真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ホールインラブ 草むらの欲情」(昭和54/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:林功/脚本:宮下教雄/プロデューサー:村井良雄/撮影:米田実/照明:野口素胖/録音:佐藤富士男/美術:渡辺平八郎/編集:西村豊治/音楽:本多信介/助監督:鈴木潤一/色彩計測:野田悌男/現像:東洋現像所/製作担当者:服部紹男/協力:株式会社マツダサービス/出演:山口美也子・宮井えりな・高橋明・市村博・白山英雄・小池雄介・八代康二・織田俊彦・浜口竜哉・木島一郎・影山英俊・緑川せつ・八城夏子・吉沢由起/ゴルフ指導:服部泰子・小林リエ)。正確なビリングは、緑川せつと八城夏子の間にゴルフ指導を挿む。各種資料に見られる企画の進藤貴美男が、本篇クレジットには見当たらない。
 トロフィーや栄光の写真の数々で飾られた、新人杯優勝気鋭の女子プロゴルファー・朝倉真紀子の居室。ベッドの上では真紀子(山口)と、恋人の西沢(影山)が交はつてゐる。開巻主演女優と二人先陣を切る俳優部が、影山英俊である僥倖に早速打ち震へる。西沢が真紀子の体を愛でて、「全く真紀子の体は素晴らしいコースだよ」。クソ以下の文句が、影山英俊の口跡にかゝるやグルッと一周して寧ろ完璧に聞こえる詐術もとい魔術。ダサい台詞をきちんとダサく、あくまでダサいまゝにひとつの形として吐けるのも、ある種の才能だと思ふ。ところが挿れ始めたところで、不意な来訪者が。ノンクレジットの賀川修嗣と小見山玉樹を引き連れた刑事の高山(浜口)が、深夜の家宅捜索に乗り込んで来る。呆然と、捜索を見やる真紀子にタイトル・イン。“女子プロゴルフ界に黒い霧”、“新人杯の朝倉真紀子覚醒剤常習で逮捕”、“プロゴルフ連盟朝倉プロを永久追放”。新聞か雑誌の見出しを連打、基本設定をチャッチャと片付けるタイトルバックが手短に駆け抜けた上で、これ見よがしなケースに入れられた注射器を高山が発見。ベッドに一人留まる西沢を抜き、真紀子に手錠がかけられる。露払ひを務める影英とノンクレで飛び込んで来るコミタマ、アバンで軽くお腹一杯になつた感もなくはない。
 半年後出所した真紀子を、真紀子の妹・玲子(吉沢)と、真紀子が元々キャディーとして働いてゐた、ゴルフ場経営「双葉観光」社長の双葉(八代)が出迎へる。二人の迎へを一旦断つた真紀子は、続けて現れた『ゴルフ通信』記者・陣内(白山)の車に乗る。真紀子を顔の利く練習場との「緑が丘ゴルフクラブ」に連れて行つた陣内は、真紀子を裏世界の賭けゴルファー、劇中呼称で“ハスラー”に勧誘する。
 配役残り宮井えりなは、正体不明の何者かに弄られる、緑が丘ゴルフクラブ囚はれの経営者・マダム蘭子こと海老原蘭子。木島一郎は、陣内が真紀子に引き合はせるハスラー初陣相手・黒川、土建会社社長。真珠どころか、棹にダイヤを埋め込んだ大層な御仁。見えないところに、金をかけるダンディズム。高橋明と小池雄介は、真紀子馴染のスナック「バーディー」マスターの島本と、「バーディー」で日がな一日酔ひ潰れる海老原シュンサク。当時たまたま実際に焼けてゐたのか、藪蛇に真黒な八城夏子は双葉の娘で、とかくライバル視する真紀子に、だけれどもゴルフの腕は適はないルミ子。そして織田俊彦が真紀子に対するリベンジを期する黒川に招聘された、プレイ中に七色のボールを使ひ分ける―当然クッソ反則行為―と謳はれるゴト師の利根山。織田俊彦がイカサマ野郎、さりげなく爆裂する超絶のハマリ役に小躍りした。緑川せつは、利根山のヤサである黒川の第二現場に急行した真紀子と海老原に、邪険に対応する謎の女。胸元が乱れてゐるのが利根山と寝てゐたものかと思ひきや、ワンマンショーの最中であつたとかいふ闇雲な裸要員。a.k.a.五條博の市村博は、最終決戦の代役・梶岡テツヤ。海老原が遂に勝てなかつた、ex.日本チャンピオン。
 へべれけに酔つ払つてゐながら、勝負に完勝した海老原が屠つた真紀子に伝授する、示現流の立木打ちからヒントを得たとかいふオリジナル秘打、その名もダブルスピン。距離を問はずボールを五番アイアンで地面に叩きつけ、画的にはビヨーンビヨーンと短く往復するプリミティブ特撮でボールを的に捻じ込む。マンガみたいな必殺技が清々しい、林功昭和54年最終第三作。緑川せつまで豪華五本柱を擁する割に、一度たりとて絡みを最後まで描かない小癪な姿勢は頂けないものの、所々の大雑把さに目を瞑ると、海老原といふやさぐれたバディも得て、真紀子が次第に姿を明かす真の黒幕との対決に至る展開は、王道中の大王道。病気で片肺を摘出し、過酷なツアーには耐へられないゆゑ引退したにせよ、梶岡は1ラウンドなら今なほ超一流。強敵の攻略に際し、正確無比なショット―と難のあるスタミナ―を狂はせるべく、真紀子が採用した戦略がズバリ色仕掛け。休憩中クラブハウスのロビーにて、真紀子がシャロンシャロンと足を組み換へ梶岡の目を引くカットは笑かせつつ、島本の姑息な工作で五番を失つた真紀子が決死の敢行を挑む、七番ダブルスピンは燃える。これでもう少し、演出に外連があればなあ。

 キャリア後期は関根組で活動してゐた、野口素胖の名前をロマポのクレジットに見かけると改めて感慨深い。目下確認出来る最後の仕事は、六変化しかしない関根和美2005年第一作「女探偵 おねだり七変化」(脚本:吉行良介/主演:出雲ちひろ)。


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