真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「変態おやぢ ラブ・ミー!イッてんだぁ~」(2018/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:高橋祐太/撮影監督:海津真也/録音:小林徹哉/編集:山内大輔/音楽:大場一魅/効果・整音:AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:佐藤洸希/撮影助手:宮原かおり・スリグルン/スチール:津田一郎・山口雅也/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:かなで自由・長谷川千紗・松井理子・竹本泰志・細川佳央・なかみつせいじ・牧村耕次・フランキー岡村・八ッ橋さい子/エキストラ協力:周磨要他若干名、高橋祐太)。撮影部サードのスリグルンは、正体不明の変名ではなくモンゴル国籍の実在する人物。
 白ブリーフ一丁のなかみつせいじが、「久し振りにこんな夢を見た」。“天使が舞ひ降りた”とまで惚(ほう)ける天使とは、ムッチムチの肉体を、ニッコニコ捧げて呉れるかなで自由。うん、確かに天使にさうゐない。なかみつせいじが実に三十年ぶり!?のセックロスを満喫する、まるで四十八手の教科書かの如き綺麗な綺麗な絡みが続く至福は、鬼の形相の長谷川千紗に妨げられる。市民講座「非モテ中高年のための 恋愛スパルタ教室」受講中に寝こけてゐた平野康彦(なかみつ)を、講師で恋愛カウンセラーの高沢美千子(長谷川)がヒステリックも通り越し殆どエキセントリックに叱責。素人童貞の自動車整備工場社長・北川吾朗(フランキー)や、真性童貞のまゝ老境に入り、最早“童帝”の風格すら漂はせる林又蔵(牧村)以下受講生一同(エキストラ協力隊)と、平野が「私はダメ人間です」と口を合はせて連呼させられるブルータルな教室に、アシスタントの三条あかね(かなで)が遅刻して現れる。事そこに至る、来し方に関する平野の回想。まづ平野がリストラされ、暗転タイトル・イン、これぞ正しくな暗転の使用法。
 呆然と分譲マンションに帰宅した、平野は三人暮らし。美容師の息子・雅志(細川)と、息子嫁の理恵(松井)、元介護職。一欠片たりとて登場しない妻とは、平野は雅志の出生直後離婚してゐる。失業した旨言ひ出せず、普通に出勤する体で日がな一日潰す日々を送る平野は、チラシを拾つたセミナーの門を戯れに叩く。美千子からクッソミソに全否定されるばかりの内容に、北川が憤慨する屋上喫煙場。矢鱈とペダンティックな清掃員の林と美千子に続き、初日から時間を間違へたあかねが漸く辿り着いて、役者が揃つたといふ次第。
 配役残り、一貫して悪い役の竹本泰志は、美千子の夫・務。一応バーの経営者とはいへ、目下飲んだくれる事実上ヒモ、しかも暴力を振るふ正真正銘のロクデナシ。八ッ橋さい子は、雅志が嫁と親爺のゐぬ間に自宅に連れ込む、浮気相手でモデルの八代真奈美。下着までしか脱がないが、怒涛の終盤を猛然と起動する修羅場の火蓋を切る、地味な大役を卒なく果たす。基本よく見る面子のエキストラ協力隊中、高橋祐太が赤いTシャツで結構目立つ。それにつけてもこの人中高年といふやうな齢かいなとググッてみたところ、俺の一個上、それは紛ふことなき中高年だ。
 一般―自主―映画第一作「おやぢ男優Z」(2014/脚本:五代暁子/助監督:田中康文/監督助手:小川隆史・菊島稔章/主演:なかみつせいじ・牧村耕次・竹本泰志・坂ノ上朝美/エキストラ:細山智明、他)の、続篇「おやぢ童貞Z」として当初企画されてゐたらしい池島ゆたか2018年第二作。愛するエルビス・プレスリーの、誰でも知つてゐる名曲のタイトルを捩つた公開題を拝命した、池島ゆたかが俄然上機嫌なのは至極当然としても、良きにつけ悪しきにつけデジタル時代の敷居を跨いだ以上、生つてゐる果実は頂戴してターミネーター2のT2ばりに、ODZ2を―公開題とは別に―ガシャーンッと鋼鉄製扉のCGで打つくらゐの外連も見たかつた、明々後日か先一昨日な心は残る。
 スパルタンな女恋愛カウンセラーに、非モテ中高年がケッチョンケチョンに虐殺もとい粉砕される。我が身を省みるのも忘れ愉快痛快に観てゐられる正調ダメ人間系コメディは、やがて各々の人生が大きく揺らぎ、揺らいでなほ、激しく揺らいだからこそなほその先に温かみなり光を求める超本格派の人間ドラマへと大転換。正直何処から褒めたものか窮しつつ、裸映画である以上一層、初陣で主演女優の向かうを張り濡れ場を同じ回数こなす二番手に飛び込んで来る、長谷川千紗が―PG【ピンク大賞】の―新人女優賞当確を確信するレベルで素晴らしい。演出ならぬ艶出部のサポートもあるにせよ、素面女優部にしては堂々としたどころでは片付かぬ豪ッ快な脱ぎつぷりで、素のお芝居で展開の進行役を務めるのはおろか、いざ脱ぐや再加速する大活躍。平野をゴリゴリ捕食する―但し例によつて夢オチ―のと対照的に、配偶者からは恣に虐げられる。度胸と地力で正反対の濡れ場を各々形にしてみせるのも凄いが、それだけに止(とど)まらずクライマックス三連戦の初戦は、エモくてエロいピンク映画の一つの到達点。「私は恋愛カウンセラー、生徒を卒業に導くのが役目です」、この台詞には痺れた。流麗なシークエンスの導入と、美しいファンタジーの両立。今更にもほどがあるが高橋祐太は、この人どうやら一撃必殺を持つてゐるみたい。童貞以外の全てを失つた平野に寄り添ふ、理恵役の松井理子も静かに輝く。矢張りエモくてエロい、棹を勃たせかつ胸にも沁み入る一幕に恵まれる今作は、ビリング上は三番手ながら、構築された緻密の限りを尽くした論理が狂気さへ窺はせる、今世紀最強の痴漢電車「痴漢電車 マン淫夢ごこち」(2016/監督・脚本:城定秀夫)をも超える代表作と、松井理子的にはいへるのでなからうか。反面、かなで自由はお飾りに終始するきらひもなくはないものの、オッパイ大きいだろ!可愛いだろ!だから天使だろ!野暮はいひない、錯乱してやがんのか。
 気を取り直して、男優部では半分オラついたドラ息子に徹するのかと思ひきや、最後に振り絞る重たい情で細川佳央が安定した仕事ぶりのセメント三兄弟―牧村耕次×なかみつせいじ×竹本泰志―を押さへ強く深い印象を刻み込む。細川佳央と山宗に、櫻井拓也。彼等が継戦する限り、一時期顕著であつた若手部のどうしやうもない脆弱性は、枕を高くして解消されよう。相も変らず未熟なポップ感が安くてくどくててんで芸になつてゐない、頭を抱へるフランキー岡村のメソッドや何故そこで劇伴がおチャラけるといつた、瑕疵なり巨大な疑問点もあれ、一見外様とR15+版が跋扈する中、本隊から池島ゆたかが貫禄で敢然と撃ち抜いた威風辺りを払ふマスターピース。オーピーに初めからその気がないとすればそれまでの話だが、濡れ場が質量とも素敵にエグくて、OPP+にしようがない潔さも清々しい。笑つて股間を膨らませ、やがてグッと来る。正味な話、ラストが釈然としない、あの作り方で釈然とする訳がない「ODZ」よりも余程面白いと思ふ。無駄に前に出なければ―ミスを犯すといふ意味で―後ろにも決して退かない、海津真也の堅実な画作りも何気に心地よい。この何気さが、量産型娯楽映画ひとつの肝要。これでまだ城定秀夫と滅法評判のいいナベを残してゐるとなると、もしかして2018年は豊作なのか?


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