【自立と自律】

2020年7月9日

【自立と自律】

好きな学者が遺した 1980 年代の随想を読んでいたら、朝日新聞に原稿を頼まれ、文章を書く代わりに口頭で記者の取材に応じ、後日刷り上がってきた記事を読むと、「自律」と話したつもりの部分がすべて「自立」になっていて驚いたという。自由の根源が自律であることを精密に論じた思想家カントは「自律とは、自己自身に対して法則であるという意志の固有性」と言った。他人に命じられてではなく、自分で「こう」と決めて、自分で自分を「そう」することが自律である。だから自由は気持ちがいい。

学生時代の四年間だけオーディオというものに熱中した。音楽は今でも好きで、音楽を聴くことは人生において欠かせないもののひとつだけれど、オーディオ機器へのこだわりはとうに失せている。当時の道具はオーディオに限らずみな面白くて、機械が自分で動いた自分を、分析し総合して、自分を反省的に律する仕組みを持っていた。そういう仕組みが水晶発信子や制御機構の IC 化により、だんだん自律というより自立にすぎないものになる頃、学生生活を終えて親から自立し、脛齧りの趣味を捨てたのだった。

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