真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「新妻痴漢 たまらず求めて」(1999/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:片山圭太/脚本:金泥駒/プロデューサー:関根和美/撮影監督:中本憲政/助監督:城定秀夫/編集:《有》フィルムクラフト/撮影助手:西村友宏・宇賀谷友織/スチール:佐藤初太郎/監督助手:寺嶋亮/音楽:ザ・リハビリテーションズ/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:麻丘珠里・村上ゆう・麻生みゅう・山内健嗣・銀治・熊本輝生・飯島大介/友情出演:新沼正興・東海林毅・堀禎一・佐藤敦・藤本貴志・亀谷英司)。脚本の金泥駒は、小松公典の変名。
 朝の仁科家、正体不明の鼻歌とともに「よしバッチリだ」と味噌汁の味に満足する新妻の恵里(麻丘)に、夫・誠一(山内)が背後から手を出しての夫婦生活。イクのと同時にオーブンがトーストを吐き出す、のは単なる牧歌的なクリシェではなく、「ブレッド・アンド・味噌汁」と絶句する誠一に対し、恵里は「お米切らしちやつたのゴメン」と今風にいへばテヘペロ。小松商事―そこは関根物産ぢやないのかよ―新米課長の誠一を恵里が送り出してタイトル・イン。同じ料理教室に通ふ年長で独身の友人・啓子(村上)の顔見せ挿んで、帰宅した恵里が買物を確認してゐると、買つた覚えのないCDが、恵里には万引き癖があつた。するとチャイムが鳴り、出てみたものの誰も居ず、但し玄関先に置かれた封筒の中には恵里の万引き現場を押さへた写真が入つてゐた。更にかゝつて来た電話に恵里が出ると、謎の男が「よく撮れてるだらう」と嘯く。その夜の求めは恵里が拒み、誠一は機嫌が悪い翌朝。郵便受けから着信音がするので何事かと思へば、謎の男が仕込んだ携帯電話。午後一時新宿南口に呼び出された恵里は、ガード下にて通りがかる三人目の男にキスすることを皮切りに、携帯からの非情な指令のままに数々の羞恥行為を強ひられる。
 通常出演者残り、登場順に熊本輝生は謎氏が送りつけたセクシー下着を、その場で着替へさせられる恵里に目を丸くするイケメン配達員。佐賀照彦が佐賀出身であるやうに、この人はもしかして熊本生まれなのか?何処の言葉か判らない怪体な方言を駆使する銀治は、恵里が尺八を吹かせられるニッカポッカ・洋平。麻生みゅうは洋平との一件を経た恵里が泣きつく、大学の同級生・唯。相談がてら百合の花を咲かせるのは大概強引な三番手処理法かとも呆れかけたが、神出鬼没な謎氏の神の視点頼りの力技で、最終的に上手く捻じ込んでみせた点には最初に感心した。友情勢は計四名のガード下の三人目組、熊本輝生の前で履かされたパンティを、今度は歩道橋で脱がされる際の男に、怒涛の即物的な煽情性が火を噴く電話ボックスパイ押しつけと、公衆便所オナニー二連発にそれぞれ仰天する禍福者。となると全部で七人となり、名前がひとつ足らない。どちらが三人目なのか恵里がパニックになるスーツ二人連れの内、背の低い方が城定秀夫にも見えつつ、画面が暗い上にそこでその男の顔を明確に抜くことは本義でもなく、詰め切れなかつた。
 デビュー作から五ヶ月後の片山圭太第二作は、四年後に師匠の関根和美が、大体同じやうな話ではあれど下手に色気を出し派手に仕出かしたことを想起するなり比べずとも、綺麗によく出来たダーク系エロ映画。m@stervision大哥は荷が重いと難じておいでで、確かに口跡は清々しいほどに真直ぐな棒だが、上手く切り取つた表情は展開の推移に素直に即す。とりわけ、恵里が自身の愛液の味に違ひを覚える件は手数自体が出色。終盤に至るまで消化されないゆゑ、下手に放り込まれると映画を壊すぞと本気で心配した村上ゆうの濡れ場も、クライマックスのエクストリームの渦に無理なく回収。山内健嗣がやさぐれたナイーブで受ける無体なエピローグも含めて、恵里が次第に“成長”―因みに、「マイケルジャクソンの真実」は2003年―して行く物語は見事に花開く。残念ながら僅か三作限りの片山圭太の中で、最高傑作はと問はれるならば当サイトは今作を推すものである。


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