真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢と制服」(昭和60/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/脚本・監督:片岡修二/撮影:志村敏雄/照明:石部肇/音楽:芥川たかし/編集:金子編集室/助監督:橋口卓明/監督助手:上野勝仁/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:鎌田敏明/車輌:尾山宏伸/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:早乙女宏美・風原美紀・秋本ちえみ・狼狂二・石井一春・松尾幸則・笠原夢路・下元史朗)。
 学校帰り、喫茶店ショーウィンドウのパフェに見惚れる城北女子高制服姿のメグ(早乙女)に、ナンパ師(笠原)が声をかける。声をかけるのもそこそこに、ナンパ師はメグを物陰に連れ込み襲ひかゝる、インスタントにバイオレントにもほどがある。ナンパ師の肩をチョンチョンと突き、下元史朗登場。下元史朗は覚束ない背負ひ投げと正拳突きでナンパ師を圧倒、メグに軽く説教がてら復活して来たナンパ師の首筋に手刀を叩き込み仕留める。サラッと捌けた下元史朗は、定期入れを落として行く。それをメグが拾ひときめいたところで、堂々と布施明の「これが青春だ」実曲が正式主題歌感覚でスタート。定期入れを胸に抱くセーラ服のメグ全身を画面左に置き、右半分にドガーンと入るタイトル・イン。
 顧問・佐伯(下元)の指導の下、黒帯の黒崎(風原)と白帯三馬鹿(狼狂二・石井一春・松尾幸則)が稽古に励む共学校の柔道部道場。白帯三馬鹿の内、見るも鮮やかなキンキンの金髪ウルフカットが狼狂二であるのはまづ間違ひないとして、今でいふと銀冶ばりの小男は、多分石井一春。と、そこに、メグが佐伯に定期入れを返すのと本人公表六百五十円の御礼の品を渡しに現れる。実は佐伯に想ひを寄せる黒崎は、佐伯の周囲にチョロチョロ湧いたメグの存在が激しく面白くない。これは寮なのか?黒崎はシャワーを覗く三馬鹿を捕まへ、憂さ晴らしの酒盛りから軽めの4Pに流れる。「陵辱!白衣を剥ぐ」(1990/主演:橋本杏子)でも見覚えのある、やうな気がする殺風景過ぎる自室での佐伯一人の食事、異性愛に目覚めたメグが清算しようとする、百合の花を咲かせる同級生・倫子(秋本)との一幕を挿んで、柔道部の部活を他校の純然たる部外者のメグがのほほんと見学してゐたりもする中、終に黒崎は佐伯宅に突入。肌まで晒し告白するにも関らず、意気地がないのか清廉なのか、佐伯には拒まれる。失恋紛れにメグへの嫌悪を凶暴に拗らせた黒崎は、子分格の三馬鹿を巻き込み凶悪な一計を案じる。
 今後も月一の恒例となるのか否や、と注目してゐたが九月は組まれない、地元駅前ロマンのクラシック・ピンク三本立て、今回の御題は「新東宝名作痴漢特集」。稲尾実(=深町章)の「痴漢最終電車」(昭和53/脚本:池田正一)、滝田洋二郎の「痴漢電車 極秘本番」(昭和59/脚本:高木功)と上映順も公開順に並べられた、片岡修二昭和60年全八作中第七作。因みに、伝説の「地獄のローパー」シリーズ第一作「逆さ吊し縛り縄」次作に当たる。話を戻すと、俯瞰の画と迫真の演出を通して酷い目に遭はされたメグは、大胆にもといふか無謀にもとでもいふべきか、兎も角相手の土俵ならぬ畳の上に乗り柔道でのリベンジを期す。教則本と倫子を頼りにテレテレ特訓を始めたメグに、佐伯は力を貸す。カテゴリー上当然の潤沢な女の裸さへさて措けば、物語は綺麗過ぎるほどに青春ドラマのフォーマットを踏襲する。最終的に、素人が黒帯を見事投げてしまふのと、そもそもそれは反則ではないのか、といふ巨大な二つの疑問点は残るとはいへ、まあさういふ些末は気にしない。メグが柔道を始めるや、A面に続きB面の―布施明の―「貴様と俺」が臆面もなく鳴り始めるフリーダムな楽曲使用は、尻穴のナノな昨今の感覚からは衝撃的であると同時に、なればこそ展開をこの上なく的確に補強。転校し柔道部に入部したメグの、「今、柔道が最高にエッチ」なる講道館激怒必至のふざけた決め台詞が、底の抜けた始終をされども磐石の強度で締め括る。佐伯が親身に指南する寝技の数々を、メグはといへば一々セックスの体位に変換するシークエンスは、裸映画としては決定的なまでに秀逸。柔道ピンクといふユニークな素材に、正攻法で挑み成功を果たした快作。と、ここで終つても別に構はないのだが。“痴漢と制服”の“制服”にはいふまでもなく何の問題もない反面、女を暴力的にモノにしようとする、破廉恥漢ならば計四名出て来るものの、実は狭義の“痴漢”ないしは痴漢行為は本作中に一切存在しない。最も簡略にツッコむと、新田栄の「痴漢と覗き」か。


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