語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】先の見通しを持たない新成長戦略 ~鎖国的政策~

2014年07月14日 | 社会
 6月24日、政府は以下を閣議決定した。
   「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)
   「日本再興戦略」(新成長戦略)
   「規制改革実施計画」
 これらの中心は、次の2つ。
   法人税実効税率引き下げ
   雇用制度改革【政治】
 以上に共通する問題は、生産性の高い新しい産業が登場するのでないかぎり、施策が成長に結びつくことはない、ということだ。

(1)法人税減税
 他の条件を一定にして法人税実効税率だけを引き下げても、内部留保を増やすだけだ。
   2012年 40.69%→38.01% 【2011年税制改正】
   2014年 38.01%→35.64% 【2014年復興特別制廃止】
 これによって国内の設備投資や海外からの投資が増えることはなかった。
 他方、企業の自己資本率は
   1970~80年代・・・・15%程度
   最近・・・・39%超
 なぜなら、投資行動に影響する最大の要素が、
   「どれだけの投資機会がどこにあるか」
であって、法人税の負担ではないからだ。
 仮に法人に対する公的負担が問題であるとしても、それは法人税ではなく、
   社会保険料雇用主負担
だ。両方を合わせた割合で見ると、日本は決して高すぎることはない。だから、法人税率が引き下げられても、経済活動に影響しなかった。
 減税で内部留保が増えるだけであれば、減税によって税収が減り、財政赤字が膨らむだけだ。
 このことは、長期的な観点からすれば、日本の成長に大きなマイナスの効果を与える。
   日本の政府債務の対GDP比率・・・・231.9%(2014年一般政府ベース)
 政府は、基礎財政収支を2020年度までに黒字化することを目指している。この路線を貫徹することこそ重要だ。

(2)雇用政策
 「日本再興戦略」(新成長戦略)における幾つかの提言は、
  (a)総論
    「行き過ぎた雇用維持型の政策から労働移動支援型の政策へと大胆な転換を行った」
  (b)個別的提案
    ①「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応えるため、一定の年収要件(例えば少なくとも年収1000万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、新たな労働時間制度を創設する」(「ホワイトカラー・エグゼンプション」を念頭に置いた制度の提案で、注目を集めた)
    ②女性の活用(1)・・・・すでに公表されている保育園の増設に加え、「小1の壁」の打破を挙げた。
    ③女性の活用(2)・・・・女性の働く意欲の妨げになっているとして、配偶者控除を年末までに見直す、とした。
    ④外国人労働者の活用・・・・技能実習制度の拡充。
  (c)以上に対する評価
    ①日本の雇用慣行は、国際比較でも群を抜いて硬直的だ。これを柔軟なものに変えるという基本方針は良い。しかし、ここにも法人税と同様の問題がある。「引く」力の欠如だ。
    ②(a)・・・・新しいタイプの労働の供給を増やす政策だが、それに対する需要がないのだ。労働移動支援の政策に転換しても、問題は移動する先に労働需要があるかどうかだ。
    ③(b)・・・・同じ問題がある。ホワイトカラー・エグゼンプションは高度な専門職には適切な制度だろう。問題は、そうした職業が十分にあるかどうかだ。
    ④(b)・・・・女性労働の支援は大変重要だ。しかし、女性労働の環境を改善しても、企業が受け入れるかどうかが問題だ。高齢者についても、同様の問題がある。有効求人倍李の上昇が喧伝されているが、非正規が中心だ。正社員の求人倍率は0.67倍と低い水準のままだ。
    ⑤計画は、役職に就く女性の割合を2020年に30%にする、という数値目標を掲げた。賛成できない。女性の活用が企業を強くするから採用するのだ。採用自体が目的化するのは本末転倒だ。

(3)新しい産業    
 結局のところ、雇用改革は新しい産業が生まれなければ意味がない。では、新しい産業とは何か?
 再興戦略は、新たな成長エンジンは農業とヘルスケアサービスだ、としている。  
  (a)しかし、成長産業が介護であることこそが問題なのだ。介護サービスは必要だが、生産性は低い。だから、労働力がここへ移れば、所得は減る。これこそが、20年近く続いた経済停滞の大きな要因だ。
    雇用構造がこのように変化した。
    → 非正規雇用が増加した。
    → 給与水準が低下し続けた。
    → 消費減退と企業活動を低下させた。   
  (b)新しい農業は賛成だが、これで経済全体のパフォーマンスに影響があるような規模にはなるまい。
  (c)だから、生産性の高い新産業がどうしても必要だ。
  (d)新しい産業のためには人材が必要だ。このことは再興戦略も強調する。かつ、大学教育の改革を提案している。数値目標として、世界のトップ100校に10校が入ることとしている。しかし、必要なのはそうしたことではない。
    ①高度専門家の教育体制の方向付けが必要なのだ。
    ②現在の日本の体制は、20世紀型の産業構造を前提としたものになっている。先進国の産業の重要な基礎となっているファイナンス理論やコンピュータサイエンスがどうしようもなく遅れている。再興戦略は「世界最高水準のIT社会の実現」としているが、日本の現状はもはや世界の趨勢に追いつかないほど遅れている。
    ③大学の専門分野の構成を大きく変えるのは、大変重要な課題だが、極めて困難だ。かつ、実現に時間がかかる。
    ④仮に新しいタイプの高度専門人材が供給されたとしても、国内の産業がそうした人材を求めるかどうかが問題だ。<例>ファイナンス分野での高度専門家の場合、外資系企業は求めるが、国内の伝統的メガバンクは求めない。その主要業務である間接金融では、あまり専門的人材は必要とされないからだ。
    ⑤してみると、参入規制を緩和して、外資系企業を増やすほうが、ずっと効果がある。しかし、日本はこれまで外資の国内参入に拒否反応を示してきた。
    ⑥外国人労働者について、本当に必要なのは移民の大幅増大だが、再興戦略は技能実習制度という腰の引けた対応になっている。
    ⑦こうした鎖国的状態が続くかぎり、閉鎖状態は打破できない。人や資本に関して国を開くことこそ、最も重要な成長戦略だ。しかし、安倍政権の再興戦略はそれらを拒否している。

□野口悠紀雄「人と資本の開国に背を向ける再興戦略 ~「超」整理日記No.717~」(「週刊ダイヤモンド」2014年7月17日号)
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1 コメント

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Unknown (武尊43)
2014-07-14 21:24:01
 プライマリーバランスとか言うけど、そのお金はアメリカに行っちゃってんだよね。
 米国債1220兆6000億円も持っている日本。二度と戻ってこないお金です。1位中国1226兆、3位ベルギー380兆
全世界から集めている総額は5690兆。この不均衡にも驚かされるよね。
 この米国債を増やすのを止めるだけで赤字なんかチャラです。
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