語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~

2016年06月30日 | ●佐藤優
 (承前)


(3)尖閣諸島問題で日本は世界秩序をかく乱させている
 尖閣諸島は、日清戦争(1894年)のときに、正式に下関条約(1895年)で、日本が中国(当時・清朝政府)から割譲させたものだ。台湾と澎湖諸島の海域に属している。ゆえに正式に日本のものになった。
 戦勝国は、無理やり何でも条約にして敗戦国と取り決める。きちんと当事者双方の署名が行われて成立する。その取り決め自体は国際法に照らして有効だ。あとになってから「あの契約(条約)は無効だ」と騒いでも認められない。
 当時は帝国主義全盛だった。
 それで、清国があの領域を手放して、日本が台湾と遼東半島を取った。遼東半島は三国干渉で返還させられたが。
 その後、第二次世界大戦中に、カイロ会談(1943年11月)があった。蒋介石も参加している。ハリー・トルーマン・米副大統領、ヨセフ・スターリン・ソ連書記長、ドワイト・アイゼンハワー・連合国指揮官、ウィンストン・チャーチル・英首相がいた。
 その会議で、日本は大きな島4つだけとなり、それ以外のものは全部、連合諸国(アライド・バウアズ)が取り決めることになった。それを引き継いだヤルタ=ポツダム宣言(ヤルタ会談:1945年2月、ポツダム宣言:同7月)を敗戦国となった日本は承認した。この後、サングフランシスコ講和条約(1952年4月28日発効)で確定した。
 正式に日本のものになっていた尖閣諸島が、ヤルタ=ポツダム宣言で日本から取り上げられた。それを日本は認めた。このことが重要だ。
 それに対して、「尖閣は固有の領土だ」とか訳のわからない日本語を使って、「昔から網小屋があった」程度の根拠で自国領だと言っても通らない。
 そもそも、日本に最初から100%の自信があれば、あそこに港や灯台をとっくに建造しているはずだ。何もないということは、外交的に見れば何かいわくつきの土地だということになる。
 それにマスコミは隠しているが、尖閣諸島の一部はまだ米国の「領土」だ。久場島・大正島は米軍の射撃場となっている。実際は20年ほど使ってないが、まだ日本に返還していない。つまり米国の「領土」だ。
 尖閣諸島問題は、日本が必要もないのに国内的事情から人為的に緊張をつくり出している、というのが国際社会の見方だ。日本は世界秩序の攪乱者のように見られている。
 尖閣諸島問題は、やはり相手との合意がなければならない。
 国際社会はもっと冷酷だ。正式に領有権(主権ソブリーンティ、所有権)があったものを連合国に奪い返されたという事実を認めないと、世界で通用しない。
 「日本固有の領土だ」の「固有」は、インエイリナブル・ライト(inalienable right)と英語でいう。何人も奪うことのできない天賦の権利であり、ジョン・ロックが言った思想だ。
 つまり、百姓でも誰でも、「見渡すかぎり、この10ヘクタールぐらいは、子どもと家族を養うために耕していい自分のものだ」という思想だ。
 国王や貴族たちが持っていた権利を類推してできた。日本人が「閣議で決定したから日本のものだ」と、勝手に「固有の権利」を根拠にして主張するのはおかしい。境界紛争は隣の人が承認しなければならない。
 「合意は拘束する」の原則だ。
 「自分で決めましたので」というみっともないことをするな。
 しかも、その1895年の閣議決定は公表していない。秘密閣議決定だ。官報にも出てない。だから、中国は「いつ公知の事実になったのか」と反論できるのだ。日本がこの閣議決定を公表したのは1950年代になってからだ。
 だから、中国がハーグの国際司法裁判所に訴えたら、中国が勝つ。
 米軍が実効支配していた尖閣諸島の海域が、沖縄の本土復帰に伴って、その海域が日本に渡されただけのことだ。だからといって、尖閣諸島が日本の領土だという主張は、国際司法裁判所(JCJ)に持ちこんだら日本に勝ち目はない。
 日本にとって不利なのは、「いつ公知の事実になったのか」という点だ。ただ、1970年代まで中国は一度も領土を要求していないのも事実だ。これは中国にとってかなり不利だ。だから、両国とも不利な点はある。
 米軍が実質支配していたからということを前提にして議論している。
 でも、その前の1945年までも、一度も要求していない。国連があそこに石油が埋まっていると言い始めてからだ。1960年代の終わりごろから急に言い始めた。

(4)国連は国際的強制執行活動の機関だから怖い
 副島のリバータリアンとしての信念からは、敵が領土・領海・領空に入ってきたら戦う。こちらから外国まで攻めていくことはしない。専守防衛だ。
 外国まで行ったら、言葉は通じないし、土地の事情もわからない。食糧がなくなったら略奪するしかない。戦闘の基本はバッタリ遭う遭遇戦だから、たいてい現地人を殺してしまう。それが現地人の憎しみを買う。だから、戦争をするなら、自分の領土・領海・領空でやる。夜寝泊まりするときに、日本人同士だから泊めてくれるはずだ。戦争は寝泊まりが大事だ。
 特に中東みたいな宗教が違うところで、違う宗教の人を殺してしまうと、面倒くさい話になる。すぐ、イスラム教に対する侵略だという話になってしまう。
 1人殺したら、憎しみがダーッと湧き起こる。
 軍事の問題は、変に技巧的、技術的になると、かえって騙される。兵器や銃器の使い方など知らなくていい。自分で線を引いて、そこから出ないという考え方をしている。
 国連をナメてはいけない。国連は怖い。
 国連は、正しくは連合諸国(ユナイテッド・ネイションズ)と訳し直すべきだ。連合諸国は、国際的な強制執行活動の機関なのだ。ただの親善団体ではない。言うことをきかないと、共同軍事力で抑えに来る。
 強制執行機関だから、裁判所の判決が出て、強制執行する。それがPKO(平和維持活動)だ。
 日本人は、このPKOの意味がわかってない。「犯罪者を処罰する」とか「違法状態を原状に復帰させる」という意味だ。強制力(暴力、軍事力)の行使だ。
 集団的自衛権と違って、集団安全保障だ。自衛でなくてもやれる。
 PKOで出動した各国軍隊は、強制執行(フォースメジュール)なのであって、強制力の行使はあるが、戦争をしているわけではない。国連(ザ・ユーエヌ)がどこかの国と戦うとか愚かな理屈ではない。世界の秩序を維持し、平和を維持するための活動だ。
 だから怖い。警察となると国際法が適用されない。警察活動のほうが一段上だから怖い。戦争はお互いイーブンだ。
 よほどの戦争犯罪をやっていなければ、人を殺しても責任を問われない。ところが警察活動だったら、どんな理由があっても、人を殺したら責任を問われる。
 各国のそれぞれの刑法によって犯罪者は処罰される。
 各国の法律以上の権力は、この地上に存在しない。国連は世界政府ではない。
 国家を超えた団体は、まだ地球上にない。連邦国家や国家連合程度ならある。

□対談:副島隆彦×佐藤優『崩れゆく世界 生き延びる知恵』(株式会社キャップす、2015)の「第1章 安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本」の「戦争に突き進んでいく安倍政権」
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 【参考】
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~




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