真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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駄楽ひまなときブログ
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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異常飼育 ワイセツ性交
山﨑邦紀
/
2013年04月04日
「
異常飼育 ワイセツ性交
」(2012/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/原題:『くはばらくはばら』/撮影:大江泰介/撮影助手:伴徹/照明:ガッツ/照明助手:中城京祐/助監督:北川帯寛・船田智/応援:田中康文/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/ポスター:本田あきら/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/原画協力:好善信士/協力:漫画屋・一水社・セメントマッチ/出演:大城かえで、里見瑤子、佐々木基子、竹本泰志、平川直大、キャンディ・H・ミルキィ、Sasha B Savannah、相沢一子、池頭芳宏、上倉健太、長田真紀子、カドカチェトリ順、武子愛、武子政信、ミサ、南田美紅、向井久美子《50音順》、リカヤ・スプナー)。照明のガッツは、守利賢一の変名。出演者中、御大から向井久美子までは本篇クレジットのみ。
成年マンガを執筆する、弓原咲耶(大城)ことペンネーム・月野こよみ。月野こよみのマンガは不人気で咲耶自身マンガを描く作業に喜びはなかつたが、原稿完成後、ゴスロリ衣装に身を包みバイブの愉悦に震へる時だけは、咲耶は自身が月野こよみであるのを実感した。のつけから下衆が勘繰るに―半分―自嘲気味な月野こよみの造形には苦笑するも、さて措き達した咲耶は、“あと七日で世界は終る”とする拙い口跡の天啓を受ける、咲耶が慄いたところでタイトル・イン。女ばかりの咲耶の家族は三人、後述する姉妹がまだ幼い頃死去した父親の遺産で、趣味の仮面蒐集に明け暮れる母・あずさ(佐々木)は、娘ながらに何を考へてゐるのか判らない女であつた。姉の鹿の子(里見)は精神科医、但し目下休職中。その癖自宅に招いた、患者で雑誌編集者の不可知(竹本)と診察と称した奔放なセックスに励む姿に対しても、医者なのか患者なのか判らぬといふ印象を咲耶は懐いてゐた。ところで、変態性癖の持ち主を“失敗した芸術家”と救済を図る鹿の子愛用のソファーの左右に掲げられた肖像は、左がその“失敗した芸術”観の提唱者
オットー・ランク
で、右は後に鹿の子が中尾ハジメ訳の著書『性と文化の革命』も手に取る
ヴィルヘルム・ライヒ
。元々は鹿の子から紹介された、不可知が編集長の一水社編集部に月野こよみの完成原稿を持参した咲耶は、編集者の眼力(平川)と、眼力が担当する昨今の女装新潮流「男の娘」をテーマにした新雑誌とを紹介される。早速取材だといふ次第で、眼力はドレスコードで女装してゐない男は入れない、女装バー「まほろば」に咲耶を放り込む。因みに女は、手本になるゆゑ平装で可とする方便。“御大”
キャンディ・H・ミルキィ
―そのミドルネームのHは、一体何のHなのか―率ゐるガッチガチの女装者と、その他要員(五十音順十名)が繰り広げる仮面舞踏会の威容に圧倒される咲耶に、「まほろば」の雇はれ店長・マホロバ(リカヤ・スプナー)がジェントルに接触する。浜野佐知の一般映画第三作「
こほろぎ嬢
」(2006/主演:石井あす香)以来、六年ぶり二度目の旦々舎作出演となるリカヤ・スプナーは、やまきよに―少し―似た妖しい色気を漂はせつつ、山本清彦と比べては矢張り些かならず軽い。
2000年代を代表するアクション映画の大傑作「
ユニバーサル・ソルジャー リジェネレーション
」(2009/米/監督・編集:ジョン・ハイアムズ/撮影監督:ピーター・ハイアムズ/出演:JCVD、ドルフ・ラングレン、他)のピンク映画化に挑んだ前々作「
奴隷飼育 変態しやぶり牝
」(2011/主演:浅井千尋)、今度は坂口安吾の『白痴』と『風博士』の翻案に、3・11後の現況を加味した前作にして放射能ピンク「
人妻の恥臭 ぬめる股ぐら
」(主演:大城かえで)と、二作意欲が空回つた感の強い山﨑邦紀の2012年第二作は、そこだけ掻い摘めば頗る魅力的な今回は女装ピンク。大体、女装薔薇族といふならば兎も角、主人公が初めから女であるにも関らず主モチーフが女装といふのが奮つてゐる。加へて、アバンから衝撃を叩き込む“終末する世界”。五年ぶりの復活に際し、佐々木基子から里見瑤子の手に委ねられた“失敗した芸術家”。仮面蒐集を理解しない娘に、あずさはまるで江戸川乱歩の如く、真の素顔は果たしてどちらであるのやと価値観を倒錯させる、即ち“生身は夢であり、仮の面こそ誠”。そして血縁関係のある実の家族ではないにせよ、マホロバはまほろばに集ふ者達は“滅んで行くファミリー”であると説く。何れも魅力的なテーマの数々に、いよいよ山﨑邦紀が三度目の正直で撃ち抜いた衝撃の傑作、と行きたいところではあつたのだけれど。世界終末の淡々としたカウントダウンを縦糸に、身震ひさせられる風呂敷の数々が拡げられ緊張を伴つた期待感は膨らむものの、結局それらが統一的な物語の中互ひに連関を果たす結実は終にないどころか、よしんばさういふ平板な作劇は端から望まないにせよ、諸々の主題はそれぞれ散あるいは単発的に持ち出されるに止(とど)まり、各単体としてすら根を張る訳でもない。大銀杏は結えぬが出し抜けにまはしを締めたマホロバの四股を火蓋に異装の一同が踊り狂ふ、まほろばカーニバルで振り逃げる、殊にキャンディ御大のフィーバー・ショットで無理から映画を畳み込む荒業も、かつての山﨑邦紀であつたならば頭に奇がつく想定の範囲内になくもなかつたのだらうが、さういふ剛力も欠如する。そもそもが、通り一辺倒な濡れ場から旦々舎にしては甚だ淡白に過ぎまいか。ファンなればこそ臆するでなく筆禍を懲りずに仕出かすが、盛り上げるだけ盛り上げておいて拍子だけが抜かれる、呆気ないラストには山﨑邦紀の全般的な枯れをも感じさせられずにはをれない、盛大に梯子を外す一作。バジェットの僅少なんぞ問題ではない、世界の終末を謳つた以上、外連でも蛮勇でももう少し派手にそして甘美に弾けて貰はないでは、こちらも振り上げた拳の遣り場に困るといふ奴だ。
何処で触れたものか結局機を逸してしまつたが、咲耶外出時の、ボッサボサの頭に大き目の黒縁メガネを防御的に合はせ、猫背×ガニ股で所在なさげに出歩く大城かえでが狂ほしくエモーショナル。ダメ人間の琴線を直撃するツボを、方向性は違へど全盛期のウィノナ・ライダーばりに完全に自中のものとしてゐる。但し、いざ絡みとなり脱いでみると、幾分以上にオーバー・ウェイトか。
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