真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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痴漢電車 お尻自慢/ex.DMM戦
か行
/
2019年05月26日
「
痴漢電車 お尻自慢
」(1989/製作:国映/配給:新東宝映画/監督:笠井雅裕/脚本:五代響子/企画:朝倉大介/撮影:下元哲/照明:白石宏明/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:柴原光/撮影助手:片山浩/照明助手:林信一/車輌:JET RAG/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:岸本かおる・橋本杏子・風見怜香・伊藤清美・いわぶちりこ・山本竜二・渋谷良介・池島ゆたか・清水大敬)。
結果的に、この期に及ぶと特定の誰某なり何某かを連想させるサムワンサムシングも特段見受けられないにしては、フィクションである旨わざわざ断りを入れるクレジット。もしかすると、再生性不良貧血を慮つたものなのかな、それとも脳梅毒か。ホンワカホンワカ呑気かぞんざいな劇伴が鳴り、新東宝ビデオ開巻。イチニサンシ、ゴウロクシチハチ。お花畑といふほどでもない、適当に草木の生えた何の変哲もないのも通り越し、そもそも切り取り方にさへ意欲を感じさせないボサッとしたロケーション。悪い意味での“奇跡の一枚”を―VHS―ジャケ写には採用した可愛くも何ッともない主演女優が、バレエをもたもた甚だ不格好に踊るファースト・カットにタイトル・イン。早々に、雌雄が決せられた感もなくはない。
かき氷みるく(表記不明/岸本かおる)が、オールドスクールの新聞配達に勤しむ。御近所の「つみたフルーツ」(店主不明)にて、何かよく判らん何時も世話になつてゐる施しを受け帰宅したみるくは、脳をスピロヘータにヤラれた祖父(清水)を起こす。みるくが小遣ひ、といふよりは生活費稼ぎの自撮り開脚ポラ―おパンツは脱がない―を撮る一方、清大はといふとアダルトビデオを見ながら猛然とワンマンショー。薔薇族では御馴染なのかも知れないが、尺八ならばまだしも、張形を扱く描写がコロンブスの卵に映る。そんな日々を送るみるくは、青年団が主催する発表会とやらの、主役に選ばれてゐた。
配役残り橋本杏子は、高校なのか青年団の方なのかは兎も角、みるくらが今とならずとも見てゐるだけで恥づかしい、レオタードでてれてれ汗を流すエアロビクスの鬼指南役・黒岩富美子、愛称はくらら。風見怜香は、貧乏を皆から馬鹿にされるみるくに、一見唯一温かく接する白鳥サキコ、
またしても
堂々とした百合の花を咲かせる。ほかにレオタード要員がもう五六名、その中にビリング頭より美人が何人もゐるバッドラック。山本竜二は、みるくを犯して発表会を断念させる田吾作。正直疲れてゐる時に見ると、山竜の―別な意味で―ダウナーなメソッドが煩はしい。一旦絶望したみるくに、清大はみるくの母が、浅草の名ストリッパーであつた事実を語る。母を捜しにみるくは上京、池島ゆたかは、見るからおのぼりさんなみるくに、ラッパを吹きながら接触する闇雲な造形の女衒。ラッパ女衒がみるくの判子で二百万の借金、渋谷良介は、みるくをSMクラブに放り込む借金取り。その後懇ろになつたみるくと渋良が、肛門脇にある赤い痣が手懸りらしいみるくの母を、満員電車の車中二人で捜すのが今回の痴漢電車、要は黒田一平を丸パクリ。伊藤清美は、出し抜けにこの人も上京してゐてみるくと驚きの再会を果たすくらら女王様の、アシスタント・亜理沙。台詞は潤沢に与へられるものの、見るから内トラ臭い客の奴隷は不明。池島ゆたかがチョビ髭をつけただけで臆面もなく全く別人の二役で、丹念にフラグを積み重ねはしたみるくに、絶望的な病状をあつけらかんと告知する鬼畜医師。いわぶちりこは、みるくが最終的に身を落とす売春バーの店主。ここでも、みるくに黒い靴の贈り物だけ渡しに来る山竜が、田吾作と同一人物なのか田舎もとい否かといふ疑問は、所作指導の有無なんぞ水泡に帰さんばかりに普段通り手前勝手に喚き散らす、山竜の姦しさの前に爆砕される。
国映大戦
第十四戦は通算第三作となる、笠井雅裕1989年第一作。jmdb調べでの笠井雅裕と国映の関りは、助監督時代の佐藤寿保組二本のほか、前年の『PG』―前身の『NEW ZOOM-UP』―誌主催ピンク映画ベストテンに於いて第三位に飛び込んで来る、前作「お尻を振つておねだり」(昭和63/脚本:笠井雅裕/主演:風見怜香)と「お尻自慢」に次作「中がいいは」(カサイ雅弘名義/脚本:五代響子/主演:南崎ゆか)の痴漢電車三連撃に、ENK薔薇族一本挿んで「ザ・暴行 下半身責め」(脚本ともカサイ雅弘名義/主演:橋本杏子)の計四本。ついでに同年第二回のピンク映画ベストテンに於いても、四作後の「冴島奈緒 異常昂奮」(エクセス/カサイ雅弘名義/脚本:五代響子)が栄えある第一位と、五作後の「痴漢電車 後ろから乗つて!」(エクセス/カサイ雅弘名義/脚本:五代響子/主演:石原ゆり)で第七位に輝いてゐる。
当時笠井雅裕がピンクスから熱狂的に迎へられてゐた空気は窺へ、国映も未だこの頃は後年のやうに傾(かぶ)いてはゐなかつたらしく、ルーズな選曲から象徴的な殊更トガッてみせた訳でもない、良くも悪くも量産型娯楽映画らしい一作。それ、どころか。一応「美徳の不幸」といふほど本格的な代物でもないにせよ、「純朴の不幸」程度にみるみるみるくが零落する趣向は、ひとまづ成立してはゐる。とはいへ魅力に乏しいヒロインにキレを欠いた演出も追随、如何様な状況にあれ、出て来るなり映画を掌握、あるいは全部持つて行つてみせる清水大敬の熱量を伴つた圧力を除けば、凡そ見所らしい見所さへ見当たらない。最大の謎は、斯様に漫然としかしてゐない今作を、あのm@stervision大哥が御自身の1989年日本映画ベスト20で、ピンク最高の五位に挙げてをられる件。例によつての節穴が見落としたと思ひたいところではあるのだが、流石に何処が面白いのかサッパリ全く一ッ欠片たりとて判らない。マッチ売りの少女風、といふかそのまゝ終に事切れるみるくに続き、フルチンでマスをかきながら清大がみるくの名を東京の夜空に叫ぶ。それはそれとしてそれなりに豪快なラスト・ショットには、何処が面白いのかサッパリ判らないまゝ映画が終る、そのアメイジングに対する衝撃に思はず「凄え!」と声が出た。
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