真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 極秘本番」(昭和59/企画・制作:伊能竜/配給:新東宝映画/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功/撮影:倉本和人/照明:石部肇/音楽:恵応泉/編集:酒井正次/助監督:佐藤寿保/監督助手:橋口卓明/撮影助手:乙守隆男・井田和正/照明助手:佐藤才輔/編集助手:岡野弘美/美術協力:周知安/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/協力:トルコ三浦屋吉原店/出演:竹村祐佳・真堂ありさ・青木祐子・池島ゆたか・外波山文明・荒木太郎・江口高信・五味慶太・高円寺誠・本橋直美・周知安・弁天太郎・工藤一平・幡寿一・江戸川乱・螢雪次朗)。企画と制作を務める伊能竜は向井寛の変名で、撮影の倉本和人は現在倉本和比人。
 慶長二十年(1615)大阪城、豊臣勢の負けを悟つた真田幸村(不明)は十勇士の配下・猿飛佐助(螢)に、霧隠才蔵(登場せず)の持つもう片方と照合した時にのみ意味を持つ、豊臣埋蔵金の在り処が暗号によつて記された密書を託す。一路江戸へと向かつた佐助を、服部半蔵手下のくノ一・陽炎(竹村)が襲撃。激突する二人を、摂津和泉地方に起こつた巨大地震が襲ふ。“時間の割れ目”―本篇ナレーションまゝ―に放り込まれた二人は370年の時を超え、(公開当時)現在の江戸改め東京を走る電車の車中にタイム・スリップ。佐助は早速痴漢を働いてみた、正直さういふ才媛にも別に見えないがとまれ東大生・服部鳶子(真堂)と出会ふ。実は服部半蔵の子孫である旨は隠したまゝ、戦国時代の日本史を専攻する鳶子はどうやら本物の忍者であるらしい佐助に興味を抱き、自宅に匿ふと同時に巻物の暗号解読に着手する。一方陽炎は城を模した外装の、トルコ三浦屋吉原店に彷徨ひ込む。源氏名・淀君(青木)を本物の淀君と勘違ひした陽炎は、ひとまづトルコ嬢として大奥と思ひ込んだ三浦屋に身を置く。ここで江口高信が、陽炎・ミーツ・淀君のシークエンスに登場する風俗筆卸客。ところが、伊賀仕込の高速茶臼で客(又しても不明)を悶絶させたまでは良かつたものを、淀君にSM行為を働くヤクザ客(矢張り不明)を狼藉者と斬り捨ててしまつたことから、陽炎は三浦屋にもゐられなくなる。再び乗り合はせた電車にて、女性客に痴漢しながらスカウト活動を行ふなどといふ、へべれけなキャラクター造形はこの際さて措き、実はこちらは霧隠才蔵の末裔に当たる零細芸能プロダクション「霧隠芸能事務所」社長・霧隠留蔵(池島)に、例によつて痴漢されつつ陽炎は拾はれる。都合もう一名登場する痴漢要員は、多分本橋直美。
 忍者×トルコ風呂×痴漢電車、オリエンタル風味満載―半ばヤケクソ―の一作。尤も、痴漢電車は登場人物の各々を引き合はせる形式上のギミックに止(とど)まるゆゑ、本筋を如何に電車痴漢に収束させ得るかといふ点に娯楽映画の肝としての論理性が試される、痴漢電車ものの麗しさといふ面に関しては、一段落ちるといはざるを得ない。忍者を現代日本にタイム・スリップさせる、などといふ最大級の大技を繰り出しておきながら、以降は正直こぢんまりとした暗号解析と、ためにならない俗流キャンプ趣味に淫しなければ殊更な見所にも欠き、霧隠芸能事務所に於ける小ふざけは、滝田洋二郎の看板を徒に押戴かないならば、特にどうといふ訳でもない。とはいへ一旦は佐助らを目出度く埋蔵金に辿り着かせておいて、二度目の力技も駆使しSF風にいへば時空の自己修復機能を起動させる、アイロニーの匂ひも漂はせるダイナミズムは素晴らしい。外波山文明と荒木太郎は、その際に登場する徳川家康と茶坊主。心なしか、今でも特徴的な荒木太郎の眉毛が、更に黒々と立派に見える。特撮やアクションのチープさに関しても、バジェットに屈した仕方もない事情以前に、古き良き黎明期の忍者映画への回帰と言ひ包められなくもない、ファンタ系の快作である。これで真堂ありさがもう少しは時代の波を越え得る美人であれば、更に全く評価も変つたらうに。
 淀君に SM狼藉を働いたヤクザ者に加へ、鳶子に連れられ駅を後にする佐助に、少し肩がぶつかつたくらゐで無礼者扱ひされる可哀相な若い男(案の定不明)、更には留蔵。劇中計三名が仮借なく斬り殺されてしまふ無邪気なバイオレンスは、少なくとも現在の目からすれば珍しく映る。留蔵が陽炎を鳶子と組ませて売り出した、「お忍びシスターズ」―最早そこには立ち止まるな―が出演するテレビ番組の司会者は、片岡修二の変名である周知安。一箇所画期的に目を疑つたのが、豊臣隠し財宝を手にした佐助・鳶子・陽炎の三人が、狂気、もとい驚喜ついでに車内乱交に戯れるゲリラ撮影。一旦は画面奥から車輌を隔てるドアの所まで差しかゝつた車掌が、注意もせずに引き返して行くのである。何と穏やかに大らかな時代よといふべきなのか、あるいはカメラには映り込まない手前で、車掌が生命の危機すら思はず感じてしまふほどの、オッソロシイ強面のスタッフが睨みをきかせてゐたのか。

 そんな中、個人的に最も心の琴線を明後日に激弾きされたのは。妙にユニセックスな物腰とパナマ帽とがチャーム・ポイントの留蔵が、電車内をくノ一装束で徘徊する陽炎に声をかける際の爆裂口説き台詞、

  「テクノだねえ」。

 何処がどうテクノなんだよ!何が何だか一欠片も理解出来なければ、一小節のサウンドも胸の中には鳴り響かないが、ともあれ正体不明のパンチ感だけは比類ない。与太を吹くやうだが役者としての特性に、池島ゆたかはもつとかういふ破壊力を思ひ出すべきなのではあるまいか。


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