語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【産学】連携という名の「産学癒着」、底なしの腐敗 ~ノバルティス事件~

2014年04月30日 | 社会
 (1)「産学連携」とは、企業と大学などの研究機関がタッグを組むことだ。
 安倍政権は、成長戦略における重要分野として医療を掲げている。「医薬研究における産学連携」が称揚されている。
 この状況下で起きたのが、製薬会社ノバルティスファーマの臨床試験問題だ。

 (2)ノバルティスが販売する降圧剤バルサルタン(商品名「ディオバン」)の効果について、京都府立医科大学や東京慈恵会医科大学など5大学が臨床試験を行った。その結果、血圧を下げる効果だけでなく、他の降圧剤と比べて脳卒中などの予防効果もある、とされた。
 「研究成果」をノバルティスは販売促進の宣伝として利用し、降圧剤バルサルタンは年間売上げが1,000億円を超えるヒットとなった。

 (3)ところが、後になって、
  (a)5大学の臨床試験にノバルティスの社員たちが身分を隠したまま参加していたことが発覚した。
  (b)さらに、研究チームに巨額の資金支援がなされていたことも判明した。ノバルティスは、「奨学寄附金」として5大学に総額11億3,290万円を提供していた。
  (c)臨床試験のデータが操作されていたことも明らかになった。
 (c)に及んで、2月下旬、東京地検特捜部が、薬事法違反(誇大広告)の容疑でノバルティスおよび5大学を家宅捜索した。刑事事件に発展したのだ。

 (4)臨床試験の規模が大きかった京都府立医大、慈恵医大は、いずれも「バルサルタンにはほかの降圧剤よりも脳卒中などの発症を抑える効果がある」との結論を導いていた。両大学で、データが不正に操作されていたことが確認された。
 ノバルティスは、京都府立医大に3億8,170万円、慈恵医大には1億8,770万円の「奨学寄附金」を提供していた。

 (5)疑惑が持ち上がってから、ノバルティスは、「社員を臨床試験に関与させない」などの再発防止策を公表していた。しかし、舌の根も乾かぬうちに、別の不祥事を起こした。
 白血病治療薬の臨床試験にも社員が参加。論文を宣伝に利用していた。
 同じ不正を繰り返したばかりか、副作用の情報を収集するために患者個人の情報を東京大学医学部付属病院から得ていた。景品を用意し、営業社員たちが患者データの収集を競い合っていた。

 (6)ノバルティスが背一致した「社外調査委員会」医院長の原田國男・弁護士は、臨床試験の実態は「製薬会社丸抱え」だった、と批判した。「問題行為の範囲や規模が拡大し、たじろぐほどだった」(原田弁護士)から、“底なしの腐敗”の様相を呈していたらしい。

 (7)不正な論文を掲載した一流医師にも問題があった。慈恵医大が論文を発表した「ランセット」は、世界的権威のある医学誌だが、その日本支社であるエルゼビア・ジャパンがノバルティスの降圧剤の宣伝に広告代理店として関与していた。それにとどまらず、ノバルティスは、「ランセット」掲載の慈恵医大論文の別刷りをエルゼビア・ジャパンに大量発注し、購入した別刷りを宣伝に使っていた。

 (8)伝染病のように、関係するものがすべて腐敗している。
 産学の垣根を取り払った結果、ビジネスの論理が深く浸透し、科学者の倫理や企業の節度をなぎ倒してしまった。
 「産学連携」は、「産学癒着」そのものだった。

□「ノバルティス事件が示した“底なしの腐敗” 「産学連携」とは「産学癒着」そのもの ~佐々木実の経済私考~」(「週刊金曜日」2014年4月18日号)
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【米国】いまも続く「進化論対創造説」論争

2014年04月29日 | 社会
 (1)米国では、長らく、人類の起源をめぐって進化論対創造説の論争が繰り広げられてきた。
 現在、進化論は公立学校で教えられている。憲法修正第1条の観点から、創造説を教えるのは違憲だ。

 (2)だが、進化論が浸透してきたとはいえ、保守州では反進化論を学校教育に持ち込もうとする動きがまだ見られる。
  (a)ミズーリ州・・・・1月、リック・ブラティン・州下院議員は、「進化論の授業は生徒の宗教的信念を侵害する」という理由で新法案を提出した。下院での審議予定は立っていないが、3月中旬、小中学校教育下院委員会を通過した。同法案は、「学校は進化論授業の予定を保護者に通知する義務があり、保護者は子どもに授業を欠席させてもよい」というものだ。
  (b)ルイジアナ州・・・・3月初め、ダン・クレイトー上院議員は、同州の「進化論・創造説」法破棄を提唱した。上院で審議されたが、24日、反対多数で否決された。問題の州法は、「公立校の科学の授業で、進化論同様創造説も教えるべき」というもので、1981年に可決された。しかし、1987年に創造説教育に連邦最高裁判所が違憲判断を下し、同法は施行されなかった。

 (3)(2)-(b)について、施行されない違憲州法を残すことには何の意味もないように見えるが、その背後に州民の進化論拒否の姿勢が浮かんでくる。
 米調査機関ビュー研究所が昨年12月に発表した世論調査によれば、米市民で進化論を信じているのは3割にすぎない。

 (4)旧約聖書の記述を歴史的事実と捉え、地球の歳は6,000年であり、人類と恐竜とは共存すると信じる人々も多い。
 ローレネ・ヨーダ(中学1年生、オハイオ州)もその一人で、2月中旬、ホワイトハウスの嘆願サイトに「創造説も公立学校で教えられることを望む」嘆願を立てた。嘆願書でローレネいわく、「創造説が宗教と考えられるならば、無神論者の信念である進化論も宗教だ」。

□Sueko Mclane(在米ジャーナリスト)「いまも続く「進化論対創造説」論争 公教育で創造説教えろとの動きも」(「週刊金曜日」2014年4月11日号)
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【セブン-イレブン】詐欺まがい契約の実態の実例

2014年04月28日 | 社会
 (1)問題の手口1:マイナス情報非公表の欺瞞的募集。
  (a)セブン-イレブンの説明会では、オーナーの月間所得を質問すると、「日販50、60万円なら、それが“最終利益”になります」と回答がある。それが月の所得か、という確認的問いに対しては、「いや、まぁ、利益です」と誤魔化す。利益と所得は違う、と追求すると、「うーん」と返事しない。質問にまともに答えず、「売上総利益分配方式」の説明に移る。そこに出てくるのは、あくまで店の利益額だ。いくら訊いても所得額は出てこない。だから、大半のオーナー希望者は、提示された「日販50、60万円」という数字が月収(夫妻の収入)かと勘違いしてしまう。第一のワナだ。「不明朗な利益分配」と「脱サラ初体験の甘さ」だ。
  (b)「ほっともっと」(プレナス=本社福岡市、持ち帰り弁当の大手FC本部)のフランチャイズ募集のポスターには、月20万円とか30万円とか、所得を保証すると、「所得」とちゃんと書いてある。しかし、セブン-イレブンは、巧みに所得を言わない。脱サラの人は目安でいいから所得を知りたいのだが、絶対に言わない。(a)の募集説明には犯罪性がある。そこにみなが引っかかるのだから。
  (c)現実には、賞味期限直前のおにぎり・弁当・サンドイッチ類を値引きして売る「見切り販売」をしてやっと生活できる状態だ。見切りに踏み切らなければ、退職金をつぎ込み、保険を解約し、借金をしなければやっていけない。

 (2)問題の手口2:“にわか脱サラ”の弱みを狙う。
  (a)セブン-イレブンは、1998年ごろから脱サラをターゲットにした大キャンペーンを展開してきた。当時、鈴木敏文・会長が「1年で新店を1,000店出せ!」と大号令をかけていた。バブル崩壊後、会社からリストラされた大量の「にわか脱サラ」をターゲットにしたのだ。「総額約400万円の開業資金で、セブン-イレブンが始められます」などと。
  (b)2005年いっぱいで、「アントレ」誌上での大キャンペーンはピタッと終わった。この年の2月、ロスチャージ裁判で東京高裁が、「原告オーナーはセブン-イレブン会計を理解しておらず、契約は無効」と断じた(オーナー側の逆転勝訴)ことが影響している(推定)。
  (c)東京タワーの隣の説明会場では、大音量の音楽をガンガン流し、「全世界で何万店の」などとPRビデオを流す。集団心理でモノを買わせる催眠商法に似ている。オーナー希望夫妻は、これから人生を賭けた大決断をする。冷静で慎重な判断力を求められるのだが、ディスコ会場のようなPRの世界に呑まれ、足が地につかなくなる。
  (d)上場企業だから、まさか、と騙されてしまう。セブン-イレブンも持ち株会社セブン&アイ・ホールディングスも、東京証券取引所に上場した超優良企業だ。国内で15,000店も「成功店」があり、毎日テレビで見慣れている。そんな天下の大企業が、まさか違法、悪質なことなどしないだろう。
  (e)鈴木会長が「セブンの顔」として新聞・雑誌・テレビに出まくり、「小売業は変化対応業だ」「セブン店は小売業の成功パッケージだ」「コンビニは永久に進化する」などと自画自賛を繰り返す。オーナー希望者たちは、この“カリスマ”の言葉を信じてしまうのだ。第二のワナである。「ブランドの魔力」に魅入らされ、「大企業だから安心」と疑問を持たなくなる。

 (3)問題の手口3:経営委託期間の“アリバイづくり”。
  (a)セブン商法の最大の問題は、どういう手口で契約書にハンコを押させているかだ。
  (b)本当は契約書ですべてが確認できなければならない。利益分配もわからなければならない。ところが、セブン-イレブンは違う。セブン-イレブンの契約で問題なのは、利益分配が契約書に書かれていないことだ。その定義(売上総利益をもとにした利益分配)を解読するには、「付属説明書」の中の文脈から読み取らなくてはいけない。しかも、これだけでは不十分で、契約が済んだ後で渡される「システムマニュアル」に書いてある売上総利益の定義と付き合わせて初めて解読できる。それがセブン-イレブンのやり方だ。
  (c)「付属説明書」も「システムマニュアル」も店舗経営の手引書にすぎない。しかも中身が膨大で、かつ、法的に効力のある契約書ではない。会社員を辞めたばかりの素人に、こんな手の込んだやり方で、契約文の裏まで理解しろ、と要求するのは、一種の騙しの手口だ。
  (d)店舗オープン後3か月は、「経営委託」という試行期間だ。むろん、この時点では店舗オーナーたちは会社を辞め、加盟金や研修費も払っている。後戻りはできない。この期間中、セブン-イレブン側から契約書の説明や利益分配の解説はない。そこがミソだ。この期間中、契約書はないし、利益分配もない(固定給が支払われる)。店の経営に慣れたころに、本契約の運びとなり、そこで初めて契約書、付属明細書、システムマニュアルが揃う。利益分配にこのついては、契約書の第40条(「セブン-イレブン・チャージ」)に書いてある。付属明細書を引っ張り出さないと解読できない。この点をロスチャージ裁判で、最高裁が厳しく叩いていた。
  (e)利益分配のマジックは、契約の後に起こる。委託経営が終わって、契約書にハンコを押す前、セブン-イレブンは普通の「原価方式」(一般の企業が採用する会計方式)の説明を行う。契約が済んだら、今度は「販売方式」(セブン-イレブンの取り分が高い「セブン-イレブン会計」)になる。すると、いきなり本部のチャージ(指導料)が高くなって、本部に有利になる。・・・・契約前には一切契約書の開示がない。企業秘密だと言う。
  (f)この交渉は、店舗オーナー夫妻とセブン-イレブン社員との、密室でのやり取りになって、裁判になっても「言った、言わない」の水掛け論になる。
  (g)現在、セブン-イレブン商法を規制するのは独占禁止法(不公正取引の防止)と中小小売商業振興法(重要情報の開示・説明の義務)しかない。だが、セブン-イレブン本部と店舗オーナーでは、カネと情報量において比較すべくもない。裁判の証拠集めでも、セブン-イレブン本部が圧倒的に有利で、オーナー側は手も足もでない。ここに最大のワナがある。
  (h)複雑でわかりにくい「裏契約書」をセブン-イレブンが作る理由は何か。
   ①契約書だと簡単に変更できないが、システムマニュアルなら本部側の意向で随時変更でき、オーナー支配と利益搾取の道具に利用できるからだ。
   ②最大の機密であり、後ろめたい高額チャージ搾取の仕組みを隠蔽したいからだ。創業期のオーナーたちに契約書を手渡ししなかったのは、これがバレてしまうとオーナーになる人間がいなくなるからだ。いったんハンコを押せば、5年、10年と、24時間営業に追いまくられる。

□渡部仁「セブン-イレブン“鈴木帝国の落日” 詐欺まがい契約の実態を暴く」(「週刊金曜日」2014年4月11日号)
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 【参考】
【セブン-イレブン】詐欺まがい契約の実態 ~鈴木帝国の落日~
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【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~

2014年04月27日 | ●佐藤優
 (1)4月15日、ウクライナ政府は、クラマトルスク(ドネツク州)で行政府を占拠していた反政府系住民を軍によって強制排除した。
 <トゥルチノフ大統領代行は15日夕、議会で「特殊部隊がテロリストからクラマトルスクの空港を奪還したとの知らせが入った」と述べた。>【注1】
 <複数の地元メディアの報道によると、クラマトルスクの空港周辺で、親ロシア派とウクライナ軍が銃撃戦になった。ロシア国営ノーボスチ通信は、ウクライナ軍がクラマトルスク空港を制圧し、親ロシア派の4人が死亡、2人が負傷したと伝えた。>【注2】

 (2)4月6日、ドネツク州(ウクライナ東部)の州都ドネツクなど3都市で行政府が、反政府系住民によって占拠された。
 12日以降、占拠はクラマトルスク、スラビャンスクなどにも拡大した。
 かかる占拠が起きた原因は、ウクライナ新政権の政策に強い危機感を抱いたからだ。
 東部では、ロシア語常用するウクライナ国民が、圧倒的多数を占める。しかるに、ウクライナ新政権はロシア語を公用語から除外する、と決定した。ウクライナ語のみが公用語になれば、ロシア語しかできない人々は公務員から排除され、民間企業も官公庁とのやりとりにウクライナ語の使用が義務づけられるので、必然的にウクライナ語のできない人は幹部職に就けない。新政権の政策は、ロシア語しか解しない人々を二級国民におとしめる政策だった。
 新政権は、ロシア語を公用語から除外する政策を撤回したが、ロシア語を常用するウクライナ国民の不信感を除去することはできなかった。

 (3)トゥルチノフ大統領代行は、かかる状況で東部、南部の住民の信頼を得るための努力を怠った。
 そして4月13日、ウクライナ政府は、占拠を行っている自国民に、テロリストというレッテルを貼った。翌14日には、トゥルチノフ大統領代行が対テロ作戦を開始する大統領令に署名した。トゥルチノフの狙いは、ロシアの軍事介入だ。ウクライナ東部と南部に居住するロシア国籍保持者と、ロシア語を常用するウクライナ国民を保護するための。
 ロシアが軍事介入すれば、ロシアによる侵略を口実に、新政権は米国やEUから政治的、経済的支援を受けることができる。

 (4)トゥルチノフは、2005年2月4日から同年9月8日まで、ウクライナ保安庁(秘密警察)長官を務めた。文民が保安庁長官に就くのは初めてのことだ。当時の大統領ユシェンコは、親欧米路線を取り、ウクライナのインテリジェンス機関を全面的に改組した。
 従来、保安庁は旧KGB職員によって構成されていた。トゥルチノフ長官の下で、保安庁はCIA、SISなど欧米インテリジェンス機関との協力を深化させた。

 (5)むろん、ロシアも、ウクライナ領内に連邦保安庁(FSB)、軍参謀本部情報総局(GRU)の秘密工作員を派遣し、ウクライナ新政権の権力基盤を弱体化させようとしている。
 かかる行動は国際法に違反する内政干渉で、断じて認められない。
 しかし、自国民にテロリストというレッテルを貼り、殺戮することに躊躇しないトゥルチノフ大統領代行を初めとするウクライナ新政権のエリートにも、事態を混乱させた責任がある。
 日本政府は、ウクライナ、ロシアのいずれにも加担すべきではない。

 【注1】【注2】記事「ウクライナ軍が強制排除 銃撃戦、東部空港を奪還」(朝日デジタル 2014年4月16日)

□佐藤優「ついに始まったウクライナ衝突の「伏線」 ~佐藤優の人間観察 第64回~」(「週刊現代」2014年5月3日号)
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 【参考】
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~
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【セブン-イレブン】詐欺まがい契約の実態 ~鈴木帝国の落日~

2014年04月26日 | 社会
 (1)3月20日、岡山県労働委員会は、「セブン店加盟店主は労働組合法上の労働者だ:との衝撃的な判断を示した。セブン-イレブンが用意した契約書では「独立の事業者」と位置づけられていたが、事実と異なることが明らかになった。
 4月28日、全米オーナー代表団が初来日し、フランチャイズ契約の不当性を告発した。
 40年にわたり野放しにされてきた「鈴木敏文商法」が、日米の店舗オーナーによって弾劾されている。セブン-イレブンの、最高裁判所も断罪した詐欺まがい契約の実態が暴かれつつある。
そんなにひどい契約書なら、ハンコを押さなければいい・・・・はずだが、脱サラの「素人起業予備軍」を引き入れる3つの巧みなワナ」があるのだ。
 セブン-イレブン・ジャパン(セブン本部、東京・千代田区、井坂隆一社長)の契約現場で何が行われているか。

 (2)問題の手口1:マイナス情報非公表の欺瞞的募集。
 加盟店募集のとき、十分な情報を開示せず、虚偽や誇大な情報で加盟させる。独占禁止法や中小小売商業振興法で禁じられているのだが、セブン-イレブンの場合、廃業数・廃業理由・ドミナント被害・自殺件数など加盟店オーナーが最も知りたいマイナス情報を一切公表していない。
 明らかに加盟者に不利な「セブン会計」という特殊な利益徴収法をとっているが、契約前に加盟者に対して十分に説明していない。きちんと了解を得ていない。

 (3)問題の手口2:“にわか脱サラ”の弱みを狙う。
 セブン加盟店オーナーの多くが、リストラの影響を受けた人たちだ。終身雇用時代なら定年まで勤め上げたに違いない人たちだ。そんな“にわか脱サラ”の人たちがセブン-イレブンだけで78,000人いる(推定)。自分の力で第二の人生を切り開きたい、と願う人たち。
 セブン本部のやり方は、明らかにその弱みを狙っている。「雇用の受け皿」と美談化するメディアは、オーナーの実態を取材していない。

 (4)問題の手口3:経営委託期間の“アリバイづくり”。
 経営委託期間の3か月間、オーナー夫妻たちは初めての店舗をどう運営していくかで必死だ。
 セブン本部は、「このときシステムマニュアルを店舗に置いていた」と裁判で主張する。
 しかし、この最初の時期のオーナーたちは、早朝から深夜まで、慣れないレジ操作、接客、商品管理でクタクタに消耗する。システムマニュアルを解読する余裕はなく、頭も回らない。
 店舗に置かれたマニュアルは、“アリバイづくり”に過ぎない。

□渡部仁「セブン-イレブン“鈴木帝国の落日” 詐欺まがい契約の実態を暴く」(「週刊金曜日」2014年4月11日号)
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【食】遺伝子組み換え食品、農薬まみれ食品 ~TPPで規制撤廃(2)~

2014年04月25日 | 社会
 (7)EUは、日本とは対照的に、国民の安全を考慮して、今も米国産牛肉の輸入を禁止している。
 1990年代中頃、フランスで7、8歳の少女から18歳の子と同等のホルモンが検出されたり、初潮が異常に早く始まる、といった事例が欧州でたくさん見られた。このため、ホルモン過剰投与の米国産牛肉の輸入反対運動が起こった。当時、WTOの規則で、EUは米国産牛肉を全体の5%輸入する義務があった。しかし、反対運動が大きくなったので、EUは米国に罰金を払ってでも輸入を禁止している。
 米国は、EUの農産物に課徴金をかけて報復したが、EUはそれでも禁止措置を解かなかった。

 (8)しかるに、日本では逆に、規制が緩和されている。
  (a)昨年2月、輸入牛肉の月齢を「20か月以下」から「30か月以下」に緩和して輸入を拡大。ホルモン投与は基本的に1回だが、肥育期間が長くなれば、さらに打つ。よって、30か月になると、残留ホルモン値がより増える可能性が高い。農水省は、米国産牛肉の残留ホルモンを測定しないが、「検出されて輸入禁止にしたら日米戦争だ、何もしないほうがいい」と言う。「食料が自給できないのは真の独立国ではない」(ド・ゴール・元フランス大統領)のだが。
  (b)豚肉はもっと危険だ。米食品医薬品局は、米国で流通している豚肉の69%が抗生物質に耐性を持つ菌に汚染されている、と警告している。牛挽肉は55%、鶏肉は39%。昨年、中国産の「抗生物質漬け鶏肉」が話題になったが、中国産といい勝負なのだ。
  (c)抗生物質を過剰投与した肉を食べると、人の腸内細菌が耐性化する。もし耐性菌が血液中に入ると、死に至ることもある。米国国内で200万人が抗生物質に耐性を持つ菌に感染し、年間23,000人が死亡している・・・・と昨年9月、米疾病対策センターは推計値を発表した。しかも、日本が豚肉を最も多く輸入しているのは米国で、年間28万トン(2013年)だ。全輸入量の38%にものぼる。

 (9)TPPで最も大量に日本にやってくるのは、GM作物だ。大豆、トウモロコシ、小麦、etc.。
 現在、日本が輸入するGM作物は、1,600万トン(2012年、推定)。
 加工食品の8割にGM作物が使用されている。
 日本は、世界一のGM作物輸入大国だ。

 (10)GM作物は、基本的には2種類だ。
  (a)殺虫成分を遺伝子内に組み込んだもの。
  (b)除草剤に耐性のある遺伝子を組み込んだもの。
 遺伝子組み換えの技術の安全性について、厚生労働省は「食品安全委員会において科学的に評価しているから問題ない」としているが、実はこれが極めて怪しい。

 (11)世界のGM作物市場を牛耳るのは米モンサント社だ。同社は売上1兆5,200億円、GM作物の実に90%を独占する。モンサントは、除草剤「ラウンドアップ」も販売し、これを撒いても枯れないGM作物の種子をセットで販売することで莫大な利益を上げてきた。
 ラウンドアップの主成分は化学物質「グリホート」だ。急性毒性がないため、日本ではホームセンターでも販売されている。が、あらゆる植物を根こそぎ枯らしてしまうほど猛毒だ。
 日本では過去、大豆のグリホートの残留基準を6ppmに設定していた。だが、1999年に米国の要求で20ppmに上げた。
 コメや落花生などはほとんどが0.1~0.2ppmなのだが、大豆とその他の穀類だけ20ppmにしたのは、米国産のGM大豆を輸入しやすくするためだ。

 (12)残留農薬は、洗っても落ちない。穀物内部に浸透した農薬は、決して落ちることはない。
 グリホートは、肝臓細胞破壊、染色体異常、先天性異常、奇形、流産のリスクがある。
 残留濃度を上げたら人体にどんな影響があるか、といった実験はまったく行われていない。
 ポップコーンやポテトチップなど、子どもが好きなスナック菓子にはGM作物が大量に使われているが、どこもグリホートの長期毒性試験をやってない。 

 (13)TPPに合わせて、グリホート以外の農薬も残留基準が緩和されている。
 今年2月、厚労省はネオニコチノイド系農薬クロチアニジンの残留基準を50~2,000倍まで緩和した。これは、米国の基準値に合わせて、米国産作物を輸入しやすくするためだ。 
 他方、EUは、日本と真逆の動きをしている。
 昨年012月、EUは、クロチアニジンの使用を全面禁止した。ミツバチの大量死の原因として疑われたからだ。
 欧州食品安全機関は、「一部のネオニコチノイド系農薬に子どもの脳や神経などへの発達神経毒性がある」と警鐘を鳴らしている。
 日本が緩和して、真っ先に犠牲になるのは日本の子どもたちだ。

 (14)バイオ企業は、GM作物を食べても胃と腸ですべて消化されるから問題はない、という。これが「GM食品は安全」とされる「根拠」の一つだ。
 だが、2002年、完全に分解されるかどうか、英国の研究グループが人工肛門患者を対象として人体実験した。結果、便内にはGM大豆のDNAが分解されないまま残っていた。さらに、ラウンドアップ耐性になった腸内細菌も検出された。
 にもかかわらず、いまだに長期試験は行われていない。

 (15)GM食品の恐ろしさを知るのは、それを開発したバイオ企業だ。
 モンサントの食堂ではGM食品が禁止されていた。食堂の仕出しをしているグラナダ社は、GMへの懸念を受けて、GM大豆やトウモロコシは使わない、と伝えた。グラナダ社いわく、「私たちの出す料理を安心して食べていただけるようにするため」としている。【1999年12月21日付けAP通信】

□奥野修司+本誌取材班「米国産「危険食品」で子供が壊れる TPP成立で大量流入&規制撤廃」(「週刊文春」2014年4月17日号)
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 【参考】
【食】米国産「危険食品」が大量流入 ~TPPで規制撤廃~

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【食】米国産「危険食品」が大量流入 ~TPPで規制撤廃~

2014年04月24日 | 社会
 (1)TPPは、実質的な日米自由貿易協定(FTA)だ。
 TPPが成立すれば、輸入品の関税は限りなくゼロになり、米国産の牛肉、大豆、トウモロコシ、小麦など、あらゆる食品が今よりずっと安く、日本市場にどかっと大量流入する。 

 (2)すでに米国は日本にとって最大の農産物輸入相手国だ。金額ベースで全農産物の23.1%(1兆4,000億円)超の莫大な量を依存している。
  (a)トウモロコシ・・・・645万トン(輸入量の5割、シェア1位)。
  (b)大豆・・166万トン(輸入量の6割、シェア1位)。
  (c)小麦・・・・323万トン(輸入量の5割、シェア1位)。
 日本人が日ごろ食べている豆腐、醤油、味噌なども米国産の大豆、小麦を使用している可能性が非常に高い。
 TPPによって、米国依存にますます拍車がかかるだろう。

 (3)食品が検疫で摘発される違反事例は、米国産がもっとも多くて、中国産よりも多い(昨年度)。
  (a)米国産のトウモロコシ、大豆、アーモンド、ピスタチオ等で、発癌性のある猛毒アフラトキシンが大量に検出されている。
  (b)米国産のトウモロコシの違反重量(86,000トン、2012年度)だけに限っても、中国産冷凍食品(野菜)の違反重量(255トン、2012年度)をはるかにしのぐ。
  (c)2012年度には、農薬マラチオン【注】が米国産生鮮ブルーベリーから検出された。マラチオンは米国では大量に使用される。
  (d)2001年には、農民連食品分析センターによる検査で、学校用給食のパンから有機リン酸系の殺虫剤、マラチオンやフェニトロチオン、クロルピリホスメスチルといった農薬が検出されたこともある。原料は米国産小麦と目される。

   【注】2013年12月29日、マルハニチロホールディングス子会社のアクリフーズ群馬工場(群馬県大泉町)で製造した冷凍食品からマラチオン(農薬)が検出されたことが発表され、製品の回収と群馬県による立ち入り調査、警察による捜査が行われた。

 (4)現状もで(3)のような問題がある米国産食品がTPPで大量流入してきたら、「日本の食卓」はどう変わるか。米国とFTAを締結した他の国の例を見るのがわかりやすい。
 メキシコは1994年発効の北米自由貿易協定(NAFTA)以降、米国から安価な食品が大量流入するようになった。メキシコは破壊された。
 メキシコはかつて自給率100%だったが、今は60%にまで落ちた。「いずれ20%程度になるだろう」(国連担当官)。
 NAFTA以降、米国はメキシコの生産原価より19%もダンピングした遺伝子組み換え(GM)トウモロコシを輸出し、メキシコでは300万人の農民が失業した。たった一つの条約が、これほどの破滅的状況をもたらしたのだ。

 (5)だが、本当に破壊したのはメキシコの子どもの健康だった。現在、メキシコの子どもの肥満率は世界1位だ。メキシコでは1,900万人が飢餓状態にあるにも拘わらず。
 この逆説的な現象が起きたのは、米国から不健康な食品が流入して食生活が激変したからだ。最近では、大人も肥満率が世界一になった。糖尿病など成人病が増えたため、医療費が国家財政を圧迫している。
 米国がメキシコに売り込んだ大量のGMトウモロコシは、中性脂肪を増加させる(動物実験)。
 トウモロコシが主食のメキシコに蔓延する成人病は、米国産GMトウモロコシが一因、という指摘がある。

 (6)危険なのは、牛肉もそうだ。子どもたちの健康に影響を与えることが最も懸念される食品だが、日本側が譲歩する可能性が高い。
 日本が輸入する牛肉は53.5万トン。うち35%(18.6万トン)を米国から輸入する。その多くは外食産業や加工食品に流れる。
 米国産牛肉は、今年2月のランチョ・フィーディング社(カルフォルニア州)の400万kgの牛肉のように、「病気や不健全な動物を処理し(中略)、不純物が混じっている」と米食品安全検査局が回収を命じられることがある。
 米国産牛肉は、ホルモンや抗生物質の過剰投与も危険因子だ。2012年、米国産牛肉から国産牛の600倍ものエストロゲン(女性ホルモン)が検出された。エストロゲンは牛を短期間で肥育させ、利益をあげるために投与される。子どもがホルモン過剰牛肉を食べ続ければ、思春期に成長が止まるだけでなく、将来癌(乳癌・子宮体癌・卵巣癌・前立腺癌・大腸癌など)にかかる危険性が非常に高い。
 事実、日本人のホルモン依存性癌の増加曲線は、米国産牛肉の消費曲線とピッタリ重なっている。
 米国産牛肉は、ハンバーガーなどを通して子どもたちに消費される。だが、日本では輸入時に残留ホルモンの検査すら行っていない。

□奥野修司+本誌取材班「米国産「危険食品」で子供が壊れる TPP成立で大量流入&規制撤廃」(「週刊文春」2014年4月17日号)
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【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~

2014年04月23日 | 社会
 (6)ウクライナの債務・経済危機は奇妙だ。1990年代初めには9割、その後減ったけれど、欧州向けの6割に近いロシア天然ガスがウクライナ中継ルート((3)-(d))で輸送された。パイプラインの中継国には一種の手数料(「中継代」)が入る。ウクライナは最大の中継国だから、ガスプロムにウクライナ国内消費分のガス代を差し引けば、後は黙っていても毎年巨額のカネ(中継代-ガス代)がガスプロムから転がり込む・・・・はずだ。
 ところが、ウクライナはガス代を滞納しているのである。ために、2006年初めと2009年初めには、短期間だったが、ロシアにガスパイプラインの栓を締められてしまった。その後も再び滞納が累積し、その都度、ガスプロムとウクライナ国営ナフトガスの間で綱渡りのような交渉が繰り返され、今回の政変に至った。
 ウクライナの「闇のガス財閥」のせいだ。
 ガスプロムとナフトガスとの取引は、この「闇のガス財閥」の連中を仲介して行う仕組みになってきた。仲介者を通す結果、ガスプロムの売値に対し、ナフトガスが買い取るガス価格には大幅な仲介料が加算される。この仲介料込みの膨大なガス料金が、本来ならば中継代で潤うはずのウクライナの国庫を食いつぶし、財政を危機状態に追い込んでいた。
 「闇のガス財閥」には愛国心など無縁で、数十億ユーロ規模の資金を自由に操り、ウクライナ政府ばかりか、ロシア政府役人、ガスプロム関係者にも影響力を及ぼし、世界各地の港湾建設などに融資する強力な勢力だ。歴代の指導者は「闇のガス財閥」の関係者で、ユーシェンコ(オレンジ革命の大立者)やティモシェンコ元首相(最近、牢から自由の身になった)も例外ではない。ティモシェンコは1990年代に「ガスの王女」と異名を冠された実力者だった。

 (7)4月1日以降にウクライナが、したがってその立て直しを引き受ける「国際社会」が直面するのは、ガスプロム社に対する債務問題だ。
 ロシアは、戦略の要衝クリミア半島を押さえた上に、4月以降は値上げしたガス代をウクライナから滞納の心配なく受け取れる。悪者に徹することで実利を得て満足だ。
 日本は、「すっかり変わった状況に合わせ、新規の政策を編み出していくしかない」というEUと協力して、IMF主導の改革に注入される支援の使途を厳格に監視しなければならない。<例>国民生活をよくするための援助が、米企業のウクライナ国内のシュールガス開発へ回される、というようなことがあってはならない。

 (8)パイプラインは(3)の4つの主要ルートがあるが、このほかに、ロシアから黒海海底を通る「南ストリーム」が建設中だ。ブルガリアに入り、ギリシアからイタリアに至るルートと黒海海底で分岐し、ルーマニアに入り、セルビア、ハンガリーなどを通り、オーストリアに至るルートから成る。プーチンがベルスコーニ・イタリア首相(当時)などと強力に推進してきたが、当初の計画が遅れ、2019年に完成予定だ。
 2019年とは、(3)-(d)の契約切れに一致している。2009年1月のガス危機の結果、ティモシェンコ・ウクライナ首相(当時)下に結ばれた10年契約が切れる。これに合わせ、「南ストリーム」建設促進の必要性が強調されるはずだ。
 建設の遅れは資金難による。シベリアから黒海までのロシア領内のパイプライン建設に加え、1,000mにも至る黒海の水深のせいで、比較的浅いバルト海よりもはるかに建設費がかかることになった。
 今後、この資金繰りが焦点となる。
 日本政府は決して北方領土問題とエネルギー資源協力をリンクするべきでない。自らを縛る結果を招くだけだ。
 「南ストリーム」とともに浮上するのが「南回廊」の天然ガスルート計画だ。これは米主導で、ロシアを除く旧ソ連南部などからトルコに入る国際コンソーシアムだ。

 (8)今は、シェールガスの登場と普及による、石油中心のエネルギー時代終焉の始まりだ。これまでサウジアラビアなどのアラブ諸国の役割は終わる一方、エネルギー資源の収入に依存するロシアも、このエネルギー革命の到来に不安感を強め、いかにこの変動期を生き抜こうかと焦っている。米欧は、狼狽するロシアの心理をもっと理解するべきだった。ウクライナに対するロシアの行動は、これまでロシアが維持してきたシステムがもはや機能しなくなった表れだった。

□谷口長世「天然ガス・パイプラインから眺めたウクライナ騒動 ~遙かなセバストーポリ --エネルギー奥の院を覗く」(「世界」2014年5月号)
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 【参考】
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~
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【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~

2014年04月22日 | 社会
 (1)エネルギー資源は、国、社会、産業のいわば血液だ。
 エネルギー資源は、その生産国とパイプラインの通る中継諸国と、それに携わる者に巨利をもたらす。各国首脳が目の色を変えて飛び回る所以だ。
 ウクライナ騒動の主要な背景をなす天然ガス問題に絞って、大方のマスコミとは別の角度からウクライナ問題を眺め直してみる。すると、ロシア軍とNATO軍の軍事緊張まで煽り立てる、表層的でしばしば幼稚な国際報道とは異なり、できるだけ深層を考えるための有力なヒントが出てくる。

 (2)EUは、2012年に天然ガス消費量の3分の2をEU域外からの輸入に依存している。輸出できる国は、オランダだけだ。
 主要なEU向け天然ガスの供給元はロシア(36.5%)、ノルウェー(34.2%)、アルジェリア(14.2%)の3国だ。このほかにカタール(9.2%)など液化天然ガス(LNG)供給国が数か国ある。
 将来的には、カフカス・中央アジア諸国、イラン、イラクなど他の地域も重要な供給元になるが、当面はロシアは最大の対EU天然ガス輸出国だ。

 (3)ロシア天然ガスのEU向け輸出には、4つの主要ルートがある。( )内はEU向け天然ガス輸出の比率。 
  (a)バルトルート・・・・ロシアからフィンランドとバルト諸国を直接に結ぶ。
  (b)北ストリームルート(16.5%)・・・・ロシアからバルト海底を通り直接ドイツに至る。
  (c)ベラルーシ中継ルート(25.9%)
  (d)ウクライナ中継ルート(57.6%)
 このほか、ロシアとトルコを直接結ぶブルームストリームルートがある。その輸送量は160億立米/年だ。
 ちなみに、(c)の輸送量は330億立米/年、(b)は2014年4月に550億立米/年に達する見込み。一方、(d)は820億立米/年から480億立米/年へと大幅な落ち込みが予想されている。
 それでも(d)は、これまでは6割近い主流の位置を占めてきた。冷戦終結直後の1990年代初め、対EU向けロシア天然ガスの90%が(d)に依存していた。他の3ルートを作ったのは、(d)の依存度をできるだけ減らそうとした理由が大きい。

 (4)3月20日、ブリュッセルのEU首脳会議で発表された対露制裁は、次期EU・露首脳会議の見合わせやプーチン大統領取り巻き高官の国外の移動規制など、腰の引けた内容だった。
 EUの弱腰の理由は、ロシア天然ガスへの依存度の高さのせいではない。それは、ロシアにとってもその収入の多くをEU諸国に依存していることにほかならず、必ずしもEUの弱みとは言い切れない。
 実は、はるかに不純な事情がある。以下、その例。
  (a)①フランス軍事産業にとって、ロシアは大切な顧客だ。②ロシアは海運国オランダの港湾施設の建設整備に巨額の融資を行っている。③英国の金融界を支えているのはロシア・マネーだ。
  (b)シュレーダー・前ドイツ首相は、首相を辞めたとたん、ガスプロム社(ロシア)の子会社に雇われた。
  (c)リッポネン・元フィンランド首相は、退任した数年後、ガスプロムの(3)-(b)計画のコンサルタントに就いた。
  (d)プロディ・元イタリア首相は、ロシア側からの(b)・(c)と同様の誘いを断った。だが、ベルルスコーニ・元イタリア首相が首相時代以来プーチンと盟友関係にあることはよく知られている。

 (5)(3)-(d)のガス供給が止まっても、2009年1月にウクライナとロシアの喧嘩の結果、起きたガス危機のような事態の再発はまず起こり得ない。その根拠は、 
  (a)緊急の歳に輸送量アップの余剰能力をもつ(3)-(b)が完成した。
  (b)多くの欧州諸国が備蓄能力を上げた。
  (c)ガス不足の国が出れば余力のある国からパイプラインの流れを変えて支援する態勢が整えられてきた。
などだが、マスコミは恐怖心を煽りすぎる。今回のウクライナ政変は、意図的に危機感が煽られている節がある。

□谷口長世「天然ガス・パイプラインから眺めたウクライナ騒動 ~遙かなセバストーポリ --エネルギー奥の院を覗く」(「世界」2014年5月号)
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 【参考】
【ウクライナ】エネルギー・集団自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~
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【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~

2014年04月21日 | 社会
 (9)ウクライナ危機が安部外交の危うさを顕在化させた。
 「価値観外交」で近隣の中国・韓国との関係を「戦後最悪」ともいえるほど硬直させ、靖国参拝を強行して「戦後秩序を否定して、危険な国家主義への回帰を目指しているのでは」と同盟国米国からも不信の目で見られる安倍政権にとって、ロシアとの関係改善は暗闇の中での光りだった。
 欧米首脳が「人権問題」を理由に参加を見送ったソチ五輪の開会式にも参加し、安部は就任後の1年で5回もプーチンと面談、「北方領土問題」への展望も開けるのでは、という議論さえ始まっていた。
 ロシアと欧米の対立がエスカレートした場合、日本は、苦渋の選択を強いられることになる。
  (a)G7の側に立ってロシアを索制するのか、
  (b)「温度差」を演じ、ロシアとの好関係維持に向うのか。
 ここでは3つの問題を取り上げる。①エネルギー、②集団的自衛権、③尖閣問題。

 (10)最初に浮上するのは「エネルギー」だ。
 日本のロシアへのエネルギー依存は確実に高まりつつある。
 中東情勢の流動化の中で、化石燃料について日本の中東への過剰依存(原油8割強、LNG4割弱)を解消するために供給源を多角化するとなると、現実的選択肢はロシアとなる。
 2013年、既に日本の原油とLNG輸入の1割はロシアからとなった。シベリア・パイプラインが太平洋側に辿り着き、サハリンのLNGプロジェクトが軌道に乗ってきた。
 2020年には2割になる、と予想される。
 ロシアも日本のような安定的需要先に売りたがっている。欧州への化石燃料輸出を優位に展開するためにも、ユーラシア国家として極東への販路を安定確保したいのだ。
 相互の思惑が日露接近をもたらしている。が、米国が主導するロシアへの経済制裁がエスカレートした場合、ロシアからのエネルギー供給は壁にぶつかる可能性がある。

 (11)ウクライナ危機は、解釈改憲してでも米国との集団的自衛権行使に踏み込もうとする安倍政権の外交安保政策の矛盾を露呈させ始めた。
 安倍政権が集団的自衛権を急ぐ心理は、中国・北朝鮮の脅威に対して米国との軍事同盟を強化することで向き合おうというものだ。しかし、ウクライナ危機によって、米露の軍事的緊張が高まった場合、日本における米軍基地はロシアを想定したユーラシアへの展開を担わざるを得なくなる。軍事衝突の可能性は低いが、戦端が切られた場合、冷戦期からソ連を対象にモニタリングしてきた情報通信基地三沢がロシアからの攻撃対象になりかねない。
 自ら「米国との一体の軍事同盟」に踏み込むということは、そうした事態さえ視野に入れた覚悟がいる、ということだ。

 (12)世界の「集団的自衛権」に関する潮流は真逆だ。NATO(代表的な集団自衛権の仕組み)は、加盟国は自国の国益を慎重に配慮し、独自の行動を思慮深く選択する時代を迎えつつある。
 <例>シリア問題。NATO加盟国の温度差が目立ち、ロシアに対しても共同の軍事行動が行われる状況ではない。
 「自主独立」の主体的判断が求められる時代に、「安保条約の双務性」にこだわり、「集団的自衛権の行使容認」に狂奔する日本の姿は哀しく滑稽だ。
 自衛権は、容易に他国に託すべき問題ではない。自国の青年を不必要な戦争の犠牲者にしないための、ぎりぎりの熟慮の判断が問われる。

 (13)ウクライナ危機は、「尖閣問題」にさえ影を投げかけている。
 中国はウクライナ情勢を別の文脈で注視している。ロシアの手法(住民投票によるクリミア分離の正統化)は、台湾問題や新疆ウィグル問題を抱える中国が賛同できるものではない。国連安保理でも「棄権・中立」という立場をとる。
 しかし、ウクライナでどこまで米国が動くのかはきわめて重要だ。「米国は動かないし、動けない」となれば、それは北京にとって領土問題へのメッセージとなる。
 次のことを日本人は明確に承知しておかねばならない。
 「尖閣を巡り日中の衝突が起こった場合、米軍は、直接介入はしない」【アンジェレラ在日本米軍司令官、2月10日、日本記者クラブにおける共同電話インタビュー】
 現在、海上警察権レベル(日本側は海上保安庁)で向き合っている尖閣周辺で衝突が起こったら、在日米軍はまず「救助」に徹し、日中の対話を促すのだ。中国が尖閣を軍事占拠しても、米軍が直ちに直接介入することには慎重な姿勢である、と明言しているのだ。在日米軍は、「駆けつけてくれる善意のガードマン」ではないことを明らかにしている。米軍のアジア戦略の本質が正直に語られている。
 
 (14)米国は、尖閣の施政権が日本にあることを認めているが、領有権についてはコミットせず、日米安保条約第5条の対象として同盟責任を果たすことを繰り返し明言しているが、それが軍事介入(米中戦争)を意味しないことも明らかだ。
 要するに、日中両国へ配慮し、東アジアにおける米国の影響力を最大化する「あいまい作戦」なのだ。
 この現実を冷静に受け止める視界なしに、日米同盟の今後、基地問題も議論できない。

 (15)ウクライナ危機を震源として、ユーラシアの地政学が動き始めた。
 歴史は、玉突きの球のように動く。地殻変動の中で、日本外交は矛盾を露呈し始めた。
 対米過剰依存の固定観念に埋没する一方で、近隣からの孤立という不安の中で、ロシアの理不尽な行動にも「実効のない制裁」でお茶を濁している。21世紀の世界に関与する外交総体の構想に欠けるからだ。
 取り戻すべきは、
  (a)近隣との協調と相互信頼を基盤にした自立自尊の構想であり、
  (b)柔軟で賢明な進路選択だ。

□寺島実郎「ウクライナ危機が炙りだした日本外交のジレンマ ~脳力のレッスン 特別編 145回~」(「世界」2014年5月号)
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 【参考】
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~


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【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~

2014年04月20日 | 社会
 (5)ロシアを救い、プーチン先生をもたらしたのは、皮肉にも「9・11」と、それ以降の米国の迷走だった。
 エネルギー価格を注視せよ。高騰基調を続けている。
  ・2001年9月10日(「9・11」の前日)のNY原油先物価格(WTI)・・・・28ドル/バーレル
  ・2014年2月28日・・・・103ドル/バーレル
 ロシアは、原油(1,070万BD)、天然ガス(681BCM)ともに世界2位(2012年)の生産量を誇る。
 ロシアは、エネルギー価格高騰という追い風を受けて蘇った。「エネルギーモノカルチャー」というべき産業構造を抱えるロシアにとって、エネルギー価格高騰は僥倖だった。「9・11」後の中東情勢の不安定化と米国による「イラクの失敗」、そして国際社会を束ねる力の喪失は、ロシアとプーチンを際立たせる背景になった。

 (6)現時点におけるプーチンのウクライナ戦略は何か。
 プーチンは最早、ヤヌコビッチ・前大統領(親露路線)の復権なぞ望んでいない。亡命してきたヤヌコビッチは、プーチンにとって「統治能力なき失格者」に過ぎない。ウクライナ新政権の正統性を否定する宣伝係として利用しているだけだ。
 プーチンが照準を合わせているのは、(a)クリミア半島のウクライナからの分離、ロシアへの速やかな編入だ。どうしても確保したのは、黒海艦隊の基地セバストポリだ。3月16日、クリミア自治共和国における「住民投票」による「ロシア編入」支持という正当化の儀式を演じ、米欧の対応を瀬踏みしつつ、国際的孤立を避けながら綱渡りに踏み込みつつある。

 (7)3月18日のプーチン演説では、クリミア編入の正統性を繰り返した。
 クリミア半島は、1954年、フルシチョフ・ソ連首相(当時)が「ソ連という枠組みの中での行政区分の変更」としてウクライナに組み入れた。ソ連崩壊後も、ロシアは黒海艦隊の基地を租借し続けてきた。ヤヌコビッチ政権(親露路線)はセバストポリ軍港の租借を25年間延長したが、ウクライナが欧州に回帰した場合、NATOの基地に変わる可能性さえロシアは懸念し始めている。黒海を経て地中海に繋がる「南の出口」を失うことに神経を昂ぶらせている。
 ちなみに、セバストポリこそクリミア戦争における「セバストポリ包囲戦」の戦場であり、1856年にパリ講和条約が結ばれたが、ロシアにとって産業革命で先行する英仏に刺激を受け、アレクサンドルⅡ世の下に動き出す契機となった地だ(ペリーの浦賀来航のころ)。

 (8)クリミア分離併合の動きに、米国はどう動くのか。
 外交圧力(国連安保理を舞台にロシアによるクリミアへの介入を「不当」とする決議、ただしロシアの拒否権で否決)、制裁(ロシア要人への資産凍結やビザ発給規制など)を強めているが、直接的な軍事介入には慎重だ。軍事予算圧縮(イラク戦争時に7,400億ドル→5,000億ドル弱)、「イラク・アフガンからの撤退」推進の局面において海外への軍事展開に議会の合意が簡単に得られる状況ではない。
 アフガン、シリア、イランなどの情勢を制御するためにロシアの一定の協力は不可欠であり、決定的対決は避けたいところ。ロシアとの経済関係が強い欧州も一枚岩ではない。
 H・キッシンジャーは、その論考において、ウクライナの立ち位置として「フィンランド方式」を示唆している。「独立を維持しつつロシアとの敵対を避け、かつ西側との協力関係維持」を目指すべきだ、というのだ。そのため、米国としてはウクライナを単純にEUやNATOにコミットさせることを避けよ、という主張だ。あいまいな状況を抑制的に受け入れる大人の知恵とでもいうべき姿勢だ。クリミアの分離併合を容認するものではないが、ロシアに配慮して何らかの妥協を模索する方向を辿るのか。オバマ外交の正念場が迫る。 

□寺島実郎「ウクライナ危機が炙りだした日本外交のジレンマ ~脳力のレッスン 特別編 145回~」(「世界」2014年5月号)
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 【参考】
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
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【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~

2014年04月19日 | 社会
 (1)ウクライナは、欧州に回帰するかロシアに回帰するかでユーラシアの地政学が決まる、とさえいえる存在だ。今回の政変も、昨年11月に新ロシア路線を採るヤヌコビッチ政権がEUとの連合協定への署名を延期したことに反対するデモが発端だった。
 このウクライナを論じるとき、少なくとも2つの点を視界に入れておくべきだ。
  (a)極東ロシアにおけるウクライナ人の集積と日本との因縁。
  (b)「ユダヤ」。
  
 (2)(1)-(a)・・・・
 現在、極東ロシアに600万人のロシア人が生活している。その半分の祖先は「ウクライナ人」だ。
  (a)1860年、ロシアは清国からウスリー川の東側を割譲させ、太平洋への出口としての不凍港ウラジオストックの建設を始めた。ウラジオストックは、「東征」の意。ロマノフ王朝の極東への野心をむき出しにした都市名だった。ウクライナから農業開拓移民が行われ、19世紀中に6万人がウクライナから入植した。
  (b)ロシア革命(1917年)に際し、独立志向の強いウクライナ人は「王党派」として革命勢力に反抗を試みた(「白系ロシア」)。多くのウクライナ人が「シベリア送り」となった。
  (c)第二次世界大戦期、ヒトラーがソ連に攻め込んだ時、ウクライナの独立志向勢力はヒトラーと手を組んでモスクワを揺さぶった。逆上したスターリンによって、さらなるウクライナ人が「シベリア送り」となった。
  (d)(a)~(c)のウクライナ人の中には、人口の浸透圧で、日本の北海道や旧満州に移住する人もいた(横綱大鵬の父親もウクライナ人)。関東軍は、満州に流れ込んだウクライナ系ネットワークを使って、暗いな独立運動を支援する秘密工作を行った。1936年まで、ウクライナには日本領事館が置かれた(芦田均も外交官として勤務)。北のロシアの脅威を如何にして削ぐかは、明石元二郎・陸軍大佐以来の日本外交の埋め絵だった。

 (3)(1)-(b)・・・・
 ウクライナには歴史的にユダヤ人が多い(<例>「屋根の上のバイオリン弾き」)。それが、ウクライナの科学技術基盤と相関している。
 キエフ工科大学は、ソ連邦時代から科学技術を支える基点の一つで、宇宙開発が原子力分野において大きな実績を挙げてきた。チェルノブイリがウクライナにあったことは偶然ではない。
 ソ連崩壊後、「100万人超のユダヤ人がイスラエルに帰った」とされるが、主としてウクライナからだった。
 グローバルなネットワーク民族であるユダヤ人は、米国にも100万人のウクライナ系ユダヤ人が存在する、とされる。ソ連崩壊から「オレンジ革命」に至る「東欧の民主化」の背後にユダヤ勢力の支援が微妙に絡んできた。オバマ大統領のウクライナ政策にも、出身地のシカゴを中心にした中西部・東海岸のユダヤ勢力の影響力が見え隠れしている。

 (4)ソ連邦崩壊(1991年)で、ユーラシア大陸の41%(2,240平粁)を領有支配していたソ連から分離独立が進み、ロシアは532平粁の国土を失った。
 ソビエト連邦とは、ロマノフ王朝の膨張主義を継承した「社会主義イデオロギーで武装した大ロシア主義体制」だった。故に喪失感は深かった。
 2000年5月にプーチンが登場したころ、ロシアは昏迷の中にあった。ルーブルの価値は惨めなまで下落し、1985年の公式レートに比べ50,000分の1(デノミ要素を配慮すれば50分の1)になっていた。
 プーチンは、任期が切れた2008年、メドベージェフに大統領を譲り、4年後に再び大統領に返り咲くという荒技を繰り出して国際社会を仰天させ、「専制体制」を確立していった。

□寺島実郎「ウクライナ危機が炙りだした日本外交のジレンマ ~脳力のレッスン 特別編 145回~」(「世界」2014年5月号)
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【食】アジア市場が狙われている ~GM稲の商業栽培~

2014年04月18日 | 社会
 (1)6種類の遺伝子組み換え(GM)稲が、日本で野外栽培される。独立行政法人・農業生物資源研究所の試験栽培に今年度新たに加わるのは、6種類だ。
  (a)GMタバコ1種類
  (b)GM稲5種類

 (2)タバコは、「害虫抵抗性」の性質を付与したもので、稲は
  (a)「複合病害抵抗性稲」1種類
  (b)「開花期制御稲」3種類
  (c)「スギ花粉症治療稲」1種類・・・・従来の「スギ花粉ペプチド含有稲(花粉症緩和稲)」とは異なり、新たに開発されたもの。

 (3)(1)と併せて次の3種類のGM作物も栽培される。
  (d)「スギ花粉ペプチド含有稲」・・・・昨年も試験栽培。
  (e)除草剤耐性大豆・・・・毎年栽培。
  (f)除草剤耐性と殺虫性の性質を併せ持ったトウモロコシ・・・・展示栽培。

 (4)農業生物資源研究所は、(1)および(3)のように今年度9種類ものGM作物を栽培する。
 今回の特徴は、(2)のGM稲の栽培だ。これまでに6種類ものGM稲を栽培することはなかった。
 (2)-(a)は、いもち病など複数の病気への防御機能を活性化させる遺伝子を導入したもの。
 (2)-(b)は、開花誘導ホルモンに関連する遺伝子を導入したもの。
 これらの稲はまだ実験段階であり、これから生物多様性への影響や食品としての安全性などが評価される。
 しかし、日本の研究者が稲を中心にGM作物開発を進めていくことが、改めて示された、といえる。

 (5)海外では、現在、正式にGM稲を栽培している国はない。
  (a)かつてイランで「殺虫性稲」が商業栽培されたことがあるが、現在は作付けされていない。
  (b)中国では、湖南省の一部の地域で「殺虫性稲」が作付けされているが、非合法だ。
  (c)米国では以前に、独バイエル・クロップサイエンス社の除草剤耐性稲の種子が違法流通し、通常の稲に混入して作付けされ、同社が多額の賠償金を払う、という事件が起きた。

 (6)今年フィリピンで、GM稲の初めての大規模な商業栽培が行われる可能性が高まっている。
 スイス・シンジェンタ社が開発した「ゴールデンライス」(通称「ビタミンAライス」)がそれで、ベータカロチンを増やした稲だ。ベータカロチンは体内に入った際にビタミンAとなることから、飢餓で苦しむアフリカの子どもたち(ビタミンA不足で失明の危機にある)への人道的支援が前面に掲げられ、売り込みが図られてきた。
 しかし、それはGM稲を売り込むための手段にすぎないことが、明らかになった。
 それを裏付けたのが、米タフツ大学の研究者によって中国で行われた人体実験だった。GM稲の安全性評価を、いきなり人間で、それも中国の子どもに食べさせる実験を行ったのだ。中国の研究者が名を連ねていた。人道支援と言いながら、研究者にその視点はない。

 (7)ゴールデンライスの市場化には、稲が小麦と並んで世界の人が主食としている穀物であることから、GM稲や小麦の市場化を目指す狙いがある。
 食の安全に疑問のあるGM稲の市場化が近づきつつある。

□天笠啓祐「間近になったGM稲の商業栽培 アジア市場が狙われている」(「週刊金曜日」2014年4月11日号)
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 【参考】
【食】バングラデシュで遺伝子組み換えナスの栽培始まる ~GM食品の拡大~

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【佐藤優】極右が躍進 ~フランス政治の現在~

2014年04月17日 | ●佐藤優
 (1)フランスの地方選挙の仕組みは複雑だ。
  (a)比例代表制で37,000人の市区町村議員を選ぶ。
  (b)市区町村議員が互選で首長を決める。
  (c)第1回投票において比例代表で過半数を獲得する政党、または複数の政党によって構成されるブロックがない場合は、決戦投票が行われる。

 (2)3月23日の第1回投票において、左派(社会党が中心)の得票率は38%、右派(保守系の民衆運動連合(UMP)など)は47%だった。移民排斥を掲げる極右の国民戦線(FN)が5%を獲得した。
 FNは、前回の選挙(2008年)で1%未満だったから、大躍進だ。
 決選投票は3月30日に行われた。FNは7%を獲得した。左派は41%、右派は46%だった。
 今回の地方選挙の結果、FNはフランス政界における第3党となった。
 ウクライナの新政権にもネオナチの「スボボダ(自由)」が入っている。この流れは、今後、他のヨーロッパ諸国にも拡大するだろう。

 (3)マリーヌ・ル・ペン・FN党首は、1968年8月5日生まれ、現在45歳。今後大統領になる可能性も排除されない。2012年の大統領選挙の第1回投票では17.9%を獲得した。
 ジャン=マリー・ル・ペン・前FN党首(マリーの父)は、2002年の大統領選挙の第1回投票で、保守おう系のシラク(19.71%)に次ぐ16.8%もの得票率を得て、決選投票に進んだ。決選投票では、シラクが圧勝した(82%対18%)。このときル・ペンを支持したのは失業者、肉体労働者、若者だった。

 (4)極右勢力は、論理よりも心情や行動を重視する。マリーヌも、
  (a)妊娠中絶と同性愛に反対を表明している。
  (b)反イスラムの立場を前面に押し出し、父の展開した反ユダヤ主義の主張については抑制している。
  (c)どのような発言をすれば、FNの支持基盤を拡大できるか、入念に計算した上で、極右的な発言をしている。

 (5)資本主義社会は、必然的に強者と弱者を生み出す。強者は保守党(新自由主義的な弱肉強食の原理に基づく)を支持する。
 相対的な弱者が、社会民主主義的政党を支持する。
 しかし、社会的に最も弱い立場に置かれた人々は、労働組合や社会民主主義的政党に加わらずに孤立し、社会に対する不満と苛立ちを深めている。こういう人たちを政治的に惹きつけようと、極右政党と極左政党が試みる。
 ドイツでは、昨年9月の総選挙で、極左の左翼政党が630議席中64議席を獲得した。キリスト教民主・社会同盟と社会民主党が大連立を組み、巨大与党となっている状況で、左翼党は野党第一党だ。
 フランスでは、既成の政治勢力に飽き足りず、「何かに対して怒っている」人々が極左ではなく極右のFNを支持している。

 (6)マリーヌは、パリ大学を卒業し、弁護士資格を持つ知識人だ。父のFNを引き継ぎ、彼女は家業として極右政治活動を行っているのだ。
 グローバリゼーションの流れが進む中、発展途上国から先進国への移民が増えるのは不可避だ。社会矛盾の原因が移民である、という言説を展開することが、「何かに対して怒っている」人々の支持を得る効率的方法だ・・・・とマリーヌは計算しているのだ。

□佐藤優「極右が躍進 いまフランスで起きていること ~佐藤優の人間観察 第63回~」(「週刊現代」2014年4月26日号)
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【復興】支援を東大と京大が削減 ~これに続く他大学~

2014年04月16日 | 社会
 (1)東日本大震災からの復興のため、政府は、2012年度から2年間、臨時特例として公務員給与を平均7.8%返上させ、復興資金とすることにした。
 政府は、国立大学法人(4大学共同利用機関法人を含む90法人)に対しても、同率の給与の返上を要請した。その基盤となる経費は、今も年間総額が1兆円を超える運営費交付によって賄われているからだ。
 しかし、その要請にしぶしぶながらも応じた大学は9割程度にとどまった。

 (2)「世界のリーディング大学」を自任する東大と京大は、本来の研究や教育によって「社会に貢献する」ことの重要さを文書で表明し、返上比率を独自に縮小した。
 その結果、政府が想定しなかった事態が惹起した。
 政府のもうひとつの重要方針である公的機関の「総人件費削減」計画に支障が生じたのだ。
 この方針は、「『小さくて効率的な政府』への道筋を確かなものとするため」、国立大学法人や独立行政法人などの役職員の給与を、国家公務員と同程度になるよう見直しを義務づけたもの。ところが、東大や京大では、復興資金協力のための給与の削減率をとりわけ低く抑えたため、国会公務員の給与比率(対国家公務員ラスパイレス指数)を上回ってしまったのだ。

 (3)本来なら文部科学大臣は、両大学に対して、
  (a)復興への協力が十分ではなく、
  (b)しかも政府への「行革方針」に従っていない、
として、是正を勧告するのが筋だ。
 ところが、両大学の「給与水準」に対するコメント(「主務大臣の検証結果」)は、いずれも「適正」または「概ね適正」となっている。政府方針への二重の違反に対し、目をつぶるどころか、違反を是認する奇妙なコメントを出している。

 (4)(3)の背景に、文科省と国立大学の癒着がある。
 国立大学は文科省にとっての天下り先の一つだ。幹部職員を出向させることで本省の人事ローテーションを調整したり、人件費を浮かすこともできる重要な職場だ。だから、この程度のお目こぼしは当然、というわけだ。
 馴れ合い関係の下での文科省の弱腰を目の当たりにすれば、他の国立大学でも、政府方針に従うのは無意味と考えることになる、当然。かくて、
  (a)臨時特例の期間中に給与の返上を撤廃・・・・北海道教育大学、徳島大学、山形大学、東京農工大学、福岡教育大学。
  (b)削減された給与の全部または一部を賞与に当たる勤勉手当で教職員に返還・・・・埼玉大学、東京学芸大学、名古屋大学、九州大学。
  (c)一時金や地域手当の名目で返還・・・・島根大学、山口大学、岡山大学。

 (5)政府が求める国家公務員並みの給与削減を拒否したところで、何のお咎めもないのだから、この種の動きに同調する国立大学が、今後さらに、雪崩を打って続出する可能性が高い。
 2011年度の全国の国立大学法人の人件費の総額は、1兆3,966億円だった。その8割に当たる1兆741億円は、税金によって補填されている。
 大学人は、税金によって禄を食みながら、自らの身を削ってまで復興に協力する意思はない。天下の東大、京大がその事実を率先して明らかにしている。

□岩瀬達哉「東大と京大がリードする「復興支援の削減」に他大学も追随しはじめた ~ジャーナリストの目第202回~」(「週刊現代」2014年4月26日号)
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