真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 マン淫夢ごこち」(2016/制作:Production Lenny/提供:オーピー映画/監督・脚本:城定秀夫/プロデューサー:久保獅子/撮影・照明:中尾正人/録音:小林徹哉/助監督:伊藤一平/編集:城定秀夫/ヘアメイク:野中美希・宮下理沙/監督助手:寺田瑛/撮影助手:坂元啓二・原伸也・戸羽正憲/スチール:本田あきら/制作応援:酒井識人・名田仙夫・浅木大/脚本協力:城定由有子/音楽協力:林魏堂/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:希島あいり・竹内真琴・松井理子・麻木貴仁・守屋文雄・清水大敬・山科薫・徳元裕矢・獅子奮迅・和女・しじみ・佐倉萌・田中アンドレイ・碓井英司・佐野川田尚輝・ISSEI・郡司博史・水神城・野瀬刹那・松本洋一・冨田大策・みやちひろし・郡司博史・鎌田一利・加藤義一・中村勝則・生方哲・坂権之助・一本杉渡・ウンノヨウジ・三浦誠・むらかみひろあき・吉田行孝・本木政孝・金塚崇・篠原涼・岡田朋子・くりりん♂・森田涼介・鴨。・岡田朋子・二本松歩・城定由有子《声》・麻木貴勝《声》)。出演者中、徳元裕矢以降は本篇クレジットのみ、散見される二重クレジットは本篇まゝ。
 都内を東西一直線に貫く中丸線、午前八時二十分、混雑率率170%の車内で三件の電車痴漢が同時に発生した旨を告げた上で、三件各々を局所的に連ねてタイトル・イン。
 “一両目南側前方降車口付近 痴漢被害者① 水野君子(25)図書館員”。流されるまゝに生きる女を自認する水野君子(国沢実2015年第二作『スケベ研究室 絶倫強化計画』《脚本:高橋祐太》の時とは全然印象が異なる竹内真琴)は、職場館長の中島(山科)から言ひ寄られるまゝに関係を持ち、電車でも痴漢に遭ふことが多かつた。その多さゆゑ、尻の感触で痴漢を識別するに至る君子のお気に入りは、右手甲に蠍の刺青を入れた通称・サソリ(守屋)と呼ばれる有名痴漢師であつたが、その日の痴漢は、初心者を思はせるもどかしい手つきであつた。口を開くと軽くドッチラケルのは否めないものの、今作の守屋文雄が、まるで森士林(ex.根本義久)みたいにカッコよく映る。
 “二両目南側中央座席 痴漢被害者② 日高麻美(28)銀行員”。“高嶺の花”だ“意識高い系”だと臆面もなく自称―ただのバカなのか?と直截に思へなくもない―するほど、自身に極めて高いプライドを持つ日高麻美(希島)は―相手に要求する―理想も高く、当然痴漢なんぞ論外、容赦なく葬り去つて来た。とはいへ三十のいはゆる大台もぼちぼち目前に、理想が高すぎて周囲に追ひ越されがちな現状に焦りを覚えた麻美は、男の参加費が如何にもクッソ高さうな婚活パーティーに参加、これ見よがしなロス在住の会社社長・野崎(徳元)と出会ふ。何かと重装備で野崎との待ち合はせ場所に急ぐ麻美は、隣に座つた妙な迫力のある浮浪者・山田(清水)の痴漢を被弾。麻美は騒ぎたてられない訳もあり、懸命に耐へる。
 “三両目北川後方降車口付近 痴漢被害者③ 間宮涼子(35)警察官”。ガッチガチの男社会である警察組織内で肩肘張る間宮涼子(松井)は、上司(獅子奮迅/a.k.a.久保獅子=久保和明)による超高速で連打され続ける罵倒もものともせず、被害届が提出されてもゐないサソリ検挙に執念を燃やす。相変らず単独行動で通勤電車に乗り込んだ涼子に、指と同時に―痴漢を求めるか容認する女を見分ける―嗅覚をも神と讃へられるサソリが接触する。
 配役残り、しじみは押しの弱い君子を戯画的に邪険にする、「もしものコーナー」ばりにカッ飛んだ造形のギャル図書館員。佐倉萌は、どのやうに仕込んだのか録音した音声データを盾に君子を自宅に呼びつける、中島の妻・敏江。旦那が山科薫で嫁が佐倉萌、まあブルータルな夫婦ではある。絶妙に肉感的な和女は、オフィスでは麻美隣席の同僚・加奈。勤務医とはいへ医者の彼氏をゲットし、麻美の焦燥に止めを刺す。本当に数十人クレジットされる田中アンドレイ以降は、車内・館内・行内、婚活パーティー会場挿んで署内の各要員と、清水大敬が歴戦で鍛へ抜いた突進力でカッコいゝ見せ場を披露する公園隊に、大胆にオトすサソリ軍団。ヌルッとフレーム・インするサソリが、エクストリームな集団痴漢に文字通り割つて入るカットが絶品。
 大蔵三作目で早くも栄えある正月痴漢電車を射止めた、年末ギリギリ公開の城定秀夫2016年第二作。その割に、他の仕事が忙しかつたのか、今作のOPP+版以外には、城定秀夫が2017年未だ沈黙を保つてゐる。例によつてといふか何といふか、兎も角世評とは違へ、画期的な大転換ながら、逆に起承転結の転部で停止する大蔵上陸作「悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき」(2015/主演:古川いおり)と、ワーキャー騒ぐほどでもないよくある話の前作「汗ばむ美乳妻 夫に背いた昼下がり」(2016/主演:七海なな)に対しては、普通に考へれば十二分以上の出来にしても、敵があの人妻セカンドバージンの城定秀夫だと思ふと、手放しではノリきれぬ贅沢極まりない物足りなさも覚えたものである。
 性懲りもない憎まれ口は兎も角、そこで、「マン淫夢ごこち」。これが、メッチャクチャに面白い、箆ッ棒に面白い。ベラボーとでも叫びたくなるくらゐ面白い、黙れ。君子パートと麻美パートは比較的マッタリ攻めてゐたかと思ひきや、涼子が乗車するや否や麻美と連結。矢継ぎ早にサソリを案外アッサリ現行犯逮捕したかと再び思ひきやきや、欠片も動じるでなくサソリは自信に満ちた冷静な全力で涼子を陥落させにかゝる。当該ジャンルならではこその、スリリングなアクション感。徐行してゐた痴漢電車が、俄然超特急の勢ひで猛然と走り始める。三人同時に達した直後に、君子・麻美パートでは―と涼子パートの冒頭でも―巧妙に隠匿した、同時多発痴漢を繋ぐ匠の限りの構成の鍵を担ふ、決戦俳優部たる道川タカユキ役の麻木貴仁投入。全く別々の人生を送つてゐた君子と麻美と涼子が一本の電車で偶さか連なる、空前絶後の技術と論理とが火を噴く見事な電車痴漢トリプルクロスを構築してみせた。濡れ場のある女優部三人体制に、窮屈の異を唱へぬでもなかつた城定秀夫が事こゝに及んで提出した、フォーマットに対する鮮やかなまでの大解答に、恐ろしいことに止(とど)まらず。やりたがつたが何時も仕損じてゐた国沢実に代り、城定秀夫が完成させたシークエンス。死にたがる弱き者を、その者よりは少しだけ弱くない者が、どれほど惰弱であれそれでも精一杯優しく慰留する。竹内真琴が放つナベをも倒さんばかりの一撃を筆頭に、麻木貴仁×清水大敬にウェーイなツンデレぶりで、不器用な名場面を実は巧みに彩る久保和明。一見華はなさげに見せて、地味でなく強力な男優部の援護射撃も借り、三本柱が一撃必殺を三者三様三発、踏切の件を君子二発目に数へるならば都合四発撃ち抜くエモーションは、観客を何処からでも滂沱と流れる涙の海に沈め得る、正しく必殺にして超絶。一言でいふと、素晴らしいといふほか言葉が見つからない。昭和の時代から活動する清水大敬と山科薫、には流石に及ばないにせよ、世紀を跨ぐ佐倉萌を擁し量産型娯楽映画のヒストリカルな部分も継承。ラストのセカンドクロスで涼子が麻美に気づかない粗忽と、竹内真琴が頭でよくね?といふビリングに関する素朴な疑問をさて措けば、どれだけ探さうにも些末な粗も俄かには見当たらない。セイレーンXと、城定夫名義の二作。新東宝三作は作りが微妙と除外した場合、城定秀夫が純正ピンク五作目にして、しかもある意味最たるピンク映画ともいへよう痴漢電車で辿り着いた、最も高い到達点。技の城定秀夫と力の山﨑邦紀、そして小川欽也が叩きつけたアンチ・ヌーベルバーグとしての伊豆映画最新作。の三作が、当サイト選の2016年ベストである。ついでに裏一位は関根和美、闇よりも暗い黒一位は荒木太郎


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