さて、ケンタッキーダービー出走馬の蹄で盛り上がったところで(笑)、もう一頭。
やはりHoof blogから。
Gayegoはケンタッキーダービー出走馬のなかでもっとも立派な蹄叉をしている。
GayegoはArkansasダービーを勝った。
Gayegoはカリフォルニア産馬で、ブラジル人調教師に調教され、オーナーはキューバ系アメリカ人、新しいアメリカンドリームだ。
Gayagoはオーナーがキーンランドのセプテンバー1歳馬セールで$32,000(安い!)で買ったとき、後肢の片方に蹄側壁に裂蹄があった。
セールでは裂蹄部にパッチを貼り、テープを巻いていた。
「他の人たちはすぐ他の馬を観に行ってしまいましたが、私たちにとっては裂蹄は問題ではありませんでした。
私たちの獣医師も問題ないと判断しました。」
Gayegoの裂蹄は悪化することなく、2ヶ月で治癒した。
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この写真の蹄鉄はオランダから輸入されたtoe clipの付いたカークハート蹄鉄。
無事是名馬というが、馬を買うのにあら捜しばかりしていると、名馬を買いそこねる。
そして、みんな最良と思われる方策を施し、問題を克服しながら勝利を目指しているのだ。
それにしても、立派な蹄叉だこと!
明らかに、蹄叉を残すことを意識してこういう蹄管理をしているはずだ。
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さて、
蛭川徹さんのコメントへの、青木先生のコメントです!
蛭川さんが紹介したRooneyの学説ですが、蛭川さんは多少、誤解しています。
Rooneyが実験したセットでは、先着時の蹄にかかる力学的を負荷を測ることは不可能でした。彼の使用した加圧機は、シンプルな構造で、腕関節から下を切り離した死蹄を加圧機にセットし、腕関節に垂直荷重をかけるものです。そこで、彼は、蹄の真上よりも腕関節がやや後ろに位置する状態で加圧するケース。これが蛭川さんの言う「蹄踵先着」ですが、正しくは「蹄踵荷重」の状態です。
これに対して、腕関節が蹄よりもやや前方にある状態、言い換えれば管骨がやや前傾した状態で加圧したケース。これが蛭川さんの言う「蹄先先着」になりますが、これは「蹄先荷重」ということになります。つまり、Rooneyは、先着による影響ではなく、荷重が蹄の前後方向のどこにかかるかによって、ナビキュラーへの影響を調べたということです。私が講義で紹介した蹄の「力の通り道」で言えば、荷重の中心点(作用点)が蹄踵部に移動して、最大荷重がかかった状況が、Rooneyの蹄踵加圧に似た状況です。その状況から荷重の中心点が蹄先に移動しますが、それがRooneyの示した蹄先加圧に近い状況です。言い換えれば、前者は負重極期(Mid-Support)であり、後者は反回直前の状況ということになります。ただし、Rooneyの実験では、加圧方向が常に垂直方向ですから、実際の走行中に生じる複雑な外力とはやや趣が異なることも、我々は考慮して、Rooneyの学説を再検証するべきでしょう。
また、Rooneyの実験では、蹄先荷重ではナビキュラーに変色性の影響が見られたとありますが、これは蹄先荷重を作るための加圧器への死蹄のセットを考えると、当然ながら管骨が前傾し、球節は反回時に近い状況で挙上され、すべての趾関節は背屈を強いられた状況です。腕関節から上が切断されているので、屈腱群は支持靱帯だけが機能しており、この趾関節の背屈が支持靱帯から下の深屈腱の緊張を極度に高めます。実際には、この屈腱の緊張が蹄踵を上方に引き上げて、蹄の反回を促すことになりますが、Rooneyの実験では、反回には至らず、その状態での加圧が持続します。言い換えれば、外力が刻々と変化する実際の荷重と異なり、Rooneyのそれは、同じ状態が継続する非日常的な加圧状況になるということです。この深屈腱の緊張がナビキュラーを蹄関節に強く圧着するので、そこには圧迫による変色域が生じるのでしょう。
一方、蹄踵荷重の状況は、球節が沈下し、趾関節、特に冠関節や蹄関節は球節の沈下に伴い、腹屈します。実際の馬では、この時期に合わせて筋肉が活動し、屈腱の緊張も高まりますが、実験では、筋肉が取り除かれているので、支持靱帯から下のメカニカルな動作による屈腱の動きが主体です。つまり、この状況では、蹄関節の腹屈により、深屈腱は緩む状態になっています。蹄関節の腹屈に伴い冠骨が沈下して、ナビキュラーは上から下に圧迫を受けますが、それを受け止める深屈腱が比較的緩んでいるので、ナビキュラーに変色を招くほどの力学的なストレスは生じないことになるのでしょう。
いずれにせよ生きている馬では動的なDynamics、死蹄を使った場合は、静的なDynamicsになるので、動的、静的な違いを踏まえて、それらの実験データを考察しなければ、結果はミスリードを招くことになります。ここ数年、海外の装蹄や肢蹄トラブルの問題に対処するべく、様々なシーンでバイメカの重要性が指摘され、多くの関係者がその視点から考察を行っていますが、その多くはRooneyの行ったような静的な検証に止まっています。それは生きた馬を使って動的な検証を行うことが、経費的、技術的に難しいからです。静的な手法も大切ですが、それですべてを結論付けるのではなく、動的な環境では、それがどう変化するのか、常に動的なイメージを重ねて論議するべきですね。
ところで、足跡を見ると蹄先で負重しているとの蛭川さんの観察眼ですが、確かに目の付け所は「グ-----」ですね。でも、先日の日高獣医師会の講演でも説明したように、反回のとき、前肢では、蹄先だけが接地した状態で、蹄は後ろに強く蹴り返されるので、この時に路面が蹄先によって深く掘り返されます。蹄と地面でやり取りされる力、床反力を見ても、前肢の垂直分力や後方分力には、反回に一致して、小さなピークが生じますが、それがこの動作を裏付けています。後肢は、飛節の動きが関係して、前肢のように反回時には蹄先での掘り返し動作は生じませんが、着地と同時に推進力が発揮されるので、それを滑って逃がさないよう、深屈筋の活動と飛節の特殊構造を利用して、深屈腱の緊張たかめ、蹄先を強く地面に押しつけて、地面を掴むような動作が生まれます。だから後肢も、蹄跡は蹄先部が深く凹みます。これだけを見れば、蛭川さんが蹄先荷重を信じたくなるのも無理のないことですね。
馬が我々に示す様々なサインやメッセージを見逃さず、その意義を考えることは重要ですが、そこにもまた冷静な考察と合理的な理論付けが必要だということです。「木を見て、森を見ず」ではなく、「木を見て、森を知る」ことが大切ではないでしょうか。
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う~ん、すごい。
青木先生ありがとうございます。
私たちは青木先生が日本人で、日本語でこれだけの解説が聴けることを感謝し、
それを実践に生かせるように考えた方が良いのではないか。
この様な形で多忙の青木先生から直接講義を受けられて感激です。hig先生のブログにこんなにもあつかましくお邪魔して申し訳ない反面、大変感謝しております。
Dr. Rooney氏の実験内容を直接論文で読んだ訳でなく、又聞き状態に関わらず紹介してしまいました。詳しい正確な内容が聞けて良かったです。Natural Hoofcareの理論のベースになっているものが、膨大な数の解剖検査からのデーターでした。その多くに私は新しい認識を得ましたが、同時に死体である事のこれらのデーターに対する影響を感じたのも事実です。
先着部位が何処であろうと、Flat Loading をアチーブするために考えなければならないものに、PA(Palmar Angle) があると思うのですが、Natural Hoofcareが広がり始めた当初、解剖検査の蹄骨の形状からground pararell が望ましいと言われました。しかし獣医師や装蹄師から、現実には3度から5度のスロープがある馬のほうがより良い歩様を見せるとの指摘があり、議論に発展しました。現在私が一番正しいのでは、と思う意見が、通常3度から5度のスロープを持ち、Full Loading時に蹄機の作用で蹄軟骨が左右に開き肢全体が蹄内下方へ降りたときground pararell になると言う物です。
現在多くの育成馬、競走馬がこのPAに維持されていると思うのですが、競馬場から帰ってきた馬の特に後肢にNegative Palmar Angle が見られる事があります。この状態では先着部位が何処であろうと、Flat Loading はアチーブされることなく過剰な負荷が様々な部位に掛かるのではないでしょうか。
逆に、以前多く見られた10度以上のPAではやはり、蹄尖荷重が大きくなると理解して良いのでしょうか。そして、これらの考えを机上の理論だけで終わらせず実際に応用する為に、いかにして蹄から蹄骨を読み取ったら良いのでしょうか。私がNatural Hoofcare を勉強していて得た方法は蹄叉側溝の深さを測るといったものでした。無論様々な要因によって若干の狂いは生じますが、大まかなPAを推測する事は出来そうです。
Gayegoの蹄叉は、明らかに意図的に残されていますね。あれでは、挙肢検査で蹄尖部が見えないです。過去に読んだ教科書に「蹄叉を蹄鉄と同じ高さにそろえるという古い考えのもと、蹄を切りすぎてはいけない」という記述がありました。Natural Hoofcareでも蹄のお椀形状を作るために蹄底を削るという方法をとる方が居ますが、現在は蹄底の厚みを見極め、浅いときは決して触らずお椀形状を「育てて」作る発想の人が増えています。青木先生の仰るように「木を見て、森を見ず」ではなく、「木を見て、森を知る」ことが大切ですね。私も冷静な考察と合理的な理論付けが出来るよう精進したいです。
競走馬のとくに後肢に良く起こるマイナスPA状態は問題でしょう。間違ったlong-toeが引き起こしているのは残念ですが、調教・競走の厳しさが蹄踵をつぶし易いことも考えなければいけないでしょう。そして、どうすれば調教・競走で蹄踵がつぶれない蹄管理や蹄の発達を導けるかが課題ですね。
装蹄師会では、装蹄するときは蹄鉄の厚さの半分の位置に蹄叉を切るように教えているそうです。
Gayegoは・・・・・興味深いですね。
蹄の内部構造を判断するには、x線写真を撮ってみると良いのですが、片っ端から獣医師に撮ってもらうわけにはいきませんね。
しかし、最近、蹄のx線写真を撮ってほしい、見せてほしいという装蹄師さんからの要望を聞くことがあり、感心しています。