語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】【沖縄】山之口獏「島」

2015年08月31日 | 詩歌
 おねすとじょんだの
 みさいるだのが
 そこに寄って
 宙に口を向けているのだ
 極東に不安のつづいている限りを
 そうしているのだ
 とその飼い主は云うのだが
 島はそれでどこもかしこも
 金網の塀で区切られているのだ
 人は鼻づらを金網にこすり
 右に避けては
 左に避け
 金網に沿うて行っては
 金網に沿って帰るのだ

□山之口獏「島」(『鮪に鰯』、原書房、1964)
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 【参考】
【詩歌】【沖縄】山之口獏「弾を浴びた島」

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【古賀茂明】電力自由化は進んでいない

2015年08月31日 | 社会
 (1)8月14日、安倍総理の70年談話が発表された。
 同じ日、日本経済新聞朝刊の第一面に、
   「セブン、東電から越境調達 関西1000店、契約見直し割安に」
という見出しが載った。
 セブン-イレブン・ジャパンが10月以降、関西(大阪・奈良・和歌山・兵庫の4府県)で、一般家庭1万世帯分に当たる3.2万kWの契約を関西電力から東京電力に切り替える、という。

 (2)「関西の会社が東電を選ぶ」というと、電力会社を選べない一般消費者は、「すごい競争が始まった」と思うかもしれないが、実はそれは大きな勘違いだ。
 何故なら、契約容量が50kW未満(家庭、規模の小さい商店や町工場など)の契約者以外のいわゆる「大口契約者」の中から好きな電力会社を自由に選べることは、ずっと前から決まっている。
 大口の自由化は、2000年に始まり、2005年からは現在の50kWまでその対象が拡大されている。10年以上前の話なのだ。

 (3)自由化後の新規参入者(いずれも極めて小規模)のシェアは、全体の5%程度にとどまり、肝心の大手電力同士の地域を越えた競争はないに等しい。
 何故、大手電力会社間の越境販売が起きないのか。
 それは、大手電力会社の談合組織(電気事業連合会)があるからだ。地域独占の電力会社が集まって、秘密裏に相談する会議がある・・・・このこと自体、欧米諸国から見れば、ほとんど独占禁止法違反だ。

 (4)最近、その鉄の結束に風穴が開いた。
 東京電力が事実上経産省の子会社となり、トップも外部から招聘されたことで、もはや談合参加は不可能になった。
 かくして、東電とその他の大手電力会社の間では、ようやく競争が生じる環境となったのだ。今回の東電による関電管内での大口電力販売もその流れの一環だ。
 この逆のケース(東電以外の電力会社が東電管内の大口契約に参入)も起こり得るだろう。
 しかし、大手電力会社同士の競争(東電を除く)は、談合によって回避されるのは必至だ。

 (5)2016年4月の小売電力の販売自由化は、すなわち、私たち(一般消費者)も電力会社を選べる時代の始まりであり、また、電力会社間の競争が激しくなる・・・・という報道が増えている。
 しかし、こうした談合がある限り、そうはならない可能性が高い。
 現に報道されるのは、東電管内への東電以外の大手(<例>関電・中部電)の家庭向け販売参入計画と、その逆の東電による関電や中部電管内への参入計画ばかりだ(大手電力会社以外の企業による電力小売への参入計画を除く)。それ以外の大手電力同士の競争という話はない。

 (6)(5)の背景には、経産省の事情も絡む。
 超優良天下り先の電力会社の経営が、熾烈な競争によって苦しくなれば、天下りを受け入れる余裕がなくなったり、受け入れられても、肝心の役員給与が下げられたりする。
 だから、本格的な競争にならないように談合にも目をつぶらざるを得ない。
 かくて、国民のための電力自由化は進まない。
 少なくとも経産省が電力会社の規制権限を持っている限り、難しいことは確かだ。

□古賀茂明「電力自由化は進んでいない ~官々愕々第167回~」(「週刊現代」2015年9月5日号)
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 【参考】
【古賀茂明】【TPP】の漂流と「困った人たち」
【古賀茂明】安保法案の裏で利権拡大 ~原子力ムラ~
【古賀茂明】東芝の粉飾問題 ~「報道の粉飾」~
【古賀茂明】「反安倍」の起爆剤 ~若者たちの「反安倍」運動~
【古賀茂明】維新の党の深謀遠慮 ~風が吹けば橋下市長が儲かる~
【古賀茂明】腐った農政 ~画餅に帰しつつある「日本再興」~
【古賀茂明】読売新聞の大チョンボ ~違法訪問勧誘~
【古賀茂明】「信念」を問われる政治家 ~違憲な安保法制~
【古賀茂明】機能不全の3点セット ~戦争法案を止めるには~
【古賀茂明】維新が復活する日
【古賀茂明】戦争法案審議の傲慢と欺瞞 ~官僚のレトリック~
【古賀茂明】「再エネ」産業が終わる日 ~電源構成の政府案~
【古賀茂明】「増税先送り」「賃金増」のまやかし ~報道をどうチェックするか~
【古賀茂明】週末や平日夜間に開催 ~地方議会の改革~
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【古賀茂明】テレビコメンテーターの種類 ~テレ朝問題(7)~
【報道】古賀氏ら降板の裏に新事実 ~テレ朝問題(6)~
【古賀茂明】役立たずの「情報監視審査会」 ~国民は知らぬがホトケ~
【報道】ジャーナリズムの役目と現状 ~テレ朝問題(5)~
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【古賀茂明】氏に係る官邸の圧力 ~テレ朝「報道ステーション」(2)~
【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~
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【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
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【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
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【詩歌】【沖縄】山之口獏「弾を浴びた島」

2015年08月31日 | 詩歌
 島の土を踏んだとたんに
 ガンジューイ(1) とあいさつしたところ
 はいおかげさまで元気ですとか言って
 島の人は日本語で来たのだ
 郷愁はいささか戸惑いしてしまって
 ウチナーグチマディン ムル(2)
 イクサニ サッタルバスイ(3) と言うと
 島の人は九章したのだが
 沖縄語は上手ですねと来たのだ

  (1) お元気か
  (2) 沖縄方言までもすべて
  (3) 戦争でやられたのか

□山之口獏「弾を浴びた島」(『鮪に鰯』、原書房、1964)
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【佐藤優】「アンテナ」が壊れた官邸と外務省 ~北方領土問題~

2015年08月30日 | ●佐藤優
 (1)トルトネフ・ロシア副首相が、8月13日、択捉島(北方領土)に上陸した。
 <同氏はロシア政府が択捉島で開催している、青年の愛国主義高揚を目的としたイベント「全ロシア青年教育フォーラム」に出席。イベントは例年、露西部で行われていたが、政府は今年、択捉島やロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島で実施することを決めた。実効支配を強調する狙いがあるとみられる。
 トルトネフ氏は極東連邦管区の大統領全権代表を兼任し、極東への投資の呼び込みなどを統括する立場にある。同氏が北方領土入りして政治的行事に出席すれば、日本政府が強く反発するのは必至だ。
 現地からの報道によると、イベントには他の閣僚のほか与党「統一ロシア」幹部、ジャーナリスト、政治学者らも出席を予定している。来週後半にはメドベージェフ首相が参加するとの報道もある。プーチン大統領は12日、イベントの択捉島開催について「喜ばしい」とする祝辞を送った。
 日本の外務省は13日、副首相の択捉島訪問を受け、在日ロシア大使館に電話で抗議した。>【注】

 (2)トルトネフ副首相の択捉訪問には、メドベージェフ・ロシア首相の北方領土訪問の露払いという意味がある。
 加えて、ロシアは、シグナルを2点送っている。
  (a)トルトネフが「全ロシア青年教育フォーラム」の会合に出席するために択捉島を訪れたこと。ロシア政府は、このフォーラムをクリミアと北方領土で行うことによって、「一度、われわれが併合した領土を他国に引き渡すことはない」という姿勢を鮮明にしている。ロシアが真面目に北方領土交渉を行うつもりなら、択捉島でかかる挑発的行事を行ったりはしない。ましてや、副首相を出席させはしない。メドベージェフ首相は、再度、北方領土を日本に返還するつもりはない、という強力なシグナルを日本に向けて発信している。
  (b)プーチン大統領の北方領土交渉に対する姿勢が消極化していること。トルトネフは、政府の役職のみならず大統領府の極東連邦管区大統領全権代表を兼任している。当然、トルトネフの今回の択捉島上陸は、プーチンの決裁を経た上で行われている。北方領土交渉について、メドベージェフ首相がさまざまな妨害をしても、プーチン大統領が前向きなので、大統領の年内訪日が実現すれば、領土問題を含む平和条約交渉に前進がある、という希望的観測を首相官邸や杉山晋輔・外務審議官は行っているが、認識を改めたほうがよい。プーチン大統領は、メドベージェフ首相の反日的な動きを止めないだけでなく、大統領府高官の北方領土上陸を積極的に認めているのだ。

 (3)プーチン大統領とメドベージェフ首相は、立場を使い分けながら、北方領土問題について日本を揺さぶっているのだ。
 首相官邸も外務省も情報のアンテナが壊れているらしい。ロシアは「北方領土問題で譲歩しないが、安倍政権はプーチン大統領の年内公式訪日を実現したいのですね」という念押しを読めないのだ。

 【注】記事「露副首相が択捉入り 愛国イベント出席、実効支配を強調」(産経ニュース 2015年8月13日)

□佐藤優「「アンテナ」が壊れた官邸と外務省 ~佐藤優の人間観察 第125回~」(「週刊現代」2015年9月5日号)
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 【参考】
【佐藤優】基地への見解違いすぎる ~沖縄と政府の集中協議~
【佐藤優】慌てる政府の稚拙な手法には動じない ~翁長雄志~
【佐藤優】安倍外交に立ちはだかる壁 ~ロシア~
【佐藤優】正しいのはオバマか、ネタニヤフか ~イランの核問題~
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~
【佐藤優】ある外務官僚の「嘘」 ~藤崎一郎・元駐米大使~
【佐藤優】自民党の沖縄差別 ~安倍政権の言論弾圧~
【書評】佐藤優『超したたか勉強術』
【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~
【佐藤優】恐ろしい本 ~元少年Aの手記『絶歌』~
【佐藤優】集団的自衛権にオーストラリアが出てくる理由 ~日本経済の軍事化~
【佐藤優】ロシアが警戒する日本とウクライナの「接近」 ~あれかこれか~
【佐藤優】【沖縄】知事訪米を機に変わった米国の「安保マフィア」
【佐藤優】ハワイ州知事の「消極的対応」は本当か? ~沖縄~
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【佐藤優】エジプトで「死刑の嵐」が吹き荒れている
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【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
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【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
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【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
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【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
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【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
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【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 

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【保健】薬用せっけんの殺菌剤「トリクロサン」 ~欧州で使用禁止に~

2015年08月29日 | 医療・保健・福祉・介護

 (1)「ビオレU泡ハンドソープ」(花王)をはじめ、日本の薬用せっけんの多くに使用されている殺菌成分「トリクロサン」が、ヨーロッパで使用禁止となることが決まった。
 2015年6月25日にEUの専門機関、欧州化学機関(ECHA)が、人の肌や頭皮の殺菌効果を目的とする衛生用品(せっけんやシャンプーなど)へのトリクロサンの使用を禁止する決定を下したのだ。

 (2)薬用石けんの殺菌効果については、疑問が出ていた。「薬用:殺菌・消毒」と表示され、あたかも殺菌成分がないと効果がないように思わせている。
 しかし、海外で行われた数百人規模での薬用石けんと普通の石けんを使い続けたグループを比べた4件の調査で、風邪や下痢などの感染症の発症具合を調べた結果、いずれも普通の石けんと差は見られなかった。
 普通の石けんでも、流水でよく洗うことで、細菌やウイルスは洗い流されるので、十分効果があるのだ。
 効果に差がないだけならまだマシだが、これらの調査では、殺菌成分による細菌の抗生物質耐性を増やす可能性も示されている。

 (3)こうした研究を受けて、米国では食品医薬品局(FDA)が石けんに使用されるトリクロサンの見直しに乗り出した。
 2013年12月16日には、殺菌作用をうたったハンドソープやボディウォッシュを販売し続ける意向がある企業に対して、普通の石けんよりも感染予防などの効果がある、という証拠の提出を求めた(現在評価継続中)。

 (4)石けんに殺菌成分を入れる必要性が疑問視される一方、安全性にも問題が出てきた。
 EUの消費者商品に係る科学委員会のリスク評価では、トリクロサンを含む化粧品やパーソナルケア商品をすべて使用した場合の体内への吸収量は、安全摂取量を超える、という結果が出ている。
 そのため、EUでは、商品中のトリクロサン上限量を下げる対策がとられてきた。
 さらに、トリクロサンには甲状腺をはじめとする内分泌攪乱(環境ホルモン)作用が指摘されている。ちなみに、薬用固形石けん「ミューズ」に使われている「トリクロカルバン」もトリクロサンと構造が類似し、環境ホルモン作用が指摘されている。
 ヨーロッパでは、環境ホルモン作用には安全な摂取量は定められないと判断されているため、今回の禁止措置が決定されたものであろう。

 (5)海外では、消費者団体や環境団体が使用禁止を求めるキャンペーンも盛んだ。そのため、P&GやJ&Jなどの海外の大手トイレタリー企業や、AVONなど化粧品企業は、いち早くトリクロサンの使用中止を表明している。
 
 (6)日本では、一部の企業間で対応が進められている模様だが、成分変更を発表しないので、全体の把握は困難だ。
 脇の下に塗るデオドラントやボディローションなどの化粧品、ボディシャンプーなど、皮膚からの吸収量が高くなる商品におけるトリクロサンの使用はすでに変更されている様子だ。
 一部残っているのは、「薬用ビオレU」(花王)などのハンドソープや、「ルシード」(マンダム)など薬用シャンプーに限られるようだ。
 トリクロサンの使用の有無は、商品の「配合成分」の表示を見ればわかる。購入前にチェックするとよい。

□植田武智(科学ジャーナリスト)「薬用せっけんの殺菌剤「トリクロサン」 ヨーロッパでは使用禁止に」(「週刊金曜日」2015年8月21日号)
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【食】回転寿司の息の根を止める ~「魚」の買い負け・気候リスク~

2015年08月28日 | 社会
 (1)魚介類の自給率は、113%(1964年)をピークに減少し、いまや60%にすぎない。近年は買い負け、気候変動リスクが高まって、魚は大衆食ではなく「高級食材」と化しつつある。

 (2)回転寿司チェーンのくら寿司に、7月末に「シャリカレー」が登場した。酢飯にぴりっと辛いカレーソースがかかった新商品だ。1杯350円という手頃な価格設定のせいか、この奇抜なメニューを注文している客が意外と多い。
 くら寿司に限らず、最近の寿司チェーンの「サイドメニュー」は充実している。しょうゆラーメン、イベリコ豚丼、フライドポテト、チョコケーキ・・・・。サイドメニューだけ見ると、居酒屋やファミリーレストランのメニューと見まがう。
 寿司チェーンがこぞってサイドメニューに力を入れる最大の理由は、「原価率の低減」にほかならない。

 (3)ことほど左様に、寿司ネタに使用される魚の高騰が深刻になっているのだ。
 2000年代初頭に牛肉の牛海綿状脳症(BSE)問題が発生したことなどが契機になって、それまでタンパク源を肉で摂取していた欧米や中国の人びとが魚を食べるようになった。逆に、日本人は魚食から肉食へシフトしてきたため、欧米や中国に比べて小ロットの魚を高値でつかまされる「買い負け」が常態化した。
 2013年に円安に転じてからは、日本の買い負けの実態はよりシビアになった。日本の水産物輸入量は、過去最高の382万トン(2001年)以降、低下傾向にあり、2014年に258万トン(32%減)まで落ち込んだ。
 その一方、同時期に、価格は200円/kgもアップしている。サケマス、冷凍サバ、冷凍アジ、冷凍シシャモ、冷凍マグロ、冷凍タコ、エビ類、カニ類・・・・すべての主要魚種において輸入量が激減し、1kg当たり価格はつり上がっている。
 寿司チェーンの客単価は、せいぜい1,200円程度。うち原価率4割で利益が出ると仮定すると、食材に500円しか掛けられない。200円/kgもアップする魚主体のメニューでは経営危機に陥ることが明らかだ。

 (4)では、どんどん養殖魚を増やせばよいのか。
 この10年で世界の漁業生産量は増え続けている。その増加分は、養殖業によるものだ。ただし、養殖業生産量の伸び率が鈍化している上、その6割に相当する5,700万トンは中国で占められる。中国で養殖された淡水魚は内需に回され、国際マーケットには出てこないのだ。 
 植物性由来のタンパク源を養殖魚の餌に使うなど、養殖技術は日進月歩だが、基本的はマグロを1kg太らせるためにサバなど15kg分の魚が必要だ。そこまでして養殖マグロを育てるべきなのか、という議論があるのは確かだ。 

 (5)魚を取り巻くリスクは、買い負けにとどまらない。
 魚の生態は、気候変動の影響をまっこうから受ける。近年の地球温暖化による海水温の上昇は、魚の回遊する海域に変化をもたらしている。
 北欧サバ戦争・・・・海水温の上昇により、サバが北上、伝統的な漁場であるノルウェーのみならず、アイスランドやフェロー諸島でもサバが獲れるようになった。厳格な漁獲量管理をしてきたノルウェーを尻目に、アイスランドなどは乱獲しまくったことから国際問題に発展している。
 サバの調達先をノルウェーに依存してきた日本も、対岸の火事ではいられない。ただでさえ入手しがたくなっているサバをリーズナブルな価格で調達することは難しくなるだおる。
 もはや、魚は庶民的な食べ物ではなくなってしまった。

□記事「回転寿司の息の根を止める「魚」の買い負け・気候リスク」(「週刊ダイヤモンド」2015年8月29日号)
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【食】あなたの食卓から消える! 人気の定番メニュー

2015年08月27日 | 社会
 (1)10年後のレストランのメニューは、今と様変わりしている(はずだ)。
 輸入依存度の高い食品の価格は、9~10年前と比べて軒並みに単価が上がっている。
 消費者に、実感はないかもしれない。しかし、蒲焼き用のウナギや、イクラ(寿司ネタの定番)の価格は2倍近く上昇している。今後もこのベースで価格が上がれば、日本では食べられなくなってしまう。
 最大の価格上昇要因は、新興国での消費拡大だ。
 中国は、一見、農地面積が大きそうだが、実際は乾燥地帯が多く、農家の規模も日本より小さい。ために、国内での生産拡大では賄いきれない。輸入を急増させている。
 いまや、世界で貿易される大豆の6割は中国が輸入している。中国は、大豆を飼料にして、豚を育てている。育てられている豚は、世界の生産量の半分に達するのだが、それでも足りず、中国は豚肉を輸入している。
 人類は、肥料や農薬の革新によって穀物を増産し、人口の増加分をカバーしてきた。
 地球温暖化、水不足といった新たなリスクが出てくる中、2050年までの半世紀で食料需要は1.6倍に膨らむ。この需要を満たせるのか。穀物が足りなければ、畜産物も満足に生産できない。
 「食」がテーマのミラノ万博では、未来の食として「昆虫食」が提案されている。未来のメニューの主役は、蜂の子やイナゴになるか。

 (2)状況。
  (a)国内農業の弱体化リスク。カロリーベースで4割を切った。
  (b)気候変動リスク。頻発する寒波、干ばつ。
  (c)中国・新興国の爆食による買い負けリスク。2000年代初頭に、1人当たり年間肉類消費量が、日中逆転。
  (d)資源の枯渇・動物の病気リスク。米国産牛肉輸入量はBSEショックで激減。

 (3)人気の定番メニューの未来。
  (a)寿司盛り合わせ・・・・
    ①マグロ:輸入依存度45% キロ単価630円→889円
    ②サケ:輸入依存度63% キロ単価493円→746円
    ③アジ:輸入依存度23% キロ単価121円→213円
    ④カニ:輸入依存度73% キロ単価828円→1,474円
    ⑤イクラ:輸入依存度35% キロ単価1,674円→3,307円
  (b)高級ワイン・・・・2017年までの5年間での消費量5%増。中国の消費量が2.3倍になって高給ワインの買い負けが増加。
  (c)ラーメン(中華麺用小麦)・・・・世界の小麦輸出量に占める日本向け割合が5.1%→3.6%。輸入国としての地位低下。ラーメンやうどんに最適な品種を指名しても、断られる可能性あり。
  (d)チーズ(乳製品)・・・・国内生乳生産量828万トン→733万トン。
  (e)牛丼(脂身が多い牛バラ肉)・・・・牛丼並盛の価格280円→380円。中国の動向でバラ肉の価格が乱高下。中国が米国産を買っていた2014年には1,000円/kg超。2015年になって買わなくなると4割安に。
  (f)うな重(蒲焼き用のウナギ加工品)・・・・輸入ウナギ加工品キロ単価1,347円→2,587円。養殖するウナギの稚魚が減少し価格高騰。2014年、ニホンウナギが絶滅危惧種に指定され、輸出入が規制される可能性が高まる。
  (g)ジンギスカン(ラム肉)・・・・輸入ラム肉キロ単価1,191円→2,504円。中国が大量に消費。羊は草原の根っこまで食べるため砂漠化の原因に。環境保護のため生産に制約がある。
  (h)まつたけ炭火焼き・・・・国内まつたけ生産量71トン→38トン。輸入品に国産並みの香りは期待できない。
  (j)味噌汁(大豆)・・・・世界の大豆輸出量に占める日本向け割合6.8%→2.5%に。米国産の大豆の9割は遺伝子組み換え(GM)。非GMの調達が難しくなる。

□記事「あなたの食卓から消える! 人気の定番メニュー」(「週刊ダイヤモンド」2015年8月29日号)
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【中国】【食】リスクは爆食にとどまらず ~農産物版「AIIB」構想~

2015年08月26日 | 社会
 (1)大豆、トウモロコシ、小麦・・・・中国の穀物輸入量が激増している。
 食生活レベルが向上し、1人当たりの消費量は増える一方だ。
 むろん、中国国内での穀物生産も増やしてるのだが、消費の伸びに追いつかない。
 大豆油など、直接人が消費する分のほか、食肉や卵の生産に当たり「エサ」としての穀物も不可欠だ。

 (2)中国が食糧獲得に奔走する「爆買い」が、世界の食料市場を揺さぶる。こうした中、新たな攪乱要因が浮上してきた。
 食農の分野でも、穀物メジャーが加工・物流工程を中国へシフトさせる、など、中国が「世界の食品工場」の集積地帯となりつつある。
 すると、中国は世界の食の「輸出基地」の役割を果たすことになる。世界中の食料が中国を経由して消費地に届くわけだ。この結果、これまで以上に、中国が世界の食料覇権を握ることになる。
 
 (3)中長期的な中国リスク。
 「購買力のさらなる拡大で、中国の判断で食料相場を動かせるようになる」【柴田明夫・「資源・食料問題研究所」代表】
 <例>中国の内需が急拡大すれば輸出向けは絞られ、価格は高騰する。逆に、需給がだぶつけば、安価な食料が近隣のアジアに流入し、食料市場が混乱する。いま、鉄鋼業界で中国製品がアジアに大量流入し、相場が暴落しているように。

 (4)食の輸出拠点化は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の農産物版のようなもの。アジアで食の主導権を握ろうとしている。【柴田代表】
 <前例>中国は、2000年ごろ、国内の養豚業を育て、アジアの豚肉の輸出拠点になることを目指した。しかし、想定以上に内需が伸びたため、頓挫した。

 (5)中国リスクをすでに痛感している日系メーカーもある。大豆から植物油を作る製油業界だ。
 かつて日本は世界一の大豆輸入国だった。しかし、その座は中国に譲った。いまや、中国の輸入量は日本の25倍、7,200トンに上る。
 1990年代半ば以降、米カーギルなどの穀物メジャーや地場メーカーが中国に競って搾油工場を建設。いまや搾油能力は大豆換算で1億トン以上だ(供給過剰)。
 困ったのは日系製油会社だ。搾油工程の利益率は、大豆の搾りかす(「大豆ミール」)で決まる。ところが、「中国が大豆ミールのダンピング輸出を仕掛けてきた。われわれは食い扶持を失った」【日系製油会社】。
 中国産大豆ミールの流入で、日系メーカーがジリ貧となっただけはでない。日本の畜産業で使われる家畜のタンパク源も、中国に依存することになった。大豆ミールは代替品がなく、畜産業の持続性も脅かされている。

 (6)膨張する中国勢。日本はベトナムとの連携で中国リスクの回避に動く。
 アジア全域で繰り広げられる「食農」争奪戦は、今後ますます、確実に激化していく。 

□記事「爆食にとどまらぬ中国リスク 農産物版「AIIB」構想」(「週刊ダイヤモンド」2015年8月29日号)
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【佐藤優】基地への見解違いすぎる ~沖縄と政府の集中協議~

2015年08月25日 | ●佐藤優
 (1)8月7日、菅義偉・官房長官は、1ヶ月間(8月10日から9月9日まで)米海兵隊辺野古新基地建設に関わる工事をすべて中断し、沖縄と集中的に協議を行う、と記者会見で述べた。
 同日、翁長雄志・沖縄県知事も、工事中断中は、県として新たな法的・行政的手続きを行わない、と記者会見で述べた。

 (2)今回の中央政府側のシナリオについて、重要なヒントを田原総一朗・ジャーナリストが述べている。
 <沖縄の問題で今、安倍内閣がやるべきことは、やっぱり安倍さんが沖縄に行って土下座することだよ。そして工事をいったん中断して「沖縄振興のためにできることは何でもする」と約束するのがスタートだ。>【注1】
 本書は7月上旬に上梓された。出版スケジュールから逆算すると、この本の原稿は5月末には完成していなければならない。田原ジャーナリストは「権力党員」なので、菅官房長官とも昵懇の関係だ。5月末の時点で、首相官邸は、辺野古新基地建設の一時中止と沖縄との再協議というシナリオを固めていたのだろう。
 もっとも、沖縄が求めているのは、安倍晋三・首相の土下座ではない。辺野古新基地建設の白紙撤回だ。田原ジャーナリストの認識(沖縄振興予算と米軍基地受け入れのバーターが成立する)は根本的に誤っている。

 (3)8月12日、沖縄県庁で、翁長知事と菅官房長官の集中協議が行われた。
 仲井間弘多・前知事の会談は、常に那覇市内のホテルで行われていた。このような密室会談に翁長知事が応じず、県庁という公の場で会談を行ったことも大きな変化だ。
 マスメディアの取材は、冒頭のみで、会談自体は閉ざされた扉の中で行われた。このような外交交渉と同じ方式で会談が行われる、という外形的な事実自体が、沖縄と中央政府の関係が準国家間交渉になっていることを示す。

 (4)<普天間問題の原点をめぐり、菅官房長官が「(19年前、県内移設による普天間飛行場閉鎖を決めた)橋本・モンデール会談が原点だ」と述べたのに対し、翁長知事は「沖縄戦で強制接収されたことが原点だ」と述べ、見解の違いがあらためて浮き彫りとなった。さらに集団的自衛権行使に向けた安保法制が国会で審議されていることを念頭に「私からすると、冷戦時代は今よりずっと厳しい時代だった。今の時代に基地を拡充していくということはおかしいのではないか。中東のホルムズ海峡まで視野に入れて沖縄の基地があるということになると、県民の思いとの乖離(かいり)が大きすぎてとても耐えられない」と述べた。
 協議後、記者から「協議の中で辺野古以外の県内移設へ歩み寄ることはあるか」と問われたのに対し、翁長知事は「(普天間飛行場の)県外移設という認識をしっかり持っている。(県内の)どこそこと言われてもこれは難しい、できないと伝えている」として、県内移設で決着する可能性を否定した。
 翁長知事は協議の中で、米軍の抑止力や在沖海兵隊の役割について「沖縄1県にこれだけ米軍基地を押し付けると、日本全体で安全保障を守るという気概が他国からは見えない」「防衛省は海兵隊が沖縄にいる理由として機動性・即応性・一体性を挙げているが、沖縄の海兵隊には揚陸艦がないのでそういう働きもできない」などの疑問点を具体的に列挙して、菅官房長官に伝えたという。>【注2】

 (5)今後、沖縄県と首相官邸の間に入って、ブローカーのような動きをする政治家が、緊急避難を口実に、普天間の海兵隊の嘉手納基地への統合、下地島への移設のような変化球を投げてくる可能性がある。
 このことを踏まえ、翁長知事が菅官房長官に、「県外移設という認識をしっかり持っている。(県内の)どこそこと言われてもこれは難しい、できない」と明確に伝え、その事実をマスメディアに明らかにした。この意味は大きい。
 既に朝日新聞主催のシンポジウム(7月29日、於東京)の席で、翁長知事は、嘉手納統合、下地島への移設というシナリオを明確に否定している。いかなる形態でも、米海兵隊普天間飛行場の
   県内移設というシナリオはない
ことを首相官邸、外務省、防衛省と東京のマスメディアに認識させることが、沖縄にとって今後の重要な課題になる。

 (6)仲井真前知事による埋め立て承認について検証した沖縄県の第三者委員会は、
   承認手続きに「瑕疵が認められる」
とする報告書を翁長知事に提出している。今回の集中協議が決裂したとしても、翁長知事は、次の段階(埋め立て承認取り消し)へ進めばよいだけのことだ。
 翁長知事による埋め立て承認の取り消しは、沖縄の自己決定権を反映したものだ。この自己決定権を、翁長知事は、沖縄にもっとも有利になるタイミングで発動することになろう。

 (7)翁長知事が埋め立て承認を取り消した場合、中央政府が行政代執行に踏み込む可能性がある。法律で定められた義務を沖縄県知事が執行しないので、国が代わって執行する、ということだ。
 国の行政代執行によって辺野古新基地建設が可能になる、というのは、沖縄の底力を軽視した非現実的な想定だ。沖縄人にとって辺野古新基地建設は、中央政府による沖縄差別の象徴的事案だ。
 日本の陸地面積の0.6%を占めるに過ぎない沖縄県に、在日米軍基地の73.8%が所在する。中央政府は、沖縄の負担軽減を口にするが、政府の計画が実現しても、沖縄の基地負担は73.1%になるに過ぎない。
 しかも、辺野古新基地は航空母艦が着岸可能で、オスプレイも100機常駐できる。普天間基地に比べ、基地機能が飛躍的に強化される。普天間飛行場の辺野古への「移設」という中央政府の説明は不正確で、実際は「新基地の建設」だ。
 新基地建設の阻止は、沖縄人の名誉と尊厳を保全するために不可欠だ。

 (8)ここで起きているのはシンボルをめぐる闘争だ。
 政治、国防、経済に係る問題ならば、沖縄にとっても妥協の余地がある。しかし、沖縄に対する構造的差別のシンボルとなった辺野古新基地建設を沖縄人が認めることは絶対にない。
 仮に日本の中央政府が、力を行使して埋め立てを強行するような事態になっても、沖縄人は土砂を撤去し、辺野古の青い海を取り戻す。沖縄人の底力を中央政府は軽視している。行政代執行に対して、沖縄は自己決定権で対抗する。

 (9)戦後70周年談話(8月14日に閣議決定)で、安倍首相は「植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」と述べた。
 もともと独自国家(琉球王国)のあった沖縄県に73.8%の在日米軍基地があるという現実と、さらに沖縄県名護市の辺野古に新基地を建設しようとする安倍政権の姿勢に対して、沖縄人が、
   「安倍首相は植民地支配から永遠に訣別するとの約束を履行せよ」
と迫るのは必至だ。

 【注1】猪瀬直樹/田原総一朗『戦争・天皇・国家』(角川新書、2015)pp.215~216
 【注2】記事「知事「基地拡充おかしい」 辺野古初協議で菅氏に強調」(琉球新報電子版 2015年8月13日)

□佐藤優「基地への見解違いすぎる 沖縄と政府の集中協議 ~佐藤優の飛耳長目 第110回~」(「週刊金曜日」2015年8月21日号)
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 【参考】
【佐藤優】慌てる政府の稚拙な手法には動じない ~翁長雄志~
【佐藤優】安倍外交に立ちはだかる壁 ~ロシア~
【佐藤優】正しいのはオバマか、ネタニヤフか ~イランの核問題~
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~
【佐藤優】ある外務官僚の「嘘」 ~藤崎一郎・元駐米大使~
【佐藤優】自民党の沖縄差別 ~安倍政権の言論弾圧~
【書評】佐藤優『超したたか勉強術』
【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~
【佐藤優】恐ろしい本 ~元少年Aの手記『絶歌』~
【佐藤優】集団的自衛権にオーストラリアが出てくる理由 ~日本経済の軍事化~
【佐藤優】ロシアが警戒する日本とウクライナの「接近」 ~あれかこれか~
【佐藤優】【沖縄】知事訪米を機に変わった米国の「安保マフィア」
【佐藤優】ハワイ州知事の「消極的対応」は本当か? ~沖縄~
【佐藤優】米国をとるかロシアをとるか ~日本の「曖昧戦術」~
【佐藤優】エジプトで「死刑の嵐」が吹き荒れている
【佐藤優】エリートには貧困が見えない ~貧困対策は教育~
【佐藤優】バチカンの果たす「役割」 ~米国・キューバ関係~
【佐藤優】日米安保(2) ~改訂のない適用範囲拡大は無理筋~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】外相の認識を問う ~プーチンからの「シグナル」~
【佐藤優】ヒラリーとオバマの「大きな違い」
【佐藤優】「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~ドイツ機墜落~
【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
【佐藤優】戦勝70周年で甦ったソ連の「独裁者」 ~帝国主義の復活~
【佐藤優】明らかになったロシアの新たな「核戦略」 ~ミハイル・ワニン~
【佐藤優】北方領土返還の布石となるか ~鳩山元首相のクリミア訪問~
【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~
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【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 

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【メディア】官邸癒着メディアと「機敏な反撃」(2) ~新聞と原子力ムラ~

2015年08月24日 | 批評・思想
 (7)官邸ばかりではない。読売と「原子力ムラ」との癒着は、3・11が遠ざかるにつれ露骨になってきた。
 橋本五郎・特別編集委員が登場した原発広告(6月14日付け読売新聞)が分かりやすい。「なぜ原子力が必要なのか」を訴える電気事業連合会の全面広告だ。橋本編集委員が「国民を代表して質問」という設定もヘンだが、橋本編集委員は「過去の経験を活かし、正面から原子力に向かっていく時だ」と対談を締めくくった。
 過酷事故は「過去の経験」なのか。今も放射能が垂れ流されている現実に目を背けている。
 ペンで生きる編集委員が原発の広告塔になる。地域経済への支配力と潤沢な広告費を抱える電力会社にメディアはすり寄った。その反省を生んだのが、福島の惨事ではなかったか。

 (8)「川内再稼働 来月10日にも」・・・・他紙に先駆けて報じたのも読売だ。
 原発再稼働は、支持率低下に喘ぐ政権の難題だ。安保法制、70年談話、普天間基地の辺野古移転などと絡み、安倍政権への評価につながる。仕切り役は、今井秘書官。経産官僚として原子力政策を担当してきた。「読売の記事は今井の観測気球」と言われている。
 報道を先行させ、既定の事実として世間に印象づける。記事への反応次第では予定を変える。気脈の通じた記者に書かせる。それが俗にいう観測気球だ。周到な段取りを考える官僚と担当記者が以心伝心で記事を作る。
 官邸情報は読売が早い、と評判だが、外れる記事も少なくない。「官邸の筋書き」だけで物事は決まらないからだ。
 紙メディアの衰退が言われている。規模が大きいほど、業種転換も困難とされる。権力、情報、カネが集まる強者に寄り添って生き残る。それでジャーナリズムと相いれないものがあっても、企業として存続することを優先する。

 (9)読売の連載「時代の証言者」(日経の「私の履歴書」に相当)に、7月から森喜朗・元首相が登場した。「楕円のボールを追いかけるように走り続けた人生を語ってもらう」という。新国立競技場の建設で我がままぶりを見せつけた「影の五輪担当相」だの聞書だ。興味深い人だが、なぜ今森喜朗なのか。日本ラグビー協会会長から東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長になり、東京五輪の元締めという地位や権限と無関係ではあるまい。東京五輪はメディアにとっても様々な商機なのだ。

 (10)新聞社は、新聞事業だけでは成り立たない。テレビ局のネットワークを築き、文化事業や不動産事業にも手を広げた。ビジネスを広げるほど、提携先、銀行、お役所との関係が深まる。取材対象がいつの間にか事業パートナーだったり、監督官庁になる。経営者が気を遣う相手は増えるばかりだ。
 好業績の頃は気にならなかった「外への配慮」も、経営に陰りが出ると景色が変わる。
 読売ほど露骨にして率直でなくても、大手メディアに共通する弱点は「関係性」だ。「借り」が増えると、真綿で占めるように記者の自由を脅かす。ブランド・人材・発行部数を誇る大手新聞も、強者に切り込むのは容易ではない。

 (11)自民党が作ったアニメ「教えて! ヒゲの隊長」のパロディ版が話題になっている。
 本家のほうは、集団的自衛権の行使による米国との連携強化は、日本の抑止力を高め、中国・北朝鮮などの脅威から人びとの暮らしを護る。この趣旨に沿って、ヒゲの隊長が「あかりちゃん」に電車の中で安保法制を説明するというストーリーだ。
 パロディ版は音声を差し替えて、法案の曖昧さをあかりちゃんが隊長に詰め寄るものだ。自民党の宣伝を逆手にとったパロディの傑作。安保法制と聞いただけで難解に感じる世間の反応を、面白い表現で伝える手法はなかなかのものだ。
 パロディが指弾した「問題点」は、新聞に詳しく、あれこれ書き込まれているが、関心ある人しか読まない。記者がこれでもか、とゴシゴシ書いても、大多数に伝わらない。伝わらなくてはメディアの役割を果たせない。選挙で一票を入れる人は、新聞の解説記事を丹念に読む人ばかりではない。 

 (12)立憲主義の危機を心配する人より、中国や北朝鮮が心配と思う人が多いのも事実だろう。「安保環境の変化」を強調する政府は、中国・北朝鮮が怖い国だと煽る。
 そうした宣伝に対抗するには、脅威=国防強化という思考が近隣との関係をかえって悪くし、脅威を高めることになる悪循環を、
    面白く、
    分かりやすい表現で
伝えることではないか。 

 (13)米国の軍事介入は、地域の秩序を壊し、世界平和どころか混乱を助長している。
 日本が後方支援することは、自衛隊員の犠牲のみならず、日本がテロの標的になる恐れさえある。危うさをどのように表現したら人の心に届くだろうか。 
 安保法案は、聞けば聞くほど理解しがたい。だから支持されない。
 ただ、「中国・北朝鮮への不安」は人の心にしみ込んでいる。そのことをどんな表現で説明できるか。超えるべき課題はここにある。

 (14)「アベ政治を許さない」の評語は、運動の中心だった中高年から学生や女性に広がっている。女性誌にも「戦争の不安」が載る。
    女性自身「美智子さま『私は“戦争の芽”を摘み続ける』 
    女性セブン「今こそ耳を傾けたい天皇陛下『いのちのお言葉』」
 女性に広がる不安を感じ取った編集者が読者に届く表現で「アベ政治を許さない」を形にした。
 多様な人の参加が新鮮な表現を生む。
 記者(大手メディアの会社員)には思いもつかない表現が生まれることが運動の広がりを支えるだろう。SNSを手にした新たな表現者が増えている。
 敗戦の夏。日本が米国に付き従って戦地に赴く法案を多様なメディアはどう表現するか。

□神保太郎「メディア批評第93回」(「世界」2015年8月号)の「(2)官邸癒着メディアと「機敏な反撃」」
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 【参考】
【メディア】官邸癒着メディアと「機敏な反撃」 ~新聞と官邸~
【メディア】“愚者の砦”と化したNHK(2) ~かすかな希望~
【メディア】“愚者の砦”と化したNHK(1) ~強行採決を中継しない不作為~

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【詩歌】財部鳥子「月光」

2015年08月24日 | 詩歌
 月夜にはふしぎな季語を使う
 <亀鳴くと華人信じてうたがはず> 麦斗
 亀の声は異人にだけ聞こえると
 宗匠は信じて疑わず
 私は自分が華人だと信じて疑わず

 月光は草をかきわけて泥のように眠ったまま
 万象の影は静かに移ろいながら
 気を失っている
 小さな庭の隅では早くも
 線香花火の火玉が沸りながらジジーッと鳴り
 闇に落ちるたましいを真似ようと身悶えるが
 たましいは火でもなく声でもない

 今日の家計簿の電卓をたたいていると
 電卓の下でやはり--亀鳴く
 私は飛ぼうとするたましいを
 必死に手で囲んでいる

□財部鳥子「月光」(未刊行詩編)
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 【参考】
【詩歌】財部鳥子「溶けている南半球」
【詩歌】財部鳥子「修辞の犬」
【詩歌】財部鳥子「西湖風景 --白娘子に」
【詩歌】財部鳥子「龍 --杭州で」
【詩歌】財部鳥子「凍りついて」
【詩歌】財部鳥子「いつも見る死 --避難民として死んだ小さい妹に」



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【メディア】官邸癒着メディアと「機敏な反撃」(1) ~新聞と官邸~

2015年08月23日 | 批評・思想
 (1)7月15日の強行採決を新聞はどう伝えたか。翌日の社説は、「合意形成力の低下を示した採決」と国会審議の不毛を嗟嘆した日経新聞の論調を真ん中に、
    「批判」と「擁護」
が見事に分かれた。
 朝日新聞は「戦後の歩み覆す暴挙」、東京新聞は「違憲立法は許されない」と踏み込んだ。
   ・世論より米国への約束を優先する安倍首相の政治姿勢
   ・違憲とされる法律を数の力で押し通す立憲主義の否定
   ・質問に答えない国会軽視
   ・曖昧で分かりにくい法案そのもの
にも矛先を向けた。

 (2)擁護派は、読売新聞が「首相は丁寧な説明を継続せよ」と今後に注文をつけたが、産経新聞は「与党の単独可決は妥当だ」と言い切った。憲法違反や立憲主義の論点には触れず、「116時間、論点はほぼ出尽くし」(読売)、「審議はすでに尽くされた」(産経)。国会論議の中身は素通りし、審議時間で「採決」の正当性を論じたのだ。
 読売・産経とも、まだ国民の理解が進んでいる状況ではない、との首相の言葉を引きながら、読売は「法案の内容は専門的で複雑だが、日本と世界の平和と安全を守るうえで極めて重要な意義を持つ」とし、「丁寧な説明の継続」を求めた。これまでも丁寧な説明をしてきたと言わんばかりだ。
 産経は「中国が活動を活発化させるなど日本を取り巻く安保環境は悪化している。政府はそのことを国民に率直に説明すべきだ」と説く。
 説明すべきは、法案の中身より「日本を取り巻く安保環境の変化」というのが両紙の主張らしい。
 読売はこの日の二面で大きな記事「安保環境厳しさ増す、東・南シナ海中国進出」を載せている。強行採決にぶつけるように海岸での中国の動きを取り上げ、軍事情勢の変化を強調した。

 (3)メディアの使命は
   「何を世間に問いかけるか」=問題提起する力
こそ命だ。政権が憲法解釈を変え、安保法制を力ずくで再構築しようとする今、メディアは読者に何を問いかけるべきか。
   朝日、毎日、東京・・・・憲法がないがしろにされる「立憲主義の危機」を訴え、
   読売・産経・・・・「中国・北朝鮮による軍事的脅威」に警鐘を鳴らす。
 どこも似た記事ばかり、と言われてきた日本の新聞が、違った視点で記事を書くようになった。紙面に個性が出て、読み比べる興趣は増したが、気がかりはメディアの磁場に政府の威力が強まっていることだ。

 (4)真っ二つに割れた論調の片方は、政府の言い分そのものだ。
 安保法制を正当化する論拠とされる「中国の脅威」を改めて印象づけたのが、東シナ海での「ガス田開発」をめぐる報道だ。防衛白書(7月1日発表)で、中国が日中境界線近くの海域で掘削を行うプラットホームを増設していることが「軍事上の脅威」と指摘された。
 この情報は産経新聞が2週間前に先行していた。暴露したのは、櫻井よしこ・ジャーナリストだ。彼女は、「確かな情報が私の手元にある」と書きだしたコラムで、プラットホーム増設の情報と、中国側の軍事的利用の危険性に警鐘を鳴らす。
 東シナ海に飛んで調べたわけではあるまい。「手元にある情報」を誰が櫻井ジャーナリストに託したか。
 国会審議で沸騰している時だ。安倍首相は、「こうした大きな安全保障環境の変化に対応すべく、切れ目ない対応を」と訴えた。中谷元・防衛相は、国会で櫻井ジャーナリストの主張をなぞるように軍事的脅威を強調。自民党は国防部会は、中国の海洋進出の証拠として防衛白書で扱うことを求めた。ガス田情報は「機密扱い」になっていたが、菅官房長官は「差し支えない範囲で公表する」と述べ、外務省は海図とともに航空写真を公開した。

 (5)経済行為であるガス田開発さえ、中国脅威論を補強する事実として動き出す。櫻井ジャーナリストは、政府の情報戦略の拡声器なのか。
 産経新聞は、宣伝の場として機能する。産経は、以前から保守的な学者や評論家の論断紙としての役割を果たしてきた。立ち位置は保守内右派と見られてきたが、安倍政権の登場でど真ん中に躍り出た。だが、読者層に限りがあり、媒体としての力に欠ける。
 弱点を補ったのが読売だ。安倍官邸になってすり寄りが目立つ。読売の紙面にリーク情報が躍るようになった。

 (6)7月10日付け読売四面に載った「安倍政権考・外交4」は、首相側近の今井尚哉・首相秘書官(政務担当)とスピーチライター谷口智彦・内閣官房参与の手柄話を記事にしたものだ。「対外発信スピーチに力」という見出しで米国の議会演説など海外における首相スピーチの裏で側近たちがどんな工夫をしたかが内容だ。
 ブエノスアイレスで行った国際オリンピック委員会での「Under Control」演説などには触れず、取材相手の得意げな話を言われるままに書いたような記事。
 この二人こそ安倍官邸で情報戦略を担う要人だ。緊張感に乏しい「安倍政権考」に読売の官邸取材が滲み出ている。

□神保太郎「メディア批評第93回」(「世界」2015年8月号)の「(2)官邸癒着メディアと「機敏な反撃」」
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 【参考】
【メディア】“愚者の砦”と化したNHK(2) ~かすかな希望~
【メディア】“愚者の砦”と化したNHK(1) ~強行採決を中継しない不作為~


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【詩歌】財部鳥子「溶けている南半球」

2015年08月23日 | 詩歌
 赤土の曠野も
 ザンジバル島の波うちぎわに椅子のように並んでいた海亀も
 むかし奴隷を積み出した港の陰気な建物も
 もう どんな叫びもさけばず
 しかし幻でもなく
 わたしの網膜の白い光線のなかへ進入して
 いつのまにか溶けてしまった
 のこっているのは牛の腹のような熱さだ
 家にかえってから
 二匹の犬といっしょに夕方まで中庭に座っていた
 リタロンとサラムとわたし お互いに目も合わせずに
 ゆるやかな時間の檻に入って夕方まで座っていた
 きのうコップに差したハイビスカスが
 枯れていたように
 わたしも水をすこし濁して
 茶いろに萎れていくのだろう
 そのしずかな速度がかんじられる幸福--それ以外
 ここには今日 何もなかった

□財部鳥子「溶けている南半球」(『アーメッドの雨期』思潮社、1994)
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 【参考】
【詩歌】財部鳥子「修辞の犬」
【詩歌】財部鳥子「西湖風景 --白娘子に」
【詩歌】財部鳥子「龍 --杭州で」
【詩歌】財部鳥子「凍りついて」
【詩歌】財部鳥子「いつも見る死 --避難民として死んだ小さい妹に」


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【メディア】“愚者の砦”と化したNHK(2) ~かすかな希望~

2015年08月22日 | 批評・思想
 (7)7月16日、衆議院本会議の中継もテレビ欄になかった。
 抗議の声が多かったとみえて、NHKは急遽、国会に中継班を出した。
 その映像は、驚くべし、画面の右上に、はじめから「安全保障関連法案 衆院本会議で採決へ」という字幕がずっと出ていた。「中継などしなくても、結果はわかっている」と言わんばかりだ。そして、「60日ルール」をまた繰り返した。
 60年安保条約のときには、参議院が審議せず、6月19日に自然成立した【注1】。
 安倍首相は、理念においても手法においても祖父をしっかり踏襲している。
 自然成立の二日前、当時の新聞は7社共同宣言を出し、全学連の暴力を排し、議院内閣制擁護にまわり、日米安保への批判を緩めた。
 「マスコミは安保で死んだ」と言われた。今は、NHKがそれを絶望的に踏襲している。

 (8)逆説的な希望もある。
 こうした荒廃した時代に、<人の話はけっして間違っていない。間違っているのではなくて、愚劣であるか、何の重要性ももたないかだけなのだ>【注2】。ここから導き出されるのは、「孤独と沈黙」の重要性だ。あえて「沈思黙考」することで、初めて「言うに値する言葉」が生まれるというのだ。
 2015年の「声なき声」は、安倍政治の傲慢を見抜き、メディアの不作為を見極めている。

 (9)<年寄りは、静かに暮らし、あとはテロをやって歴史を変えればそれでいいんだ>【注3】
 本書の冒頭は、NHKの西口玄関ロビーで起こるテロ事件だ。事件を操っていたのは後期高齢者。実行者は、職もないおとなしい若者。この小説にリアルを感じるかどうかは別として、ドローンが登場したり、テロの最終目標が原発であったり、日本社会の深い「沈黙」と「闇」がテーマになっている。
 しかし、沈黙する者のみに届くかすかな声が二つある。
 一、7月16日の衆院採決の当日に放送されたクローズアップ現代「イラン核協議“歴史的合意”の舞台裏」・・・・核をめぐる協議で米国とイランが急接近し、ホルムズ海峡の機雷封鎖の現実味は遠のいた。今回の安保審議の過程で、安倍首相が何度も引き合いに出して有名になった海峡だ。
 国谷キャスターは、「こうした脅威が、今日、衆議院で可決された安全保障関連法案の根拠の一つとなっていましたが、その緊張の緩和につながる歴史的合意が、武力ではなく話し合いによって生まれました」と説明。要するに、「存立危機事態」について、首相が強調してきた例外的な海外派兵の想定が無効になったことを静かに指摘したのだ。
 二、18日放送のNHKスペシャル「戦後70年 ニッポンの肖像 保守・二大潮流の系譜」・・・・経済復興を重視する吉田茂と、自主憲法制定を掲げる岸信介を対照的に描いたものだが、今国会の磁場を通せば、安倍晋三という政治家がいかに祖父・岸信介の幻影に取り憑かれているかがわかる。
 岸は、満州国経営に深く関与し、戦後はA級戦犯容疑者として巣鴨に収監され、釈放後は自主憲法制定に執念を燃やした。
 <吉田さんをはじめとした戦後の日本というものを肯定して育ってきた政治家と、追放解除を受けた政治家との間にはやっぱりその考え方に差がある>【吉田の流れを汲む宮澤喜一・元首相の証言】
 戦後回帰に執念を燃やす政治家への最大級の侮蔑だ。
 その岸が「警察官職務執行法改正案」と「安保改定」で支持率を急落させたストーリーを、このタイミングで見せたNHK制作者の低い声が聞こえてくる。

 (10)60年の「日米安保改定」は、確実に変質しながら「安全保障関連法案」に流れ込んでいる。米軍への基地提供、費用の過剰な負担、米軍の行動の自由に対する無条件に近い保障などに加えて、今度は米軍などとの集団的自衛権を行使しようというのだ。今日のようなグローバルな戦略環境の下では、時空を超えて日本が危険に晒されるのは間違いない。

 (11)米国は、戦後どんな戦争を行ってきたか。
    トンキン湾事件でのでっち上げから始まったベトナム戦争
    国連決議なきコソボ空爆
    9・11同時テロへの報復としてのアフガン空爆
 いずれも国連の集団安全保障の理念に則った武力行使ではなかった。
 米国が次に相手にするのは、あの「イスラム国」だ。その米国と、日本はスクラムを組むというのだ。愚かな選択の次なる犠牲者は、この国の若者たちだ。つまるところ、安倍首相は、祖父が60年前に果たせなかった安保の軍事的双務化を完成させ、憲法9条から訣別しようと企てているにすぎない。

 (12)丸山真男は、この日を予測するかのように語っていた。
 <国際連盟も国際連合も安全保障というのは一般的安全保障なんです。地域的安全保障というのは軍事同盟の別名なんです。(中略)自衛とは国家を単位とした言葉である。国家が大勢集まって自衛ということはあり得ない。「集団的自衛権」という言葉を使って、あたかも国連の是認を経たかの如く言うのは言葉の欺瞞>【注4】
 首相の言葉がますます軽くなる。
 地方議会の安保法案反対決議が、じわじわと国会を取り巻きつつある。自民党議員たちは、地元に帰れば、年寄りや若者たちから「丁寧な」説明を迫られる。
 国会デモに、公明党の支持母体・創価学会員がついに姿を現した。英字紙 The Japan Times も、“Wrong Choice”と書いている。
 
 (13)「60日ルール」のあとの衆議院での議決は、3分の2以上の賛成が必要になる。今回の衆議院の採決は、かろうじて3分の2を超えたにすぎない。十数人の脱落者が出れば、流れは変わる。
 次は、メディアが安倍政権の欺瞞と矛盾を内外に徹底して暴露する番だ。

 【注1】条約承認の場合は30日ルール。
 【注2】ジル・ドゥルーズ(宮林寛・訳)『記号と事件--1972~1990年の対話』(河出文庫、2007)
 【注3】村上龍『オールド・テロリスト』(文藝春秋社、2015)の帯のコピー。
 【注4】『丸山真男話文集 続3』、みすず書房、2015

□神保太郎「メディア批評第93回」(「世界」2015年8月号)の「(1)“愚者の砦”と化したNHK」
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【詩歌】財部鳥子「修辞の犬」

2015年08月22日 | 詩歌
 曠野の果てから野犬のように風が走ってくる
 と書いて その言葉に好ましくないものを感じた
 それがむだな修飾だったからだろう
 暁暗の曠野を風ともつかぬ野犬ともつかぬものが走ってくる
 これが最初の目撃を言葉にしたものだ
 事実は曠野の果てから風のように野犬が走ってきた
 数頭の餓えた野犬がかたまりになって走ってきたのだ

  風は毛ものの匂いがする
 
  風は得体の知れない毛をなびかせている

  風は獰猛にぶつかりあう

  風は赤児のまわりに渦巻いて低くうなっている

  風はその甘く柔らかいものを浚って走る

 まだ夜は明けないから
 犬はつむじ風のようにも見えたのだ
 片付け切れない難民の死骸がそこに転がっているとしよう
 犬より風のほうがいくらか「詩的」だろうか
 いくらか自己救済になるのだろうか
 結局 赤児は野犬に食われてしまうのである
 そういう現実があるとしても
 私は風と野犬を区別したくない
 どちらも毛をなびかせて走るではないか  

□財部鳥子「修辞の犬」(『中庭幻灯片』、思潮社、1992)
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【詩歌】財部鳥子「西湖風景 --白娘子に」
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