真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「多淫な人妻 ねつとり蜜月の夜」(2011/制作:セメントマッチ・光の帝国/提供:オーピー映画/脚本・監督:後藤大輔/プロデューサー:池島ゆたか/シネマトグラフィ:飯岡聖英/サウンド:大場一魅・ハッピーターン『コスモス』/エディット:酒井正次/ミキシング:シネキャビン/タイミング:安斎公一/チーフAD:北川帯寛/助監督:畠中威明/撮影助手:宇野寛之・玉田詠空/現場応援:永井卓爾・広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/現像:東映ラボテック/協力:清水正二・五代暁子・中川大資・千葉県夷隅市 ホテル バナナリゾートいすみ/出演:桃井早苗・野村貴浩・千川彩菜・岡田智宏・琥珀うた・久保田泰也)。
 化粧箱から張形を取り出し、タイトル・イン。
 淫靡に見え隠れする淫具の光、本格的な暗闇の中、女が張形で自慰に耽る。カーテン越し僅かに洩れる光の筋で、辛うじて女が主演女優であるまいかと酌めるとはいへ、流石に如何せん画面が暗過ぎる。比較的映写環境は良好な部類ではないかと思はれる、前田有楽の結構大きなスクリーンで観ても、殆ど何も見えない。情けないプロジェク太上映の小屋で観た折には、藤原健一の暗黒女囚映画「女囚701号 さそり外伝」(2011/主演:明日花キララ)に劣るとも勝らず見えないのではなからうか。話を戻して深夜、そこそこの洋風邸宅に、黒の目出し帽を被つた男が侵入する。ピッキングで鍵を巧みに開け、チェーンはニッパーで切断。家内には、既に物色された形跡があつた。男が二階の寝室に忍び込むと、尻を廊下側に向ける形で拘束された、全裸の肉感的な女が。混乱してゐるのか、手をこまねく男の存在も知らず、女は放屁と共に菊穴に埋め込まれたローターを排卵する。男は終に発情、女を抱き、待ち構へてゐたのか、女も喜悦する。一方洋館に、もう一人の目出し帽男(以下目出し帽男B、先に登場したのは目出し帽男A)が帰還。外出の目的は、切れてしまつたバイブの電池。後(のち)の一幕、電池の買占めを難じてみせる中途半端なアクチュアリティーに関しては、ここでは不問に付す。震災の影響を情事の火蓋を切るロマンティックな呼び水程度にしか捉へてゐない、工藤雅典よりはまだマシだ。目出し帽男Bが、放置する形で女を待たせてゐた二階寝室に戻り、双方同じ目出し帽をドンキで買つた二人の男は対峙、女は混乱する。目出し帽男Bが先に帽子を取り、前頭部のハートマークともみあげを一抓み残し残りは刈り上げた、凄い髪型の伸輔(岡田)は岡田智宏手持ちのメソッドでベソをかき始め、伸輔に貫かれてゐるものと思つてゐた、女・時雨ではなく照美(千川)は必死に弁明する。ところで千川彩菜(ex.谷川彩)的にはピンク映画出演は、厳密にはピンクではない「新・監禁逃亡」(2008/監督:後藤大輔/脚本:高木裕治・後藤大輔/主演:亜紗美)を挿んで、「後妻と息子 淫ら尻なぐさめて」(2007/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/主演:真田ゆかり)以来。正直事前には一抹の不安も覚えたものだが、まあまあキープしてゐる方か。再度話を戻して、目出し帽男Aも帽子を脱ぐと、中からは普通に髪を精悍に刈り上げた、野村貴浩が現れる。八時間前:崖縁に停車した、吉行由実の「不倫密会 ふしだら狂ひ尻」(2011/主演:柳田やよい)でも見覚えのある―岡田智宏の愛車か―フォルクスワーゲン・ゴルフの車内。コソ泥カップルの伸輔と照美は、稼業に行き詰り車で海にダイブしての心中を決意するも、土壇場で伸輔が二の足を踏み、ひとまづその夜“最高の夜”を過ごすことに。再び現在時制、件のバイブは、現地調達したものだつた。「ここの奥さん、相当な好き者なんぢやないの?」と軽口を叩く伸輔に、野村貴浩は「妻のことを悪くいふな!」と言葉を荒げる。野村貴浩の正体は、当家の主人・森山泰三であつた。目出し帽男ABが鉢合はせる段では若干ゴチャつくものの、ここで伸輔・照美と観客を驚かす意外な真相第一弾は、素晴らしく鮮やか。一体全体何でまた、泰三は自分の家に忍び込むやうな複雑な真似を仕出かしたのか。
 再び八時間前:刑事志望の警察官である泰三は無人の森山家に帰宅、一人で任用試験面接のシミュレーションを始める。その過程で、泰三の妻は若い男との浮気に走つた旨が明らかとなる。十二時間前:泰三の妻・佳織(桃井)が、物憂げな風情で張形で自慰に耽る。一ヶ月前:佳織は、泰三が万引き現場を押さへた女と関係を持つてゐると告発する電話を、女の妹を名乗る女から受ける。消沈する佳織に対し、電話の主・春香(琥珀)は、通ふ夜学の多分同級生・哲也(久保田)とホテルにゐた。金髪チョビ髭が、久保田泰也に案外似合ふ。度々親身に補導する泰三に、実は好意を寄せる春香が佳織に嫉妬してゐるのではないかと哲也はカマをかけつつ、ともあれ一戦。事後哲也は眠る春香の携帯を勝手に触り、登録されてゐる番号から今度は泰三に、佳織の不倫を密告する電話をクロス。いふまでもなく、双方嘘である。
 古典落語の演目『芝浜』を大胆に翻案した人情ピンクの秀作、「となりの人妻 熟れた匂ひ」(主演:なかみつせいじ・冨田じゅん)でオーピー移籍による電撃復帰を果たした後藤大輔の、五ヵ月後といふ順調なペースでの2011年第二作。開巻は所々散らかりながらも、鮮烈な先制で序盤の主導権を握ると、森山夫妻の錯綜した物語を淡々と紐解く。男女三番手に濡れ場の合間に騒動の火蓋を切らせる人員配置は、凄まじく秀逸。中盤出し抜けに火を噴かせた、「コスモス」で点火した馬鹿騒ぎに乗じて泰三に衝撃の真意を告白させた上で、改めて森山夫妻のエピソードを静かに積み重ねて行く。緩急自在の巧みな構成を通して、最終的に名手・後藤大輔は、全体この縺れた夫婦に如何様な結末を用意するのか。粛々とした進行の中でも、静かな期待は次第に興奮に近い昂りにまで高まる。展開自体にドキドキするこの胸の高鳴りが堪らん、作劇の妙で見させる、魅せる傑作。と、大喜びしたまゝ筆を擱きたいところではあつたのだが。詰まるところが佳織の一方的なエクスキューズに頼りきりで辿り着く、甚だ捻りを欠いた落とし処には、落胆とまでは行かないが確かに拍子は抜かれた、着地が垂直落下に過ぎる。三組のカップル中唯一満足な形で退場するのは伸輔と照美のみで、重ねて贅沢をいふと万全を期した勧善懲悪としては、人騒がせな春香と哲也に軽いお仕置きのひとつくらゐは欲しいところでもある。一言で片付けるならば期待外れの一作、ともいへるものの、期待そのものの名残は決して悪いものではない。不思議と快い感触は残れど、再見した際には、コロッと寝落ちるやも知れない。


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