真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「義母の寝物語 ‐近親相姦‐」 (2000『義母の淫臭 だらしない下半身』の2007年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:天野健一/照明:小野弘文・藤塚正行/編集:金子尚樹《フィ ルム・クラフト》/助監督:高田亮・山口雅也/照明助手:池田義郎/制作担当:真弓学/ヘアメイク:パルティール/タイトル:道川昭/出演:美麗・桜居加奈・佐々木基子・柳東史・吉田祐健・久須美欽一)。撮影助手に力尽きる。
 一応幸福な京極家の風景、居間のソファーにはお腹の大きな月花鳥(美麗)と早苗(桜居)が並んで座り、手前の絨毯の上では、前妻とは五年前に死別し、この度月花鳥を後妻に迎へた区役所清掃課長の辰三(久須美)と、辰三の息子で早苗の夫の、(株)日東商事の多分今のところは平社員の治(柳)が将棋を指す。それぞれの子供の父親に関する、思惑は交錯する。早苗は子供の父親が夫であることに、治も妻が宿した子供の父親が自分であることに、共に疑問を抱いてゐた。劇中終に明示はされないものの、月花鳥は子種に関する確信を抱き、辰三に至つては何れにせよ京極家の子供であることには違ひがないと、大して意に介してすらゐない風であつた。
 タイトル挿んで、時制は若干以前に遡る。日東商事営業部長の東山良雄(吉田)と、この時点ではホステス兼、東山に囲はれる愛人であつた月花鳥との重厚な一戦。美麗の正しく大陸級のダイナマイト・ボディーを前に、半歩たりとて退くことなく真つ向から激突してみせる、吉田祐健の馬力も見所。事後、東山は支社長就任が決まつた大阪栄転に月花鳥を連れて行く訳には行かない故、新パトロンを都合する要に迫られる。そんなこんなでカット明けると休日昼下がりの京極家、治と早苗の仕切りで辰三と月花鳥のお見合ひがいきなり飛び込んで来る、新田栄ばりのスピード感が堪らない。息子夫婦が席を外すや脊髄反射で辰三を気に入つた月花鳥と、受けて立つた辰三との婚前交渉、その夜の治夫婦の夜の営みを噛ませて、事ここに至る経緯の開陳を月花鳥が宣言する。残りは全員外回りに出払つた日東商事、東山が治を部長室に呼び出す。月花鳥の要は禅譲を持ちかけられた治は逡巡するも、次期課長の座をちらつかせられると揺らぐ。男女の絡みに限らぬ素のお芝居に際しても、唸る吉田祐健の不遜な貫禄が絶品。成程、勝アカデミー出身(五期卒業)は伊達ではない。面通しさせられた月花鳥が、例によつて瞬間沸騰で見初めた治をペロリと行つてしまふ中、自室を退席した東山を、月花鳥を追つて社にまで乗り込んだ細君・和子(佐々木)が急襲する。東山から、月花鳥との関係を整理する旨を聞くや和子は「貴方、抱いて!」と俄にその場で点火、オフィスでの夫婦生活が、部長室での月花鳥V.S.治戦と連動して繰り広げられる。東山は治に、愛人を栄転先に連れて行く醜聞の回避を説いておいて、社内で女房と致すのと、一体どちらが大きなスキャンダルなのか。一方、体調不良につき仕事を早引けした辰三は、その癖に以前から入浴を覗いてみたりもしてゐた息子嫁にムラムラ来ると、その場の勢ひで手篭めにしてしまふ。また随分なシークエンスでしかないが、それを巧みに固定させ得る久須美欽一の安定感は地味に捨て難い。月花鳥を譲り受けたまではいいとして、月二十万の要求に頭を抱へつつ帰宅した治は、早苗に泣きつかれると当然激昂。平身低頭の久須美欽一をブチ切れた柳東史が、フルスイングで怒鳴り上げる様は可笑しくて可笑しくて仕方がない。ところが、不意に治は妙案に辿り着く。月花鳥を、親爺に押しつけてしまへば万事が上手く片付くのではないか。と、そこまでが、月花鳥曰くの“のつぴきならない事情”。よりのつぴきならないのは、美麗のたどたどしい日本語の方だ。
 性器、もとい世紀を跨いで短い実働期間の内に、大雑把な印象をそれはそれとして刻み込んだ支那人大女優・美麗のピンク映画デビュー作。誰だ、体が大柄なだけだろ、だとかいつてゐるのは、小日本め。初陣ながら、片言どころでは片付かぬ台詞回しで底を抜きつつ、ダイナミックな肢体でシークエンスをそれなりには制圧する。キャリアを貫く美麗の戦法は、既に完成を見てゐる。逆からといふか詰まるところ直截には、進歩がないともいへるのだが。だから誰だ、そんな寝言を垂れてゐやがるのは、小日本め。限りなく筆禍に近い与太は兎も角、女の裸を銀幕に載せることのみを目的とした、潔くスッカスカの物語の中でも、一際際立つのは、大味な美麗の傍らで純和風の容姿が一層映える、桜居加奈(a.k.a.夢乃)の健康的かつ透明感溢れる美しさ。量的にも主演女優に決して引けを取らぬ潤沢な濡れ場を、タップリと楽しませる。開巻で投げた、生まれて来る子供の父親に関するサスペンスを、自堕落なハッピー・エンドに際しては堂々と等閑視して済ましてみせる辺りは逆の意味で流石ではあるが、大門通的にさりげなく光るのはクライマックス、の後始末。辰三は新型焼却炉視察の新潟出張、早苗は母親の急病につき、同じ方角であることしか語られない実家に戻る。京極家に残された月花鳥と治が義母主導で事に及ぶ最中、双方思ひのほか早く帰京出来た辰三と早苗が、二人は二人で義父のリードで事に及ぶ、事実上の夫婦交換、の事後。寝惚けたまま辰三の寝室から用足しに立つた治と、同じく治の寝室から用足しに立つた辰三とが、用を足すと銘々本来の居室に戻つて行く元鞘は、正方向に大門通らしいスマートさである。


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