真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「援交強要 堕ちた人妻」(2011/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・金沢勇大/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:金沢勇大/編集:有馬潜/監督助手:市村優/撮影助手:斎藤和弘/照明助手:榎本靖/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/出演:水沢真樹・黒崎れいな・佐々木麻由子・泉正太郎・竹本泰志・なかみつせいじ・小林節彦・牧村耕次)。
 細君は預金通帳を眺め眺めの夫婦の寝室、社長秘書の山下修司(泉)の妻でパート勤めのあおい(水沢)の夢はマイホーム。さりとて、道程はなかなか以上に険しい現況を投げつつひとまづ夫婦生活。事後あおいがぼんやりと手に取る、作りかけのボール紙細工の一軒家模型を押さへてタイトル・イン。明けて市村君(間違ひなく市村優か)も見切れる、あおいパート先の弁当屋風景。然し最安値の二百五十円は安過ぎはしまいか、デフレいい加減にしろ。店長兼不倫相手の前田英太(竹本)が、皆勤賞と称した現金を無理矢理に握らせ関係を要求するも、あおいの腰は重い。その夜、非通知による着信、前田からのしつこいメール、旦那からの帰りが遅くなる旨のメール三連打を受けたあおいは、半ば仕方なく前田との逢瀬。先に致して後から飯を食つたのか、ダイニング方面と思はれる飲食店「然」の表で、あおいは徒に刺々しい佐々木麻由子と交錯、オッカナイ剣幕で怒られる。家でマッタリする休日、山下家の隣に越して来た大貫雅美(佐々木)が、非常識なまでに大量の品々を持参して挨拶に訪れる。修司が家に上げた雅美を見たあおいは驚く、先般前田と二人の、即ち浮気の現場を見られた女であつたからだ。その日はおとなしく捌けた雅美は、翌日あおいを再急襲。自身の不倫―因みに雅美の亭主は、盆暮れにしか帰らない単身赴任中、それにしては、何故転居の要があるのか―も勝手に告白した上で秘密の共有を出汁に、援助交際といふ名の要は主婦売春をあおいに“強要”といふほどではなく強めに勧誘するが、あおいは拒絶する。パート自体も辞めがてら、女子高生アルバイトのマミ(一切登場せず)にも二万で手をつけてゐた前田に三行半を叩きつけて来たあおいを、余程執心してゐたらしく、宅配業者を装つた前田が襲撃する。程よくあおいが剥かれる頃合を見計らふかのやうに、開いてゐたとの玄関から入つて来た雅美が助けに入る。一旦落ち着いた正しくどさくさ紛れに、雅美はあおいに援交を再勧誘。ここで、ひとつ目のさりげない超絶が火を噴く。嬢が実際に客の下に向かひ事に及ぶ段取りのイントロダクションとして、エリカ(黒崎)と佃信人(小林)の一戦を開陳。関根組初参戦―大蔵含めオーピー的には過去に荒木組四作、竹洞組、と田中(康文)組が各一作づつ―の小林節彦も兎も角、黒崎れいなの裸で直截にはデリヘルのシステム紹介をまかなふ、画期的にスマートな実質三番手の放り込み方には心の底から感心した。依然固辞するものの次第に動揺を隠せないあおいは、サラ金に入ると思しき修司の姿を目撃したことにも背中を押され、終に雅美の勧めに応じ一線を越える。
 何があつたのか、浅くなく黒い―殆ど人相が窺へない―なかみつせいじは、あおいの初陣相手・岸田。光物ジャラつかせ系の、ギラついた好色漢を役柄に即して好演する。対照的に上品な初老の紳士に扮する牧村耕次は、あおいの結果的には最後の客・辰巳。長く糖尿を患ひ、既に男性機能は失してゐる。
 関根和美の、改めて後述するが意外に充実してゐる2011年第三作は、巧みに濡れ場で物語る話法が抜群に優れた裸映画の秀作。鮮やかな黒崎れいな戦線投入のタイミングで展開の主導権を握ると、岸田戦を挿み華麗なる再登場を遂げた佃の注文といふ、重ねて秀逸な方便を採用したエリカも交へての巴戦で中盤を加速・補強。ピンク映画出演四作主演三作目にして、今や堂々とした貫禄すら漂はせる水沢真樹の艶姿を一頻りタップリと愉しませた後、一息つき気味の辰巳戦を入れ一旦落ち着かせておいて、山下家寝室からよもやの急転直下を叩き込む。即座の、事実上のクライマックスがさりげなくないふたつ目の超絶。水沢真樹の磐石に忘れかけてもゐたが、実は今の今まで温存してゐた佐々木麻由子の絡みを正しく満を持して解禁、一気に物語を引つ繰り返してみせる大技には唸らされた。これが今生御大―いふまでもなく、元祖御大は小林悟―小川欽也であつたならば、まんまと姦計が功を奏した悪漢のガッハッハでそのまま映画を畳んでしまひ、何ともいひやうのない釈然としなさも天真爛漫に残さうところが、その辺りが―好調時の―関根和美は訳が違ふ。佃を相手にした共同作業後、あおいとエリカが仲良くなつた件を伏線として復活させる、大概な力技ともいへクロスカウンターを放つ二段目のどんでん返しが手際よい手短さで大雑把といふ印象も潜り抜け、案外手放しで物語を颯爽と振り逃げる。久々に綺麗に真価を発揮した熟練がもたらす安定感は絶品、結構なものを観させて頂いたと、素直に頭(かうべ)を垂れたくなる一作。何時記帳したんだ?知るか。改めて振り返ると、こちらも力技とはいへ最終的には豊潤な人情伊豆映画の第一作「トリプル不倫 濡れざかり」(主演:水沢真樹)、ツッコミ処過積載のシリーズ最珍作の第二作「性犯罪捜査Ⅲ 秘芯を濡らす牙」(脚本は何れも関根和美/主演:倖田李梨)に続き今作と、2011年の関根和美は、時に明後日に羽目を外しながらも、それもそれなりに堪能させて呉れた格好となる。ここに来ての大ベテランの快調は、大いに心強い。

 唯一つ物寂しさも残すのは、どうやら、天川真澄が関根組常連を卒業してしまつたらしい気配。排泄の不発に関しては、松原一郎作ではないので問はない。


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