真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「冷たい女 闇に響くよがり声」(2018/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:高橋祐太/撮影監督:根岸憲一/録音:小林徹哉/編集:山内大輔/音楽:大場一魅/効果・整音:AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:佐藤洸希/撮影助手:岩淵隆斗・平見優子/照明助手:佐藤仁/スチール:本田あきら・山口雅也・杉本晋一/現場応援:小泉剛・松井理子/挿入歌:『さくらふぶき』・『ありがたう』作詞・作曲・編曲:藤井良彦 歌:葉月汐理/エキストラ協力:YO-EN・葉月汐理・相川優・米山敬子・十松弘樹・桜井明弘・北村孝志・川本じゅんき・高橋祐太・井坂敏夫・中村勝則・末田佳子・吉原あんず・松井理子・小泉剛/協力:グンジ印刷株式会社・はきだめ造型/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:成宮いろは・佐倉萌・長谷川千紗・竹本泰志・山本宗介・郡司博史・西村太一・国沢実)。出演者中、郡司博史以降は本篇クレジットのみ。
 マンションをティルトアップで舐めて、増田真亜子(成宮)が体内時計のみに従ひ目覚める。リビングを経て目覚ましが鳴り、寝室を別にする夫の道雄(竹本)も起床。一人分の朝食を支度、納豆を握り箸で搔き回し始める道雄を、ベランダで冷たい茶を喉に通す真亜子は憎々しげに見やる。ボサッと覇気もなく道雄が出撃、印刷屋の家業を継いだ「グンジ印刷」に、鍵を開け入つてタイトル・イン。アバンのサービスは、ポッチする成宮いろはのお乳首様だけ。
 明けて外出した真亜子の行先は、自室かホテルか微妙な、浮気相手でノワール作家の茂木誠(山本)が待つ一室。後々埋められる外堀を整理すると、キャバ嬢であつた真亜子は茂木と店で出会つた当時は広告代理店マンの道雄とを天秤にかけ、堅い勝負を選び道雄と結婚する。ところが道雄が退職、先の見えたグンジを継いだ脱サラに真亜子は態度を硬化、夫婦関係は完ッ全に冷え切つてゐた。エグい尺八で轟然と火蓋を切る濡れ場を通して、真亜子は保険金目当ての道雄殺しを茂木に依頼。自身は同窓会に出席する不在証明が成立する夜、パートも帰り一人となる時間帯の道雄を、植木鉢の下に隠した鍵でグンジに侵入・殺害するザックリした手筈を整へる。
 配役残り佐倉萌は、臍を曲げた真亜子は一切手伝はないグンジの、パート従業員・武藤桃子。小遣ひを得て、道雄と関係も持つ仲。長谷川千紗は、茂木が依頼した趣味と実益を兼ねる系の殺し屋・目黒美沙。三番手にしては単なる絡み要員に止(とど)まらない重役ながら、粗雑なヒャッハー造形に足を引かれる。潤沢な協力部から、十松弘樹コネクションのシンガーソングライター・YO-ENと松井理子に葉月汐理は、真亜子の同窓生要員、もう二人ゐる。改めて後述するが、葉月汐理は2010年第三作「未亡人銭湯 おつぱいの時間ですよ!」(脚本:五代暁子/主演:晶エリー/ex.大沢佑香)に於ける女湯要員以来の太腹帰、もとい大復帰。桜井明弘は、二次会の女子会会場、御馴染「ステージ・ドアー」のマスター。夜はステドのホステスとしても働く桃子が、真亜子と殆ど意味のない対面も果たす。十松弘樹と北村孝志以降は、無闇に入つたステド満席部。決して前に出ないナチュラルさでさりげなく見切れる高橋祐太が、新田栄超絶のウォーリー感を何気に相伝する。一応正規俳優部その他、グンジの主である郡司博史と西村太一に国沢実は、ラストに登場する刑事部、もう一人ゐる童顔の制服警察官が判らない。
 2013年第二作「熟女の色香 豊潤な恥蜜」(脚本:五代暁子/主演:村上涼子)ぶりのヒッチコックもの、「ダイヤルMを廻せ!」(1954/米/脚本:フレデリック・ノット)の嫁を殺さうとする旦那を旦那を殺さうとする嫁に引つ繰り返した、池島ゆたか2018年第三作。手垢のついた幻影オチの連発に堕しもする、サスペンス的には漫然とした反面、ダイヤルMを愚直に踏襲しつつも、終盤マーゴならぬ真亜子と道雄の夫婦仲が修復される、百八十度の大変更を加へてゐる点が最大の特色、表の。夫婦生活の導入込みで道雄と真亜子が互ひの激情をぶつけ合ふ件は2018年を代表する名場面、と行きたいところが。腹の底から振り絞つてなほ、明瞭に聞こえる竹本泰志の発声は見事な一方、初陣にして竹本泰志との夫婦役前作、2017年第二作「妻たちの宴 不倫痴態」(脚本:五代暁子)の頃から大したプログレスも感じさせない、成宮いろははといふと表情も口跡も何処まで行つても御愛嬌。流石に、煽情性を優先したキャスティングが、踵ひとつ俵を割つた風情は否めない。加へて着地点を大きく弄つた割に、最初の事件当日はダイヤルMを馬鹿正直にトレースした結果、結構決定的なちぐはぐが生じてゐる。道雄の手に知らず知らず美沙の鍵が渡る、あるいはより核心に近づくならば、今作の場合存在しないハバード警部の推理を補完するイベントが発生しない以上、何時までも後生大事に鍵が植木鉢下にある不自然は第二次凶行の便法で片づけ得るにせよ、そもそも真亜子が軽く危ない橋を渡りまでして、美沙をグンジに入れさせるのに道雄の鍵を使ふ理由が存在しない。真亜子が茂木―が自ら手を下すものと真亜子は思つてゐた―に、自分の鍵を貸せばサクッと事済む話である。それをいつては、原典から躓くやうな気もしなくはないけれど。重ねて、もしくは火にニトロを注いで。何もかんもそれどころでなくすのが、ステドにてカラオケのマイクを握る形で仰々しく自曲まで披露する、葉月汐理(ex.木の実葉/ex.麻生みゅう)の惨劇、もとい衝撃。何が阿鼻叫喚といつて、これ多分、葉月汐理の中にデビュー当時の麻生みゅうはスッポリ格納出来ると思ふ。挙句、わかばとか底辺臭い煙草吸つてんぢやねえよ、俺も底辺だけど。恐らく普段から呑んでゐるにさうゐないが、そこは虚構の中であり、真亜子の同級生といふポジション的に殊更やさぐれる要もないゆゑ、煙草を吸ふなら吸ふでもう少しカッコつけて欲しい。といふか、直截にいふと要はこの人映画に出したらイカンやろ、良くなくも悪くもヴィジュアルショックに全部持つてかれてしまふぞ。これでもまだ、言葉は選んでゐる。確かに結婚してゐた筈なのに、目下ステータスを未婚にしてゐるのもジワジワ来る。いはずもがなをいつておくが未婚と独身は、決して同義ではない。未婚が必ず独身ではあつても、独身が必ずしも未婚とは限らない、かつては既婚であつた者も含まれるからな。案外世評は高いやうだが、幹と枝葉―に狂ひ咲いた凶花―双方、諸々ツッコミ処に負けた一作ではある。

 小泉剛が新作ピンクに参加するのなんて何時以来だらうと探しかけたものの、自身二本目となる松岡邦彦によるデジエク第九弾「おばちやんの秘事 巨乳妻と変態妻なら?」(2017/脚本:金田敬/主演:桐島美奈子)をすつかり忘れてゐた、忘れるのも仕方ない映画ではあれ。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )