真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「陵辱!白衣を剥ぐ」(1990/制作:メディアトップ/配給:新東宝映画/脚本・監督:片岡修二/製作:伊能竜/撮影:下元哲/照明:白石宏明/編集:酒井正次/助監督:カサイ雅弘/監督助手:松本憲人・青柳誠/撮影助手:片山浩/照明助手:林信一/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・大沢裕子・深田みき・山本竜二・池島ゆたか・港雄一・下元史朗)。製作の伊能竜は、向井寛の変名。出演者中、山本竜二は本篇クレジットのみ。
 一応緊迫した手術室、単に薮なだけなのかも知れないが。難手術に悪戦苦闘する執刀医(山本)の左右で、看護婦の立花梨沙(橋本)が疫病神的腐れ縁の同僚・黒崎悦子(大沢)と、悦子の過去の粗相を主とした、場所柄も弁へぬ無駄話に花を咲かせる。ここで、焼肉用の食肉を用ゐてゐるのは一目瞭然ながら、脈動するギミックまで仕込み結構グロテスクな内臓模型が、ピンク映画にしては珍しい水準で登場する。どうやら山本センセイが仕出かしてしまつた様子はさて措き、梨沙はしつこく誘ふ悦子に負け、二人で男漁りがてら飲みに行くことに。とはいへ、堅気らしからぬ下元史朗が痴話喧嘩と思しき風情で騒ぎ始め、荒れた雰囲気に辟易した二人は早々に店も後に。店内にはほかに、客が二人とバーテンダーの計三人が見切れる。なほも往生際の悪い悦子は食下がり、結局は梨沙の部屋でのテレクラへと移行。悦子らが現役の看護婦であるのを知ると、ナース服で来て呉れたら一人五万出すといふ男の下に、渋る梨沙も悦子に引き摺られ向かふ羽目に。待ち構へてゐたのは、自身も白衣の、といつて医者には清々しく見えない変態男・佐伯恭司(池島)。すつたもんだしつつも佐伯は自らの左腕と梨沙の右腕を手錠で繋ぐと、呆れた梨沙は別に助けもしない中、右腕一本で器用に悦子を犯す。一方その頃、先刻の騒々しい筋者・野沢俊介(下元)の情婦・間藤亜紀子(深田)が、沼田耕造(港)に抱かれてゐた。幾ら下元史朗とはいへ、敵が港雄一では女を寝取られたとて文句もいへまい、重厚な親分感がバクチクする問答無用の貫禄が堪らない。ところがそこに、拳銃を構へた野沢が飛び込んで来る。ものの、腰抜けの野沢は先に銃を向けておいてロクに手も足も出せず、容易く返り討つ沼田から右肩を撃ち抜かれる。翌朝、事後悦子は逃げ、尻の穴の中に隠したとかいふ鍵が見付からぬゆゑ、仕方なく手錠で繋がれたまゝ朝の街を金物屋を探して歩く梨沙と佐伯の前に、亜紀子が転がす白のクラウンが急停車する。扮装から佐伯を本物の医者と誤認した亜紀子が、病院には連れて行けない野沢の手当てをさせようとしたのだ。そんな訳で四人が転がり込むのは、野沢のアジト。改めて気づいたが、幾分以上の潤沢さを感じさせる劇映画らしいロケーションの多彩さは、とりあへず光る。何故か自信満々の佐伯は兎も角、実際にどうにか出来ぬでもない梨沙の求めに応じ、野沢が脂汗を流し流し朝飯前だとヘアピンで手錠を外すや、解き放たれた佐伯は亜紀子も犯す。池島ゆたかの、ポップなセックス・マシーンぶりが快調。ここで振り抜かれる、身動きが取れない野沢の珍台詞が、「俺の巨乳に触るな!」。もうひとつ、佐伯が―亜紀子のバストサイズが―95センチはあるなと垂涎した点に関しては、正しく振り絞るやうに「98だ!」。狙ひとしては、一見強面が時折みせるお茶目さが憎めなくもある、といつた辺りなのではあらうが、如何せん野沢が実質的には基本非力な腑抜けに過ぎない以上、少々間抜けに過ぎる。逃げた亜紀子を追ひ佐伯も掃け、梨沙は一人で、野沢の肩から弾丸を摘出する。ここは些か飛躍も大きいが、以降自宅に匿はれた恩を正しく仇で返し、回復した野沢は、梨沙を陵辱すると会ひたければ会ひに来いだなどと、身勝手極まりない捨て台詞を残し姿を消す。
 今回観たのは旧題ママによる二度目の新版公開で、2002年一度目の旧作改題時の新題が、「巨乳と白衣 濡れた秘所」。即ち巨乳担当は深田みきで、白衣担当が橋本杏子―に大沢裕子―と相成る寸法。成程確かに、正しく“爆乳”といふに相応しいボリューム感溢れる迫力を爆裂させる、全盛期深田みきのオッパイと、佐伯の二戦とは明らかに趣向を違(たが)へた、野沢による緊迫した梨沙の強姦シーンは、二十優余年の歳月の隔たりにも些かたりとて色褪せぬ文句ない見応へがある。とはいへ、自脚本による凝つた展開で組み立てられた、白衣を剥がれた天使の復讐譚は、役者も揃つてゐる割には終始ルーズな演出に妨げられ、各々の場面が締まるなり映画全体としての求心力を持ち得るには終に遠い。リベンジを期した梨沙が頓珍漢なアーミー・ルックに武装した上出撃する時点で、ただでさへ短い尺を本当に殆ど費やしてゐた、半分くらゐは仕方のないペース配分も、勿論響かない筈がなからう。本来ならば魅力的であつたやうにも思へる物語が、形になり損ねた残念な一作。ハード・ロマンとコメディ要素の折衷に失敗したといふか、前者が完全に負けてしまつてゐる。

 どうでもいいがヘタレであると同時にインテリ臭い野沢が、部屋に亜紀子の訪問を受け、咥へてゐた煙草を栞代りに読みかけの誰かの分厚い全集に挿むのは、画的にはサマになるのだが実際には激越に危ないだらう。この気障な造形は、何処かに何か元ネタがあるのかな?


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