真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「フェチづくし 痴情の虜」(2018/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:髙原秀和/原作:『フェティッシュ』坂井希久子/原作協力:特選小説 綜合図書/撮影監督:下山天/撮影協力:森川圭/音楽:野島健太郎/照明:ガッツ/録音:田中仁志/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/助監督:加藤義一・江尻大/出演:『噛』涼南佳奈・櫻井拓也・酒井健太郎 『声』NIMO・那波隆史 『匂』榎本美咲・重松隆志・竹本泰志・森川凜子・大迫可菜実・竹内まゆ 高瀬将嗣・長谷川徹・石川均・舞原賢三・金田敬・日笠宣子・山本俊輔・国沢実・小池浩・畠山健一・坂井希久子・亀田彩香・星野宏美・宮下涼太・水越嗣美)。出演者中、森川凜子以降は本篇クレジットのみ。
 ど頭はR18+、加藤映像工房ロゴはスッ飛ばし、原作クレジット開巻。榎本美咲・涼南佳奈・NIMOの順で、「アタシの欲望の扉は・・・」と各々モノローグを繰り返す、コマーシャル風なモノクロのアップを連ねてタイトル・イン。とこ、ろで。NIMOとかいふ変名ぽさも漂はせる形式三番手は、実際その検索し辛い名義で活動してゐる前二人と同様AV部。
 通販会社の宣伝部に勤める瀬田美夕(榎本)と、同じ部署ではないが同期の小森美晴(涼南)が、専ら御馴染高円寺の居酒屋「馬力」にて女同士のサシ呑み。そこにクレーム対応担当の水野晃(那波)と、美夕らの後輩で、美晴にとつては直属の部下となる滝川勇気(櫻井)が現れ、挨拶を交し別のテーブルに着く。既婚者の美夕に対し、三年の社内不倫も経ての美晴は未だ独身。短い何だかんだを経て、二人が“人それぞれ”と何の結論にもなつてゐない着地点にとりあへず落ち着いたタイミングで、第一話―はクレジットされない、以下同―のタイトル“噛”が改めてタイトル・イン。不倫相手で課長(当時)の鹿山茂明(酒井)に美晴は行為の最中噛むやう乞はれ、応じてゐるうちに、自ら男の体に歯を立てる行為に快楽を覚えるやうになる。鹿山と別れて久しく、次第に噛む飢ゑに苛まれた美晴は、セフレ的状態にある滝川―滝川の中では普通の交際関係―に、噛みたいと真情を吐露してみる。その件、櫻井拓也の背中越し滝川の右肩に齧(かぶ)りついた美晴は、もうひとつの手で抱き締めるやう求める。のを、折角熱の籠つたシークエンスなのだから、一手間割いて今度は涼南佳奈の背中越しに、美晴の激情に応へる滝川の左腕を押さへればよかつたのにと、素人考へではあれ軽く過る。実際の画角では、抱き締めるも何も左腕の動きさへ映らない。更に一層特筆すべきなのが、後述するNIMO共々、一話限りで御役御免の酒井健太郎。顔とメソッドに発声、何もかもが徒か過剰に濃く映画のカットの中では下卑てしか見えない。酒井健太郎が本来は舞台を主戦場とした、演劇畑の人なのではあるまいかと訝しんでゐたところ、必ずしもさういふ訳でもないみたいで、なほかつ那波隆史・森川圭・重松隆志と同じく、芸能事務所「STRAYDOG」所属であつた。
 第二話“声”、四十五歳の誕生日祝ひの準備を全ッ力でしたにも関らず、水野が仕事先の長野から雪で帰京出来ない旨の連絡に、同棲してゐるのか否かは微妙に判らない田所由美(NIMO)はアヒル口を尖(とん)がらせる。由美と水野のミーツは、ずばりクレーム対応。由美が通販で買つた皿が、初めから欠けてゐた。至らない担当者(CV:森川凜子)の対応に由美がキレかけた電話に介入した水野は、こゝも、あるいはそもそも不自然だが一人暮らしの女宅に自ら新品の皿を持参する。
 第三話“匂”、帰宅した美夕が家内に違和感を感じてゐると、居間で本を読んでゐた夫・勝男(重松)からは、もつ鍋でも食べて来たのかと尋ねられる。てつきり美晴と馬力で舌鼓を打つて来たのかと思ひきや、美晴は宣材の撮影で出会つたカメラマン・宮本賢太(竹本)と、美晴に語つた劇中台詞ママで“Bまで”致して来たところであつた。匂ひフェチの美夕がよろめいたにしては、全体宮本は如何なる体臭の持ち主なのか。美夕のベクトルないし琴線が、拗れてゐるのだとしたらそれまでの話だが。配役残り、森川凜子以下三名はその他宣伝部要員。高瀬将嗣以降は映画監督を大量動員したとの、ラスト・ショットは店中一斉の乾杯で賑々しく幕を引く馬力隊。
 加藤義一とはどういふ縁なのか、「ロリ色の誘惑 させたがり」(2005/監督:高原秀和/脚本:永元絵里子/主演:綾瀬つむぎ)以来実に十三年ぶりとなる、まさかの髙原秀和ピンク復帰作。2008年のオール讀物新人賞受賞時、現役SM嬢であつた飛び道具エピソードで名前を打つた女流官能小説家の原作を得、三本柱銘々の性的嗜好を軸に据ゑた、最後も締める馬力で美晴は滝川との交際を美夕に報告し、水野も水野で―由美との―再婚を報告する程度に、緩やかに三話がリンクするオムニバス篇。髙原秀和のピンク復帰に関して、“まさか”と筆を滑らせたのはほかでもない。当サイトは「ロリさせ」の時点で既に、二十年選手の癖にどうしやうもない髙原秀和の青より青臭い生硬さは、生れ変つても抜けぬにさうゐないと匙を投げてゐたのだ。あに、はからんや。一旦戦線撤退の翌年に旗揚げした、主宰劇団「lovepunk」の歩みをも含む三十三年の月日は流石に伊達ではなかつたのか、かつて強靭であつたぎこちなさはすつかり影を潜め、かといつて、物語の面白さなり撃ち込んで来るエモーションの重さを感じさせる、でもなく。書き言葉と聞き言葉の違ひもあるにせよ、わざわざ官能小説を原作に戴いた割には思ひきりプルーンなナレーションがよくいへば淀みなく、悪くいへば淡々と進行する、撮影部の手堅さが諸刃の剣スレッスレの、小奇麗なばかりのトレンディな裸映画であつた。尤も、水野の声に一目もとい一耳惚れした由美は玄関口でモーニング・ボイスを録音させて貰ひ、しかも社内で初対面の取引先であつた勝男に、美夕は私にとつてはいゝ匂ひだと破天荒な内角モーションをガンッガン投げ込んで来る。坂井希久子の所為なのか高原秀和がやらかしたのか、大穴を開けておかしくない大(だい)で済まない超飛躍は所々際立つ。とは、いへ。全員普通に若くて美人な、女優部に穴はない。扱ひは均等でビリングの序列に実質的な意味は極めて薄い反面、企図したものか単なる不作為の偶然か、三話を通してオッパイが徐々に大きくなつて行く構成の妙には、映画の神の祝福が透けて見えなくもない。酒井健太郎のトゥー・マッチを除けば阻害要因も見当たらない濡れ場は質量ともひとまづ申し分なく、フラットに女の裸を浴びる分には、満更でもない一作。アクシンデンタルに抹殺された荒木太郎を筆頭に、旧来のローテーション監督が外様に駆逐されて云々。残りの選択肢はほぼほぼ潰へ、いよいよ大蔵の腹積りひとつで何時終に詰んでもおかしくない最中、かういふ缶コーヒー業界でいふところのアメリカンな映画を撮る意義かんぬん。銀幕の中ながら可愛い女の子の―下―心を弾ませる乳尻を前に、その手の無粋な野暮如きさて措いてしまへ。


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