土)~2013年1月6日(日)
 (b)、(c)2012年10月13日(土)~12月24日(月)

(3)観覧料
 (a)当日:一般 1,500円
 (b)+(c)当日:一般 420円

(4)エル・グレコ
 ドメニコス・テオトコプーロス、通称エル・グレコは、1541年、ヴェネツィア共和国支配下のクレタ島の首都イラクリオンに生まれ、1614年、フェリペ2世治下のスペインはトレドに没っした。
 エル・グレコが描くところの人物は、自分の存在を他人に押しつけていない。「この人物は他人を傷つけないだろう」と感じさせられる。例えば、その目。対抗したり、他人のあら探しをする目ではない。この世から少し距離を置くまなざしだ。
 写真は、「聖家族と聖アンナ」(1595年頃、油彩・画布)。

   

(5)宮永愛子
 1974年京都市・生/第22回五島記念文化賞美術新人賞受賞の2011年から米国・在住。

   

 (a)主催者による「なかそら ~空中空~」展の紹介(要旨)
 宮永作品は時間と共に変化していく。<例>2003年発表の「靴」を題材とした作品で用いられているナフタリンは常温で昇華するため、最初の形が保たれない。その作品は「シンデレラ」と名づけられた【注1】。童話「シンデレラ」の作中で自ら崩れゆくガラスの靴を直喩すると同時に、戻ることのない時間の非情な流れを象徴的に示した【注2】。
 作品「シンデレラ」の次の段階では、窯から出た焼物が長期間きれぎれに奏でる微かな音(貫入)をテーマとした作品を試みた。事物の形姿が変化する様が聴覚を通して認識される体験を、美術作品という枠組で普遍化しようとした。
 変化し続ける自分の作品を念頭に、宮永は「なかそら」という言葉を紡ぎ出した。古語「なかぞら」は、どっちつかずで心が落ち着かない状態を意味する。宮永の「なかそら」もそれに近似して、未だに揺らぎがあることを示す言葉だ。おそらく、万物は全て変化し続けながら存在している、ということを象徴する宮永の作品は、全て「なかそら」の状態にあるのかもしれない。

 【注1】「展示作品」の7。
 【注2】<ナフタリンで象られた靴は一瞬だけ固有の時を留め、結晶を結びはじめるでしょう。>と宮永自身は語る(リーフレット「beginning of the landscapes MIYANAGA Aiko」、ミヅマアートギャラリー)。

 (b)浅田彰(京都造形芸術大学大学院長)「エル・グレコから宮永愛子まで」(要旨)
 「なかそら ~空中空~」展では、白いナフタリンでかたどられた日常のオブジェが儚く消滅していく。
 宮永作品は淡雪のように儚く消えていくところがいかにも「日本的」であり「女性的」だと言われる。確かにそういう繊細な美しさをもつ。他方、モノが消滅していくのではなく、形を変えて存在し続ける過程を厳密に観察しようとするものでもある。
 ①展覧会に入口近くに置かれた細長い透明なケース(15m前後)には、奥に行くにつれ、ナフタリンの結晶が霜のように析出している。最初につくられたオブジェが順々に消滅していく・・・・のではなく、ケースに貼りついた結晶に形を変えて存在し続けていくのだ。モノは消滅することなく、ただ変化し続ける。そのようなヴィジョンのきわめて明確な表現だ(そこでの強調点は、エントロピーの不可逆的増大よりも、「空中空」が示唆する可逆性と質量の保存にある)。











 ②次に進むと、今度は天井と床を垂直に結ぶ透明パイプの中に糸でつくられた梯子が吊られてある。そこにもまたナフタリンの結晶が少しずつまとわりついていく。生成変化する物質=エネルギーの循環が世界を網の目のように貫いていることのメタファーと言えようか。
 ③さらにその次に置かれているのは、椅子をまるごとナフタリンでかたどってアクリルの中に封じ込めた大作だ。少しずつアクリルを固めていった過程が積層として読み取れる(途中で混入した泡もあえてそのまま残してある)。ここでもまた、テーマはモノではなくコト・・・・生成変化の過程なのだ。椅子の脚の下にある小さなシールに注目すれば、その点がいっそうはっきり見て取れる。小さな空気穴を封じたそのシールを剥がすとき、作品は呼吸を始め、椅子型のナフタリンは長い時間をかけて揮発していくだろう。消滅ではなく別の形での存在に向かって。「waiting for awakening」と題するこの作品は、まさにそのような覚醒(消滅の開始ではない)の時をじっと待っているのだ。
 ④その次の展示室(蝶の森)は、邪魔な柱が気にならないよう、あえて柱や梯子の林立する森のように構成され、そこここに蝶をナフタリンでかたどったオブジェがはめこまれている【注3】。空間構成への強い意志は買うが、いささか煩雑な印象を禁じ得ない。



 ⑤しかし、④のおかげで④を抜けたところにある吹き抜けの空間がいっそう広やかに感じられる。そこには、無数の金木犀の葉から葉脈だけを残したものをつなぎあわせた織物が、光を透かして静かに輝いているのだ【注4】。東北大震災の年にこつこつとつくられたこの織物は、その年のミズマアートギャラリーでの展覧会で見る者の目を奪ったのだが、いまや2倍にも3倍にも及ぶスケールに成長して観客を圧倒する。といっても、量感によって息詰まる印象を与えるのではなく、風通しのいい透明感によって自由な呼吸を促すのだ。
 宮永愛子には、「あいちトリエンナーレ2010」で多くの観客を魅了した「結」【注5】のように、糸や綱を水に浸して塩を析出させる作品もあり、大阪でもかつてアートコートギャラリーで展示された「境 大川 2008」はギャラリ―の前を流れる川の汽水域に浸した糸を空間いっぱいに張り渡したダイナミズムが印象的だった。対して、今回はあくまで金木犀の織物を主役とし、やはり美術館の近くの堂島川の水20リットルに浸した糸が脇にさりげなく添えられている。余白を大きくとることで、観客がゆっくりと呼吸できるようにしている。見事な展示だ。

 【注3】「展示作品」の5。
 【注4】「展示作品」の1~3。
 【注5】<インスタレーション「結(ゆい)」は、名古屋市街に流れる堀川から着想しました。堀川は400年前、名古屋城築城と同時に造られた輸送路としての運河です。木曽の山奥から檜が、木曽川を下り、海-川を上がりお城へやってきた道。森に生まれた木々が送った景色はどんなものだったのでしょう。>と宮永自身は語る(リーフレット「beginning of the landscapes MIYANAGA Aiko」、ミヅマアートギャラリー)。
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【旅】復興を絵画で表現できるか ~平町公の試み~

2012年12月20日 | □旅
(1)兵庫県立美術館
 兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1丁目1番1号

(2)特別企画展
 「現代絵画のいま
 
(3)特別企画展の会期
 2012年10月27日(土)~12月24日(月)

(4)特別企画展の観覧料(コレクション展は別途)
 当日:一般 1,200円

(5)特別企画展の出品作家
 (a)野村和弘(1958年高知市・生/神奈川県・在住)★
   <見えることの極限を示す絵画を出品。壁画のタイプとタブローのタイプの両方からなる。>
 (b)平町 公(1959年広島県・生/神奈川県・在住)★
   <何十畳もの大きさの巨大パノラマ絵画を出品。神戸を題材にした新作。>
 (c)奈良美智(1959年青森県・生/栃木県・在住)
   <忘れがたい印象を残す子どもや動物などを描いて、幅広い層の人々を魅了してきた作家が、本展では最新作を展示します。>
 (d)丸山直文(1964年新潟県・生/東京都・在住)★
   <画面にアクリル絵の具を染みこませるステイン絵画の新作を出品。染みを形象化させる表現。>
 (e)法貴信也(1966年京都府・生/同・在住)★
   <ドローイングのような線、二重の線など、線を追求する絵画(新作)を出品。>
 (f)渡辺 聡(1967年兵庫県・生/同・在住)★
   <ドット・シール紙をキャンバスに貼ってから絵を描き、ドットを貼り直した絵と、ドットを剥がしたあとの残る絵を制作。>
 (g)石田尚志(1972年東京都・生/同・在住)
   <白い部屋に描いていく行為の軌跡をコマどりによって映像化した作品を出品。映像が、絵画の世界をあらわにする。>
 (h)居城純子(1974年静岡県・生/奈良県・在住)
   <マスキングを駆使して塗り残しや余白を表現にした絵を出品(近作及び新作)。>
 (i)三宅砂織(1975年岐阜県・生/大阪府・在住)★
   <透明シートに描いた絵を写真に転写する、いわゆるフォトグラム(新作)を出品。写真と絵画の境界。>
 (j)大のぶゆき(1975年大阪府・生/愛知県・在住)★
   <絵画をベースにした映像作品(新作)を出品。絵画が崩壊する過程をとらえる。>
 (k)横内賢太郎(1979年千葉県・生/三重県・在住)
   <光沢のあるサテン地に染料などで描いた作品を出品(新作を含む)。技法の混交性は、モチーフである文化の混交した文物によって増幅される。>
 (l)彦坂敏昭(1983年愛知県・生/京都府・在住)★
   <写真をコンピューターの画像処理など、複雑な過程を経て作成された絵画を出品(新作を含む)。>
 (m)二艘木洋行(1983年山口県・生/神奈川県・在住)★
   <コンピューターのお絵描きソフトで描いた作品を出品。シンプルな機能、低解像度だからこそ、生み出されるユニークな作品。インスタレーションも展示。>
 (o)和田真由子(1985年大阪府・生/同・在住)
   <透明シートを支持体にして、描いたり、透明メディウムを重ねたりした作品を出品(新作を含む)。三次元空間の構造を二次元に表す試み。>

 【注】作家/出品作品の特徴は、兵庫県立美術館の「出品作家」紹介から引いた。

(6)注目した作品
 展示会でカメラ撮影が許可された作品/作家がある((5)の★)。
 例えば、平町公「阪神工業地帯の暦・神戸港の図・六甲アイランド沖の図」(2012年)/墨、アクリル、キャンバス。



 これだけ大きいと細部に目が届かなくなりがちだが、細部がアナーキーなまでも独立した画面を作っている。
 江戸時代か、もっと昔に瀬戸内海を疾駆したであろう帆船も見える。





 海の底でつながるパイプ。 



 港を支える働き手の姿も垣間見える。





 絶滅した日本狼のように野性的な風貌の労働者がいる。



(7)平町作品のテーマ、制作の流れ
 兵庫県立美術館は「現代絵画のいま」展の図録を発行している。その中に、出品作家に対するインタビューが載っていて、平町は今回の出品作品のテーマ/コンセプトなども語っている。いわく・・・・
 テーマ/コンセプト・・・・2001年に「神戸 布引の滝図」を発表したが、布引の滝は現在も神戸市民の水瓶だ。目に見えない天に上がる滝に、阪神・淡路大震災で亡くなった人々の魂を鎮魂する思いを込めて制作した。今回、二度目の神戸を題材にした作品「阪神工業地帯の暦・神戸港の図・六甲アイランド沖の図」は、2006年に発表した「京浜工業地帯の掟・三部作」の対になるように企画した。一生懸命に復興を果たした神戸の人々の努力の跡を形にしてみたいと思った。
 本作品の具体的な制作プロセス・・・・今年5月、神戸を取材した。ポートタワーから俯瞰し、取材できない場所についてはインターネットの航空写真を利用して下絵を描き、イメージを固めた。そして、「神戸港」を2場面に分割して制作することに決めた。描く作業は、まず使用するロールキャンバス(2m×10m)8本を2回に分けて下塗りした。4本のキャンバスを床に広げ、2回上塗りした。この作業の後、キャンバスに木炭で下書きし、その上に墨とアクリル絵の具で彩色して構図を決めた。それから細部を詳しくしていった。
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【国土】まず実態把握を、そしてコンパクト化も ~朽ち始めたインフラ対策~

2012年12月19日 | 社会
 (1)老朽化が進む社会インフラに処方箋を示し、かつ、実践面での手助けも行っているのが、根本祐二・東洋大学教授/「社会資本メインテナンス戦略小委員会」だ。彼は語る。

 (2)日本では、1960年代から1970年代にかけて大量の社会インフラが整備された。40~50年が経過し、今後老朽化したものが増えていく。対策(更新・補修)を今やらないと間に合わない。
 インフラの大半は自治体が所有する。国ができることは限られている。いろいろな課題のうち、最大のものが実態把握だ。まだ行われていない。
 自治体の会計システムでは固定資産台帳が義務づけられていない。いつ造られたか、明確でない(年代不詳のものが1割)。

 (3)国土交通省が橋などの長寿化施策を進めている。有効な施策だ。
 日本の建築は、建て替えることを優先してきた。それが高度経済成長期のビジネスモデルでもあった。
 だから、今あるものを延命、リニューアルする技術はさほど発展していない。ここにビジネス・チャンスがある。
 新しいものを造るコンクリートではなく、今あるものを直すコンクリートは必要だ。バラマキではなく、必要なものを吟味した上で事業を進めていくべきだ。最優先すべきは、橋、道路、学校の更新事業だ。インフラ更新に回す自主財源を作るべきだが、その前に自治体の現場でやれることをやるべきだ。

 (4)公共施設(学校・公民館・図書館など)はいろんな対策がとれる。
  (a)多機能化・・・・わけても老朽化が進み、数が多く、面積の広い学校に最も有効だ。建て替えるとき、何にでも使えるよう造り直すのだ。
  (b)広域化・・・・近隣自治体で文化ホールや病院などを持ち合う。ワンセット主義を捨てるのだ。
  (c)長寿命化・・・・橋、道路、上下水道には、(a)や(b)は使えない。これらに対しては、穴が開いたらその都度補修する「事後保全」の考え方を、穴が開かないように管理する「予防保全」に転換する。長寿命化を図り、維持補修費を安く抑える。
  (d)包括化・・・・個別かつ短期でのマネジメントを包括的かつ長期で行う方式に変える。<例>指定管理者制度を活用して、橋、道路、河川のすべての管理を民間委託して経費削減効果をあげている自治体もある。

 (5)そして、コンパクト化。
  (a)下水道・・・・これまで広大な地域を公共下水道というネットワークでカバーしてきた。ネットワークは、少しずつ積み上げていくと複雑化し、ゼロから構築すると半分で済む。更新時に、迂回しているものをカットして直線で結ぶなど簡素化を図るべきだ。人口減少時代に入った今、延びきったネットワークのすべては賄いきれない。計画段階の公共下水道は中止し、コンパクトな合併浄化槽に切り替えるべきだ。
  (b)道路・橋・・・・通行規制されている橋は、全国に1,349ある。そのすべてを架け替えるカネはない。コンパクト化、つまりネットワークの再構築を進めるべきだ。痛みを伴うが。

 以上、記事「橋・ダム・高速道路・・・・が危ない 朽ち始めたインフラ」(「週刊ダイヤモンド」2012年10月30日号)に拠る。

 【参考】
【国土】朽ち始めたインフラ ~危ない橋・ダム・高速道路~
【国土】老朽化の進行、破裂、長寿命化への挑戦 ~水道~
【国土】ダム機能を脅かす堆砂 ~ダムと原発に共通するもの~
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