真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴女の本能 凄まじい性反応!」(1993『巨尻折檻』の2012年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲二・難波俊三/照明:秋山和夫・宮田倫史/音楽:藪中博章/助監督:女池充/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:小川純子/スチール:岡崎一隆/出演:小野なつみ・早乙女宏美・RAY・杉本まこと・樹かず・栗原良)。
 画よりも先に鞭による打撃音から入り、赤のビザール衣装を身に纏つた小野なつみが折檻される、イメージ風のサドマゾにて開巻。前後に赤い花を挿した尻を、鞭打つストップモーションに合はせてタイトル・イン。
 明けて浜野佐知自宅での、短歌会の同人風景。同人誌『木蓮神話』の発送作業に精を出す高畠登美子(小川)と柳美沙緒(早乙女)を、主宰の塚原透(杉本)が労ふ。改めてひとまづ入念な登美子と夫・信男(栗原)の夫婦生活と、翌日、少なくとも観客には明確に上司に好意を寄せる風情も漂はせる、課長である信男の部下・五島悦子(RAY)の顔見せを挿み、家事の最中の登美子に、『木蓮神話』を読み登美子の短歌に興味を抱いた、短歌専門出版社「短歌年報社」の編集者・横田修司(樹)から電話が入る。登美子は傍らの『木蓮神話』をキッチンの抽斗に適当に仕舞ひ込むと、喜び勇んで外出、女流歌人の短歌選を企画する横田に新作を依頼される。その夜、先に帰宅した信男は栓抜きを使はうとして登美子は見せて呉れない『木蓮神話』を発見、前述の横田とは別の意味もしくは方向で度肝を抜かれる。塚原は破格あるいは型破りと評する登美子の短歌とは、「歯も目も摩羅も老いぼれなさい捕らはれの檻から飛び立つ予感」、「夫婦は同居すべしセックスすべしと誰がなにゆゑに定めた掟」と、内容的にも形式的にも滅茶苦茶なものであつたからである。激怒した信男は、遅れて戻つた登美子を裸にヒン剥くとパンティで両手を縛り激しく責めたて、案の定といふか何といふべきか、後にその模様も「ひとひらの摩羅を突き立て夫の縛るパンティの喰ひ込み」と詠まれてしまふ。後日、日曜日に登美子は再び『木蓮神話』の発送作業に塚原宅に向かふ。すると塚原の目配せを受け退席した美沙緒は、何と信男一人の高畠家を急襲。ここは早乙女宏美の名前に引き摺られた一幕に思へなくもないが、兎も角女房の両手をパンティで縛るだなどとプリミティブな信男に、ライトSMを美沙緒が堂々と熟練の風格で指南する。
 劇中開陳される登美子の短歌は他に、何れも信男とではなく、塚本との情事を詠つたもので「障子の向かうは土砂降りなれど水鳥がついばむやうな尺八」、「憧れの摩羅とほととが重なつて噛み合つて踏み出す一歩の列車」、以上は南風。ここから先は北風で「師弟は愛すべしセックスすべしと何時何処の馬鹿がいひだしたこと」、「師の摩羅は深々とオッ立ちて我のほとを貫きたり」。“自由”を謳ふ以上は案外実際にそんなものであるのかも知れないが、自由律にもほどがある、名実共にフリーダムだ。
 浜野佐知1993年第三作は六年後の、個人的に激越に再見を切望しもする、アヴァンギャルドな俳句結社の暗躍を描いた「和服夫人の身悶え ソフトSM編」(1999/脚本・監督:山邦紀/主演:やまきよ=山本清彦)の多分大分大雑把な原型と思しき一作。性を主題とした前衛―過ぎる―短歌、如何にも山崎邦紀が好んで繰り出しさうな奇抜なメイン・モチーフに、浜野佐知超一流のラディカルな女性主義が加味され、これは旦々舎の映画が本来ならば爆走してゐた筈にも関らず、なかなかさうは上手く事が運ばないのがエクセスライク。不美人といふことはない程度で、如何せん表情の覚束ない主演女優の決定力ないしは質量不足に、ただでさへ一筋縄では行かぬ劇中世界の醸成が妨げられた印象は拭ひ難い。代つて終盤別の意味で弾けるのは、笑かせたいのかとすら首を傾げさせられる御都合的な展開のしかも矢継ぎ早な連打。美沙緒から薫陶を受けた信男の逆襲を受け、一旦短歌を断念した登美子は横田に断りを入れると同時に、塚原には退会届を提出。ところが、如何にもピンク映画的ななだらかさで塚原に適当に言ひ包められ抱かれるや、文字通り即座の次のカットは離婚届。「どうしてこんなことになつたんだ」、と難渋に途方に暮れる栗原良(a.k.a.リョウ・ジョージ川崎、そして相原涼二)の姿を、観るのは一体何度目か。再び塚原の下に向かつた登美子は、挙句に弟子に手を出すのは茶飯事らしい塚原と美沙緒の情事を目撃し師匠にも幻滅。事実上八方塞りベンチでションボリする登美子の前に、超絶のグッド・タイミングで横田が通りかかるのは殆どギャグにしか思へない。最終的に、土壇場の土壇場まで残した三番手の濡れ場―当然信男戦―をここで捻じ込み、最終的には若くてハンサムで加へて短歌創作にも理解を示す、新しい男をゲットした登美子がラブラブで一戦交へてそのまま一欠片の捻りもなくハッピー・エンドといふのは、殆ど人を小馬鹿にしたかの如くグルッと一周してケッサクである。全般的に小ぶりともいへ、正体不明の名義のRAYが目鼻立ちはクッキリとしてゐるだけに、小野なつみとRAYの配役を交替させてみると、もう少しは物語の首が据わつたやうに感じられなくもない、それも随分な素人考へでしかないが。

 さて、相変らず最早自暴自棄なのか、“凄まじい性反応!”だなどと闇雲な新題は昨今何時ものこととしても、今回は実は元題からちぐはぐ。小野なつみの臀部は、わざわざ“巨尻”といふほど殊更に大きい訳では全くない。寧ろオッパイも並行して成熟し、終始首から上は心許ないものの、実に均整の取れた素晴らしいプロポーションを誇つてゐることを、一言書き添へておく。


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