真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢最終電車」(昭和53/製作・配給:新東宝興業/監督:稲尾実/脚本:池田正一/企画・製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:出雲静二/音楽:芥川たかし/編集:酒井正次/記録:豊島睦子/助監督:西田洋介/監督助手:佐々木正人/撮影助手:榊原純二/照明助手:本木和夫/効果:サウンド・プロ/録音:東音スタジオ/現像:ハイラボセンター/出演:川口朱里・浦野あすか・沢木みみ・千葉久美子・滝沢秋弘・長友達也・佐々一平・仁科ひろし・小津貫一郎・陶清・久保新二・野上正義)。さあて、結構大変だぞ。出演者中、浦野あすかと千葉久美子に、仁科ひろしから陶清までもまだしも、まさかの野上正義が本篇クレジットのみ。代りに、ポスターには安田清美と三浦圭子の名前が、代りとは何なのか。沢木みみも、ポスターには沢木ミミ。企画・製作の伊能竜は、向井寛の変名。
 東京に辿り着いたのが深夜十二時を跨ぎ、中央線最終電車に滑り込んだ旨を告げるヒロインのモノローグを受けてのタイトル・イン。予備校に通ふ目的で上京したカズミ(川口)は、そこそこ実際の乗客もゐる車内、五人の痴漢軍団の手荒過ぎる洗礼を受ける。因みにカズミは、十八にして未だ男を知らなかつた。兎も角カズミは厄介になる、姉・アサコ(浦野)宅に到着、アサコの夫(久保)は、カズミの若々しい肢体にポップな下心を露にする。姉妹風呂を噛ませて、一体その時点で午前何時なのか、その日はアサコ夫婦にとつて“おつとめの日”。久保チンは頓珍漢なアクティビティを発揮、わざとカズミに覗かせるやう寝室の扉を開けた上で事に及ぶと、嬌声にも誘はれまんまと釣られたカズミは、姉夫妻のシックスナインに触発され自慰に耽る。男根と女陰をそれぞれ胡瓜と種類までは特定出来ぬが白つぽい貝とで表現する69描写は、実写版横山まさみちか。後日、予備校に行きもせずプラップラするカズミは、結果的には同様に東西予備校の予備校生であつた、パンタロンが眩しい前田シンイチ(長友)と出会ふ。モラトリアム感を爆裂させ二人で新宿で映画を観、軽く飲み食ひした後に、鴨が葱を背負つた格好でカズミは前田のアパートに。ラジカセからは庄野真代の「飛んでイスタンブール」実曲が堂々とほぼフルコーラスで流れる中、カズミは処女喪失。事後には吉田拓郎の「旅の宿」の、今度はカラオケが平然と劇伴面して披露される。因みに「飛んでイスタンブール」は同年の四月発売で、今作は八月封切りのお盆映画、ある意味仕事が速いにもほどがある。
 配役残り登場順に沢木みみは、持ち歩くスナップ写真をカズミには妹と偽る、前田二股相手。厳密にはカズミが二人目なので、本命彼女といふべきか。ところで浦野あすかといひ、眉毛が明らかに薄いのは当時の流行なのか?予備校に出て来ないゆゑ再び訪ねてみたアパートにて、前田と沢木みみの情事を目撃、傷心のカズミは自暴自棄に痛飲する。滝沢秋弘は、酔ひ潰れたカズミを夜の街で保護する、心優しき女装子・ジュン。ビリング推定で小津貫一郎と陶清は、双方国分寺在住といふので同じ電車に乗つた、カズミとジュンの前に現れる二人組の痴漢氏か、ともに人相は殆ど抜かれない。そのまゝカズミが転がり込んだジュン宅、野上正義は、新しくオカマバーを出店する御機嫌取りにジュンを抱かうとする―カズミは寝てゐるものと思つてゐる―通称“マスター”。その場に飛び込んで来る千葉久美子が、矢張り夜の女のマスター情婦。こちらもビリング推定で佐々一平は、最終盤でカズミの相手役を務める南城千秋似の三浪生か。となると、仁科ひろしが判らない。これといつた登場人物は、もう見当たらないのだが。
 先月の名作特選(緊縛特集)に引き続き、地元駅前ロマンが柄にもなく繰り出したクラシック・ピンク三本立て。今回は「新東宝名作痴漢特集」と銘打ち、「痴漢電車 極秘本番」(昭和59/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功)・「痴漢と制服」(昭和60/脚本・監督:片岡修二)の二本と上映順も公開年順に並べられた、稲尾実(現:深町章)昭和53年全十八作中第十三作。尤も、場内は何時も通りに、あるいは何時も以上にハッテンハッテンしてゐたりはする。気を取り直して、お話としては、初心な娘が都会の波に文字通り揉まれ、効率的に女に成長する。如何にもなお気楽さが量産型娯楽映画の経験値で安定感に昇華する物語は、化粧越しに窺ふに、今の人でいへば吉井和哉のセンの滝沢秋弘の切ない熱演が胸を打つ、ジュンの刹那的な凶行をカズミがすんでのところで制する修羅場で頂点に達し、締めの三浪生パートでは若干モタつく。即ち勘所の位置がずれた詰めの甘い印象は、如何せん否めなくはない。代つて久保チンとガミさんの溢れる若さのほか目についたのは、麗しき時代の大らかさ。ラストの三浪生篇の冒頭ではモップスの「たどりついたらいつも雨ふり」のカラオケ、オーラスでは桜田淳子の「気まぐれヴィーナス」(昭和52)実曲を更に繰り出してみせるフリーダムな楽曲使用は現在の感覚では画期的にあり得ないが、営業運行中の実車輌内で相当な濡れ場を展開してみせる、撮影のブルータルさも凄まじい。男であるのを知り二人組痴漢氏が退散すると、ジュンは黒沢年男(現:黒沢年雄)の「時には娼婦のやうに」を口ずさみながらまるで勝ち誇りでもするかのやうに、そこら辺の一般客にガンガン絡む。そんな真似が許される昭和の懐の深さあるいはへべれけさは、世知辛さが臨界点に達しつつある昨今からしてみると寧ろ感動的だ。フリーダムさについて補足すると、久保チンがアサコの話にも耳を傾けず熱中するテレビアニメが、画面は「ダイターン3」なのに流れる主題歌は何故か「マジンガーZ」。この辺りの無頓着さも、グルッと一周して最早堪らない。

 アサコ主導で三浪生と個室に模した連結部分に陣取り、二人は本格的な一戦を交へる。そこまではブルータルの範疇として、扉越しに全裸で乳繰り合ふ二人―ここは流石にセット撮影か―の背後を、車窓から見えるものと同じ外景が流れて行く、闇雲な合成ショットは藪から棒なファンタスティック。実は二人と扉の方向がそれでは九十度この場合左にずれてゐる点に関しては、だからそんなところに立ち止まるものではない、野暮め。


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