真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「樹海熟女狩り」(1998/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:堀禎一/撮影:柳田友貴/照明:ICE T/編集:㈲フィルムクラフト/録音:シネキャビン/助監督:掘禎一/スチール:佐藤初太郎/タイトル:長谷川プロ/監督助手:竹洞哲也・細貝昌也/音楽:アンサンブルA/現像:東映化学㈱/出演:小川はるみ・里見瑤子・神崎紀夏・牧村耕二・河合純/客演:薩摩剣八郎・港雄一)。
 慶子(小川)と山形(牧村)の不倫の逢瀬。長い長い濡れ場の合間合間に、山形と慶子の夫(後に電話越しに聞かせる声は杉本まこと)は同じ会社に勤めてゐること、山形が会社の金を横領したこと。慶子には子供が居ること等が語られ、にも関らず、富士山の樹海側(そば)の生家に山形と一緒に逃げることを持ちかけた慶子が、次の日迎へに来て呉れる旨を約したところで漸くタイトル・イン、ここまで何と十分強。オープニング・クレジットの間も慶子はシャワーを浴び続け、何と何と開巻十二分主演女優が脱ぎつぱなし。但し、街景に被せられる会話を通し必要な情報を適宜投げる、周到な構成まで含め丁寧に編み込まれた慶子と山形の情事は些かもダレることはなく、結果論からいふと、いきなり総尺の四分の一弱を女の裸で埋め尽くす荒業は、寧ろ完璧であつたのだ、尻は壮絶に窄む。アリバイ作りの叔母か伯母相手と、息子・タカヒロにも嘘をつく。慶子の自己完結で処理する二本の電話の妙なアンニュイさで順調に躓き始めつつ、山形の運転する車が富士に入り、慶子は幼馴染・泉を想起する。泉(里見)は同じく幼馴染のトシユキ(河合)に樹海の中で犯され、その後自殺。泉の死体が発見されるとトシユキは自首、鑑別所に入る。ここで港雄一は、民宿「みはらし」を営むトシユキ父。もう一人の客演勢ゴジラの中の人で御馴染み、あるいはピンク映画界二人目のスーツアクター(久須美欽一が一人目)薩摩剣八郎は、自殺者が出たとやらで一々検問で車を止める刑事。港雄一は兎も角薩摩剣八郎が木に接いだ竹は、脛に傷持つ山形のチキンぶりへの遠い遠い伏線、とでも捉へればよいのか。
 小林悟1998全六作中第四作、といふのは兎も角、より重要であると思はれるのは小川はるみのピンク映画デビュー作である点。第二作「刺青淫婦 つるむ」(2005/監督・共同脚本:松岡邦彦)まで相当間が空くとはいふものの、その後も松岡組―と吉行組も―を主戦場に、最近作が未だ来てない以上当然未見の吉行由実2012年第二作と、何気に息が長いところは素晴らしい。元々老け気味であつたともいへるのか、結構驚くほど今と変りない。尤も、今作に関しては、声は佐々木基子のアテレコである。映画本体に話を戻すと、慶子が風呂に浸かつてゐるとポップなSE起動。泉の幽霊?が、二階に眠る山形に彼岸から夜這ひを敢行する。うわ、怪談映画かよと驚くのは些か早い。驚くには当たらないといふよりは、直截には驚いてゐるどころではない。ある意味山形を寝取られたといふのに、慶子は腹を立てもせずにアテられたのか自慰。ハレルヤもとい果てるや、「待つてたの」といふ泉との直面の直撃を受けた慶子は、慶子と泉と更に飛び込んで来た神崎紀夏も、深い森の中木に縛られる幻想を見る。だからその三人目の女は一体誰なんだよといふのが逆の意味での頂点、といふことは要は底に、相変らず雰囲気だけは変に思はせぶりながら、良くなくも悪くも崩壊は加速する。jmdbを鵜呑みにするならば、今回が少なくとも商業映画初脚本となる堀禎一が若気の至りを仕出かしたのか、それとも安定の御大仕事なのか。その辺りは映画を見てゐるだけでは判らないし、詳細な検討を試みる能力の如何以前に、意欲といふか余力も雲散霧消するほかはない。一体泉は何の為に呼び出されたのか、明けて富士二日目は怪談なんぞ本当に何処吹く風。退場した死者に代り生者が支離滅裂で、展開は完全に木端微塵に粉砕される。本当に恐ろしいのは、超常的なあれやこれやではなく、単に生きた人間である、などとする乾いたリアリズムでは恐らくあるまい。唐突な無常観が一応映画的でなくもない無体なラストまで、右往左往しかしてゐない筈なのに最終的な感触としてはそれでも何故か一直線。呆然と立ち尽くす慶子の足下、土の上で絶望的に踠(もが)くニジマスの今際の間際に、いつそ今作を前にした者の不運な姿でも重ね合はせてしまへ。

 バイザウェイ、五里霧中のファースト・カットから忘れた頃に改めて再登場する神崎紀夏は、トシユキの妻・アヤカ。

 後注< 知らなんだが、栗原良もスーツアクター出身であつた。申し訳ないけど、薩摩先生はピンク映画界三人目で。


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