真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢名器占ひ 奥まで覗け!」(1996/製作:ワイ・ワン企画/提供:Xces Film/脚本・監督:遠軽太朗/プロデューサー:戸川八郎/撮影:鷹野聖一郎・安藤敦美・相模昌宏・児玉成彦/照明:宮崎輝夫・坂上義和/助監督:池延和行/スチール:生駒卓己/衣裳:米村和絵/ヘアメイク:荒川広子/録音:㈱ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/音楽:駿下真実/編集:㈲フィルムクラフト/現像:東映化学/出演:香坂ゆかり《第一回主演》・本城未織・中村京子・小林節彦・帆足哲郎・中川明・増尾鯉太郎・米村和絵)。
 海原に浮かぶ漁船の画でまさかの開巻、因みに、純粋にそこら辺で撮つてゐるといふだけで、海はおろか海町すら本作の中身とは全く関係ない。波止場に置かれた招き猫が一鳴き、ビヨンとポップなSEと共にカットを繋いで主演女優が本当に飛び込んで来る。「貴方、幸運て信じます?」と出し抜けに切り出した香坂ゆかりは、誰にも幸運が訪れると信じてゐることと、反対に信じない人には幸せはやつて来ないと知つてゐること。かくいふ自身も、全然幸運になんて恵まれない女であると思つてゐた旨を自己紹介してタイトル・イン。半歩でも間違へると能書臭くなりかねないところが、思ひのほかポップに切り抜けてみせる。
 運上ミカ(香坂)は横柄な恋人・清(中川)との事後、いはゆる下げマンであるからなどといふ無体な理由で、一方的極まりない別れを告げられる。それまでにも似たやうな過去を持つミカは気丈にも落ち込みはしないにせよ、評判を頼り著名な占ひ師・朝沼彰虎の霊能力研究所を訪ねてみる。どうでもよかないが、大概挑発的な役名ではある。待合室にて何故か胸元を拭きながら出て来た女(米村和絵、全然普通に美人)と入れ違つたミカと対面した朝沼(小林)は、チベットで積んだ修行といふのは伊達ではないのか、男運のなさを即座に看破する。あれよあれよとミカを四つん這ひにし下半身を露出させた朝沼いはく、御紋ならぬ菊の御門を見れば何でも判るとのこと。ここは素直に釣られるのが礼儀であらう、

 玉門占ひか。

 朝沼は順当に加速、卜占玉を菊座に埋め込むやビラビラのバランスとやらを直せば運気も改善されるだとかいふ末に、当然のこと肉もとい精神棒も解禁。挙句に五十万もの見料を請求されたミカは支払へず、結果朝沼研究所で働くことに。しかも出張占ひと称しては、朝沼はミカに適当に任せ研究所を度々留守にするのであつた。朝沼といふか、殆ど泥沼である。
 中村京子は、開運の荒行と称して傍目には出張ホストと変りない朝沼の常連客・京子さん、オッカナイ筋の女であるらしき節も窺はせる。帆足哲郎は朝沼不在の研究所を訪れ、ミカが見様見真似で自らが施されたのと同じ責め、いや行を施す依田ツネオ。二十八年拗らせた不運と童貞ながら、実は見事な巨根の持ち主。a.k.a.林田ちなみの本城未織も工夫なく、相変らず朝沼が京子の下に出張してゐる隙に、研究所に現れるフミヨ。ミカよりも余程開運のメソッドに詳しい様子で、あれよあれよと大輪の百合を咲かせる。増尾鯉太郎は、親分の情婦である京子に手をつけた朝沼を、ホテルに潜んで待ち伏せする組の若い衆。
 今のところ知る限りでは、ワイ・ワン企画一の名手・遠軽太朗のデビュー作。単なる純然たるセックスを開運の行と強弁する、文字通りの一点突破で堂々と劇場本篇を丸々乗り切る態度は、確かにピンク映画的には誠清々しい。その先女の裸の羅列のみに甘んじることなく、自らの幸せを信じられない者に、幸せなど訪れないとするテーマを盛り込まうとした意欲は窺へるし、現にメッセージ自体はミカに都合二度喋らせる以上、黙つて見てゐれば伝はらない訳がない。さうはいへ、概ね研究所と連れ込みのみを舞台に進行する濡れ場濡れ場のつるべ打ちの中から、主題に血肉を通はせるに足る物語が見えて来るとは些か以下にいひ難い。その癖、依田―とフミヨ―や朝沼の去就を回収しようとした色気の副作用として、フィニッシュの然るべき位置に香坂ゆかりの質・量とも十二分な絡みを持つて来れなかつた、構成の不備も地味に際立つ。処女作にしては一歩間違へればルーチンかと思へるほどの潔い裸映画ぶりで、その意味に於いては青さを感じさせることはないものの、詰め切れない余地はそこかしこに残した初陣である。


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