真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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女子大生 奴隷志願
小林悟
/
2012年08月26日
「
奴隷女子大生 腰が柔らかくなるまで
」(1991『女子大生 奴隷志願』の2012年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:小野寺透/編集:酒井正次/助監督:青柳一夫・毛利安孝/メイク:権藤奈保子、他一名/製作進行:植田中/音楽:竹村次郎/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化工/キャスト:工藤ひとみ・吉永真弓・愛川まや・坂入正三・吉岡市郎・宝明晴彦・板垣有美・工藤正人・一の瀬まみ)。出演者中、吉岡市郎がポスターには吉岡一郎、撮影・照明部セカンドをクレジットの有無から拾ひ損ねる。
男の口唇性行を、工藤ひとみが「やめて、もういゝは」と遮りチャッチャとタイトル・イン。京浜女子大学の女子大生・花輪いつ子(工藤)と、同じ大学生同士なのに何故かヒモ的ポジションにある、これで東海経済大学一の秀才らしい久米(坂入)の一戦と連動して、キャスト・スタッフの順にクレジット。明けて通学するいつ子の同級生・前島陽子(一の瀬)に、電話ボックスから飛び出して来た矢張り同級生の早川宏美(吉永)が接触、コンパニオンのアルバイトに行くだとか自堕落な理由で、現代史と英文の講義の代返を頼み込む。ベンチに座る、いつ子と陽子、それにもう一人の同級生・小柳まり(愛川)も顔見せしておいて、レクチャーもそこそこ床の間に突入する、いつ子と今度は『源氏物語』一辺倒の京浜女子大万年助手・名取千太郎(吉岡)の連れ込みにての情事。大体が、『源氏物語』の解釈を聞くのにホテルに入る必要が・・・・作品世界の追体験と思へばなくもないのか、
ねえよ
。サクサク舞台は移り、先般三人でのガールズ・トークの時点で名前も上つたスナック「シスコ」。当然、物件的には
摩天楼
となる。ここで板垣有美が、「シスコ」のママさん。カウンター席にはその他客要員が三人並ぶ―カウンター内にバーテンがもう一人―が、画が暗く、御大降臨は未確認。陽子とまりが飲むボックス席に遅れていつ子も現れると、三人の周囲を舐めながら一周する、薮蛇にアクティブなカメラ・ワークを柳田友貴大先生が御披露なさる。その要が特にはないやうにしか映らないが、さういふ些末は気にするな。更に続いて来店した名取が、三人の輪の中に招かれ一旦首を突つ込んでは直ぐに退席しつつ、単に同世代の男の子が頼りないといふだけのことに、“奴隷志願”だなどと闇雲な用語を持ち出すいつ子に対し、陽子は家庭訪問先の包茎高校生・中沢誠(宝明)を剥き剥き喰つてしまつた逸話を想起する。話が全然噛み合はないやうに思へなくもないが、だから些末は気にするな、一の瀬まみの絡みだ。ところで、誠のドリルを表現するために、張形を竹輪並みに分厚い皮で包んだ、パッと見正体不明―皮の厚さゆゑ亀頭の段差が存在しない―のモデルが登場する。一方、名取はコッソリ渡されてゐたメモにまんまと釣られ、何処ぞ207号室のまり宅をノコノコ訪問。いつ子同様、レポートと引き換へに女子大生を頂戴する。配役残り工藤正人は、誠の兄で東海経済大学四回生の仁。
小林悟1991年全十七作中第四作は、如何にも御大らしい、最早清々しいまでの破壊力に打ちのめされる一作。力強い男からの一方的なリードを求める、一般的にはいはゆる征服願望とでもいへばよいのか、それをわざわざ“奴隷志願”と称した浜野佐知の耳に入れば激怒必至のメイン・モチーフは、散発的に触れるか撫でる如く振り回されるばかりで、深化させられるでは本当に一切全く一欠片たりとてない。文字通り矢継ぎ早に濡れ場だけはひたすらに連ね続けられる中、劇映画の起動に固唾を呑んで備へる卑しい心性を嘲笑ふかのやうに、最終的に煌くのはこの際輝かしいほどの物語の不存在。但し珠瑠美のやうに、余計な機軸が女の裸の鑑賞を妨げる訳では別にない。仕方がなくもないが以降を簡略にトレースしてみると、“奴隷志願”のいつ子が情けない久米に幻滅する件を短く挿んで、追試の陽子の代りに中沢家を訪れた宏美が、出し抜けに仁に犯された挙句にその場に誠も加はる兄弟巴戦。見知らぬ宏美を見咎めた仁が、「判つた、お前泥棒だらう」と襲ひかゝるのがケッサク。泥棒相手なら強姦が許されるのか、何時何処の国の刑法か。いつ子と陽子の“奴隷志願”談義を申し訳程度に噛ませ、何故か誠が陽子の追試を方便に207号室のまりを急襲。事前に話も通つてゐないのに部屋に上げた誠から出鱈目に迫られると、案外素直にまりは事に及ぶ。一方、海浜地帯の殺風景なロケーションを一人で歩くいつ子に、馬鹿デカい赤いコルベットを転がす仁が声をかける。ホイホイいつ子が車に乗ると、仁の下半身は裸で赤い花を一輪挿してゐるのみであつた。いつ子もいつ子でそれに乗りスカートを脱いだところで、実は仁と交友のある久米が路上に登場。コートを肌蹴ると、全裸で股間に矢張り赤い花をこの人は二輪挿したのみであつた、
ギミックの意味が全然判らない
。我々は碌に理解しもせず勝手にルーチンの権化扱ひしてゐるだけで、御大の作家性ないし感性に辿り着き得た者は未だ一人もゐないのではなからうか。久米も同乗し軽く走らせた上、停めた車中二人でいつ子を輪姦。相変らず粗い筋すら窺へぬ展開に幻惑されかけてゐると、後部ガラスに両手を突き逃げ惑ふ、一応憐れないつ子の姿を車外から押さへたショットに唐突極まりなく、もしくは容赦なく叩きつけられる“完”。
完結してねえよ!
いゝか覚えておけ、六十分経てば終る、それがピンク映画だ。さういふ、天からの雄々しい声(推奨CV:井上真樹夫)が聞こえて来さうな正しく紛ふことなき唯一無二の御大仕事。工藤ひとみと一の瀬まみを擁したのに加へ、馴染みは薄いどころか全然ないが吉永真弓と愛川まやも女優の粒としては見事に揃ひ、黙つておとなしく裸映画を眺めてゐる分には、抜群のテンポでザクッと観させる。
もしかすると、全篇を貫いて響き渡るベートーベンの「第九」には、何某かのメッセージが込められてゐるものやも知れないが、もしも仮に万が一さうだとしても、そんなの高尚過ぎてもうどうでもいゝ、もとい知らないよ。
純然たる私事と与太の付記<
前回御大戦
に続き今更新で、ピンク映画の感想実質千本を通過した。ところで、現状小川欽也が御大で構はないから、小林悟は大御大で如何か
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