真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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世界で一番美しいメス豚ちやん
さ行
/
2019年05月06日
「
世界で一番美しいメス豚ちやん
」(2018/制作:Production Lenny/提供:オーピー映画/監督:城定秀夫/脚本:鈴木愛・城定秀夫/プロデューサー:久保獅子/撮影・照明:田宮健彦/録音:弥栄裕樹/助監督:伊藤一平/音楽:林魏堂/編集:城定秀夫/ヘアメイク:辻真美/スチール:本田あきら/監督助手:寺田瑛/撮影助手:荒金聖哉/制作応援:館林剛太郎・沖貴優・川上悠/撮影協力:アートワークスラパン・DJ KOYA・浅木大/映像提供:『誘女、派遣します。』©V☆パラダイス/仕上げ協力:川上翔太/出演:百合華・守屋文雄・三苫うみ・並木塔子・吉田覚丸・山本宗介・ケイチャン・久保獅子・可児正光・松井理子・もちこ・館林剛太郎・沖貴俊・川上悠・城定由有子《声の出演》)。出演者中、館林剛太郎以降は本篇クレジットのみ。
レニーロゴに続く映倫番号尻から蝉の音、推定ミルクバーを舐め舐め陽炎の中を歩いて来た巨漢女の姿が、フレーム下方に消える。甚大な体重を支へきれず、憐れ力尽きたヒールが破断してゐた。女がアンダーリムのメタルフレームを直すと、パッッッツンパッツンのチビTとデニムのホットパンツで波打ち際に佇む、キー・ビジュアルにタイトル・イン。明けて恐らくこゝで城定由有子の声を使用してゐる、食用豚を扱つたドキュメンタリー番組。借金の保証人になつた友人にトバれ債務を抱へたマリエ(百合華)が、電話口では“畜舎”と称される、いはゆるデブ専のデリヘル「牝豚養豚場」の事務所でその番組を見ながらポロポロ泣いてゐる。直ぐ背中の三苫うみも嬢の萌、更に後方の松井理子ともちこがその他嬢要員。殊に松井理子ともちこに至つては僅かに与へられる台詞を除くと、終始何かしら口に入れ続けてゐるそれはそれでタフな役。泣いてゐるのを指名されないからかと勘違ひした、店長の道田(吉田)はマリエに豚まんを差し出す。何度でも繰り返すが、当サイトは己が太ることを許してゐない鋼の人生観で生きてゐる人間であれ、優しい世界ではある。
配役残りケイチャンは、そんなマリエを自宅に呼ぶ塚本。対ex.けーすけ戦後、マリエは返済を続ける街金に。雰囲気イケメンを中途半端に持て余す善人よりも、マイルドヤンキー系の悪人の方が似合ふ可児正光は、債務者A(館林剛太郎と沖貴俊の菊島稔章に似てゐる方)に生命保険加入を強ひる街金の社員・山田。a.k.a.久保和明の久保獅子が、マリエには直々に応対する社長の中島、牝豚養豚場を紹介したのもこの御仁。マリエに想ひを寄せてをり、“豚だつて”金を返すと債務者Aを恫喝する山田に大激怒、脊髄で折り返して蹴倒し、返す刀で債務者Aにマシンガン罵声を浴びせかける十八番が爆発的に笑かせる。山本宗介は度々マリエをホテルに呼ぶ、常連客の神谷。神谷に生死を彷徨はせる雷電ドロップ級の顔面騎乗が、ポスター・ビジュアル、本当に死んでしまひさう。一日の仕事を終へ、送迎車から降りるや炭酸飲料を買はうとしたマリエは、自販機の下に落とした百円玉を取らうとして、丸太が抜けなくなる。守屋文雄が、そこに通りがかりマリエとミーツする風来坊・カズ君。川上悠は、何だかんだでカズ君との同棲を始めたマリエ宅に、エアコン様を持つて来る電気屋。川上悠の出番後多分もう一回、城定由有子の声を使用してゐる。そして四十五分ひたすらに温存、ファースト・カットで観客の心を鷲掴む並木塔子が、カズ君の実は配偶者・美津子。透明度の高い清楚な大正調美人顔に、水着にして立たせてみると、案外寸胴で足も短い日本人体型が堪らない。時代を獲りに来た、一種の風格を初陣で早くも漂はせる。沖貴俊と館林剛太郎のハンチングの方が、山田から地下施設の労働契約書にサインするやう迫られる債務者B。その傍ら、借金を完済したマリエを、中島は食事に誘ふも断られる。フラれた旨無造作に茶化す山田を、中島が今度はグーで殴り倒すのが又しても捧腹絶倒。少なくとも低予算映画のフィールドにあつて、久保和明は借金取りを演らせれば日本一なのではなからうか。
城定秀夫大蔵第四作は、撮了二週間を待たず先にOPP+に飛び込む、疾風迅雷の超電撃作戦を敢行した話題作にして、今年で最後となる第三十一回ピンク大賞の、最優秀作品賞と守屋文雄の男優賞受賞作。因みに一般映画題「恋の豚」とピンク版との差異は、御当人のツイートによるとタイトルと映倫ナンバーと、実質的には絡みの表現が“ビミョーに”違ふ―だけ―らしい。尺から全ッ然別物を放り込んで来る連中、聞いてるか。これが城定秀夫のほかは目下いまおかしんじしか採用してゐない、正攻法のストロングスタイルといふ奴だ。それでR18とR15+が両面戦へてしまふより本質的な疑問については、一旦さて措く。
巨漢の風俗嬢が偶さか出会つたボサッとしたオッサンのフーテンに、何故だか一目で恋に落ちる。風俗嫌ひのフーテンに自分の仕事はいひだせず、イケメンの常連客から求婚されたりなんかしてゐる内に、出会つた時と同様、フーテンは不意に姿を消す。漸くの物の弾みで再会したフーテンは、高さうな外車の停まる一軒屋に住んでゐて、なほかつ綺麗な妻がゐた。元々作り手とピンクスの距離が近過ぎた、悪しき風潮がSNS時代により汎く拡散されたやうにも思へる、舞台挨拶界隈でちやほやされる風情は大いに窺へつつ、直截なところ、そこまでワーキャー騒ぐ映画かいふと甚だ疑問。双方内に秘めた性癖を拗らせた末に、擦れ違ひかけた若夫婦が上手いこと元の鞘に収まる。既存の大蔵三本中最も他愛なかつた「
汗ばむ美乳妻 夫に背いた昼下がり
」(2016/長濱亮祐と共同脚本/主演:七海なな)にさへ、フラットな展開は物語的には劣るとも勝らず。精緻に構築された論理が狂気の領域に突入しかねない、驚愕の電車痴漢トリプルクロスを成し遂げた二十一世紀最強の痴漢電車「
痴漢電車 マン淫夢ごこち
」(2016/主演:希島あいり・竹内真琴・松井理子・麻木貴仁)を経たあとでは、贅沢な不足を覚えるのも禁じ難い。“世界で一番美しい”かは兎も角、メス豚を明確な意図を以てビリング頭に据ゑる一大奇襲は、量産型娯楽映画をかつての如く滅多矢鱈に数打てはしない、現在に於いては確かに特筆すべきブレイブ。ただその点に関しても、腰をいはしたカズ君を、マリエがそのまゝ自宅に連れ込んでの初夜。カズ君がマリエの巨体を一欠片たりとて意に介さない、単なる豪快な無頓着と紙一重の大いなる懐の深さは狙ひ通り琴線に触れるにせよ、神谷の保険を留保した諸刃の剣で、下手な物言ひを不用意に滑らせるとマリエの肥満といふハンディキャップが、ギリギリの徳俵にも余裕を余して切羽詰まらない。参考作にと目を通しておいた、「
ハレンチ・ファミリー 寝ワザで一発
」(2002/監督:女池充/脚本:西田直子/主演:絹田良美)よりも踏み込みの甘さを感じるマリエの本丸エモーションが、久保Pが綺麗に撃ち抜く中島の不器用でブルータルな純情に、負けてゐる印象を端的に覚えた。そもそも、守屋文雄がクッソ美人の嫁と結婚した上で、自由気儘に遊んで暮らせる超絶ファンタジーが説得力に到達し得てをらず、カズ君との新しい生活に胸躍らせるマリエが大地を揺るがせスキップする。幸福感溢れるショットを彩るラブ・ミー・テンダーは兎も角、映画本体が非力に堕した途端、饒舌に聞こえる林魏堂のオリジナル劇伴もさりげなく耳に障る。十二分に面白いのは面白いが、ジョージョージョージョーとベルが鳴る度に、一々尻尾を振り涎を垂らしてみせるほどでもあるまい。全般的なプリミティブさは丸ッと等閑視してのけると、一撃の威力は、加藤義一の「
白衣の妹 無防備なお尻
」(しなりお:筆鬼一/主演:桜木優希音)の方が強いやうに思へる。のが、精々四か五の手数を積み重ねた末に、はふはふの体で十のラッキーパンチを放つ―時もある―凡百の作家に対し、八九の有効打を始終当て続ける城定秀夫が逆説的、あるいは宿命的に背負ふウィークポイント。
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