真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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OL適齢期 おしやぶり同棲中
加藤義一
/
2012年08月18日
「
OL適齢期 おしやぶり同棲中
」(2011/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:百地優子/脚本協力:近藤力/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/音楽:レインボーサウンド/助監督:川島創平/撮影助手:酒村多緒・高橋舞/監督助手:田口敬太/音響効果:山田案山子/協力:上野オークラ劇場・江尻大・小山悟/挿入歌『青葉丘高校校歌』作詞:田口敬太 作曲:與語一平/出演:あずみ恋・酒井あずさ・しじみ・津田篤・サーモン鮭山・倖田李梨・広瀬寛巳・岡田智宏)。脚本協力の近藤力は、小松公典の変名。
らしからぬ微妙にアンニュイな雰囲気の、OLの相沢美沙子(あずみ)と高校時代憧れの恩師・嶋雅之(岡田)のラブホテルでの逢瀬。雅之に跨つた美沙子が、可愛らしく自分からチュッと接吻するのに合はせてタイトル・イン。
目下教職は辞し、どうやら順調な状態ではないらしい雅之と美沙子の一戦経て、若干時制の遡る美沙子の現況。何処まで本気なのかプロではないが小説を書く木下健(津田)と、美沙子は同棲してゐた。万事に自堕落な木下に、倦怠期も通り越した嫌気を美沙子が覚えつつあつたある日、美沙子に母校青葉丘高校の同窓会通知が届く。ダメ社員の小松公典と加藤義一がダメダメにバレーボールに戯れる上野オークラ旧館屋上、先輩OL・藤井亜美(しじみ)の顔見せ挿んで、ゲームに明け暮れる木下に愛想を尽かした美沙子は、行き先も告げずに郷里に帰る。地元の居酒屋、フレームに入る同窓生要員は美沙子のほかに三人。誇らしげに結婚報告をぶち上げる、目鼻立ちのクッキリとしたナオミ役が、何と脚本を担当した百地優子御当人であるとのこと。短い出演時間とはいへ、全くそつのないお芝居は天晴。ケツメイシのやうな男二人は、定石で考へると演出部動員か、こちらも手堅い内トラぶりを披露する。食傷気味にその場を中座した美沙子は、遅れて現れた雅之と廊下で八年ぶりの再会を果たす。そのまま二人で会場を離脱、開巻に連なるといふ寸法である。
サーモン鮭山は、図らずも亜美が実況してしまふ格好となる、不倫相手・野村義也。今更何だがこの人の、白ブリーフと裸ネクタイの似合ひぷりは尋常ではない。プログラム・ピクチャーの枠も飛び越え、日本映画界随一ではなからうか。画面映えのする大柄な体格といひ、何より絶妙に愚鈍に見せる表情が絶品。ラブホを経て、美沙子はマンション高層階の嶋家に招かれる、家内は荒れてゐた。雅之は手を上げた女生徒に怪我を負はせ、校長(広瀬)と二人で母親(倖田)の下に謝罪に向かふ。帰路校長に辞意を伝へた雅之は、帰宅後美し過ぎる妻・陽子(酒井)の問ひかけにも応じず、ノー・モーションで衝動的にベランダから身を投げる。奇跡的に一命を取り留めはしたものの、雅之の心は壊れ、そんな夫との生活に疲れた陽子は、家を出て行つたものだつた。
ハンドルネーム“もち”としての活動も知られる女流ピンクス・百地優子の処女脚本にて挑んだ、加藤義一2011年第三作。折角前作「
極楽銭湯 巨乳湯もみ
」(脚本:近藤力/主演:Hitomi)で持ち直したのも正しく何処吹く風、相も変らず加藤義一はマトモな職業脚本家と組む気はないのか。と、事前には匙も投げかけたが、実際に観てみると、充実したキャスト陣にも支へられ木端微塵と頭を抱へるほどには酷くはない。尤も、徒な雅之の心の闇。小説も嗜む普通のホワイトカラーを、ダメンズと称する辺りから土台弱いのだが、さて措き木下の創作を、意外と応援してゐたりもする美沙子の健気な姿。そして何より最も大概なのが空前の唐突感を爆裂させる、何時の間にか双方納得済みで宿してゐた新しい命。出し抜けに次ぐ出し抜けが、木に竹を臆面もなく接ぎ続けるちぐはぐさは顕著。探偵小説ならば重要参考人や真犯人が、次から次へとコロッコロ新登場するやうなものだ。劇の進行は、トッピングを乗せることとは訳が違ふ。その為、加藤義一の地に足をつけた語り口に一見騙されかねないが、終始始終の心許なさは看過し難い。元鞘を二本並べる物語の落とし処は形式的には順当なものであるともいへ、その実は肝心のヒロインが然るべき着地点に帰還する段取りは、清々しく安定しない。ここは小松公典の要らぬ横槍を見るのが正解であるのかも知れないが、雅之と、陽子の影に身を引く美沙子との別れ際。“前に逃げろ”だ“鍵は開ける為に”だのと、血肉の通はぬ臭い思ひつきを思ひ出したやうに振り回してみせるのも鼻につく。エンドレスの全盛期を驀進する酒井あずさを筆頭に、三本柱の粒は決定的に揃つてゐながら中途半端甚だしい生煮える物語が、女の裸を素直に眺める愉楽をも妨げる。
そもそも、素人もとい新人脚本家の発掘・育成は目下のピンク映画を巡る閉塞感に危機感を抱いた加藤義一の発案に、小松公典が乗つた形とも伝へられるが、現状認識とそれを打破しようとする意識までは兎も角、そこから先の方向性を根本的に間違へてはゐまいか。土壇場の正念場であるが故に歴戦のプロフェッショナルが持てる技術と培つた経験との全てを注ぎ込み、なほかつ決死の情熱でその向かう側を目指す。一撃必殺を期した大正面戦をこそ展開してみせるべきではないのか、この期に及んで下手な博打を打つてどうする。屈折した消極性が透けて見える、とまでいふのは些かならず言葉が過ぎるにしても、意欲の空回りが、最初から釦を掛け違へた印象は強い。更に個人的な選好としては、結婚適齢期のOLの心情をセンシティブに描くやうなお話は吉行由実―か対抗で森山茂雄―に任せ、薮蛇な雅之のダークサイドに際しては、こんなホン国沢実にでも渡しちまへとさへ思へた。加藤義一には、新田栄温泉映画の系譜を継ぐ能天気で案外実直な南風系の娯楽映画を望みたく、一般的にもこの国丸ごとが万事に手詰まる中、さういふ束の間の御陽気な慰撫は、実は決して時代性を等閑視したものである訳ではない、とも目するところである。
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