(1)2年前(2013年4月)、日本銀行が導入した異次元緩和措置は、
「人々の期待を変化させることによって実体経済を好転させる」
という狙いがあった。その目的は達成されたか?
(a)為替レートと株価に係る期待を変化させて、円安と株高を実現した。
(b)消費者物価に係る期待を変化させることはできなかった。
(c)実体経済においては、原油価格の値下がりが生じるまでの期間では、消費者物価の上昇によって、
①実質所得が減少し、
②実質消費が減少した。
(2)「期待」の問題を考えるに当たり、(a)ストック(資産)価格と(b)フロー価格を区別することが重要だ。
為替レートや株価は(a)だ。
変化したのは、(a)に対する期待であり、(a)の価格だ。
なお、金利(国債利回り)も、国債という(a)だ。これも異次元緩和によって低下(国債価格上昇)した。消費者物価は(a)と違って、消費という(b)(フロー量の価格)だ。
よって、(1)を言い換えれば、
「(a)についての期待は変化したが、(b)についての期待は変化しなかった」
(3)(2)の(a)と(b)の区別が重要である理由は、次のとおり。
(2)-(a)は、将来の収益の割引現在値として与えられる。
<例>株価・・・・将来時点で得られる①配当と②株式売却益を現在の価格に「割引」という操作を経て直したもの。
この<例>において、将来の①と将来の株価がどうなるかについての「期待」(予測)が極めて重要な役割を果たしている。将来の②は将来の株価で決まるから、「将来の株価が現在の株価を決める」という自己増殖的なメカニズムも働くことになるのだ。
国債についても、同様のことが言える。現在の国債の金利(国債利回り)は非常に低い水準になっているが、これは国債の価格が異常に高くなっていることを意味する。なぜ金融機関が高値で購入するか、と言えば、日銀がもっと高い価格で買ってくれる、という期待があるからだ。
以上のように、(2)-(a)については、「期待」が本質的に重要な役割を果たす。何らかの要因で「期待」が変化すれば、実体面での変化がなくとも、価格は変動する。
(4)異次元緩和は、(3)のような(2)-(a)の特殊性に鑑み、(2)-(a)に係る期待を変化させようとした。そのための手段として、マネタリーベースの大幅な増加を行った。
その具体策・・・・国債を市場から高値で購入 → 利回り低下 → 内外金利差拡大 → 円安進行
円安はしかし、日銀の金融緩和だけで生じたわけではない。
①2013年にはすでにユーロとの関係で円安が生じていた。それを日銀の金融緩和が助長したのだ。
②2014年には米国の緩和によって円安が生じていた。それを日銀の金融緩和が助長したのだ。
(5)(3)の注意点・・・・異次元緩和は、マネーストック(=預金+日銀券=市中に流通するカネの残高)に関する数字を目標として掲げていない。
これは、正統的な金融政策の観点からすると奇妙なことだ。マネーストックが増加しないと、実体経済に影響を与えることができないはずだからだ。
マネーストックが目標値に入ってないのは、異次元緩和がそれを増加する意図を持っていなかったからだ(推定)。つまり、実体経済を動かすことは最初なら念頭になく、
「期待」だけを動かそうとした。
(6)事実、マネーストックはほとんど増えなかった。
「カネがじゃぶじゃぶに供給されている」は大きな誤解で、実体経済に波及するルートは働いていなかった。
マネーストックが増えていないのは、異次元緩和が実体経済と無関係であることを示す。「期待」だけが実態と乖離して変化したのだ。
□野口悠紀雄「期待で資産価格のみ変化させた異次元緩和 ~「超」整理日記No.754~」(「週刊ダイヤモンド」2015年4月18日号)
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「人々の期待を変化させることによって実体経済を好転させる」
という狙いがあった。その目的は達成されたか?
(a)為替レートと株価に係る期待を変化させて、円安と株高を実現した。
(b)消費者物価に係る期待を変化させることはできなかった。
(c)実体経済においては、原油価格の値下がりが生じるまでの期間では、消費者物価の上昇によって、
①実質所得が減少し、
②実質消費が減少した。
(2)「期待」の問題を考えるに当たり、(a)ストック(資産)価格と(b)フロー価格を区別することが重要だ。
為替レートや株価は(a)だ。
変化したのは、(a)に対する期待であり、(a)の価格だ。
なお、金利(国債利回り)も、国債という(a)だ。これも異次元緩和によって低下(国債価格上昇)した。消費者物価は(a)と違って、消費という(b)(フロー量の価格)だ。
よって、(1)を言い換えれば、
「(a)についての期待は変化したが、(b)についての期待は変化しなかった」
(3)(2)の(a)と(b)の区別が重要である理由は、次のとおり。
(2)-(a)は、将来の収益の割引現在値として与えられる。
<例>株価・・・・将来時点で得られる①配当と②株式売却益を現在の価格に「割引」という操作を経て直したもの。
この<例>において、将来の①と将来の株価がどうなるかについての「期待」(予測)が極めて重要な役割を果たしている。将来の②は将来の株価で決まるから、「将来の株価が現在の株価を決める」という自己増殖的なメカニズムも働くことになるのだ。
国債についても、同様のことが言える。現在の国債の金利(国債利回り)は非常に低い水準になっているが、これは国債の価格が異常に高くなっていることを意味する。なぜ金融機関が高値で購入するか、と言えば、日銀がもっと高い価格で買ってくれる、という期待があるからだ。
以上のように、(2)-(a)については、「期待」が本質的に重要な役割を果たす。何らかの要因で「期待」が変化すれば、実体面での変化がなくとも、価格は変動する。
(4)異次元緩和は、(3)のような(2)-(a)の特殊性に鑑み、(2)-(a)に係る期待を変化させようとした。そのための手段として、マネタリーベースの大幅な増加を行った。
その具体策・・・・国債を市場から高値で購入 → 利回り低下 → 内外金利差拡大 → 円安進行
円安はしかし、日銀の金融緩和だけで生じたわけではない。
①2013年にはすでにユーロとの関係で円安が生じていた。それを日銀の金融緩和が助長したのだ。
②2014年には米国の緩和によって円安が生じていた。それを日銀の金融緩和が助長したのだ。
(5)(3)の注意点・・・・異次元緩和は、マネーストック(=預金+日銀券=市中に流通するカネの残高)に関する数字を目標として掲げていない。
これは、正統的な金融政策の観点からすると奇妙なことだ。マネーストックが増加しないと、実体経済に影響を与えることができないはずだからだ。
マネーストックが目標値に入ってないのは、異次元緩和がそれを増加する意図を持っていなかったからだ(推定)。つまり、実体経済を動かすことは最初なら念頭になく、
「期待」だけを動かそうとした。
(6)事実、マネーストックはほとんど増えなかった。
「カネがじゃぶじゃぶに供給されている」は大きな誤解で、実体経済に波及するルートは働いていなかった。
マネーストックが増えていないのは、異次元緩和が実体経済と無関係であることを示す。「期待」だけが実態と乖離して変化したのだ。
□野口悠紀雄「期待で資産価格のみ変化させた異次元緩和 ~「超」整理日記No.754~」(「週刊ダイヤモンド」2015年4月18日号)
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