語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

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【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~

2014年07月31日 | ●佐藤優
 7月7日、トリビシ(グルジアの首都)で、エドゥアルド・シェワルナゼが逝去した。享年86。
 グルジア大統領などを歴任したシェワルナゼは、ブレジネフ時代、KGBと内務省を権力基盤とするグルジア共産党第一書記を務めた。腐敗・汚職の根絶、規律強化による社会主義体制の強化を本気で考えていた。

 1985年7月、ゴルバチョフ・ソ連大統領がシェワルナゼをソ連外相に任命した。ソ連ウォッチャーでこの人事を予測していた人は、文字どおり一人もいなかった。
 この無名の人物は、ゴルバチョフの信任を得て、新思考外交を積極的に推進した。
 ゴルバチョフもシェワルナゼも、米ソがこのまま軍拡競争を続いていたら、核戦争によって地球が壊滅する危険があると本気で心配していた。
 シェワルナゼがいなければ東西冷戦が解消しなかった。

 もっとも、
  外交面での緊張緩和、
  内政面での表現の自由拡大、
  計画経済の緩和
を進めることでソ連国家を強化しようとしたペレストロイカは、むしろ社会の分解を加速し、1991年12月にソ連は崩壊した。

 当時グルジアでは、ガムサフルディア大統領の下でグルジア民族至上主義が推進され、アブハジア人、オセチア人との関係が緊張し、内戦状態になっていた。
 1992年1月、ガムサフルディアはアルメニア経由でロシアのチェチェンに亡命した。その後も1年近く内乱が続き、その間にシェワルナゼ待望論が高まった。
 同年3月、シェワルナゼはロシアからグルジアに帰国し、事実上の国家最高指導者になった。
 1995年11月、シェワルナゼは大統領に就任した。
 彼は、ロシア軍が南オセチア自治州とアブハジア共和国に駐留することで、民族紛争を鎮静化させる枠組みを作った。また、現実主義者の彼は、「トリビシの中央政府にはオセチア、アブハジアを実効支配することはできない」という認識を持ち、少数民族が居住する地域に広範な自己決定権を認め、平和維持を最優先した。

 シェワルナゼのかかる現実路線は、グルジア民族主義者には弱腰に見えた。
 2003年、「バラ革命」で、シェワルナゼは大統領を追われ、サーカシビリ政権が成立した。
 サーカシビリはロシアに戦争を仕掛けたが、グルジアは敗北し、南オセチアとアブハジアは独立を宣言した。
 2013年、サーカシビリも権力の座を去ったが、グルジアは未だにシェワルナゼ時代の平和と安定を回復できていない。

□佐藤優「東西冷戦を終わらせた現実主義者 ~佐藤優の人間観察 第76回~」(「週刊現代」2014年8月9日)
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 【参考】
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~

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【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~

2014年07月30日 | 社会
 2013年10月、APEC首脳会議で安倍晋三・総理は大見得を切った。
 <改革は、待ったなし。岩盤のように固まった規制を打ち破るには、強力なドリルと強い刃が必要だ。自分はその「ドリルの刃」になる>

 今年もこの文句を繰り返しているが、その後の安部は
   国家安全保障(日本版NSC)法、 
   特定秘密保護法、
   武器輸出解禁、
   集団的自衛権行使容認の解釈改憲
などにまっしぐら。肝心の規制改革は、単なるパフォーマンスに終始している。

 その典型が、医薬品のインターネット販売だ。
 アベノミクスの第三の矢、成長戦略(2013年6月発表)は、規制改革の中身がないと烙印を押され、大失態(総理の記者会見中から株価大暴落)となった。そのときの目玉が医薬品ネット販売の「全面解禁」だった。
 しかし、現実は「全面解禁」からほど遠い。

 医薬品には、2種類ある。
  (a)処方箋薬・・・・医師が処方しないと薬局の店頭で買えない。
  (b)一般医薬品・・・・処方箋がなくても普通に買える。
 このうち、(a)から(b)に転換して間もない医薬品など28品目について、ネット販売を認めるかどうかに焦点が当たってた。結局、「まだリスクが高い」という理由で、ネット販売は禁止になった。
 とはいえ、28品目は、(b)のうちたったの0.2%にすぎない。それ以外の(b)は解禁されたから、ほぼ「全面解禁」に見えるかもしれないが、それは大間違いだ。

 28品目だけがネット販売禁止で、外は自由だといえば、(a)のほとんどがネットで買える、と思ってしまう。ところが、これも禁止なのだ。
 (a)がネットで買えれば体調不良、身体不自由、多忙な人は助かるし、諸外国では当たり前だ。
 しかし、安倍政権は、「元々リスクが高いとされている(a)から(b)に分類替えした直後の医薬品など28品目のネット取引を禁止したのだから、(a)はなおさら禁止すべきだ」という理屈でネット販売を禁止した。
 (a)の巨大市場は6兆円。大衆薬の10倍だ。つまり、岩盤規制の本丸はびくともせずに残されてしまった。

 さらに、前記28品目については、ネット販売だけでなく「店頭で」あっても、家族などが本人に代わって買うことが禁止になった。
 その理由が驚きだ。  
 そもそもネット販売を禁止する最大の根拠は、「薬剤師が患者の状況を直接見ながら判断することが大事」というものだった。
 しかし、解禁論者は、「家族が代わりに買う場合もあるではないか」と反論した。
 当然の反論に追いつめられた薬局側は、「だったら、本人以外には売らないことにしよう」と言い出した。
 その結果、28品目は、家族が代わりに買うことが、新たに禁止されてしまった。

 実は、いま不動産のネット取引に係る議論が行われている。
 その議論では、医薬品とまったく同じように、政官財一体で屁理屈をこねまわす議論が展開され、規制温存の動きが強まっている。
 やはり、第三の矢は無理らしい。岩盤規制はいつまでたっても残り続けるらしい。

□古賀茂明「医薬品ネット販売解禁の大嘘 ~官々愕々第118回~」(「週刊現代」2014年8月9日)
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 【参考】
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~

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【イラク】「イスラム国」が支配地域を拡大 ~制圧されたファルージャ~

2014年07月29日 | 社会
 「イスラム国(IS)」の前身「イラクとシャームのイスラム国(ISIS)」によって6月に北部モスルが陥落してから大きく報道されるようになったが、ISISはすでに1月にイラク西部のアンバール州ファルージャを制圧していた。
 以下は、4月から1か月間のイラク現地の模様である。

 政府軍はファルージャを包囲し、空爆と砲撃を連日繰り返している。住民のほとんどは避難しているが、一部市内に残っている一般市民が犠牲になっている。ファルージャ病院には1月から7月1日までに死者503人、負傷者1,766人が運び込まれた。
 多い日には20人以上の負傷者が病院に運び込まれる。病院も爆撃を受けて死傷者が出ている。

 首都バグダッドからファルージャまで70kmほどだが、途中に軍の検問が10か所ほどあり、現地人以外の通行は許されていない。軍事作戦地域の検問所は、近づくだけで身柄拘束の危険がある。
 ファルージャ市内にはISISがいて、取材者を受け入れていない。見つかれば処刑される。

 ISISの支配地域では、イスラム法に基づく独自の法廷が開かれている。
 かつて「イラクの聖域アルカイダ機構」と名乗っていたISISは、日本人旅行者の香田証生を殺害したほか、市民の集まる市場を爆破したり、敵対者を処刑したため、2006年以降、米軍と手を組んだ地元部族から攻撃を受けて一時衰退した。
 こうした経験から学習したのか、住民との接し方を変えたが、住民は「連中がやってきたことはみな知っている。いずれ本性を現すと思っている」。
 ISISへの支持が広がっているわけでもないらしい。

 ISISが舞い戻った背景に、スンニー派住民の政府への不満がある。マリキ政権が「テロリスト」と疑ったスンニー派住民を次々と拘束し、拷問を加えているとしてスンニー派の多いアンバール州では2012年からは反政府デモが展開されていた。
 政府軍はこれに発砲し、死傷者を出したうえに、昨年末にデモ隊のテント村を強制排除。地元部族と軍・警察との間に衝突が起き、事態を収拾しようとした軍がファルージャから撤収した隙にISISが入り込んだ。一部の地元部族のほか、旧サダム政権時代の軍人らが参加している。組織だった攻撃を受けた警察・軍は装備を置いて遁走した。
 軍の中に協力者がいて、武器を横流ししているらしい。

 政府軍は地上部隊を送り込んで制圧を試みるものの、激しい抵抗を受けて被害が拡大している。4月までに6,000人が死亡し、12,000人が脱走した。
 結局遠距離砲撃、高高度からの空爆を繰り返し、無差別攻撃となって市民に死傷者を出して、さらに抵抗を受けるという悪循環になっている。

 一般市民に被害を出していることを知って脱走する兵士も多いほか、武器弾薬の補給が十分でなく、士気が著しく低い。モスル陥落でも司令官や兵士が脱走している。治安組織がまともに機能していない実態が露呈した。
 北部のモスルを陥落させたISISは、中部のティクリートも支配下に治め、西からはバグダッドの南側へ回り込むように進出してきている。
 シーア派兵士1,700人を処刑した、といった報道もある。シーア派民兵組織に続々と志願者が集まっている。軍では心許ない、ということもあろう。民兵は検問を素通りして最前線に向かっている。
 シーア派と混在する地域からスンニー派地域へと避難する住民も増えている。ISISだけでなく、シーア派民兵による住民襲撃を恐れているからだ。

□安田純平「「イスラム国」が支配地域を拡大 制圧されたファルージャをゆく ~イラクを取り巻き激動する中東は今~」(「週刊金曜日」2014年7月18日号)
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【イラク】独立へ加速するクルディスタン地域

2014年07月28日 | 社会
 イラクでは1か月ほど前からイスラム過激派組織が猛威をふるい、モスルなど主要都市をいくつも占拠した。
 イラク政府は首都防衛と各都市の奪還に向けて民兵を動員、戦時体制に突入している。

 宗派間対立が激化して内戦が再来し、「イラクはバラバラになるのでは」との懸念が高まる中、争乱に直接巻き込まれていないクルド人たちが、イラクからの“分裂”に向けて動き出している。
 クルディスタン地域(イラク北部の自治区)を率いるバルザー二大統領は、7月1日の英BBCのインタビューで述べた。「独立はクルディスタンの権利だ。もはやわれわれのゴールを隠さない。イラクはもう分裂してしまった」
 そして、今後数ヶ月以内にクルディスタンの独立を問う住民投票を行うと明言した。
 従来の公式姿勢(連邦制度のもとで自治区としてイラク国家に留まる)から一歩踏み出す発言だった。

 クルディスタンが事実上の自治区になって、すでに20年以上経つ。湾岸戦争(1991年)終結直後、国内の民衆蜂起を鎮圧したものの、余力を失ったフセイン政権は北部の統治を諦め、経済封鎖するとともに軍を撤退させた。
 6月半ばに組閣が完了したばかりの「クルディスタン地域政府(自治政府)」は、1992年から数えて第8期目の内閣だ。独自の議会や軍隊を備え、「国旗」も「国歌」も持つ。公式の会議では、イラク国歌と併せて2曲演奏されるのが通常となった。

 2003年にフセイン政権が崩壊した後、クルディスタンはイラクにおける正式な自治区として憲法で認められた。
 しかし、イラク中央政府との間では未解決の問題が山積みする。
 最たる問題は、石油資源だ。地域政府と中央政府と、どちらが自治区内の石油を開発、生産、輸出するかで揉めているのだ。
 地域政府・・・・独自に国際石油企業と契約を結び、油田開発に着手し、トルコ向けに建設したパイプラインで輸出することを目論む。
 中央政府・・・・今年初めから予算停止(制裁措置)。
 財源を依存する危険性をあらためて認識した地方政府は、ますます独自の石油輸出に固執。ついに6月、イスラエルに買い手を見つけて石油輸出収入を手にするに至った。

 もう一つの難問が、係争地問題だ。
 現在のクルディスタンの境界は、1991年に旧政権が軍を撤退させたラインを基本としている。クルド人が歴史的に自分たちの土地と考える場所の多くが“自治区外”となった。クルド人迫害の象徴的な場所キルクーク「クルドのエルサレム」)もその一つ。
 イラク戦争後、中央政府との交渉で土地の帰属を決めることになっていたが、いまだ解決の目処すら立っていない。
 そのため、係争地にはクルド軍もイラク軍も展開し、時に一触即発の事態も発生していた。

 そこに起こったのが、今回の争乱だ。過激派の攻撃でイラク軍が撤退する中、クルド軍は次々に「クルドの土地」へ進軍。漁夫の利を得る形で係争地のほとんどを占領してしまった(キルクークを含む)。
 この結果、クルドは長い前線を挟んで過激派と対峙することになっている。クルド軍と過激派との間で散発的な戦闘も続いている。それでも、地域政府の前首相から普通の市民まで、クルドはもう撤退しない」。

 地域政府のネチルヴァン首相は、昨年末、国際会議のスピーチで、18万人が殺されたと言われる26年前の旧政権によるクルド人虐殺事件に触れ、「もはやほかの誰かに自分たちの運命を決めさせることはできない」と強調。中央政府に対する強い不満と不信が、イラク戦争後の新たな政治体制でも解消されなかったことが、彼らの独立の動きの背景にあるのだ。

 独立には国際社会からの承認が不可欠だ。国境線の変更は他国へも波及しかねないセンシティブな問題であり、現時点で支持している国はほとんどない。
 クルディスタン独自の石油輸出収入は、まだ微々たるもので、独立後の未来が今より7良くなる保証はない。
 独立に対する国内外からの反発が高まれば、方針転換を余儀なくされる可能性が十分にある。
 それでも、イラクの混迷が深まる今、グルディスタンは独立国家への新しい道を模索し始めている。

□吉岡明子「独立へ加速するクルディスタン地域 ~イラクを取り巻き激動する中東は今~」(「週刊金曜日」2014年7月18日号)
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【料理】毎日もちっとも面倒くさくない ~手抜きの技術~

2014年07月27日 | 生活
 Q:毎日のように料理を作るのは面倒じゃないですか?
 A:面倒くさくならないような料理を作ればいいんです。そのコツは次の2つ。

 (1)料理レシピから考えない。レシピから考えると面倒になっちゃう。
 <例>夕方になって、「よし、今日はミートソーススパゲティを作ろう!」と決めたとする。ミートソースを作るのには、挽肉・タマネギ・トマト・ニンニクなどが要る。食材が足りなかったら買いに行かなくちゃいけない。もうその時点で、「買い物面倒くさいなあ」になっちゃう。
 でも、冷蔵庫にトマト・ニンニク、乾物の棚にパスタがあれば、わざわざミートソースにする必要はない。シンプルなトマトのソースを作ればいい。
 冷蔵庫にナスもあれば、ナスのトマトソースができちゃう。
 ツナ缶があれば、こってりしたツナのトマトソースができちゃう。
 要するに、冷蔵庫や台所の棚にどんな食材があるかを見て、そこから料理レシピを決めればいい。買い物に行ったり、「これがない、あれがない」と悩むこともない。料理の献立が一発で決められる。

 (2)余計な手順はどんどん省いてしまう。トマトソースのスパゲティでいうと、
 <例>麺を茹でる時に大鍋に塩を入れる・・・・のは、家めしレベルだったら、ほぼ不要。厳密に言えば多少の味や食感は変わるが、家めしならそんな微妙な違いよりソースのでき具合とか、茹であがった後の段取りとか、そういう別の要素で味が大きく左右されちゃう。塩を入れるかどうかは、そんなに大きく影響しない。だから麺を茹でる時の塩は省く。
 トマトソースを作る時も、レシピ本には「まずニンニクとタカノツメを弱火で熱し、その後にみじん切りのタマネギを入れてさらに炒め、そして最後に潰したトマトを加えて、うんぬん」というように手順が書いてある。しかし、家めし的には具材はどんどん放りこんでしまってかまわない。むろん正式にやったほうが美味しくなるが、味つけや手際のよさなどの他の要素の方が比重が大きい。具材を投じる順番など、重要ではない。

 アウトドアの、例えば登山の時に料理を作る際も、調理道具が乏しくて手間をかけられない山中では、トマトソースはたいていこのやり方で通せばいい。これで十分に旨い。
 こんなふうに省力化してしまえば、家庭料理はかなりシンプルで簡単になる。
 面倒でなくなる。
 
□佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト・「TABI LABO」共同編集長)「毎日の料理もちっとも面倒くさくない ~オヤジの家めし 2~」(「週刊金曜日」2014年7月11日号)
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【食】10年におよぶ調査でわかったGMナタネ自生の広がり

2014年07月26日 | 社会
 (1)GMナタネの自生調査は、2005年に始まった。今年で10年目。
 全国で多くの市民が自主的に調査し続けてきた。正確な参加者数は不明だが、毎年1,000人超と推定される。
 ことほど左様に大規模な、市民による科学的調査は他にはないだろう。その原動力に、GM食品は食べたくない、という消費者の強い思いがある。

 (2)日本の食卓に乗るナタネ油などに用いられるキャノーラは、ほとんどをカナダに依存している。
 カナダにおけるGMナタネの割合は、97.5%(2012年)に達した。
 いまや、ナタネのほとんどはGMナタネになってしまった。
 ナタネは種子だから、こぼれ落ちると自生し、花が咲くと花粉が飛散して次の世代をつくってきた。
 市民は調査とともに抜き取りも行ってきたが、汚染の拡大に追いつかない。
 
 (3)この10年間で、汚染の範囲は輸入港や油工場の周辺、その間の輸送経路に限定されず、市街地などにも広がっている。
 寒いカナダで栽培されるキャノーラは、温暖な日本では越年し、本来1年草なのだが、多年草化する現象も見られた。
 汚染の拡大とともに交雑が繰り返され、世代交代も起きている。キャノーラ間だけでなく、カラシナ、在来のナタネ、ブロッコリー、ハタザオガラシといった雑草との交雑種と見られるものも見つかるようになった。
 このまま汚染が拡大すれば、農家の畑にまで汚染がおよび、食品に入ってくる可能性も強まってきた。

 (4)検査は、
  (a)一次検査・・・・簡易キットを用いて行う。
  (b)二次検査・・・・念のためにDNA鑑定などに用いるPCR法で行う。
  (c)2014年には、新たに群馬県と新潟県で見つかった。これまで(a)でGMナタネが見つかった都道府県は26に達した。日本の全都道府県の半数以上の自治体で見つかったことになる。
  (d)2014年の調査の特徴は、(a)の簡易キットの反応が複雑化していることだ。次の①~③のようなものを「隠れGMナタネ」と呼び、高木基金の助成を得て本格的な調査に乗り出したが、原因はまだよくわかっていない。
   ①最初の頃は、検査キットでの反応は陽性か陰性か、明確だった。しかし、最近はあいまいなものが増えている。
   ②大坂での調査で、その場で行った検査では陰性と判定されたが、そのまま一晩置いておいたとこおr、陽性反応が出ていた。この場合、たまたま一晩置いておいたために分かったが、通常はそんなことはしない。
   ③(a)で陰性だが、(b)で陽性と判定されるものも増えている。
  (e)(d)-①~③のほか、(a)の簡易キットの反応で、判別がつかないくらい薄かったり、あいまいなものが増えている。それらは、(b)を行うと、ほとんどが陽性反応だ。これは、世代交代を繰り返しているような汚染の激しいところで顕著だ。キット反応の変化は、世代交代が関係していると推定される。

 (5)GM作物の輸入が始まって18年たつ。
 日本では栽培されていないものの、こぼれオチによる汚染によって、これほどの変化が見られるのだ。
 栽培国では、さらに深刻な問題が起きていることが、容易に想像できる。  

□天笠啓佑(ジャーナリスト)「10年におよぶ調査でわかったGMナタネ自生の広がり」(「週刊金曜日」2014年7月11日号)
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 【参考】
【食】サプリメントの機能性表示規制強化に向かう米国
【食】遺伝子組み換え作物規制で住民が相次ぎ勝利 ~米国市民の底力~
【原発】【食】健康食品「青汁」の回収 ~放射能照射食品~
【食】来年から始まる弁当の健康認証マーク ~コンビニ弁当も健康?~
【食】消費者庁が健康食品の機能性表示案を提示
【食】遺伝子組み換え食品、農薬まみれ食品 ~TPPで規制撤廃(2)~
【食】米国産「危険食品」が大量流入 ~TPPで規制撤廃~
【食】アジア市場が狙われている ~GM稲の商業栽培~
【食】バングラデシュで遺伝子組み換えナスの栽培始まる ~GM食品の拡大~
【食】農薬類は微量・低濃度でも安全とはいえない
【中国】現地取材で痛感 やっぱり危ない中国産食品
【中国】実録・猛毒食品「僕らだって怖い!」 ~中国人は語る~
【食】添加物の危険性 ~煮付け油揚げ~
【食】危険な除草剤の増加 ~除草剤耐性GM作物~
【食】イオンの産地偽装 ~中国猛毒米~」【食】農薬が添加物扱い ~バナナに使われるポストハーベト~
【中国】汚染大国 ~PM2.5、農薬、重金属まみれの野菜~
【食】中国における食品汚染事件 ~悪質ケース50(抄)~
【食】「危ない中国産」を見破る法 ~ジュース・菓子~
【食】中国産ウナギ肝から国際基準の1.5倍のカドニウム
【食】外食、どのメニューに中国産が入っているか ~中国食品を見破れ(3)~
【食】安いものにはウラがある ~成型肉の添加物~
【食】中国産から身を守るためのQ&A ~中国食品を見破れ(2)~
【食】中国食品を見破れ ~スーパー・外食~
【食】中国猛毒食品(2) ~アサリ・エビ・ピーナッツ・漬物・ウナギ~
【食】中国猛毒食品 ~絶対に食べてはいけない遺伝子組み換え米~
【中国】影の銀行つぶし ~アベノミクスの行方を左右する中国の政策~
【中国】凄まじい貧富の格差
【中国】政経一体システム ~今後どうビジネスを展開するか~
【中国】政府から独立している軍隊 ~尖閣をめぐる軍事的問題~
【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~
【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~
【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~
【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~
【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド

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【原発】施設管理者に避難計画丸投げ ~川内原発~

2014年07月25日 | 震災・原発事故
 九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働手続きが進む。
 そうした中、援護を必要とする人びと(寝たきり高齢者・心身障害者など)の避難対策が、個々の施設に押し付けられている実態が明らかになってきた。
 川内原発から半径30km圏内の9市町はそれぞれ防災計画を策定しているが、要援護者の避難については具体策を決めていない。
 施設管理者に避難の策定が丸投げされるのは、行政の責任放棄ではないか。

 「10km圏外の要支援者(要援護者)の施設については避難計画を策定する必要はない」
 6月13日、伊藤和一・鹿児島県知事はこのように発言した。
 事実、10km圏外の社会福祉施設・医療関係の227施設については、施設管理者が避難計画を策定する、とのみ定められている。

 「在宅の要支援者(要援護者)は他の避難者と一緒に体育館や公民館に避難する計画だが、これも非現実的」【江藤卓朗・いちき串木野市(原発に隣接する)内の社会福祉施設経営者】
 「医療を必要としている人や、パニックを起こす人もいる」【同上】

 自治体への聴き取りによれば、避難先の床面積は2平米/人に限られるのが実態。
 1993年の水害の際には、ある施設から30人の入所者を7か所に分けて避難させた。それがどんなに大変だったか。【馬場添司・ケアマネージャー協会いちき串木野支部会長】
 100人の入所者を1か所では受け入れられない。行政は現状を調査して計画するべきだ。【同上】

 社会的弱者への配慮を怠るなど、多くの課題を抱えながら進む再稼働について、いちき串木野市民らが、6月24日、「市民の生命を守る避難計画がないままでの再稼働に反対を」という趣旨の陳情を同市議会および田畑誠一・市長に対して行い、賛同する15,464筆の署名を提出した。

□満田夏花(FoE Japan)「川内原発再稼働手続きに進むも避難弱者は・・・・ 施設管理者に避難計画丸投げ」(「週刊金曜日」2014年7月18日号)
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【経済】成長は本当に必要なのか ~国家戦略特区~

2014年07月24日 | 社会
 経済成長がすべてか?
 否。
 経済成長は、それがすべてではないにせよ、必要か?
 然り。
 だが、なぜ必要なのか?
 金融緩和、財政出動に続くアベノミクス第三の矢である規制改革を実現するための国家戦略特別区域は、憲法からみて、果たして必要なのか?

 岩盤規制は<私の「ドリル」から、無傷ではいられ>ない、と安倍首相は1月22日のダボス会議で述べて、自治体の提案に基づく既存の制度と異なり、政府が率先して規制「改革」を行うことを強調した。明示されたのは、医療・介護・保育、労働、教育、農業分野である。

 安保より経済優先の政策を、というのが安倍政権に対する市民の側からの最大公約数的な声であろう。
 しかし、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認論と、それに先立つ武器輸出の原則解禁は、軍需産業の成長を促進させる効果をもっている。実際、6月中旬にパリで開催された武器見本市には、日本政府の「勧誘」に応じた三菱重工や東芝など13社が初参加し、今後は米国やNATOとの武器共同開発も想定されている。これに軍事転用の可能性をもつ原発の再稼働と、他国への原発輸出を加えれば、それだけで、経済波及効果は巨大なものとなる。まさに「軍事ニューディール」である。「岩盤規制」には、実は憲法9条も含まれているのではないかと思えるほどに、安倍政権の成長戦略においては、軍事と経済が密接に結びついている。
 これは、戦後自民党の路線とは根本的に異なる「異次元緩和」であり、論理的には自民党事態を「岩盤」とみて解体対象としようとしていると解する余地もある。しかし、規制改革会議は、自民党の圧力によりJA全中の廃止を撤回し、骨太の方針では、同様に予算獲得を狙った自民党からの圧力で各種公共事業が追加され、歳出削減方針が後退している。
 このように、自民党の支持基盤である既得権益は、実際には「無傷」のまま残されている。「ドリル」が向かう先は、極めて恣意的なのである。ちなみに、成長戦略をめぐって会議体が林立しているわけだが、その提言相互の関係が不明確なrために、つまみ食いが可能で、前記恣意性の温床となっている。また、各会議の案とは無関係に、安倍首相がカジノを成長政策の目玉にすえると5月30日に宣言して、民営ギャンブルを解禁するカジノ(特定複合観光施設整備推進)法案が6
月18日に審議入りしたことも、各会議の議論に重みがないことを逆説的に示す一例といえる。

 政府の最重要課題が経済成長にあるという信念が各国で共有され、自由市場経済の名の下に政府間で熾烈な生存競争が繰り広げられている現状では、脱経済成長論を掲げて特区構想を批判しても、議論はすれ違いに終わる。規制改革に託された役割は、成長の限界ゆえに、「既得権益」を解体することで新たな成長先を作り出すことにあるからである。それに向かって、成長を断念しろと説いても、相手方は聞く耳を持たないだろう。

 「企業による農地所有」を例として憲法の視点からみた特区の規制改革をみる。
 農業分野において改革すべき「岩盤規制」として観念されているのは、農地法の理念とされる農地耕作者主義である。同法3条2項4号が、農地の所有者は「耕作又は養畜の事業に必要な農作業に常時従事する」ことを要求していることから、農地の所有者は耕作者でなければならないと理解されてきた。その結果、株式会社の農地所有は禁じられ、賃貸借が認められるにとどまっている。
 農地所有権に関しては、戦後改革の一環としての農地改革、すなわち、戦前の地主--小作関係を否定し、自作農創設を目的として土地所有権を保障するという制度改革がなされた点を無視することはできない。農地所有権は、憲法上の財産権として保障されているだけでなく、農地改革の経緯から、農地の所有者は利用者でなければならないと考えられてきたのである。
 農地耕作者主義は、日本国憲法成立の前提をなす農地改革によって生み出された「岩盤」であり、憲法上の「既得権」である。2009年の農地法改正時に、株式会社の農地所有権取得が認められなかったことの背景には、こうした事情もあった。これを解体するには、必要性だけではなく、しかるべき憲法論を備えた「ドリル」が必要である。

 「規制改革」という用語から通常連想するのは、通常、政府規制でがんじがらめになった状態からの解放である。だが、国家戦略特区における「改革」は、そうではない。これは、政府(官僚)主導の新たな産業政策である。高度成長期におけるそれと異なるのは、護送船団方式ではなく、自己責任方式であることだ。そして、ゼロサム・ゲームのもとでの市場の奪い合いを正当化するために、元来が正当な権利や利益に対して「既得権益」とか「岩盤規制」とかいったイメージの悪い言葉を割り当て、それを解体すると称して、経済成長率に寄与しそうな企業に分け与え、経済成長の実現を演出する。それにより、多少の収入が増えれば、国民は文句を言わないだろうとタカをくくって進行する解釈改憲。
 立憲主義法学の常識からすれば、政府の役割は、本来、市民の生命、自由、財産の保障にある。しかし、現在進行中の「規制改革」は真逆だ。政府は市場を手厚く保護し、市民を放置している。経済成長は、なぜ必要なのか。
 安部政権の成長政策は、憲法の視点からだけでなく、例えば、労働者を不幸にする労働規制の緩和や、原発再稼働を含む環境破壊などの点でも賛成できない。のみならず、いまや政府との「社会契約」を破棄(その最低限は納税者反乱である。)すべき時が来たとさえ思う。

□中島徹「憲法からみた「国家戦略特区」 --経済成長の必要性を問い直す」(「世界」2014年8月号)
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【土建国家】成長神話の本当の意味、最後の土建国家政権に

2014年07月23日 | 社会
 (26)アベノミクスの「3本の矢」は希望的観測を示したものにすぎない。消費と投資を増やしたいから金融緩和をしたわけだが、結果を国民経済計算で確認すると、消費増税前の1~3月の駆け込み需要があるので、年度ではなくて暦年を見ると、
  (a)実は民間消費は民主党政権下と同じ程度の消費でしかない。
  (b)経済成長率や設備投資はむしろ落ちている。

 (27)成長を支えているのは、
  (a)駆け込み需要・・・・伸びている。
  (b)公的固定資本形成と民間住宅・・・・伸びている。
 結局アベノミクスとは、典型的なケインズ流の景気刺激策だ。
 しかし、震災復興の需要が一段落したときに、都市の人びとが公共事業に頷く理由はない。減税も止まっている。都市の人びとの反乱がまた起こる。

 (28)アベノミクスが支持され、期待されるたった一つの理由は、経済が成長していることだ。これは土建国家型利益分配の残滓だ。サービスではなくカネと仕事を与える、という発想。土建国家は減税による利益誘導で支えられているから、増税して社会保障をする発想は出てこない。
 今度の消費増税だって、「税と社会保障の一体改革」のアイデアはよかったが、増税する5%のうち、社会保障に回すのは1%。4%は財政再建にあてる、という。じつは振り返ってみると、(17)の土光臨調の前の1981年の法人税増税から今回の増税まで、すでに30年以上たっているが、この間に基幹税の純増税は一度もなかった。全部、減税のための増税だった。
 人間の必要をマーケットからのみ調達する社会をつくってきたツケが、いま出ている。市場によって社会を回していく以外のモデルが、そのために想像できなくなっている。

 (29)否定的に言われる「成長神話」だが、成長が神話となるだけの理由があったのも事実だ。端的にいえば、私たちの社会は、成長しないと人間が生きていけない仕組みになっている。
 賃金が下がり、貯金がなくなれば、子どもを塾に行かせられない。家を買えない。親を養老施設に入れることができない。・・・・だからいまだに成長が待望されて、アベノミクスが喜ばれる。

 (30)成長神話の裏返しとして、消費が、自分は何者であるかを確認する行為としての意味を持ったのだ。「三種の神器」がその象徴だ。
   最初 冷蔵庫・洗濯機・テレビ
   次   カラーテレビ・クーラー・自動車(3C)
 ところが、いま、消費もできなくなって、私たちは本当に日本人なのか、と考える人が現れ始めている。
 少なくとも、中流階級であるという意識はない人が増えている。
 太田弘子は、土建国家を否定して出てきた規制緩和派だが、初めは「消費者主権」を主張していた。企業ではなく、消費者の選択を主張していた。すごい覆り方だ。
 いまや「一人前の消費者」にさえなれない人が大量に生まれている。
 逆にいえば、かつて「消費者主権」を唱えていた人びとは、いま消費者の特権を謳歌できているごく一部の人のためだけに一生懸命働いてきたともいえる。

 (31)以上のように社会のなりたちを知れば意味がわかるが、一般的には、成長ありきではない道がある、といったとき、違ったイメージをもたれることが多い。
 市場が円滑にジャンクんしていくことと、成長しなくても私たちが生きていける社会とは、矛盾しない。
 本来、成長して人びとを豊かにするのは市場の役割のはずだ。家族が解体していく中、政府は、家族が果たしてきた役割を代わりに担っていかなければならない。
 その結果雇用が生まれているのがヨーロッパ・モデルだ。
 だから、本来、政府がやるべきことに取り組むなかで景気もよくなる、という側面をもっと大事にしたほうがいい。
 都市の中間層をきちんと納得させるために、じつは経済政策のウェイトは減っていく。むしろ重要なのは「結果としての雇用政策」だ。
 ここで都市の個別利害に応える形で政治が動けば、また同じことの繰り返しだ。
 いま本当に必要なサービスを、ユニバーサルに、政府がその責任の下において満たしていけば、そのことが雇用を生み、そして結果的に経済もよくなるはずだ。
 安倍政権も、土建国家に代わる新しいモデルは結局示せていない。根本的な変革を回避する一方で、集団的自衛権問題なんかを持ち出して、「国体を変更する」という。博打打ちだ。
 社会が社会たり得る、重要な核として利益分配があったが、それがなくなると、他人の既得権益が目についてしょうがない。他者の利益を削るためにムダ遣いの犯人探しが横行するようになる。すると、最後に連帯の拠り所になるのは愛国心だ。米国でも、社会が不安定化するたび、戦争で景気をよくしようとしてきた。同じような道を、そんなところまで真似しようとしているのかもしれない。

 (32)土建国家システムの解体が始まって、もう16年たつ。その解体期は、そろそろ終わる。
 安部政権で終わるべきだ。
 安倍政権で終わらなければ、財政が破綻するのを待つしかない。

□井出英策×佐々木実「「土建国家」と規制改革の果てから」(「世界」2014年8月号)
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 【参考】
【土建国家】規制改革派の登場、“オプチノミクス”再来
【土建国家】日本版「働かざるもの食うべからず」、二つ目の分岐点
【土建国家】の定義、一つめの分岐点 ~戦後史の見直し~
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【土建国家】規制改革派の登場、“オプチノミクス”再来

2014年07月22日 | 社会
 (17)1998年の節目を考えるとき、重要なのは
  (a)財政再建が叫ばれる一方、
  (b)土建国家のロジックにとらわれて成長も追求する、
というアクロバティックな難題を抱え込んだこと。
 第二次臨時行政調査会(1981年、土光臨調)のあと、鈴木善幸内閣は「増税なき財政再建」路線を打ち出すようになる。これが1990年代の流れをつくっていった。
 その後、バブル経済で税収が劇的に増えて、財政再建の問題は解消したかのような形になる。これは長期的に見れば、日本国民にとって不幸なことだった。増税によるサービスの道を閉ざしたからだ。
 そうしたなかで竹中平蔵を始めとする「改革派」のロジックが登場する。政府を小さくすれば成長する、という主張だ。

 (18)市場原理に基づいた改革が、ある種の正当性を持って出てきた面はたしかにある。でも、同時にこの種のロジックが何かを隠蔽してしまったのも事実だ。
 規制改革が本格的に始まるのは細川政権時代だ。当時は円高対策の名目もあったが、その後、橋本政権が5大改革、6大改革を言い出して、産・官・学の改革グループが形成されていく。
 <例>宮内義彦・オリックス元会長も1990年代半ば頃から改革グループに入ってくる。宮内は、公共投資で成り立っているような地域はおかしい、と言っている。経済のルールから外れた、閉鎖的なところにメスを入れるべきだ、と主張する。

 (19)規制緩和が行われた背景は、米国からの圧力もあったし、汚職による行政不信、都市中間層の要求など、複合的なものだ。
 ただ、土建国家の付き詰まりを背景に規制緩和が支持されたというのは、とても重要な点だ。
 分配する利益がなくなって、借金もこれ以上はできない。新たな生活保障を国民は求めるが、それを実現できない政府が、「奥の手」として自らを切り刻む。つまり規制緩和によって国民の歓心を買う。
 規制緩和は、国家が担ってきた領域を民間に譲り渡すことでビジネスチャンスを作った。しかし、原則論だが、国家の領域とは、儲からないけれども、必要なものをみんなが税で負担し合うというところにあるはずだ。

 (20)宮内義彦には、新しい社会を構想する大きな構えがない。あるのはビジネスの論理だけだ。
 最初はタクシーの参入規制とか、経済規制の話から始まった規制改革論議だが、緩和メニューが出尽くしてくると、深い議論もないままに、医療とか教育などの社会規制に関わる分野を対象にするようになる。
  (a)規制の問題を論じることと、
  (b)社会のあり方を論じること
の間に境目がない。
 公共部門には市場原理を持ち込めない、との理解が共有されていない。
 規制緩和をすれば成長する・・・・わけではない。
 <例>タクシーの規制緩和は弊害のほうが大きい。
 具体的な事例でその効果を検証し直すことが重要だ。
 米国は民営化、規制緩和の象徴のように語られるが、州際規則を見ると米国は日本よりも厳格な規制をもっている、ともいえる。本当に規制緩和が“国際基準”なのか、根本的な問題もある。
 
 (21)市場の領域だけでは処理できない別の価値観があるんだ、と打ち出すことが必要になっている。
 <例>宇沢弘文は、社会的共通資本という概念を提唱した。
 抽象的で遠回りのように見えたとしても、やはりそういう価値観とか理念がなければ、社会のありようは議論できない。人間は環境に適応するばかりでなく、自分自身の意志をもっている。

 (22)1998年、小渕政権は大型公共投資を再開し、国債発行残高が300兆円台に跳ね上がった。
 オプチノミクスの反動としてすさまじい財政再建プレッシャーが生まれ、その後の政治を規定していった。
 いまアベノミクスで公共投資が復活し、日銀も「異次元緩和」で大量に国債を買い入れている。遠くない将来、大きな反動が起こるのではないか。

 (23)安部総理は小渕総理と同じことをやろうとしている。小渕は、景気をよくしたいと、空前の減税と、大規模な公共投資を行った。土建国家の最後のあだ花だった。
 このときの財政出動も、都市的な利益にはまったく結びつかない。その反発が小泉政治へとつながっていった。
 都市的な利害を無視した政治は破綻する。

 (24)財政出動と金融緩和という点では、アベノミクスは典型的なケインズ政策を行っている。
 だが、成長戦略では、例えば国家戦略特区は「企業が世界一ビジネスをしやすい環境」をつくる、と謳っている。
 ケインズ政策と新自由主義的成長戦略の組み合わせは詐欺ではないか。
 「改革派」は、企業の成長こそいちばん大事との前提で、さまざまな制度設計をしてきて、いまもその過程にある。高度成長期とは違った形ではあるが、「企業が主人公である」点は同じ。またもや法人減税の話が出てきている。

 (25)小泉政権下で非正規雇用問題が大きく注目されたが、いま、あらたな解雇規制の緩和や労働市場改革が浮上している。ビジネス至上主義の極まりという印象だが、こうした動きを支えているのが経済学者とエコノミストだ。
 彼らが影響力を持ち始めたのも、小淵政権からだ。このときの経済戦略会議で竹中が公式デビューを果たすが、中谷厳や伊藤元重など、その種の会議を歴任する人たちも出てきた。
 いまの産業競争力会議、国家戦略特区諮問会議は、ともに首相がメンバーに含まれていて、省庁の利害を超えた強大な権限をもつ。
 国家戦略特区諮問会議は、事実上竹中がつくったようなもの。設立の根拠となる国家戦略特区法には、この諮問会議の議員になる要件が定められているが、それによると構造改革派しか民間議員になれない。多様な立場からの意見を受け付けない仕組みをつくった。
 どれだけ国家を解体しても、これで十分、という基準があるわけではない。改革派は、まだ規制緩和が足りない、とひたすら底へ向かって競争をする気でいる。

□井出英策×佐々木実「「土建国家」と規制改革の果てから」(「世界」2014年8月号)
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【土建国家】日本版「働かざるもの食うべからず」、二つ目の分岐点
【土建国家】の定義、一つめの分岐点 ~戦後史の見直し~
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【土建国家】日本版「働かざるもの食うべからず」、二つ目の分岐点

2014年07月21日 | 社会
 (8)自動車や電機といった製造業が「日本型企業」の主役だったが、それでも建設業がこれだけの影響力を持ってきたことが重要だ。大手ゼネコンだけではなく、地方には、世界に例を見ないほど中小の建設業が生き残っていて、兼業先を提供する形で農業人口も長らく支えてきた。
 1965年を境に、急激に三大都市圏への人口流入が減るが、この時期は地方への公共事業を増やした時期だ。その後も、公共事業の増減は、人口移動の波に大きな影響を及ぼしている。
 建設業衰退の結果、寄付が集まらず、花火大会や祭りを開催できなくなった地域も多い。
 建設業が地域コミュニティの紐帯として機能していたことの意味は大きい。

 (9)いま新自由主義に反対している人のなかにも「田中角栄は案外よかったね」と言う人がいる。これはおそらく、東京一極集中とか、地方切り捨てのことが問題視される文脈での評価だ。

 (10)「田園都市国家構想」を掲げた大平正芳も、コミュニティの維持を重視していた。
 家族の相互扶助、個人の自助努力を強調して、政府の役割を限定しようとする傾向もが彼を始め、当時の政治家たちに共通している。
 これは自己責任という形で今日にもつながる問題だ。
 大平が掲げたのは、あくまで「家族基盤の充実」だ。大平だけでなく、さかのぼれば高橋是清、池田勇人なども、社会保障の「行き過ぎ」、福祉による「甘やかし」を警戒していた。池田は、「貧乏人を救うんだという考え方よりも、立ち上がらせてやるという考え方」が大事だとハッキリ言っている。

 (11)「働かざるもの食うべからず」とレーニンが言ったとき、彼は資本家階級のことを念頭に置いていた。
 ところが、日本人にとっては、働かなくて貧しくなった人間は飯を食うな、という意味を持つ。この「勤労」観がどこに由来するかは重要な問題だ。
 日本社会において「働く」ことはどう位置づけられているのか。自己責任論とも関係してくるが、「保守対革新」といった単純な構図では片付けられない深いテーマだ。
 
 (12)土建国家のシステムは、毎年減税して、国民の貯蓄率をどんどん上げていくことを前提にしていた。高度成長が止まり、その仕組みはいったん揺らぐものの、今度は政府が借金して無理やり成長を生み出していくことで、この循環を維持しようとした。
 土建国家が解体期に差しかかる1998年が「象徴的な転換の年」だった。
 1997年のアジア通貨危機のあと、山一證券や拓銀が破綻し、翌1998年には、長銀に公的資金が注入されたり、経済は非常に混乱していた。
 投資のグローバル化がいわれる中、金融ビッグバンの一環として、この頃から国際会計基準も導入された。

 (13)1970年代は、農村が自民党の強固な支持基盤だった。だから、田中角栄たちは、いかに都市への人口流入を抑え、地方に人を誘導するかを考え、人医療の無料化や5万円年金の導入などの対策を打った。
 ところが、1990年代後半から、東京への流出が大きく進み、無党派層とか浮動票が政治を動かすようになる。2005年頃には、三大都市圏の人口が5割を超えている。
 自分の老後に明るい見通しを持っているか、という質問には、「全くそうではない」「どちらかといえばそうではない」という回答者の割合は、
  1978年 43.8%
  1999年 80%超
 何が一番心配かという質問に必ず出てくるのは年金。
 政府が取り組むべき政策も、年金、子育て、雇用、医療・・・・の順だ。【国民生活選好度調査(内閣府)】
 少子高齢化、女性の社会進出という社会構造の変化とともに、財政ニーズは公共投資から、社会保障へと明確に変化した。
 国民のニーズと、土建国家政府が提供するものにミスマッチが生じた。

 (14)1998年は、日本経済の環境が劇的に変わった。国際会計基準のもと、外国人持ち株比率が増え、投資家がキャッシュフローを重視し始める。企業は負債を減らす「健全経営」を追求するが、アジア通貨危機後の苦境のなかで、企業ができたのは経費削減だけだった。政府も労働規制緩和でこれを支えた。
 そこで1997-98年を境に、経常利益が増大していく一方、経常利益に占める人件費の割合は減少に転じた。人件費の削減により企業収益が支えられる構造が定着していった。
  
 (15)企業が内部留保を溜め込んで、設備投資もしない、給料としても還元しない、というのは異常な事態だ。
 企業が、企業自身のためにカネを確保する。経済成長期とはまったく異なるタイプの「企業主義」だ。
 企業が貯蓄超過に転じて、その分は結局、銀行を媒介にして国債に流れていった。

 (16)マクロで見ると人件費が削られ、労働者に負担を強いることで企業に貯蓄が生まれ、これが国債価格を支えた。
 異常な事態ではあるが、これが崩れると今度は国家財政の破綻に結びつく問題になってしまう。
 キャッシュフロー経営への転換以来、多くの企業は、賃金に加えて、法定外福利厚生費を抑制していった。社宅や保養施設をもつ企業は、もうほとんどない。
 賃金が減らされても、最終的には企業が潤えば労働者も潤うと、労働者は資本に協調的な態度をとってきた。成長時代の記憶に引きずられたか。

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【土建国家】の定義、一つめの分岐点 ~戦後史の見直し~
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【土建国家】の定義、一つめの分岐点 ~戦後史の見直し~

2014年07月20日 | 社会
 (1)土建国家の定義・・・・経済成長を政府が支えながら、公共投資と減税の二本柱によって利益を分配するシステム。
 土建国家型利益分配メカニズムから戦後史をみると、日本という国のかたちがこれまでとはちがった形ではっきり見えてくる。

 (2)前史。
 1960年代以降、公共投資を地方に傾斜配分し、都市には移動できない低所得層の再雇用機会を保障した。次に減税。成長の果実を分配し、都市中間層も受益者とすることで地方への資源配分に合意をとりつける役割を果たした。公共投資と減税がパッケージになっていて、都市と地方、中間層と低所得層の連帯を可能にした。

 (3)土建国家が離陸する分岐点は、ニクソンショック(1971年)、オイルショック(1973、1978年)と、経済危機があいついで、経済成長の鈍化に直面しつつあった時期。
 一時的には、国際的に公共投資を重視する動きがみられた。ところが、その後の抑制期に、日本だけが公共投資への依存を深めていった。 
 このとき、1973年(福祉元年)ごろ、日本政府には2つの選択肢があった。
  (a)社会保障を現金だけでなく、現物給付もあわせて拡充し、必要な財源を増税によってまかなう道。
  (b)赤字国債を大量に発行して、政府が成長のエンジンとなることで、高度成長期の利益分配(減税と公共投資による統合)を再生産していく道。
 (a)を選べば日本もヨーロッパ型福祉国家へ進む可能性があったが、結局(b)を選んだ。すると、高度成長期のように自然増収をどう分配するかではなくて、借金で確保した予算をどう分けるか、奪い合いの政治をせざるをえなくなる。公共投資が増えたら、その分、社会保障を削る、という発想が定着する。

 (4)(3)の分かれ道から、日本は、ずっと現金給付のスタイルできた。増税で現物給付を豊かにするような経験をもつことはなかった。むしろ減税により還元されたお金で、教育・福祉・医療・住宅等の社会サービスを市場から購入するスタイルに馴染んでいく。

 (5)ヨーロッパでも日本でも、ある時点までは、社会にとっての最大のリスクは男性稼ぎ主の賃金がなくなることだった。だから、疾病手当や失業手当、退職したときのために年金制度を用意してきた。
 でも、しだいに、女性が担ってきた仕事(福祉・介護・保育など)の担い手をどう確保するのかが新しい問題になった。そこで、女性の社会進出が進むにつれ、ヨーロッパでは育児保育や養老介護サービスを劇的に増やしていく。
 一報の日本は、日本型福祉社会論のように、女性をできるかぎり家に押しとどめることで、社会保障を抑制しようとした。

 (6)転換(分かれ道)の当時は政治的には冷戦下、保革対立の時代だ。
 田中角栄らが老人医療の無料化や5万円年金の導入など、社会保障政策を充実させた背景にも、社会党や共産党などが地方で存在感を示し始めて、各地に革新自治体が現れたことへの危機感があったからだ、とされる。

 (7)(3)の選択肢は、福祉について、普遍主義に進むのか、選別主義に行くのかの分岐点でもあった。
 このタイミングで台頭してきたのが「族議員」だ。族議員の政治は、特定の官庁、利益団体と結びつきながら、個別利益を導入する政治だ。しかも、中選挙区制では複数の当選者が出るから、他の候補とは違う利益を誘導しないといけない。
 公共事業は、横並びで省庁が予算をぶんどっていくのに都合がよい仕組みだった。道路をつくれば建設省、鉄道なら運輸省、福祉施設なら厚生省、学校施設なら文部省。あらゆる省庁の利益になり得た。
 しかし、普遍的な「みんなの利益」を実現するようなアイデアは、この構造のなかからは生まれ辛い。

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【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~

2014年07月19日 | 社会
 (1)7月1日、集団的自衛権行使容認が閣議決定された。
 しかし、関連法案は来年4月だ、という。
 あんなに急いだのに、この悠長さはどうしたことか。
 その裏にある安倍政権の「国民を馬鹿にした」戦略は、こうだ。
 
 (2)5月15日、赤ちゃんを抱く母親のパネルを使って、安部総理は躁状態で滔々と述べ立てた。
 「(集団的自衛権の議論は)期限ありきではない・・・・しっかり与党においても議論していただきたい」
 自信たっぷりにそう語ったのだが、予想外に反対論が強まると、前記発言の舌の根も乾かぬうちに、6月22日までの国会会期中という期限を設定。
 大嘘つきの安部総理のごり押しに、「与党でいたい病」の公明党は全面譲歩、7月1日の屈辱的閣議決定となった。
 
 (3)これだけ急いで強引に閣議決定したのに、今度は全関連法案提出を来春まで持ち越す、という。菅義偉・官房長官約1年かけて・・・・しっかり議論を進めていきたい」と言った。
 唖然とするしかない。
 閣議決定後の世論調査では、若者層を中心に支持率が下がった。

 (4)この秋には、吸収電力川内原発の再稼働で政府批判が強まるだろう。
 再稼働反対派と集団的自衛権反対派は心情的に近い。秋の臨時国会で集団的自衛権の議論を始めると、両者が共鳴して10月、11月の福島と沖縄の県知事選が危なくなる。
 そこで、来年通常国会提出へと変更した。
 その間に、公明党に予算と税制改正で大盤振る舞いをして、関係修復できる、という読みもある。
 法案審議は、予算成立後の4月以降となるが、4月は統一地方選だ。公明党はその直前の集団的自衛権の法案審議には絶対にノー。自民党も公明党の選挙協力を得たいので、審議開始は地方選が終わったゴールデンウィーク前後となる。

 (5)改正法案は10本以上だ。会期末まで2か月。法案成立は可能なのか。
 それを可能にする3点セットがある。「束ね法・担当大臣・特別委員会」だ。
 10本以上の法律。しかも、担当省庁が異なると、各法案を関係委員会で各々の担当大臣出席のもと審議する。各委員会の開催は週に2~3回。他の法案審議もある。十数本の法律を個別に審議するには2か月は短すぎる。
 そこで、3点セットの登場だ。
 共通する政策目標のために複数の法律を改正する場合は、「束ね法案」にして20本でも1本の扱いにする。安部総理が、「幅広い法整備を一括して行って」と述べたのは、このことだ。
 安部総理は同時に、「担当大臣を置きたい」とも言った。安全保障担当大臣を置けば、関係省庁の全大臣の代わりにこの大臣一人の出席で審議できる。
 さらに、安全保障問題を議論するための特別委員会を置けば、関係する委員会での審議を行わずに済む。
 官僚の経験則では、この3点セットで審議時間は大幅に短縮される。
 これを使って強引にやれば、会期末(6月下旬)までの法案成立は十分に可能になる。
 
 (6)北朝鮮の拉致問題に関する特別委員会(この7月に発足)の調査期間は1年以内。
 来年6月下旬の国会会期末と符合する。
 法案を強行採決して批判が高まった日に、安部総理が北朝鮮へ出発。2日後の羽田。十数人の日本人とともに安部総理が政府専用機のタラップを降りる。
 さらに、消費税増税が実施される来年10月を前に、直前の8月、9月は駆け込み需要で景気が盛り上がる。
 これで支持率は急回復。
 その勢いで9月の自民党総裁選での再選は確実だ。
 そんなシナリオを考える安部総理の頭の中にある鉄則は、こんなものだろう。
 「国民は健忘症で愚か。操縦法は二つ。時間をおく、他に目をそらす、それだけで十分だ」

□古賀茂明「「1年後の夏」に向けた布石 ~官々愕々第117回~」(「週刊現代」2014年7月26日/8月2日号)
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 【参考】
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~
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【政治】「第三の矢」の実態 ~アベノミクスの末路~

2014年07月18日 | 社会
 6月13日、
   「経済財政運営と改革の方針(骨太の方針)」【政府の経済財政諮問会議】
   「岩盤規制」を壊す答申【規制改革会議】
 同月16日、
   「日本再興戦略」新版の素案【産業競争力会議】
を競い合うように発表した。内容は、国民生活の万般にわたり、
   財界とグローバル資本に大きな支配力と権益を許し、
   他方、国民には隷従と犠牲を強いる・・・・
とんでもないブラックなものだ。
  ・内部留保を貯め込んだ大企業の法人税は20%台にまで下げる。
  ・混合医療を導入し、健保適用外の高度医療や保健会社の医療保険の発展を促す。
  ・成果主義の賃金制度を広げ、残業代なしを目指す。
  ・農協を解体し、農協事業への企業参入を促し、農地の所有・転用も認める。
  ・小中一貫校で成績優秀な生徒を優先的に教育する。
  ・個人情報保護法を「改正」し、個人データを「ビッグデータ」として経済活性化のために活用する。
など、社会公共のための制度を食い散らかし、国と大企業に都合のいいものに買えようとする提案が満載だ。

 見逃せないのが、年金積立金の運用方針転換だ。
 2014年現在、積立金は129兆円だが、こえを預かる厚労省管轄下の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に、これまでの国債中心の運用を転換させ、株式を積極的に購入させ、運用利益の増大を追求させる、というもの。
 やがて投機筋が売りで儲けようと株価を下げる方向に動いたら、積立金に大穴が空くこと必至だ。
 日本の国民皆年金制度は戦時下の1942年、労働者年金保険法を母体として発足した。制度発足直後は年金受給者はほとんどいない。集まった金は戦費に充当された。ナチ政府のやり方の真似だ。
 しかし、ドイツでは敗戦後、それが本格的な社会保障制度として育てられていった。
 これに対して日本では、育ってきた厚生年金制度を1966年に大企業の要請を容れて法改正で変更した。各個の区政年金基金組合設立を認め、積立金の自主運用を許した。だが、バブル崩壊と園生の金融危機で多くの基金が立ちゆかなくなった。
 年金改革は、この悪しき歴史に学び、根本から検討し直すべきものだ。

□神保太郎「メディア批評第80回」(「世界」2014年8月号)の「(1)戦後最大の曲がり角へ--国民とメディアの「共犯関係」」
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 【参考】
【政治】先の見通しを持たない新成長戦略 ~鎖国的政策~
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【集団的自衛権】イラク派遣で自殺・退職の自衛隊員数

2014年07月17日 | 社会
 集団的自衛権の行使が容認されたら、制服組に変化が生じるのではないか。
 陸上自衛隊幹部は、「ただでさえ全国の駐屯地では部隊から逃げ出す隊員が絶えない。逃げる隊員の大半は2年限りの任期制隊員だが、彼らが真っ先に辞めるのではないか」という。
 
 防衛大学校の卒業者はどうか。
 防大は、卒業して幹部候補生学校に入り、半年の幹部教育を受けて三尉(少尉)となり、猛烈なスピードで昇進していく。一般大学から入隊する幹部もいるが、防大卒業生は1990年、1期生が幕僚長(陸海空トップ)に就任して以来、13人ずつが連続して陸海空の幕僚長を独占している。自衛隊のエリートだ。

 退校・卒業者の動向は、米国によるイラク戦争の際、顕著な変化が現れた。
 防大の入校者は年によって450~500人の間で推移する。一方、
   (a)卒業までに辞める退校者
   (b)卒業時の任官拒否者
   (c)任官後、8月までに辞める早期退職者
の合計は毎年100人前後で、入校者の20%が防大や自衛隊から消える。

 (a)~(c)の合計は、
   2002年  99人 
   2003年 138人 【米国がイラク戦争に踏み切った】
   2004年 152人
   2005年 163人
   2006年 157人(32.6%)
   2007年 139人
   2008年 142人
   2009年 126人

 日本政府は米国のイラク戦争を支持し、2003年にイラク特別措置法を制定した。
 陸上自衛隊を、2004年1月~2006年7月、イラク南部のサマワに派遣。
 航空自衛隊を、2004年1月~2008年12月、クウェートに派遣(空輸部隊)。

 陸上自衛隊の宿営地には13回22発のロケット弾が撃ち込まれた。仕掛け爆弾による車両への攻撃もあった。
 航空自衛隊は武装した米兵を首都バグダッドへ空輸する際、地上から携帯ミサイルに狙われたことを示す警報音が機内に鳴り響き、アクロバットのような飛行を余儀なくされた。
 帰国後、次の自殺者が出た。過酷な環境下での活動が影響した可能性は否定できない。
   陸上自衛隊 20人
   航空自衛隊  8人

 (a)~(c)を合計した「自衛隊を見限ったエリート候補生」の急増した時期は、自衛隊のイラク派遣の時期とピタリと一致する。
 防衛省人材育成課は「団体生活に馴染めない、自衛隊が性格に合わないなどが辞める理由。景気の動向にも左右される」というが、なぜイラク派遣の時期だけ増えたのか、説明になっていない。
 
 自衛官のモデル給与は、
   陸海空幕僚監部の課長に相当する1佐(47歳、配偶者と子ども2人) 年収12,807,000円(一流企業の課長並み)
   陸上自衛隊に5人の方面総官(将官) 19,299,000円(一流企業の役員並み) 
 しかも、退職後は防衛産業や自衛隊23万人が利用する金融機関や損保会社への「天下り」が待っている。恵まれた人生を約束されている。
 にもかかわらず、イラク派遣を目の当たりにして自衛官への道を断念したのだ。「カネより命が大事」と考えた結果といえよう。  

□半田滋「他衛の戦争に駆り立てられる日本人」(「世界」2014年8月号)
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 【参考】
【集団的自衛権】とイラク情勢

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