真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「生抜き温泉芸者」(1997/製作・配給:大蔵映画/監督・原案:小林悟/脚本:伊藤清美/撮影:柳田友貴/照明:ICE T/編集:フィルムクラフト/音楽:アンサンブル J/助監督:堀禎一/スチール:大崎正浩/タイトル:ハセガワタイトル/効果:タムサウンド/録音:シネキャビン/現像:東映化学㈱/協力:浅草ロック座・上山田温泉 参見番/出演:上城唯・葉月螢・久保谷紅子・港雄一・坂入正三・河合純・牧村耕二/協力出演:薩摩剣八郎・高竜也・若林とめ・東中野酔狂連)。協力の参見番は1997年当時、浅草ロック座会長・齋藤智恵子が経営してゐた上山田温泉(長野県千曲市)の芸者置屋。
 またしても2016年に上野で上映してゐた割に、麗しの七色王冠開巻、全然弄らずにかけたのかな。本篇の火蓋は対面座位の要領で芸者を抱へた男が、足と尻だけで競争する御座敷芸。芸者は三本柱の雛子(上城)・ミツバ(葉月)・コヨミ(久保谷)に、客要員は東中野酔狂連。ほかに酔狂連を接待してゐると思しき牧村耕二まではいいとして、三味ともう一人馬鹿騒ぎの輪から少し離れ、ニコニコ酒だけ飲んでるのは若林とめと高竜也(ex.池田正一)?兎も角、参見番から結構箍の外れた本格的な大人数、芸者の大軍がゾッロゾロ出撃する画にタイトル・イン。公式サイトが繋がらないため、参見番が現存するか否かは不明。クレジット中は芸者の行列から、画は不意を突いて夏祭りにスイッチ。射的に興じる港雄一が、さりげなく見切れる。
 クレジット明けは久保谷紅子の濡れ場を、牧村耕二が介錯する。銘々の設定程度が関の山で、らしくもらしからずもなく物語が存在しないゆゑ、サクサク配役残り。港雄一は、リストラされたとかで当地に逗留する市川、元の役職は部長。河合純は、婚約指輪を一旦雛子の左手薬指に通しまでしたex.恋人・カズオ。長野で親爺の会社を継ぎ、三代続く芸者稼業に帰郷して身を投じた雛子と邂逅する。坂入正三は、ミツバの上客・モリヤ、煎餅屋。薩摩剣八郎は、ジャンケンに勝つても負けても雛子が脱ぐ、不条理な野球拳に戯れる何処ぞの社長。問題が、剣八郎を接待する側の三人組(男二人×女一人)。秘書(メガネの女)を連れる立場の真中に座る男が、何処ッからどう見ても中田新太郎にしか見えない件。
 ピンク映画前作に続きバラ売りex.DMMに新着した、薔薇族一本挿んで小林悟1997年最終第六作。大御大にどれだけ需要があるのかは知らないが、打撃戦に応じる覚悟で、配信されるなり見るんだぜ。川崎に移りソープ嬢に転身する、あへていへば“のみ”のコヨミは兎も角、縁談を破談にされた男と再会する雛子に、宿したモリヤの子を堕ろすミツバ。実は脛に派手な傷持つ市川まで含め、恐らく伊藤清美は盛り込まうとしたと思しきドラマの種は諸々なくもない、ものの。あれやこれやも何もかも、事もなげに等閑視してのけるのが小林悟。精々散発的な一幕一幕が、起承転結も満足に起動しないまゝ漫然と連ねられた果て。尺も四分の三を通過したタイミングで五分半火を噴く夏祭りパートが、劇映画とは殆ど別の領域へと今作を弾き飛ばす。上城唯は百歩譲つてまだしも、片肌脱いだ在りし日の齋藤智恵子が、二人上に乗つて団扇を振る山車を延々、より直截にはダラダラ追ふ一頻りは、記録映画といふほどの代物でさへなく、わざわざ35mmフィルムで撮影したホーム・ビデオくらゐにしか見えない。サカショーがヘドバンばりに天パを高速振動させるエクストリームなハモニカなり、上城唯の威勢のいい鉄砲乳といつた琴線の触れ処も絶無といふ訳では必ずしもないにせよ、映画丸ごと底を抜いた上で、雛子が市川がお勤めを終へるまでに、祖母の形見である三味線の上達を誓ふラスト。唐突に暗転、銀冠菊一斉打ちのそれはそれとして見事なショットに“完”を叩き込んだのちの容赦ない静寂は、ヒャズ・レフト・ザ・ビルディングとでもいはんばかりの、有無をいはせぬ正体不明の迫力を後に残す。

 新着記念に、久々もしくは改めての与太。当サイトが小林悟に“大御大”の尊称を冠するところの所以は、何時だつたか上野オークラの公式ブログが小川欽也に対して“御大”と称したのを目にし、小川如き若造と同じ御大扱ひでは小林悟に失礼だらうと思ひ、サモ・ハン・キンポーの大大哥に倣つて、御大に大をもうひとつ重ねたものである。小林悟と小川欽也といふと、実は四つしか生まれ年は違はないんだけど。


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